Fallout archive   作:Rockjaw

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Quo fas et gloria ducunt
道徳と栄光の導くところへ
―――イギリス王立砲兵隊のモットー


A Late Night Filled with Gunpowder Smoke and Murderous Intent: The King of the Center

「…総員に告げる!これより、アリウス大隊を制圧する!!!」

 

『了解っ!』

 

ネイトも参戦し再開したミカ率いるアリウス大隊との戦闘。

 

キヴォトスでも常識外れの『大砲』、ブロードサイダーによる奇襲によってアリウス大隊の大多数が本来の動きを取れなくなっている。

 

「皆、ネイトさんの背後へ!!!パワーアーマーを遮蔽物にし前進!!!」

 

「ついて来い、新兵!マーチングの時間だ!!!」

 

「了解、先生に教官!これよりパワーアーマー共同作戦術『歩戦共同』を始める!」

 

「背中、お邪魔します!私達、みんなで頑張りましょう!」

 

「うふふ♡味方になれば『前門の虎後門の狼』がこんなに頼もしいなんて♡」

 

「まっ任せなさい、ネイトさん!私だって守ってあげるんだから!」

 

先生の指示でネイトを先頭にその背後に一列に並び前進する補習授業部。

 

「こっこのぉ…!」

 

「ふざけた真似を…!」

 

ブロードサイダーの砲声のダメージが抜けきらない中で何とか立ち直ったアリウスの生徒達。

 

「撃て、撃ちまくれ!!!相手はたかが6人だ!!!」

 

「あのデカブツを潰せば私達の敵ではない!!!」

 

先ほどの砲撃で耳をやられ連携も取りにくいがそれでも声を張り上げ各々銃を構える。

 

相当数やられたとしても規模は『大隊』だ。

 

その銃の数凄まじいものになり…

 

ズダダダダダ…ッ!!!!

 

軽く100を超える銃口が無数の弾丸が放たれる。

 

しかし…

 

ズバッシャアアアアッ!!!!

 

「どうしたぁ!!?こんなもんでトリニティを墜とすつもりかぁ!!?」

 

「きっ効いてないッ!!?」

 

「バケモノめええええ!!!」

 

全身から火花を散らせるがライフル弾程度をいくら浴びせようとX-02の装甲を破壊することはできない。

 

「ガッツは認めてやる!!!だが、コイツを抜きたきゃ…!」

 

ガッコンッ!

 

お返しにと言わんばかりに弾丸を浴びながらネイトはブロードサイダーを構える。

 

「~ッ!?たっ退…!」

 

その威力はもう嫌というほど身に染みているので何とか逃げようとするアリウス生達。

 

だが、

 

ズガガガッ!!!

 

「うわぁっ!!?」

 

「ど、退いてよ!!?」

 

「そっちこそ!!!」

 

互いに押し合いへし合い身動きが取れない。

 

何しろ体育館内に数百人が密集しているのだ。

 

しかも、倒れている仲間もいるとなると…より身動きは取れなくなるだろう。

 

だが、そんなことはネイトの知ったところではない。

 

「そっちも大砲の一門でも持ってきやがれ!!!」

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

ドォオウッ!!!!

 

ジュドォッ!!!!

 

そんなアリウス生達に三度砲声の衝撃と砲弾が襲い掛かる。

 

「ネイトさん、間隔を開けて前方と左右を薙ぎ払うように砲撃を継続!」

 

「了解した!」

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

先制からの指揮でないとは次は別方向のアリウス生に向けてブロードサイダーを発射。

 

ブロードサイダーはたしかに威力は高いが装填数は3発と継戦能力にいささか難があり装填の隙も大きい。

 

それを補うため一回の装填で多くのアリウス生に何らかのダメージを与える必要がある。

 

すると、

 

「だったらコイツで!!!」

 

しびれを切らしたアリウス生は気絶した仲間の腕からグレネードランチャー『M32A1』を抜き取ろうとする。

 

確かに40mmグレネード弾ならXー02そのものは破壊できずとも内部にいるネイトにダメージを刻めるだろう。

 

しかし、

 

「アズサ、2時の方向へ射撃!グレネードを撃たせないで!!!」

 

「了解、先生!」

 

それを見逃す先生ではない

 

すぐさま、Xー02の背後にいるアズサに指示を飛ばし、

 

「教官の邪魔はさせない!!!」

 

ズパパバァンッ!!!!

