Fallout archive   作:Rockjaw

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天才?そんなものは決してない。ただ勉強です。方法です。不断に計画しているということです。
―――芸術家『オーギュスト・ロダン』


Friends I Haven't Seen in Ages

新たな出会いと因縁が混ざり合った休日も過ぎ…

 

「皆様、おはようございます。今日もこうして主の導きのもとで新しい朝を迎えられたことに感謝を…。」

 

翌朝、シスターフッドの本拠地である大聖堂では朝のミサが開かれサクラコが説教壇から説教を説いていた。

 

「大いなる古き律法は私たちに『己を律せよ』と説きます。皆さん、今朝の目覚めはいかがでしたか?怠惰の誘惑に負けずこうして主の御前に集った皆さんの歩みは…それ自体が尊い尊厳の証明です。」

 

流石はシスターフッドのリーダー、朝の大聖堂の雰囲気も相まって荘厳さと厳粛な雰囲気のなか彼女の説教が聖堂内に響き渡る。

 

「しかし、忘れてはなりません。私たちの信仰とはただ祈るだけのものではなく…明日へ進むための『覚悟』そのもの…。今日という一日、皆さんが直面するであろう試練や誘惑に対してシスターフッドは常に皆さんの盾となり祈りを捧げ続けましょう。」

 

と、そんな厳かな雰囲気で説教を続けるサクラコだったが…

 

「…クゥ~…。」

 

「………!」

 

席の一角で聖書を広げたままコックリコックリと舟をこいでいるレイナが目に留まった。

 

「れ、レイナさん…!サクラコさんが見てますよ…!」

 

「……お説教は聞かなきゃダメ。」

 

「むにゃあ…あと3分…。」

 

そばにいたシホとカレンが小声で起こそうとするもなおも夢の中のレイナ。

 

周囲のシスターたちの視線も彼女に注がれ始める。

 

すると、

 

「………。」

 

隣にいたネイトがそっと腕を伸ばし…

 

ベチィンッ!

 

「アタァッ!?」

 

静かな聖堂内に少し音が響く勢いのデコピンを彼女に打ち込み強制的に起こす。

 

その痛みで一発で目を覚ますレイナだが…

 

クスクス…

 

「あ…!」

 

周囲のシスターたちの愉快そうな笑い声を聞き一気に状況を理解し、

 

「コホンッ。ですから…その…眠気と戦うこともまた、一つの試練です。」

 

サクラコも少し微笑ましそうに咳払いして説教を

再開し、

 

「シスターレイナ、夜遅くまでお勉強に励んでいるのは知っていますが寝不足にはお気を付けくださいね?」

 

「…っす、シスターサクラコ…。///」

 

「…では今日も一日、主の祝福と…私たちの『覚悟』が皆さんと共にありますように…。」

 

軽くレイナに小言を言い祈りの言葉と共に説教を終えるのだった。

 

ミサ終了後、

 

「全く…ミサ中に居眠りする奴があるか。俺が子供のころだったら父さんに聖書で引っ叩かれてたぞ。」

 

「すんません、アニキ…。復習やら予習やらで遅くまで起きてて…。」

 

食堂まで向かう道中、ネイトが軽くレイナに注意していた。

 

「まぁ単なる夜更かしじゃないようだから俺もこれ以上言わないが…もう少し楽に構えろよ?」

 

「そうですよ、レイナさん。寝不足では勉強の質も落ちてしまいます。」

 

「……今度、よく眠れるようになる野草のお茶を作って送ってあげるね。」

 

「うぅ~…優しさが染みるぜ…。ありがとう、三人とも…。」

 

荒んでいた七転八倒団時代では決して受けることはできなかった優しさに目元を拭うレイナであった。

 

と、

 

「…そういや、アニキ?」

 

「なんだ?」

 

「そう言うアニキって勉強できたんすか?」

 

降ってわいた疑問をネイトに尋ねるレイナ。

 

確かにネイトの知識は相当なものがあるのは誰しも知っている。

 

工学・薬学などのエンジニアリングに戦いを制する戦術学、果てには商学に交渉術や諜報技術とそれらは非常に多岐にわたっている。

 

が、それは勉強というより長年生きて蓄積してきた『知恵』といった方がいい。

 

