Fallout archive   作:Rockjaw

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我々が食事をできるのは、肉屋や酒屋やパン屋の主人が博愛心を発揮するからではなく、自分の利益を追求するからである。
―――経済学者『アダム・スミス』



Midnight Food Fight

トリニティの中心地からほど近いアクアリウム近傍。

 

そこでは…

 

「ねぇぇぇぇッ!私達、なんでこんなとこまで来ちゃったの!!?ここってトリニティのど真ん中じゃん!!?」

 

「仕方ありませんよ、ジュンコさん。あの『ゴールドマグロ』と聞いては黙ってみているわけにはいきませんし☆」

 

「フフッ…あの伝説のマグロをただの観賞用として扱うだなんて…。そんなこと、美食に対する礼儀がなっていないと言う物ですわ。」

 

「うわわッ!このマグロまだ元気でビチビチ跳ねるよ!?うわッぷ!?ヒレでビンタしないでええええ!」

 

爆発による火災と煙が舞い上がるアクアリウムを背景にゲヘナ…いや、キヴォトスきってのテロリスト集団、美食研究会が金色に輝くマグロを抱えて絶賛逃走中であった。

 

「イズミッちゃんと捕まえててよ!それ、すっごく高いんだからね!」

 

「なんと言う鮮度…!やはり、ただの見世物としてお金稼ぎの手段に終わるなどこの『ゴールドマグロ』さんも望んでいないはず…!」

 

「ところでコレいつ食べれるの!?マグロにビンタされるし黒いセーラー服の子達に追いかけられるしそろそろお腹空いたんだけど!?」

 

「本当ならフウカさんを攫っ…連れてくる予定でしたが約束は取り付けてますからゲヘナまでの辛抱ですよ。」

 

「黒いセーラー服ってそれ正義実現委員会じゃん!!?こっちの風紀委員会と同じくらいヤバいよ!?どうするの、ハルナ!?逃げ切れるの!?」

 

そんな連中がトリニティのど真ん中で派手に暴れて騒ぎが起きないはずがない。

 

既に周囲には正義実現委員会の隊員が展開しハルナたちを捕縛しようと追撃を仕掛けている。

 

各地で問題を起こしている美食研究会はその精強さを身に染みて理解している。

 

だが…

 

「フフッ…逃げ切れるかどうかなんて…大した問題ではありませんわ。」

 

美食研究会部長、黒舘ハルナはこの状況にいたっても優雅さと自信を崩さない。

 

「もっとも重要なのは…食べられるか、否か!つまりは『食べるか、死ぬかEAT or DIE』!!!ただその二択のみ!それこそが…私達美食家が歩むべき孤高の道なのです!!!」

 

そう高らかに宣言し、自らの愛銃『アイディール』を迫る正義実現委員会に向け構える。

 

「結局こういうことですね☆私達らしく行きましょうか♡」

 

アカリもそれに呼応し『ボトムレス』を構え…

 

ズダダダダダッ!!!

 

二人の得物が火を噴き銃弾が正義実現委員会に襲い掛かる。

 

「そんな高らかに喋ってないで適当に戦って早く逃げないと!!!」

 

「もちろんですわ、ジュンコさん!さぁ、包囲網を破ってゲヘナまで退却です!帰りを待つフウカさんに新鮮なマグロのお造りを作っていただかねば!!!」

 

こうして、美食研究会はゴールドマグロを抱えたまま正義実現委員会との交戦に突入するのだった。

 

《ところでハスミ先輩!今どちらっすか!?早くご命令を頂かないとツルギ先輩が発射…じゃなかった飛び出しちゃいそうっすけど!!?》

 

当然、この情報はイチカからハスミにも伝達される。

 

相手は美食研究会、如何に正義実現委員会と言えど決して侮れない相手だ。

 

現に現在交戦中の部隊は徐々に負傷者が拡大、包囲網が破られるのも時間の問題だ。

 

「つっツルギはとりあえず止めてください…!私は今その…私用で少々外に…。」

 

そんな一大事に『ダイエットに耐えきれず夜パフェを三杯ドカ食いしてた』などと言えるわけもなくハスミも言葉をぼかす。

 

が…

 

《そんな無理っすよ!!?ハスミ先輩以外じゃ早々止められな…!》

 

イチカの悲鳴に似た音声が響いた、次の瞬間…

 

《あぁッツルギ先輩ぃッ!!?待って、行かないで!あとそっちはドアじゃなくて壁―――》

 

ドガッシャアアアアンッ!!!

