―――チェスプレイヤー『ボビー・フィッシャー』
闇夜に紛れて始まったアリウスのトリニティ制圧作戦。
ナギサのセーフハウスに突入したチームⅣとネイトが戦っている一方、
タタタ…ッ!
「あそこだ…!」
ある一団がある建造物を取り囲んでいた。
「こちら『スティグマフォース』、コード『グレイプニル』が滞在する建物周辺に到着…!」
部隊名『スティグマフォース』、出動隊員は総勢19名で構成されるアリウスの新設部隊だ。
そんな彼女たちに課された任務は…
「くそっ…!拘束なんかせずに始末しちまえば…!」
「アイツ、一体何を考えてやがる…?!」
「かヒュー…!かヒュー…!」
様々な箇所に負傷の色が濃い彼女たちが不満を漏らすのも無理はない。
彼女たちの任務…それはネイトの『拘束』だ。
何せ、彼女たちをここまでボロボロにした張本人を目の前にして始末ではなく『生かして捕らえよ』という任務。
仇を打てると意気込んできてみれば生殺しもいい所の任務だ。
不満の一つや二つも言いたくなる。
「静かにしろ、奴に聞こえたらどうする…!」
「リーダー、アンタは悔しくないのか…!?」
「悔しいに決まっているだろう…!」
彼女たちの指揮官、ネイトに顔面を踏み砕かれたアリウス生がそう答えるも…
「だが、任務は任務だ…!私達にはそれを果たす義務がある…!」
この任務を任された意義を再確認させる。
「アリウスの中で奴を知るのは我々だ…!だから、我々が奴と一番戦えるんだ…!」
正直、ネイトの戦力は規格外。
ひょっとしたら自分たちの最強の部隊が相手でも…そう思うことは何度もあった。
だが、それでも自分たちはネイトを知っている。
それが唯一、ネイトととの戦いに臨む上での他のアリウス生にはないアドバンテージだ。
「だから、なんとしても奴を捉えるんだ…!良いな…!」
『………ッ!』
リーダーの言葉に反論を飲み込むスティグマフォースの面々。
そして…
「それにだ…!奴が生きてさえいればいい、そう言うお達しだ…!」
『ッ!』
彼女の言葉にハッとし…
「…だったら私は足を…!」
「私は腹を…!」
「かヒュー…!かひゅぅ…!」
目を爛々と輝かせ始める。
そうだ、殺さなければいいだけだ。
ならば…自分たちに与えた苦痛をネイトに返すのは何の問題もない。
「分かったか…?それじゃあ、行くぞ…!」
ザァオッ…!
リーダーの合図で音もなく動き出すスティグマフォース。
茂みから小走りで飛び出しネイトが根城としている納屋へ迫る。
僅かに空いた鎧戸から見て明りも灯ってないが…ネイトが帰宅してから外に出ていないことは確認している。
前回は少人数に別れていたから敗れた経験を活かしこの場にいる19人全員で一斉に納屋を取り囲む。
実力差はいかんともしがたいが数の利はこちらだ。
一気に襲い掛かれば…負けるはずがない。
「行くぞ…!」
指揮官は周りの生徒に合図を送り…
バガァンッ!!!
朽ちかけた納屋の扉を蹴り破り内部になだれ込むスティグマフォースの生徒達。
だが…
『ッ!!?』
踏み込んだ彼女たちは固まった。
中には質素な机と椅子にベッドしかなくネイトの姿はない。
ずっと監視していたはずなのに、と言う疑問がわくはずだが…そんな余裕は消し飛んだ。
なぜなら部屋の至る所に…
「だっダイナマイト…!?」
まるでどこからか雑にもぎ取ってきたかのような集束ダイナマイトが設置されていたのだ。
「リっリーダー!」
「ぜ、全員…ゆっくりと外へ…!」
声を上げる隊員を指揮官である生徒は宥める。
遠隔起爆式ならば取り囲んだ段階で起爆されているはず。
トラップならばドアをけ破った段階に自分たちは吹き飛んでいるはずだ。
見たところダイナマイトには起爆装置の類は設置されていないが…なんの拍子で爆発するか分からない。
隊員たちはゆっくりと後退りしながら納屋から出ようとする。
しかし…
ヒュンッ!
突如として鎧戸の隙間を何かが通り抜け…、
バズンッ!
