―――実業家『スティーブ・ジョブズ』
とうとうイブキとアリスを魑魅一座を射程圏内に捉えたネイトと先生にミチルたち。
戦いの場は陰陽部の庁舎内に移っていた。
「こっここから先は通さないぞ!!!」
「撃てッ撃ちまくれ!」
「片方はヘイローが無いや…!」
アリスとイブキを連れていた一団を護ろうと魑魅一座・気まぐれ流の構成員が行く手に立ちふさがる。
しかし、
チャキッ!
「つぅぅぅぅだぁぁぁ…!」
ネイトは素早くコンバットライフルでADSを行い『デッドアイ』を発動、
シュパパパァン!!!
「ぐあッ!?」
「ギャンッ!?」
「ぐはぁッ!?」
「退け、雑魚ども…!」
バイタルゾーンや頭部に正確無比に.308口径弾を撃ち込み。
そこへ、
バリィッ!
「馬鹿め!」
「後ろ取ってやっ…!」
障子を突き破りネイトの背後を付こうと突っ込んできた。
しかし、
「ミチルッ、ネイトさんの援護を!」
「任せて!」
後衛を任されたミチルが素早く『ミチル流オーバーフローショットガン』を構え…
「忍法『火遁・龍息の術』ぅッ!!!」
ドバォン!!!
銃口から目が眩むほどの光を放つ炎を噴き上げ…
ボォウッ!!!
「アチャチャチャアッチャアアア!!?」
「水水水ぅぅぅッ!!!」
魑魅一座が身にまとっていた着物に引火。
その炎を消すために庭園にある池目掛け走り去っていった。
「うわぁ…ほんとに忍法みたい…!」
「ってミチルっ!燃えてる燃えてる!!!」
自分が放った銃弾に少し恍惚とした表情を浮かべるミチルと対照的に先生は備え付けられてあった消火器で残り火を処理する。
ネイトが渡したのは『ドラゴンブレス弾』、本来ならば高温の火花を浴びせかける散弾だ。
ホシノも時々使っているがなぜかミチルが使うと神秘の影響か火炎放射さながらの炎が吹き上がるのだ。
(やはり…そう言う部分も神秘が干渉するのか…?)
「うギャッ!?」
「いっだあッ!!?」
同じ弾丸でもこの挙動の違い、目の前の魑魅一座をコンバットライフルで撃ち抜きつつネイトは考察する。
自身もツルギとの戦いで神秘の一つの核心に指を掛けることが出来た。
しかし、それもまだまだ神秘と言う物は奥が深い事象だともミチルを見て思い知らされる。
「先生、奴らどこへ向かっていると思う!?」
「ハイッ!?えぇっと…そうだッ!陰陽部の部長のニヤの所だと思います!」
「アイツらがやりそうなことだね!この先だよ!」
「ミチル、ドラゴンブレス弾は使うな!お前のあの火の忍術がアリスとイブキに当たるとまずい!」
「りょ~かい、ネイト殿!」
目の前の魑魅一座を排除しつつ三人はアリスとイブキを伴った連中を追い詰めていく。
一方、
バゴォンッ!!!
「到着だ!!!って、陰陽部の部長はどこだ!!?」
「どこ行ったっすか!?出て来いっす!!!
魑魅一座のリーダーの一行はニヤの居室に到達。
しかし、そこにニヤの姿はなく周囲を見渡していると…
《にゃはは、お疲れ様~♪》
「んなっ映像投影だと!?」
そんな彼女たちの前に現れたのはホログラムのニヤだった。
いつものような周囲を煙に巻くような表情と声のトーンだが…どこかやけくそになっている雰囲気も感じられる。
《さあ公演もついに大詰め!最後の最後に笑うのは一体誰なのでしょう~?》
「くそ、アイツおちょくりやがって!!!」
そんなニヤに憤慨する魑魅一座のリーダーだが、
「よぉ。」
「「「ッ!!?」」」
地の底から響くような声が彼女たちの耳に届き、
ズドドォンッ!!!
「ぎゃあ!?」
「ぐへぇッ!?」
大音量の銃声が轟き部下の二人が崩れ落ちた。
「~ッ!!?」
魑魅一座のリーダーが振り向くと…
「追い詰めたぞ、この人攫い…!」
先程突き破った入り口にウェスタンリボルバーの銃口から硝煙を立ち昇らせるネイトと、
「お姫様たちを返してもらうよ…!」
「ここまでだよ、もう諦めるんだ…!」
『ミチル流オーバーフローショットガン』をこちらに向けるミチルと先生がいた。
詰まり込尾までに配置していた魑魅一座のメンバーは全員打倒され共にいた二人もダウン。
つまり…
(わ、私一人ってことか…!?)