 

「グアっ?!」

 

それに応えて、M32A1を構えようとしていたアリウス生を撃ち抜いてみせるアズサ。

 

「よしっ!アズサはそのまま右前方の警戒を!ヒフミとコハルは左前方、ハナコは付近の伏兵に警戒して!」

 

「了解しました、先生!」

 

「絶対に撃たせはしないわ!」

 

「お散歩の邪魔は許しませんよぉ♡」

 

さらにヒフミ達にも指示を飛ばしネイトの周辺を警戒させる。

 

この場でネイトにダメージを与えうるのはM32A1だけだ。

 

「っ!見つけました!」

 

ズバァン!

 

「うがぁっ!?」

 

「コハル、10時の方向!」

 

「了解、させないわよ!!!」

 

ズダァンッ!

 

「ぐはっ?!」

 

「あらあら、寝相が悪いですよぉ♡」

 

バスバスッ!

 

「ぐふ…ッ!」

 

逆を返せば…それだけ警戒していればネイトは決して倒れることはない。

 

前面の防御をネイトに任せ、アズサたちはより広範囲を警戒しその脅威を排除する。

 

『歩戦共同』、戦車や装甲車などの装甲戦力と歩兵が連携し互いの弱点を補い合う軍事戦術の基本だ。

 

いかに人型とは言えパワーアーマーは生身の時よりと死角は多くなってしまう。

 

そこでパワーアーマーを矢面に立たせ背後の歩兵と連携しその弱点を軽減する戦術が米中戦争ではよく用いられた。

 

主にT-45や T-60などの部隊運用が想定された機種でも見られるがもちろんT-51といった個人運用機体でも十分活用できる。

 

それがX-02ともなれば…本物の戦車と同等の効果が期待できる。

 

さらにパワーアーマーを纏ったネイトと共に歩戦共同戦術を行うことには更なるメリットがある。

 

ガチン!

 

「装填ってもう弾が…!」

 

マガジンの弾丸を打ち尽くし装填しようとするヒフミだがストックのマガジンがすでに尽きている。

 

元より連戦続きのため既に残弾が心もとなかった補習授業部。

 

個人携行では所持弾数も限られているため無理もないが…

 

「任せろッ!」

 

ネイトがPip-Boyのある機能を使用。

 

次の瞬間、

 

ガシャンッ!!!

 

「使え、弾なら拾えば幾らでもある!!!」

 

「えぇッ!!?」

 

ネイトが背中にマガジンやグレネードに武器で膨れたダッフルバックを出現させる。

 

「ヒフミッ!これを!」

 

「はっはい!ありがとうございます!」

 

先頭のアズサがダッフルバックから数本マガジンを引っ掴んでヒフミに渡し、自らもポケットにスペアのマガジンを突っ込んだ。

 

「どっどうやったのよ、それ!?」

 

クラフトなど常識はずれな技は今まで見てきたがこんな芸当も出来るのかと驚愕するコハル。

 

倒した敵の弾薬などを回収することはキヴォトスでもよくあるが手も使わずに一瞬でこれだけの装備を回収するなど見たことが無い。

 

「まだこんな隠し玉をお持ちだなんて本当にテクニシャンですねぇ♡」

 

「出先で学んだ技術さ!久々に使ったが衰えていないようだ!」

 

そう、これはネイトが本来持っていた技術ではない。

 

ネイトより2世紀近く最終核戦争後の世界を生き抜いていたアパラチアのレジデント。

 

そんなレジデントたちがネイトのPip-Boyよりも旧式の『Pip-Boy Model 2000 Mark VI』で用いていた技術がある。

 

