Fallout archive   作:Rockjaw

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敵は通常、言いたいことを言い、信じたいことを信じるものだ。
―――政治家『トーマス・ジェファーソン』



It’s because it’s you that I want to follow you

「ち、中止って…どういうことだい、カホ?」

 

突如告げられた『和楽姫』の公演中止の宣言。

 

「…遅まきながら状況は把握しました。よりによってこの交流会でこんなことが起こるだなんて…。」

 

事情を尋ね返す先生に一歩歩み出ていた生徒は答える。

 

「どうしてこのタイミングまで誘拐の件についての連絡が無かったのか、お伺いしたいところではありますが…。」

 

冷静ではあるが湧き上がるものを必死に抑え込んでいることは一目で分かる。

 

「うっ…そ、それは…!」

 

ミチルはその指摘に表情を曇らせるが…

 

「…それについては一旦不問といたします。いろいろと頑張ってくださったような感じもありますし。」

 

と半ばあきれも交じったような言葉が彼女の口から出たその瞬間…

 

「頑張ったような感じ…だと?」

 

『…~ッ!!?』

 

地の底まで響くような低く重いネイトの声が発せられ周囲のもの全員が息をのむ。

 

「おい、『天雨アコ』もどき。感じ…というのはどういうことだ?」

 

「あ、天雨アコもどき…!?」

 

「いきなりしゃしゃり出てきて知ったような口を…。今までこの異常事態を通報なしでは分からないほどお気楽な連中が随分な物言いだな…?」

 

ネイトも一歩前に出てその生徒を睨みつける。

 

「…お初にお目にかかります、ナサニエル・マーティン様。私は百鬼夜行連合学院陰陽部で副部長兼、観光文化産業広報支援部の戦略リーダーを務めます『桑上カホ』と申します…。」

 

それでも彼女、『桑上カホ』は平静を保ち頭を下げネイトに自己紹介を行う。

 

だが、その心中は冷静ではない。

 

身長でいえば自分の方が高く厚底の下駄を履いているせいもありネイトを容易に見下ろすほどの身長差だが…

 

(こ、これがあの…!なんて存在感と気迫なんですか…!?)

 

そんな差など全く役に立たないことが一瞬で分かるほど…ネイトの気迫はすさまじかった。

 

「…娘さんも巻き込まれてしまったことは陰陽部としても汗顔の至り、貴方様の心中は察するに余りあるものだと理解しています…。」

 

「………。」

 

それでも何とかこの騒動の被害者の一人である彼に寄り添う言葉を掛けながら…

 

「…ですがこの件は…一旦ここまでです。」

 

それでもカホは自分がここに来た目的を遂行するためきっぱりと言い切って見せる。

 

「て、手を引いて、という、ことですか…?!」

 

「はい、ツクヨさん。幸いにも逃走中の『魑魅一座・気まぐれ流』の現在地は把握できています。百花繚乱も召集済みです。以後は陰陽部の方で受け持ちますので。それでは…。」

 

そう言い話を打ち切り魑魅一座の拘束に向おうとするカホ。

 

「まっ待ってください、カホ殿!」

 

「イズナ…?!」

 

「…なんでしょうか?」

 

そんな彼女をイズナが声を張り上げて呼び止め、

 

「そうです…!まだ公演が、失敗したわけでは…!」

 

「ツクヨ…!」

 

ツクヨも珍しく力の入った表情で先ほどのカホの言葉を否定する。

 

「皆で、先生やネイトさん達と、力を合わせて、ここまで来たんです…!あとは魑魅一座さえ、捕えられれば…!

 

確かに魑魅一座のアジトまではあとわずかだ。

 

このままいけば公演も守り切れなおかつイブキとアリスの救出も出来る。

 

「その心意気は結構ですが…。」

 

カホはそんなツクヨの言葉に一定の理解を示すが…

 

「…それは本当に全員の総意なのですか?」

 

「え…?」

 

「肝心な方だけは何も口にされてない気がしますが。…ねぇ、千鳥ミチルさん?」

 

その視線をこの二人の部長という立場であるミチルに向け問いかける。

 

「ッ!」

 

「…ふう、外部的にはまだ公演が続いていると言うことになってますが…正直に申し上げます。」

 

そんな言葉に詰まったミチルから一切視線をそらさず…

 

「公演はすでに失敗しています。その後始末を正式な部活でもない忍術研究部の皆さんに任せるわけにはいかないのです。」

 

この百鬼夜行を取りまとめる陰陽部副部長として冷徹に結論を述べた。

 

「ですからここで手を引いてください。正式な部活になる方法でしたら…他にもあるでしょう?」

 

「うっ…!

