Fallout archive   作:Rockjaw

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正義のもたらす最大の実りは、心の平静である。
―――哲学者『エピクロス』



In the Shade of the Angels' Garden

「あぁーッキャスパリーグッ!!!ここにいましたか!!!」

 

「ッ!?貴方達、何をしているんですか!?」

 

ティーパーティーとネイトが一触即発の公園内に響いた二つの声。

 

ネイト以外の全員が一斉にそちらに視線を向けると…

 

「げっ…アイツ…!?」

 

カズサが苦い表情を浮かべた。

 

そこにいたのは…

 

「スーパースター『宇沢レイサ』とーじょーです!」

 

独特な紫のグラデーションのふわふわの髪質の元気一杯な生徒『宇沢レイサ』と…

 

「レイサさん、行きますよ!」

 

そんな彼女と対照的な凛とした雰囲気の白い長髪と側頭部に白い片翼を持った生徒がそこにいた。

 

「ハイッ!コラーッ喧嘩はダメですよ!」

 

ただ事ではないことは一目瞭然で二人は一行の元に駆け寄る。

 

そして、レイサがいるとなると…二人の所属もおのずと導き出される。

 

「何をしているのですか?!ティーパーティーの方々と言えどそれ以上は『自警団』としても見逃せません!」

 

「と、『トリニティ自警団』…!」

 

「こんな時に…!」

 

トリニティに存在する『非公認』の治安維持組織『トリニティ自警団』だ。

 

「…そちらの方もこの状況を説明をしていただけますね?」

 

傍まで近づき大声で場を留めた後、レイサの傍らの生徒が目線を鋭くしながらネイトとティーパーティーの生徒達を交互に見てそう尋ねる。

 

臨戦態勢のティーパーティーの生徒達に背を向けてレイサに挨拶をしている一人の大人ネイト

 

その足元では口から血を溢れさせているティーパーティーの生徒が一人。

 

問題なしで片付けられる状況ではない。

 

すると、

 

「と、トリニティ自警団!この大人を拘束しなさい!!!」

 

「見なさい!無抵抗なこの子に一方的な暴行を加えたのですよ!!?」

 

健在なティーパーティーの生徒が彼女に向け必死の形相で訴えかける。

 

「はぁ!?アンタたち何言ってんのよ!!?」

 

「ちょ、ちょっと!嘘は止めてください!!!」

 

ヨシミとアイリがそれに反論する。

 

「お黙りなさい!その大人とグルになって誤魔化すつもりですか!?」

 

「ほら、証拠にそのテーブルの上に賄賂のお菓子が…!」

 

「ふざけんじゃないわよ!!!第一、大人数でやってきといて…!」

 

「確かに言いすぎな部分もありましたけど先に銃を向けたのは…!」

 

互いに相反する意見をぶつけ合いヒートアップしていく現場。

 

「あっあわわわっどッどっちも落ち着いてくださ~い!」

 

レイサが宥めようとするが一度ヒートアップした現場はそう簡単には収まらない。

 

その時だった。

 

「………。」

 

レイサの傍らにいた生徒はおもむろに懐に手を入れ…

 

ッピィン!

 

ポイッ

 

何かを地面に投げたかと思った次の瞬間、

 

シバァンッ!!!

 

『ッ!!?』

 

「うギャッ!?」

 

公園内を眩い閃光が包み込んだ。

 

いきなりのことに一同驚きこそしたものの…

 

「なっ何を…!?」

 

「ビ、びっくりしたぁ…!」

 

そのショックからか若干落ち着きを取り戻した。

 

そして、

 

「…ティーパーティーの方々の言い分は分かりました。では…その地面の銃はどう説明なさるんですか?」

 

彼女は冷静に地面に落ちている銃に視線を向けながら尋ねる。

 

そこにあるのはティーパーティー所属であることを示すカラーリングと刻印が施されたM1ガーランドだ。

 

「ど、どういう意味なのですか…?!」

 

「地面にあるのはすべて未発砲の弾薬のようですが?」

 

『…ッ!』

 

そう、M1ガーランドは『エンブロック・クリップ』という独特な装填方式を持つ銃。

 

このタイプはクリップ装填式よりも迅速な再装填が行える一方…途中に単発で装填を行うことはできない欠点がある。

 