もうリーダーしか動ける人員は残っていないと言うことに他ならない。
「さぁ、どうする…?!俺はどっちでもいいぞ…!」
ウェスタンリボルバーから先程撃ったにこの空薬莢を抜き取り前方に投げ捨て新しい44マグナム弾を装填しネイトはそう告げる。
すると…
「えぇいっ!!!それ以上近付くな!!!」
残されたリーダーは外廊下まで飛び退き…
「この姫たちを投げ落とされたくなかったらな…!」
「「ッ!!?」」
「………。」
簀巻きにしたアリスとイブキを連れそう脅してきた。
《おぉっと白熱してまいり…》
と、ニヤの声が響くが…
ビシュッ!
ガシャァン!!!
「うるさい…!外野は黙ってろ…!」
そのホログラムを発生させている装置にデリバラーの10㎜弾を叩きこみそのアナウンスを黙らせるネイト。
「へッ…!気が合いそうだな、アンタとは…!」
「俺は娘を攫ったやつと気が合うなんてごめんだな…!」
再び向かい合い膠着状態になり魑魅一座のリーダーとネイトたち。
「ふー…!ふー…!」
そんな中、ミチルだけは必死に呼吸し意識を集中させ続けていた。
(ここまで来れたのはみんなのおかげ…!私は勢い任せにここまで来たも同然…!)
思い返せば…魑魅一座の襲撃から今までずっとそうだった。
勢い任せで飛び出した
勢い任せで関門を突破した。
勢い任せで罠にかかり、カホにも啖呵を切った。
それでも…
(でも、ここに立ったのは自分の意思だ…!)
二人を救おうと今ここに立っているのはほかならぬ自分の意思だ。
イズナやツクヨ、先生にネイトにも励まされ自分は最後までやり遂げることを選んだ。
(集中して、千鳥ミチル…!一歩間違えば全部終わりなんだから…!)
正に今は最終局面。
(足が震える…!心臓も破裂しそう…!)
これまでにない緊張感が彼女を襲っていた。
(こんなことになって…あんな…電気が消えただけで泣きそうになってたイブキちゃんに急にこんなことに巻き込まれたアリスちゃんだってきっと怖くて震えて…!)
しかし、それを表に出すわけにはいかない。
そうこの場で最も怯えているのはほかでもない、イブキとアリスのはず…
「あぁ!やっぱり忍者のお姉ちゃんにネイトさん達だぁ~!イブキ、ちゃんと大人しくしてたよ!」
「わーい!パパたちが囚われの姫たちを救いに来てくれましたぁ~!アリスもちゃんとジョブを全うしましたぁ~!」」
「って、全然泣いてない…!?」
なのだが簀巻きにされているというのに満面の笑みでミチルやネイト達が来たことを喜ぶアリスとイブキ。
「?どうかしたの、忍者のお姉ちゃん?」
「い…いやその…誘拐されて縛られてるからすごく怖かったんじゃないかなーって…。」
そんな二人に思わずそう尋ねるミチルだったが…
「全然そんなことないよ!」
「はい、全然怖くありません!」
二人は笑顔を絶やすことなく…
「だって…『なにがあっても絶対助けに行く』ってみんな約束してくれたから!」
「アリスとイブキはパパたちが一番にやって来てくれると信じてました!」
「…!」
あの時交わした約束を守ってくれると信じていたと言ってくれた。
きっと一番最初に助けに来てくれると信じ続けてくれていた。
そんな二人の言葉を聞き…
「…うん!言ったじゃん、二人とも!忍者とは一度交わした約束は必ず守る者だからね!」
ミチルも笑顔でそれに返し、
「あぁ、今は俺もアリスとイブキの忍者だ。約束は必ず護って見せる。」
ネイトも浅く笑いながら答え、
「大丈夫、私たちが来たからにはもう安心だよ。」
先生も微笑みながらそう言い切るのであった。
「とっ止まれ!下手に動いたらこの子達の安全は保証しないぞ!!!」
自分以外一切動じていないのを見て魑魅一座のリーダーはなおも一歩下がる。
「ミチル、合わせろ…!一気に行くぞ…!」
「合点、棟梁殿…!」
しかし、ネイトとミチルは腰を落としいつでも飛び掛かれる体勢をとった。
「うっ噓じゃないからな!?それ以上来たら本当に…!」
それに怯んだ魑魅一座のリーダーがさらに一歩下がった…その時、
バキィッ!!!