「え…?」
何かが納屋の中に設置されていたダイナマイトに命中。
次の瞬間、
カッ!!!
着弾の衝撃によりそのダイナマイトが起爆、
ズドドドドォオンッ!!!!
納屋内部にあった集束ダイナマイトにも伝播し連鎖反応で大爆発を引き起こした。
周囲を取り囲んでいたスティグマフォースは納屋諸共にこの爆発で無力化される。
その光景を…
ジャッコン
「……ネイトさんと正義実現委員会の子達の…仇だよ。」
遥か離れた時計塔から硝煙を上げる『フェザーストロークⅡ』を構えるカレンがスコープ越しに静かに見つめていた。
肩には…アビドス最精鋭の証明『セタス部隊』のエンブレムが刺繍された肩章を装着していた。
「……うん、アズサさんの援護に移ろう。」
あの爆発で確実に事態は動く。
カレンは素早く事前に把握している作戦領域を狙えるポジションへ移動を始める。
ズド…ォオンッ!!!!
「なっなんだ、今の音は…!?」
トリニティ中に響き渡る爆音に潜んでいたアリウス生たちも目を見開き驚愕する。
さらに…
《至急、至急!チームⅤより各隊!!!》
彼女たちの混乱はさらに深まっていく。
《きっ奇襲に遭遇!!スパイが…スパイの奴が裏切りました!!!》
「なッ!!?」
「すっスパイが裏切っただと!?なっ何が起きてるんだ!?」
無線からもたらされた情報、スパイとしてトリニティに潜入していたアズサの裏切りの報告にアリウス生達は愕然とする。
あり得ない。
彼女も自分たちと同じ境遇を過ごし精鋭に登り詰めた文句なしの強者だ。
そんな彼女が自分たちを、アリウスを裏切るなど信じられなかった。
しかし、事態は待ってはくれない。
ズダダダダダッ!!!
ドォオオオンッ!!!
《うわあぁぁっ!!?》
次の瞬間には報告していた銃声と爆音とともにアリウス生の悲鳴が流れ…
《裏切り…それ以上でもそれ以下でもない。》
『ッ!!?』
《目標は私が先に貰った。》
少しくぐもってこそいるが…アズサの声が無線から聞こえ始める。
「なっなぜだッ!!?どうして私達を裏切った!!?」
声を荒げて彼女の裏切りの理由を問うアリウス生だが…
《早く終わらせて…試験を受けなきゃいけないから。》
「………え?」
理解できないアズサの答えに呆けたような反応を見せる。
《ちなみに…桐藤ナギサのセーフハウスに向ったチームやスティグマフォースとか言う部隊はすでに制圧されているだろう。》
「チ…チームⅣとスティグマフォースが…!?」
「バカな…!?」
そして、アズサは他の隊の現状を端的に伝え…
《それにもう正義実現員会に通報は届いている。逃げるなら今の内。そうすれば…誰も皆を追わないから。》
Piッ!
アリウス生達に退却、作戦の取り止めを進言し通信を切った。
「…チームⅣとスティグマフォースは…!?」
「だっ駄目です…!何度呼び掛けても応答がありません…!」
すぐに確認を取りアズサの言葉が決して虚言ではないことを理解する。
決して彼女たちが雑魚というわけではない。
チームⅣは元よりスティグマフォースも重傷からの病み上がりだというのに身のこなしは自分達にも劣らない。
なのに…やられた。
「た…退却しますか…?!」
作戦の主要目標の二つが未達成な上アズサの裏切り。
しかも、ここに正義実現委員会の出動も加われば無事に帰還できる見込みも少なくなる。
しかし、
「…いや、今のはブラフだ。『情報』が正しければ正義実現委員会は絶対に動かないはず。気にすることはない、行け!!!」
指揮官はそう断言したように作戦続行を決断。
『了解!!!』
他のアリウス生もその決断に一も二もなく従い行動を再開した。
―――――――――――――
――――――――
―――
こうして始まったナギサを抱えたアズサとアリウスの部隊との追撃戦だが…
「こちらです!おそらくターゲットと思われる物体を抱えたままあの建物に入るのを確認しました!」
「なるほど…ここに陣地を気付いたと言うことか、白洲アズサめ…!」