実のところ…彼の『学力』に関しては付き合いの長い面々ですらあまり知らないのだ。

 

「そうだなぁ…。一応、アビドスにあるBDはあらかた流し見てはいるが俺の時代とはカリキュラムが結構違うから一概には…。」

 

そう言い、顎に手を当てながら考えるネイト。

 

なにぶん、学生だったのは280年…稼動年齢でいえば70年以上も昔だ。

 

パッと言われて今の自分の学力を答えるのは難しい。

 

「う~ん…俺もテスト受けたらはっきりするのか?」

 

「あッそれ面白そうですね!」

 

「……じゃあ、アビドスに帰ったらやってみよう。」

 

と、賑やかにそんな会話を交わしていると…

 

「あッネイトさ~ん。」

 

「ん?マリー?」

 

シスターフッドの知人の一人でネイトと奇妙な縁を感じている生徒であるマリーがこちらに駆け寄ってきた。

 

「おはようございます、皆さん。」

 

「おはよう。それでどうかしたか?」

 

「あの、本日のお仕事の前にお時間の余裕はありますか?」

 

「今日の仕事の前?俺は主要通路の再調査をする予定だ。」

 

「私は周辺の病院の受け入れ態勢の調査ですね。」

 

「……風の声を聴いて狙撃地点の再精査だね。」

 

マリーに今日の予定を尋ねられ三人はそれぞれ答え、

 

「それがどうかしたか?」

 

彼女に質問の真意を聞き返すと…

 

「実はこの後、補習授業部の方々が合宿を行っている宿舎に訪問する予定があるんです。」

 

「合宿?」

 

「はい。レイナさんやカノンさんから補習授業部にいらっしゃる方々はネイトさんの以前からのお知り合いと聞いてよろしかったらお会いになってみてはと思いましてお声がけしました。」

 

どうやら久しく顔を合わせていないトリニティにおいてネイトの数少ない友人と顔を合わせる場を設けてくれようとしているようだ。

 

「う~ん…マリーの気遣いは嬉しいが…。」

 

確かに久しぶりにヒフミやアズサにハナコとコハルに会ってみたいという気持ちはある。

 

だが、自分は今仕事でトリニティに来ているのだ。

 

それをほっぽリ出して彼女達に会いに行くのは少し気が引ける。

 

そう思い、ネイトが断ろうとすると…

 

「…いいじゃないですか、ネイトさん。午前中くらい皆さんにお会いしてきては?」

 

「シホ?」

 

「……うん、ビナーの時もお世話になったから…顔を見せて安心させてあげて。」

 

「カレンまで…。」

 

シホとカレンが微笑みながら彼を送り出すような言葉をかけ、

 

「いいじゃんか。行って来いよ、アニキ。アタシらでこの二人の手伝いすっからさ。」

 

「レイナまで…。」

 

レイナもネイトが抜けた穴を自分たちで埋めると宣言し向かわせようとする。

 

ここまで子供たちに背を押されて…

 

「…分かった。それじゃマリー、朝食後に案内を頼めるか?」

 

「分かりました!」

 

それでも誇示するほどネイトも無粋な男ではなくマリーの申し出を受け入れることにしたのだった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

その後、朝食を取り終えマリーの案内で向かったのは…

 

「…合宿場と聞いていたが随分立派な建物だな。」

 

「元々はティーパーティーの保養施設ですので。」

 

二階建てで派手さこそはないものの味のある古風な佇まいの建物だった。

 

本官であろう建物だけでなくプールや体育館までありここだけで小規模な学校と言われても納得できる規模だ。

 

「こういうところを見ると…本当にトリニティってお嬢様校なんだな…。」

 

「フフッ、生徒の皆さんがそうというわけではありませんよ?さぁ早く向かいましょうか。」

 

しみじみとそう呟くネイトを見てマリーは微笑んで合宿場のエントランスへと歩を進める。

 

やがてこれまた荘厳さを感じる門構えのエントランスに到着、

 

ピンポーン

 

「しっ失礼いたします…!」

 

若干緊張した面持ちとなったマリーがインターホンを鳴らし一言断ってから建物内に足を踏み入れようとした。

 

その時、

 