「あっ…!」
重さに耐えきれなかったか、あはたまた老朽化か…アリスとイブキがいる外廊下の床が抜けた。
「二人とも、危な…!」
先生が警告を発し終える寸前、
「ミチル流忍法!!!」
ミチルは駆けだし、
「シュー…!」
ジィッ
PiPiPiPiPi
ネイトは冷静にV.A.T.S.を起動し照準を定め…
ドォッ!!!
近接V.A.T.S.による瞬間移動で一気に間合いを詰める。
まず照準したのは…先ほど投げ捨てた44マグナム弾の空薬莢二つ。
シュンシュンッ!
これでまずは移動経路を確保、先に飛び出したミチルに並ぶ。
「ミチル、イブキをッ!!!」
「うん!」
その間際、ミチルにそう指示を飛ばし…
シュン!
「アリス!」
「パパっ!」
再び瞬間移動、宙に飛び出したアリスを右腕で抱き上げる。
「イブキちゃん!」
「捕まっちゃったー!」
ミチルも指示通りイブキをしっかりと捕まえ、
シュン!
「にょわッ!?」
「よくやった、ミチル!!!」
空中でミチルのそばに移動し彼女を左手で抱え込む。
これで全員一塊になれた。
そして…
「あとは…!」
シュン!
残る最後のV.A.T.S.照準を起動、狙いは…
シュボォッ!!!
「え…?!」
「受け取れ、50口径の代わりだ…!」
殺意漲る目で魑魅一座のリーダーの眼前に瞬間移動、弧を描き振り上げた右足が…
バァン!
ベキィッ!!!
「ぶゲラぁッ!!!?」
顔面に炸裂、V.A.T.S.クリティカルも発動し威力が激増したその一撃はお面を砕け散らせ彼女を壁に叩きつけるほどの威力だった。
「ふぅー…!」
「こ、これがあの時ネイト殿が使った…!」
息を吐きつつ蹴り飛ばした魑魅一座のリーダーを警戒するネイトを見てミチルは思い出した。
そう、この一連の動きこそ自分たちが憧れ三人で集まるきっかけになったネイトの『忍法』だと。
その中に自分も入ることが出来た。
「~ッ!!!」
思わず感極まりそうになるミチルだったが…
「っとそうだ!イブキ、大丈夫!?」
自分の腕の中にいるイブキの安否を確認すると、
「うん!忍者のお姉ちゃんにネイトさん、助けてくれてありがとう!」
「…よかったぁ…!」
どうやら怪我は一切していないようだ。
「ミチル、アリス。今下すからな。」
安全が確認できようやくネイトも肩から力を抜け腕の中の三人を下ろし…
「アリス、連中に変なことはされなかったか?」
「はい!アリスはずっと楽しく囚われの姫のジョブをこなせましたよ、パパ!」
「…そうか、イブキは?」
「うん!逃げてる間もずっと楽しかったよ、ネイトさん!」
「…そうか。そうか…!」
アリスとイブキが無事であることを改めて確かめ…
ギュウ…
「パパ?」
「ネイトさん?」
「よかった…!本当に…よかった…!」
ほんの少し声を震わせながら彼女たちの体温をしっかりと確かめるように力強く、それでいて苦しくないように抱きしめる。
「変なネイトさん。でも、イブキもネイトさんとこうするの大好き!」
「あっ囚われの姫の救出クエスト成功の承認ですね!アリスもパパを抱きしめてあげます!」
イブキとアリスも幸せそうな表情を浮かべ彼を抱きしめ返してくれた。
「ネイトさん…。」
「ネイト殿…。」
夕日が照らすその光景を先生とミチルは愛おしむ様に見つめるのであった。
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――――――――
―――
その後、イロハたちと戦闘を繰り広げていた魑魅一座・気まぐれ流の面々も虎丸とイズナ達の活躍もあり全員制圧。
この日、百鬼夜行内にはびこっていた強硬派な不良組織が一つ壊滅することとなった。
またこの大騒動も陰陽部の尽力で何とか表向きは『公演の一環』として処理されることに。
なんとかネイト達が懸念していた外交問題に発展することは防がれるのであった。
その後、魑魅一座たちの引き渡しも終え…