 

さらにミチルが最も気が気でない事をカホが口にした…その時だ。

 

ズゥン

 

「え…!?」

 

「公演は終了…だったな?」

 

彼女たちの目の前に…それが現れた。

 

真紅の装甲の巨体に所々に装着されたテスラコイル。

 

その圧倒的姿は…この場の全員の記憶にも新しい。

 

「ぱっパワーアーマー…!?」

 

ネイトの力の象徴…パワーアーマーX-02だ。

 

ツルギとの決闘とミカの奇襲を受け破損していたが別飛須高原での療養中に完全修復が完了していたのだ。

 

「だったら俺もこの先は好きにやらせてもらうぞ、天雨アコもどき。」

 

ネイトはすぐさまX-02に乗り込もうと操作し始める。

 

「おっお待ちください!?いったいどういう…!?」

 

「…もうお前たちに気遣って『公演』の建前を護る必要もなくなったからな。」

 

「~ッ!!?」

 

ここに来て…カホは理解した。

 

ネイトの実力ならばこの一団に加わらず独力でも魑魅一座を追撃し二人を救出できてもおかしくない。

 

しかし、それを何故かせず忍術研究部と先生と行動を共にしここまでやってきた。

 

彼は重傷を負っておりまだ完全に傷が癒えていない故の行動だと思っていたが…

 

「この騒動をゲヘナやミレニアム、そしてアビドスを巻き込んだ大騒動にならないように気を使っていたが…もうその必要はない、そちらがそう言ったろ?」

 

違った。

 

ただこれ以上傷口を広げない様に『気を遣っていた』、ただそれだけのことだったのだ。

 

「退け。後は俺一人で二人を迎えに行く。魑魅一座も…完全に叩き潰してやるよ。」

 

その建前を…わざわざ陰陽部の方から取り下げてくれた。

 

だったら…あとは実力行使のみ。

 

「どっどうかッ!どうかお待ちくださいッ、ネイト様!!!」

 

これにはカホも血相を欠いてネイトを制止する。

 

ただでさえ状況は悪いが…先ほど彼女が言ったように『和楽姫』の体裁は保てている。

 

すぐに魑魅一座を制圧しアリスとイブキを救出すれば露見も防げるだろう。

 

だが今ここでネイトがX-02を装備し乗り込めば…完全に異常事態だと露見し事態は更に悪化する。

 

「必ずっ必ず私共がアリスさんをあなたの元にお連れします!!!ですのでどうか私たちを信じて…!」

 

それだけは何とか防ごうと必死にネイトを説得するが…

 

ギョロリ

 

「ひっ…!?」

 

様々な感情がごちゃ混ぜになった視線を向けられただけで彼女は怯み…

 

「…お前、まだ状況が分かってないのか?」

 

「え…!?」

 

「俺の『娘たち』が…攫われたんだぞ…!!?」

 

今まで抑え込んできた怒りと狂気が溢れ出した言葉をネイトは浴びせかける。

 

「奴等は…魑魅一座は『子供の領分』を自ら捨てて武器を手に日常を壊そうとしてきた…!だったら俺は…あいつらを『打倒すべき敵』として扱う…!容赦もしないし二度と立ち上がれないほどの絶望を刻みつけてやる…!」

 

ゲヘナ風紀委員の時もそうだった。

 

あの襲撃部隊の時もそうだった。

 

レッドウィンターの時もそうだった。

 

そして…聖園ミカに対してもそうだった。

 

例え子供と言えど…『悪意』を持ち誰かを理不尽に傷付け日常を脅かすというのであればネイトに『容赦』の二文字は消える。

 

「お前たちが百鬼夜行を統べる連中だろうが知った事か…!今、俺の前に立って邪魔をするなら…踏みつぶして俺は二人を助けに向かうぞ…!」

 

それらの『打倒すべき敵』の一つに…陰陽部が加わるだけだ。

 

