Fallout archive   作:Rockjaw

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Per ardua ad astra
『逆境を超え星へ』
―――イギリス空軍のモットー


Rendez-vous sous le ciel nocturne

ハナコからの救援要請を受けベルチバードで駆け付けたネイト。

 

第二次特別学力試験を受験するためにゲヘナへ向け飛行していたが…

 

《所属不明機に告ぐ。こちら『ティーパーティー航空近衛隊』、貴機は現在トリニティ領空をゲヘナ方面へ無断離脱しようとしている。》

 

「てぃっ『ティーパーティー航空近衛隊』ですって!!?」

 

突如として通信が入ってきた通信にコハルは驚愕する。

 

『ティーパーティー航空近衛隊』、『T.A.G.』は正義実現委員会と同様にティーパーティーの直轄組織だ。

 

しかし、その実…組織としてのランクは正義実現委員会よりも上位。

 

無理もない。

Z

正義実現委員会はあくまで自治区内の治安を守るためのいわば『盾』の組織。

 

対する『T.A.G.』は…他校と武力衝突になった際に急先鋒を務める『矛』としての組織だ。

 

警察と軍の差、と言えば伝わるだろうか。

 

「ネイトさん、これって…!?」

 

「なんで私たち追われるの!?」

 

「どッどうしてこんなに早く…!?」

 

それにしたところであまりにも行動が早すぎる。

 

フライトを始めて10分少々、まるで最初から分かっていたかのような対応の速さだ。

 

だが、

 

「お喋りは止めておけ!舌を噛むぞ!」

 

グォン!

 

『わぁっ!!?』

 

言うが早いか操縦桿を押し込みネイトはベルチバードを急降下させる。

 

(ライトニングのレーダーの範囲は知らないが…RWRレーダー警戒装置が反応したことから…ざっと50㎞といったところか…!)

 

数字上は余裕はありそうだが…相手はライトニング。

 

おそらくスクランブル発進をしているのでその速度はマッハ2と仮定すると…ミサイルに有効範囲内に入るまで…現時点で1分もない。

 

「ネッネイトさぁん!!?」

 

「ビビるな、馬鹿弟子!ジェットコースターみたいなもんだ!!!」

 

悲鳴を上げる先生を怒鳴って黙らせつつ高度をどんどん下げていく。

 

「にっ逃げ切れるんですか、ネイトさん!!?」

 

「P.Pはチーターから逃げ切れるか!?そう言うことだ!!!」

 

「それって不可能って事じゃないのよぉ!!?」

 

対する、ベルチバードの最高速度は時速500㎞。

 

速度さは約4倍、軽自動車でF1カーにサーキットでレースを挑むようなものだ。

 

「こんな刺激的な夜は初めてですねぇ!」

 

「試験を受けるのは本当に楽じゃないな…!」

 

「ハハッ!おい先生、お前の生徒の方が肝っ玉がデカいぞ!!!」

 

こんな状況でもそれを楽しんでいるようなハナコや少しずれた反応を見せるアズサの声を聴きネイトもさらに気合を入れ…

 

《再度通告する。こちら『ティーパーティー航空近衛隊』。所属不明機、応答せよ。オーバー。》

 

「お前の出番だ!!!『シャーレ』としての口八丁見せてみろ!」

 

「はっはいぃ!!!」

 

『T.A.G.』からの通信が再度入ると無線機を先生に投げ渡す。

 

「こっこちら連邦捜査部『シャーレ』の先生!!!現在、指導中の補習授業部の第二次特別学力試験受講のため協力者である『W.G.T.C.』の航空機でゲヘナへ移動中!時間が無く未通達だったことは謝罪する、どうぞ!!」

 

未だにおっかなびっくりしているが何とか所属と目的を明らかにし返答する先生。

 

それを受け…

 

《………了解、確認が取れました。これより当編隊が最寄りの基地まで誘導します。進路を3時の方向に変針してください、オーバー。》

 

T.A.G.側からも少し口調が和らぎベルチバードに着陸を要請する。

 

「やったわ!撃ち落とされずに済みそうよ!」

 

その通信にコハルは安堵した声を上げるが…

 

「いいえ、コハルちゃん…!危機であることは変わりませんよ…!」

 

ハナコの以前として緊張した面持ちを浮かべている。

 

「どうしてよ、ハナコ!?言うこと聞いて基地でちゃんと説明すれば…!」

 

そんな彼女に異を唱えるコハルだが…

 