「…!マリー、動くな…!」

 

「はっはい?」

 

静かだが鋭い声音となったネイトが彼女を制する。

 

「どッどうかされま…。」

 

いきなりのことだがそのままの姿勢で固まったマリー。

 

「いいか、そのまま…。」

 

ネイトは彼女に動かないよう念を押し慎重に彼女に近づき…

 

「見ろ、ワイヤートラップだ。」

 

「え…ッ!?」

 

あと一歩踏み出した先にピンと張られていたワイヤーを指さした。

 

「ここにあると言うことは…」

 

さらにネイトはPip-Boyのライトを指向性に変化させ照射すると…

 

「…見ろ、おそらく作動時の退避先に進行ルートにもブービートラップがある。」

 

照らし出されたのは幾重にも張り巡らされたワイヤーだった。

 

しかも、目立つように仕掛けられ避けて踏み出した先に艶消しを施した本命が張ってある二重トラップまで設置されている。

 

「ど、どうしてこんなものが…?!」

 

トリニティの学校には似つかわしくない物騒な仕掛けに目を白黒させるマリーだがネイトには心当たりがある。

 

「B.B.E.だな…。」

 

「び、B.B.E.…?」

 

「あぁそうか。アズサのことだよ。あの子はあの四人の中じゃ変に実戦慣れしているからな。」

 

白洲アズサ、ネイトと出会った際にも訓練を申し込んできた生徒でその後もたびたび訪れては訓練を行っている。

 

時には防衛訓練にも参加しその度にブービートラップなどを仕掛けアビドス生達に一泡吹かせたりもしていた。

 

彼女のことだ。

 

この合宿場をトリックハウス級のトラップの巣窟に変えていてもおかしくない。

 

「俺は回避しながら進めるが…。」

 

正直、ネイトからすればトラップは物の数ではない。

 

これくらいならば連邦でいくらでも見かけてきた経験はある。

 

だが…

 

「…君は難しそうだな、マリー。」

 

「あ、アハハハ…。」

 

問題はマリーだ。

 

シスターがトラップ回避など習うはずもなく今の服装は動きにくいシスター服だ。

 

(思い出すなぁ…。組んだばかりのころのドッグミートやケイトが先走ったりしてトラップが作動して俺が死にかけたこと…。)

 

そんな懐かしく物騒な記憶があるので正直今の彼女を連れてここを突破するのは得策ではない。

 

「いったん外に出よう。さっき踏み出した歩幅を意識して戻るんだ。」

 

「分かりました…!」

 

ネイトもだがマリーもそっとそのまま後ろに歩きエントランスから外に出る。

 

「ど、どうしましょう…。」

 

「たぶん、皆がいるのは二階の窓が開いている部屋だな。」

 

こうなると困った。

 

エントランスから補習授業部の面々がいる場所まではそこそこ中を歩かなければならない。

 

入ってすぐでこのブービートラップの密度だ。

 

中がどうなっているかは…語るまでもないだろう。

 

「………。」

 

ネイトは顎に手を当てて建物の構造を今一度見渡し…

 

「…マリー、ついて来てくれ。」

 

「え?はっはい。」

 

マリーを連れ立って合宿場の横に向かう。

 

「…よし、ここなら屋根が迫り出してない。」

 

「な、何をなさるんですか?」

 

上を見上げて様子を確認し、

 

カシャン

 

「それは…?」

 

「パイプグレネードランチャーだ。」

 

Pip-Boyから愛用の『パイプグレネードランチャー』を取り出す。

 

ポロッ

 

カッション

 

さらに40㎜グレネード弾の弾頭を取り外し装填、

 

「持ってきててよかったな…。」

 

ギュギュッ

 

ホテルニューオトワからの脱出に用いた鉤爪付きロープをサプレッサーが装着された銃口にねじ込んだ。

 

「まっまさか…!」

 

「トラップと言う物はな、普通なら進入しないであろう場所には設置されないものなんだよ。」

 

何をするか分かったマリーが驚いているのをしり目にネイトはパイプグレネードランチャーを構え…

 

ボシュゥッ!

 

シュルルル…ッ!