 

まるでトラック事故でも起こったような衝撃音がスピーカーから響き渡り…

 

《………とりあえず私達も一旦追いかけて出撃するっす…。ハスミ先輩も早く来てくださいね…。》

 

戦闘を終えた後のようなイチカの疲れ切った声を最後に通話は切れた。

 

『………。』

 

途中からスピーカーに切り替えてもらっていたがなんともカオスな状況。

 

店内にいる全員の間に沈黙が流れ…

 

ドォォォォン…ッ!!!《/text》

 

遠くから聞こえる爆発音が嫌でも先ほどの通話が事実だと思い知らされた。

 

「…近いな。爆発音からして…ここから1㎞以内の所か。」

 

「え、えぇ…?!」

 

「おそらくハルナのC-4だろう。奴のことだ、ビルの2~3棟更地にできるくらい持っててもおかしくないな…。」

 

「ど、どれだけヤバい連中なのよ…!?」

 

しかも、その戦場はこの店からそう離れていないようである。

 

すると…

 

「………皆さん。」

 

ハスミは意を決したような表情を浮かべ…

 

「突然の事ですみませんが…皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」

 

「は、ハスミ…?」

 

この場の全員に対し頭を下げ事態終息のための助力を求める。

 

「今はエデン条約を目前に控え色々過敏な時期です。この問題がはたから見て『正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捉えられてしまいますと…状況がさらに不利になることは想像に難くありません。」

 

ただでさえエデン条約はゲヘナが有利になるように事が進んでいる。

 

マコトのことだ。

 

これ以上大きな問題を起こせばさらなる割を喰らうことは目に見えている。

 

「つまり…補習授業部の皆さんと『シャーレ』が一緒に解決してくださる…そう言う構図が望ましいのです。先生、お願いできますでしょうか…?」

 

そこにシャーレが介入すれば『問題解決のための超法規的措置として生徒を指揮した』と恰好がつく。

 

「…分かったよ、ハスミ。よし、じゃあ補習授業部一同出発だよ。」

 

先生もその申し出を即決で承諾。

 

「了解した。先生の指示に従う。」

 

「えぇッ!?一いきなり戦闘ですか…!?あ、あうぅ…!」

 

「ふふっ…まぁ先生がそう仰るのであれば♡」

 

「あっわ…私も…?先生と…ハスミ先輩と一緒に…?」

 

「…こうして肩を並べる時期が来るとは思ってましたが…想像より早かったですね、コハル。」

 

「はっはい!頑張ります…!」

 

こうして補習授業部とハスミの即興チームが構成された。

 

そして…

 

「…ネイトさん、シャーレの顧問として…生徒達への支援を要請します。」

 

先生はネイトに相対し弟子としてではなく『シャーレ』の捜査官として問題解決に力を貸すことを求める。

 

「…はぁ、やれやれ。」

 

ネイトはそう呟く、目の前のパフェを一気に掻き込み…

 

「シャーレの要請なら断れないな。ついでに弟子の成長度合いのテストも兼ねて力を貸そう。」

 

シルバーシュラウドの衣装とヘビーコンバットアーマーを全身に纏いレーザーライフルを脇に提げ席を立った。

 

「ッ…ありがとうございます…!」

 

「ただし、弾代とここのパフェの料金はそっち持ちな。」

 

「もちろん!」

 

「さて…カレン、シホ。二人はどうする?」

 

報酬の話も手早く済ませカレンとシホに参加の意思を問うと…

 

「……じゃあ私も狙撃で援護するね、先生。」

 

カレンはトレードマークの外套と帽子を身に纏いM40A5を背負い、

 

「負傷者もいらっしゃるでしょうから私も参加します。」

 

シホも愛用の防弾ベストとヘルメットを装着し席を立った。

 

「…大丈夫なの?相手はテロリストの美食研究会なのよ?」

 

カレンとシホを見て不安そうに呟くコハル。

 

物静か…というより彼女からすれば不愛想とも思えるカレンと銃を持っていないシホ。

 

極々普通のキヴォトス人の常識からすれば確かに枠組みから外れた生徒達だ。

 

ネイトとともにいるとはいえその実力は彼女にとっては未知数。

 

だが…

 

「コハル、人を見かけで判断してはいけませんよ。」

 

「ハ…ハスミ先輩?」

 

「そうだよ、コハル。口で説明するのは難しいけど…彼女たちはネイトさんが認めた『戦友』なんだからね。」

 

「せ、先生まで…?」

 

そんな彼女にハスミと先生は自信ありげな表情で彼女の不安を解きほぐした。

 

「そう言えばしっかりと先生や教官の下で戦うのは初めてか。」

 

「この前は本当にいきなりだったからそう言う余裕はなかったな、確かに。」

 

「遠慮はいらない、教官。ビシバシ私のことはを使って。」

 

そう言い、ネイトに対し背筋を伸ばしどこか楽しみなのか目を輝かせて言い放つアズサ。

 

「あらまぁ…♡」

 

「言い回しは気になるが…先生もいるんだ。もう少し肩の力を抜いて行けよ?」

 

「さて…じゃあ、皆。安全第一で行くよ?」

 

『了解!』

 

先生その掛け声で即席のシャーレ主導の合同チームは戦場に向け店を飛び出していった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

ズダダダダダッ!!!

 

ドォオオオンッ!!!

 

チュィンチュウゥンッ!!!