「それは楽観が過ぎるぞ、コハル…!ティーパーティーの息がかかった部隊だ…!」

 

「多分…そのまま取り調べと称して試験時間まで拘束されるでしょうね…!」

 

アズサもヒフミも硬い表情のまま指示に従った後に起こるであろう事態を予測する。

 

ティーパーティー…いや、ナギサはあれだけ強引な変更を行った。

 

それをネイトを呼び出しベルチバードによる強行策で突破しようとしているのだ。

 

今更それくらいのちゃぶ台返しをしてくることくらい容易に想像できる。

 

「じゃあどうすれば…!」

 

ネイトが言うように性能差は圧倒的。

 

振り切ることは容易ではなく指示を無視し続ければ…。

 

が…

 

「安心しろ、HExecutioner…!」

 

「ねッネイトさん…?」

 

「ゲヘナまで飛ぶって約束したろ…!」

 

ネイトは意識だけ彼女に向け安心させるような言葉をかける。

 

そして…

 

「…こちら、シャーレ!それは承服できない!」

 

「先生っ!?」

 

「これは補習授業部の進退が掛かった重要な試験なんだ!事情は後程説明するからこのまま進ませてもらうよ!以上!」

 

先生も同じように無線で要請を拒否し無線を一方的に打ち切った。

 

「よく言った、先生!」

 

「あ…あとはお願いしますね…!」

 

「任せろ!逃げ切るだけなら…!」

 

度胸を見せた先生を誉めつつ…

 

ギュン!

 

『ぐえッ!!?』

 

今度は操縦桿を引き起こし機体を水平に戻した。

 

いきなりかかったGにつぶれたカエルのような声を上げる一同。

 

外を見ると…

 

「き、木がこんなに近く…!」

 

「手を伸ばせば届きそうだな…」

 

すぐ下には森林の木々がまるで草原のように広がり超低空飛行状態になったことが分かる。

 

「これでどうにかなるんですか、ネイトさん…?!」

 

「そこだけは運頼みだが…!」

 

ヒフミの問いかけにネイトは緊張の面持ちで答える結果を見守り、

 

「そろそろだな…!」

 

そう呟いた瞬間、

 

ドォオオオオオンッ!!!

 

「うわああああああ!!?」

 

「なっなんだ!?エンジンの爆発か!?」

 

ベルチバードのエンジン音を掻き消す間近で落雷でも起こったかのような爆音が響く。

 

何事かと全員で外に目をやると…

 

ゴォオオオッ!!!

 

ベルチバードの夜空を引き裂いて通過していく二つの炎の尾が見えた。

 

「あれが『T.A.G.』…!」

 

「ライトニングが2機、どうやら血相欠いて上がってきたのは本当のようだ…!」

 

「本当に逃げ切れるの…!?」

 

今見ただけで思い知らされた雲泥の速度差。

 

到底逃げ切れるとは思えず不安げに声をかけるコハルだが…

 

「大丈夫です、コハルちゃん…!」

 

「ハナコ…?!」

 

「鬼ごっこではなくて…これはいわば『かくれんぼ』…!今、お空の鬼さんは鳴る手の行方が分からなくなっているでしょう…!」

 

ハナコはそう確信めいて彼女に声をかけた。

 

そんなハナコの確信は…

 

《…こちら『セラフィム1』、座標に到着。呼称『シャーレ機』、レーダーロスト。オ-バー。》

 

「こちら『ハイ・テーブル』、了解。『プロフェシー 』、そちらはどうですか?オーバー」

 

《こちら『プロフェシー』、こちらも反応を消失しました。おそらく高度を落とし地形とレーダーの死角に入ったものと思われます、オーバー。》

 

『T.A.G.』の混乱という形で正鵠を射ていた。

 

「セラフィム各機、目視で確認はできますか?オーバー。」

 

《こちらセラフィム1、該当機は航空灯を消灯している模様。目視での発見は困難。オーバー。》

 

「了解、引き続き空域を捜索せよ。アウト。」

 

地上のレーダー部隊や派遣されたライトニングはベルチバードを完全に見失っていた。

 

「まさか…ライトニングの弱点をこうも正確に突かれるなんて…。」

 

顎に手を当てながら管制長である生徒はそう呟く。

 

元からゲヘナからの侵攻に対し地上レーダーとの統合運用での迎撃を念頭において開発されたライトニング。

 

そのせいもあってか『ルックダウン能力』、自機よりも下方の機体を探知するレーダーの性能は非常に限定的だ。

 

