―――『閑吟集』より
「ミカ…?!」
「やっ久しぶりだね、先生。また会えて嬉しいな♪」
アリウスの大部隊を引き連れて現れたティーパーティー最後の一人にしてトリニティ最強の一角、『聖園ミカ』。
先生や補習授業部の面々に緊張が走る。
相手は高い練度を誇るアリウス一個大隊クラスと聖園ミカ。
先生の指揮があると言えど生半可な戦力では太刀打ちできる相手ではない。
だが…事態は悪化する。
「それから…正義実現委員会は動かないよ。私が改めて待機命令を出したからね♬」
「え…!?」
頼みの綱の一つである正義実現委員会はここに現れないという言葉にコハルは驚愕する。
虚言である可能性もあるが…相手は正義実現委員会を実質的に統治しているティーパーティーのメンバーだ。
口から出まかせであると考えるのは楽観的すぎる。
さらに…
「それから…今日は学園が静かだったよね?」
「ッ!?そっ…そう言えば…!」
「実はね…正義実現委員会いかにも邪魔になりそうなもの…トリニティ自警団とかは事前に全部片づけておいたの♪」
いかにお嬢様校のトリニティと言えど騒ぎは少々起こる。
合宿中も遠方から銃声や爆発音が聞こえるのは日常だった。
だが…思い返す限り今日は一度もそんな音を聞いた覚えはない。
普段ならあり得ないが…
「ティーパーティーの命令が届く限り全ての所に…色んな理由を付けて足止めしていたからだよ♪」
ティーパーティーの権力をフルに使えば不可能な話ではない。
そんな強権を突然振るうのは到底普通の学校では不可能だが…ここはトリニティ。
派閥の力が何より物を言い下手に反抗すれば今後の学校生活への影響は計り知れない。
「どッどうしてそんなことを…!?」
かといってあまりにも強引すぎるやり方にヒフミが疑問を呈する。
学校とは生徒あってのもの、無理やり押さえつければ今後の統治に確実に支障をきたす。
そんなヒフミの疑問に…
「だぁって、ナギちゃんを襲うときに邪魔なんてされたら困っちゃうもんね。」
頬を膨らませ口を尖らせながらさながら幼子のようになんとも自分本位な理由を明かすミカ。
「なんともまぁ…ティーパーティーらしい我儘っぷりですね、聖園ミカさん…!」
「あははっまぁ簡単に言うと…黒幕登場☆ってところかなぁ?」
ハナコの皮肉もどこ吹く風。
そして、両手を大仰に広げ…
「そう、私が本当の…『トリニティの裏切り者』だよ。」
『………。』
まるでこの舞台の主役と言わんばかりに自らの正体を明かした。
「というわけで…ナギちゃんをどこに隠したか教えてくれる?私も時間が無くってさ。」
あっさり声の調子を戻しミカは本来の目的の一つであるナギサの行方を尋ねる。
声こそ普段のフワフワしたものだが…
「まぁここにいる全員を消し飛ばしてからゆっくり探してもいいんだけど…それは面倒でしょ?」
圧倒的なプレッシャーを放ち拒否を許さない姿勢を露にする。
そのオーラはさすがはトリニティの力を信奉する派閥『パテル分派』の長だと言うことをまざまざと思い知らせる。
「…ミカ…なんで…!」
絞り出すような先生の声が届いたか、はたまたこの状況故の余裕からか…
「ん~?聞きたい?先生にそう言われたら仕方ないなぁ♪それはねぇ…。」
ミカは上機嫌にこの裏切りに至った真相を語り始める。
だが…
「ゲヘナが嫌いだからだよ。」
「え…?」
それはあまりにも…単純な物だった。
