―――発明家『ライト兄弟』
ジャブジャブヘルメット団との邂逅や美食研究会との戦闘など盛りだくさんだった一日が開け…
「いや~昨日の大荒れが嘘のようだな。」
「……空も青いからもう天気は大丈夫そうだね。」
「それに誰も風邪をひかなくてよかったです。」
今日も今日とてネイト達は古聖堂周辺の調査に向かうために車で道を走っていた。
少々道はまだぬかるんでこそいるが調査への影響は警備だろう。
「今日で調査も折り返しだ。気を引き締めていこう。」
「はい、新しく調べなければならないことも分かりましたし頑張りましょう。」
「……図書委員会の資料も間に合ってよかったね。」
と、そんなお喋りをしながら間もなく古聖堂のある遺跡群の入り口に近づいていた…その時、
「…お?」
「どうかしましたか、ネイトさん?」
「先客がいるようだな。」
ネイトはそう呟くと速度を落とし入り口近くの駐車できるスペースに車を止め…
バタン
「来てくれたか、ラブ。それにジャブジャブヘルメット団。」
「おはよう、ネイトさん!ほら、アンタ達も挨拶して!」
『うっすッお世話ンなります!!!』
車から降りそこで屯していた集団、河駒風ラブ率いるジャブジャブヘルメット団の面々に挨拶を交わした。
「おはようございます、皆さん。あの方の容態は…。」
「うん、もう山場を越えたから治療を続ければ回復するってさ!昨日は本当にありがとう、シホ!」
「……よかったね、ラブちゃん。」
「それもこれも三人のおかげだよ!それに仕事までくれるなんてなんてお礼を行ったらいいか…!」
「礼はいいさ。こうやって手伝ってくれるのでチャラだ。さて、さっそく2~3書類を書いてもらいたいんだが…。」
お喋りもそこそこにネイトはこの場にいるジャブジャブヘルメット団の全員に普段から使っている短期雇用のための書類を取り出し記入させ始める。
「あっと日付は昨日のにしてくれよ。そうじゃなきゃ保険が使えないからな。」
「………ヘルメット団のうち等が言えた義理じゃないけど…本当にいいの…?」
「なぁに社長としての特権だ。一日くらいずらすのなんてわけないさ。」
と、そんな少々グレーゾーンなやり取りも交えながら…
「よし…契約成立。これではれてジャブジャブヘルメット団はW.G.T.C.の社員だ。」
ラブ達は必要な書類への記入を終えW.G.T.C.の短期契約社員となったのであった。
「…なんだか…すごいあっさりしてるわね…。」
そのスピーディさに拍子抜けするラブ達ジャブジャブヘルメット団。
今やW.G.T.C.は押しも押されぬ勢力を誇る企業だ。
そんな企業にこんなにすんなり、それも自分たちのような不良が雇われるとは思ってもみなかった。
「真面目に働くなら経歴は問わない。うちはそうやって拡大してきたからな。」
「まぁ噂には聞いてたけど…やっぱり聞くとやるとじゃ大違いね。」
「さて、ラブ。契約も済んだことだし早速働いてもらおうか。」
「もちろんよ!ジャブジャブヘルメット団にドーンと任せてもらおうじゃない!」
何はともあれ真っ当な仕事にありつけるのは久々なラブ達。
不良特有の気合の入った返事で始まったのが…
ダダダッッ!!!
「探しなさいッ!!!まだあるはずよッ!!!」
「リーダー!あった、瓦礫の下に未発見のがあったぞ!」
「でかしたわッ!!!これでボーナス上乗せよ!!!」
ジャブジャブヘルメット団は数人単位で分かれ遺跡群を目を皿にして地面を見ながら疾走していた。
ある団員が見つけたそれは…石畳の中にある丸い部分だ。
その箇所に何もないのを確認すると…
パキンッ!