そして、

 

「…そうだよッ!!!ここまで来て…引き下がれるわけないじゃない!!!」

 

「ミチル…!」

 

「「部長…!」」

 

ミチルも一歩踏み出し声を張り上げる。

 

「私達は約束したんだ、カホ!!!イブキに…そしてアリスの前で『何があっても絶対助けに行く』って!!!!!!」

 

その表情に…もう迷いはない。

 

そこにいたのは心配に心配を重ねて弱気になっていた彼女ではない。

 

「私達は『忍術研究部』!!!陰陽部部長、『天地ニヤ』から託された任務は絶対にやり遂げて見せる!!!」

 

そこにいるのは一人の未完成な『忍者』であり…

 

「忍術研究部、唱和ッ!!!忍者の鉄則その参!!!」

 

二人の想いをその身に背負う覚悟を秘めた『部長』だった。

 

そんなミチルの言葉に…

 

「ハイッ!!!」

 

「分かりました、部長…!」

 

イズナとツクヨも表情に気合が入り、

 

「『忍者とは一度交わした約束は―――』ッ!!!」

 

「『―――必ず守る者』、です!」

 

しっかりと自分たちの掟を答えて見せた。

 

「…先生殿にネイト殿、力を貸して!!!」

 

そんな三人の想いを聞き、

 

「うん。」

 

「あぁ…!」

 

二人の大人もカホたちを見据える。

 

「そ、そんな…!」

 

カホや彼女が引き連れてきた百花繚乱の隊員たちは恐れ慄く。

 

先生があちら側につくだけでも…忍術研究部の戦力は跳ね上がる。

 

そこに『戦略級』と分析されている全力のネイトが加わるとなると…

 

(か、勝てない…!)

 

戦う前から…カホは理解してしまった。

 

例え…今は行方不明の百鬼夜行の特記戦力が揃っていたとしても…。

 

(どうすれば…どうすれば…!?)

 

必死に頭を回し場をおさめようとするカホ。

 

…その時、

 

「わーすごーい…!時代劇で見た『大鎧』みたーい…!」

 

一触即発のこの場には不釣り合いなのんびりとした声が響いた。

 

「なっ!?この声は!!?」

 

「ふぇ!?なんでここに!?」

 

その声に大きく反応するカホとミチル。

 

「なんだ…?」

 

新手の登場かと警戒心を高めるネイトだが、

 

「…大丈夫です、ネイトさん。彼女は…。」

 

先生が彼の警戒を解くように声をかけると百花繚乱の生徒達の間を割って…

 

「あ、先生もいる~。」

 

青い三つ編みの長いツインテールを持ち青を基調とした巫女服と振袖を組み合わせたような制服と額からそそり立つ赤い一対の角を持つなんとものんびりとした雰囲気を纏った生徒が現れた。

 

「チセ、こんにちは。」

 

「こんにちは~。」

 

彼女は先生と挨拶を交わし…

 

「初めまして~。百鬼夜行連合学院二年生で陰陽部の『和楽チセ』だよ~、よろしくね~。」

 

彼女、『和楽チセ』はネイトにもペコッと頭を下げて自己紹介をした。

 

「…これはどうも、俺はネイトだ。」

 

「チセちゃん!!?どうしてここに!?」

 

それに冷静に受け答えるネイトに対し血相を欠くカホ。

 

「………なるほど、『和楽姫』の姫役は本来…。」

 

「そう、私~。」

 

その反応からネイトも理解する。

 

本来『和楽姫』で攫われる名家のお姫様役だったのはチセである。

 

そしてミチルの話からその生徒は百鬼夜行のアイドルという話も耳にしている。

 

そんなアイドルが今にも陰陽部ごと魑魅一座を叩き潰そうとしていた男の前に立っているのだ。

 

気が気ではないだろう。

 

と、そんなチセは…

 

「ね~これ着たら戦車みたいに強くなるの~?」

 

「あぁ、おそらく…キヴォトスに存在するどんな戦車よりもな。」

 

「お~凄~い。皆朱の大鎧だからとっても活躍したんだね~。」

 

X-02をしげしげと眺めてネイトの話を聞きその性能に感嘆した声をあげていた。

 

その後も装甲を軽く叩いたりネイトに軽く質問しながらX-02の観察を続ける。

 