政治的理由や主義思想などでは決してない。
「私は本当に心から…心の底からゲヘナが嫌いなの。」
ただの好き嫌い、たったそれだけあまりにも軽すぎる理由だった。
「…だからエデン条約を取り消そうと?そのためにナギサさんを…?」
「えぇっと…誰だっけ?ごめんね、私あんまり顔を覚えるの得意じゃなくってさ。」
ハナコの問いかけにミカは少し考えるようなそぶりを見せ…
「…あぁ思い出した!貴方、浦和ハナコじゃん!礼拝堂の授業に水着で参加して追い出されてた、あの!アハハッ懐かしいねぇ!」
「………ッ!」
彼女の神経を逆なでするような出来事を挙げて笑い始める。
「まぁ一応答えてあげるとその通りかなぁ。だって、ナギちゃんがエデン条約だなんて変なことしようとするからさぁ。」
ひとしきり笑ったミカはこれまたあっさりと答えを明かす。
「ゲヘナのあんな角が生えたやつらなんかと平和条約だなんて…!」
笑顔ながらも明らかな嫌悪感を浮かばせながら…
「しかもね!最悪五分五分の条約なはずなのにあの角付き達なんて言ってきたと思う?!『条約の運営予算はトリニティが大半負担でETOの主導権はゲヘナ』なんて言うふざけた内容になっちゃったんだよ!」
さらにそこに怒りもにじませながら語るミカ。
当初こそ対等な関係となるはずだったエデン条約。
その天秤が崩れたのが…あのD.U.での一件だ。
あの際にゲヘナと結んだ結んだ和解案によって…マコトは条約内容をゲヘナに都合のいいように改変。
結果的にトリニティに負担の大半を押し付ける不平等条約の形となってしまったのだ。
「冗談にもほどがあると思わない?!考えるだけでゾッとしちゃうよ!絶対私達を食い物にするし裏切るに決まってるじゃんね!背中を見せたらすぐに刺されるよ?!」
それがミカには我慢できなかった。
これを招いた原因が…自分たちにあるにもかかわらず、だ。
「そんなこと…させるわけにはいかない…!」
「だからこんなことを…!?」
「あぁ…ヒフミちゃんだっけ?ねぇナギちゃんもホントに臆病というか事なかれ主義っていうか…あんな不平等条約なんてわざわざ結ぶ必要なんかないのに…。」
そして、そんなエデン条約を結ぼうと尽力するナギサに対しても呆れたような態度をとる。
「たとえ前みたいな内容でも…捜索の中の明るい学園物語じゃないんだよ?あんな都合のいい話、現実には存在しないのに…。」
今度は達観したような仕草を取りながら…
「私達はこういう…もっとドロドロした世界の住人だってことをそろそろわかってくれてもいいころなのにね?」
このキヴォトスという場所の真の姿を知っているように語る。
「…それだけで見れば…『あの人』はまだ世界をちゃんと見てるね、うん。」
「あの人…と言うのは…?」
納得したようにうなずくミカに半ば予想がついているがハナコが尋ねる。
すると、
「貴方達も仲いいんでしょ?あのアビドスの大人だよ。」
これまたあっさりとミカはその正体がネイトである事を明かす。
「そうそう、あの人どこか知らない?私達、アイツにも用があるの。」
「ネイトさんにも…!?」
「一体教官に何をするつもりだ、聖園ミカ…!?」
「あははっ教官だって!随分懐いているみたいじゃん、アズサちゃん♪」
確かにあの時の因縁があり今トリニティに滞在してこそいるが…本来ネイトはエデン条約には一切関係ない。
なのになぜミカがこのタイミングでネイトを探しているのか?
