Fallout archive   作:Rockjaw

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序盤は教科書通りに、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指しなさい。
―――チェスプレイヤー『ルドルフ・シュピールマン』


Rescue and Unconventional Tactics at Dawn:check

ネイトとハナコ、そしてアズサの襲撃を受けて気を失っていたナギサ。

 

ユッサユッサ…

 

(んん…?)

 

頭部に計16発の10㎜弾を受けたものの流石はキヴォトス人。

 

微かな揺れているのを感じ意識がうっすらと戻ってきた。

 

(あれ…私…。)

 

それでもやはり気絶前の諸々のことで記憶がまとまらず、

 

「うぅ…?!」

 

頭に走る鈍い痛みに思わずうめき声をあげるナギサ。

 

すると、

 

はっはっはっ…

 

「あッ!目を覚まされましたか?」

 

「え…?」

 

突如として掛けられた柔らかな声。

 

顔をあげてみると…どうやら自分は背負われているようだ。

 

「今下しますね。」

 

意識を取り戻したのに気づきその声の主の生徒はナギサを付近にあった石の上に腰掛けさせる。

 

「あ…あの貴方は…。」

 

「説明は後です。今から軽い診察をしますね。」

 

ファサッ

 

そう言うとその生徒はナギサと自分を覆うように布をかぶせ

 

「はい、少しピカッとしますよ。」

 

「うっ…。」

 

ナギサを照らすようにペンライトを灯す。

 

「じゃあ光を目で追ってください。」

 

「は…ハイ…。」

 

「…ハイ、大丈夫です。じゃあ…指はいくつ立っていますか?」

 

「…2本です…。」

 

「貴方のお名前と所属校と学年、役職などがありましたらそれも答えてください。」

 

「き…桐藤ナギサ…トリニティ総合学園の3年生で…ティーパーティーのホストを務めています…。」

 

「…ハイ、大丈夫ですね。」

 

いくつかの問診を終えその生徒は微笑を浮かべる。

 

「どうぞ、お水です。ゆっくりと飲んでください。」

 

「あ…ありがとうございます…。」

 

そして彼女に差し出されたミネラルウォーターのボトルを受け取り、

 

「んッく…んっく…!」

 

ナギサは一心不乱に水を飲み始めた。

 

「プハッ…!あ、ありがとうございました…。」

 

「いえ、お気になさらずに。」

 

「それで…貴方は…?」

 

あっという間にボトルが空になってナギサは改めてその生徒に名前を尋ねると…

 

「申し遅れてすみません。私はアビドス高等学校1年生で衛生官を務めています、『鋸峰シホ』です。」

 

「~ツあ、あびっ…!?」

 

自らを背負っていた生徒がアビドスの生徒であるシホとわかり声を上げそうになるが…

 

「シィッ…!」

 

「むぐッ…!?」

 

「大丈夫です。私は銃を持っていませんし貴方を傷付けるつもりはありません。」

 

シホはそっとその口に手を当ててそれを制する。

 

「ですが、今は静かにお願いします。生憎…私に戦う術はありませんので。」

 

そう言うシホを見つめるナギサ。

 

確かに装備こそ防弾板を装備できるリグを装備しているが…そこにあるのは包帯や医薬品の類。

 

キヴォトスでは当たり前の銃の類はどこにも見当たらない。

 

腕のバンドには注射器を差し込んであるが…それが毒薬ならばすでに使われているはず。

 

何なら先ほどのボトルに毒薬を混ぜていれば…それで終わりだ。

 

だが、彼女が起きた後も制圧することなく診察すらしているではないか。

 

「…!」

 

そこで…ナギサはD.U.の一件後に提出された正義実現委員会からの報告を思い出した。

 

アビドスには銃を持たずに戦場に飛び込みネイトを救った衛生兵がいる…と。

 

そして…その生徒と同名の生徒がネイトと共にトリニティを訪れていると。

 

とすれば…

 

(か、彼女はアビドスの精鋭の一人…!?)