Loot Nearby近距離一括回収』、読んで字のごとく付近にあるLootアイテム…行動不能になった存在が所持していたアイテムをある一定範囲内で遠隔入手する技術だ。

 

範囲こそ精々Pip-Boy保有者を中心に半径7mほどだがその範囲ならばLootアイテムの判別はおろか取捨選択も可能だ。

 

ネイトはその機能を『C.A.M.P.』と同様に自身の『Pip-Boy 3000 Mark IV』にも移植。

 

性能の向上こそ果たせなかったものの…閉所である体育館で一個大隊規模のアリウス生から武器・弾薬を回収にするには十分な性能だ。

 

ズバッシャアアアアッ!!!!

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

「好きに補給してくれ!!!スペアの武器もあるぞ!!!」

 

「分かった、教官!」

 

これによりネイトは補習授業部の盾やメインの火力としてだけではなく『補給基地』としても機能。

 

補習授業部の継戦能力が飛躍的に向上する。

 

「私もそろそろ弾切れ!30-06弾はないの、ネイトさん!?」

 

「それは生憎在庫切れだ!アズサ、M1014を渡してやってくれ!」

 

「うん!コハル、使い方は分かるな!?」

 

「もちろん、訓練で習っているわ!」

 

ズドォン!

 

弾薬が共通ではないコハルにもアリウスから鹵獲した武器を渡し、

 

「ネイトさぁん、9㎜弾はありますかぁ?!」

 

「ほら、満杯のP7用のマガジンだ!」

 

「まぁ、エチケットも完璧ですねぇ♡」

 

サブマシンから回収した9㎜弾はハナコ用にマガジンに装填済み、

 

「ヒフミ、グレネードだ!!!」

 

「ハイッアズサちゃん!えぇいっ!」

 

「フラグアウトッ!」

 

ポイッ!

 

ズドォオオオンッ!!!

 

アズサとヒフミがグレネードを投げつけ広範囲を制圧していく。

 

《先生、アリウス大隊の抵抗が徐々に弱体化してきています!》

 

(分かったよ、アロナ!)

 

ネイトの重火力と重装甲による防御、彼から万全の補給を得ての補習授業部の支援攻撃。

 

この苛烈な攻勢にアリウスもどんどん兵力をすり減らしていく。

 

「皆、もう少しだッ!このまま押し切れれば…!」

 

勝利は目前、士気を高めるために先生がそう叫ぶ。

 

だが、

 

「油断するな、馬鹿弟子!!!」

 

そんな先生の言葉にネイトの叱咤が飛ぶ。

 

「え…?!」

 

一瞬呆けたような声を上げる先生だが…

 

ガッシャアアアンッ!!!!

 

『~ッ!!?』

 

ネイトの砲撃とは全く異質の破壊音が体育館内に響き渡った。

 

驚愕する先生や補習授業部たちだが…

 

「倒れるわけ…ないよな…!」

 

ネイトは半ば納得したような反応を見せる。

 

音の発生源は体育館の向かいの壁。

 

ちょうどその穴は…

 

「アハッ…アハハハハハッ!!!」

 

再び、あの笑い声が高らかに響いた。

 

「ウソ…ッ!?何で…!?」

 

「ちょ、直撃…しましたよね…!?」

 

「本当に規格外ですね…!」

 

「これが…『力』の頂点…!」

 

信じられないように全員の視線がそこに注がれる。

 

そう、前装式の大砲の一発程度で…

 

「凄い、凄いッ!私、二度も同じ人に吹っ飛ばされたのなんて初めてだよ!!?」

 

「ミカ…?!」

 

倒されるほど聖園ミカは甘くはない。

 

砲弾の直撃を受けた腹部の衣服は吹き飛び負傷もしているようだが深手を負っているようには見えない。

 

それもそのはずだ。

 

彼女は以前、『Nerd Rage!』状態のネイトに亜音速のD51鉄筋のフルスイングを受けて戦線復帰している。

 

いかに大砲の直撃だろうと…傾向可能な口径ならば一撃で仕留めきれなくてもおかしくはない。

 