口ぶりからして…ネイトが補習授業部の援護をしようがしまいが関係ない事は察せられる。
その答えは…
「安心して、この前みたいに殺そうとはしないよ。まぁ…この後まともな生活はできなくなるだろうけどね。」
「…え?」
「ただ…私達がゲヘナを倒すまでトリニティに幽閉しておくだけだから。」
先生や補習授業部には絶対に聞き逃せない内容を挟み彼を幽閉するためだと打ち明けた。
「だって、なんであんな学校と関わってるか分からないけどゲヘナとアビドスって仲いいじゃん?もし、ゲヘナに攻め込んだらアビドスもきっと参戦してくるはずでしょ?」
そんな先生たちを置き去りにしてミカは話し続ける。
ミカは知らないが彼女の分析は正鵠を射ている。
『アゲハ同盟』、正式な物ではないが複数校間の信頼の上で結ばれている軍官民を問わない相互援助条約だ。
それだけでなくゲヘナは以前からアビドスに対し様々な便宜を払ってくれた借りがある。
ゲヘナが侵略を受けたら助けに向かう、これはネイト個人だけでなくアビドス高校では共通の考えだ。
「それが邪魔なんだよねぇ…。カイザーを倒した時ならまだしも今はウチの飛行機より強そうなの持てるでしょ?そんなとことも戦うのって面倒じゃん?」
「つまり…!?」
「ネイトさんを人質にする…と言うことですね…!?」
「ピンポ~ン!アビドスってあの人滅茶苦茶大切にしてるでしょ?だから…あの人を捕まえておけばアビドスは手出しができなくなることは確実だよね?」
それを防ぐために…ミカはネイトも捉えることにした。
ネイトは今やアビドスには欠かすことのできない人物、正に急所だ。
彼さえ押さえてしまえば…アビドスを封じることができる。
しかもネイトがいる場所に…アビドスがアレを降り注がせるとは思えない。
単純故に効果が期待できる方法だ。
「…そう言うわけだからナギちゃんを返してあの人を引き渡してくれる?そしたら貴方たちには痛い事しないよ?…まぁ、皆残りの学園生活は全部檻の中かもしれないけど。」
そう、ミカは話を終わらせ改めて要求を述べるが…
「待って、ミカ…!」
先生が苦悶に満ちた声で彼女に待ったをかけ…
「なぁに、先生?」
「全部…私にあの時話したことは全部…嘘だったのかい…!?」
彼女の真意を知るために歯を食いしばりながら尋ねる。
「………全部が全部嘘って訳じゃないよ、先生。」
ミカはそんな彼を見て微笑みながら答える。
「私がアリウスと和解したかったっていうのは…本当のこと。」
今度は慈しみを込めた眼差しで背後のアリウス生達を眺めて、
「この子達は…同じゲヘナを憎む仲間。むしろ…この子達こそ『あの子達』なんか及びもつかない、私達に勝るとも劣らない…純度の高い憎しみを持っているとすらいえるかもしれない。」
まるで旧友に再会したかのような親しみを込めた声音で…
「だから手を差し出したの。志を共にして…ゲヘナと平和条約を結ぼうとしたり奴らを助けようとする悪党たちをやっつけない?…って。」
アリウスと手を組んだ理由を述べた。
「ティーパーティーのホスト『桐藤ナギサ』に正義実現委員会がいるなら…時期ティ-パーティーのホスト『聖園ミカ』にはアリウスがつく。」
と、いったん目を閉じたかと思えば…
「これはそう言う取引♬和解へのステップアップ…的な?」
いつもの朗らかな声で実態をあっけらかんにぶっちゃけた。
「共通の敵のために一時的に敵同士が手を取り合う。そう言うことだよ。それで私は…アリウスをひそかに支援してたの。」
「じゃあ…アリウスは最初からトリニティの…いいや、聖園ミカのためのクーデターの道具だった…!?」
そんな美香の言葉を聞き…ワナワナと震えながら声を絞り出したアズサ。
ミカの言う通りならば…これほど滑稽なことはあろうか?
