Fallout archive   作:Rockjaw

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世界は誰かの仕事でできている
―――缶コーヒー『GEORGIA』のキャッチコピー




GWやっと終わった…


New Ways of Working

アビドスに帰還しW.G.T.C.の社長としても活動を再開したネイト。

 

アビドス砂漠の整備に防砂林の植樹計画、ゲヘナが行っている灌漑事業に対ビナー用防衛システム『O,B,E,R,I,S,C,U』構築など多忙な日々を送っている。

 

そんな以前にもまして精力的に活動しているネイトだったが…

 

「………アヤネ、このデータは本当か?」

 

復興施策委員会の部室であるデータが記載された資料を少し目を見開きながら見つめた後アヤネに真偽を尋ねた。

 

「私も信じられませんでした…!でも、そう思って3回アイボットを派遣して探査したんです…!」

 

「いやぁ…まさかこんなものが見つかるなんてねぇ…。」

 

アヤネとホシノも信じられない様な表情でそれに答える。

 

ネイトが見ているもの…それは療養開始前に行っていたレッドウィンターから賠償金代わりに承認させた未開の地『凍辺原』の探査結果だ。

 

この場所に留守を任されたアヤネたちは多数のアイボットを派遣し資源探査を行わせたが…

 

「ん…すごいね…!石炭に石油に天然ガスの反応がものすごく大きい…!」

 

アビドスが喉から手が出るほど欲しい化石燃料、

 

「他には鉄鉱山に銅鉱山、アルミの大規模鉱床…!」

 

復興には欠かせない鉱物資源、

 

「金やプラチナにニッケルやパラジウムのレアメタルまで…!」

 

最新技術には欠かせない希少資源、

 

「他にもダイアモンドの鉱山に他にも有名な宝石が産出される鉱山も発見されたわ…!」

 

果てには煌びやかな様々な宝石鉱山までアイボットは探知したのだ。

 

そう、ネイトがレッドウィンターから賠償として手に入れた凍辺原地方…

 

「うへぇ~…レッドウィンターってこれに全く気付かなかったってこと…?!」

 

「事務局がある中心地からさらに奥まった場所だ。気候や地理的要因で手が出せなかったんだろう。」

 

全く手が入っていないこの地帯が埋蔵資源の宝庫だったのだ。

 

それもアビドスだけで使い切るには数十年単位どころか数世代では足りないほどの埋蔵量だと推測されている。

 

ネイトもこれにはさぞ大喜び…

 

「はぁ~…嬉しさ2割面倒くささ8割ってとこか…?」

 

ではなく手で口を覆い何やら物憂げな表情を浮かべていた。

 

「どうして?これでアビドスはもっと豊かになるんじゃないの?」

 

とセリカが首を傾げながら尋ねる。

 

今でこそキヴォトスの中でも相当な戦力を保有するアビドス。

 

だが、弱点が無いわけではない。

 

その最たるものが戦略資源を輸入に頼っていると言うことだ。

 

アビドス独立戦争の折も事前にセイント・ネフティス社を通じ燃料をかき集めてなんとか間に合わせていたことからもそのことは伺えるだろう。

 

この凍辺原で見つかった油田を用いればその問題も一挙に解決できる。

 

他の鉱山もアビドスの復興事業に役立つはずだが…

 

「あのな、セリカ…。廃墟区画でビルを解体して資源にするのとはわけが違うんだぞ…?」

 

そうはいかない現実がこの埋蔵資源の前に横たわっているのだ。

 

「え、そうなの?」

 

「鉱石なら精錬、石油なら精製、宝石ともなれば選別やら研磨とか面倒な工程が挟まるものだ。」

 

「埋蔵資源はそのままじゃ使えませんもんねぇ…。」

 

これらの資源は掘って終わりではなくそのっまでは単なる石ころや泥水と大して変わらない。

 

それを『宝』に変えるためにとんでもない手間がかかる。

 

「ん…それに場所がほとんど何もない場所だね。」

 

「これじゃあ採掘のための施設どころか運び出すのも大変ですね…。」

 

さらに凍辺原地方そのものが障害として立ちはだかる。

 

レッドウィンターもキヴォトスではそこそこな勢力を誇る学校だ。

 

そんな学校が現在この一帯に一切手を付けられていない理由は推して知るべきだろう。

 

「近郊には主要な町もない上…ハイランダーの路線も僅かにしか通っていない。」

 