地上のレーダーからも潜り抜けるほどの低空ともなるとライトニングのみのレーダーではノイズが多すぎて探知できないのだ。

 

「…ナギサ様からの直々の通達を受けてスクランブル発進させてみれば…。」

 

スクランブル自体はこれと言って珍しいものではない。

 

なんせ不俱戴天の仲のゲヘナと自治区が接しているのだ。

 

直接的戦闘に発展せずとも挑発も兼ねた出動は度々両校ともに行われている。

 

だが、今回はナギサから直々に…

 

『学区内よりシャーレの先生と生徒数名を乗せゲヘナ方面へ飛び去るアビドスのベルチバードを見かけた。すぐに臨検のために強行着陸させよ。』

 

との通達と飛び去った方向の情報が飛び込んできた。

 

先生とネイトが現在トリニティに滞在していることは把握している。

 

そんな大物二人が夜間に…それもエデン条約前という緊張状態のゲヘナ方面へ飛び立ったのは確かに不審だ。

 

と言うことで最寄りの基地からすぐさまライトニングを派遣した。

 

如何にキヴォトスでは類を見ない双発機だと、当初は楽な任務だと高をくくっていたが…

 

「まさかシャーレの先生がこちらの要請を無視するとは…。」

 

「ティーパーティーから『シャーレ』の先生への要請は確認できました。本人とみて間違いはないでしょう。」

 

「そして、操縦者はW.G.T.C.のネイト社長…。まさか操縦技術にも長けているとは…。」

 

超法規的権限を有するシャーレの先生の存在とネイトの高い操縦技術。

 

これらが組み合わさり…

 

「ライトニングの航続距離は決して長くありません。このままでは下手をしたら取り逃がす可能性も…。」

 

ファーストコンタクトだけで容易い相手ではないと見せつけられ警戒度は跳ね上がった。

 

「レーダーロストした地点からゲヘナとの境界戦までの距離は?」

 

「およそ100㎞少々。時間にして…10分強で境界線を越えるでしょう。」

 

回転翼機とはいえベルチバードの速度はその分類の中では快速と言っていい。

 

だが、ジェット戦闘機が追いかけているというのにまんまとヘリで逃げられる。

 

このまま補足できなければ『T.A.G.』としても類を見ない失態だろう。

 

「なるほど…戦い方を変えてきましたね…。」

 

「戦い方を…ですか?」

 

「いわば鬼ごっこTagからかくれんぼHide-and-Seekへ。…フフッ図らずも私達の名と同じ遊びを止めさせられたのです。」

 

だが…だからこそ燃えるものだ。

 

「ならば…遊びを元に戻しましょう。『アイアン・クワイア』へ通信を繋いでください。」

 

「はっ!」

 

管制長の生徒はすぐさま次の一手を打つ。

 

それから数分後、

 

「Ha.P、B.B.E。ライトニングの様子はどうだ?」

 

「まだ付近を飛行中ですが…まだこちらを補足できていないようです。」

 

「あの二機以外の増援も今のところ来ていないようだ、教官。」

 

あれから超低空飛行を続けているおかげでライトニングの追撃を振り切ることができているベルチバード。

 

「先生、ゲヘナまであとどれくらいだ?」

 

「ちょっと待ってください。えぇっと…あと30㎞ちょっとといったところです。」

 

予断を許さない状況だがベルチバードの足の速さならば数分もあれば突破できる距離まで到達。

 

「一時はどうなるかと思いましたけど何とかゲヘナへ向かえそうですね。」

 

「今は9時前…あっちでも十分予習ができそうでよかったわ…。」

 

かなり厄介な者たちに追われることにはなったが陸路で向かうよりはるかに早く試験会場に到着できるようだ。

 

流石のT.A.G.もゲヘナに入ってしまえば手出しはできない。

 

このまま何事もなければあとは試験会場まで一直線だ。

 

すると…

 

「しかし…この辺りは閑散としているな。」

 

ネイトは眼下に広がる景色を見てそう呟いた。

 

「ネイトさん、この辺りを通ったことがあるんですかぁ?」

 

「カイザーとやり合った時にな。その時もトリニティとゲヘナの境界線上を低空飛行で突破したんだ。」

 

「…なるほど、教官がどうやってカイザーPMCの本部基地に奇襲できた理由はそれか…。」

 

「…そう言えば話したことが無かったな。記憶ならそろそろ…。」

 