ビーコンと共に赤いサイリウムを折ってその上に張り付ける。
「さぁ次に行くわよ!」
「これで日当に1万円上乗せ!笑いが止まらねぇっすね!」
それを終えると再びラブ達は走り出す。
一方、
「おっラブ達がまた見つけたな。」
「他のチームもどんどん見つけて行ってますね。」
「……見落としていたマンホールがこんなに。」
ネイト達は遺跡群中央にある詰め所で送られてくるビーコンの情報を精査し、
「シミコのくれた資料で見ると…やっぱり等間隔にマンホールが設置されてあるようだ。」
「あれだけの蔵書から一晩で見つけ出すのはすごいとしか言えませんね…!」
その反応をシミコが届けてくれた地図にマーキングしていく。
昨日、存在が露見した遺跡群の地下にある排水路の存在。
ネイトが今まで構築してきた警備計画を根底から崩すような事態だったが…
「地下排水路は入り口とマンホールさえ押さえておけばある程度リスクを回避できる。問題はこの面積を俺達で探すのは時間がかかり過ぎることだが…。」
「……ジャブジャブヘルメット団の皆のおかげで早く済みそう。」
その状況を解決するのがラブ達ジャブジャブヘルメット団だ。
ネイトが契約締結後にラブ達に指示を出したのが…遺跡群内にある地下排水路に繋がるマンホールの捜索だ。
無論、ただ探させるのはモチベーションが徐々に低下していくので…
「マンホールを一か所見つけるにつき日当に500円上乗せだなんて随分思い切りましたね。」
ネイトはこのマンホール捜索に報酬を設定。
W.G.T.C.の時給も結構いい方だがそれはそれとして…給料UPはたとえ不良でなかろうと見逃せるものではない。
ジャブジャブヘルメット団を三人一組にチーム分けと担当区域を設定し遺跡群に解き放った。
こうして一通り発見できたかと思ったが…
「……でも、その後に場所替えして発見漏れを見つけたら2,000円に報酬を上げるのは…予想できなかった。」
「マンホールを見つけただけで時給分のボーナスはそれは熱も入るでしょう…。」
ネイトは念を入れる男だ。
探索を終えたラブ達が戻ってきた後に上記の文言を再び伝えると…さらに目の色を変えて彼女たちは遺跡群に繰り出していった。
結果…一次探索でもかなりの数を見つけられたが報酬4倍の第二次探索で探索漏れのマンホールをそこそこの数が発見されている。
無論、既知のマンホールに設置されたビーコンを除去・破壊すれば報酬は無しと言明しているのでルール違反は確認されていない。
「目に見えて分かる報酬ほど人をやる気にさせるものはない。これで警備上のリスクを減らせるのなら安いモノさ。」
「そんな現金な…と言おうにも結果、私達で探すよりはるかに効率的に見つけられてますからなんとも…。」
「資本主義経済の権化たる国出身を見縊るなよ、シホ?金は信用だ。こちらが報酬という信用を提示すればあちらは答えなければならない。経済を極限まで単純化すればここに落ち着くのさ。」
「……話だけ聞くとすごく冷たく感じるけど…なんだかあったかい感じがする。」
事も無げに語るネイトだが…正直この思考はキヴォトスではかなり希少だ。
大半の企業は契約に抜け穴を造りコストを最小限にし労働者に最大限のリスクを交わすのが常のこの学園都市。