 

引き金を落とし簡易的な空砲となった火薬の燃焼ガスの勢いを活かし鉤爪を射出。

 

ロープも同様に宙高く伸びていき、

 

ガキンッ!

 

「…よし、掛かったな。」

 

狙い澄ましたように鉤爪は屋根の棟部分に命中しネイトが体重をかけても外れないほどしっかりと食らい付いた。

 

「…マリー、縄登りの経験は?」

 

「いっいえいえ全く…!」

 

「だよな。ちょっと待っててくれ。」

 

流石に普通の女の子がそんな経験をしているとは思えないのでネイトは地面にあるロープをもって素早くマリーが通るくらいの輪っかを作るようにもやい結びをする。

 

「いいか?輪っかの縁に腰掛けるようにしてロープを持っていてくれ。」

 

「はっはい。」

 

「それじゃ俺は先に上る。」

 

そのロープの輪をマリーに渡しネイトは手慣れた様子でぶら下がったロープを登攀する。

 

10mを超える高さながら手慣れたものでスルスルと登っていき…

 

「…よし、屋根にトラップはしかけられていないな。」

 

顔だけ覗かせ安全を確認した後で屋根の上に上る。

 

「ふぅ…今日はミサイルは飛んでくるなよ…。」

 

そんな嫌な過去を口ずさみつつネイトは屋根の棟に立ち、

 

カシャン

 

「マリーッ、じっとしててくれよ。」

 

両腕にStrengthとEnduranceを増幅するレジェンダリー効果が付与された『ヘビーコンバットアーマー』を装着し、

 

「ふっ…ふっ…!」

 

「わわっ…!」

 

華奢なマリーとはいえ自分が昇るよりも早くロープを手繰り寄せ彼女を持ち上げていく。

 

「ほらっ手を取れ…!」

 

「ありがとうございます…!大丈夫ですか、ネイトさん…?!」

 

「ふぅ~…なぁにむしろ軽すぎて少し心配になるくらいだったぞ。」

 

そんな軽口も叩きつつネイトはロープを回収。

 

「お偉いさんの保養地だけあって頑丈な造りで助かった。」

 

ガキンッ

 

「わっ私屋根の上歩くなんて初めてです…!」

 

「フフッ学生は中々経験できることじゃないか。」

 

今度は鉤爪を屋根の棟を渡すように引っ掛け、二人は慎重に屋根を下っていく。

 

「…場所はここだな。」

 

下を覗き込み、目当ての窓が開いている部屋に辺りを付け…

 

シュルシュル…

 

「よし…B.B.E.の度肝抜いてやるか。」

 

「え?」

 

ロープを身体に結びながら不敵に笑うネイトであった。

 

一方、その頃…

 

「…おかしい。ブービートラップが一つも作動しないなんて…。」

 

目的地である教室内でこのトリックハウスの生みの親であるアズサが釈然としない表情を浮かべていた。

 

「あ、アズサちゃん…!そっちの方が私は嬉しいんですけど…!」

 

その傍らで困惑しながら彼女を宥めるヒフミ、

 

「でも変よね…。アズサのトラップって正義実現委員会の人たちだって引っ掛かってたし…。」

 

不本意ながら彼女のトラップの技術を知っているのでこの事態に首を傾げるコハル、

 

「あらあら…きっとお客人は正義実現委員会の皆さんを超える『テクニシャン』な方なんでしょうねぇ、コハルちゃん♪」

 

「なっ何言ってんのよ、ハナコ!?エッチなのはダメ、死刑ぇ!!!」

 

そんな彼女を思わせぶりな言葉で楽しそうにからかうハナコ、

 

「それにしても来客だなんて珍しいね。一体誰だろう?」

 

彼女たちのいる教室の演壇に立ち来客が誰かを考えるシャーレの先生。

 

確かにトリニティの生徒でアズサのブービートラップの存在を知らずにこの合宿場に踏み込み無事でいられるものはそうはいないだろう。

 

…幾人か、引っ掛かっても意に介さないであろう剛の者が数人いるがそれにしてもあまりにも静かすぎる。

 

「………まさか本当に敵襲か?」

 

この事態に一層警戒を強めアズサは愛銃『Et Omnia Vanitas』を入り口に構える。

 

