―――歴史家『エドワード・ギボン』
「しかし、なかなか立派な建物だな。」
「えぇ、ティーパーティの部隊が駐留していた小規模な基地が払い下げられましてそこを改修して我々の本部にしていますので。」
トリニティきっての過激派派閥『ブラダビ分派』。
好き好んで訪ねる者は稀なこの場所に踏み込んだネイト。
今はこの派閥所属の生徒に案内してもらっているが…
「………。」
「おや?どうかなさいましたか?」
「いや、随分みられているな…と。」
辺りに視線を向けネイトはここに入った時から感じていたことを口にする。
この本部のある敷地に足を踏み入れた時から遠巻きや物陰からブラダビ分派の生徒達がネイトを見ているのだ。
「ウフフッ皆さんったら…。来客など滅多にありませんからきっとネイト様のことが気になって仕方ないのでしょうね。」
案内している生徒はそうポジティブな意見を言うが…
(よく言う…。歓迎する気なんてさらさらない癖に…。)
その言葉を頭から信じるほどネイトは楽観的ではない。
あの目線は好奇や興味といったそれではない。
(ファーハーバーやヌカ・ワールドに入った頃を思い出す。)
感じるのは『警戒』と『嫌悪』といったもの、『部外者』や『余所者』に向けるものだ。
それは…
「さぁこちらへ。領袖が首を長くしてお待ちしておりますわ。」
「…あぁ。」
楚々とした所作を崩さない目の前の生徒も同じだ。
こちらを見ている生徒ほど露骨ではないが…
「………!」
(許されるのなら唾の一つでも吐き掛けたい…と言った感じだな。)
見ればその手は強く握られ震えている。
明らかに感情を抑え込んで対応していることが手に取るように分かった。
(無理もない。トリニティの悉くをコケにしてゲヘナと仲がいい俺なんか…今すぐにでも撃ち抜きたいだろう。)
理由は察しが付く。
あのパテル分派以上の反ゲヘナを掲げるブラダビ分派。
そんな派閥の本部にゲヘナと取引を交わし懇意にしているネイトがやって来て面白く思わないはずがない。
しかも、終末思想と選民思想まで拗らせているのだ。
それでも噴き上がりそうな激情を必死に抑え込んでいるところを見るに…
(トップの指示で仕方なく受け入れた、と言ったところか。)
よほど彼女たちのトップ、『領袖』がネイトとの面談を望んだのだろう。
正直言ってネイトもアポの段階で断られることは覚悟はしていた。
しかし、意外にも電話口の相手はすんなりネイトの訪問を受け入れている。
自分がどういった存在かは向こうもよく知っているだろう。
そして、そのトップがその対応をしたと言うことは…
(何か裏があるな…。)
何かしらの狙いがあってのこと、と考えることができる。
やはりトリニティトップクラスの警戒組織。
油断することは決してできない。
(さて…一体何が出てくるやら…。)
ネイトは警戒を決して緩めず彼女の後に続く。
二人はそのまま重厚感のあるブラダビ分派本部の建物内を歩いていき…
コンコンコンッ
「『リエル』様、ネイト様をお連れしました。」
奥まった場所にある大きな扉の前で中にいる人物に呼び掛けると…
「えぇお入りになって。」
中から絹糸を引くよう声が聞こえ、
「失礼します。」
案内してくれた生徒がドアを開けると…
「ようこそ、ネイト様。我がブラダビ分派へ。」
そこには壁中に銃が飾られた執務室内に佇んでこれまでの生徒以上にベルトリンクを体に巻き付けた長いブロンドヘアの生徒がいた。
「改めまして…『ブラダビ分派』の領袖を務めますトリニティ総合学園3年生、『由田リエル』と申します。」
そう言い、彼女…リエルはネイトにカーテシーを披露し歓迎の意を表す。
「いきなりの訪問を歓迎してもらい感謝する。」
「さぁどうぞこちらにお掛けになってくださいな。貴方はお茶をお持ちになってくれますか?」
「畏まりました、リエル様。」
リエルはネイトを客用のソファにつかせて案内をしてくれた生徒にお茶の準備を頼む。
「本日はこのような辺鄙な場所によくおいでくださいましたわ。」
「いや、都会よりもこういうのどかな場所の方が俺は好きだから何の苦もないさ。」