「キキキッどうだ、イブキ?旨いか?」
「うんっマコト先輩!こんなおっきなプリンアラモード食べれたの初めて~!」
「そうかそうか!アリス嬢も遠慮するな!陰陽部の奢りだ、どんどん好きなのを頼むがよい!」
「分かりました!アリス、百夜堂のメニューのコンプリートを目指します!」
「フフッ食べ過ぎてお腹壊したらネイト社長に心配されますよ?」
マコトたち万魔殿の幹部は『百夜堂 映画村支店』を訪れスイーツや料理に舌鼓を打っていた。
そんな中…
「あっあにょマコト議長…!私達もご馳走になっていいんでしょうか~…!?」
席の一角で縮み上がっているミチルがおずおずと挙手しマコトにそう尋ねる。
そばには同じく泡あわしているツクヨと状況が呑み込めないのか笑顔を絶やさないイズナがいる。
なにせ相手は三大校の一角にして治安最悪のゲヘナ。
しかもそのトップであるマコトが相手ならば当然の反応だろう。
「構わん、忍術研究部の諸君!公演とはいえあそこまで派手な演出をしてイブキを楽しませてくれた礼だ!遠慮せずに楽しむがよい!」
一方、マコトは上機嫌でミチルたちにも好きに注文するように言い放ってみせる。
あくまで表向きは『和楽姫』の交流イベントは成功裏に幕を閉じている。
そこでイブキを救い出しイベントに花を添えた忍術研究部を労い自分の株を高めようというのがマコトの魂胆でもある。
「お三方とも、そう緊張しないでください。陰陽部が払わなくてもお三方くらいの食べた分くらい万魔殿が支払いますから。」
「ほっホント、イロハ…!じ、じゃあ遠慮なく…!」
「わ、私も、いただかせて、いただきます…!」
「ご馳走になります、マコト殿!」
マコトからの許しとイロハからの言葉を聞きようやくミチルたちも各々好きなメニューを注文し始めるのであった。
そうこうしていると、
《では、次のニュースです。本日の百鬼夜行連合学院とゲヘナ学園の交流会、そしてそこで活躍した忍術研究部と謎の忍者に関してです。》
「あっ見てみて、マコト先輩に忍者のお姉ちゃんたち!イブキ達のことがニュースになってるよ!」
百夜堂内に置かれてあったテレビから今日の交流会に関するニュースが流れてきた。
「おぉっ!ひょっとして忍術研究部もこれで名が知れ渡ったり!?」
さらに自分達にもフォーカスが当たりミチルたちも期待に目を輝かせながらニュースに見入る。
《突如として現れた彼女たちについて各地の皆さんに尋ねてみました。》
そして、場面は百鬼夜行で行われた路上インタビューに入る。
《何かあの『眠り姫』の試練も歩いてクリアしたんだって?》
《聞いた話によるとその次の『読心術師』は『幻術』を使って軽々突破したとか。》
「うんうん、そうだよね!活躍しちゃったもんね~、私たち!」
「はい、部長!イズナもツクヨ殿も棟梁殿も皆大活躍でした、ニンニン!」
と最初こそは自分たちの活躍が語られて鼻高々になっていたが…
《あっそう言えばなんか…あのゲヘナの万魔殿の奴らと盛大にやり合ったとか!》
《しかも戦車で映画村を蹂躙して百鬼夜行の生徒会にところにツッコんだとか!とんでもないアウトローだよね!》
「んぬぁ~!?なんかあらぬ誤解産まれてる~!?間違ってないけど間違われてる~!」
「ひょっとして、私達、とんでもなく怖い集団だと、思われちゃいました…!?」
ゲヘナ生のインタビューを聞き頭を抱えることに。
確かにやったことがやったことなだけに確かにそう思われても仕方ないがこれでは忍術研究部が怖がられるのではないかと心配するミチルたち。
「あぁ~…これは半分以上私のせいですね…。」
そんな彼女たちの誤解の発端となったイロハは申し訳なさそうにするが…
「キキキッ案ずるな!あれくらい暴れたほうがゲヘナでのウケがいい!」
逆にマコトは痛快と言わんばかりに笑い飛ばし肯定的に受け止めるのであった。
「『悪名は無名に勝る』ともいう!名が売れねば貴様らの目指す忍者の普及は進まんだろう!?」