「あ、アズサちゃん…!」
「アズサ…!」
ヒフミと先生が心配そうにアズサに声をかける中…
「うん?…う~ん確かに。これはクーデターとも言えるかもね。最終的にナギちゃんを失脚させて私がティーパーティホストになるんだから。」
なおもミカはあっけらかんとした様子で答え、
「あぁ、貴方のことは分かるよ。ありがとう、白洲アズサ。」
「え…?!」
「私はあなたのことをあまり知らないけど…私にとって大事な存在であることは変わらない。今までも…これからも。」
「ッ!?」
「ミカさん…っ!!?」
心が一切籠っていない感謝と友愛の言葉を掛け…
「それに今からあなたにはナギちゃんやあの人を襲った犯人になってもらわないといけないからね!」
「な…なんです…て…!?」
笑いながらアズサを生贄の羊に仕立て上げることを言い放った。
「知ってる?罪を被る池に描いてこそ…皆がぐっすり安心して眠れるの。世の中って…そう言うものじゃない?」
目を見開き固まるアズサをしり目になおもミカは朗らかに彼女の役目を語る。
『………ッ!!!』
その言葉に…補習授業部だけでなく先生すらも怒りの形相を浮かべる。
「じゃあ…ネイトさんを殺そうとしたってことも…!」
その表情のまま先生がもう一つの発言の真意を問う。
ミカは確かに言った。
『前みたいに殺そうとはしない』…と。
前のように、それに合致する出来事は…一つしかない。
「あ、それ?なぁんかナギちゃんが勝手に焦ってあんな会議開いちゃったってね?全く面倒だよね、安保理なんて。」
ミカは隠し立てをするでもなく愚痴をこぼすように語り始める。
「でも、あの人がアビドスから出てきてくれたじゃん?それも連邦生徒会がわざわざ一人になるようにしてくれて『やった!チャンスだ!』って思うのも当然じゃん?」
まるでゲームの話でもするかのように悪びれもなく、
「だから…アリウスの子達を少し借りて襲わせたんだよ?まさかホテルに巡航ミサイルを撃ち込むなんて思わなかったけどね。」
まるでお茶の席の世間話のように何の気なしに、
「だけど、せっかく私がナギちゃんに盗聴器くっ付けて情報流してたのにあの人矢鱈強いし救護騎士団まで助けようとするからさぁ…。」
あたかも日常のちょっとした不満をこぼすように、
「『もう自分でやっちゃおう』と思ってツルギちゃんが気を引いている間に思い切り殴っちゃった♪」
あたかも…子供が虫を踏みつぶすかのような純粋さで言い放った。
そう、あの夜の出来事は単なるテロではない。
聖園ミカが…ただ自分の目的の障害を排除するためにD.U.を巻き込んで繰り広げた計画殺人だったのだ。
「たった…たったそれだけのためにあんなことを…!?ネイトさんを…!?」
「あの日…一体どれほどの人が傷付いたか…分かってないんですか…!?」
それをなんの後ろめたさもなく語るミカにヒフミは戦慄しハナコは怒りに震える。
「でもびっくりしたなぁ。ナギちゃんが正体不明の誰かに襲撃されたって聞いて計画が崩れるかもと思って少し焦ってみたら…まさかそれが補習授業部だったなんてね~。これは予想外だったよ、うん。」
そんな二人の思いも無視しあの日の被害者たちへの罪悪感もなく、話題を切り替えて1人で納得したように腕組みし頷くするミカ。
さらに、
「それにあの人殺しちゃったらアビドスはもう止まらないじゃんね?だから、今回は生かし捕まえてあげるの。私って優しいでしょ、先生?」
あくまでメリットが大きいからという理由だけでネイトを殺さないと言い放ち先生に同意を求めてきた。
「じゃあ…最後の質問だよ…!」
対して、先生は肩を震わせながら声を絞り出し…
「ネイトさんのことも…今日のことも…全部、ティーパーティーのホストになる為なのかい…?!」
覚悟を込めてミカに問いかけた。
「うん、そうだよ?」
そんな先生とは対照的にミカは微笑みながら答え、
「あぁでも…誤解してほしくはないな、先生。私は別に権力が欲しいわけじゃないの。」
そう前置きしてから…
「私は…ゲヘナをキヴォトスから消し去りたい、本当に…ただそれだけだから。」
どこまでも透き通った声と純粋な声音で改めて自分の目的を述べる。
「………。」
「トリニティの穏健派を追いやってその空席をアリウスで埋める。あ、あの子たちも出してあげたら面白いかも。」
沈黙した先生に構わずこの後のトリニティのビジョンを語り始めたミカ。
「もしかしたら新しい連合になるかもね?必要なら新しい公議会でも開いて…うん、それもいいかも?!」
自らが語る未来のビジョンにはしゃぎ始め…
「それでね!新しい武力集団を得てね!再編されたトリニティがゲヘナに全面戦争を仕掛けて邪魔をするならアビドスにも宣戦布告する!そう、これが私の計画なんだよ、先生!」
本当に…本当に純粋な表情で…まるで小学生が自分の夢を発表するように先生に打ち明けた。
次の瞬間、
「………ッ!!!」
声や身じろぎの音すら出さず…先生の怒りが限界を迎えた。
「せ、先生…?!」
見たことが無い気迫を発する彼に周囲にいるハナコたちも少し怯むが…
「わぁお…先生ってそんなに怖い目も出来るんだね…。」
ミカには一切彼の心は響かず…
「…うん、先生がすごく怒ってることはよく分かるよ。ごめんね、説明もなんだか急いじゃったし雑だったよね?」
誰が聞いても的外れな謝罪の言葉を垂れ流し、
「もっと丁寧にお話ししたいところだけど…まずは色々と邪魔なのを片付けてからにしよっか?」
そんな彼女の言葉を合図として…
ザァオッ!!!!