「ちょっちょっとアズサ、少し落ち着いて…!」

 

そんな彼女を落ち着かせようと先生が声をかけたその時、

 

「きゃあああ!!?」

 

『ッ!!?』

 

教室内に絹を裂くような悲鳴が響いた。

 

何があったかというと…

 

「ね、ネイトさん…?!本当にやるんですか…!?」

 

「これが一番確実なんだよ。」

 

あの後、準備を整えたネイトはマリーをお姫様抱っこの姿勢で布でくるまれて抱えられ外に背中を向け足を屋根の縁に掛け今にも飛び降りそうな格好になっていた。

 

「さすがのB.B.E.も皆のいる教室にはトラップを仕掛けないはず。変に身構えているだろうから一気に飛び込んだほうが被害も少ない。」

 

「それはそうでしょうけど…!」

 

確かにネイトの言い分ももっともだが一修道士見習いのマリーにはこの後に起こる事など確実に未知のことだ。

 

尻込みするのも当然だが…

 

「何、目を瞑ってたら一瞬だ。しっかり捕まってろよ。」

 

「まっ待ってください…!まだ心の準備が…!」

 

そんな彼女の制止を無視するように、

 

「行くぞ、マリー…!」

 

ダンッ!

 

ネイトは思い切りよく脚を伸ばし後ろ向きで宙に飛び出した。

 

「きゃあああ!!?」

 

感じたことのない浮遊感とロープによって与えられる遠心力を味わい抱えられたマリーは悲鳴を上げる。

 

ネイトは即座に身体に巻き付けたロープの長さを調整。

 

ブゥオンッ!!!

 

振り子の原理で振り幅は増幅しその軌道上にはピタリと開け放たれた窓がある。

 

そして、二人はそのまま…

 

ズバァッ!

 

シュタン!

 

「到着っと。マリー、もう大丈夫だぞ。」

 

「はっはふ~…。」

 

「「「「えぇッ!!?」」」」

 

教室の後方の開けたスペースに飛び込んだ。

 

予想通り、教室にはトラップはなくロープを解いていると…

 

「えッ!?ちょッネイトさん!?」

 

「あれ、先生じゃないか。何でここに?」

 

まさかの登場に驚愕する先生や、

 

「ムッ教官!?ラぺリングは想定外だ!」

 

「B.B.E.、トラップの腕は中々だが公共の建物をトリックハウスにする奴があるか。」

 

想定外の方法でトラップの巣窟を突破してきたネイト達に驚くアズサ、

 

「あはは、ネイトさんにはお見通しのようでしたね。」

 

「よっP.P、ご執心のあまりテストをすっぽかしたんだって?」

 

「それはもう!ペロロ様は他のすべてに優先されますから!」

 

「ひ…ヒフミ?多分褒められてないと思うよ…?」

 

ネイトの皮肉交じりの挨拶に誇らしげに答えるヒフミ、

 

「ととっマリー、今下すからな。」

 

「きょ、今日も平和と安寧がぁ…貴方と共に…ありますようにぃ~…。」

 

「…あらぁ♬素敵なハグでの乱入だなんて♪ネイトさんもマリーちゃんも大胆ですねぇ♬」

 

「…Ha.P、君も相変わらずなようで安心したよ。」

 

初体験のラぺリングでヘロヘロになっているマリーを見て面白そうに微笑むハナコ、

 

「ちょッちょっと!そんな抱きしめるだなんて死刑よ!」

 

「吊り下げてるだけだ、HHExecutioner。おんぶするより相応しい抱え方だと思うが?」

 

相変わらず思考がむっつりでネイトとマリーの状況を捲し立てて注意しるコハル。

 

「いやはや…補習させられて落ち込んでいるかと思ったが元気そうでなによりだな。」

 

なんやかんやこうして四人ともと顔を合わせるのは…ビナーとの戦いの前の騒動以来本当に久しぶりだ。

 

「はい、ネイトさんも怪我が治って元気になったようでよかったです。」

 

「うん、ニュース見てとても心配していたけどまた元気な教官と会えてうれしい。」

 

「ふ…ふん!ツルギ委員長に挑むだなんて無茶やったんだから少しは大人しくしなさいよ!」

 