「まぁ…そう言っていただけると私どもも幸いですわ。」
と最初こそ互いに和やかな会話を交わす二人。
だが、
「それにしても…失礼ながらネイト様がここまで礼儀正しい方とは少々意外でしたわ。」
「そうかな?確かにメディアではかなり激しい一面がよく取り上げられているしそれも無理は…。」
リエルのネイトのイメージに対する評に心当たりがあるのでそう返す。
彼としてはアビドス独立戦争や安保理にあの騒動の夜のことを差していると思っていたが…
「いえ、そうではなく…。」
リエルはそれをやんわり否定し…
「あの『礼儀知らず』で同じ生徒とは思えない野蛮な悪魔と懇意になさってる貴方がその毒牙に侵されているのではないかと思ってまして…。」
「………。」
ネイトの予想の斜め上の答えを出してきた。
「数日前も『低俗な乞食』の方々が高潔なトリニティ内で事件を起こしたとか…。」
「あぁ、俺も美食研究会の制圧を援護したから把握している。」
「まぁ…それはこの清浄なるトリニティの大地の『清さ』を護るなんて素晴らしい行いなのでしょう…。」
さらにテロリストとはいえ美食研究会を乞食と唾棄するように言い放つ。
(なるほど…噂通りの反ゲヘナ思想だな。)
出会って数分と立っていないが…まざまざとここがどのような場所かと再認識するネイト。
長年いがみ合ってきたのだ。
多少の暴言は最早しょうがないものだが…
(まるで白人至上主義の連中と話してるみたいだ。)
自分とは決して価値観が相いれないというのはすぐに理解できる。
「そんなネイト様がなぜゲヘナとお近づきになっているのか全く理解できないのですが…。」
「…あくまでビジネスパートナーだ。互いに利益になるから利用し合っているにすぎない。」
確かにネイトとゲヘナとは利害関係が主な関係を結んではいる。
「ふむふむ…あの野蛮人どもを利用し利益を得る…。栄えあるトリニティの我々には思いつかない経営方針ですわね。」
飽くまで互いに理があるから関わっている、それを否定するつもりはさらさらないが…
「………そうか。」
それを悪びれなく悪し様に言われるのは気分が良いものではない。
「おっと…失礼。別に私共はネイト様のことを野蛮人と同列に見ているわけではないんですよ?」
「いや、構わない。君達からしたら面白くはない事は理解している。」
「さて、お喋りもそこそこにお電話にてお聞きした本題に入りましょうか?」
この短時間で『ブラダビ分派』が何たるかをまざまざと見せつけられたがようやくネイトがここに来た目的が明かされる。
「私どもの発注した銃火器の輸送トラックが襲われた件に関する聞き取り…でしたわね?」
「捜査資料は入手しているが…今一度当事者から話を聞きたいと思ってな。」
「無理もありませんわね。複雑な経緯を辿ったとはいえ…我々の銃が貴方の命を奪いかけたのですから…。」
ネイトの肩を撃ち抜き瀕死に至らしめた銃…『AWM』。
その銃が奪われた武装強盗事件の被害者こそ…このブラダビ分派なのだ。
あの夜の事件を経て、アビドス・ゲヘナ・ミレニアムはこの件に関する情報提供の権利を持っている。
その権利を利用しネイトはブラダビ分派の本部に武装強盗事件に関する聴取にやってきたのである。
「…ティーパーティーが承認されたことに我々は異を唱えることはできません。」
リエルはそう言い、
「どうぞ、こちらを。我々が受けた被害の詳細と目録でございます。」
一冊のファイルをネイトに差し出した。
「ご不明な点がございましたらお教えできる範囲でならばお答えいたしますので。」
「感謝する。」
それを受け取り早速中身に目を通すネイト。
襲撃場所や時間に相手方の装備に人数、奪取された装備の詳細なども事細かに記載されていた。
「………。」
その中身は以前、トリニティ経由で入手したものと大差はないがネイトは集中し内容を確認していく。
コンコンコンッ
「リエル様、お茶をお持ちしました。」
「ありがとうございます。」
「………。」
それはあちらからのお茶とお菓子が目の前に並べられても変わらずしばしの間、ネイトは資料から目を離さなかった。
時間にして30分ほどたったであろうか?