これで一発でも空薬莢が地面にあれば途中再装填したと説明がつくがどこを見ても空薬莢はなく地面には8発の30-06弾と空のクリップが転がっている。

 

しかも、M1ガーランドはスライドがオープンとなっており再装填された形跡もない。

 

つまり…

 

「発砲はなくそのまま無力化がなされた…とみるのが妥当だと判断しますが?」

 

「えぇッ!!?ティーパーティーの方々が嘘をついたってことですかぁ!?」

 

明らかに人為的…それもティーパーティーが行ったものではない作用が働いたことに他ならない。

 

そして…それを行ったと思われるのが…

 

「それで…そちらの方は何かありますか?」

 

彼女は少し険を和らげネイトを見て話を聞き始める。

 

「…言い争いになったのは認める。だが、背後から銃を突き付けられたから少々手荒いが制圧させてもらった。」

 

その問いかけにネイトも端的に事実を隠すことなく答えた。

 

「お黙りなさい!!!何の証拠もなくそのようなでたらめを…!」

 

それに噛みつくティーパーティーの生徒だったが…

 

「あっそ。それじゃあ…これ、見せてもへっちゃらだよね?」

 

今まで沈黙していたカズサがスマホを掲げ画面をタップすると…

 

《今の言葉ッ我々がゲヘナに劣っているという言葉を取り消しなさいッ!!!》

 

《………やれやれ…やはりゲヘナ以下だな。》

 

『ッ!!?』

 

今地面に臥しているティーパーティーの生徒がネイトに銃を突き付けた直後の動画が再生され始めた。

 

「流石、カズサ。抜け目ないね。」

 

「うっさい、ナツ。…これでどっちが正しいこと言ってるか分かるでしょ?」

 

「フム…この映像を見る限りは…。」

 

「貴方達が一方的に銃を向けてるじゃないですか!」

 

映像という確固たる証拠を目の当たりにしレイサとその生徒は鋭い眼差しになり、

 

「う、うぐぅ…!」

 

今までの勢いが嘘のように言葉に詰まるティーパーティーの生徒達。

 

「そして、先生と同じ…。」

 

さらに目の前の大人にはヘイローが無い。

 

と言うことは…

 

「…貴方は…アビドスのネイトさんですね?」

 

変装しているとはいえその正体はおのずと導き出される。

 

「えぇッ!!?ネイトさんだったんですかぁ!?」

 

「…久しぶりだな、レイサ。」

 

見抜かれては隠す必要もないので付け髭をはがし正体を明かすネイト。

 

「えッ宇沢と知り合いなの、ネイトさん…?!」

 

「以前、彼女に決闘を挑まれてな。」

 

「お久しぶりです!あの時はありがとうございました!」

 

そして、久しぶりの再会にレイサも元気に会釈し再会を喜ぶ。

 

「レ、レイサさん?」

 

「アンタ…そんなことやってたの…?!」

 

まさかのつながりに唖然とするカズサと傍らの生徒であった。

 

「そ、それはそれとして…彼はキヴォトス人とは違う。それは理解していますね?」

 

「うぐッ…!」

 

「いかにツルギ委員長に勝利する戦力と言えど銃弾一発が致命的な彼の背後から銃を突き付けられたならば…相応の反撃はやむなし、そう考えますが?」

 

気を取り直し、彼女は先ほどの映像についてティーパーティーの生徒達を追求し始める。

 

「確かに…少々やり過ぎだと感じる部分は認めます。ですので、ここは痛み分けと言うことで双方解散しませんか?」

 

「痛み分けですって…!?」

 

「えぇ、そちらの方がどちらも今後に響かない…と思いますが?」

 

彼女の言う通り…これ以上、争うのは得策ではない。

 

確かにネイトの行動はかなり乱暴だ。

 

だが、このままここで争えばティーパーティーの生徒達は『ヒト』であるネイトに銃を向けたことも問われなければならない。

 

そうなれば…ほぼ確実に彼女たちもなんらか罪に問われるだろう。

 

「ネイトさん、貴方もそれでよろしいですね?」

 

「…俺はそれで構わない。これ以上面倒ごとはごめんだからな。」

 

当然、ネイトはソレを受け入れるが…

 

「私達に退けとおっしゃるのですか…!?」

 