ネイトがそう言うと…

 

「ッとちょうどこの辺りだな。」

 

「あ、下の様子が変わりましたね。」

 

今まで森林地帯だったのが一変。

 

かつての繁栄か、はたまた戦いの備えかは分からないが古聖堂周辺よりもさらに原型をとどめていない仄かに月明かりで照らされた遺跡群地帯にベルチバードは突入。

 

「凄い光景…!こんなとこがあるだなんて知らなかったわ…!」

 

「兵どもが夢のあと…って雰囲気だね、コハル…。」

 

「よし、ここまでくれば後は一息…。」

 

かつて横断した地帯を今度は縦断することになるという不思議な感覚を感じつつネイトがそう呟いた。

 

…その時だった。

 

パッ…!

 

「え…?!」

 

「なっなんで明るくなったの!?」

 

突如としてまるで夜明けのようなオレンジの光が周囲一帯を照らし出した。

 

見るとこの辺りだけではない。

 

幅数十㎞以上はあろうかという範囲が同じような光で照らされているではないか。

 

「一体何が!?」

 

「~ッ!?まさかッ!!?」

 

ネイトは背筋が凍るような感覚になる。

 

闇夜を照らし出すことが可能なもの。

 

ネイトはこれを良く知っている。

 

かつてのアラスカの大地で何度も目の当たりにしてきた。

 

そして、トリニティにもそれが可能な上…さらに大規模に行えると言うことも理解した。

 

「教官、照明弾だ!トリニティの砲兵隊が照明弾を撃ち上げ続けている!!!」

 

「し、照明弾!!?」

 

「おいおい、どれだけ逃がしたくないんだよ…?!」

 

視線を空に向けると…無数の照明弾が降り注いでいた。

 

地上では…

 

ズドォオオオン!!!ズドォオオオン!!!

 

多数の榴弾砲『L118』が砲声を轟かせながら空目掛け砲撃を繰り返し、

 

「ハイテーブル!こちら、砲撃部隊『アイアン・クワイア』!全担当区域で照明弾の投射を継続中、オーバー!」

 

その傍らで無線機を当てて報告する生徒たち。

 

砲撃部隊『アイアン・クワイア』、『鋼鉄の聖歌隊』を意味するゲヘナとの境界線の守護する精鋭砲撃部隊だ。

 

トリニティは陸上兵器においては特に砲兵隊に力を入れておりその練度はドローンや誘導砲弾などを用いるアビドスの砲兵部隊と比べても決して劣っていない。

 

広大なゲヘナとの境界線をカバーできるように多くの砲兵小隊を配備し有事に備え日々訓練に励んでいるが…

 

「隊長!!!座標グリッド『52V TP』にて該当機を補足、真っすぐゲヘナ方面へ向かっています!!」

 

「了解した!ハイテーブル!機体を発見、座標『52V TP』をゲヘナ方面へ直進中とのこと!」

 

その練度はこの夜でも遺憾なく発揮された。

 

担当する区域を余すところなく照明弾で照らし出せるように緻密に砲撃を調整。

 

結果、レーダーすら潜り抜けたベルチバードを『灯』という原始的な方法で再発見したのであった。

 

「まっまずいんじゃないの、これって!!?」

 

「ネイトさん、ゲヘナまではどれくらいなんですか!?」

 

「あと3分ほどだが…!」

 

大慌てのコハルとヒフミに苦い表情で答えるネイト。

 

トリニティの底力とでもいうべき方法で再び晒されてしまった。

 

ゲヘナまではあともう一歩だが…

 

《シャーレ機、こちら『ティーパーティー航空近衛隊』のゼラフィム1!再度通告する!すぐに進路を反転せよ!》

 

「みっ見つかった…!」

 

「流石はT.A.G.といったところですか…!」

 

再び無線機からT.A.G.の声が響き始める。

 

「ネイトさん、後ろに追かれたわよ!!?」

 

「先生、3分でいい!なんとか時間を稼げ!」

 

「わっ分かりましたぁ!」

 

コハルの報告でこうなっては振り切るのは不可能と判断。

 

「こちら、シャーレの先生!こちらも先ほど通達した通り、ゲヘナでの試験受験のための行動!ティーパーティーの要請を遂行するための行動だ!」

 

ネイトに急かされ先生もすぐに無線を再起動しこの行動の根拠を説明する。

 

《シャーレの先生、そちらの事情は把握したがその行動がトリニティとゲヘナの関係を害する可能性があることは重々承知か!?》

 