「………ふぅ。」
「一段落いたしましたか?」
「すまないな。集中し過ぎていたようだ。」
ようやくネイトはファイルを閉じ目線を挙げた。
「それで…いくつか質問してもいいか?」
「えぇ、答えられる範囲ならば何なりと。」
確かにこの資料はネイトも以前目を通したものとほぼ内容は同じだった。
だが、やはりそこは被害者と言ってもいいだろう。
より詳細な情報が確かにあった。
「この被害品の目録だが…。」
「いかがなさいましたか?」
「…随分高級品な銃器ばかり発注していたようだがこれはなぜだ?」
ネイトが気になったのはここだ。
以前の捜査資料では銃器の種類は把握できても…そのメーカーまでは記載されていなかった。
「キヴォトスには多くの銃器メーカーがあるが…ここに記載されてあるのはどれもその中でもハイエンドな品質と精度を誇る企業が製造した物ばかりのようだ。」
銃器がアクセサリーと同等の扱いで普及しているキヴォトス。
その中でも同型の銃でも製造元によって品質はピンキリである。
当然、高級品ならばその分様々な性能は非常に高くなるのは必然だ。
「それが…なにか?」
そのことは特段おかしい事ではないと思い、リエルは首を傾げる。
『AWM』が発注されていたことからも特段おかしくはない事だが…
「入り口からこの執務室に入るまでしか見ていないが…些かここの派閥の生徒が持つ銃と比べるとランクが相当違う…と思ってな。」
問題は現在の装備とこの目録の装備の品質の差だ。
ネイトを遠巻きで監視していた者たちや案内してくれた生徒も銃を持ってはいた。
正直言ってそれらは旧式、メーカーを確認できた案内してくれた生徒の機関銃はそれこそ結構な年代物の代物だった。
この執務室に飾られている銃もほとんどがせいぜいミドルランクくらいの企業の物や旧式の物ばかり。
トリニティにはそのような銃を好む生徒も確かにいる。
ミネやツルギにいたっては優に100年以上前に設計されたレバーアクションショットガンを使っている。
ブラダビ分派がそのような方針を持っているならば特段おかしくはないが…
「見たところ…随分いきなり装備の更新、それも価格も馬鹿にならない規模で一気に大量に購入していることが気になってな。」
「………。」
そんな派閥がいきなり最新式の公休な銃器を大量購入するのは確かに少々怪しい所がある。
しかも、この本部はティーパーティーからの払い下げられた施設だ。
安くはなかろうが…それでも懐にそんな余裕があるとは思えない。
「…なるほど、よく周りを見ておられましたわね…。」
リエルはそう言葉を発し、ティーカップに注がれた紅茶を一口含み…
「確かに、我が派閥は小規模故に懐事情はよくはありませんわ。」
ネイトが指摘する部分を肯定しつつ、
「しかし、ネイト様。貴方はお考えになられたことはございますか?」
「何がだ?」
「もし…明日にでもこのキヴォトスが最早その体裁を保てないほどの未曽有の大惨事が起こったら…と。」
まるで聖典でも読み上げるかのようなオーラを纏い語り始めた。
「その時、きっとキヴォトスの秩序は消滅し多くの方々が信仰を喪い迷われるでしょう。」
手を合わせ、まるで『予言者』でもあるかのように語り始める。
「その時に我々ブラダビ分派は迷える方々を導く『灯火』となりたい…。」
「灯火?」
「はい…私どもの灯火に選ばれた方々を導きその灯火を信じぬ方々から守るためには『力』になりたい…。その思いでこの派閥、ブラダビ分派を創立いたしました…。」