ティーパーティーの生徒達は苦い表情を浮かべる。

 

あれほどまで好き勝手言われ同胞を打ちのめされたのに痛み分けで済ませる。

 

彼女たちのプライドはそれを許せないが…

 

「ねぇ…あちらをご覧になって…。」

 

「ティーパーティーの方々ですわ…。」

 

「まぁ…!市井の方々によってたかって…。」

 

ヒソヒソ…

 

『ッ!?』

 

公園の入り口には先ほどの閃光弾の爆音が呼び寄せたであろうトリニティの一般生徒のギャラリーが集まりつつある。

 

小声で話し合っているが…その目は好奇と蔑みの色が濃い。

 

「…このままここで続けますと今後にかなり響くと思いますが?」

 

目の前の生徒からの忠告を受け…

 

「クゥッ…覚えてらっしゃい!!!」

 

捨て台詞を吐いて地面に落ちた銃と倒れた生徒を抱えティーパーティーの生徒達は足早に立ち去っていった。

 

「あぁ、三歩歩くまでは憶えておくぞ~。」

 

「それでは憶えているとは言えませんよ、ネイトさん!?」

 

「皮肉ってやつよ、宇沢。真に受けないで。」

 

彼女たちにかなりの皮肉を投げるネイトなのであった。

 

「さて…すまなかったな、皆。余計なことに巻き込んでしまって…。」

 

一行が立ち去りギャラリーも散った後、ネイトは放課後スイーツ部に騒ぎに巻き込んでしまったことを謝罪する。

 

今回の件は完全に自分とティーパーティー間の問題だ。

 

一般の生徒である彼女たちを巻き込むのははっきり言ってお門違いもいい所。

 

なのに、アイリやヨシミは自分を庇いカズサにいたっては証拠映像まで撮ってくれていた。

 

もし、今後…ティーパーティーに目を付けられるかもしれないのに…だ。

 

そんな頭を下げるネイトに対し、

 

「だっ大丈夫ですよ、ネイトさん。ネイトさんだって巻き込まれた側なんですから気にしにしないでください。」

 

「そうよッ!そりゃ言い方きつかったけど先に喧嘩売ってきたのはあっちなんだから!」

 

「ちょっと驚いたけど…あんな事やられたら私達だってあいつらに銃の一発や二発撃ってるところだからさ。」

 

「甘い迷宮に鉄臭さは似合わないけど迷宮というのは障害がつきものなものさ。キヴォトスならなおさらね。」

 

アイリ達は各々謝罪を受け入れつつも気にし過ぎないように伝える。

 

確かにティーパーティーはトリニティの生徒会だがそれでも先ほどの行為は行き過ぎた部分はある。

 

流血沙汰になったとはいえ撃ち合いにならなかっただけキヴォトスではまだ穏便に済んだ方なのだ。

 

そんな彼女たちの心遣いを受け、

 

「…ありがとう、みんな。」

 

ネイトも微笑を浮かべ今度は感謝の言葉を述べるのであった。

 

「君達もありがとう。これ以上大事にならなくて助かったよ。」

 

「ふっふ~ん!これがトリニティ自警団の実力ですよ~!」

 

「いえ、これも自警団の務めですので。」

 

場をおさめてくれたレイサともう一人の自警団員にも感謝を伝え、

 

「ネイトさん、紹介します!私達、『トリニティ自警団』のリーダーにして『トリニティの走る閃光弾』こと『守月スズミ』さんで~す!」

 

「ちょ、レイサさん…!?…オッホン…トリニティ総合学園二年生、守月スズミです。初めまして、ネイトさん。」

 

「初めまして、ネイトだ。」

 

レイサたち『トリニティ自警団』を纏めるリーダーである『守月スズミ』と握手を交わすのであった。

 

「ネイトさんっ!キャスパリーグ達と一体何をやってたのですか!?」

 

「ちょっと彼女たちにアドバイスをもらっててな。…というか、レイサ。その呼び方は彼女が気にしてるんじゃ…。」

 

「いいよ、ネイトさん。宇沢とは中学のころからの腐れ縁でもう諦めてるから…。」

 

「ハイッ!杏山カズサとは長年の因縁があるんです!」

 

肩をすくめるカズサと胸を張って誇らしげなレイサを見て…

 