「これじゃあただ土掘りに行くのと大して変わらないねぇ~…。」

 

「でも、W.G.T.C.はカイザーからとんでもない大金を貰ったじゃない。それでどうにかならない?」

 

確かにW.G.T.C.の資金力はかなりの物だ。

 

あれからさらに事業を拡大し収益も上がっているので独立戦争終戦後よりもさらに資金は潤沢だが…

 

「まるで足らないな。ここを本格的に開発しようとするとそれこそ国家プロジェクト級に金がかかる。桁が二つほど足らない。」

 

「ん…キヴォトス中の銀行襲わなきゃ用意できないね…。」

 

これだけの規模となると焼け石に水も同然だ。

 

さらに問題なのが…

 

「それに労働力もアビドスには限りがありますもんね…。」

 

「まぁいくらかはネイトさんのクラフト能力があれば多少楽にはなるだろうけど…。」

 

「俺が過労死する未来しか見えないからそれは却下だ、ホシノ。」

 

単純なアビドスのマンパワー不足だ。

 

回復傾向にあるとはいえいまだにアビドスの人口はキヴォトスの中で見れば下から数えた方が早い程度にしかいない。

 

ロボットに任せるにしても今度はその整備や運搬にかかる労働力が必須なので結局マンパワー不足が足を引っ張る。

 

復興事業をやっている中で資源開発まで行う余裕がそもそもないのだ。

 

「ではどうしてこんな場所の採掘権を?」

 

アヤネの言うように疑問なのはネイトがなぜ採掘権を賠償変わりに要求したかだ。

 

彼のことだからこの結果は見越していたとこの場の全員は思っていたが…

 

「何かあればいいな、くらいには思っていたさ。最低でも復興に使える『土』が大量に手が入るからそれでもいいや…と思っていたが…。」

 

「ちょッホントに土掘るつもりだったの、ネイトさん!?」

 

「だから言ったろ、セリカ。『嬉しさ2割面倒くささ8割』ってな。」

 

本当はもっとこじんまりした物を狙っていたというのが本音だ。

 

何かあったとしてもその片手間で自分がPip-Boyの機能を使って済む範囲以内であれば万々歳だったが…これはあまりにもありすぎる。

 

「…じゃあどうするのよ?見なかったことにするの?」

 

確かにセリカの言葉もひとつの案だ。

 

今のところこの情報を知るのはアビドスだけ。

 

沈黙を貫き見て見ぬふりを決め込むのも可能だが…

 

「考えてみろ。俺達が黙ったままでいてこのことが明るみに出ればそれこそ前世であった米中戦争の焼き直しだ。」

 

「うへ~…もうおじさんしばらく戦うのは勘弁だよぉ~…。」

 

これほどの資源を前にして有力各校が平静を保っていられるわけがない。

 

確実に『凍辺原』を舞台に様々な勢力が入り乱れた大戦争が始まる。

 

そして、レッドウィンターも黙ってはいないだろうことは確実だ。

 

「…確かにこれは相当面倒ね。」

 

「理解してもらえて助かるよ。さて…。」

 

いかに面倒な事態でもいつまでも悩んでいるわけにもいかない。

 

「アヤネ、現地の地形データも参照してより詳細なマッピングを頼む。」

 

「分かりました。」

 

「セリカは各校の資源ごとの需要と供給状況の確認を。」

 

「オッケー。」

 

「シロコはもう一度アイボットを派遣して埋蔵量の詳しい調査だ。」

 

「ん…すぐにやるね。」

 

「ノノミ、十六夜社長に面談のアポを。内容は今は伏せてくれ。」

 

「お任せを♬」

 

「ホシノは…情報がまとまってから出番だ。」

 

「よぉしおじさん張り切っちゃうぞ~。」

 

「それから…言わずもがなこの情報はトップシークレットだ。情報の秘匿は十分気を付けてくれ。」

 

『了解。』

 

ホシノ達それぞれに役割を分担、今後のための布石を打つネイト。

 

確かにこの埋蔵資源は劇物も同然だ。

 

それこそキヴォトス全土を犯すほど強烈なもの。

 

だが…劇物も上手く加工すれば特効薬に変えることもできる。

 

その動きは…

 

「これはこれは…驚いたねぇ…。」

 

「あの田舎の学校にこんなものが…!?」

 