 

「さぁ、正義実現委員会の皆様!そこをお退きになってくださいな!」

 

「せっかくのゴールドマグロ、新鮮なうちに頂かなくては罰が当たってしまいます!」

 

「ちょちょちょッ今危なかったよ!?ヒレだったからよかったけど!」

 

「やってくれたわね!?こんな高級品、傷付けたらただじゃ置かないわよ!?」

 

「きゃあッ!?」

 

「大丈夫!?」

 

「厄介な連中ですね、美食研究会!」

 

なおも美食研究会と正義実現委員会の一団は激しい銃撃戦を展開。

 

流石はキヴォトスで最大級に警戒されているテロリストの一団。

 

実戦慣れもかなりの物で正義実現委員会と五分以上にわたり合っている。

 

「救援はまだなの!?」

 

「待って、ハスミ先輩がもうすぐ…!」

 

遮蔽物に隠れながら応戦し救援を待つ正義実現委員会の隊員たち。

 

その時、

 

《こちら、ハスミ。間もなく現着、東側より突入するので誤射に注意。》

 

「ッ!了解しました!」

 

無線機から流れたハスミの声に沸き立つ彼女たち。

 

…その時、

 

バギャンッ!!!

 

「きゃあッ!?」

 

ジュンコの二挺アサルトライフル『ダイナーズアウトロー』の一挺がレシーバーから砕け散り、

 

…オオオン

 

弾着から少し間を置き微かな銃声が響き渡る。

 

「ちょッ何!?どっから撃たれたの!?」

 

「あの俊敏なジュンコさんの銃を一撃で…?」

 

「あら、トリニティにも凄腕の狙撃手がいらっしゃいますのね!」

 

「うわぁヤバいんじゃない!?そのスナイパーにマグロ狙われたら!?」

 

想定外の強襲に意識を裂かれる美食研究会の面々。

 

その間隙を突くように…

 

《……こちらランナー。四人の気をそらせたよ、先生。》

 

「了解、ランナー!両部隊、現場に突入を!」

 

「バウンサー01、了解!」

 

「交戦を開始する…!」

 

「二人と一緒なら大丈夫です!」

 

先生の指示でネイト・アズサ・ヒフミの『バウンサー』隊、

 

「キャッシャー01、突入します!」

 

「い、今のってあの子がやったの…!?」

 

「フフッ、本当に只者じゃありませんでしたねぇ♡」

 

ハスミ・コハル・ハナコの『キャッシャー』隊が戦場に突入。

 

ズバババァンッ!

 

「ッ!?こっこの赤い閃光は!?」

 

夜闇を一閃しレーザーがハルナのコートと銃のストックに着弾。

 

キヴォトス広しと言えど…こんな攻撃を放つ人物は一人しか心当たりがない。

 

「久しぶりだな、美食研究会!!!」

 

「えぇッ!?ネイトさん!?」

 

「ちょ、なんでトリニティに!?」

 

「まさかの飛び入りゲストですね!!!」

 

ネイト参戦に浮足立つ美食研究会の面々。

 

戦場に入るや否や、

 

「確かシチュエーションも大事だったよな、ハルナッ!」

 

ガシャンッ!!!

 

ネイトは美食研究会の正面に陣取るように軍用バリケードをクラフトする。

 

「ば、バリケードが?!」

 

「やはり教官の神秘はとんでもないな!」

 

一瞬の出来事に驚くヒフミと目を輝かせるアズサだがこれ幸いとネイトとともにそのバリケードに飛び込む。

 

「俺は二人を抑える!アズサ、赤い髪の奴を狙え!ヒフミは短連射で制圧射撃!」

 

ズバババァンッ!

 

二人に指示を飛ばし遮蔽物からわずかに照射口を覗かせネイトはハルナとアカリ目掛けレーザーを照射を開始。

 

「熱ッ熱ぅッ!?相変わらず一発でウェルダンになりそうな火力ですねぇ?!」

 

「言ってる場合じゃありませんわ、アカリ!!!美食研究会が調理されるなど名折れですよってあちゃちゃちゃっ!?」

 

美食研究会のブレインはこの二人と言っていい。

 

その二人を抑え込めば脅威はグンと下がる。

 

「了解、教官!」

 

「分かりました!」

 

ズパパパパァンッ!!!

 

ズパパパンッ!!!ズパパパンッ!!!

 

そこにアズサの精密射撃とヒフミの制圧射撃が襲い掛かる。

 

「イタタタタッ!!?ちょ、ちょっとは手加減してよ!!?」

 

「ちょっとぉ!?マグロ傷付いたらどうするのぉ!?」

 

アズサの弾丸に痛がるジュンコと相変わらずマグロを抱えてそちらの心配ばかりのイズミ。

 

突如のネイトの強襲に一時は浮き足立つも…

 

「イズミさんッ!こちらも負けてられませんわよ!」

 

「分かったよ!ゴールデンマグロは渡さないんだから!!!」

 

それでケリがつくほど美食研究会はひ弱ではない。

 

ハルナがマシンガンナーのイズミに『デイリーカトラリー』での反撃を指示する。

 

だが、

 

「キャッシャー隊、ポジションにつき次第バウンサー隊の援護を!」

 

「了解しました、先生…!」

 

ネイトたちが気を引きつけているうちにハスミ率いる『キャッシャー』は別方向から美食研究会を狙えるポジションに配置が完了。

 

「装填完了、これより敵を殲滅します…!」

 

「で、できる…!わ、私にだってできる…!」

 

「はい、皆ならきっと勝てますよぉ~♡」

 

ズダァン!!!ズダァン!!!