「…いやはや、マンモス校とは言え意外にも世間は狭いものだな。」

 

意外な二人の関りに縁の奥深さに微笑むネイトであった。

 

すると、

 

「あッ!ネイトさん、また決闘の申し込みしてもいいですかッ!?」

 

今度はネイトに満面の笑みを向け以前のような挑戦状を差し出してきた。

 

「ちょ、レイサさん…!?彼は私達とは違って…!」

 

まさかの行動にスズミも彼女を宥めようとするが…

 

「あぁ、構わないぞ。ホレ、ペイント弾だ。」

 

「え…?!」

 

「ありがとうございますっ!」

 

意外にもネイトはあっさりと了承し以前のようなショットガン用のペイント弾を数発レイサに渡す。

 

対するネイトは上着の下に装着したショルダーホルスターに差していたデリバラーのチャンバーとマガジンの二発目までをペイント弾に変更。

 

「ネイトさん、大丈夫なの…?」

 

「レイサちゃん、私達と比べるとかなり強いですよ?」

 

「なぁに、二度目だ。油断しなければ勝てない戦いではない。」

 

「…レイサさん、細心の注意を払ってくださいね?」

 

「もちろん!気を付けて全力で挑みます!」

 

互いに準備ができ以前のように間合いを取って相対するネイトとレイサ。

 

数分後、

 

バシャバシャ…

 

「きゃッキャスパリ~グ~、もっと優しくしてくださ~い!」

 

「ほら、綺麗にしてあげてるんだから動かないの。」

 

そこには公園の水飲み場でカズサに顔を拭ってもらっているレイサがいた。

 

その眉間と胸元には計3つのペイントが付着している。

 

「制服汚しちゃって良かったの?」

 

「訓練用の特殊ペイントだ。5分もすれば固まって簡単に剥がせるからシミも残らないから心配いらない。」

 

それを東屋で眺めている汚れが全くないネイトと残りの面々。

 

言うまでもないが先ほどの決闘は以前と変わらずネイトの完勝だった。

 

が、

 

「あんな撃ち方、私見たことありませんでした…。」

 

「レイサさんが銃を向けるより速く胸に2発と頭に1発を正確に撃ち込む精度…。」

 

「ウ~ン…技術はすごいけど不思議とロマンを感じない…。」

 

その様子はアイリやナツ、さらには実戦経験豊富なスズミをして非常に『異質』なものだった。

 

「事実、ロマンも欠片もない…敵を倒すことを念頭に考案された撃ち方なんだがな。」

 

「えっそうなんですか?!」

 

ネイトが先程見せた射撃スタイルは『モザンビーク・ドリル』、『コロラド撃ち』とも呼ばれる確実に息の根を止めるために編み出された撃ち方だ。

 

「俺がいたところでもアーマーやドラッグで弾丸1発じゃ仕留めきれないケースが多くてな。ラストスタンド最後の悪あがきでこっちがやられないように確実に仕留める必要があったんだ。」

 

「そ、それはおっかないわね…。」

 

特に感慨も何も感じさせない平坦な言葉にヨシミは少し背筋が寒くなる。

 

人が弾丸1発で命を落とすネイトがいた外の世界。

 

その世界であって『確殺』を是とした先ほどの射撃スタイル。

 

自分たちの住む世界では…それはあまりにも異質すぎた。

 

アイリやナツも同じような表情を浮かべる中、

 

「なるほど…確かにそうすれば戦闘時のリスクは減らせますね…。」

 

日々『トリニティ自警団』として荒事に乗り込むスズミだけはその有用性を理解していた。

 

ネイトよりも遥かに頑丈で弾丸の一〜二発では倒しきれないケースも多いキヴォトス人

 

日々、荒事を解決している彼女にとってネイトが見せた射撃スタイルは非常に理にかなったものに映った

 

「今度、自警団の訓練でも取り入れてみようと思います。」

 

「スズミはフラッシュバンをよく使うんだろ?だったら、かなり相性はいいはずだ。」

 

「…そう言えば、レイサさんから聞きましたがネイトさんは以前は自警団の纏め役もなさっていたんですよね?」

 

「成り行きでな。俺がいたところもかなり自衛をしなきゃいけない場所でそういう組織が必要だったんだ。」

 