「いやぁ~…俺もみたときは度肝を抜かれたよ。」

 

既にこの晩から店長も交えて動き出した。

 

相変わらずの行動の速さなのだが…

 

「…あのぉダンナがた?」

 

「どうした、大将?」

 

「それ…俺が聞いてもいい話なのかい?」

 

場所は閉店後の柴関ラーメンの屋台で恒例の飲み会の最中でである。

 

「大将口硬いしいいかなって。」

 

「そりゃそうだけどよぉ…。」

 

「だいじょ~ぶ、大将。もしもの時はここの三人がしっかり守るからさぁ。」

 

「下手に格式ばった店でやるよりこういうとこでやった方が漏れも少ないというものさ。」

 

未だにアビドスの夜は非常に静かなものでこの近隣もこの屋台以外は明りが灯っていない。

 

さらに暖簾で仕切られた空間なので外からの覗き見も基本不可能。

 

「周囲はアビドスの面々で『除菌済み』だ。…というより、こんなとこでこんな内緒話してるだなんて誰も想像つかんだろう。」

 

「…分かったよ、ネイトさん。今日の話は聞かなかったことにしとく。」

 

「助かるよ。…ひょっとしたら柴関ラーメンレッドウィンター支店とかができるかもな。」

 

「…それは結構楽しみな話だね。」

 

「それでそれで?セイント・ネフティス社にも話して一体どんなプロジェクト考えてるの、ネイトさん?」

 

「私も連れてきたと言うことは…カイザーの経験も役に立つと言うことか?」

 

「細かい所はまた今度詰めるとして…。」

 

こうしてなんとも場違いなキヴォトスの行く末を左右する一大プロジェクトの話は進んでいく。

 

すると…

 

「それでレッドウィンターに対するロイヤリティだが…。」

 

ネイトがレッドウィンターへの分け前に関する話題を出すと…

 

「おいおい、賠償替わりで採掘権を得たのだろう?わざわざレッドウィンターにも儲けさせるのか?」

 

店長が疑問に感じたようにそう尋ねる。

 

確かにこの採掘権はネイトの命を狙ったことを見逃す賠償として得たものだ。

 

はっきり言ってあちらに気を遣う必要はないと思われるが…

 

「当たり前だ。ついでに化石燃料関連は少し融通するつもりでもある。」

 

その他にも現物的なメリットも供するつもりらしい。

 

「…随分と命を狙ってきた相手に優しいではないか、社長?」

 

あの時のネイトを知る店長は何とも意外そうにネイトを見る。

 

普段の彼ならば徹底的に叩き潰すはずなのだが…

 

「賠償はこの採掘権ですでに済んでる。これ以上、レッドウィンターから搾取するつもりはない。それに…。」

 

ネイトはレッドウィンターとの和解はこれで済んでいることと…

 

「それに?」

 

「…俺達は第二の『カイザーコーポレーション』になるつもりはない。」

 

『…ッ!』

 

静かな決意を込めてそう言い放った。

 

「…ふむ、確かにこの状況はそっくりだね…。」

 

「ネイトさんが来る前のアビドスも…そうだったなぁ…。」

 

「ちぃ…耳の痛い事を言ってくれる…!」

 

その場の全員が納得したような声を上げる。

 

奇しくもネイト、いやW.G.T.C.とレッドウィンターとの関係は以前のカイザーコーポレーションとアビドスのそれと酷似している。

 

そして、カイザーコーポレーションはアビドスとネイトの手によって打倒され衰退の一途をたどった。

 

それが今度は自分達にも起こらないとは限らない。

 

「だから、場所を借りるのならある程度の利益と恩恵は渡す。上手く行けば…レッドウィンターの『マンパワー』も使えばWin-Winの関係にもなる。」

 

その二の轍を踏むことはまさに愚かというほかない。

 

「社長…まさかレッドウィンターまでも発展させるつもりなのか…?」

 

そんなことを問う店長。

 

レッドウィンターは確かに学区面積こそ随一だが環境と不安定な学校運営のせいで総合的にみればまだ発展途上な学校ともいえる。

 

ネイトの言葉をそのまま受け取るとするとアビドスだけでなくレッドウィンターも同じようにするというように聞こえるが…

 

「まさか。それで発展できるかどうかはあのちょび髭チビの政策次第さ。」

 

生憎ネイトにアビドスほどあの学校と深く関わるつもりはない。

 