やはり人数差はいかんともしがたくアズサの姿は早々に捕捉され合宿場に進入する場面も見られてしまった。
「内部に通じる出入り口は二か所のみ!そのうち一か所はバリケードで塞がれています!」
「…白洲アズサのことだ、空いている出入り口はトラップ!バリケードを爆破してそちらから侵入せよ!」
状況を見てと突破口を選定する指揮官。
「騒ぎになりそうですが大丈夫でしょう…?!」
一見すれば時間がかかる上周囲に自分たちの存在がばれるリスクもあるが…
「この際構わん…!あの爆発でもう何かが起こっていることはトリニティ中に知られた…!」
それはもう考えるべきリスクではない。
あの爆発、確認したらスティグマフォースが担当している戦域で発生していた。
いわばあれはあの部隊を嵌める罠というだけではなくトリニティ中に非常事態を知らせるサイレンのようなもの。
ならば、今は何よりも迅速に任務を達するのが先決だ。
「それにちょうど『スクワッド』からも連絡が来た。すぐに増援部隊がトリニティ自治区に投入される…!」
「応援が来てくれるんですか…?!」
「だが、こうなっては最早トリニティとの全面抗争も想定した方がいい…!その前にターゲット『ガベル』だけでも確保する!!!行くぞ!!!」
兵は神速を貴ぶ、その言葉の通りにアリウスの部隊はバリケードが敷設された合宿所の出入り口に向かう。
「あそこだ!突入!!!」
距離はそう離れておらず部隊はすぐさま撤去用の爆薬を設置しようと接近する。
だが…
「だと思った。」
「なぁッ!!?」
バリケードの向こうからひょっこり顔を覗かせたアズサに一瞬行き足が鈍り…
カチカチッ
その隙に彼女の手に握られた起爆装置のレバーが押し込まれ、
ズドドドォオンッ!!!!
『うわあああああ!!!?』
アリウスの部隊の足元に仕掛けられていたフラグ地雷が爆発し多数のアリウス生が巻き込まれた。
「じ。自分が過ごす施設に地雷だと!!?」
「くっ退くなっ進め!!!攻め入ってしまえば数がある以上、私達が有利だ!!!!」
それでもアリウスの部隊はひるむことなくバリケードに殺到し撤去。
一斉に合宿所内になだれ込むが…
ズドォオンッ!!!!
「きゃあッ!!?」
「なっこっちも!!?」
ここはアズサがトリックハウスに仕立てた建造物だ。
ブービートラップはもちろん、
PiPi!
ズバォオンッ!!!!
「どわあああッ!!?」
「クックレイモアだとぉ!?」
指向性対人地雷、
バガァンッ!!!!
「クソッアイツは一体…!?」
「む、なんだこのビニール袋…ってIED!?にっ逃げっ…!」
ドガァアンッ!!!!
扉をけ破ったら手製爆弾や、
ギィ…
「いいか慎重に開けッピィン」
ズドォン!!!
「がはッ…!?」
扉を開けた者を撃ち抜くようにショットガンが設置されてあるなど殺意の塊としか言えない様なブービートラップの数々でどんどん数を減らしていくアリウスの部隊。
それでも犠牲を出しながらどんどん進んでいき…
『ぜぇ…ぜぇ…!』
「て…手こずらせてくれたじゃないか、白洲アズサぁ…!」
「なるほど、かなり数が減りましたね。さすがアズサちゃんとネイトさん。」
「うん、教官のトラップもかなりの腕前だった。」
なんとかアズサ、そしてハナコを合宿所の一角に追い込んだ。
「ターゲットはどこだ…!?」
「隠した。」
ナギサの所在を尋ねるもそう易々と明かす彼女ではない。
「早めに吐いた方がいい…!他の部隊がこの建物を包囲しようとこちらに向かっている…!」逃げても抵抗しても無意味だ…!」
「…増員?」
「あぁ、それも部隊単位でな!」
「…スクワッドは?」
「彼女たちが来るまででもないさ…!それにどうやら…他にやる事があるみたいでね…!」
と、アズサは指揮官と言葉を交わし…
「…分かった。もういいよ。」
「ハンッ!まだ私達の用は終わって…!」
話を打ち切りそれに指揮官が食って掛かろうとした…次の瞬間、
チュドゥバガァドガァンッ!!!