「そ、そうかなぁ…。」
「ですがマコト殿!忍者は忍ぶものです!あまりにも名が知られ過ぎればそれはもはや忍者と呼べるものなのですか!?」
「むむッ中々深い質問だな…!」
「大丈夫、忍者のお姉さんたち!イブキは三人とも凄い忍者だって分かってるから!」
「はい!パパもミチル先輩たちも今日はとってもかっこいい忍者でした!」
と、万魔殿と忍術研究部にアリス達は賑やかに甘味を楽しんでいくのであった。
そんな明るい雰囲気のテーブルの一方…
「…そうですか…!あの子は…!」
「あぁ、アビドスでみんなと仲良くやっているよ。」
店の片隅のテーブルで団子とお茶を出されたネイトと百夜堂のオーナーであるシズコが向かい合って座り何かを話していた。
「今は何をやってるんですか…?!」
「ニュースは見たか?あの日、上空から不良たちをバッタバッタ撃ちまくってたのが彼女さ。」
「フフッ…そっちの腕は変わりないようで安心しました…。」
と、アビドスの誰かの近況を聞き微笑むシズコだったが…
「それで…ネイトさん…。今のことは…。」
心配そうな表情になり何かをネイトに頼もうとする。
「安心してくれ、シズコ。あの子が自分で話さない限り…俺から切り出すことはない。まぁ…もしばれてもアビドスの誰も気にしないだろうがな。」
そんな彼女を安心させるように浅く笑いながらネイトは答える。
「そう…なんですか…?」
「誰しも知られたくない秘密の一つや二つはある。君ら位の年頃ならそれは当然のことだし何も悪い事じゃない。」
「そう言っていただけると…私も安心します…。」
「それに…アビドスは『夢に挑戦できる場所にしたい』と言ったのは俺だ。今、前を向いて進んでいる彼女の邪魔は…俺がさせないさ。」
「…本当に…あの映像のままの人なんですね、ネイトさんって…。」
彼の心意気を知ることが出来…
「…どうかあの子を…『チカ』をよろしくお願いします。」
改めてネイトに向って深々と頭を下げるネイトなのであった。
「あぁ、任された。機会があって気持ちの整理が出来たら…アビドスに来ればいい。もちろん、ビジネスの話も大歓迎だ。」
「フフフッ、その時は『百夜堂』のオーナーとして手加減なしで臨ませていただきますね♪」
「かかって来い。俺だって負けやしないさ。」
と、互いに商売人の顔となり再会を誓い…
「…それじゃ、俺は少し出かけてくる。」
「どちらへ?」
「ん~…ちょっとチェシャ猫の尻尾を掴みにな。」
「?」
「マコト、イロハ。少し席を外すからアリスを見ててもらえるか?」
「あぁ、任された!…ところでどこへ行くのだ?」
「行ってらっしゃい、ネイト社長。…頼みましたよ。」
「アリス、すまないがちょっと出てくるよ。」
「ハイッ行ってらっしゃい、パパ!」
アリスをマコトたちに託し百夜堂を後にするのであった。
…場所は変わって映画村の片隅。
この時間にはもう客はおらず静かに吹き抜けるよ風が心地よい。
そんな場所で…
「ふんふんふん~♪にゃははっ、一時はどうなるかと思ったけど…スリリングながら結構楽しめたねぇ。」
まるで物影を跳梁するように一人の生徒と…
「…個人的にはそういう感想なのですが…先生の方はどうです?」
「や、こんばんは…ニヤ。」
そんな彼女、ニヤを探し出した先生が相対していた。
「シャーレのご協力もあってなんとか交流会も終えることが出来ましたわぁ。陰陽部の部長としてお力添えに感謝しますよ~♪」
「どういたしまして。それが私の仕事だから気にしなくてもいいのに。」
と社交辞令のような会話もそこそこに…
「ところで…さっそく本題に入ってもいい?」
「あらあら…小粋なアイスブレイクのつもりやったのに…急展開で残念ですねぇ。」
先生は表情を引き締めニヤを見据える。
そして…
「今日の一連の出来事…全部ニヤの計画…ってことで合ってる?」
「あらまぁなんというストレート。探り合いも必要無し…という感じですのぉ?」