「それにほんのちょっと離れただけでアリウスをこんなに倒すだなんて!」

 

そんな驚愕する先生たちをしり目にミカは笑顔でこの状況にびっくりした反応を見せる。

 

アリウスの強さは自分も知っているつもりだった。

 

それこそ、ツルギクラスですらこの人数相手には相当手こずるであろうことも把握している。

 

だというのに、自分が体育館から叩き出されてわずか数分。

 

たったそれだけの間で…アリウス大隊の人員の半分を優に超える人数が戦闘不能。

 

残っている面々も無傷ではないという惨状だ。

 

「なるほどねー、そっかそっかぁ!そりゃみんな『シャーレ』や『W.G.T.C.』っていうわけだ!ホント厄介だねぇ、『大人』ってぇ!」

 

それを成し遂げた先生とネイトと言い二人の大人。

 

先生の指揮能力は元よりネイトの前線での瞬時の判断や対応能力に戦闘能力。

 

どちら一つをとっても脅威である事が分かる。

 

それらが一つになれば…もはや『無法』と言わざるを得ない強さになる。

 

だが…

 

「でも、予想外ではあったけど…。」

 

ミカはそう顎に指をあてて少し考え込み…

 

「…うん、まぁ問題ないかな?ちょっと時間はかかりそうだけど。」

 

明るい表情でそう答えた。

 

「…なめるなよ、Spam。」

 

その言葉にネイトは即座に照準を構え、

 

Pi

 

ズバァンッ!

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

V.A.T.S.で照準しクリティカルを発動しブロードサイダーを発砲。

 

ゴォウッ!!!!

 

百発百中な上威力も倍加した砲弾がミカの顔面に迫るが…

 

「あはっ凄いね♪」

 

周囲のアリウス生は怯む中、ミカは身じろぎもせず…

 

バシィイイインッ!!!!

 

『~ッ!!?』

 

無造作に突き出した手で砲弾を受け止めた。

 

ズガガガッ!!!!

 

その衝撃で床を削り飛ばしながら後退するも…

 

「………ふふふ、やろうと思ったらできるものだね♬」

 

「信じられない…!?」

 

「砲弾を…受け止めた…!?」

 

超音速で放たれたはずの砲弾の勢いは死にミカの手の中に納まった。

 

ゴトンッ

 

「イタタタ~…もういきなりお顔を狙うだなんてひどいじゃんね!」

 

「………。」

 

砲弾を地面に落とし手を振って痛みを散らすミカをネイトは無言で見据える。

 

如何に歴戦のネイトでも…クリティカルをこんな方法で防がれる経験はない。

 

さらに…

 

「あっそうそう。貴方とは衝突する可能性はずっと考えてたんだよね。だから…こんなの用意してたの!」

 

アリウス生達の陰になって見えてなかったが体育館の片隅に置かれ布に包まれたある物を抱え上げ…

 

「じゃ~ん!!!」

 

バサァッ!

 

見せつけるように覆っていた布をはぎ取りその正体を見せる。

 

フォルムこそ水冷式の非常に初期の機関銃『マキシム機関銃』に酷似している。

 

だが…そのサイズはミカの身長を優に超える巨大さだ。

 

その名は…

 

「ぽ…ポンポン砲…!?」

【挿絵表示】

「アハハッ!ティーパーティーの武器庫から埃被ってたのを持ってきたの!」

 

『QF 1ポンド・ポンポン砲』、元祖機関銃ともいえる『マキシム機関銃』をスケールアップした初期の速射歩兵砲であり対空砲だ。

 

口径は37㎜、弾頭重量はその名の通り1ポンドで銃自体の重量も200kgに迫る大物だ。

 

いくらキヴォトス人でも普通持ち上げることもできないような規格外の得物だが…

 

「ミカさんはパワーアーマーを纏ったネイトさんを殴り飛ばせる…!」

 

「それほどの怪力なら…あんな無茶苦茶も可能か…!」

 

「あんなのにどう対抗したらいいっていうの…!?」

 