チセの一挙手一投足をカホや百花繚乱の生徒達はハラハラしながら見つめる事しかできない。

 

なんとも不思議な雰囲気を漂わせる彼女だが…

 

「ん~…。」

 

不意に視線をX-02からネイトに移し頭のてっぺんからつま先までじーっと見つめ…

 

「『修羅なれど されど忘れぬ 親心』…。」

 

「…なに?」

 

「今のネイトさんを見て~一句読んでみたの~。」

 

ネイトには馴染みが薄い『俳句』を披露する。

 

「それは…どういうことだい、チセ?」

 

先生がその俳句の真意を尋ねると…

 

「…今、ネイトさんは~…とっても悲しい気持ちで一杯~…。」

 

「「「「ッ!」」」」

 

「…。」

 

会って間もないネイトの心情を言い当てて見せた。

 

「とっても悲しい気持ちも燃やして…本当のネイトさんの心が見えなくなってる~…。」

 

「…そうか。」

 

先のミモリの反応を見れば自分の心の荒みようはまさにチセの分析通りだろう。

 

「この前の放送で見たときは…もっと違っていた~…。今はまるで…火の海の中に残った木の芽みたい~…。」

 

「その木の芽が…君が感じ取った俺の『親心』かい、チセ?」

 

「そう~…。」

 

互いに言葉を交わし…

 

「お姫様たちが攫われちゃったから~…?」

 

「そう…だな。一人は俺の娘で…もう一人俺の恩人で…今日は娘のように接していたんだ。」

 

ネイトがX-02をも取り出し先に進もうとしていた理由を答えると、

 

「………ごめんなさい、ネイトさん。」

 

「チッチセちゃん!?何を!?」

 

チセは彼に深々と頭を下げた。

 

「本当は私がお姫様役をやるはずだったの…。でも、ニヤ部長が今日はゲヘナからのお客さんをお姫様役にするって急に言われて…。」

 

「あぁ、事情はこっちも聞いている。」

 

「でも…私がお姫様役をやらなかったから…私がいつものようにお姫様役をやってて攫われてたらネイトさんは…。」

 

百鬼夜行の生徒からその神秘的な雰囲気やしぐさなどで高い人気を誇るチセ。

 

彼女は殆ど自覚してはいないが…自分が皆を笑顔にしている自覚はありそのことは彼女自身とても誇らしく思っている。

 

そんなある時…チセはネイトのあの放送を目の当たりにした。

 

見るからに少しでも気を抜けば倒れてしまうような弱弱しい姿だというのに彼から放たれる言葉は温かい力で満ち満ち聞く者すべてを惹きつけるものだった。

 

そんな彼を直に見てみたい、その心を感じてみたい…彼女はそう思っていた。

 

期せずして今日、その望みは叶ったが…

 

「あの時の…貴方の温かくておっきな心を傷つけてしまって…ごめんなさい…。」

 

その心はチセが思い描いていたソレとはまるで違っていた。

 

今、彼の心は怒りと悲しみに満ち満ち…その炎で自らを傷付けながら娘たちの無事を切に願っていた。

 

自分がニヤの提案を却下しいつものように和楽姫を演じていたら…。

 

「私がちゃんとお姫様役をやってたら…私が魑魅一座に攫われてたら…二人は今もネイトさんと一緒にいられて…貴方を傷付ける事もなかったのに…。」

 

自分の身代わりに攫われてしまったイブキとアリスのことまで心配し謝り続けるチセ。

 

すると、

 

「…そんなこと言わないでくれ、チセ。」

 

そんな彼女の肩に手を置き前を向かせ…

 

「たとえ魑魅一座が君を攫っていたとしたらここにいる全員が心を痛めていたはず。もちろん、俺も…アリスもイブキもきっと心配していたはずだ。」

 

「ネイトさん…。」

 

「俺の方こそすまない。君みたいな思いやりのある子にそこまでさせてまった…俺の責任だ。」

 

彼女に非はないと言い切り自分の心の弱さを謝り、

 

「…じゃあ~もし私が攫われても…。」

 

「もしそのことを知ったのなら俺は必ず助けに向った。きっと…アリスとイブキだって心配していたはずだ。」

 

例え、チセが誘拐されていたとしても助けに向っていたと言い切って見せ…

 