それでもそのコストに縋らなければ生きていけない者たちが数え切れないほどいる。
ジャブジャブヘルメット団もその一つだ。
一方、中抜きも契約の反故もこれまでないネイトの雇用状況と報酬の支払い。
契約を結び違わなければネイトも決して違えない。
故に…W.G.T.C.は今なお多くの生徒が生きる糧を得るため、明日に繋ぐためにやって来ているのだ。
「ッと、そろそろいい時間だな。」
時計を見ると直に正午になるであろう頃合いになっていた。
「えぇ~各員に通達。探索エリアの端まで行ったら中断し古聖堂に集合せよ。」
《も、もうちょっと探させて!ボーナス獲得のチャ…!》
「マンホールは逃げないぞ、ラブ。午後もやるから今は戻って来い。」
《うぅ~…分かったよ。アンタ達もいったん戻るわよ。》
粘りたがるラブを説得しネイトはジャブジャブヘルメット団を呼び戻す。
「…よし、全員戻ってきたな。」
「ネイトさん、なにかあったの?」
少ししてジャブジャブヘルメット団が古聖堂に集結したのを確認し、
「なに、そろそろ頃合いだから昼飯にしようと思ってな。」
「え?」
そう言ってネイトが車から取り出したのは…
「ほら、コンビニので悪いが弁当とお茶だ。一人一つずつ取ってくれ。」
クーラーボックスに収められたコンビニ弁当とお茶だった。
「…いいの?」
「何言ってる?契約に書いてあっただろ?…いらないのならこのまま持って帰って…。」
呆然とするラブ達を見てそれを引っ込めようとするが…
「いっいる!貰うよ!あんた達もお礼言って!」
『ご馳走になりますっ!』
「…ハイよ、午後も頼んだぞ。」
腹が減ってはなんとやら、弁当とお茶を礼を言いながら受け取っていくのであった。
「普段なら温かい食事を用意できるところだが設備が無くてな…。」
「いっいやいや!昼飯付きの仕事なんてうち等からしたら夢みたいなもんだから気にしないでよ!」
「……たまにはコンビニのお弁当も美味しいよ、ネイトさん。」
「それにいつものように皆さんで食べるのはとても楽しいですもん。」
その後、輪になって弁当を食べ始めるネイト達。
「噂には聞いてたけど…ホントにW.G.T.C.ってこんな会社なのね…。」
「来てみたらよかったのに。言ったろ、真面目に働くなら経歴は問わないってな。」
「そりゃ七転八倒団とかから噂は届いてたけど…ほら、うち等ってあの時…。」
「……あ、カクカクヘルメット団…。」
「確かにアビドス独立戦争の時は色々ありましたもんね…。」
話題はアビドスとヘルメット団との確執についてや…
「あ、そう言えばネイトさん。メリィの奴は元気にしてる?」
「メリィのことを知ってるのか、ラブ?」
「そりゃウチはちっこいグループだけどヘルメット団だからね。仲間内じゃカタカタヘルメット団は結構有名だったからさ。」
「それもそうか。元気にしてるぞ。今は俺がいない間の現場監督を任せてる。」
「…出世してるのね、アイツ。」
「……他にも無反動砲担いで私達を助けてくれてるよ。」
「ひっえ~…アイツ滅茶苦茶強くなってんじゃないの…?!」
かつてはキヴォトスきっての勢力を誇っていたカタカタヘルメットの元総長の駒留メリィについてなど話に花が咲きながら昼食のひとときが過ぎていく。
すると…
ゴォォォ…ッ!