「………。」
「私どもが武器を蓄えるのもそのため…。選ばれし方々を御守りする力を得るために…このように多くの銃を蒐集しているのです…。」
創立と重武装化の理由を語る彼女だが…
「奪われた銃もそのため…。来る日に備えさらなる力を得るために…身を削って用意した物なのです…。」
その目は徐々に陶酔の色を帯び始めた。
「そうなればあの下賤な悪魔どももこの清浄なるトリニティを穢そうとはびこるはず…。そんな悪魔どもを滅するにもまた銃は必要なのです…。」
そして、意に沿わない者や相容れない者への高い攻撃性。
ネイトは…これらの要素に覚えがある。
(まだまだ比較にならないほど弱いが…テクタスを思い出すな…。)
前世はファーハーバーで相まみえたニュークリアスCoAの指導者だった『テクタス聴罪司祭』。
彼もファーハーバー全域をアトムの恩恵…放射能の霧で満たし最終的には核ミサイルによって『分界』へと至る事こそ至上の幸福だと思い疑わなかった。
リエルのそれは…そのベクトルのもの。
(これは確かに正義実現委員会も警戒するのも納得だ…。)
ネイトからすれば幼稚なものだが…学園都市であるキヴォトスにとっては劇薬のような思想だ。
小規模なお嬢様の派閥ならまだよいが…この年代の子供は殊過激思想に染まりやすい。
しかもリエル本人のカリスマ性は結構あるようだ。
でなければ新興派閥でこの小規模な基地の跡地に居を構えられる資金力と人員をそろえることはできないだろう。
もし大々的にブラダビ分派の思想が世に知られれば…そこそこの生徒が傾倒しかねない。
「それが私共がそれらの銃を求めた理由でございます。ご納得していただけましたでしょうか?」
「………なるほど、何事にも備えは必要だな。」
「まぁ、理解していただけるのですか…?!」
「これでも企業を率いる身だ。有事への備えは欠かしていない。」
しかし、それを頭から否定することはしない。
あちらは最早隠すつもりもないが…ゲヘナへの悪感情は常軌を逸している。
そんな状況でゲヘナに近しい自分が否定の言葉を出せばどういった反応を示すか分かったものではない。
下手をすればこのままブラダビ分派との全面衝突待ったなしだ。
「…それじゃまだいくつか聞かせてくれ。」
「はい、どうぞ。」
その後もネイトは慎重に言葉を選びながら聞き取りを進めていった。
時間にして1時間ほど経ったころ、
「…よし、聞きたいことはこれくらいだ。協力に感謝する。」
「もうよろしいのですか?」
「直接の関係者じゃない、ましてや被害者の君達にこれ以上踏み込んだ質問は不躾だからな。」
ネイトが聞きたいことはあらかた聞き終えリエルへの聴取は終了した。
「今日は時間をとってくれてありがとう。」
「いえ、何のおもてなしも出来ずに…。」
「何を。情報というもてなしをしてくれたじゃないか。」
「フフフッ困った方をお導きするのもブラダビ分派の務め、お礼には及びませんわ。」
「ッと、そうだ。君達に返すものがあったんだ。」
「返す物…ですか?」
初対面の自分に何をと思い首を傾げるリエル。
「と言ってもそれそのものじゃないが…。」
カシャン
ネイトがPip-Boyから取り出したのは…薄長めの直方体のジュラルミンケースだ。
それをテーブルの上に置きロックを外し開けて見せると…
「まぁ…これは…!」
「『AWM』、調査のために入手した物だ。少々使ったがクリーニングも終えてある。」