「しかし、事実ティーパーティーからそのような通達がなされている!彼女たちの将来を左右する問題だ!私には彼女たちにその試験を受けさせる責任と義務がある!!!」

 

《ならば我々にもトリニティの平穏を守る責任と義務がある!直ちに進路を変え最寄りの基地に着陸せよ!さもなくば強硬手段に出る!》

 

「だったらトリニティの掲示板とナギサに確認をとってほしい!!!私たちの行動が真実かどうかはっきりするから!!!」

 

《ならば、こちらの指示を聞き入れ基地で釈明せよ!》

 

彼も説得できる一縷の望みも捨てず何とか交渉するがT.A.G.相手には完全になしの礫だ。

 

《…最終警告だ!これ以上進路を変更しなければ威嚇射撃を行うぞ!》

 

「いっ威嚇射撃ですって!?」

 

「初っ端から撃墜をしてこないだけありがたいが…!」

 

とうとう本格的に実力行使をほのめかしてきた。

 

ライトニングに搭載されている機関砲は『ADEN 30mmリヴォルヴァーキャノン』。

 

ベルチバードはおろか戦車ですら貫通可能な火力を誇る。

 

一発でも食らえば…

 

「教官、後ろに付かれた!向こうは本気のようだぞ!」

 

「まだか、まだか…?!」

 

とうとうライトニングが完全にベルチバードの背後をとった。

 

しかし…無情にもゲヘナとの境界線まであと数km足りない。

 

「もッもう駄目です、師匠おおおおッ!!!」

 

これ以上の時間稼ぎは無理ととうとう先生も泣きごとを漏らした。

 

《…分かった…!そちらがそのつもりならば…!》

 

そんな怒りと困惑が入り混じった無線がライトニングからもたらされた。

 

…その時だ。

 

《そのつもりなら…なにをするつもりだ、『お茶汲み人形Tee-Puppen』共?》

 

『ッ!!?』

 

《なっ…!?》

 

突如として全く質の断る声音の通信が割り込んできた。

 

そして…

 

ドォオオオ…ッ!

 

「ネイトさん、前を見てください!」

 

「あれは…!?まさか…!?」

 

前方の空には四つの光の線が闇夜を裂き駆け巡っているではないか。

 

「なぜッ!?このタイミングで!?」

 

「ブレイクブレイクッ!!!」

 

それは後方のライトニングも同様でコックピットのレーダーには四つの反応を検知。

 

威嚇射撃のためにコースどっていたがすぐさま機体を翻す。

 

《セラフィム1、一体何がありましたか!?》

 

「こっこちらセラフィム1、緊急!緊急!前方の空域に…!」

 

状況説明を求めるハイテーブルに何が起こったか説明しようとするセラフィム1。

 

その時、

 

パッ…!

 

新たに撃ち上げられた照明弾が…それを浮かび上がらせた。

 

独特なダブルデルタ翼の機体、T.A.G.のそれとは真逆の黒と赤の機体カラーとエンブレム。

 

そう…あれこそが彼女たち不倶戴天の敵、

 

「ゲヘナ空軍のドラケンが一個小隊出現!こちらに通信を呼びかけてきています!」

 

《ゲヘナ空軍ですって…!?》

 

《こちらゲヘナ空軍第88飛行小隊『ヴァンピール』。その機体に手を出すのを止めてもらおうか。コメン独語で『どうぞ』の符丁。》

【挿絵表示】

『ゲヘナ空軍』が誇る航空戦力の一角、高い格闘性能を誇りライトニングのライバルでもある戦闘機『ドラケン』だった。

 

「こちら『ティーパーティー航空近衛隊』、手を出すなだと!?どういう了見だ、『薄汚れた小悪魔Grimy Imps』!?」

 

当然、T.A.G.のパイロットはそれに異を唱える。

 

何しろベルチバードは未だトリニティ領空内、どうするかの権利は未だにこちらにある。

 

あちらにとやかく口を出される筋合いはないはずだ。

 

だが…

 

《その機体に乗っているパイロットのはマコト議長直々に来訪を承認したゲヘナの賓客だ。いくらかオマケがいるようだが手を出すというのなら…ゲヘナへの宣戦布告とみなすぞ?コメン。》

 

「なっ…!?」

 

ゲヘナ空軍側から返ってきた答えは彼女たちの予想外の物だった。

 

《やるかい?こちらはそれでも構わないが、トリニティ?》

 