 

ズパパパ…ッ!

 

「べっ別動隊!?」

 

「うわぁッこれじゃ撃てないよ!!?」

 

ボルトアクション銃である『M1917エンフィールド』のハスミと『インペイルメント』とコハルの『ジャスティス・ブラック』、ハナコのL85A2『オネストウィッシュ』による精密射撃によってイズミの制圧射撃を遮断。

 

「両部隊、そのまま釘付けに!ウェイトレス、正義実現委員会の子達の元へ!!!」

 

「こちらウェイトレス!負傷者の治療に向います!」

 

二つの部隊によって美食研究会を封殺しシホが戦場に進入し戦場を全速力で横断していく。

 

「全員、ウェイトレスをカバーしろ!」

 

「銃を持たずに…?!本当に勇敢な生徒さんですね…!」

 

「あの大荷物であれだけの速さ…まるで…!」

 

正義実現委員会ウチの子達をお願いします、シホさん…!」

 

「あれがアビドスの…!」

 

「救護騎士団よりもアグレッシブな方ですねぇ♪」

 

それをネイト達が制圧射撃を行い援護し…

 

ズザァッ!

 

「負傷された方はいますか!?」

 

「あ…貴方は…?!」

 

「アビドス高等学校衛生官のシホです!」

 

シホが身を隠す正義実現委員会の隊員たちの元に到達。

 

すぐさまリュックを下ろし治療を開始する。

 

「ウェイトレスがテーブルに到着!バウンサー、キャッシャー!『バッドカスタマー』の制圧を!!!」

 

その報告を受けすぐさま先生は美食研究会の制圧を指示する。

 

「了解、マネージャー!ハナコ、グレネード弾を!」

 

「分かりましたぁ♡」

 

前線にて指揮をするネイトがすぐさまハナコへ指示を飛ばし、

 

「ちゃんと受け止めてくださいね?」

 

ボシュッ!

 

『オネストウィッシュ』に装着されたグレネードランチャーを発砲、

 

ボガァァァン!

 

「うわぁ!?ぐ、グレネードランチャーも持ってるの!?」

 

「あらぁ私とおそろいの方がいるようですねぇ…!」

 

「今ので車がぁ!?」

 

その一撃で美食研究会が身を隠していた廃車が粉砕され四人の姿があらわに。

 

「これは…!?皆さん、準備を!突撃が来ますわよ!」

 

この次に起こることをハルナは素早く察知するも…

 

「ヒフミ、アズサ、ハナコ、行進射撃!ハスミとコハルは支援狙撃を!!!」

 

「はい!」

 

「了解した!」

 

「参りましょ~♪」

 

ズバァンズバァンズバァンッ!

 

ズダァダァダァン!!!

 

ネイトが三人とともに躍り出て美食研究会が身を寄せる残骸に向け行進射撃を浴びせながら接近する。

 

「まっ拙い!!!早く何とかしないと…!」

 

「でしたらお返しをしなくては…!」

 

四つの銃口から放たれる攻撃で身動きが封じられる中、アカリが素早く『ボトムレス』を構え搭載されているグレネードランチャーのトリガーに指をかける。

 

ズダァン!!!

 

「キャンッ!?」

 

「は、外しちゃった…!」

 

そこへ後方からコハルからの牽制射撃が飛来。

 

外しはしたもののそれによりアカリの射撃を阻害する。

 

「いい狙いです、コハル!そのまま射撃し姿勢を維持を!」

 

ハスミも反撃に備えて射撃姿勢をとる。

 

「マグチェンジ!」

 

「カバー!」

 

「装填します!」

 

互いに声を掛け合い絶え間なく弾丸を撃ち込み徐々に間合いを詰めていくネイトたち。

 

すると、

 

ガキンッ!

 

「弾切れです!」

 

ハナコのオネストウィッシュの残弾が付きスライドがストップしマグチェンジの手間を惜しんだ彼女は…

 

シュパッ

 

スカートをはためかせた。

 

「はっハナコぉ!?あんた、何して…!?///」

 

またいつもの奇行がここで出たかとコハルがツッコみかけるが…

 

チャキッ!

 

パァンパァンパァン…ッ!

 

そこにはレッグホルスターが装着されており拳銃『H&K P7』を抜き射撃を再開する。

 

この銃は以前の『ノイヌ駅』での騒動の際、ネイトが彼女に投げ渡したあの銃だ。

 

その後はハナコ自らがカスタマイズを施し彼女のサイドアームとして『ヒドゥンロンギング』と名付けられ新たなる愛銃として太腿に佩かれている。

【挿絵表示】

「美食研究会、諦めろ!今なら拳骨で勘弁してやる!!!」

 

「教官のゲンコツは痛いぞ!早く降伏するんだ!」

 

接近しながら抵抗を止めるように説得するネイトとアズサ。

 

最早制圧は時間の問題かと思われたが…

 

「そう容易く諦めたとあっては美食研究会の名が廃りますわ、ネイトさん!」

 

ハルナはこの状況でも優雅さすら感じられる振る舞いで答え…

 

「『食べるか、死ぬかEAT or DIE』、このモットーはたとえあなたにも覆ませんわ!」

 

その信念を示すように高らかに起爆スイッチを掲げた。

 

「ッ!総員、美食研究会に爆発物仕様の企図あり!注意して!」

 

シッテムの箱によりそれを把握し警告する。

 

「了解、総員進軍停止!」

 

「キャッシャー、こちらからは発砲不能!」

 

「バウンサーもだ!」

 

射角の問題でどちらの部隊も阻止が困難な状況。

 

だが、

 

「ランナー、いけるか!?」

 

そんな困難な状況であったとしても…

 

「……うん、ちゃんと風は答えてくれてるよ…。」

 

カレンはしっかりとネイトの問いかけに答え…

 

ズダアォンッ!!!