そこに収まっていたのはネイトの肩を撃ち抜いた因縁の銃、AWMだ。
「これを…私どもに…?」
「生憎、そちらから奪われたものは壊されてしまってな。代わりと言ってはなんだがこれを返そうと思ってな。」
「で、ですが…!」
「いい銃だが生憎俺には別の得物がある。死蔵しておくにも勿体ないから元の持ち主に返したほうがいいだろう?」
ネイトの愛用のスナイパーライフルはすでにありAWMを扱うアビドスの生徒もいない。
ならば、本来の持ち主に返すのが筋だろう。
「よろしいので…?!」
「遠慮はいらない。調査を引き受けてくれた謝礼代わりだ。」
「で、では…!」
最初こそ遠慮しがちだったがリエルも奪われた銃が戻ってきたことは嬉しいようでジュラルミンケースを受け取った。
「あぁなんという美しい銃なんでしょう…!」
「気に入ってもらえてよかった。それじゃ、俺はこれで。」
「あっ外までお見送りを…!」
「気持ちだけ受け取っておくよ。道は憶えているから心配しないでくれ。」
「…それでは、ネイト様。また会える日を楽しみにしておりますわ。」
渡す物も渡せ、ネイトはリエルの執務室を後にしブラダビ分派の本部を去っていった。
「………。」
そして、ネイトが去り一人残された執務室では…
「…フンッ砂臭い賤民め…。やっといなくなりましたか…。」
リエルから先ほどまでの笑顔が消えさり表情を歪めてそう吐き捨てる。
「その癖に随分警戒心が強いですわね…。」
彼女の目線の先にはテーブルに広げられたお茶やお茶菓子があった。
だが…ネイトの座っていた方にある物は一切手が付けられていない。
明らかにこちらを警戒しての事だろう。
「全く…あの『お方』の指示が無ければここで裁きを下せたのに…。」
なおも憎たらしげに語るリエルだが…
「…ですが、銃に罪はありませんわ。賤民にしては気が使えますわね。」
そこにあるAWMはしっかりと受け取り、
「誰か?この銃を倉庫に納めに行ってはくれませんか?」
配下の生徒にそれをしまうように命じるのだった。
―――――――――――――
――――――――
―――
そんな事があり…翌日のこと、
「リエル様、こちらが新たな同志に呼びかけるためのポスターのデザインになります。」
「拝見いたしましょう。」
この日も校外の本部にてブラダビ分派の生徒たちは派閥の業務を行っていた。
いつもと変わらない日々…のハズだったが、
ウゥゥーッ!!!/font》
『ッ!!?』
突如として施設内に鳴り響くサイレン。
《font:279》《監視塔より全同志へッ!!!繰り返し、全同志へッ!!!》
さらに室内にあった無線機から焦っている見張りの生徒からの通信が入り…
《こちらに向かい装甲車を伴った正義実現委員会とヴァルキューレの車列が猛スピードで接近中!!!各員、警戒せよ!!!》
「せっ正義実現委員会とヴァルキューレですって?!」
「何故ッ?!いきなりそのようなことを?!」
この本部に向かい正義実現委員会とヴァルキューレという治安維持組織が迫っていると言うではないか。
「まさか…?!いえ、そんなはずは…!」
あまりにも突然の事態に状況を飲み込めず苦悶の表情を浮かべるリエルだが、
「リッリエル様…!」
「ッ!…全同志へ、最大限警戒しつつこちらからの発砲は控えてください!貴方は来訪した方々の対応を!」
「はっはい!」
すぐに気を取り直し指示を飛ばし備える。
数分後、
キキーッ!!!