「最初は魚はやるし釣り方も教える。その後の魚の扱いまで教えるつもりはない。」

 

「なるほど、その魚を調理するのも販売するのも全てはレッドウィンター次第…ってことだね。」

 

「無論、主導権はアビドスの連合が握るがね。」

 

あくまでビジネスとして払う物も払うが上下はきっちりさせる方針だ。

 

とくにこのケースは明確にレッドウィンターに貸しがある。

 

そこは有効活用しなければ勿体ない。

 

「んじゃあ…クーデターがあってもその開発関連だけは守られるようにしなくちゃな、ネイトさん。」

 

「…はぁ~考えるだけ気が重い…。」

 

「フフッさっきまであんな自信満々に語ってたのに。」

 

「安心しろ、あぁいう手合いの相手の仕方なら私にも一家言がある。私の給料が増えるのなら手は貸すさ。」

 

「そうだねぇ…。まずは基金の創立とかがいいんじゃないかな?それならクーデターが発生しても…。」

 

こうして、夜のアビドスの一角で静かにキヴォトスの未来を変えるであろう話し合いが進んでいくのであった。

――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

そんな大規模プロジェクトが静かに進む中…

 

ドドドドドドドッ!!!

 

「………なぁ、何か話してくれないか?あんまり静かだと居眠りしてしまいそうなんだが…。」

 

ネイトはアビドス砂漠の上空をベルチバードで飛行していた。

 

プロペラが回転する低周波しか聞こえない機内で同乗者にそう告げるが…

 

「そ、それはその…!」

 

「えぇっと…。」

 

後部座席には耐暑用服を着こんだウイとシミコを筆頭としたトリニティ図書委員会が縮こまって座っていた。

 

この日がトリニティと合同で行われているアレクサンドロス分校の調査の日なのだが…

 

「…あんな後じゃしょうがないか。」

 

そんな彼女たちの態度も納得するしかない。

 

なにせほんの一月ほど前に彼女たちのトップがあれほどまでにアビドスに対してやらかしたのだ。

 

無論、彼女たちもティーパーティーの暴挙ともいえるあの行動には度肝を抜かれネイトの身を案じていた。

 

…それはそうなのだが…

 

「大方、関係悪化で調査に参加できなくなることでも心配してたか?」

 

「そっそんなことは決してッ!」

 

「部長、それもう図星だって言ってるようなものですよ…。」

 

ネイトの言葉に完全に声が裏返ってしまうウイ。

 

彼女達にとってはアレクサンドロス分校の調査は太古の本と接することが出来る得難い事だ。

 

もしそれが無くなったらと思うと…二人以外の図書委員も気が気でなかったのだ。

 

そんな建前と本音の入り混じったウイ達の反応を見て、

 

「心配するな。君らのトップとこの合同調査は全くの別問題だ。」

 

ネイトは彼女たちの懸念を払しょくするような言葉をかける。

 

「何だっけか?神父が憎いと十字架まで憎くなるとか…。」

 

「…ひょっとして『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』…ですか?」

 

「そうそれだ、シミコ。俺からすればなんとも非生産的な感情だと思うがね。」

 

シミコが換言してくれたことわざについてなんともさっぱりした感想を漏らすが、

 

「で、ですがネイトさんに、ティーパーティーがやったことは…。」

 

その『坊主』がトリニティのトップで同じ学校の自分達から見てもあれはあまりにもひどすぎる行いだった。

 

賠償などの話し合いが済んでいるとはいえ同じ『トリニティ』の自分たちの印象が悪くなったと思うのは当然だが…

 

「確かにな。だが、ティーパーティーはティーパーティーで図書委員会は図書委員会だろ?俺やアビドスにウイ達に何か思うところは全くない。」

 

これまたネイトはさっぱりした返答をするネイト。

 

そう、あの一件は連邦生徒会とティーパーティが中心にやらかしたことだ。

 

既に賠償に関する話し合いは終わっているのに同じトリニティと言うだけで図書委員会を責めるのはナンセンスである。

 

むしろこの調査はアビドス側からウイ達トリニティ図書委員会に要請して協力してもらっているようなものだ。

 

さらにアビドスには図書委員会のようなスキルを持つ者はおらず最近提携したミレニアムの古代史研究会も書籍の記録という面ではどうしても劣る。

 