 

『フェザーストロークⅡ』から銃弾を解き放った。

 

放たれた300WM弾は宙を裂きながら飛翔、

 

「さぁ、皆様もご堪能あ…!」

 

ハルナが掲げた起爆スイッチが押し込まれる寸前で…

 

バキィン!!!

 

「れ…あらッ!?」

 

「スイッチのレバーどこ行ったのよ、ハルナ!?」

 

彼女に弾丸が飛来したことすら察知させずにレバーの根元部分を撃ち抜き無力化した。

 

《……こちら、ランナー。起爆装置を破壊したよ。》

 

「了解した!起爆装置無力化、制圧を再開する!」

 

安全も確保し、進軍を再開するネイト。

 

「あ、あの距離からですか…!?」

 

「凄い…!これが教官のスナイパー…!」

 

「まぁ、なんてテクニシャンな方なんでしょうか…!]

 

「今…あの子何をやったの…!?」

 

「忘れないでください、コハル…!あれが…アビドスの精鋭の実力です…!」

 

一方、遥か彼方からハルナでも手でもなく起爆装置のレバーをピンポイントで撃ち抜く狙撃に舌を巻くもネイトに続き歩を進める。

 

「困りましたわ…!これでは仕掛けていた爆薬を起爆できませんわね…!」

 

「う~ん…どうやら完全に手詰まりのようですね☆どうしましょう…?」

 

「ど、どうするの!?とんでもないスナイパーまで連れてきちゃってるみたいよ!?」

 

奥の手も封じられネイトだけでなく遥か彼方には凄腕の狙撃手という隙のない布陣に手も足も出せない美食研究会。

 

その時だ。

 

ビチビチビチッ!!!

 

「うわわわぁッ!?ちょっと暴れないでよぉ!美味しく食べてあげるからぁ!」

 

イズミが抱えていたゴールドマグロが突然跳ねて暴れ始める。

 

流石はマグロ、最後の力を振り絞ったのかその巨体に見合った力で…

 

シュルゥッ!!!

 

彼女の腕から勢いよく宙高く跳び上がり…

 

ズバァンッ!

 

バジュウウウ…

 

『あ。』

 

「あぁっマグロがああああああ!!?」

 

不運にもネイトが照射したレーザーが一閃、一瞬のうちに骨すらも灰の山になってしまった。

 

「や…やってしまった…!」

 

「ネッネイトさぁん!!?」

 

「えッえぇ…!?何があったんですか…!?」

 

「マグロ、どこ行っちゃったの!?」

 

「な、なんという出力…!?」

 

「教官、今のは仕方がない!」

 

「あ…あらあらまぁ…。」

 

まさかの事態に固まってしまうネイトたち。

 

「ぶぇえええええん!!!ゴールドマグロ、灰になっちゃったぁああああ!」

 

「お…お造りにと思っていたのですが…?!」

 

「一欠けらも食べれそうにありませんね…!?」

 

「どッどうすんの!?食材無くなっちゃここまで来た意味ないじゃない!?」

 

目的のゴールドマグロが消滅しこのままではただ捕まるだけとなってしまった美食研究会。

 

骨折り損もいいとこなのだが…

 

「はっ!バラバラに逃げたら生存率が上がるんじゃない!?」

 

そう言うや否やジュンコは一目散に走り去っていった。

 

その小柄に違わぬすばしっこさで瞬く間に退散し、

 

「なるほど!良いアイデアですね、ジュンコさん☆では、足の速さ次第ですが弱肉強食と言うことで♪」

 

それに続いてアカリもそそくさとその場から走り去っていく。

 

「フフフッそうですわね!運任せとなりそうですが…それもまたスパイスのようなもの!それでは!」

 

さらにハルナも即座に撤退を開始し、

 

「えぇッ!?ちょっちょっと待ってよー!おいて行かないで―!」

 

イズミも慌てて逃げ去っていく。

 

が、スタートダッシュが遅れそもそも足が遅いのか既に3人は遥か彼方で…

 

「おっ置いて行かないでってばー!うわぁぁんッもうっ覚えてなさいよぉッ!!!いつか絶対仕返ししてやるんだからぁぁぁッ!!!」

 

どちらに向けたか分からない恨み言を泣きじゃくりながら逃亡するのであった。

 

「小癪な…!正義実現委員会、集合!」

 

これを見たハスミは正義実現委員会の隊員に集合を掛ける。

 

「手当、ありがとうございます!」

 

「動けない子をよろしくお願いします!」

 

「分かりました!無理はしないでくださいね!」

 

シホの手当てを受けた軽傷の隊員たちは彼女に感謝を述べて一斉に集まり、

 

「ここはトリニティ自治区、私達から逃げることは不可能です!これより美食研究会を追撃…!」

 

美食研究会へ追撃を仕掛けようとした。

 

その時、

 

チュドォンッ!!!