本部を包囲するように正義実現委員会とヴァルキューレの車両が停車。
すぐに中から多数の隊員の生徒たちが展開し警戒する。
そこへ…
「一体何の騒ぎなのですか?!」
リエルから指示を受けた側近の生徒が正門の前に立ち声を大にして誰何する。
「おはようございます。正義実現委員会の羽川ハスミです。」
彼女の前に立つのはハスミだ。
表情こそ冷静だが…明らかに沸き上がる激情を抑え込んでいることが分かる。
「ハスミ様、このように大勢で押しかけて一体これはどのようなおつもりですか?」
側近の生徒は彼女に詰め寄り無礼を責めつつ目的を尋ねる。
「私共、ブラダビ分派は正式な認可を得て結成された派閥ですわ。それをこのように大勢で取り囲んで…あまりにも礼儀を損なっているのではなくて、」
不愉快そうな表情を崩すことなく言葉を続ける側近だが…
「…こちらをご覧になってください。」
ハスミは短くそう言い2枚の書類を彼女に見せる。
それは…
「ティーパーティー及び連邦生徒会発行のの捜索差押許可状です。罪状は禁止兵器所持による連邦法違反並びに正義実現委員会への加重暴行罪幇助です。」
「え…?」
2つの組織から出された捜索差押許可状である。
「これらの嫌疑により…9:27をもってブラダビ分派が保有する施設を捜索いたします。」
呆ける側近を尻目ににべもなくハスミは正義実現委員会とヴァルキューレの生徒を率い本部施設へ侵入しようとする。
「失礼ですが由田リエル氏はどちらに?」
「まっ待ちなさい!!!れっ連邦法違反に加重暴行ですって?!一体何のことをおっしゃっているのですか?!」
リエルの身柄を要求するハスミを制止し側近はこの令状の意味を尋ねる。
「すでに通告したとおりです。詳細は後ほどお伝えします。」
「何かの間違いです!我々は極々普通の派閥!このような暴挙が許されるはずがありませんわ!!?」
「すでにティーパーティーと連邦生徒会の承認を受けています。拒否することはできません。」
しかし、ハスミは歩みを止めることなく本部の建物に近づいていく。
その時だ。
「非選民共めっ!!!穢れた足でここに踏み込むなっ!!!」
ズダダダダッ!!!
見張り台にいたブラダビ分派の生徒が迫る隊列に向け発砲。
「やっ止めなさ…ッ!!!」
側近の生徒が制止するも…もう遅い。
「ッ抵抗を確認!確保っ!!!
「きゃあっ!?」
すぐさまハスミは目の前にいた側近の生徒を拘束、
「皆さん、散開してください!!!これよりブラダビ分派本部制圧に移ります!!!」
『了解っ!!!』
ズダァン!!!ズダァン!!!
ズパパパ…ッ!
すぐさま正義実現委員会とヴァルキューレの部隊がそれに応戦。
「このぉッ!!!」
見張り塔の生徒が排除しようと狙いを定めるが…
ズダゴォッ!!!
「がはッ!!?」
見張り塔の壁諸共撃ち抜かれ吹き飛ばされた。
本部から数百m離れた場所には…
「こちらマシロ、見張り塔Aを制圧。続いて支援射撃を行います。」
硝煙を挙げるAnzio20mmライフル『正義の顕現』を構えたマシロがいた。
こうしてブラダビ分派本部への攻勢を開始した正義実現委員会とヴァルキューレ。
ドォオオオンッ!!!
チュィンチュウゥンッ!!!
銃声と爆発音で埋め尽くされる本部施設内では…
ガシャアン!バガァン!!!
ボオオオ…!
(なぜ、どうして?!こんな、こんなはずではっ!!?)
執務室のリエルはその場にあったパソコンを叩き壊し様々な書類を燃やしながらこの事態が読み込めないでいた。
(あの方はっ!あの方は何をなさっているのですか?!)
こんなことは起こるはずがない。
こういう事態にならないようにすると言われていた。
それを信じて疑わなかった。
なぜなら…
(あの方も我々と志を共にするお方なのに!!!私が唯一お仕えするに値するお方なのに!!!)
あの方もまた…自分たちと同類なのだから。
なのに…こんな事態になった。
「ハァーハァー…っ!」
荒方やることを終えリエルは肩で息をしつつ…
「…フッフッフッ…そういうことですか…!」
リエルは不気味に笑い始め…
「これは試練…ということですわね…!」
憎悪で歪んだ表情で傍らにあった自らの愛銃である『AA-52』を手に取った。
「いいでしょう…!あの非選民どもを討ち取ったら次は…!」
ガシャアン!
自らの身体に巻いたベルトリンクを装填し、
「さぁ参りなさい…!我々にはこの地を清浄にする務めが…!」
執務室入り口に銃口を向け迫る正義実現委員会やヴァルキューレの生徒たちを待ち構える。
だが…
ドッゴォアンッ!!!!!