アリウスの約一個大隊が臨戦態勢をとった。
「先生、冷静になって…!」
アズサは冷汗をかきながらそう声をかける。
人数差は今更言うまでもないが…
「こうしてみただけで分かる…!かなり強いってことが…!」
最大の懸念はアリウスではない。
「フフッそうだよ?先生には前言ったし少し見せたけど…私って結構強いんだから♪」
誰を隠そう、この場で最大の脅威は聖園ミカ自身だ。
実力は『トリニティの戦略兵器』剣先ツルギにも比肩すると言われその片鱗は以前X-02を纏ったネイトを容易く殴り飛ばしたことでも露になっている。
そして、
「はい、じゃあアリウスの皆?補習授業部を片付けてくれる?」
今まさにアリウスの軍団と合わさりその暴威が振るわんとする。
「皆ッ来るよ!」
逃げることはできない。
先生が檄を飛ばしそれに答えるようにアズサたちも身構えた。
《舞台挨拶は終わったか、Spam actor?》
『ッ!!?』
突如、アズサたちが付けている無線にそんな通信が入った。
「ハナコッ!!!」
「アズサちゃん!!!」
その瞬間、コハルとヒフミがカバンの中からある物を取り出しハナコとアズサに投げ渡し全員が素早く装着。
先生も…
(アロナッ!!!)
《ハイッ!!!》
懐に収められた『シッテムの箱』に指示を飛ばす。
そして、5人は素早く耳を抑え地面に伏せた。
状況が呑み込めないアリウスの部隊とミカが疑問を感じた…よりも早くその思考は分断された。
ズドガァバゴォォォォォンッ!!!!
『ーッ!!!?』
自分達と先生たちとの間の壁が突如爆散。
先ほど突入の際に用いられた爆薬とはケタ違いの衝撃と耳を劈き腹に響く爆音が体育館内を駆け巡る。
しかも、その衝撃は日々銃弾や爆発を受けそれに耐えきれるキヴォトス人である彼女たちをもってしても…
「うぐぅ!?」
「ぐぇッ!!?」
脳が揺らされ強烈なボディブローを受けたかのように臓腑がのたうち明確なダメージが刻まれるほどだ。
ドガラララッ!!!
先ほどアリウスの部隊が突入してきたときとは違い瓦礫の崩れる音とそれによる粉塵が舞い上がりその発生源を覆い隠す。
「なっ何!?」
「きっ奇襲!!!」
「散開し…!」
予想外の事態と衝撃にミカは混乱しアリウスの部隊もダメージを何とかねじ伏せ行動を起こすとする。
次の瞬間、
ズォ…
「え…?」
巻き上がった粉塵からソレが覗いてきた。
キヴォトス人が持つ銃は拳銃からライフルにショットガン、果てにはミニガンや重機関銃に対物ライフルなど大小さまざまだ。
だが…ソレはミカやアリウスの者たちからしても『異質』極まりないものだ。
分厚い銃身に拳が丸々入りそうな大口径。
それは最早『銃』ではなく…
ズドゥォォッンッ!!!!
それをミカたちが理解するより早く鼓膜を破壊するような重低音と黄金色の巨大な爆炎が体育館内を埋め尽くす。
バガッシャアアアンッ!!!!
先ほど突入の際にも原形をとどめていた体育館中のガラスや天井の電灯がすべて粉砕し、
ドォオウッ!!!!