 

「キャンっ!!?」

 

鈍い着弾音と共に短い悲鳴が響き渡りそちらに視線を向けると…

 

「キュ~…。」

 

美食研究会部長、黒舘ハルナがドデカイたん瘤を作って地面に臥していた。

 

《……ごめん、ネイトさん。一人しか狙えなかった…。》

 

「何を言う!よくやった、カレン!」

 

無線で静かに知らせるカレンの報告を聞きネイトはハルナの拘束に向かう。

 

「走り去るキヴォトス人の頭部に一撃で…?!」

 

「凄い…!」

 

「感謝します、カレンさん!さぁ、皆さんいきますよ!正義実現委員会の実力を発揮するときです!」

 

驚く隊員たちを引き連れカレンへの感謝を述べてハスミたちは改めて追撃に移るのであった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

「先生に教官、私達は追撃しなくていいの?」

 

「あぁ、地の利は彼女たちがある。美食研究会一人一人なら問題ないだろう。」

 

「それにこれは本来正義実現委員会の任務だからね。これ以上の深入りは無用だよ。」

 

ハルナの拘束を終え移送車に放り込み戦場の安全を確認したのち、先生もやって来て今後の対応について話し合う一同。

 

ここがアビドスならばネイト達も繰り出すのだがここはトリニティだ。

 

美食研究会を切り崩した、これ以上街中で自分達が撃ち合うのはハスミの要請を超えてしまう恐れがある。

 

だから、本来の役目である正義実現委員会に任せた方が賢明なのだ。

 

それよりも…

 

「ネイトさん…。あれ…どうしましょう…?」

 

「………はぁ~どうしよう…。」

 

ヒフミに言われて嫌でも現実を直視しなければならないネイト。

 

アレとは…

 

「見事におっきなお魚がサラサラの灰になっちゃいましたねぇ…。」

 

「料理に失敗したって普通はこうならないわよ…。」

 

「フム…これが『ゴールデンマグロ』と言われても誰も信じないだろうな。」

 

ハナコたちが囲んでいるかつて『ゴールドマグロ』だった灰の山だ。

 

これでは猫も寄ってこないだろうと断言できるほどそれはもう見事に燃え尽きていた。

 

「誤射やらかすなんて…なんて体たらくだ…。」

 

「その…なんと言うか…元気出してください、ネイトさん…。」

 

「あの暴れ方は…幾らなんでも私にも予測できませんよ、師匠…。」

 

ズンと肩を落とし落ち込むネイトに慰めの言葉をかけるシホと先生。

 

が、

 

「馬鹿言え…。これがもし捕まってる人質だったら…そう言うことは言ってられないぞ…。」

 

ネイトは決してその言葉に甘えない。

 

今回のようなことが今後の戦場でも起こらないとは限らないうえに…取り返しがつかない事態になりかねない。

 

さらに…

 

「………賠償金はいくらになるんだろうか…。」

 

「そんなに高級魚なんですか…?」

 

「あのマグロの寿司一皿で…回転寿司だと軽く数十皿は食べれるだろうな…。」

 

「なっ何十皿!!?」

 

問題はゴールドマグロそのものの高級さだ。

 

かつての『ゴールデンフリース号』での休暇の際に食べ代金はミレニアムと連邦生徒会に押し付けたが一皿で4桁後半の値段に目玉が飛び出そうになった。

 

そんな高級魚、しかも他のアクアリウムでは展示されていない希少性も加味すれば…。

 

「金で決着が付けれるのは幸いだろうが…気が重いなぁ…。」

 

誤射というミスに賠償金、長い年月を生きてきたネイトにもこのダブルパンチは堪える。

 

その時、

 

「ご心配なく、ネイトさん。」

 

そう声をかけられたかと思うと…

 

ドシャドチャッ!

 

傍らになにやら湿り気のある重量物が投げ込まれた。

 

「うわわぁッ!?」

 

「これは…!?」

 

「ひっひえええ…!?」

 

「ず、随分と…!?」

 

見るとそれは…

 

「むきゅ~…。」

 

先程のハルナ以上に巨大なたん瘤をこさえて完全に伸びているジュンコと…

 

「………。」

 

ピクッピクピクッ…

 

「わっ…わぁ…?!」

 

「…シホ、手当てしてやれ。」

 

「りょっ了解です…!」

 

手足があり得ない方向に曲がりつぶれた状態のアカリだった。

 

こんな芸当ができるのはトリニティの中でも…彼女が筆頭に挙げられるだろう。

 

「…剛健っぷりは健在のようだな、剣先ツルギ。」

 

「ご無沙汰してます。貴方も壮健そうで何よりです。」

 

「つッツルギ委員長!?」

 

トリニティの『歩く戦略兵器』こと正義実現委員会委員長のツルギである。

 