「ここで俺達がごねてもむしろデメリットの方がデカい。だから俺もホシノ達もウイやシミコたちの調査を打ち切ったりはしないさ。」

 

「…ありがとう、ございます。」

 

その言葉を聞き、ウイやシミコたちはようやく肩から力が抜けた。

 

「もっと詳しく知りたいなら現地にいるホシノ達に聞けばいいさ。俺は別件で外すしな。」

 

「そう言えばネイトさんは…。」

 

シミコはそう言うと…背後を飛んできているもう一機のベルチバードの方を見るのであった。

 

その後、ネイトが操るベルチバードはアレクサンドロス分校の調査で待機していたホシノ達に引き渡しネイトはとんぼ返り。

 

再び降り立った場所は…

 

「ここが蘇った『アビドス大オアシス』だ。」

 

純白の砂漠の中に水平線が見える程広大なオアシス、『アビドス大オアシス』だ。

 

ビナーとの一戦からしばらくしようやく濁りが落ち着き現在は高い透明度を誇る青い水面が一面に広がっている。

【挿絵表示】

 

 

そして、そこに訪れているのは…

 

「どうだ、ヒナタ?中々の絶景だろう?」

 

「す、すごいです…!現実で、こんな場所が本当にあるなんて…!」

 

「本当にここがオアシスなんですか…!?」

 

「絵にかいたような白い砂浜と青い海ですね…!」

 

「湖ですよ…というにはこれは…!」

 

酷暑の砂漠対策に涼し気なデザインの修道服姿となっているヒナタ率いる『シスターフッド』の一団だ。

【挿絵表示】

 

「ほ、本当に、このような素晴らしい場所に、連れていただき、ありがとうございます…!」

 

「礼には及ばない。そう言う約束だったからな。こっちこそ中々タイミングが合わなくて済まない。」

 

以前、ビナー討伐後の会談で話に出ていたこの場所への訪問がようやく叶ったのだ。

 

「こ、ここでアビドスやゲヘナに、七転八倒団の皆さんが…。」

 

「あぁ…今思い出しても…とても熱い時間だったよ…。」

 

細波が経つオアシスの水面を互いに並んで眺めるネイトとヒナタ。

 

しかし、そんな穏やかな場所ばかりではない。

 

「俺が直接見たわけじゃないが…ほらあの砂丘を見てみくれ。」

 

「…なんだか周りの白い砂と違って、黄緑色になってますね。」

 

「あそこがそのビナーが熱線を浴びせかけた場所らしい。砂が溶けてあんな色の一塊のガラスになったんだ。」

 

「す、砂が溶けて、あぁなったんですか…!?」

 

ビナーとの第二ラウンドの証とも砂丘が溶けて出来上がった巨大なガラスの塊などもその痕跡を示すように白い砂漠内に鎮座している。

 

そしてなんといっても…

 

「そしてこれが…俺達が討伐したビナー、その頭部だ。」

 

「な、なんて恐ろしい…!」

 

「まるで経典に出てくる悪魔のような…!」

 

ヒナタたちが圧倒されたのは純白の砂漠の中にその姿を残すビナーの頭部だ。

 

見るからに破壊され起動する気配はないが…今にも目覚めて襲い掛かりそうな迫力があった。

 

確かに安保理時に映像こそ流したが…残骸とはいえその実物では話が違う。

 

すると…

 

「あ、あれ?ネイトさん、あれは…?」

 

ヒナタがそのビナーの頭部のそばにある物を見つけた。

 

少々砂に埋もれていたり見るからに乾燥しているが…花束がビナーに寄り添うようにそこそこの量が置かれてあった。

 

「あれか?…ビナーへのお供え物さ。」

 

そう言いネイトは近付き…

 

「やぁ、ビナー。今日はお客を連れてきたぞ。」

 

Pip-Boyから一つの青い花…ハブフラワーを取り出し、

 

「もうちょっとしたらここも賑やかになる。そうなったらお前も寂しくはないかもな。」

 

その花の山に添えそっと手を合わせ黙とうする。

 

「………皆さん、私達も。」

 

そして、ヒナタたちも誰に言われるでもなく汚れることを厭わずに膝をつき普段彼女たちが行っている通りの祈りをビナーに捧げるのであった。

 

それからしばらくし…

 

キャッキャキャッキャ

 

「すみません、ネイトさん…。皆さんのわがままを…。」

 