あの聖園ミカのキヴォトス人基準でも規格外の腕力ならば可能だろう。

 

そして…

 

「ねぇ…貴方のその鎧ってこれに耐えきれるの?」

 

対空砲による掃射、それは…対パワーアーマー戦術においては最適解ともいえる。

 

旧式と言えど1ポンドという大質量弾の直撃はX-02と言えど無事では済まない。

 

「セイアちゃんもナギちゃんもいなくなって貴方も捕まるんだし…これでようやく始められるっていうのに変な悪足搔きしないでほしいなぁ。」

 

まるで聞き分けの無い子供に言うように不貞腐れたような口調で発したミカの言葉に、

 

「…ッ!?」

 

ハナコは目を見開いた。

 

「さて…増援部隊もまだまだ来るみたいだし続けよっか?」

 

ジャッコンッ!

 

ポンポン砲の砲口を向け戦いを再開しようとするミカだが…

 

「ミカさん、一つ聞かせてください!」

 

「ん~?なぁに~?」

 

「セイアちゃんを襲撃したのも貴方の指示だったんですか!?」

 

怒りの形相を浮かべ声を荒げてハナコが先ほどの言葉の真相を尋ねる。

 

「…アハッハナコもそんな目をするんだね。」

 

彼女のミカは少し眉を下げ…

 

「うん、私の指示だよ、セイアちゃんったらいつも変なことばかり言ってね?楽園だのなんだの難しい事ばっかり。」

 

そのセイアという人物の襲撃を指示した事実は認めつつも…

 

「でもね?『ヘイローを破壊しろ』とは言ってないよ?ただ卒業するまで織の中に閉じ込めておいた方がいいなって思っただけ。でも…成り行きであぁなっちゃったの。」

 

あくまでも…一線を超える指示を出してないと言ってのけ、

 

「それ以上は…当事者に聞いた方が早いんじゃないかな?…ねぇ白州アズサ?」

 

「………。」

 

「なんだか一部誤解があるみたいだし私の代わりに説明してくれない?」

 

自らがトリニティに招き入れたアズサに話を振る。

 

「セイアちゃんがあんなことになっちゃったのがここまで事態が大きくなったきっかけなんだよ?」

 

まるですべての責任がアズサにあるように…

 

「そこからもう色んなことがどうしようもなくなっちゃったわけだし。…ねぇ、そのあたりはどう思ってるの?」

 

満面の笑みだが生半可な返答を許さない圧を込めて問いかけた。

 

「そっそれは…!」

 

「アズサちゃん…?それは一体…何のお話…なんですか…!?」

 

アズサが言葉に詰まりヒフミが愕然としながら問いかける。

 

その時、

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

ズガァオンッ!!!!

 

『~ッ!!?』

 

あの轟音と爆音が鳴り響く。

 

見ると…

 

「………。」

 

「き、教…官…?!」

 

ネイトが明後日の砲口の壁向ってブロードサイダーを発砲していた。

 

先生や補習授業部はおろかミカですら言葉を失っている中…

 

「…アズサ、一言で良いから答えろ。」

 

ネイトは振り返ることなく…

 

「やったか…やってないかを…。」

 

静かにそう尋ねた。

 

そんな静かだが厳しさを感じられる問いかけに…

 

「………やって…ない…!」

 

「あ…アズサ…?」

 

「私は…百合園セイアに…手を出してはいない…!」

 

アズサは震えながらだが…しっかりと答えた。

 

「…そうか。」

 

ネイトはそう言葉を発し…

 

ワシャワシャ…

 

「わっ…?!」

 

「分かったよ、アズサ。」

 

マニピュレータでアズサの頭を優しく撫で…

 

「俺は…君を信じる。」

 

肩越しに彼女を見ながらそう優しく声をかけた。

 

バイザー越しで彼の表情ははっきりとは分からない。

 

それでも…アズサだけではなくこの場の全員、ネイトが優しい表情を浮かべていることが分かる。

 

そして…

 