言い方こそ三者三様だがヒフミたちもネイトとの再会を喜んでくれているようだ。

 

そして、

 

「えぇ…本当に…またネイトさんのお元気な姿を見れて私もようやく安心することが出来ました…。」

 

ハナコは先程のからかうのを楽しむ表情から一変し柔和な微笑をたたえ心の底から喜んでいるようである。

 

「…Ha.P、しばらく連絡が取れなくてすまなかったな。」

 

彼女がここにいる理由の一端を担ってるやもしれないと思い身を隠していたことを詫びるネイトだが、

 

「えぇ、本当ですよ…。おかげでそれはもう色々と『濡らして』しまって『発散』しなければ辛抱できませんでしたもの…。」

 

相変わらず受け取り方で意味深に聞こえる思わせぶりなことを語るハナコ、

 

「ハナコぉッ!!!アンタ、いきなり何言ってんのよぉ!!?」

 

「あらぁ~?私は涙で枕を濡らしていただけですよぉ、コハルちゃん?」

 

「~ッ!!!」

 

「…まぁ元気になってくれたようでよかったよ。」

 

それにコハルが噛みつきからかうのを見て少しは元気になったことを確認でき少し安堵するネイトだった。

 

「そっそれでネイトさんはどうしてここに?」

 

「俺はマリーに誘われて皆の様子を見に来たんだ、先生。…マリー、大丈夫か?」

 

「な…何とか…。ふぅ~…初めまして、先生。シスターフッドの『伊落マリー』と申します。」

 

ようやくマリーも落ち着きを取り戻し初対面である先生に挨拶と自己紹介を行い、

 

「初めまして、マリー。それで、君がここにやってきた理由は何かな?」

 

「はい、本日は補習授業部の白洲アズサさんを訪ねてこちらに参りました。」

 

「私に?」

 

アズサにようがあったことを明かす。

 

首を傾げるアズサにマリーは微笑みながら、

 

「実は…先日アズサさんが助けてくださった生徒の方から感謝をお伝えしたいとのことでして。諸事情がありましてこうして私が代理で参りました。」

 

彼女が行った善行であり…補習授業部に来ることとなったある事件について説明し始めた。

 

「感謝?」

 

「クラスメイトの方々からいじめを受けていた方がいらっしゃいまして…その日もどうやら突然、建物の裏手に呼び出されてしまったのだと聞きました。」

 

悲しい話だが…いかにお嬢様校のトリニティと言えど『いじめ』というものは存在している。

 

しかも、お嬢様校故それは表に出ない…非常に狡猾で陰険で質の悪いものが多い。

 

件の生徒の件もまさにそれだ。

 

「そうして呼び出されてしまった日…そこを遇戦通り過ぎたアズサさんが彼女を助けてくださったとのことで…。」

 

「そっそうなんだ…。」

 

「…そう言えばそんなことな。ただ…数に物を言わせて弱い対象虐げる行為が目障りだっただけだ。」

 

そこをアズサが偶然ではあるがその生徒をいじめから救出したのだが…問題はこの後だ。

 

「その後にアズサさんに怒られた方々がその…正義実現委員会と連絡を取られてどこで情報を湾曲されたのか分からないのですが…。」

 

「えッ!?」

 

「…あぁ~それでB.B.E.は正義実現委員会相手に催涙ガスを1t使って大立ち回りすることになった…ってことか。」

 

声が大きい者の方が先に注目されることは世の常だ。

 

いじめていた者たちからすれば軽い仕返しのつもりだったのだろうが…結果的にアズサは正義実現委員会に逮捕され補習授業部に来ることとなってしまった

 

「なにがどうであれ…売られた喧嘩は買う。あの時も弾薬さえ切れてなかったらもっと長く戦えていたしあれ以上に道連れも増やせたのに。」

 

「あ、アズサちゃん…。」

 

「先生としてはもっと穏便に収めて欲しかったかなぁ…。」

 

アズサ本人は全く気にすらしておらずむしろ再戦に燃え…

 

「…そうだ。教官、私にもアビドスの皆みたいな何かCQC用の武器を…!」

 

「ちょっと!?なんで俄然やる気になってんのよ!?」

 

「うふふっアズサちゃんはとっても欲張りさんですねぇ♪」

 