「今度、君がお姫様役の和楽姫も是非見せてくれ。その時も娘とイブキを連れてくるからな。」

 

アリスとイブキを救い、彼女の公演を見ることを誓うネイト。

 

「…うん、その時は~今までで一番の和楽姫にしてみせるよ~。」

 

チセの表情も朗らかになり…

 

「…カホー。」

 

「はっはい、なんでしょう!?」

 

「ネイトさんや先生やタヌキさんたちを~…行かせてあげて~。」

 

「ハイッ!?」

 

「和楽姫はお姫様を助けるまでが公演でしょ~?まだ…終わってないよ~?」

 

カホに和楽姫の続行を求めた。

 

「でッですが、チセちゃん!これ以上続けたら各所への説明や賠償が…!」

 

当然、カホもすんなりそのお願いを受け入れるわけにはいかず事情を説明するが…

 

「その時は~私がそこに行って謝るよ~。お願い~。」

 

「クゥ~…そっそんな目で見ないでください~…!」

 

チセの上目遣いのおねだりを受け既にノックアウト寸前だ。

 

実はカホ、立場上はチセの上司ではあるが彼女の熱烈なファンでもある。

 

そんな憧れのアイドルにこんなおねだりをされては歓喜と義務の間で揺れ動くのも無理はない。

 

「ニヤ部長にも私が説明するから~。ねぇいいでしょ~?」

 

「でッですが~…!」

 

なおも続くチセのお願い攻撃に精神がゴリゴリ削られていくカホ。

 

その時だ。

 

《ここで見逃すのならば…私も真相は胸に秘めますが?》

 

「…え?」

 

突如としてここにいる誰の物でもない声が響く。

 

これの発信源を辿ると…

 

《情報提供感謝します、ネイト社長。そろそろつきますよ。》

 

「了解した。」

 

ネイトが通話状態にしていたスマホからであった。

 

さらに…

 

ゴゴゴ…ッ!!!

 

バリバリバリ…!

 

どこか遠くから響き渡る重厚なエンジン音と破壊音。

 

「なっ…なにを…!?」

 

「いや?是非ともこの事件のもう一人の当事者におたくの考えを聞いてもらおうと思ってな?」

 

「あれ…この音って…?!」

 

目を見開きネイトを見つめるカホに悪びれることなくそう答えて見せた…次の瞬間、

 

ドッゴォオオオオンッ!!!

 

『ッ!!!?』

 

トリックハウスのゴールが吹き飛び現れたのは…

 

「せっ戦車ああああああ!!?」

 

「わー今度は本物の戦車だー…!」

 

万魔殿エンブレムのステッカーが貼られ砲身に『巡回中』という看板が揺れる一両の重戦車。

 

ゲヘナが誇る制式戦車『ティーガーⅠ』、超無敵鉄甲『虎丸』である。

 

これにはカホも度肝を抜かれチセは目を輝かせはしゃぐ。

 

そして、当然と言わんばかりに…

 

「お待たせしました。」

 

「イロハっ!!?」

 

車長用ハッチからイロハが顔をのぞかせ

 

「入口で順番待ちしてたから連れてきた!なんか知らない間に戦車が準備されててさ、びっくりしちゃったよー!」

 

隣の装填手用のハッチからは報告へ向かったはずのカエデが飛び出しはしゃいでいる。

 

「どうだった?カーゴボットでの空の旅は?」

 

「悪くはありませんでしたが正直目立つのでそこは考えようですね。」

 

このトリックハウスに挑む前に離脱していたイロハ。

 

その際に…ネイトに迅速に自分たちが乗ってきた列車の待つ駅に戻るための移動手段を求め大型輸送用ドローン『カーゴボット』をクラフトしてもらっていたのだ。

 

それにブランコの要領でぶら下がりながら操縦、陸路を進むよりもはるかに早く駅に戻り返す刀で虎丸でここまで疾走してきたのである。

 

「あぁ、どうも。陰陽部副部長の『桑上カホ』さん。私、ゲヘナ学園万魔殿で戦車長をやっております『棗イロハ』と申します。」

 

「こっこれはどうもご丁寧に…!」

 

と、カホに対し挨拶をするイロハだが…

 

「さて…陰陽部はさてはこの件をマコト議長に知られる前にもみ消そうとお考えで?」

 