発せられた音だけでその延長線上にいた多数のアリウス生がなぎ倒される。
まるで巨大な壁がいきなり迫ってきて叩きつけられたような感覚だった。
脳も内臓も深刻なダメージを受けさらには耳の穴から血を噴出させるものが続出。
例え延長線上にいなくても耳を塞いで苦痛に身を屈めるものが大半だ。
そして…
ゴォウッ!!!!
ソレが音を置き去りにして飛翔…
ジュドォッ!!!!
「ごッ…!?」
ミカの土手っ腹に叩きこまれた。
ヒナほどではないにしても…彼女も特記戦力クラスのキヴォトス人で生半可な銃弾は意に介さないほどの防御力を誇る。
パワーは言わずもがなだ。
それでも…
シュボォォッ!!!!
剛力を誇るミカですら一切抗うことができずその体が後方に猛スピードで吹き飛ばされ…
ズガァオンッ!!!!
それが彼女の腹部で炸裂。
爆発の熱と衝撃、砕け散ったことによって肌に突き刺さる金属片が彼女に更なるダメージを与え…
ガラァンドシャァンズドォッ!!!!
地面を数回バウンドしながら先ほど明けられた突破口から体育館の外に吹き飛んでいった。
『何が起こった?』、『自分たちは何をされた?』、『アイツに何があった?』
纏まらない思考でこの事態を見極めようとするアリウス生たちだが…
ズドゥォォッンッ!!!!
再び容赦なく轟音が体育館内を支配する。
再び多数のアリウス生を衝撃が襲い、
ジュドォッ!!!!
「か…ッ!?」
不幸にもミカに襲い掛かった『ソレ』が一人のアリウスの隊員に襲い掛かる。
しかも、体育館という閉鎖空間に一個大隊クラスの人数を集中投入したため…
ドバガガガガガァッ!!!
その背後にいた同胞を巻き込みながら猛スピードで弾き飛ばされ…
ズガァオンッ!!!!
さらにそれの炸裂が周囲に襲い掛かり三次被害まで発生。
一挙に複数小隊規模が被害を受けただろう。
さながら…人をピンに見立てたボウリングのようだ。
一方、
「なんなのよォォォ!!?こんなの無茶苦茶よおおお!!!」
「ふえぇぇぇ!!!耳当てしてても響いてきますううう!!!」
「あちら側には絶対立っていたくありませんねぇ…!」
「なんて攻撃なんだ…!?あんなのみたことない…!」
そんな音と衝撃の嵐を床に伏せながら見つめる補習授業部の面々。
彼女たちが寸前で装着したものは…優れた聴覚保護機能があるタクティカルヘッドセットだ。
これによりあの殺人的な轟音を何とか『うるさい』と言える程度にまで軽減。
さらに地面に臥せ耐ショック姿勢をとることでダメージも許容範囲内に抑えることができた。
一方、
《はっハレぇ…?お空がぐるぐる回ってますぅ…。》
(がっ頑張って、アロナ!!!あとでいくらでもイチゴ牛乳とカステラご馳走するから!!!)