「…なんだかますますネイトさんの謎が深まった気分だわ…。」

 

「ね。こうして出会ったのに不思議な感じだね、ヨシミちゃん。」

 

「ふむふむ…社長にして銃の名手、なんともミステリアスでロマンを感じる組み合わせだね。

 

と、そんなお喋りを皆でしていると…

 

「うぅ〜もう少し優しくしてくださいよ、杏山カズサ…。」

 

「はいはい、綺麗になったんだから文句言わないの。」

 

顔と制服についたペイントを落とし終えたレイサとカズサが東屋に戻ってきた。

 

「お疲れさま、レイサ。また少し腕を上げたな。」

 

「はいッ!ありがとうございます、ネイトさん!」

 

「ほら、まだ手を付けてないのがあったからあげるよ。」

 

「わぁッ!私、このお店のチョコ大好物なんですよ!」

 

ネイトはレイサの上達を評価し敢闘賞としていつものようにお菓子を渡す。

 

「あんまり宇沢をおだてないでよ、ネイトさん。普段、コイツの相手するの私なんだからね?」

 

上機嫌なレイサを見てカズサが参ったような感じて反応するが、

 

「でも、カズサ。アンタったらなんやかんやいつものその子の相手してあげてるじゃない。」

 

「それによく一緒にお菓子食べてるもんね。」

 

「キャスパリーグ、それはいわゆるツンデレと言うやつなのかい?」

 

「なっ何言ってんの、3人とも!///それからナツ、そんなんじゃないしその呼び方やめなさいよ!!!///」

 

普段の彼女を知る放課後スイーツ部の言葉に耳を逆立てて反論するのだった。

 

「フフッ、なんやかんやレイサにも仲はいい友達がいてよかったよ。」

 

「レイサさんが普段から頑張ってるからですね。」

 

「はいッ、スイーツ部の皆さんにはよくしてもらってますしキャスパリーグとは宿命のライバルです!」

 

そんな放課後スイーツ部を微笑ましく眺めるネイトとレイサたちだったが…

 

「それにしてもびっくりしました!この前の事件現場で見た跡と同じ撃ち方をされるなんて!」

 

なんの気なしであろう、レイサがそう口にした途端、

 

「………なんだって?」

 

「え…っ?!」

 

「ネ…ネイトさん?何か…?」

 

ネイトの表情と纏う雰囲気が鋭くなった。

 

「…レイサ、もう少し詳しく聞かせてもらえるか?」

 

「ハッハイッ!」

 

真剣なネイトにレイサも背筋がピンと伸び自分が見たその射撃の跡について話し始めた。

 

『モザンビーク・ドリル』は訓練もろくに経験が無い不良では通常用いない…ある程度の訓練を受けてから身につく技術だ。

 

そんな技術を非公認ながら治安維持を行う自警団の一員であるレイサは見たことがあるという。

 

そんな事件の心当たりは…ネイトには一つしかない。

 

「えぇっとですね…確か2ヶ月くらい前に事件です。沢山の銃を輸送中のトラックが襲われたんですよ。」

 

(やはり…!)

 

その推測は正解だった。

 

レイサが語るその事件は…ネイトの肩を撃ち抜いたAWMが奪取された強盗事件で間違いない。

 

「ちょ、ちょっと宇沢。その事件って結構騒ぎになってたやつじゃん…!?」

 

「どうしてレイサちゃんがその事件の現場を知ってるの?」

 

「あっ実は私が第一発見者で正義実現委員会とかに通報したんです。」

 

「本当なの、スズミさん…!?」

 

「はい、私の所にも正義実現委員会から連絡があったので確かです。」

 

さらにスズミからもたらされる補足情報でレイサの話の信憑性は高まる。

 

「…その事件現場でさっきレイサが受けたような痕跡を見かけたんだな?」

 

「はい!警備の獣人さん達に残っていた傷跡があんな感じでした!」

 

「なるほど…ちなみに犯人については?」

 

「現在も捜索中で自警団にも協力要請が来ています。」

 

事の次第を知ってから数週間たったがいまだに犯人の尻尾を捕まえ切れていないようだ。

 

スズミは少々苦い表情で語るが…

 