「~ッ!!?」
突如として執務室の壁が吹き飛ぶ。
「え…!?」
状況が呑みえないリエルだったが…巻き上がる粉塵を突き破り…それが現れた。
「きぃえええええ…見つけたぁ…!」
「ひっ…!」
爛々と輝く相貌をリエルに向け…正義実現委員会委員長、剣先ツルギが突入してきたのだ。
あまりにも強引な突入と桁違いの闘気と殺気にリエルは固まるが…
「キィエアアアアアア!!!」
「きゃああああああ!!?」
お構いなしにツルギは彼女に襲い掛かるのであった。
そんな様子を…
ドォォォン…ッ!!!
パパパ…ッ!!!
「おーおー…派手にやってるな…。」
山中の木々に偽装し望遠鏡越しに眺めるネイトがいた。
爆音と銃声が響き続けているがどうやら正義実現委員会側が優勢なようで続々とブラダビ分派の生徒が拘束されて行っている。
ツルギの存在も確認されているので制圧は時間の問題だろう。
「どうやら送った証拠は無駄にはならなかったようだな。」
満足そうに呟くネイトだが…少し時間を遡ろう。
場面は…昨日の深夜のこと。
『スゥ~…スゥ~…。』
ブラダビ分派の派閥員は当直の者以外を覗きベッドで夢の中に旅立っている。
そんな本部敷地内に…
ザッ…!
(さぁて…化けの皮の下を拝ませてもらうとしよう。)
闇夜に紛れ忍び装束姿のネイトが忍び込んでいた。
なんやかんやネイトが今まで着てきた衣服の中では動きやすさや静謐性は中国軍ステルススーツを除けくとトップクラスのこの服。
バリスティックウィーブによる強化も施しネイトの新たな装いとして所持していたのだ。
そんな忍び装束を着て気配を殺しネイトが向かったのは…
(ここがブラダビ分派の武器庫…。)
既知の外れにある分厚いコンクリート製の半円筒上の建物だ。
見ると巨大な鋼鉄の門とは別に隅の方に小さな扉がある。
そこに近づくと暗証番号を打ち込むためのキーパッドがあった。
(さて…。)
ネイトは懐からブラックライトを取り出しキーパッドを照らすと…
ボヤァ…
いくつかのキーに付着した指紋が浮かび上がった。
(頼むぞ…。)
正直、番号の組み合わせはかなりあるが…
PiPiPi…
浮かび上がった指紋の濃淡をヒントにキーパッドを入力していく。
すると…
ガチャ
(よし…!)
そんな金属音と共にロックが開錠された。
素早くネイトは扉から内側に滑り込み、
「頼む、当たりであってくれよ…!」
扉を閉めPip-Boyのライトで辺りを探る。
中にはこれでもかというほどの銃火器や弾薬が保管されてあり確実にブラダビ分派では手に余るほどの量だ。
しかも…
(量はすごいが…クォリティはまずまずだな…。)
大概の銃がいわば『お手頃』と言える品質の物ばかり。
銃と言う物はちゃんと撃ててちゃんと動けば問題ない代物でこれらも実用に十分耐えれはする。
だが…
(やはり…あの高級品ばかり発注するのは不自然だ。)
それが余計にネイトの疑念を強める。
数を揃えるには高級品の銃はむしろ足かせだ。
なのに、リエル曰く少々無理をして購入したという。
これほどの銃があってわざわざ高級品の銃を、だ。
そんな中、
(…あった。)
武器庫の一角にジュラルミンケースが置いてあった。
そのケースをネイトは開け…
ガポッ
AWMが収まっていた緩衝材を外すと…そこにはいくつかの電子機器が装着されていた。
(さて…何かいい話は聞けるかな?)