「こ…このぉ…!」

 

勝ち誇ったようなゲヘナ空軍の通信に表情を歪めるライトニングのパイロット。

 

このスクランブルの根拠は『所属不明機のトリニティからゲヘナへの無断渡航』を防止するためだ。

 

先ほどまでの無線で機体はシャーレの要請で飛行していることは判明しているがこの時点でもゲヘナとの関係を憂慮して引き留める根拠とすることができた。

 

だが、ゲヘナ側からのこの通信。

 

ゲヘナはこのベルチバードの行動は既知な上、パイロットのネイトを『賓客』として迎え入れると言っているではないか。

 

つまり、この瞬間に…トリニティがベルチバードを引き留める最後の根拠も消滅したことに他ならない。

 

もしこの状況で威嚇射撃であろうとベルチバード目掛け手を出そうものなら…

 

《すでにそちらに対しロックオンは済んでいる。それ以上その機体のケツを追っかけるんなら…それ相応の覚悟をしなよ?コメン。》

 

「クゥ…!」

 

無線機越しでもにやけていることが分かるゲヘナ空軍の声にさらに表情が歪むライトニングパイロット。

 

さらに…

 

《…セラフィム隊、直ちに帰投してください…!》

 

彼女たちを統括するハイテーブルからも帰投命令が下る。

 

《これ以上の追撃はかえってこちらの不利益につながります…!直ちに針路を反転し基地に帰還してください…!》

 

上記の通り、現状ゲヘナとトリニティ間の関係を拗れさせるような行動はベルチバードは取っていない。

 

シャーレの超法規的権限だけでなくオフィシャルな承諾まで取り付けこれ以上ないほど正当性を高めているのだ。

 

それなのにしつこく食い下がれば…ただでさえ旗色の悪いゲヘナとの外交がさらに悪化するのは明白。

 

《ほら、お茶の注文だぞ?『お茶汲み人形Tee-Puppen』ならちゃんと届けなくちゃなぁ~?》

 

その無線も聞いていたのかゲヘナ側からの見えすいた挑発も飛び、

 

「~ッ!!!あぁあッ!!!」

 

ガン!!!

 

セラフィム1は激情に駆られ目の前の計器に拳を叩きつけ…

 

「…了解、これより帰投する…!アウト…!」

 

操縦桿を倒し高度を上げ基地へ針路をとるのであった。

 

「………フゥ~…何とか逃げ切ったな…。」

 

「あ…アハハ…まさかゲヘナが助けに来てくれるなんて…。」

 

それを確認したネイトはようやく肩から力が抜け先生も信じられないといった様子で呟く。

 

「こ、これでもう撃ち落とされたりしないのよね…?!」

 

「平気だ、コハル。もうライトニングの武装はどれも届かないはず…!」

 

「試験前だというのに…とっても疲れちゃいましたぁ…。」

 

「本当にこんな刺激的な夜は初めてですねぇ…。」

 

後に乗っているコハルたちも危機を脱したことに胸をなでおろしている。

 

既にベルチバードはゲヘナの領空に入ることができた。

 

こうなってはもうトリニティも手出しできない。

 

すると…

 

ドォオオオ…ッ!

 

「ねっネイトさん…!」

 

「ゲヘナの戦闘機が…!」

 

ゲヘナ空軍のドラケンが速度を落としまるで編隊飛行のようにベルチバードの両翼にやってきた。

 

ベルチバードの速度に合わせているというのにその機体はダブルデルタのおかげでとても安定している。

 

同じような芸当はライトニングには難しいだろう。

 

と、そんなゲヘナの戦闘機に横並びされまさか…と思い顔から血の気が引くコハルとヒフミだが…

 

《ネイト社長へ。こちらゲヘナ空軍所属『ヴァンピール』小隊、これより貴機を安全区域まで護衛する。コメン。》

 

先ほどの挑発的な声ではなくフレンドリーさを感じる柔らかい声音で呼びかけてきた。

 

見ればこちらに向け敬礼をしていたり手を振っているではないか。

 

「こちらネイト。ヴァンピール隊、感謝する。先ほどもベストタイミングだったぞ。オーバー。」

 

《こっちも奴らの吠え面を拝ませてもらって感謝してるよ。こういうスクランブルなら何時でも歓迎さ。》

 

《マコト議長に急かされて飛んでみれば…あの人もたまにはいい仕事を振ってくれるね。》

 

ネイトもその無線に応じ互いに感謝の言葉を伝え合っていると…

 