「アイツは俺に任せろ。」

 

ドサッ

 

背負ったダッフルバックを下ろし一歩前に踏み出した。

 

その意図は…全員にも言外に理解できた。

 

つまり…

 

「アハハッ!あなた一人で私に勝てるっていうの?」

 

ネイト一人でトリニティ最強の一角にしてX-02ですら容易く破壊できる火力を手に入れたミカと一対一で戦おうというのだ。

 

そう面白おかしそうに笑うミカに対し…

 

「フン…『がらんどう』なお前に…俺は倒せんさ。」

 

ネイトは鼻で笑いながら冷徹に言い放った。

 

「…がらんどうってどういう意味かな?」

 

口調こそ軽いが明らかに不機嫌になった様子でミカがその真意を問うも…

 

「そのままの意味さ。お前は見かけだけ飾り立てて何もかも中身が無い…空っぽなただのガキだってってるんだよ。」

 

「………へぇ~…言ってくれるじゃんねぇ…?」

 

ドストレートに彼女を侮辱する言葉が帰ってきてその声が震え始める。

 

「…でも、どうするの?貴方が私を引きつけるとして…残った子達でアリウスに勝てるの?」

 

実際問題、この戦況はネイトがいたということが大きなファクターを占めている。

 

ミカをネイトが引き受けるにしても…その抜けた穴はあまりにも大きすぎる。

 

そんな彼女の疑問を…

 

「安心しろ。選手交代ってやつだ。」

 

ネイトが端的に答える。

 

「アハハッ、今あなた達の味方をしてくれる子なんてこのトリニティのどこにも…。」

 

現在、戒厳令が敷かれているトリニティであり得ないことを言い放ったネイトを一笑にふすミカだったが…

 

「ご心配なく。お前なんかよりも…トリニティには友人が多いんだ。」

 

ネイトが肩をすくめながら答えた、次の瞬間。

 

ドォオオオン!

 

「ん~?」

 

突如としてどこかから響き渡った爆音。

 

「ほッ報告!!!報告ぅッ!!!」

 

続けて外からアリウス生が駆け込んできて…

 

「とっトリニティの生徒が一部ここに向ってきています!!!」

 

「…なんで?ティーパーティーの戒厳令に背くような人たちはもう…?!」

 

まさかの報告に眉を顰めるミカ。

 

権力がものを言うこのトリニティでティーパーティーの命令に背ける者などそうはいない。

 

すると…

 

「…いますよ、ミカさん。」

 

ハナコが確信めいた表情で彼女に告げる。

 

「…どういうことなの…?!」

 

「お忘れですか?ティーパーティーにも命令できない…独立した集団がこのトリニティには存在しているんです。」

 

睨みつけるミカの視線を受け流しつつハナコはそれを示唆し、

 

「オイオイ目も悪いのか?俺のことを監視してたなら…もはや言うまでもないだろ?」

 

あいも変わらずミカを小馬鹿にしたような態度でネイトがさらにヒントを出した。

 

「…まさか…!?」

 

ミカも二人の言葉を飲み込み…その正体を理解する。

 

そして、まるで見計らったように…

 

「確認できました!大聖堂からこっちに向ってきています!…と言うことは…!?」

 

アリウス生にも情報が伝わり明らかになる。

 

トリニティで大聖堂から出てくる集団など…彼女達しかいない。

 

「しっシスターフッド!?シスターフッドの大部隊です!!!」

 

「シスターフッド…!?」

 

普段から表舞台では活発に活動しないシスターフッドがこのタイミングであっても派手に動くことなど普通はあり得ない。

 

だが…

 

「ッ!?浦和ハナコ…!?」

 

それができる存在があちらに入るではないか。

 

射殺さんばかりの視線でミカからにらまれるハナコだが…

 

「…まぁちょっとした約束をしましたので。」

 

相変わらず涼しく受け流しそう言ってのけた。

 

「約束…!?」

 

「貴方は知らなくていい事ですよ、ミカさん。それに…私だけの力ではありません。」

 

「言ったろ、これでも友人が多いとな。」

 

さらにネイトも不敵な声で言い放った、次の瞬間…

 

ズドォオオオンッ!!!!