「ん?」
どこからともなくまるで引き裂くような金属音が響いてきた。
音の出所を探りネイトが空を見上げると…
「あれは…。」
「わぁ…戦闘機ですね。」
「……うちのよりも凄い音だね。」
上空を飛ぶ訓練中と思われる戦闘機の編隊であった。
アビドスのF-20Eのエンジンも騒音で有名な『F414』をベースにしたエンジンを搭載しているが音の『圧』はあの機体の方がかなり上回っている。
「ありゃ『ライトニング』だね。もう長い事トリニティの空を護ってる稲妻さ。」
「ライトニング…それはまた変わり種を使ってるな。」
以前の安保理でアヤネが威嚇がてら問いかけナギサが語ったトリニティの空の護り手。
『BACライトニング』、ネイトの世界ではイギリスが生み出した第二世代ジェット戦闘機だ。
双発のジェットエンジンを搭載しているが…他に類を見ない縦積みという風変わりな設計。
他にも増槽は翼の上など…イギリスらしさがこれでもかと詰め込まれた変た…ユニークな機体である。
しかし、空気抵抗を極限まで減らした機体設計によって生み出される最大速力はマッハ2を超える。
上昇力にいたってはのちの世代の名機『F-15 イーグル』や『Su-27 フランカー』にも匹敵しうる破格の性能だ。
が…正直言って特異な設計故のメンテナンスの難しさと高コストからイギリス以外にはオイルマネーで高い経済力だったサウジアラビアとクウェートしかなかった。
どうやらキヴォトスでもそれには変わりなくトリニティ以外で採用している学校の噂はネイトは聞いたことはない。
「……こんなとこを飛ぶなんて珍しいね。」
「たぶん、エデン条約が近いってんで『T.A.G.』も気合入ってるんでしょ。」
「『T.A.G.』?」
「『ティーパーティー航空近衛隊』、随分気取った言い方でしょ?」
「…なんともお嬢様らしいと言えるというかなんというか…。」
名前こそラブやネイトのようになんとも気取ったものだが実力は決して侮れないだろう。
彼女たちはゲヘナに対抗するために編成された組織だ。
あのライトニング以外にもまだ戦力は保有しているはず。
すると…
「…そう言えばアイツも…。」
「どうかしたの、ネイトさん?」
「………いや、こっちの話だ。」
ネイトの脳裏に一人の生徒の姿が思い浮かんだ。
多くのアビドス生を肝をつぶし番長をヘリ恐怖症に陥らせた稀代の名であり迷パイロット。
彼女は近衛隊というより…愚連隊といった方が近いだろう。
「さて、午後も作業がある。さっさと食べ終わって昼寝でもしよう。」
「よぉししっかりボーナスを稼ぐわよ!」
そう言い、ラブは午後への活力を得るために弁当を掻き込み始めるのだった。
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その後もジャブジャブヘルメット団によるマンホール捜索は遺跡群の隅々まで行われ…
「…傾向からして…これだけだと考えていいだろうな。」
「だいたい等間隔に設置されているんですね。」
「……こんなにたくさんだったら3人じゃ大変だったね。」
地図と照らし合わせ矛盾がないと判断されてようやく探索は終了。
「お疲れ様、ラブ。一日中走らせて悪かったな。」
「いいよ、ネイトさん。それで給料が上がるんならもっと走ってもいいわよ。」
「それは頼もしいな。さて…約束の日当だ。マンホール分のボーナスも上乗せしているぞ。」
「毎度あり!さぁていくらに………えぇっ?!」
ラブたちにもそれぞれボーナスも含めた日当を支払い今日の業務は終わった。
基本給はもちろん、ボーナスもラブたちの常識からすれば…太っ腹を超えた金額だったとだけ言っておこう。
「じゃあね、ネイトさん!また明日もよろしく!」
『お疲れ様でしたぁっ!』
「あぁ、また頼むよ。」
こうしてジャブジャブヘルメット団との合同業務の初日は終了。
ホクホクな表情で帰宅するラブたちの一方、
「それじゃネイトさん、私たちは先に宿舎に戻っておきますね。」