(無理もない。防衛室すら煙に巻く連中を特別捜査チームも作らずに追いかけるのは至難の業だろうな…。)

 

ネイトはさらにこの強盗団がD.U.でネイトに襲い掛かり防衛室すら蹴散らした一団の犯行だと確信する。

 

あれほどの練度ならば『モザンビーク・ドリル』を習得し容易に使えても不思議ではない。

 

現状、資料で見た以上の調査はまだ進んでいないようだ。

 

「レイサ、ほかに何か感じたことはないか?」

 

「感じたことですか?う~ん…特にそれ以外今思い出せるようなことはないですね。」

 

レイサからもそれ以上目新しい情報はないようだ。

 

すると、

 

「強盗団の方じゃないけど奪われた銃の持ち主たちなら情報があるよ~。」

 

ナツが挙手し新たな情報があると申し出た。

 

「ちょっとナツ、アンタいつの間にそんなの…」

 

「…それはどんな情報なんだ、ナツ?」

 

さっそくその情報を聞き出そうとするネイトだが…

 

「おっと、タダというわけにはいかないね~?」

 

ナツはニヤッとしながらネイトに手を差し出し情報料を要求する。

 

「ちょ、ちょっとナツちゃん…。」

 

「そんな大層に勿体ぶるような事じゃないでしょ。」

 

そんな彼女に苦言を呈するアイリやヨシミだが…

 

「俺の行きつけの喫茶店でご馳走はどうだ?」

 

「乗った。アビドス解放の英雄の行きつけの喫茶店、なんともロマンを感じるじゃないか…!」

 

「ちょッネイトさん?!」

 

手早く見返りを提示しさっさと話しを進めるネイトであった。

 

「…襲われた銃の発注元は『ブラダビ分派』っていうトリニティじゃ結構新興の派閥でね~。」

 

「『ブラダビ分派』?」

 

「反ゲヘナに関しては『パテル分派』よりも過激と名高い結構ホットな派閥だよ~。」

 

「新興派閥に過激思想…随分嫌なセットが揃ってるな…。」

 

ナツが語る被害者たちの真相を聞きネイトは一つ思い当たる集団があった。

 

チルドレン・オブ・アトム以下、CoAと表記』の分派の一つにしてファー・ハーバーに建造された海軍潜水艦基地『ニュークリアス』を根城にしていた集団、『ニュークリアスCoA』だ。

 

元から放射線、転じて『原子アトム』を信奉し誰かれ構わず被ばくさせるような過激なものも多いCoA。

 

そんな中にあってニュークリアスCoAはさらに高度に組織化され海軍基地にあった物資を活かしファー・ハーバーの過酷な環境を生き残った集団でかなり過激な思想に傾倒していた。

 

(キャピタルのアイツの話じゃ昔はそんなんじゃなかったらしいが…俄かには信じられんな…。)

 

と、少し昔を思い出していると…

 

「だったら思想の4段アイスにでもする~?」

 

「…え?」

 

ナツが思わせぶりに切り出し、

 

「聞いた話じゃ『いつかキヴォトスは終わる最終戦争が起こって自分達だけが生き残る』っていう教義を掲げてるって話だね~。」

 

「な、なんだか怖い考え方ですね…!?」

 

「『選民思想』に『終末思想』…いよいよ胃もたれする組み合わせだな…。」

 

「それ…『カルト』ってやつじゃないの…?」

 

どう転んでもまともな集団でないことが確定するような思想を知り頭を抑えるネイト。

 

「まぁそんなんだから規模に見合わない位武器を用意してるってもっぱらの噂だよ~。」

 

「…ティーパーティーや正義実現委員会からも目を付けられていて度々騒動が起こっています。」

 

「…で、そんな派閥の武器輸送車が襲われた…と。」

 

「全く、恐いもの知らずの不良もいた者だよ。」

 

肩をすくめるナツ。

 

だが…

 

「…それでその後のそいつらの動向は?」

 

「それに関しちゃ特になんとも聞かないね~。」

 

「…なに?」

 

「特に犯人捜しを自分たちでやる訳でも大騒ぎするでもない。捜査は正義実現委員会にまかせっきりな感じだよ~。」

 

その後の行動に関してはネイトの予想に反していた。

 

武器をため込んでいる連中が、それもAWMなどという超高級銃を奪われてなにも目立った行動はしていない?