『か…ッ!?』
目の前にいた指揮官と他のアリウス生の頭部に弾丸が叩き込まれた。
「あっという間に三人を…!」
その光景にハナコは舌を巻き…
「…ごめんね。でも、負けるわけにはいかないんだ。」
倒れ伏したアリウス生に詫びの言葉をかけ、
「ありがとう。流石はアビドス1の狙撃手だ。」
ある方向に向け高く上げた手でサムズアップをした。
合宿場から…およそ2㎞程離れた時計塔にて、
「……うん。援護は任せて、アズサさん。」
見えないだろうがサムズアップで返すカレンがいた。
「……皆のためにも少しでも数を減らさないと…。」
先ほど無線越しに聞いていたが確かに多くの影が合宿所に迫っているのが確認できる。
あの軍勢全てが殺到すればアズサや先生たちでも持ちこたえられるかは怪しいだろう。
ならば、自分の役目は…
ジャッコンッ!
「……行かせないよ。」
ズドォン!!!
そう呟き、カレンは合宿所に迫るアリウスの一部隊へ射撃。
ドガッ!!!
「ぐぁ!?」
「なッ!?すっスナイパーだと!?」
「……さぁ来て、私も貴方達と同じ…忘れられていた子だよ。」
たった一人での持久戦を開始したのだった。
《こっこちら第3中隊!正体不明の狙撃手に遭遇!直ちに制圧しそちらに向かう!!!》
「こちら、第1中隊第1小隊!了解した!我々は先に突入する!」
「ち、中隊が足止め…?!」
「気にするな!私達があの裏切り者を仕留めれば勝利には違いない!」
その報告は先に合宿場に到着していたアリウスの小隊にも伝達され早く主目的であるナギサの確保に移る。
皮肉なことに先に突入していた部隊によってアズサのブービートラップの大半は作動済みだったので…
ドガァン!
「残るはここだ!探せ!!!」
残る未探索区域である体育館に難なくたどり着けた。
そして、
「きっ来たわよ…!」
「わっわぁ…!」
「お早いお着きですねぇ♪」
「うん…!」
「…なるほど、待ち伏せのために…!」
そこには臨戦状態のアズサ・ハナコ・ヒフミ・コハルが待ち構えていた。
確かに待ち伏せは少数で多数を相手にするには有効な手だが…
「だが…それだけか?…たった四人で私たち相手に何分耐えられると思っているのだ!?こんな退路もない場所で!!!」
あまりにも人数が違いすぎる。
自分達だけでも20人いて後詰にはまだまだ控えている。
その上、体育館の出入り口は今しがたアリウスの生徒達が入ってきた場所しかない。
「あぅ…!」
「………ッ。」
その事実を改めて伝えられ顔を強張らせるヒフミとコハルだが…
「その通り、もう退路はない。お前たちは逃げられない。」
「ですね、一先ず仕上げと行きましょうか♡」
アズサとハナコだけは一切動じることなくいつもの調子で答え、
「先生、出番ですよぉ♪」
「うん、待っていたよ。」
「ッ!?」
「ご存じかは分かりませんが…私達、補習授業部の担当であり『シャーレ』の顧問の先生です♡」
物影から現れた先生も覚悟を決めた表情で応えて見せ…
「シャーレの…先生だと…?!」
「うん、知っているようだ。では…殲滅戦を始める。先生、指示を。」
「よし!じゃあ補習授業部、行こう!」
強大なアリウスに対し補習授業部一丸となって戦いを挑む。
その合図でアズサたちは周囲に展開。
「なめるなよ、裏切りも…!」
負けていられないとアリウス部隊も展開するが…
「忘れたの?ここは…!」
一歩踏み出したところで…
PiPi
少々かすれた電子音が鳴り響いたかと思った次の瞬間、
ドバァンッ!!!!
体育館に乱雑に置かれてあった跳び箱の陰で爆発が生じ、
ズバババァッッ!!!!
「あぎゃあ!!?」
何かが飛来し近くにいた数人のアリウス生を『引き裂いた』。
(ここにもクレイモアを!?)
指揮官はそう思うが…
カラァン
「なっ…!?」
足下に転がってきたそれを見て驚愕する。
指向性対人地雷であるクレイモアにはベアリング球が込められているはず。
しかし、今足下に転がってきたのは…
(ビ…瓶の王冠…?!)
自分でも見たことがある錆びた王冠だった。
(あれがネイト教官の『ボトルキャップ地雷』…!)
