―――実業家『本田宗一郎』
ニヤの策謀が渦巻きそれを全部ネイトと先生に看破されてたゲヘナとの交流会の翌日…
「ニヤ様、こちら昨日の交流会で発生した諸々の損害の計上です。精査をお願いします。」
百鬼夜行の生徒会『陰陽部』ではいつものようにカホが学区内の行政に関する業務に追われていた。
映画村の中を虎丸が疾走したのだ。
多数の施設が半壊し現在、映画村は休業状態、
損害額は軽く8桁に上る。
その他、連合内部での様々な業務が積み重なっている。
が、それを処理するニヤはというと…
「カホ…。」
「…なんでしょう、ニヤ様?」
「前が…前が見えへんねん…。」
いつも周りを煙に巻くような余裕たっぷりな表情はどこへやら。
頭部にはにはたん瘤をこさえ左目には青痣、右目の上と両頬も赤く腫れあがりそれはもう痛ましい姿となっていた。
正直女子高生の身空にとっては非常につらい状態だろうが…
「少しは反省してください。それで『チャラ』にしてくださっただけどれだけよかったか…。」
「うぅ~カホのいけずぅ~…。」
カホは仏頂面で素っ気なくそう返す。
あの後、宣言通りに『プファイファー・ツェリスカ』の『.600 N.E.セーフティスラッグ弾』を5発ネイトに叩きこまれたニヤ。
ただでさえ象を仕留めるための弾丸、しかもストッピングパワーを極限まで高めたセーフティスラッグ弾。
いかにキヴォトス人の頑丈すぎる肉体をもってしても大怪我は必至だ。
しかし、カホの言うようにこれでもまだだいぶネイトは温情を掛けているのだ。
「…いいですか、ニヤ様?もし、魑魅一座がアリスさんやイブキさんを傷付けていたらどうなっていたと思いますか?」
「そっそれは…。」
「もし、あんな迂闊にもほどがあるあなたのネタ晴らしをマコト議長やミレニアムの方に届けられたらどうなっていたと思いますか?」
「うぅ~…。」
ネイトがこのケジメで矛を収めたのは偏にアリスとイブキが無事で攫われたことすら知る事なくネイトの元に帰ってこれたからだ。
もし、さかむけ一つでも元通り二人が帰ってこなかったら…魑魅一座は今頃牢屋に入ってはいなかっただろう。
そして、そんな状況でニヤが主犯だと知られればどうなるか?
おそらく…百鬼夜行はよくて半壊、最悪の場合は更地になっていたかもしれない。
「昨日は彼を引き留めるために動きましたが…私もチセちゃんが同じ目にあったらどうするかは分かりません。彼以上に取り乱し…彼以上に魑魅一座を痛めつけていたやも知れません。」
「そ、それは…。」
愛する者が攫われる、関係は違えど考えるだけで身を引き裂かれる思いだとカホも容易に想像ができる。
普段の彼女の様子を知るニヤは今のカホの発言の信憑性は高いと手に取るように分かった。
「それを陰で糸を引いている人物がいたとするなら…今の貴方以上の目に合わせていたでしょう、ニヤ様。」
「………。」
「ネイト様がアリスさんとイブキさんを救い出した時の光景を覚えてらっしゃいますか?あれを見れば…どれほど寛大な対処か分からない貴方ではないはずですよ。」
ネイトの情報は断片的ながらも彼女たちも把握している。
キヴォトス人でないにもかかわらず人の身でキヴォトス人でも並外れた強者を相手に打ち勝つだけの強さを持ち今まで見たどんな大人よりも深い愛情を持つ。
それらが爆発すればどうなるか…。
「たった一人でそれだけの戦力を持つ彼がそこで留まれた。それがどれほど幸運なことか…。」
「…ごめんなさい、カホ。」
意図したものではないとはいえそれだけの脅威を呼び込みかけた。
…いや、ネイトがおらずとも自分が行ったことは一歩間違えばイブキを攫った時点で下手をすればゲヘナと開戦していたやも知らない。