 

再び別の場所の体育館の壁が吹き飛び、

 

「けほっ…!き、今日も平和と安寧が皆さんと共にありますように…!ケホケホッ!」

 

デザートイーグル『パイエティー』を片手に持ち粉塵を吸い込んだのか少々むせ返るマリー、

 

「す、すみません、皆さん…。お、お取込み中にお邪魔します…。」

 

愛用しているトランクケースから…硝煙を上げる自動擲弾銃『Mk19』を覗かせたヒナタを従え…

 

「シスターフッド、これまで慣習に反することではありますが…ティーパーティーの内紛と我らが輩を守るべく介入させていただきます。」

 

愛銃CTAR-21『浄化の織り手』を携えシスターフッドのリーダー、歌住サクラコが凛とした表情と声で宣誓する。

 

「ティーパーティーの聖園ミカさん。他のティーパーティーメンバー並びにナサニエル・マーティン氏への傷害教唆及び殺害未遂で…貴方の身柄を確保します。」

 

そして、その背後には修道服を纏ったシスターフッド所属の生徒達が各々の得物を携え整列していた。

 

「シスターフッドの…歌住サクラコ…?!」

 

今まで黒い噂は数々聞いてきたが決して目立った行動を起こさなかったシスターフッド。

 

そんな集団がまさかこのタイミングでこのような行動を起こすとはミカも予想外だったが…

 

「…あはっさすがにシスターフッドと戦うのは初めてだなぁ~。」

 

まるで余裕綽々と言わんばかりに声を弾ませ微笑んで見せるミカ。

 

「なるほどね。これが切り札ってこと?…浦和ハナコ、どうやってシスターフッドを動かしたの?」

 

が、それもすぐに鳴りを潜め真剣な眼差しでハナコを見据える。

 

「シスターたちと仲良かったのは知ってる。でも…あの子たちも何の得もなく動くはずがない。」

 

如何にシスターフッドと言えど…この状況で動くにはかなりのリスクが伴う。

 

それを押してでも重い腰を上げてこの場にミカを拘束しに現れたということは…

 

「…ねぇ、何を支払ったの?」

 

それ相応の対価をハナコが支払ったということに他ならない。

 

『トリニティの才媛』たる彼女でも並大抵のことではシスターフッドは動かないだろうが…

 

「…うん、興味深いね。さて…片付けないといけない相手が一気に増えちゃったなぁ。」

 

すぐに意識を切り替えミカは相対する全員を見据える。

 

「やっと私達も見てくれましたね、ミカさん。」

 

「そうかな?まぁどうせホストになったら大聖堂も掃除しようと思ってたところだし。…うん、一気にやれるチャンスだって考えることにしようかな。」

 

そして、トリニティを手中に収めた後の予定も語りつつ…

 

「さて、じゃあやってみよっ…。」

 

ポンポン砲を構えるミカ。

 

だが…

 

「おいおい…。」

 

ネイトは呆れたようにつぶやき…

 

ジィッ

 

Pi

 

V.A.T.S.を起動し照準を定め…

 

ドォッ!!!

 

「お前の相手は俺だろ?」

 

「…え?」

 

一瞬でミカとの間合いを詰め…

 

「シィッ!!!」

 

グゥワッコオオオオオンッ!!!!

 

「か…!?」

 

ブロードサイダーの砲身をフルスイングでミカの胴体に叩きこみ…

 

ドォウッ!!!!

 

ポンポン砲諸共彼女を再び体育館の外に叩きだした。

 

「…ケリを付けてくる。こいつらは頼んだ。」

 

「…分かりました、師匠…!」

 

「お任せください、ネイトさん…!」

 

「どうか御武運を…。」

 

先生、ハナコ、サクラコからの見送りの言葉を受け…

 

ドォッ!!!