その目はいつもの彼女らしからぬ鋭さを帯び…

 

「なるほど、つまり…陰陽部はゲヘナや関係各校との外交問題がお望みと言うことで?」

 

ウィィィン

 

自身の立場を最大限に生かし虎丸の主砲を向けながらカホに先ほどの言葉の真意を尋ねる

 

「けっ決してそのようなことは…!」

 

これにはカホも両手を上げイロハの言葉を否定する。

 

それを聞き…

 

「でしたら…公演を続けそこを退いていただきましょうか?そうすれば私達はイブキとアリスさんを救え陰陽部は外交問題を回避できる、Win-Winというやつです。」

 

公演の続行と『邪魔をするな』という要求を突き付け…

 

「もし断るというのであれば…そこの『英雄』様にも一肌脱いで…いえ一肌被っていただきましょうか?」

 

「任せろ。」

 

ゲヘナ流のなんとも荒々しい代償を提示する。

 

「あぁ…そんな…!」

 

頭を抱え白目を向き蹲るしかないカホ。

 

このまま公演を取りやめれば『たったこれっぽっち』の戦力でゲヘナ最強の戦車乗りが加わったこの集団と戦いその後にゲヘナ筆頭に外交問題になる事に。

 

もし見逃せば大騒ぎは確定としてその後に降り積もる諸問題が盛りだくさん。

 

その二つを天秤にかけ算盤を弾き…

 

「………分かりましたあぁ…!後始末はこちらでどうにかするのでぇ…もう好きにしちゃってくださぁぃ…!」

 

陰陽部からの『天下御免』の許可が出されるのであった。

 

「中立を貫く貴方方らしい賢明なご判断、マコト先輩に代わり深く感謝いたします。」

 

「流石大局を見極める陰陽部、あの子の父として俺からも最大限の感謝を。」

 

その言葉にイロハとネイトが皮肉たっぷりに感謝を述べ…

 

「…さて、お姫様たちを救出に向かいましょうか…!」

 

「野郎ども、ピクニックに出かけるぞ!!!」

 

イロハは戦車内に引っ込みネイトもX-02を収納し虎丸の砲塔後部に搭乗する。

 

「よッよし行くよ、皆!」

 

こうなれば行くところまで行くしかないと先生も腹をくくり虎丸に飛び乗る。

 

「いぃよぉし!!!ツクヨにイズナ、最終決戦だよ!」

 

「待ってましたよ、部長!」

 

「必ず、二人を助けましょう、部長…!」

 

とミチルたち忍術研究部の虎丸に乗ろうとすると…

 

「…待ってください、忍術研究部の皆さん。」

 

カホが三人を呼び止め…

 

「…どうしてです?正式な部活になる方法はいくらでもあるでしょうに…どうしてそこまでやるのですか?」

 

そう尋ねた。

 

カホはすでにミチルたちの現状は把握している。

 

そのうえできちんと行政上の手続きを踏みさえすれば審査にかける準備もしている。

 

なのに、どうしてここまで和楽姫の完遂にこだわるのか?

 

そんな問いに…

 

「約束…したからだよ、カホ。」

 

「約束?」

 

「『何があっても絶対に助けに行く』。イブキに約束したことを…ただ護りたいだけなんだ。」

 

部活云々ではなく交わした約束のため、ミチルは晴れやかな表情で答える。

 

「私は、部長が決めたことに、ついて行きたいだけ…です…!」

 

「ミチルさんに…。」

 

「たとえ部長が、何を、考えていたとしても。」

 

「はいっイズナも同じです!」

 

「私達は、それを信頼しますし、蔑ろにはしたくありません。なぜなら―――。」

 

「「私達は『忍術研究部』ですので(から…)!」」

 

ツクヨとイズナも声をそろえて答えて見せた。

 

「何となくは…部長が抱えている事情も、分かってるんです…。」

 

「つ…ツクヨ…。

 

「申請書のことや、今日これまでのことも…。でも、それは今は別にいいんです…!」

 

ツクヨは言葉を続ける。

 

「軽薄で、欲張りで、見栄っ張りで…!どうしようもないほど、いつも行き当たりばったりで…!」

 

「ツクヨ―!!?刺された、今思いっきり刺してきた!?」

 