 

「…普通だったら自分たちで武器を取り戻すくらいのことをしそうな連中に思えるが?」

 

「そうよね…。そんな危なっかしい連中ならそれはもう血眼になりそうなのに…。」

 

組織の物騒さに反し静観を決め込んでいる『ブラダビ分派』の現在に疑問を覚える。

 

「まぁ~そこらへんは保険金でも入ったんじゃないかな~?これ以上は私も知らないね~。」

 

「…分かった。ありがとう、ナツ。…ほら、ここが俺の行きつけの喫茶店だ。俺の名前とこの名刺を出せば請求書はこっちに来るから好きに楽しんでくれ。」

 

「おー…ありがとう、ネイトさん。」

 

情報提供の対価としてネイトは『Cafe Franklin』のチラシと名刺を差し出した。

 

「さて…俺はそろそろお暇しよう。みんな、今日は色々とありがとう。」

 

「いいって、ネイトさん。一緒にお菓子食べた仲なんだからさ。」

 

「私達の力借りたいときは遠慮なく言いなさいよ。」

 

「また美味しいスイーツが食べたかったら声をかけてくださいね!」

 

「新たな甘味の同胞を得られて今日はいい日だったよ。」

 

「今度は私がアビドスに行きますね、ネイトさん!」

 

「では、お元気で。機会がありましたらネイトさんの自警団について色々聞かせてください。」

 

「あぁ、また会える日を楽しみにしているよ。」

 

チョコのチョイスと新たな情報も入手でき、新たにできた放課後スイーツ部と自警団との再会を約束し変装をし直し公園を立ち去っていくのだった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

「な…なんで…すって…?!」

 

ティーパーティーの庁舎のテラス。

 

ティーセットやお菓子が載せられたティースタンド、様々なお菓子が所狭しと並んだテーブルを前にしてナギサは唖然としていた。

 

「なっなぜそのような事態に!?」

 

「そ、それが…!」

 

すぐに驚きと怒りが混じった表情となり傍らにいたティーパーティーの所属員…ネイトの元を訪れた生徒の一人が経緯を説明し始める。

 

全ての説明を聞き終え…

 

「あぁ、なんてこと…!」

 

ナギサは背を丸め両手で顔を覆う。

 

「…私は…私は彼に依頼の内容を聞きたい旨を伝えてお招きしなさい…そう申した覚えはありませんが…!?」

 

顔を覆ったままナギサはその生徒に問いかける。

 

そう…ナギサはネイトの領分に踏み込む意図など毛頭なかった。

 

現在、ティーパーティーはトリニティの統治組織という立場がぐらつきつつある。

 

先日のネイトとアビドスとの『小競り合い』。

 

その中でツルギとミカというこの学校の力の象徴の両翼の敗北。

 

さらにはアビドスを含めゲヘナ・ミレニアムの三校に対する賠償。

 

連邦生徒会との案分するもお嬢様校のトリニティでさえ懐事情が一気に悪化するほどの額だ。

 

武と政、キヴォトスの頂点近くにあったトリニティが…引き摺り下ろされてしまった。

 

結果、様々な派閥に割り振った予算を減らすわけにはいかずティーパーティーだけで支払わざるを得なかった。

 

が、いかにお嬢様校と言えどその内部留保だけでは足らず福利厚生に用いる予算も用い何とかねん出できたが傷は未だ深く残っている。

 

誰しも一度向上させた環境の水準を強制的に下げられることに強い忌避感を示す。

 

公衆浴場での催し物や公共サービスの質の低下はもちろんの事、消費を抑えざるを得ないため経済活動の鈍化も起こっている。

 

それにより一般生徒からの苦情や異論が噴出、ティーパーティーに所属していない派閥からの突き上げやその対応に忙殺される日々だ。

 

そんな折、シスターフッドからの依頼を受けネイト自らトリニティを訪れ長期滞在することとなった。

 

この機を活かし、ナギサはなんとかネイトとの直接会談の場を設けようとした。

 

これですべてが帳消しになるとは到底思っていない。

 

ただ、受け入れてもらえずともこれまでの非礼を詫び少しでも関係を修復をしたい。

 

その思いでこれだけの準備をして彼をもてなそう…そう思ていたのに…。

 

「私はただ…お茶会を催し彼とお話をしたいのでお招きしてください、そうお伝えしたはずですが…!?」

 

腹の底から絞り出すような声でナギサが尋ねると…

 

「は、はい…確かにそのように記憶していま…!」

 

その生徒はつまりながら答えた。

 

次の瞬間、

 

バァンッ!!!