あの連絡の後文字通り『駆け付けて』たった一人でこの二人を仕留めてきたのだろう。

 

「そっそれで…心配ないっていうのはどういう意味かな、ツルギ?」

 

「はっはい。今回のようなケースでは…。」

 

先生に尋ねられツルギは説明を始める。

 

まず初めに…今回は美食研究会がゴールドマグロを強奪したことが端を発している。

 

この時点で損害賠償の責任の大半は美食研究会にある。

 

対して、ネイト達の制圧行動は正義実現委員会とシャーレが要請した公的任務だ。

 

その際の損害はある程度『やむを得ない』と判断される上、いきなりマグロが射線に跳ねてきたという特殊性もある。

 

「…と言うことで責任というのであれば美食研究会、若しくは任務を要請した正義実現委員会我々が負うべきところです。」

 

「…そうか。そう言ってもらえると…少し気が楽になるな。」

 

ツルギの説明を聞き終えたネイトは少々元気を取り戻していた。

 

「だが、貴重な展示品を損壊させたのは事実だ。アクアリウムには寄付金としていくらか包むことにしとくよ。」

 

「それで問題はないと思います。」

 

「よかったですねぇ、ネイトさん♪」

 

と、そんな会話をしていると…

 

「……ただいま、ネイトさん。」

 

「おぉ、カレン。お帰…。」

 

これまた背後からカレンが声をかけてきたので振り返ると…

 

「グスッ…ヒグッ…!」

 

「ちょっ?!そいつって?!」

 

「……途中で道に迷って泣いてたから…連れてきたよ。」

 

美食研究会最後の一人であるイズミの手を引いているではないか。

 

「…やるな、カレン。イズミを銃を使わずに連れてくるなんて…。」

 

「す…スゴイね…!あれだけ暴れてたのに…!」

 

「きひひっ連行してくれて感謝する。手間が省けた。」

 

まさかの逮捕劇にネイトを始め先生とツルギと彼女に称賛の言葉を贈る。

 

「……ほら、イズミちゃん。皆もいるよ。」

 

「ありがとぉ、カレンちゃん…!…最後にまたアレちょうだぁい…!」

 

「……うん、いいよ。」

 

「またねぇ…。」

 

モシャモシャ…

 

カレンに促されイズミも観念したのか大人しく何かを貰って食みながら移送車に乗り込んでいくのであった。

 

「カレンちゃん、あの人に何を上げたんですか?」

 

「……野草のお茶っ葉だよ、ヒフミちゃん。落ち着かれるために飲ませようとしたら…そのまま食べちゃって…。」

 

「お茶っ葉をそのまま…ずいぶんワイルドな方ですねぇ…。」

 

「イズミの悪食っぷりは相変わらずのようだな…。」

 

何はともあれこれで美食研究会は全員拘束することができた。

 

その後、ハスミたちも帰還し昨今のゲヘナとの情勢も鑑み…

 

「ではネイトさん、私達はこれで。」

 

「そっちも気を付けろよ、先生。空崎ヒナによろしく伝えておいてくれ。」

 

「カレンとシホも協力ありがとう。」

 

「私もアビドスの戦術を感じることができていい勉強になった。」

 

「……私も皆の背中を護れて…よかったよ。」

 

「また機会がありましたらゆっくりお話ししましょう、二人とも!」

 

「はい、ヒフミさん。私も楽しみにしていますね。」

 

先生と補習授業部の面々が引き渡しのために移送車に乗り込みゲヘナとの自治領境界まで移送することとなった。

 

さらに…

 

「ネイトさん。この度の援軍、誠にありがとうございました。」

 

「なぁに気にすることはないさ、羽川ハスミ。久しぶりの実戦で勘を取り戻すにはもってこいだったさ。」

 

「またまたご謙遜を…。カレンさんにシホさんも狙撃に負傷した子たちの治療といろいろとお世話になりました。」

 

「皆さんが早く元気になることを願っています。」

 

「……またね、ハスミさん。今度は一緒にお茶を飲みたいなぁ…。」

 

「ふふっ…えぇ、とっておきのお菓子を用意してお待ちしていますよ。」

 

ハスミたち一部の正義実現委員会も有事に備え少し離れた場所からの警護のために離脱。

 

「…さてと、俺達も宿舎に帰るか。」

 

「明日も忙しくなりそうですしね。」

 

「……フワァ…眠い…。」

 

残されたネイト達もこの場では捜査の邪魔になるので退散することに。

 

すると…

 

「…ネイトさん。」

 

「…どうかしたか、剣先ツルギ?」

 

立ち去ろうとするネイトにツルギが声をかけ…

 

「オフレコで構いません。貴方は…エデン条約をどうお思いなんですか?」

 

真剣な表情でその問いかけを投げかけた。

 

「…前にサクラコにも同じようなことを聞かれたな、そう言えば。」

 

ネイトの脳裏に思い出されたのはD.U.での事件以前にサクラコに問われた同じ内容の質問だ。

 

普通ならばあの時と同じ答えになるはずだが…

 

「ふ~…む…。」

 

ネイトは顎に手を当ててしばし考え…

 

「…俺やアビドスの中で『エデン条約』の価値は向上している、というのが正直なところか?」

 