自分の部長にグサグサ刺さる言葉を放ちつつも、

 

「でも…忍者が大好きで、私達のためにって、いつも頑張ってくれる部長だから…!体が大きい以外、何のとりえもない私を誘ってくれた…そんな部長が信じる道を、行きます!公演を先生や棟梁殿と成功させて、正式な部活に、なりたいんです…!」

 

ミチルへの熱い思いを語り公演をやり遂げようという意思を見せた。

 

「イブキ殿との約束も!棟梁殿の愛情も!イズナ達の願いも!必ずや叶えて見せます!それが忍者ですから!ね、部長!」

 

イズナも純粋な忍者へのあこがれとミチルへの思いを叫ぶ。

 

「二人とも…!」

 

二人の自分への思いを聞き感極まるミチル。

 

「…フフッ二人の想いを抱える覚悟はできたな、ミチル?」

 

「ミチル、よかったね。二人はもう立派に『忍術研究部』の一員だよ。」

 

「ぐすっ…うん!」

 

「では…二人を迎えに行きましょうか。」

 

「はい、和楽姫をやり遂げましょう…!」

 

「主殿に棟梁殿にイロハ殿、最後までよろしくお願いしますね!」

 

「レディとして私もついてくよー!」

 

こうして、イズナとツクヨも虎丸に乗り込み…

 

「では発進します、振り落とされないでくださいね…!」

 

ブゥオオオオオオン!!!

 

ガガガガガガッ!!!

 

エンジンが唸り地面を削り飛ばし一行は最後の追撃戦に臨む。

――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

なおも映画村内を逃げ惑う魑魅一座。

 

「なっなんすかこれ!?もう全部むちゃくちゃじゃないっすか!!!」

 

「ニヤニヤ教授の作戦がなぜ…!?」

 

その表情には疲労と共に困惑の色が濃い。

 

なぜなら…

 

《にゃははっ皆頑張ってますか~?》

 

今なお自分たちを捉えニヤのアナウンスが行われている放送。

 

どこへ逃げようとぴったりと自分たちを付けニヤの楽しげな声が彼女たちの神経を逆なでる。

 

途中、妙な焦りを感じていたがいまはもう普段の彼女の声音に戻っている。

 

《ますます激しくなる追撃戦…それもそろそろ終盤です!さぁどうなるんでしょう~!》

 

「くそっ…陰陽部め…!」

 

「チッ最初から『交流会を混乱させて要望を飲ませる』なんてのが甘かったか!!!」

 

この事態にとうとう魑魅一座のリーダーの堪忍袋の緒が切れる。

 

「こうなったら奴のとこに直接行って銃弾をぶち込んでやる!!!行くぞ、陰陽部の所に突撃だッ!!!他の奴らも呼べ!!!」

 

「まっマジか!?」

 

「それでこそリーダーっす!すぐに連絡入れます!!!」

 

更なる過激な実力行使をすべく一行は目的地を変更する。

 

その時、

 

《魑魅一座アアアアアアアッ!!!》

 

『ッ!!?』

 

辺りに響き渡る怒号。

 

それを辿ると、

 

《そこを動くなよォォォッ!!!》

 

「んなぁッ!?戦車だと!!?」

 

土煙を巻き上げこちらに迫る虎丸を発見。

 

「ど、どうするんすか!?」

 

流石に戦車相手では分が悪い。

 

すると…

 

「…城門前にある橋を爆弾で吹き飛ばす。他の連中は別ルートから入れさせろ!」

 

「お、ナイスアイディア!そうすれば追って来れないはず!!!」

 

「伝達完了っす!派手に吹き飛ばすっすよー!!!」

 

リーダーは陰陽部の庁舎の主要経路である橋の爆破を決定。

 

即座に部下が爆弾を仕掛け…

 

ドゴオオオオオオンッ!!!

 

「い、今の爆発は…!?」

 

「ヤバッ!?橋が吹き飛ばされてない!?」

 

「おおっ!イズナ、こういうのドラマで見たことあります!追撃戦の王道ですね!」

 

渡り終えると同時に橋を盛大に爆破した。

 

「イロハ、どうしよっか…!?」

 

「橋を爆破して追撃を振り切る…?」

 

このままでは虎丸は堀に落ち漁礁に早変わりだ。

 

だが…

 

「私たちを相手にですか?…甘いですね。」

 

「えっ何!?なんで余裕なの!?」

 

その程度、何の障害にもならない。

 

そう、こちらには…

 

「ネイト社長、資材は後程万魔殿が補填しますのでお願いします。」

 

「任せろ。」

 

ダァォッ!!!