(お手製でなんていう威力なのよ!?)
あまりの威力にアズサとコハルも目を見開いている。
『ボトルキャップ地雷』、連邦で一般的な手製の指向性対人地雷だ。
ランチボックス、要は弁当箱を利用したハンドメイド感あふれる爆弾だがその特徴は射出物が王冠だと言うことだ。
これによりベアリング球よりも加害範囲は狭まるものの殺傷能力は手製とは侮れないほど飛躍的に高まる。
それをネイトから託されたアズサが敷設していたのだ。
「先鋒が崩れた!ヒフミ、アズサ!遮蔽物へ前進!コハルとハナコはその後方から援護を!」
『了解!』
これによりアリウスの初動を潰すことに成功し先生は補習授業部を展開。
ズパパパパァンッ!!!
ズパパパンッ!!!ズパパパンッ!!!
「ぐあッ!?」
「ちっ散らばるな!まだ数の利はこちらにある!」
これにより数人ほど撃ち抜かれるがすぐさまアリウスの隊員たちは立て直し数人単位の分隊を形成。
ズパパパパァンッ!!!
ズドォンズドォンッ!!!
ボガァァァン!
人数差はおよそ4倍、圧倒的な弾丸の雨とグレネード弾が降り注ぐ。
「うわあああ!!!この前より激しいですううう!」
「隠れて、ヒフミ!」
これには下手に銃口を覗かせることも出来ずに遮蔽物に身を隠すアズサとヒフミ。
やはり、アズサたちの防衛戦と言えど圧倒できる人数差だが…
「今だッ!コハル、ハナコ!グレネードだ!」
それを待っていましたと言わんばかりに先生は合図を出し、
「了解しました~♪」
ボシュッ!
ハナコはアンダーバレルグレネードランチャーを発砲、
ボガァァァン!
『うわあああ!!?』
40㎜グレネード弾の爆発で1分隊を吹き飛ばす。
「えぇっと!あった!」
一方、コハルは下げていたバッグを弄り頂点に小さな十字架があしらわれた手榴弾を取り出す。
が、
ポロッ
「あっ!」
それの弾みでバッグから一冊の本がこぼれた。
地面に落ち開くと…
「あらぁ~♡」
この状況であっても『面白いものを見つけた』ような表情と声を上げた。
まぁ端的に言えば…彼女には入手できない男女の内容が描かれたものである。
「~///!!?こ、これは没収したやつだから~!!!///」
ブォン!
そう言い訳するようにコハルは叫び右手のグレネードを投擲。
コントロールも何もない投擲だが…
カァンカラァンッ!
「んなぁッ!?」
投げられた手榴弾はアリウスの分隊の足元に転がり込み…
ズドオオオンッ!!!
『ぎゃあああ!!?』
大爆発を起こし吹き飛ばした。
「よしっ!いいよ、コハル!」
「よくないわよぉ!」
「ってえぇッ!?」
褒めたのにまさかの言葉に困惑する先生だったが、
「先生、指示を!」
「うっうん!ヒフミッアレを出せる!?」
すぐに気を取り直しヒフミに指示を飛ばし…
「分かりました!ペロロ様の出番です!」
ビュン!
彼女もバッグからフリスビー上の物体を取り出しアリウス生達の方向へ投擲。
地面に落下すると…
ブシュウウウ!
「なっなんだあれ!?」
ペロロのアドバルーンが膨らみ煌びやかなライトアップが発生する。
何の変哲もない、少々頑丈なただのアドバルーンだが…
「撃てッ!!!また何かあるかもしれない!!!」
何しろここまで相手はトリッキーな戦いばかりしてきたアズサたちだ。
ズパパパパァンッ!!!
ズドォンズドォンッ!!!
ボガァァァン!
アリウスの部隊の警戒も当然高く一斉にペロロアドバルーンに攻撃を仕掛ける。
「くそっなんだこれ!?」
「なんでこんなに硬いんだよ!?」
流石はヒフミのグッズ、以前も見せたがかなりの頑丈さでちょっとやそっとじゃしぼむ気配を見せない。
と、そんなペロロアドバルーンにい苛立ったか…
「こんの気色悪い鳥め!!!」
「さっさと潰れろ、化け物が!!!」
アリウスの部隊の誰かがそう呟いた途端、
ズパパパァンッ!!!