 

「ひっ!?」

 

「ではなぜッ彼のシスターフッドからの依頼の説明を求めることになっているのですか!!?」

 

机を割れんばかりの勢いで叩きその生徒を睨みつけナギサは絶叫する。

 

「そっそれはなんとしても彼をこの場にお連れしようと…!」

 

「いつ、どこでそのようなお客人の招待のやり方を学ばれたのですか!?貴方は招待の際に他人様の領分に土足で踏み込んでよい、どこでそう教わったのですか!!?」

 

弁明しようとする生徒だがナギサはそれを真正面から切って捨てる。

 

「ただでさえアポイントを取る術もない、お休みの日に急に招こうというのですよ!?普段以上に礼を尽くさねばならないとは思いませんでしたか!?」

 

「でっですが彼は我々をゲヘナにも劣ると侮辱…!」

 

「なんとか関係を改善しようとしている我々と友好関係を築いているゲヘナと、彼がどちらに信を置いているかまだ分からないのですか!!?」

 

「…ッ!」

 

悔しそうな表情を浮かべる生徒だが…返す言葉を持っていない。

 

確かにファーストコンタクトこそゲヘナはやらかしている。

 

だが、すぐさま関係を見直し対等に交流することで現在はアビドスの有効校の一角にまで友好関係を結ぶに至った。

 

そんなゲヘナと公式な交流はおろか失策ばかりを積み重ねてきているティーパーティー。

 

例え彼女たちにとって受け入れがたい評価を下されたとしても…反論のしようがないのだ。

 

しかも…それだけではない。

 

「……それで彼に銃を向け負傷した方は…!?」

 

「………上下の前歯全て遠く場の一部が骨折もしくは欠損、現在は治療を受けています…。」

 

あろうことか虚偽の要請をした挙句に生徒の一人はネイトに銃を向けた、向けてしまった。

 

それに対してネイトは弾丸を一発も使わずその生徒が持つ銃を使い歯を叩き折って制圧した。

 

銃を撃たれればただでは済まないネイトが生徒を行動不能にするほど反撃に出るのは当然だろう。

 

「おまけのその様子を一般の生徒に記録されるだなんて…!」

 

さらに悪い事は続き、その一連の様子は映像として記録されている。

 

もし、下手に騒ぎ立てれば…

 

「…私からもお見舞いに向いますので今回の負傷は『任務中の転倒』と処理しなさい…!そして、私が彼の元に直々に訪問し謝罪します…!」

 

「でッですが…!」

 

「もし映像が露見すれば!!?彼が一言でもゲヘナに報告すれば!!?そのリスクは考えて…!」

 

配下の生徒の反論に再び声を荒げていると…

 

「しっ失礼します!ネイト氏からシスターフッドを通じナギサ様にメッセージが…!」

 

『ッ!!?』

 

テラスに一人の生徒が飛び込んできて…

 

「か、彼はなんと!?」

 

「た、ただ一言…『これ以上関わるな』…と…!」

 

「そ、そんな…?!」

 

たった一言のネイトからのメッセージでナギサの行動は完全に封じられてしまった。

 

これ以上騒ぎ立てればどんな行動を起こされるか…分かったものではない。

 

「どうして…どうしてこんな事ばかり…!」

 

「ナギサ様…。」

 

「…一人にしてください…。お茶やお菓子はもう下げても構いませんから…。」

 

ナギサはうつろな表情を浮かべたまま力ない足取りでテラスを後にしていくのであった。

 

一方、

 

「……ただいま、ネイトさん。頼まれたの買って来たよ。」

 

「ありがとう、カレン。」

 

「……こんなので何するつもりなの?」

 

「なに、少しばかり備えを…と思ってな。」

 

シスターフッドの拠点に戻ったネイトはある複数の物質を用意し何かを用意しているのだった。




備えあるものは金持ちにまさる。
―――作家『アレクサンドル・ソルジェニーツィン』
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