百鬼夜行を任せられる身としては…あまりにも軽率な行いだったと身に染みて感じている。
「…もう済んだことです。今は目の前の仕事を片付けましょう、ニヤ様。」
いつになく素直な彼女の謝罪を聞きカホは視線を書類に戻し…
「それから…これはとある『父兄様』からの贈り物です。」
「え…?」
ニヤの元に一本の注射器を差し出した。
「貴方が心から反省し謝罪をした際に渡すよう言伝られていました。貴方の顔の怪我をすぐに癒せる『スティムパック』という薬剤とのことです。」
「これを…ネイトさんが…私に…?」
その注射器、スティムパックを手に取り信じられない様な目で見つめるニヤ。
「それからもう一つ。『次こそはちゃんとした和楽姫の公演を見せてくれ』…と。」
そして、厳しくも温かいネイトからの激励を受け、
「………にゃはは、プレッシャーを掛けてくれますね…。」
ボロボロの顔でいつものような笑顔を浮かべ…
「ほんならキヴォトス1の観光名所として『英雄』をお迎えせなあかんねぇ。」
百鬼夜行を纏める『陰陽部』の部長としてネイトの再来訪にむけ気合を入れるのであった。
「さぁ、早く医務室にでも行ってそれを打ってきてください。業務がたまる一方ですから。」
「はいな。ほいじゃチャチャっと治してきますねぇ。」
そう言ってニヤはスティムパックの注射器をもって医務室へ向かうのであった。
使用方法と効果についてはネイトが説明していたのですぐに戻ってくるとカホは思っていた。
…が、カホは忘れていた。
「ニヤ様ああああああ!!?どちらへえええええ!!?」
自分達の頭目が物凄いサボり癖があると言うことを。
「にゃははっ次に相まみえる日を楽しみにしてますねぇ、ネイトさ~ん♬」
すっかり元の綺麗な顔になりニヤは元気に街へスキップで出かけていくのであった。
一方その頃、アリスをミレニアムへ送り届けたネイトはアビドスに帰還後…
「はいよ、柴関ラーメンお待ちぃ!チャーシューオマケしといたよ!」
「来た来た、これが食いたかったんだ…!」
ネイトにとってキヴォトスでの故郷の味である柴関ラーメンを訪れていた。
ズズ~
柴大将からラーメンを受け取って一口すすり、
「…あぁ~この味だ。やっとアビドスに帰ってこれたって気がする。」
久方ぶりのその味をかみしめる。
確かに別飛須高原や百鬼夜行での食事も美味かった。
だが、やはりこのような脂っこい食事が恋しくなるのも人情だ。
「はっはっはっ!お帰り、ネイトさん!帰郷後一番にウチに来てくれてうれしいよ!」
「マスター、オ帰リナサイマセ。」
「改めてただいま、大将にジロウ。」
ズズ~
柴大将とジロウの出迎えの言葉を受けつつラーメンをすする。
その時、
Prrr…Prrr…
「ん?」
スマホに着信が入る。
「はい、もしもし?」
特に確認もせずラーメンをすすりながら通話に出ると…
「…ほぉ、それは何とも…。」
まるで面白いものを見たかのような笑みを浮かべた。
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―――
しばらくし、シャーレ執務室にて…
「さぁて今日の仕事は…。」
この日も大量の書類を前に気合を入れていると…
「しぇんしぇい殿~!」
「ん?」
ここ最近で聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
何事かとそちらに目を向けると…
「しぇんしぇい殿しぇんしぇい殿しぇんしぇい殿~!!!」
ドドドドドッ!!!
忍術研究部部長、千鳥ミチルがこちらに向け突進。
「ちょおッ!?」
先生が声を上げるも、
ドゴォッ!