目を輝かせてネイトに最後の手段である近接武器をねだるのだった。

 

「まぁその話は後にでもしよう。マリー、続きを。」

 

「はい、それでその肩が報告も兼ねて私たちの元を訪ねてくださりあずささんに感謝したかったのですが学園内では見つけられずにここに辿り着いたという次第です。」

 

「…そうか。別に感謝されることじゃない。最終的に私も捕まったわけだし。」

 

「後半は特に関係ないと思いますが…。」

 

「そうなのか、ヒフミ?…ともかく、あの自体は気の毒だけどいつまでも虐げられてるだけじゃダメ。それが例え虚しい事であっても抵抗し続けることを止めるべきじゃない。」

 

「………そうかもしれませんね。はい、あの方にもそう伝えておきます。」

 

そうぶっきらぼうに返すアズサを見てマリーも微笑んで彼女からの伝言を与ることにした。

 

そして、

 

「…B.B.E.、ちょっと。」

 

「む?どうかしたか、教官?」

 

ネイトは彼女を呼び寄せ、

 

ポスッ

 

「ん?教官?」

 

「暴れて捕まったことは決して褒められるべきじゃない。だが…虐めから人を救ったことはよくやった。偉いぞ。」

 

アズサが起こした騒動を諫めつつもそこに至った彼女の行いを頭を撫でながら褒めるのだった。

 

最初こそ意図が分からずぽかんとしていたが…

 

「………エヘヘ…ありがとう、教官。」

 

伝わるネイトのごつごつとした温かい手の感触が伝わりアズサも頬を綻ばせるのだった。

 

「ちょ、ちょっと!いきなり女の子の髪に触れるなんてマナー違反よ、ネイトさん!!!」

 

と、やはりというべきかこの光景を見たコハルが噛みついてくる。

 

「む?私は構わないぞ、コハル?」

 

「えぇ、ネイトさんは決して邪な気持ちでそんなことしませんから♪」

 

「そう言う問題じゃないの!!!」

 

全く気にしてないアズサとハナコにも勢いそのままに返すが…

 

「カッカするな、HExecutioner。そんなんだからいきなり2年生のテストなんか受けるんだぞ。」

 

「なッ!?何でそれを!!?」

 

「これでも耳はいいんだ。正義実現委員会の子たちが噂しているのを聞いてな。」

 

ネイトにここにいる理由をズバリ指摘され驚愕する。

 

そう、この補習授業部で唯一コハルは『真っ当』にここにいる生徒である。

 

なにしろ1年生なのに飛び級を狙い2年生のテストに挑み…3回連続で赤点を叩き出しているのだ。

 

どうしてそうなったかというと…

 

「うーッ何よ!私は正義実現委員会のエリートになるのよ!!!これくらいのことできて当然!!!」

 

コハルの負けん気強さ故といったところか。

 

「でも、コハルちゃんは1年生なんですからちゃんと1年生のテストを受けないと…。」

 

「うっさいわね、ヒフミ!!!エリートになるんだった1年生のテストだなんて受けなくても…!」

 

今度はヒフミに指摘されるも食って掛かるので…

 

「…HExecutioner…いや、コハル。」

 

「ッ!?」

 

ネイトはあだ名ではなく名前で彼女を呼び、

 

「この鉛筆の上にこの本を置いてみろ。」

 

教室後方に置いてあった未使用の鉛筆と本を数冊持ってきてそう告げた。

 

「そっそんなのエリートの私には簡単よ!」

 

と、相変わらず勝気な態度を崩さないコハル。

 

勇んで鉛筆を一本取りネイトに言われた様に本を置き始めるが…

 

バタンッ!

 

「も、もう一回!」

 

ドサッ!

 

「ま、まだよ!」

 

スッ…

 

「やっやった…ガタン!あぁッ!?」

 

何度やっても本を乗せた鉛筆は立ってくれない。

 

「どうだ?なかなか難しいだろ?」

 

それを茶化すでもなく淡々と尋ねるネイトに…

 

「う~ッ!!!じゃあネイトさんやって見なさいよ!!!」

 

苛立ったコハルはネイトに実演を求めてきた。

 

「いいぞ。」

 

そう言うや否や…

 

ジャラジャラ…

 

「………え?」

 

ネイトは両手で持てる限りの鉛筆を持ち出しそれを机の上に立て…

 

トサッ

 

難なく本をその上に置き…

 

「よいしょっと。」

 

トササササ…!