 

イロハに声を掛けられた瞬間、X-02を纏ったネイトが虎丸を置き去りにする速度で走り出す。

 

「ネ、ネイト殿!?」

 

「は、速い…!」

 

「いっイズナも追いつけません~!」

 

「わぁ何あれ、新しい戦隊モノのスーツ!?」

 

そんなミチルたちの声も置き去りにし…

 

「その程度で諦めるだと!!?父親を舐めるなよ、魑魅一座ッ!!!」

 

ネイトは走りながらPip-Boyのクラフトモードを起動。

 

「石橋なんて叩いて壊して鉄筋コンクリート製に作り替えるまでだ!!!」

 

その範囲内に魑魅一座が吹き飛ばした橋の残骸が入った瞬間、

 

ガシャンッ!!!

【挿絵表示】

 

「「「「ええええええぇぇぇぇ!!!?」」」」

 

「相変わらず無茶苦茶な能力…!」

 

落とされた箇所に武骨な鉄筋コンクリート製の橋をクラフト。

 

有事の際の渡河のために設計図を用意していたのだ。

 

「流石です、ネイト社長…!皆さんしっかり掴まっていてください、突っ込みますよ…!」

 

「待って、このまま突っ込むの!!?」

 

それを確認しミチルの言葉を無視し虎丸のエンジンをフルスロットルで拭かせトップスピードで突き進むイロハ。

 

「イロハ、城門を突き破った瞬間に発煙弾を!!!」

 

「了解…!」

 

タイミングを見計らい虎丸に飛び乗ったネイトの指示を受けタイミングを見計らい…

 

バグワォオオオン!!

 

バシュシュシュシュゥッ!

 

城門を突き破ったタイミングで発煙弾を発射、目の前を白煙が覆う。

 

「くそ、どうなってるんだ!?」

 

「構えろ、リーダーたちが目的を果たすまで食い止めるんだ!!!」

 

城内には召集されていた魑魅一座の者たちが待ち構えており各々得物をもって戦闘に備えるが…

 

ジィッ

 

PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi

 

ビシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ

 

『ぎゃあっ!!?』

 

煙幕の中から正確無比な弾丸が飛来、周囲にいた魑魅一座の眉間の狂いなく10㎜弾が叩き込まれた。

 

そして…

 

「のんびり待ち構えているとは見縊りやがって…!」

 

煙幕の中からデリバラーのマガジンを交換しながらパワーアーマーを脱いだネイトが現れる。

 

「い、今の一瞬でこれだけの魑魅一座を…!?」

 

「一体、どんな射撃、なんですか…!?」

 

「凄いです、棟梁殿!なんという忍術ですか?!」

 

背後に続くミチルたちもこれにはあんぐりしている。

 

その時、

 

チュイィンチュインッ!!!

 

虎丸の装甲を弾丸が跳ねる。

 

見ると…橋の向こうから魑魅一座の別動隊がこちらに殺到しているではないか。

 

「ネイト社長、先生…!ここは私達が抑えます…!」

 

「部長、イブキ殿とアリス殿をお頼みします!」

 

「だ、大丈夫、絶対にここは、通しません…!」

 

「なんだか大変なことになってるけど私も手伝うよ!」

 

イロハは素早く虎丸の砲塔を反転させ迎撃態勢を取り、イズナにツクヨにカエデも虎丸を遮蔽物にし迫る魑魅一座へ攻撃を浴びせる。

 

「気を付けてね、皆!行こう、ネイトさんにミチル!」

 

「後は頼んだぞ!すぐに戻ってくる!」

 

「任せて、皆!きっと助け出して見せるから!」

 

その想いを受け、先生・ネイト・ミチルの三人は城内に突入。

 

この大騒動の和楽姫公演…いよいよ最終局面を迎えることとなった。




Death Waits in the Dark
『死は闇の中で待つ』
―――米陸軍第160特殊作戦航空連隊『ナイトストーカーズ』
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