先生のためにその被害を受け止めたとシッテムの箱の中のアロナは今まで体験したことのない衝撃に目を回していた。
音と衝撃の嵐が吹き荒れた体育館内。
アリウス生の大半が聴覚が使い物にならなくなり内臓にも弾丸を撃ち込まれてもこうはならないと確信できるほどのダメージを負っている。
だが…
ズゥン…
『…!?』
不思議と…その振動だけは感じ取れた。
ズゥン…ズゥン…ズゥン…
その振動は吹き荒れた煙の中から伝わってきた。
キヴォトス広しと言えど…こんなことを起こせそうなモノ…。
それも…このトリニティで起こしうる存在はアレしかない。
さながらマントを翻すかのように…
ズォ…
象徴的な真紅の装甲が月明かりで怪しく照らされ…
「なんだ、役者が不在とはしけた舞台劇だな。」
パワーアーマー『X-02』を纏ったネイトが現れた。
「え…?」
補習授業部か、はたまたアリウスか。
誰が口にしたかは分からないがそれはこの場の全員の共通の気持ちだった。
このキヴォトスには古今東西大小軽重精粗の銃器が溢れている。
いまさら生半可な得物を持ち出されても驚きはしないだろう。
だが…ネイトが今携えているそれはそんなキヴォトス人であっても…
「何…あれ…?!」
「ば、バカな…!?」
絶句するしかない、そう言う代物だ。
一般的な銃器では考えられないほど肉厚なバレルと桁違いの大口径。
それでいてそのサイズはそこらのライフルと同じくらいのずんぐりとした印象を受ける。
撃鉄らしきものは見えずスイッチで発火していると思われる発射機構。
これらを統合して…ネイトの得物の正体を明かそう。
「た…大砲…!?」
大砲、それもトリニティが採用しているL118のような近代的な大砲ではない。
アリウスの彼女たちにとっては最早擦り切れた記憶の片隅でしか覚えていないが…
「ど、どこからそんな…。」
そんな周囲を代表してヒフミが答え合わせを行う。
「そんな…『海賊』が使ってるみたいな大砲を…!?」
「なんでそんなの持ってるのよ、ネイトさん…!?」
「それは企業秘密だが…。」
ガッコンッガッコンッガッコンッ
そう言いながら、ネイトは『砲身』を持ち上げ拳大はある『砲弾』を砲口に三発装填してき…
ジャッコンッ
「転ばぬ先のなんとやらというやつだ。」
アリウス部隊に再び砲口を向ける。
ネイトが持つ得物、それは…前装式の大砲だった。
そんな旧世代の…ましてや大砲を戦場に携行して臨むなどキヴォトス人と言えど聞いたこともない。
「『ブロードサイダー』、俺が持つ武器の中で最大口径のヘビーウェポンさ。」
『ブロードサイダー』、先述の通り…抱えて撃つ大砲型のヘビーウェポンである。
前世は連邦では『USSコンスティテューション』の修理の報酬としてセントリーボットの船長『アイアンサイズ』から譲り受けた一品ものだ。
こんな代物を抱えて撃つなど狂気の沙汰だが…アパラチアのレジデントたちの中にはこれを嬉々として抱えて戦闘に臨む者もいた。
1ポンドの炸裂式砲弾を無煙火薬で超音速で撃ちだす。
これだけでこの武器の恐ろしさは伝わるだろう。
さらに砲弾の直撃だけでなく砲声だけでもこの体育館という閉鎖空間と至近距離では凶器になる。
その音量は…180db、至近距離でジェットエンジンが吹き上げるよりも強烈な音のエネルギーだ。
鼓膜はおろか内臓を衝撃波でダイレクトに傷つけることも容易い。
「『砲兵は戦場の女神』って言葉を骨の髄まで刻み込んでやろうか。」
「うふふ…そんな硬くて太いものを見せつけては皆さん恐がってしまいますよ?」
「こっこんな時に何言ってんのよ、ハナコ!!?」
「でも、そのおかげでミカは叩き出せてあっちは浮足立っている。」
「あ、あのヒフミ…私にもヘッドセットを…!」
「はっはい、どうぞ!」
一方、ネイトの警告を受けて対処していた先生や補習授業部はすでに立ち上がり戦闘態勢をとっている。
「ネイトさん、さっきの話…。」
「無線越しで聞いてたさ。」
心配そうに語る先生にネイトはあっけらかんに答え、
「そっちは後にしろ。せっかく俺がお膳立てしたんだ。こいつらを制圧するぞ。」
「…ハイっ…!」
意識だけ先生に向け振り返ることなく切り替えるよう告げる。
そう、二人の決着は後ででも付けられる。
それこそ…。
なので、先生は…
パンパァン!
自ら頬を叩き気合を入れ…
「…総員に告げる!これより、アリウス大隊を制圧する!!!」
声を張り合えげネイトと補習授業部に指示を飛ばす。
戦いは…第二ラウンドに突入する。
ブロードサイダーを使えば、長年の疑問が明らかになるだろう。
"携帯用の大砲を持ち歩いて道行く人々を撃ったら楽しいだろうか?"
答えはイエスだ。楽しいに決まっている。