「……内緒で街に行っちゃやだよ?」
「分かってるってカレン。用事が済んだらすぐに戻るさ。」
ネイトはシホとカレンを先に帰らせその足で向かったのは…
「そこに…そうそう、そう書けばいいんだ。」
「な、なんだかちゃんとした契約書書くの初めて…。」
昨日、足を負傷し入院中のジャブジャブヘルメット団の団員の元だった。
慣れない手つきでベッドに横たわりながらネイトが持ってきた契約書へ記載していき…
「…よし、これで問題なく保険が使えるぞ。」
「何から何まで…本当にありがとうっす、ネイトさん。」
「感謝はラブたちに言ってくれ。俺は単に契約を結んでるだけだからな。」
晴れて彼女も昨日からW.G.T.C.の短期バイトに入っている『体』にすることができた。
「後はこっちに任せてくれ。何とか誤魔化しとく。それじゃ俺はこれで。しっかり休めよ。」
貰うものも貰えたのでネイトはそそくさと病室を退出。
「…さて、早く帰らなきゃカレンたちがへそ曲げるな。」
時計を見ると18:00に差し掛かろうとしていたので宿舎に戻ろうと出口に向かっていると…
「あら?」
「うん?」
曲がり角から知った顔が現れた。
蒼い髪と梟翼が映えるクラシックナース服にライオットシールドを持つ凛とした立ち姿の生徒…
「ねっ…ネイトさん…?!」
トリニティ最古にして数少ない医療関係の部活、『救護騎士団』団長の蒼森ミネだ。
「おぉ、ミネ。こんなところ…って救護騎士団だから居てもおかしくないか。」
かなりお世話になった生徒なのでネイトも気さくに声をかける。
「ご、ご無沙汰しています。はい、本日はこちらにボランティアに参ってまして…。ネイトさんはなぜ…。」
「ちょっと顔見知りが入院しててな。少し顔を見に来たんだ。」
そう軽く言葉を交わし、
「っとそうそう、まだミネにはしっかりとお礼を言えてなかったな。」
ネイトはそう言うと居住まいを正し…
「あの時はありがとう。ミネのおかげで…俺はこうしてここに立てている。」
彼女に向かって最敬礼を捧げた。
あの日、ミネの手当てが無ければ…。
ミネがアドレナリン注射を託してくれなかったら…。
彼女がいなければネイトはここにいないと言えるだろう。
そして、
「それから娘を…アリスを護ってくれてありがとう。父親としても深い感謝を…。」
自分だけでなくアリスも身を挺して守ってくれた。
本来ならば自分から赴くべきだが情勢が情勢だ。
なかなか機会が得られず歯がゆく思っていた。
そんな深々と頭を下げるネイトを見て…
「…御礼には及びません。私は救護騎士団としての使命を果たしただけですので。」
ミネも背筋を伸ばしその経歴を受け止め、
「私の方こそ…また元気な姿のネイトさんにお会いできてとても嬉しく思っていますよ。」
微笑みながらネイトとの再会を喜ぶのだった。
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。それじゃ俺は…。」
それを聞き、顔を挙げてネイトは立ち去ろうとする。
が、
ガシッ!
「…え?」
ネイトの手ががっちりと掴まれ…
「えぇっと…ミネ?」
「…ネイトさん、あれから検診などは?」
真剣な表情でそう尋ねるミネ。
「検診か?…D.U.の病院を退院してからはこれと言って…。」
少し記憶を探り素直に答えたネイト。
元より二度目の目ざめの際に完治を伝えられていたので退院すれば検診など無縁なのだが…
「それはいけません!あれほどの大怪我に見舞われたのにその後に放置するなんて!」
それを聞いた途端、ミネは声を大にしネイトに詰め寄る。
「ちょちょちょッ!?」
「さぁこちらへ!空きの病室がありますのでそちらで…!」
「みっミネ!?あれから痛みも違和感もない…!」
「自身では分からない異常もあるのです!安心してください!救護騎士団はそのような心得もありますから!」
ネイトの言葉は届いてこそいるが意に介さず…
ズリズリ…!