 

ネイトは体育館の外に駆けだしていった。

 

「…さぁ、補習授業部にシスターフッドの皆!最後の仕上げだ!」

 

「了解だ、先生!」

 

「この夜を終わらせましょう…!」

 

「大丈夫、皆さんがいるならきっと!」

 

「負けないわ!トリニティは私が守るんだもの!!!」

 

「この祈りが、皆さんのお役に立てますよう…。」

 

「ふぅぇ…緊張してきました…!」

 

「皆様、何卒よろしくお願いいたします。」

 

残された先生や補習授業部にシスターフッドは未だ大人数のアリウス残存部隊に相対す。

 

そして…

 

ズザアアアアッ!

 

「げホゴホッ…!あぁもう、お洋服がまた汚れちゃったじゃん…!」

 

ミカは合宿場のグラウンドまで叩き飛ばされたところでようやく静止。

 

最早純白の制服はドロドロで敗れたか所も多い。

 

「さて…これなら邪魔は入らないな。」

 

そんな彼女の真正面に…ネイトは立つ。

 

「…貴方、本当に調子に乗ってるね…!」

 

「余裕があると言え、がらんどう。」

 

「…その余裕がいつまで続くか…見ものだよ…!」

 

幸い、ポンポン砲は深刻な損傷を負っておらず使用には問題ない。

 

「ねぇ…ひょっとしてあなた自分が殺されないとでも思ってるの?」

 

この状況であってもあの時のように真剣ではないネイトにミカは問う。

 

そう、先ほどミカはこう言っていた。

 

『ネイトを拘束する』と。

 

つまり命までは奪わないということだ。

 

だが…

 

「だとしたら…相当おめでたい考えだね…!」

 

ミカからしてみれば…それは最善の形だ。

 

最善でなくとも…

 

「私が貴方を殺して…アビドスに生きて捕まっていると嘘をつくことは考えないの…?!」

 

アビドスにネイトの存在をにおわせるだけでも正直ミカの目的は果たせる。

 

「あぁもう、あったまきた…!最低でも…二度と歩けないようにしてやるじゃんね…!」

 

その目に殺気を迸らせ身体から膨大な神秘を放出するミカ。

 

だが…

 

「…くくくくっ…!」

 

「…は?」

 

ネイトは笑いを殺したような声を上げた。

 

「…なに?恐さでおかしく…。」

 

ミカがそう声をかけた瞬間…

 

「クククッ………あーはっはっはッ!!!」

 

「~ッ!!?」

 

ネイトはとうとう笑い声をあげた。

 

まるで面白おかしくて仕方がない、そう言った様子だ。

 

「なっ何がおかしいのッ!!?」

 

「これが笑わずにいられるか!!?あーはっはっはッ!!!」

 

声を荒げるミカだがネイトの笑いは止まらず…

 

「…お前は何もわかっちゃいない!」

 

「ッ!!?」

 

かと思ったら次の瞬間、その笑いが引っ込み裂ぱくの声が上がった。

 

「俺にもしものことがあったら俺のことは見捨てろと言い含めてある。」

 

「え…!?」

 

「たとえここで俺がお前に殺されようと…それは俺が弱かっただけの事として切り捨て…怯まず動くことができる集団…。」

 

ネイトはここで言葉を区切り…

 

「…それがアビドスだ。」

 

「ッ!!?」

 

ミカを眼光だけで怯ませ…

 

「上っ面でしか分かり合えないお前等ティーパーティーがッ!!!俺が育てた子供たちを語るなッ!!!」

 

銃声も爆音も掻き消すほどの大声量で言い放った。

 

そして…

 

「…なんかに…!!?」

 

ミカの表情がとうとうこれまでにないほど歪み…

 

「貴方なんかにッ私の何が分かるの!!?」

 

様々な感情がごちゃ混ぜになった形相でネイトにポンポン砲を構える。

 

トリニティ全土を巻き込んだ狂乱の夜。

 

その決着は…着実に近づいていた。




怒りは一時の狂気なり。汝が怒りを制さざれば、怒りが汝を制せん。
―――詩人『ホラティウス』
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