「あがぁ!?」
「いぎゃ!?」
「………。」
いつになく鋭い目つきと動きでそのアリウス生たちを撃ち抜いたヒフミであった。
「いいぞ、ヒフミ!今の一撃は私にもそうそうできないぞ!」
「よし、ペロロが引き付けている間に全員前進!」
『了解!!!』
その隙に先生は補習授業部に攻勢を伝達、
ズパパパパァンッ!!!
ズパパパンッ!!!ズパパパンッ!!!
ズダァン!!!ズダァン!!!
「ぐあ!?」
「ぎゃあ!?」
ペロロアドバルーンの誘因や頭数の減少もあってアビドスの生徒達はどんどんその数を減らしていく。
「くそぉ!!!なんでッなんで貴様たちが!!!」
アリウスの指揮官が叫ぶ。
人数差は数倍はあったはずだ。
武器の量も質も自分たちが上回っていたはずだ。
脅威となるのはアズサくらいで後は所詮有象無象のトリニティの生徒だったはずだ。
『先生』などという存在も大したことはない筈だった。
なのにどうだ?
「ハナコ、もう一発グレネード弾を!」
「ちゃんと受け止めてくださいねぇ?」
ボガァァァン!
「うがぁ!?」
「コハル、孤立した子に狙撃!」
「正義実現委員会よ、観念しなさい!!!」
ズドォン!!!
「がはッ!?」
「ヒフミ、11時の方向にバースト射撃!!!」
「トリニティは私達が守ります!」
ズパパパァンッ!!!
「ぐへッ!?」
そんな有象無象の生徒達が大したことはないと思っていた先生の指示によって次々に仲間たちを打倒しているではないか。
あの苦痛に満ち満ちた訓練を乗り越えてきた仲間たちだ。
実力は知っているつもりだ。
なのに…
「なんで私達が貴様ら程度に!!?」
これまでの日々は無駄だと言わんばかりの傍若無人な強さで倒されていく。
「ウソだッ!!!こんな、こんなのッ!!?」
認められるわけがない。
認めてしまえば今までの自分たちの『虚しい』日々は一体何になる?
「ふざけるなああああ!!!」
指揮官のアリウス生が叫び声をあげる。
しかし、
「ごめん…。」
アズサがそんなかつての同胞の叫びに静かに答え…
「Vanitas vanitatum et omnia vanitas…。」
ズバァオンッ!!!!
彼女の神秘を存分に込めた弾丸が放たれ指揮官に迫る。
「しっ白洲アズ…!!!」
最後に残された指揮官は忌々しそうにアズサの名を叫ぶが…
チュドォンッ!!!!
「ぐあああああああッ!!?」
その叫びは彼女の弾丸が叩き込まれたことで中断させられたのだった。
「…皆、状況報告!」
「クリアです!」
「誰もいません♪」
「敵影無しよ!」
「制圧完了だ、先生!」
「よし、いったん集まって!」
アリウスの襲撃をしのぎ切った先生と補習授業部。
「か…勝った…の…?!」
「うん、全員戦闘不能だ。」
「あうぅ…先生の指揮があって本当に助かりました…。」
「ううん、皆が頑張ってくれたおかげだよ。」
コハルとヒフミは実感はわいていない。
少し戦っただけで分かった。
アリウスの生徒はこれまで戦ってきたどんな不良よりも強い。
個々人の練度は元より連携も馬鹿にならない。
何とか先生の指揮のおかげで凌ぎ切れたと言うことで決して油断できる相手ではない。
それでも…なんとか勝つことができた。
「…ハイ、では難所を一つ乗り越えたところで…次のフェーズに移りましょうか。」
ハナコは浮足立つことなく冷静に作戦を進める。
「この後、またアリウスの増援部隊が到着するでしょう。ですが…私達は時間を稼ぐだけで大丈夫です。」
今回の作戦は…時間は自分達の味方だ。
「正義実現委員会の部隊がここに到着するまでの間、それまで時間を稼げれば…。」
「あッ!ハスミ先輩には連絡しておいたわ!すぐに返事が来るはず!」
「はい♡ありがとうございます、コハルちゃん♡」
ここでコハルの所属である正義実現委員会が生きる。
「ティーパーティーの命令下にある正義実現委員会が動けるとしたら…それはティーパーティーの身辺に問題が生じた時だけ。」
現在、正義実現委員会はトリニティ本校校舎の警備に当たっている。