「構わないさ。あぁいう息抜きも必要だ。」

 

浅瀬の部分で履物を脱ぎ水遊びに興じるシスターフッドの生徒達をパラソルを設置しテーブルとイスを置いて眺めるネイトとヒナタ。

 

敬虔な修道士と言えど年頃の女子高生、こういう風光明媚な場所でくらい羽目を外しても罰は当たらないだろう。

 

「情勢が落ち着いたらサクラコやマリーもつれてきたらいい。きっと気に入るはずさ。」

 

「は、はい、きっと喜ばれると、思います。」

 

ヒナタも微笑みながら氷が浮かんだグラスに注がれたお茶に口づけると、

 

「わぁ…このお茶、紅茶とはまた違った、さわやかな味わいですね。」

 

「口に合わなかったか?」

 

「いえ、とっても美味しいですよ。暑いここでなら、むしろこちらの方が、好みです。」

 

この暑い砂漠で消耗した彼女の体にすっとしみこんでいくような味わいで気に入ってくれたようだ。

 

「それはよかった。うちの子が作ってくれた野草茶さ。暑い所で活動するならって調合してくれたんだ。」

 

「と、とても素晴らしい、特技を持った方が、いらっしゃるんですね。」

 

「シスターフッドに気に入られたと聞けばあの子も喜ぶだろう。」

 

そんな会話を交わしながら穏やかに過ごしていると、

 

「…さて、ヒナタ。何か俺に話があるそうだが?」

 

お茶を少し飲んでヒナタに穏やかな表情を向けてそう尋ねる。

 

「…す、すみません、こんな時にまで、お仕事の話なんて…。」

 

「構わないさ。むしろ、こういう場所だから都合がいいってこともある。」

 

ここは広大なアビドス砂漠のど真ん中。

 

周囲に人の目はなく盗聴器など仕掛けようもない、誰かに聞かれたくないような会話をするにはもってこいだ。

 

「こ、こちらをネイトさん…いえ、W.G.T.C.のお力をお借りしたく…。」

 

そう言い、ヒナタはトランクからトリニティのエンブレムが印刷されシスターフッドの刻印で封蝋された封筒を取り出し差し出してきた。

 

「拝見する。」

 

受け取ったネイトが封蝋を取り中の書類に目を通し始める。

 

そこに書かれてあった内容は…

 

「ウチに…警備のコンサルタントを?」

 

ネイトでもあまり経験が無いコンサルタントのオファーであった。

 

「これを…どうして俺に?」

 

「は、はい。近々行われる、エデン条約調印式の際に…。」

 

ヒナタが語った依頼理由は…

 

「…アイツ。」

 

正直、頭痛を覚えるような内容だった。

 

エデン条約の調印式が行われる『通功の古聖堂』。

 

当然、当日は両校のVIPが集結するため警備体制は『ゲヘナ風紀委員会』と『正義実現委員会』の分担とされ厳重なものが敷かれることは前々から決まっていた。

 

が…ある人物がとある物申しをしてきたのだ。

 

「げ、ゲヘナの『羽沼マコト』議長が、『古聖堂周辺の警備体制』について、『トリニティに任せていられない』、と異議申し立てされて…。」

 

「アイツ…主導権を握ったと思ったらそんなとこまで…。」

 

誰を隠そう、万魔殿の議長であるマコトその人だ。

 

『通功の古聖堂』の警備体制は分担制だが…その周囲、最早遺跡群ともいえる周辺の警備は学区の主であるトリニティが取り仕切っている。

 

以前までは条約そのものに興味すら示してしていなかったのに…

 

「我々にあれほどの不敬を働いておいて貴様らの警備の中を進めと!!?」

 

と、突如として猛抗議してきたのだ。

 

はっきり言って無茶苦茶もいい所だが…

 

「せ、先日の一件でティーパーティーも、負い目からかその抗議を黙殺すると…。」

 

「アイツのことだ。調印なんかしない…とでもごねたんだろう?」

 

なにせ時勢は今やゲヘナ側に傾きつつある。

 

ゲヘナに忍び込ませたスパイやネイトに対する不手際も相まってティーパーティーはその抗議を受け入れ対策をせねばならなくなった。

 

が、警備体制を構築しようにも…

 

「と、トリニティ以外で、かつマコト議長も認めるような、企業の考案した案しか認められないと…。」

 