以前サクラコに返した答えとは少し違った答えを返した。

 

「意図をお尋ねしても…?」

 

「あのころとは情勢がこちらも変わっている。万が一、ゲヘナとトリニティがやり合えば…俺達も巻き込まれるからな。」

 

詳細はまだツルギには明かせないが…あの事件以前と以後では『アゲハ同盟』の価値は隔絶とした差がある。

 

ゲヘナがネイト救出に力を貸した以上、以前のようななぁなぁな関係ではいられない。

 

今の状況でもしトリニティがゲヘナに仕掛ければアビドスとネイトもゲヘナ側に立って参戦しなければならない状況になる。

 

「エデン条約の詳細は知らないが本質は『不可侵条約』だ。ぶっ放す前に話し合いで決着をつけてもらえたら…俺達も無用な出血をしなくて済む。」

 

良心の呵責は感じられない、どこまでも打算的な答えだ。

 

『アビドスに関わらないことは好きにしろ』とでも言わんばかりの無責任な答えにも思える。

 

カレンとシホを見ても特に反応していないことからこれはアビドスの共通認識だと判断できるだろう。

 

「一応、予想込みだが俺達の答えはこうだ。納得してもらえたか?」

 

しかし…いや、『だからこそ』といった方がいいか、

 

「…分かりました。その答えで十分です。」

 

ツルギも納得してくれたようだ。

 

トリニティで過ごすうちに彼女も額面通りに受け取ることのリスクは理解している。

 

それが交渉術に長けるネイトの言葉ならなおさらだが、

 

「私が知る貴方の気質とアビドスの情勢…それらを加味すれば先ほどの答えにズレはほぼないでしょう。」

 

それは裏を返せば答えを隠すメリットが無ければ隠すことはしないということでもある。

 

さらに、これまで対外的には仕掛けてこない限りは穏当な姿勢を堅持し続けてきたアビドス。

 

そのアビドスを第一に考えるネイトが…二大校の闘争に巻き込まれるリスクを軽視するはずがない。

 

となれば、先ほどの答えに裏はほぼないと判断していいだろう。

 

「納得していただけたなら…俺達はお暇してもいいか?」

 

「はい、お時間を頂き申し訳ありませんでした。」

 

「そうか。じゃあこれで…。」

 

ツルギの様子を見て改めて踵を返し帰路に就こうとするネイトだったが…

 

「…最後に少しだけ。」

 

ツルギが短くそう声を発した、次の瞬間…

 

「シィエアッ!!!」

 

シュボォッ!!!

 

ネイト目掛け拳を放った。

 

『ッ!!?』

 

カレンにシホ、この場にいた正義実現委員会の隊員たちが驚愕するも身動き一つ取れない中、

 

ボォウッ!

 

その拳はネイトに届く前で制止した。

 

キヴォトス人、それもツルギの拳など生身で食らえば一溜りもない。

 

先程のアカリを見れば一目瞭然だ。

 

「…おいおい、少しは年寄りに優しくしてもらいたいものだが?」

 

そんな状況であってもネイトはまるでじゃれついてきた子供をあやすような態度で話しかける。

 

「…キヒヒッ!」

 

ツルギも愉快でたまらないといった笑い声をあげる。

 

なぜなら…

 

「みっ見て…!ツルギ先輩の目の前…!」

 

「あっ…?!あんなにおっきなナイフが…!?」

 

ツルギの眉間に届く寸前に月明かりを浴びて怪しく輝く大振りのナイフ…『ディサイプルズ・カトラス』が突きつけられていた。

 

「ったくこっちはそっちみたいに頑丈じゃないってのに。」

 

「串刺しにしかけておいてまぁ…!よく分かりましたね…!」

 

「ぬかせ。ここに来た時から飛び掛かりたくてうずうずしてたくせに。」

 

「キャハハッ堪んねぇ…!」

 

一歩どころか指一本でも見誤ればどちらもただでは済まなかった状況だというのに笑みを湛え冗談すら言い合う両者。

 

傍から見れば狂気じみた一幕だが…

 

スッ

 

刃と拳が同時に収められ、

 

「生憎こっちには仕事で来ている。手合わせはまた今度だ、ツルギ。」

 

「えぇ…その時を楽しみにしておきます…!」

 

「それじゃ改めて…おやすみ。」

 

「よい夜を…。」

 

今度こそ別れの言葉を交わしネイト達は帰宅の途に就くのであった。

 

「なんだか…凄い時間でしたね…。」

 

「……夜のお出かけって結構ハードなんだね。」

 

「いや、こんなレアケースあてにされても…。」

 

夜中の甘味に美食研究会との戦闘、昼間のジャブジャブヘルメット団の救出も合わせると今日も中々ハードな一日だった。

 

「さて…明日も忙しくなる。さっさと宿舎に戻って休むことにしよう。」

 

明日はせめて平穏に過ごせるように、そうネイトは内心で願うのであった。




兵士は他の誰よりも平和を願う。なぜなら、兵士こそが戦争の深い傷と傷跡を負わされ、苦しまなければならないからである。
―――軍人『ダグラス・マッカーサー』
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