それらの機器を回収しケースを元の状態に戻しリップも吹き上げておくことも忘れない。
このジュラルミンのケースはネイトによっていくつかの仕掛けが施された代物だ。
グリップには付着しやすく色持ちがしにくいように調合された蛍光塗料が塗布されておりこれによって暗証番号の検出を行った。
さらに、箱の緩衝材の中には外部送信ができない代わりに微弱な音声も拾えるように改造した盗聴器も仕込んでおりリエルたちの会話も録音している。
これでブラダビ分派がどんな会話をしていたか把握できるはずだ。
(よし、デバイスの回収はできた。後はもう少し調査を…。)
目的の一つは達せられ他に証拠になりそうなものはないかと探るが…
「…ん?」
倉庫の中に…違和感を覚えるケースがあった。
ここは武器庫で様々なケースも置かれてあるが…そのケースは真新しくさらに頑丈な造りとなっている。
それを見て…なにやらネイトに嫌な予感がした。
「…。」
意を決し、そのケースを開けてみると…
「…ッ!?」
そこにあった…奇怪な形状をした手榴弾やガス缶のような容器だった。
そこに印刷されてあった文字は…
「『Thermobaric Explosives』…?!」
キヴォトスであっても所持は禁止されている兵器…サーモバリック爆薬である。
「なんでこんなものが…?!」
ネイトが驚くのも無理はない。
禁止されている兵器ゆえその入手は非常にハードルは高い。
つまり、それは入手できたとしても非常に高価ということだ。
トリニティと言えど…小規模派閥であるブラダビ分派が入手できるような代物ではないはずだ。
製造したとしてもそのような設備を保有していればさらにマークされることは確実。
とするなら…
「まさか…?!」
ネイトは一つの結論に辿り着く。
あったではないか。
このサーモバリック爆薬が大量に用いられた事件が。
その爆薬と同種の物がここにもあると言うことは…
「………。」
カシャッ
ネイトはスマホを取り出しケース内部を撮影。
さらに探索しいくつかのサーモバリック爆薬が収められたケースも見つけそれも撮影していく。
「…よし。」
撮影も終え武器庫を後にするネイト。
そして向かったのは…
バリン…
「………警報はなし、か。」
リエルと面談をこなった執務室だ。
目視で確認し窓を割ってみると警報装置は設置されていないようだ。
カチャ
そのまま穴から鉤を開け進入。
「悪いが使わせてもらうぞ、領袖殿。」
机の上にあったPCを立ち上げる。
当然パスワードを入力しなければならないが…
PiPiPi…Pipi!
「いいね…!」
お得意のハッキングで突破。
そして、PCとスマホを接続し先ほどの写真を転送しメールを作成。
「…頼むぞ。」
そのメールを…正義実現委員会とヴァルキューレに内部告発として送信した。
所持が禁止されているサーモバリック爆薬を持っているとなるとヴァルキューレも動かざるを得ないはず。
さらに正義実現委員会にとってこの爆薬は決して忘れることができない忌まわしい存在だ。
ヴァルキューレ以上に行動を起こす可能性は高い。
そうでなくてもブラダビ分派はトリニティ内で警戒対象組織となっている。
このような告発文が送られて来たならば…無視はできないはず。
「…あとは天に任せるのみ。」
そう言い、ネイトは音もなく鍵を閉めた後にクラフトで窓を修復しブラダビ分派本部を脱するのであった。
結果は…見ての通りだ。
「…これで動き出すだろう。」
決着が近いブラダビ分派本部の戦闘を見つつネイトは呟く。
小規模派閥には不釣り合いな高級武器とサーモバリック爆薬。
これらはつまり…
(あいつもまた…操り人形だったと言うことか。)
リエルも本人が意識していないうちに掌で踊らされていた可能性が高い。
録音は触り部分しか効けていないがゲヘナに関わっているとはいえ他学区であるというだけであれほどの憎悪を抱いていた人物だ。
(おそらく…ソイツは俺が調査に来ることも読まれていたか…。)
そうでもなければあそこまで見かけを取り繕い対応などしないだろう。
だが、その操り人形の意図は切り落とした。
(人形遣い気取り…次はお前の番だ…。)
そう内心で黒幕に闘志を抱いていると…
Prrr…Prrr…
「…もしもし?」
ネイトのスマホに着信がはいった。
「…あぁ…あぁ、ありがとう。…分かっているさ。約束は果たすよ。…あぁ、明日には届くんだな。」
電話に出て短く言葉を交わしネイトは電話を切り、
「…さて、明日は忙しくなりそうだ。」
望遠鏡を片付けて退散するのであった。
もし事実と理論が合っていないとしたら、捨てるのは理論の方ね。
―――作家『アガサ・クリスティ』