トリニティ内にもその手の専門企業は存在している。

 

しかし、これまたマコトはティーパーティーの息が掛かっているなどと盛大にごねまくりそれらの企業が構築しようとした警備体制をすべて却下。

 

かといって、ゲヘナに警備体制の構築をまかせっきりではトリニティ内部で確実に不和を生む。

 

ミレニアムにも依頼しようという案も出たが…

 

「お、お恥ずかしい話ですが、トリニティの財政状況は、現在非常に低迷してまして…。」

 

「あぁ~…。」

 

これまた足を引っ張るのが先日の和解案だ。

 

いかにトリニティと連邦生徒会と言えど…あの賠償額は相当の負担で生徒への福利厚生もかなり縮小しているらしい。

 

同じく三大校のミレニアムならば確かに満足のいく仕事をしてくれるだろうが…おそらく費用は青天井な上コネもないに等しい。

 

マコトも納得しトリニティとも関りがありその手の専門家としても申し分ない人材となると…

 

「先日の一件では、本当にご迷惑をおかけしました…。ですが、ネイトさん。私達にどうか、お力をお貸し願えないでしょうか…。」

 

アビドス独立戦争を勝利に導きかつゲヘナとも関係が深くトリニティともある程度関係を構築出来ているネイト、ひいてはW.G.T.C.に白羽の矢が立ったのだ。

 

「…ちなみにこの依頼のクライアントはどこになるんだ?」

 

「と、当日の警備はティーパーティー主導になりますが、この依頼は我々シスターフッドが依頼主、と言うことになります。」

 

「ティーパーティーはこのことは?」

 

「ほ、本件は古聖堂の整備同様、シスターフッドに一任されています。事後報告にはなりますが、承認はされると…。」

 

「フム…現金な話だが…報酬は?」

 

「も、もちろんそれに相応しい額を、ご用意する準備は整っています。経費や宿泊先も、シスターフッドが全面的に、バックアップいたします。」

 

ヒナタからの事情の説明を聞き終えネイトは考え…

 

「………一度持ち帰ってもいいか?」

 

「ご、ご検討いただけるのですか…?」

 

「本格的にやるには俺一人だと少し荷が重い。機材準備やチームの編成などもあるからな。」

 

結論は出さずとも前向きともとれる返答をした。

 

「シスターフッドには普段から世話になっている。エデン条約もアビドスには一定のメリットもあるし…力にはなろう。」

 

ネイトもティーパーティーには思うところがある。

 

しかし、先述の通りそれはティーパーティー『限定』にとどめるべき感情だ。

 

先日の一件では無関係で日々世話になっているシスターフッドが対応に窮していて自分にそれを解決できる力があるならばしっかりと請け負うのがネイトという男だ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「礼には及ばないよ、ヒナタ。承認されたら貰うものはちゃんともらう『仕事』になるからな。」

 

頭を下げるヒナタにあくまでビジネスライクな返答ではあるがその表情は非常に柔らかなものだった。

 

その後、ヒナタやウイ達が調査を終えトリニティに帰還後…

 

「とまぁ、そう言う依頼の打診を受けた。」

 

「えぇ~…正直トリニティとはもう関わり合いになりたくないんだけど…。」

 

夕焼けに染まった復興施策委員会の部室にホシノ達もそろいそのことを報告。

 

セリカがげんなりした表情を浮かべるが気持ちは分かる。

 

今のアビドスに取ってトリニティ…もといティーパーティーは厄介ごとを持ち込むトラブルメーカーでしかない。

 

だが、

 

「でも…シスターフッドにはとってもお世話になってるよ、セリカちゃん。」

 

「そ、それはそうだけど、アヤネちゃん…。」

 

今回の依頼主はシスターフッド、復興事業でトリニティからの労働力の斡旋で日々お世話になっている派閥だ。

 

ツンケンしているセリカもかなり恩義を感じてはいるので無碍にするのは心苦しい。

 

「マコト議長のわがままにも困ったものですねぇ~…。」

 

「確かに引っ掻き回してはいるがあの二校は均衡が崩れているからなぁ…。」

 

騒動がこちらにも波及していることはいただけないが…マコトの行動は『統治者』としては理にはかなっている。

 

なにせこれまで双方主導権を握れず宙ぶらりんで妥協点を探しながら進んでいた『エデン条約』。

 

それが先日の一件で主導権が一気にゲヘナ側に傾いている。

 