「ぐはぁッ!?」
ミチルは急には止まれずに彼の腹部に突っ込んだ。
「い…いらっしゃい、ミチル…!」
「こんにちは、先生殿!」
「き、今日はどうしたんだい…?」
痛む腹部を抑えつつ来訪目的を尋ねる先生だったが…
「凄いよ、先生殿!!!これはもう快挙だよ!こんなに凄いの私史上初だよ!!!」
「凄い?快挙?」
少し身を話したミチルは大興奮で言いたい言葉に口が追い付いていないのかいまいち要領を得ない。
すると、ミチルの後を追って…
「主殿、お邪魔いたします!」
「わわわッ、大丈夫ですか、先生…!?」
イズナとツクヨも執務室にやってきた。
「いらっしゃい、イズナにツクヨ。私は大丈夫だよ。…それでミチル、一体何があったんだい?」
少々痛む腹部を擦りながら先生はミチルに来訪理由を尋ねる。
「そうそう、先生殿!見て、これ見てぇ~!」
なおも興奮気味なミチルが先生に自分のスマホを差しだす。
「えぇっとどれどれ…。」
それを受け取り画面を見てみると…
「………えぇッ!?『少女忍法帖ミチルっち』の登録者数が!?」
「そうっ!100人どころかを1000人を超えてもうすぐ10,000人に届きそうなんだよ~!」
「イズナ達はやりましたよ、主殿!忍術研究部始まって以来の快挙です!」
「こ、こんなの夢、みたいです…!私たちの活動が、こんなに大勢の人に…!」
ミチルが運営している動画チャンネル『少女忍法帖ミチルっち』がバズり目標の100人登録を超え大台に乗る寸前まで登録者数が増えているのだ。
「凄いじゃないか、ミチル!いったいどうしたんだい!?」
「ふっふっふっこれを見てよ!」
そう言い、ミチルが指し示したのは『少女忍法帖ミチルっち』の最新の動画。
タイトルは…
「へぇ~コラボかぁ。一体誰と?」
「気になるぅ!?気になるよね!?それではとくとご覧あれぇ!!!」
少し勿体ぶってミチルは動画の再生ボタンを押した。
《『少女忍法帖ミチルっち』にようこそ!どうも、千鳥ミチルだよ!》
《久田イズナです、ニンニン!》
《お、大野ツクヨです…。こんにちは…。》
動画が始まると小さな和室で三人が座り視聴者に挨拶をし、
《ところで皆、『大凧の術』って知ってる!?漫画とかでよく見る忍者が大っきな凧に乗って空を飛ぶってやつ!》
ミチルがスケッチブックに簡単なイラストを画面いっぱいで見せ今回の動画のコンセプトを紹介する。
《凄いでしょう?!漫画の中とは言えヘリコプターもない時代にこうやって空を飛ぼうなんて考えるなんて!》
《話は変わりますが先日イズナ達も変わった方法で空を飛ぶ方を見たことがあります!》
《多分、百鬼夜行の生徒なら、目撃された方も、いらっしゃるんじゃないかな、と思います。》
イラストをドアップにしたままミチルたちはこの『大凧の術』について軽く説明やコメントをし…
《さて、いつもなら自分たちなりに忍術を再現するんだけど今回はかなり大規模になるんだよねぇ。》
普段の『少女忍法帖ミチルっち』の活動ではこの忍術の再現難易度の高さを述べる。
だが…
《そこでぇ!》
とミチルが勢いよくスケッチブックをどかすと…場所が一変していた。
小さな和室のような場所だったというのに一瞬のうちに広大な砂漠に一変。
《『少女忍法帖ミチルっち』史上初、スポンサーがついてくれたよー!》
《やんややんや!さらに初の出張動画収録でアビドスにやって来ました~!》
《ほ、本当にこんな時が来るなんて、夢見たいです…!》
キヴォトスで砂漠と言えばここ、アビドスで大規模な忍法の再現を援助してくれる企業が現れたと拍手をしながら発表。
そして、
《そしてぇ、今回私達の挑戦をバックアップしてくれる方はぁ…こちらッ!》
ミチルが手を広げた方向にカメラが向くと…そこには無人の砂漠が広がっていた。
《…あれぇ!?》
そんなミチルの驚きの声が響き再びカメラが元の画角に戻り、
《えぇッさっきまでそこにいたのに!?》
《棟梁殿~!?どちらへ行かれたんですか~!?》
《で、出番ですよ~…!出てきてくださ~い…!》
驚くミチルたちが写る中…
《そうだそうだ!出番だぞ、棟梁殿~!》
三人の背後にいた黒い忍び装束の大人がいつの間にやらいて驚き跳び上がるが、
《…なぁんてね!さぁ、紹介しよう!今回、私たちのチャンネルに支援してくれたアビドスの企業の社長さまぁ~!》
《こ、今回の提案をして、二つ返事で了承してくれて、ありがとうございます…!》
《私たちの尊敬する棟梁殿にしてキヴォトス各地で武勇伝を連ねる伝説の忍者!》
《どうも、W.G.T.C.代表取締役社長のネイトだ。》