それを動かすには…彼女たちの上役であるティーパーティーに何かあったくらいのインパクトが無ければならない。
ナギサを奪取したのはこれが目的でもある。
「定期連絡とかもあるでしょうし…きっと今頃ハスミさん達はナギサさんに何かがあったことには気づいたはず…。」
如何にセーフハウスに潜んでいるとはいえあのナギサの怯えっぷりならば頻繁にコンタクトをとっていてもおかしくない。
「それに合わせてコハルちゃんからの連絡、少なくとも状況を確認するために動き出すまでそう時間はかからないはずです。」
「セーフハウスでは教官が迎撃している。中の状況を見ればより非常事態だと伝わるはずだ。」
ネイトがあの場に残ったのもこの演出のためである。
ナギサがいない上にセーフハウス内に所属不明の生徒が倒れていれば正義実現委員会の動きも活発になるだろう。
「それにさっきの大爆発でも色んな人が何が起こったか気になっているはずです!」
「ネイトさんったらあとでシスターフッドに怒られないかしら…。」
そんな会話をしていると…
《くそぉ!!!どうなってぐぁっ!!?》
《し、小隊長がやられた!!!》
《誰か早くあの塔を制圧しろオオオ!!!》
倒れ伏しているアリウス生の無線から別動隊であろうアリウスの通信が混線する。
「…カレンちゃん、ですね…!」
「さっき、無線で一個中隊が狙撃で足止めされてるって言っていた。」
「あっあんなのを一個中隊も!?」
どうやらカレンは未だに健在でアリウスの部隊を引き付けてくれているようだ。
彼女の狙撃の腕は脅威だが…そう長く持つかは分からない。
「…カレンさんのためにも早くハスミさん達が来てくれることを願うばかりですが…。」
ともかく、あとは自分達も持久戦で時間を稼ぐしかない。
「よし。じゃあまずは入り口にバリケードを作ろう。」
「分かりました!」
「手伝うわよ、ヒフミ!」
「私はまたトラップを仕掛けてくる。」
「ハナコはネイトさんやカレンと連絡を取って状況の確認を。」
「了解です、先生。」
こうして再び籠城の態勢を整えるために動き出す先生と補習授業部。
…その時だ。
ズドドドドォオンッ!!!!
『~ッ!!??』
体育館の壁の複数個所で爆発が発生。
「これは…!?」
アズサが状況を飲み込むより早く…
「突入!!!」
ダダダッ!!!!》
無数のアリウス生が体育館内になだれ込んできた。
「ぞっ増援部隊がこんなに早く…!?」
「え…えぇッ…!?」
「数が多い…!カレンが足止めしている部隊も加えると…大隊単位だ…!」
「そっそれってどれくらいなんだい、アズサ…!?」
「…私が把握しているアリウスの総兵力の半数近く…!」
「あうぅ…!コッこんなにたくさんの方が平然とトリニティの敷地内に…!?」
侵攻の速さもだがその規模がケタ違い。
もはやテロどころではない。
本気でトリニティと事を構える、そんな規模の動員だ。
さらに状況は悪化する。
「まだ…正義実現委員会が動く気配がない…?」
これだけの規模の侵略行為。
さらには先ほどの大爆発やカレンの狙撃による足止め。
どれひとつとっても正義実現委員会が動くに値する理由ばかりだ。
それなのに動かない。
いや、前提を変えよう。
「それは仕方ないよ。」
「え…?」
それでも『動けない』、としたらどうだろうか?
そして、それができる人物は?
カツッカツッ…
体育館内に響くこの状況に不釣り合いな硬質な足音。
例えるならそう…ハイヒールの足音だ。
そして…その声にこの場の全員が心当たりがあった。
「…!やはり…!」
ハナコが顔を険しくし見据えた先に現れたのは…
「だって…この人たちはこれからトリニティの公式な武力集団になるんだから。」
ティーパーティー最後の一人にして…この学園最強の一角。
「ミカ…?!」
「やっ久しぶりだね、先生。また会えて嬉しいな♪」
パテル分派首長、聖園ミカだった。
チェスは1001の悪手の夢物語。
―――チェスプレイヤー『サベリ・タルタコワ』