そのことを内外に示しより優位性を高めよう、マコトの魂胆はおおよそこんなところだろう。

 

だが再度言おう、こちらに面倒ことが波及しているのはいただけない。

 

「大丈夫なの~、ネイトさん?」

 

口調こそのんびりとしたものだが真剣な眼差しでホシノは尋ねる。

 

なにしろネイトにとってトリニティはまさに『虎口』。

 

シスターフッドなど友好関係を築けている組織はあるが依然としてティーパーティーとは敵対関係に近い。

 

その縄張りにシスターフッドの庇護下とはいえネイト筆頭に少人数で赴くのは正直避けたいが…

 

「正当な依頼で報酬も確約されている。俺としては断る理由はないが…。」

 

彼はそう言葉を区切り…

 

「サクラコ達には世話になっている。それに…。」

 

「それに?」

 

「…あの集団の正体に近づけるかもしれない。」

 

『…ッ!』

 

その一言に全員の表情が引き締まる。

 

あの集団とは…ネイトの命を奪おうと襲い掛かってきた襲撃犯たちだ。

 

和解案で情報提供の要求には合意されたが…正直言って情報収集は芳しくない。

 

なにせ最大の情報源である襲撃犯たちは奪還されてしまったのだ。

 

むしろ…

 

「そう言えば、アヤネ。パンくずは集まって来てるか?」

 

「はい。テレDさんの協力もあって徐々にミサイルの航跡も集まりつつあります。」

 

情報戦において先んじているのはアビドスと言ってもいいだろう。

 

ホテルニューオトワに撃ち込まれたステルス巡航ミサイル。

 

防衛室のレーダーにこそ映らないが…透明になったわけではなく『映像』としてその痕跡の追尾ができる。

 

ナギサの緊急会見の影響で想定よりペースダウンこそしているがテレビD.U.の協力もあり少しずつ集まっている。

 

だが、それでも…

 

「俺は…奴らの確固たる証拠はトリニティにある…そう睨んでいる。」

 

あと一歩、その影を踏めていない。

 

その一歩を詰めるカギとなるのが…

 

「…ネイトさんを撃った『AWM』…だね?」

 

自らを死に追いやったあの狙撃銃だ。

 

あの銃はトリニティのみで製造されており非常に高額だ。

 

入手経路こそ強盗だが…

 

「なぜ…そんなことが出来た?普通武器の輸送経路は相当ランクの機密情報なのに?」

 

どうにも腑に落ちない。

 

武器の輸送中ともなればルートは相当厳選され警備や有事の際の装備も相当なはず。

 

しかし、それが看破され全てを奪われたとなれば…

 

「俺はこの強盗犯と襲撃犯は同一組織と考えている。となると…。」

 

「…トリニティ内でも機密に近い情報を得ることが出来るってことはあの学校に黒幕がいる、ってことだね?」

 

「まだ勘の域は出ないが…な。」

 

つまり、このコンサルタントの依頼はシスターフッドの悩みの種を解消するだけではない。

 

「それでもより一層トリニティに深く踏み込めるまたとないチャンスだ。」

 

おそらく連邦生徒会ですら想定すらしていないトリニティの『闇』、それを暴れるやもしれない。

 

「…はぁ~全く、これじゃ私達がどういっても止まらなさそうね。」

 

「相変わらず自分すらも駒にする癖は変わってませんが…。」

 

「今のネイトさんなら無茶は控えてくれるでしょうねぇ~♪」

 

相変わらずなんとも脳筋な方法だが行き詰っている現状、数少ない打開策でもある。

 

「…分かったよ、ネイトさん。その依頼を受けても構わないよ。」

 

ホシノもシスターフッドの依頼を承認、

 

「ただし、付き添いにはセタス部隊の子を連れてってね。私達は今は派手には動けないから。」

 

できうる最大限のバックアップを約束するのであった。

 

「了解、さっそく選抜に入る。」

 

「ん…もしもの時は皆で助けに向かうからね。」

 

「それは頼もしいが…そう言うことが起こらないよう祈ってくれ、シロコ。」

 

こうして、ネイトは今一度トリニティに足を踏み入れる準備に入る。

 

………これがあの地の禁忌の歴史に踏み込むことになるとはまだ知る由もなかった。




虎穴に入らずんば虎子を得ず
―――昔からある諺
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