「ネイトさん。出発前に連絡をしていたのって…。」

 

ハナコがある答えにたどり着き、

 

「あぁ…ゲヘナのトップである万魔殿の議長の羽沼マコトさ、Ha.p。」

 

その考えが正解だと明かした。

 

「俺の最悪のケースはトリニティを出たあともゲヘナに追いかけ回されることだ。キヴォトスの法律上問題ないとは言えトリニティとゲヘナの関係は悪すぎるからな。」

 

「…だったら最初からゲヘナ側に事情を説明して正式な許諾を取りつけて…。」

 

「追撃してくるであろう勢力を1つ潰してしまおう…いうこと、教官?」

 

これまでの一行の行動は殆ど国交断絶状態に等しい両行相手では火中の栗を拾うも同然の危険行為だ。

 

以下にネイトが学校という枠組みから外れた企業人だとしてと必ず波風が立つ。

 

ならば、下手にコソコソするよりコネがあるゲヘナに来訪理由を伝え警戒を解いておいたほうが利口だ。

 

結果、マコトはネイトたちの行動を許諾し道のりの半分の安全を確保することができた。

 

すると、

 

「しかし、まさか『リムジン』での迎え付きとは思わなかったぞ?オーバー。」

 

ドラケン1個小隊という盛大な出迎えをジョーク交じりにネイトが尋ねる。

 

通行の許諾は貰えたがまさか護衛まで派遣してくれるとはあのマコトとは思えないほどの大盤振る舞いだが…

 

《なぁに、タクシー代はシャーレにつけとくって話ですよ。コメン。》

 

「…だそうだ、先生。」

 

「け…経費で落ちるかなぁ…。」

 

あちらもウィットに富んだ切り返しでゲヘナの真意を明らかにする。

 

ネイトはあのとき、マコトを相手にこうも言っていた。

 

『シャーレに大きな借りをを作るいい機会だぞ?』、と。

 

ネイトとしてはシャーレの先生の通過を認めることを指していた。

 

が、マコトのことだ。

 

『どうせ作るならもっとデカい借りを作ってやろう』とでも企んだのだろう。

 

そのおかげでこうしてゲヘナに入れたのだ。

 

彼女の強欲っぷりに助けられたことにかわりはない。

 

「こちらシャーレの先生、このお礼はいつか必ずとマコトに伝えてほしい。オーバー。」

 

先生もマコトの狙いは分かっているがそれに報いる意思を伝える。

 

《了解、しっかり伝えておきますよ。…ついでにウチにも差し入れか何かあったら嬉しいんですが?コメン。》

 

「それについてはすぐにでも手配させてもらうよ。オーバー。」

 

《やった。楽しみにしておきます。》

 

と、先ほどとはうってかわり和やかな会話が交わされるゲヘナ空軍とネイトたち。

 

トリニティ生を乗せたアビドスのベルチバードをゲヘナの戦闘機が護衛するという何とも奇妙奇天烈な一行はしばしの間、ゲヘナの夜空を駆け抜けていくのであった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

一行はそのまましばしの間飛び続け…

 

《ネイト社長へ。送迎はここまでだ。ここから先はお眠の連中が苦情申し立てるんでな。コメン。》

 

「了解した。ヴァンピール、ここまでの護衛に感謝する。オーバー。」

 

《それじゃうち等はこれで。先生、約束忘れないでくれよ?コメン。》

 

「もちろん、差し入れを楽しみにしてて。どうぞ。」

 

《トリニティの問題児どもも試験頑張れよ!落っこちてもアンタ等ならゲヘナでもやってけるだろうぜ!ヴァンピール、エンデ独語で『通信終了』の符丁

 

あと少しで街に差し掛かるタイミングでヴァンピール隊も離脱し帰還していった。

 

「なっ何よ、アイツら!まるで合格できないようこと言っちゃって!」

 

そんななんともゲヘナらしい不躾な別れの言葉に憤慨するコハルだが、

 

「まぁまぁ、コハルちゃん。あの方々なりの激励ですからぁ♪」

 

「でも、ゲヘナの生徒さんに応援されるのは…悪い気はしませんね。」

 

「コハル、何よりもここまで守ってくれたんだ。まずは感謝しないと。」

 

「わ…分かってるわよ…!あいつ等いなきゃここまでこれなかったことぐらい…!」

 

ハナコたちの言葉にその態度も少し軟化する。

 

「フフッHExecutioner、ゲヘナもなかなか捨てたもんじゃないだろ?」

 

「…うん、聞いてたよりも悪い人ばかりじゃない…わね…。」

 

「うんうん。コハルがそのことを少しでも理解してくれて先生も嬉しいよ。」

 

そんな彼女の反応をネイトと先生が微笑ましく思う。

 

が…

 

ドォォォ…ン!