単刀直入を地で行く問いかけを彼女に投げかけた。
「…ちなみに根拠は?」
煙に巻くような表情は変わらないが少し鋭さを宿しニヤは尋ね…
「急遽イブキが代役になったから警備体制に変化はないはず。つまり、チセ用の警備なのにイヤに手際よく魑魅一座はイブキとアリスを攫っていた…。」
超法規的捜査機関の『シャーレ』らしい視点で根拠を述べる先生。
「なるほどぉ…ある意味高く買われてますねぇ。もし私ら、陰陽部が本当にしっかり警備していたら…こんなことはそもそも起こらなかったはず…。」
その先生の言葉を反芻するようにつぶやき、
「逆説的に…『陰陽部』が加担してない限りはあのようなことは起こらないはず…と?」
細い眼を少し開け鋭い眼差しでニヤは彼を見つめ…
「にゃははっばっちり花丸ご名答~♬」
その表情を崩しなんともあっさり認めるのであった。
「…隠さないんだね。もうちょっと誤魔化す物かと…。」
「まぁ隠す必要もありませんからねぇ。そもそもが…私はただ『シャーレ』の力をこの目で見たかっただけです。…忍術研究部…でしたっけ?」
と再びニヤは煙に巻くような態度を取り始め…
「まぁ傍目から見てる分には面白そうな子達ではありましたが…かなりのイレギュラーがありながらそんな彼女たちを連れて本当にお姫様を救い出せるなんて…。しかも、たった数時間の間で彼女たちを大きく成長させてしまった…。」
『和楽姫』中に見せたミチルたちの活躍と成長を述べ、
「かなり厳しい筈だと踏んでいましたがあの手腕…噂通り、あの戦争で陰でアビドスを支えた人物といったところでしょうか?」
先生を値踏みするような視線を向けた後…
「流石はシャーレの先生、感激しましたわぁ。」
彼への正当な評価を告げる。
「………そっか。」
「もしかしてご気分を害してしまいましたか?全ての犯人が判明して嫌な気持ちですかぁ?それとも…これだけの人を…いいえ、キヴォトスその物を振り回しておいて…面白おかしく笑っている場合か…みたいな?」
なんとも反応の薄い反応の先生をからかうようにウロチョロしながらにやけ面で語るニヤ。
だったが…
「あぁ、全くもって最悪な気分だよ。」
「ッ!!?」
その声が周囲に響いた瞬間、顔から一気に血の気が引いた。
先ほどまでの余裕綽々な態度はどこへやら。
ニヤがまるでさび付いたおもちゃのようなぎこちない動きで声の発生源へと視線を向けると…
「こんなチップの代わりにカップが投げ込まれるようなパペットショーに俺達も巻き込まれるとは…な。」
「ね…ネイト…社長…!?」
まるで影がそのまま人の形になったかのように…忍び装束姿の人物がそこにいた。
さらに…
「…ちなみにね、ニヤ。一つ言っておかなきゃいけないことがあるんだ。」
「な、なんでしょか~…?!」
「今回の件…頭からネイトさんにばれかけてたよ。」
「………え?」
先生のカミングアウトでいよいよ取り繕うことが出来なくなるくらい動揺するニヤ。
数時間前、魑魅一座・気まぐれ流が劇場を襲撃したころのこと…
バズンッ!!!
『ッ!!?』
『ニヤニヤ教授』、その名を聞いた途端ネイトは豹変しスナイパーライフルを発砲。
50口径弾を至近距離、いかにキヴォトス人でも無事では済まないが…
「ひっひいいい!!?」
弾痕は彼女の顔のすぐ脇の床に刻まれていた。
「おい、真面目に答えろ。」
「う、嘘じゃない!!!表社会のアンタにゅあ知らないだろうが本当に『ニヤニヤ教授』っていう裏社会の大物が…!」
黒幕の名前、確かに初めて聞くならば『ふざけているのか』と思われても仕方ないだろう。
だが、事実そう言う名前で通っているため彼女にはどうしようもない。
その胸をネイトに告げると…
「アイツだったら…こんな手抜かりだらけの計画実行する訳ないだろう…?!」
「え…!?」
まさかの回答に呆けたような声をあげてしまう。
「…もういい、寝てろ。」
ベキィッ!