地面に着地し膝をついて手をひらひらさせ彼、ネイトを紹介するのであった。
「えッ!?ネイトさんがスポンサーに!?」
動画に登場したネイトの姿に驚く先生。
目立つことがあまりないネイトがこのような場に出てくることは非常に珍しいが…
「そうなの!!!今回の動画のこと話したら企画書を提出を作って出したら資材提供と協力者を募って撮影に協力してくれたの!!!」
「W.G.T.C.の宣伝をしてくれるのならと滞在費も支援していただきました!」
「それにアビドスの方々も、『面白そう』と多くの方が、支援に名乗り出てくれたんです…!」
なんとそんな普段の彼とは思えないほど自社の宣伝も兼ねてミチルたちを全面的にバックアップし動画にも登場してくれたというではないか。
「だけど…随分思い切った事やるようになったなぁ、師匠…。」
彼らしくない行動と言えばそうだが…
「『俺の目標の第一歩はど派手にいかなきゃな』って言ってたんだぁ!」
「!…そっか。」
ミチルの一言ですべて納得した。
『たとえ失敗しようと夢に挑戦できる場所を作る』、ネイトがようやく見つけたキヴォトスでの『夢』だ。
その第一弾としてミチルたちの動画への協力に応じたのだ。
「あっそろそろだよ!」
とミチルの声で画面に目線を戻すと…
《忍術研究部、あれを見てみろ!!!》
ネイトがある方向を指さすとその先を見るや否や…
ミチルたちは目を見開き声を挙げた。
そこにあったのは…
《ボクシングリングと同じ広さの凧と凧を引っ張るためにウチの戦車を用意したぞ!》
砂漠に組まれた足場に設置された特大の凧とアビドスが誇るキヴォトス最強と称される戦車『M1A4E2 Thumper』が甲高いエンジンの唸りを挙げ待機していた。
《あんなおっきいの!?それに戦車で引っ張るの!?》
《安心しろ!ミレニアムエンジニア部と協力し三人一遍に乗っても飛べる大きさを算出し強度もばっちりに組み上げた!回収にはカーゴボットを使うから安全だぞ!》
《おぉ~!まさに大凧の術に相応しい姿ですね!》
《それにあんなに大きく、『忍』って書いてくれて、光栄です…!》
まさかの想定以上の規模に驚愕するミチルたちに自信満々に語るネイト。
《さぁ、一番手は…ミチル!行ってみるか!?》
早速実践と言わんばかりにミチルを指さし大凧の搭乗者に指名する。
《えッえぇ~!?そ、そんないきなりはちょっと…?!?》
が、いきなりの実践に少し尻込みするミチル。
それを見ると…
《はい!じゃあイズナがやってみたいです!》
《えぇイズナ!?》
イズナが元気に名乗りを上げ、
《あ、あの私も、飛んでみたいです…!》
《ツクヨも!?》
ツクヨもおずおずとではあるが手を上げ立候補し、
《よし、じゃあ制作者の一人として俺もやってみるか!》
《棟梁殿まで!?》
何とネイトも飛んでみようと志願した。
《いや、イズナが!》
《わ、私が…!》
《ここは俺が!》
三人それぞれ譲らず名乗りを上げていると…
《じ、じゃあ私がぁッ!!!》
ミチルは手を挙げると…
《ちょっとぉッ!!?》
あっさりとネイト達はミチルに順番を譲り…
ゴォオオオオオオオッ!!!
《あぁあああぁぁぁとッ飛んでるううう!!?私ホントに飛んでるううう!!?》
ミチルが固定された大凧はM1A4E2 Thumperが砂漠を猛スピードで引っ張られ空高く飛翔するのであった。
「アッハッハッハッ!これはすごいね、本当に忍者みたいだ!」
これには先生も目に涙を浮かべるほど大笑いする。
「そうそう!ホントに漫画の中の忍者みたいで怖かったけど最高だったよ!」
「イズナ達もこの後に飛びました!風がとっても気持ちよかったです!」
「身体が大きな、、私も飛べるなんて、夢みたいでした…!」
動画を進めるとイズナ達も飛び、最後は三人一緒に飛び上がった。
「それにネイト殿も宣伝してくれたおかげでこの動画がバズってね!もう本当に夢みたいだよ!」
「お祭り運営委員会もこの動画の凧に興味を示して詳しく話を聞かせてと言ってくれました!」
「ネイトさんや先生のおかげで、私たちの活動が、より広められることが、できました…!」
満面の笑みで動画の反響と感謝を伝えるミチルたちを見て…
「よかったね、皆。私も、それにネイトさんもきっと自分のことのようにうれしいよ。」
先生も微笑みながら彼女たちの躍進を祝福するのであった。
願望は寝ても覚めても忘れるな。泥棒でも、敵をやっつけるのも、美女を手に入れるのも、そう願う心をどんなに状況が変化しようが、一時も忘れずに心がけていれば、かならず成し遂げられる。
―――天文学者『伊能忠敬』