 

「っ!なっなに!?」

 

「見て、教官…!遠くの方で爆発が…!」

 

そんな柔和な機内の空気をぶち壊さんばかりの爆音が聞こえてきた。

 

見ると遠くの方で爆炎が上がっているではないか。

 

それも…

 

ズドドドドドォォォ…ン!

 

ズバァァァァァンッ!

 

一度や二度ではなくさらには極太のレーザーの閃光まで見えている。

 

「あぁ~…どっかの不良が風紀委員会とドンパチやってるな、あれは…。」

 

「あの光…アサルトロンのレーザー砲ですよね…!?」

 

見覚えのある戦闘風景に遠い目で見つめるネイトと先生。

 

「…やっぱりゲヘナってヤバい所じゃない…。」

 

『………。』

 

そんなコハルの言葉に今度は誰も反論できなかった。

 

と、そんなことがありつつもベルチバードは順調に飛んでいき…

 

「先生、座標はどうだ?」

 

「もうそろそろ…あッ!アソコです!」

 

いよいよ第二次特別学力試験会場付近の廃墟街に差し掛かった。

 

「よし、近くの空き地に着陸するぞ。」

 

ちょうど近くにベルチバードでも降りられる場所があり着陸態勢に移行。

 

ドドドドドドドッ!!!

 

ズゥン!

 

「えぇ~御乗客の皆様。当機は『ゲヘナ自治区第15エリア77番街の廃墟』に到着いたしました。お座席の背もたれとテーブルを元の位置にお戻しください。」

 

「ありがとうございました、ネイトさん♡」

 

「一時はどうなるかと思ったけど教官のおかげで助かった。」

 

「わぁ、まだ9時過ぎですよ!予習だって十分にできます!」

 

「よし、あとは範囲を覚えて試験に合格するだけね!」

 

「先生、俺が手を貸せるのはここまでだ。後は任せるぞ。」

 

「はい、しっかりとみんな合格できるように導いて見せます!」

 

補習授業部や先生もネイトに感謝と頑張りの言葉を述べハッチから飛び出し会場である廃墟へと駆けていくのであった。

 

「フゥ~…まさか陸軍の俺が戦闘機と追いかけっこする日が来ようとは…。」

 

一人残されたネイトは後部ハッチの腰に座り深く息をついた。

 

10年前線で戦っていたがまさかあそこまで本格的な空戦を経験するとは思わなかった。

 

あと数秒遅れていたら…ベルチバードがどうなっていたか分かったものではない。

 

「マコトにはホントに感謝しなくちゃな…。」

 

打算が山盛りとはいえ助けてくれたことには違いない。

 

ネイトからも感謝を伝えなければと思っていると…

 

「…のどが渇いたな。」

 

流石にあの緊張の連続で体力を損耗したか、

 

「自販機とかあったりするかな…。」

 

ネイトは飲み物を求めて廃墟街偏と踏み入る。

 

が、

 

「ない…!」

 

廃墟街とはそう言う設備が無いから廃墟街なのだ。

 

あったとしても弾痕やら殴打痕が刻まれたスクラップで当然中身などない。

 

「クッソぉ~…連邦の壊れた自販機でもたまに一本二本は入ってたのに…。」

 

そう悔しそうに呟くネイトだが…ここは連邦ではなくキヴォトスだ。

 

その常識は通じないだろう。

 

「…仕方ない。少し足を延ばすか。」

 

少し行けばコンビニの一件でもあるだろうと思い…

 

ガン!

 

苛立ちを紛らわせるためか壊れた自販機に蹴りを軽く入れ立ち去ろうとする。

 

すると…

 

ガッコンッ!

 

なんとも耳馴染みのある金属音がなり自販機の受け取り口に何かが落ちてきた。

 

しかし、それを見た途端、

 

「………は?」

 

ネイトは絶句した。

 

なぜならそれは…

【挿絵表示】

いかにこのキヴォトスでも普通『あり得ない代物』だったのだ。




現実は予想できぬように豹変する。あらゆる平衡は早晩打破される。
―――物理学者『湯川秀樹』
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