「ふギャッ!?」
これ以上有力な情報は得られないとネイトはストックで魑魅一座の指揮官を殴りつけ気絶させるのであった。
数分後、
「この事件…奴が言った『ニヤニヤ教授』を騙る奴…それも身内の犯行だろうな。」
「え…!?」
「身内…百鬼夜行の関係者ですか…!?」
ネイトは先生とイロハにだけ自分の推理を打ち明けた。
「何故…そう思うのですか、ネイトさん?」
「先生。俺は以前…『ニヤニヤ教授』本人にあったことがある。」
「まさか本当にそんなふざけた名前の人物が…!?」
ネイトの言葉に信じられないといった反応を見せるイロハ。
しかし、ネイトがこの場で冗談を言う性格でも…アリスを攫われてそんな余裕がない事も二人は理解している。
「…それでなぜその裏社会のフィクサーではないと?」
「『誘拐』ってのは犯罪の中じゃ一番面倒なもの、だというのは分かるか?」
『誘拐』、要は連れ去りや拉致だが最も面倒な犯罪としてあげられる場合が多い。
人を攫うためにも計画を立て最適なタイミングを見極めなくてはならない。
攫うだけならまだしもその後は何かしらの要求もしなければならない。
その成果物の受け取りのためにも姿を現さなくてはならない。
実行のための手間、捕まるリスク、それで得られる利益…相当綿密にやらなければすぐにぼろが出て捕まってしまう。
「そんな犯罪をしようというのに…『先生』の存在を無視するのは不自然極まりない。」
「え?私…ですか?」
突如上げられ少し驚く先生だが…
「…確かに超法規的組織の『シャーレ』の先生がこの場にいてはすぐに動かれてしまいますね。」
これにはイロハが納得する。
シャーレは連邦生徒会長の認可を得たキヴォトスのありとあらゆる場所に入れ独断で現地の生徒を登用できる権限を持っている。
要は何でもありの『ジョーカー』だ。
聞いたところによると先生は一週間前から百鬼夜行学区内に滞在しているとのこと。
「奴は俺がテレビで公表する前からアリスの存在を知っていたほどだ。そんな特大の変数を見逃すはずがない。普通だったら計画を破棄してもいいような事態なのに…だ。」
「で、でも今日はゲヘナとの交流会。私というリスクを加味しても実行するメリットが…。」
そんなネイトの推理に意見を述べる先生。
確かに今日はゲヘナとの交流会が行われており、そこで『和楽姫』の公演を失敗させることは大きな意味を持つはず。
だが、
「実行するにしても…こんな地元校の木っ端連中ばかり差し向けるわけがない。」
そこもネイトが不審に思うところだ。
「これでも足りない…と?」
「奴の手駒には『七囚人』がいる。先生と相手取るなら…そのうちの誰か一人くらいは差し向けるのが至極当然の思考だろう。」
「し、七囚人が手駒…!?」
「とんでもない人物ですね…!」
そんな重要な計画なのにここにいるのは百鬼夜行の不良集団のみ。
七囚人や…少なくとも信頼できる手駒をどこかに仕込むのが当たり前だろう。
それが無いと言うことは…
「こいつらは端っから騙されて…いや…。」
「私達に倒させることが目的の当て馬…と言うことですか…?!」
体よく使い捨てにでき捕縛できれば百鬼夜行の不穏分子排除にもつながる。
「魑魅一座の排除に加え先生はキヴォトスの混乱を防ぐために動くはず…。それで結局は『和楽姫』の公演も一応続行できる…。」
「上手く行けば『交流会』も成功。…それで一番得をするのは誰だ、先生?」
イロハの考えとネイトの問いかけを統合し…
「………百鬼夜行の生徒会相当の組織『陰陽部』…それもその上層部、かと。」
先生もネイトと同じ結論に達するのであった。
「あとは先生の権限で警備状況を調べ上げそれを知り得ている人物をピックアップし、消去法を行うだけだ。」
「カホの線もあったけど…彼女は一応体裁は保てている公演の中止を求めてきた。『得』よりも事態終息をとった時点で主犯の候補から外れる。」
「残るはあんただけだったが…黒幕気取ってあっさり白状してくれて助かったよ…!」
場面は戻り三人の密談現場。
「………。」
ダラダラダラ…
まさか最初から候補を絞られ最後の一押しを自分で押してしまったことに汗が止まらないニヤ。
「まさか…俺が直々に『殺す』と宣言した奴の名をここで聞くとは思わなかったぞ。」
ネイトという存在だけでも先生級の変数なのにニヤニヤ教授に会っていたという初耳の情報。
しかも、すでにネイトの逆鱗に触れているという超特大の厄種を抱えていると来た。