「ち、力強ッ?!」
「安心してください!なにも畏れることは…!」
ネイトを引き摺って連れていくミネであった。
数分後、
「さぁそちらにお掛けになってください。」
「…分かったよ。」
空きの診察室に引きずり込まれネイトも観念したのかミネの対面の席に腰掛ける。
「では、あれから身体に異常はありますか?」
「いや、今はもう突っ張る感覚も動きのぎこちなさも感じない。」
「身体能力に問題なし…。では体調面の方は?」
「療養していた場所の環境がよかったおかげかそっちもすこぶる快調だな。」
先ほどまでの必死の様子はどこへやら。
ミネはメモを取りながら問診を行いネイトも真面目にそれに答えていく。
「.338ラプアマグナムを受けたとは思えない予後の良さですね…。」
「キヴォトス人ほどじゃないが体は頑丈でな。」
「なるほど…。」
一通り問診を終え終了か…と思ったネイトだったが…
「では、傷口の様子を確かめますので上着を脱いでいただけますか?」
今度は視診に移る。
「あぁ~…脱がなきゃだめか?」
対して、ネイトは少しためらいを見せるが…
「はい、服をめくるだけでは異常を見逃すかもしれませんので。」
ミネは頑として傷全体を見るためか脱衣を求める。
「う~ん…。」
なおも躊躇うネイトを見て…
「…ご心配なく、治療で様々な傷の症例は見ていますので。」
ミネは微笑みながらそう告げる。
「ふ~む…分かったよ。」
このままでは彼女は引き下がらないことを察し観念したようにネイトは作業着の上着を脱ぎ…
「よいしょっと。」
その下に着ていたインナーを脱ぎ去る。
途端、
「…ッ!」
ミネの表情が少し強張った。
「…ま、確かに刺激が強いよな。」
しかし、それは無理もない事はネイトも理解している。
服の下のネイトの素肌は彼女の知るようなものではない。
切創や裂創はもとより爆弾や砲弾による破片創、一部ケロイド化している熱創などの無数の傷跡。
そして、銃創もいくつも肌に刻まれていた。
瀕死の重傷からでも適切に治療を受ければ後遺症も傷跡も残らないキヴォトス人しか診察したことが無いミネからすれば…それはあまりにも…
「も、申し訳…。」
「いいや、高校生の君達には無理もない反応だと理解している。」
謝りそうになるミネを制止し気にしていない旨を伝え…
「それじゃ診察をお願いするよ。」
彼女に背中を向け傷跡を見せる。
背中も前面に劣らない傷跡の種類と密度だが…
「…失礼します。」
その中にあって右肩の銃創….338ラプアマグナムの弾痕はひときわ目立っていた。
ミネはその銃創の容態を確かめるために顔を近づける。
「…傷口の組織はすでに硬質化が済んでいますね。」
まだ負傷してそう日が経っていないが傷口が開きそうな気配は感じられない。
キヴォトス人の基準でしか判断できないが…あの重傷を考えるならネイトの治癒能力の高さがうかがえる。
しばし視診をしていると…
「そっ…その…お手を触れても?」
「どうぞ。」
今度は触診に移るミネ。
サワサワ…
「………。」
恐る恐るといった様子で始めるミネ。
「か…感触も変わったところはありませんね…。」
見た目でなく触ってみても完全に傷が塞がっていることは分かる。
が…
サワサワ…
「………。」
ミネは触診を…いや…
(これが…男性の方の…。)
筋肉の隆起を軽く摘まんでみたり傷跡をなぞってみたり…ネイトの背中の至る所を触っていく。
「…ちょ、ちょっとミネ…?」
「ッ!はっはい!?」
「その…少しくすぐったいんだが…。」
余程夢中になっていたのか、ネイトが肩越しに苦笑しながら声をかける。
「~ッ!///も、申し訳ありません…!///」
「いや、何か気になるところでもあったのか?」
大人、そもそもヒトの男性が希少なキヴォトスだ。
医療関係者のミネの事なので興味深かったのだろうと思いネイトも特に気にしないようである。
「その…オッホン、予後も問題ないようで安心しました。もうお召し物を着られて大丈夫ですよ。」
咳払いしミネも気を取り直し微笑みながらネイトの健在っぷりを伝える。
「それはよかった。」
ネイトも服を着直し、
「…今更ながら…ソレまだ持ってたんだな。」
彼女の傍らに置かれたそれに視線を向ける。
「…ハイ、どういう訳か…私も手元から離そうとは思えませんでした。」
ミネも少しはにかみながらそれを撫でる。
この診察室には不釣り合いな武骨な長いグリップと肉厚な刀身…
「それに…不思議とこの斧が手に馴染んで救護も容易になっています。」
「フフッ役に立っているなら何よりだ。」
あの日、ネイトがヴァルキューレの警察署から拝借しサイナと戦う彼女に投げ渡した消防斧だ。
今はスリング付きの革製の刀身を覆う鞘に収まっている。
それを見ると…
「ふ~む…少しその斧とスペースを借りても?」
「え?…はい、構いませんよ。」
ネイトはその消防斧を借り…
ガシャンッ!!!