 

さらにその上に本を重ね、最終的に10冊の本を乗せた鉛筆の束が現れた。

 

「…どうだ、見たか。」

 

「ちょ!?そんなの卑怯よ!?私は一本でやってたのに!!!」

 

少々自慢げなネイトに抗議するコハルだが…

 

「…いいか、コハル。さっきやっていたのが…今の君だ。」

 

「え…?!」

 

途端に真剣な眼差しとなったネイトに一気に声が小さくなる。

 

「エリートっていうのはいきなりなれるものじゃない。むしろ、エリートだからこそ『基礎』を重要視する。」

 

「きっ基礎…?」

 

「そうだ。基礎をおろそかにすればこの本だけじゃない。建物も人間関係も…ありとあらゆるものを高く大きくすることはできないんだ。」

 

ネイトは先ほどコハルが立てようと躍起になっていた一本の鉛筆と自分が立てた鉛筆の束を交互に指さしながら語る。

 

「今のコハルはまさにその一本の鉛筆だ。それじゃ…幾ら気合を入れても『エリート』になれはしないぞ。」

 

「うっ…!」

 

「ちょ、ちょっと師匠…。」

 

あまりにもストレートな指摘にコハルは涙目になり縮こまり、先生も少しネイトに苦言を呈しようとする。

 

が、

 

「…だから、時間をかけて基礎をしっかりと身につけろ。」

 

そう言い、ネイトは鉛筆を数本手に取り…

 

「ほら、今度はこれも使ってやってみるといい。」

 

コハルにそれを渡し先ほどと同じようにやらせてみせる。

 

「………うん…。」

 

彼女も静かにそれを受け取り先ほどの一本と共にそれらを一つの束にまとめてみると…

 

ストッ

 

「やっ…やった…!」

 

「おめでとう、エリートへの第一歩だな。」

 

今度は本を乗せてもぐらつくことなくしっかりと立ったのだった。

 

「そう言うことだ、HExecutioner。焦らずしっかり鉛筆を増やしていく努力を続けるように。」

 

「わっ分かってるわよ!見てなさい、絶対に補習を突破してやるんだから!!!」

 

呼び方を元に戻し浅く笑いながら締めくくるネイトに元の元気を取り戻したような勢いで嚙みつくコハル。

 

すると…

 

「…!…じゃあ、ネイトさんはどうなのよ…?!」

 

「どうって何がだ?」

 

「そこまで言うんだったらネイトさんも相当エリートなんでしょう!?それを証明して見せなさいよ!!!」

 

まるで鬼の首を取ったように捲し立て始めるコハル。

 

ここまで言われてさすがに仕返ししたくなったのだろう。

 

「ちょっとコハル。いきなりそんな無理言っちゃいけないよ?」

 

「そうですよぉ?ネイトさんが優秀なのはもうコハルちゃんだって知ってるじゃないですか?」

 

そんななんとも子供らしい反撃を先生とハナコは諫める中、

 

「…デジャヴか?なんだか今朝も似たようなこと言われたような気がするな。」

 

ちょうどここに来る前に交わしたレイナたちとの会話を思い出すネイト。

 

…思ったよりも早く目的は果たせそうだ。

 

「…そこまで言うなら一つやってみるか。」

 

「どうするつもりだ、教官?」

 

「ここは補習授業部なんだろ?模擬テストの一部や二部位あるはずだ。」

 

「えッネイトさん、テストを受けるんですか?」

 

「いいじゃない、ヒフミ!分かりやすくていいわ!」

 

「…分かりました。模擬試験の問題と答案を持ってきますね。」

 

「マリー、すまないが少し時間貰うぞ。」

 

「分かりました。…私も見学させてもらいますね。」

 

と、こうしてネイトが約数十年ぶりのテストを受けることと相成ったのであった。




真の教育には、物質上の設備以上に教師の資格と熱心と、学生の研究心が大切である。
―――教育家『津田梅子』
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