裏社会の有名どころの名を使えば魑魅一座も容易に食いつく、そう思って使ったのがそもそもの間違いだったのだ。
「…で、どう償いするんだ?」
「つ、償いですかぁ…!?」
「今の自白…きっちり抑えさせてもらっている。」
《にゃははっばっちり花丸ご名答~♬》
そう言い、ネイトは胸元からボイスレコーダーを取り出しさき程のニヤの自白を再生する。
「さて…陰陽部の部長がゲヘナの要人の誘拐を教唆をした。これはクロノスどころかどんなとこでも飛びつく特ダネだな?」
「そっそれは…!?」
「はたまた…マコトやミレニアムセミナーに届けるか?さぞ面白い二次会が見れるぞ?」
正にこの音声は爆弾、それも百鬼夜行を根底から破壊できるほどの威力を持った爆弾だ。
もし、この音声が公に出れば…
「それだけは…!それだけはどうか…!」
流石のニヤも事態の重大さに先ほどまでのにやけ面も引っ込み何とかネイトを思いとどめようとする。
確かにシャーレの力を見ることと魑魅一座の排除は彼女の計画内だ。
しかし…そこにネイトとアリスが加わりまさか巻き込まれるなどとは夢にも思わなかった。
「言い訳はしません…!この計画はすべて私が一人で計画したもの…!他の子達は何も関係ないのです…!」
「………。」
「罰するのであればどうかこの『天地ニヤ』を…!貴方様が望むのならばこの身も差し出し…!」
いかに策略家なニヤと言えど…彼女の百鬼夜行への愛は本物だ。
自分一人の犠牲で他全てが守れるのなら…喜んで身を差し出す、その覚悟はできている。
が、
「…5発だ。」
「え…!?」
「アリスを攫った分。イブキを攫った分。忍術研究部を利用した分。先生を利用した分。百鬼夜行中を振り回した分。その分で5発…お前を撃たせろ。そうすればこのデータはここで破壊する。」
ネイトの要求は何ともシンプルなものだ。
普通の人間ならばたまったものではないがニヤはキヴォトス人。
「…承知しました。それであなた様の気が晴れるのであれば…どうぞ。」
そう言って両手を広げネイトの要求を受け入れたニヤ。
なんとも殊勝な態度だが…
(たった5発?なんやもっとえげつないもん差し出せ言われるか思たけど…やっぱり先生がおる手前下手なこと言えんのやろうなぁ。)
内心、超ラッキーと思いネイトを小馬鹿にしていた。
力こそ全てのキヴォトスでそれでも学校の頂点に立っているのだ。
ニヤもある程度身体の頑丈さには自信がある。
(話じゃ30口径のライフルも使ってはるらしい。ちょ~ッち痛いけど何の事ありゃしませ…。)
と余裕綽々で構えているが…
「言ったな?」
そう言ってネイトがとりだした銃を見て…
「………へ?」
唖然とした声を上げるしかない。
取り出したのは何とも豪華な装飾が施された超大型のリボルバー。
「早速出番だぞ、『プファイファー・ツェリスカ』…!」
「ぞ、象撃ちの銃やないですかあああああ!!?」
マコトが今日快気祝いにくれた怪物『プファイファー・ツェリスカ』だった。
「やっぱ重いな…!」
けた外れの重量ながらもネイトは両手でしっかりとその怪物をニヤにむけ構える。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?あんた、か弱い乙女にそんなけったいなモン撃ち込むつもりかいな!!?」
「お前がいいって言ったんだろ…!たった5発だ、我慢しろ…!」
「んなもんやったらもっと考えますわ!!!かんにんえ!!!先生、なんとかしてぇな!!!」
これにはたまらず先生に助けを求めるニヤだったが…
「ニヤ…5発だよ、我慢してね…。」
「ちょっとおおお!!?」
まさかの『受けろ』と同義の言葉が返ってきた。
「そうそう、天地ニヤ。お前にいい言葉を教えてやる。『Don't count your chickens before they are hatched.』こっちじゃ…『捕らぬ狸の皮算用』だったか?…今からお前の化けの皮を剥いでやる…!」
「ちょ待っ…!?」
次の瞬間、
ドゴオオオオオオンッッッ!!!
雷鳴の如き銃声が轟いた。
その後、
オオオン…オオオン…オオオン…オオオン…
「ねぇ~カホー。花火みたいの音するのにどこにも上がってないね~。」
「きっと誰かがバクチクでも鳴らしてるんですよ、チセちゃん(ニヤ様…ちゃんとお手当はしますので…)。」
映画村全体に数度にわたって打ち上げ花火のような音が響き渡るのであった。
心せよ。亡霊を装いて戯れなば、亡霊となるべし
―――寺山修司『ポケットに明言を』より