「え…!?」
「あぁ、すぐに片付けるよ。」
部屋の片隅に保管してあった武器作業台を展開し、
「気に入ってくれているようだが…やはり女の子が持つには武骨すぎるか。」
斧を作業台の上に置き…
ガッコンッ!!!
「ッと、上手く行ったな。」
消防斧をクラフトし…
「ミネをイメージしてクラフトしてみたが…どうだろう?」
武骨だった外観が一瞬のうちに梟やケリュケイオンの杖などミネらしいデザインとなった。
「わぁ…!持ってみてもいいですか…!」
「持ち心地は変わりないようにしてある。」
原理は分からないが新たな姿となった消防斧にミネは目を輝かせながら手に取ると…
「………なんだか…使うのがもったいなく感じてしまいますね…。」
普段と変わりない完食ながら…どこか暖かく感じられ笑みがこぼれた。
「それはよかった。」
「あの…お代の方は…。」
一瞬とはいえここまで細微な装飾を施したのでミネはカスタマイズの代金を聞くも…
「診察料代わりって事でいいか?」
ネイトはそういたずらっぽく笑いながら答える。
「フフッまぁ…お上手です事。…大切にしますね、ネイトさん。」
思わず笑いが漏れるもミネもその提案を受け入れてくれた。
「ではお礼の代わりにもしお時間があればイブニングティーはいかがでしょうか?」
「いいね。仕事終わりでリフレッシュしたいと思っていたところだ。」
「~!分かりました!腕によりをかけて準備しますね!」
「おいおい、あんまり力み過ぎるなよ?」
そして、二人は少し遅めのティータイムをすることに。
その診察室からはしばしの間、和やかな声がもれていたという。
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―――
こうしてジャブジャブヘルメット団も加わったネイトの遺跡群調査。
翌日もラブ達はやって来てくれ…
「こちらネイト、ゲヘナ代表団の車両ルートの走行シミュレーションを行う。
《こちらA地点よ。いつでもいいわよ。》
人員が増えたことにより映像による緻密なデータ収集が可能となった。
さらに、
パァンパァンパァン!
「撃ちなさい、アンタたち!空包だけど合法的に正義実現委員会にぶっ放せる機会なんてないわよ!」
「「「うっす、リーダー!!!」」」
「右上方より襲撃!牽制を加えながら退避っす!」
「「「了解っ!」」」
シュパパパパパァン!
ブゥオオオオン!!!
「ありがとうございます、ネイトさん。そちらの人員をお貸しいただき…。」
「気にしなくていい、羽川ハスミ。これもコンサルタントの仕事の内さ。」
正義実現委員会も交え空包を交えた襲撃に対する模擬演習も行い実践的な調査も行えた。
「…ラブ達の位置から…それぞれの学校の垂れ幕を掛けて視線を遮る…。」
その日の晩、宿舎の納屋でランタンの明かりの元で得た情報を統合しその対策を練っていくネイト。
「………このペースなら想定よりも早く調査を終えられるな…。」
データを見つつ今後の方策を立てる。
そう、調査ももちろんだがネイトがトリニティにやってきた目的はもう一つある。
ラブ達の加入により…予備日に相当余裕を出すことができた。
「そうと決まれば仕掛けを…。」
ネイトはそう呟くとPip-Boyからあるものを取り出した。
…その時だ。
PiPiッ!!!PiPiッ!!!PiPiッ!!!
「…ッ!?」
Pip-Boyが何かの信号を探知撓り始めたのであった。
Broken Arrow
―――地上部隊の壊滅的危機のため全航空機に対して『付近の敵陣地を直ちに攻撃せよ』と要請する緊急無線コード