 

この状況で…戦いに向いていない自分が抵抗したとしても敵う見込みはない。

 

「………。」

 

コクコクッ

 

まだ表情にかなりの怯えが見えるがナギサは頷く。

 

「ありがとうございます。」

 

「プハッ…!あ、あの…シホさん…!」

 

「どうしましたか?」

 

「いっ一体何が目的なんですか…?!」

 

口を解放されてすぐナギサは震えながらシホに尋ねる。

 

トリニティとアビドスの関係は最早語るまでもないだろう。

 

現に先ほど自分はネイトに容赦なく責められ銃まで撃たれている。

 

そこへ来て気絶した自分をアビドスの精鋭の生徒が背負って運んでいるとくれば…嫌な予感の一つや二つするのは自然なことだ。

 

だが、

 

「…安心してください、ナギサさん。」

 

「あ…っ。」

 

「信じてもらえないでしょうけど…私は貴方を傷つけたりアビドスに攫うつもりは一切ありません。」

 

シホはナギサの手を包み…

 

「確かに…私はネイトさんの指示を受けて貴方を運んでいました。でも、ネイトさんの指示であっても…貴方を傷付けるような指示は決して従いません。」

 

優しく、決して揺るがない決意を込めて声をかける。

 

「ね…ネイトさんに…逆らえるの…ですか…?」

 

「逆らうだなんてそんな大層なことじゃ…。」

 

彼女の発言に信じられないといった様子で驚愕するナギサ。

 

ナギサにとってはネイトは恐怖の象徴。

 

そんな彼に逆らうことなど…考えられなかった。

 

シホは少し苦笑を浮かべながら…

 

「でも…ネイトさんは絶対にそんなことは言いません。」

 

「ど、どうしてそんなことを…?」

 

「だって…ネイトさんったら泣いている貴方を撃ったことをすごく気にしてましたもん。」

 

「え…?」

 

ナギサが気絶している間に起こったことを明かし始めた。

 

1時間と少々前のこと、

 

「シホ、こっちだ…!」

 

「お待たせしました…!」

 

アリウスのが展開するトリニティの中心部でネイトとシホが合流。

 

ネイトの肩には何かが丸められたカーペットが担がれている。

 

「後は頼む…!本当に平気か…?」

 

「大丈夫です…!このくらいの距離、フル装備でその方を背負っても余裕で走り抜けられます…!」

 

心配するネイトを余所に自信ありげに答えるシホ。

 

「…分かった…!この子を頼んだぞ…!」

 

そう言い、ネイトは背負っていた絨毯をはがし…

 

「うぅ…。」

 

包まれていた気絶中のナギサをシホの背中の背負子に載せた。

 

カチッカチッ

 

「よし、固定できたぞ…!」

 

「では…!」

 

準備も整い出発しようとするシホだったが…

 

「………ごめんな。」

 

静かに呟きナギサの目元に残っていた涙を指で拭っていたネイトが視界の端に見えた。

 

それは普段見せるような自分たちのまとめ役としての表情でも兵士としての表情でもない。

 

シホが知る中で一番近いのは…アリスに見せる『父親』としての表情だった。

 

「…行ってくれ、シホ。」

 

その表情もすぐに引き締まり出発を指示するネイトに…

 

「…はい!」

 

シホも笑みを浮かべて答え全速力で駆け始めるのであった。

 

「………ナギサさん、貴方は確かにネイトさんやアビドスにいろいろと問題を起こしてきました。それは…私にも思うところがあります。」

 

その話を終え、シホはナギサに心中を吐露する。

 

「私達はただ…アビドスで学校生活を送りたい、アビドスを良くしたいだけなのに…って。」

 

「シホさん…。」

 

「それに…D.U.の時のことも今思い出しても震えることがあります…。」

 

優しい心根のシホでも…ナギサの行いは腹が立つことばかりだ。

 

何も悪い事をしていない、むしろ学校を良くしているのにまるでそれが悪い行いのように警戒し様々な手で覗き込もうとする。

 

決して気持ちのいい事ではない。

 

その上…あのD.U.での一件だ。

 

ナギサが余計なことをしなければ…と思ったことは一度や二度ではない。

 

「…ナギサさん、これはほぼすべてのアビドス生の共通の思いです。それは理解してください。」

 

「ご、ごめんなさい…!

 

「………ですがね?」

 

頭を下げて謝るナギサにシホはそう言葉をかけ…

 

「そんな貴方を…ネイトさんは手荒ながらも守ることを決めました。それも…あんな心配そうな表情まで浮かべて。」

 

表情を和らげて胸に手を当て…

 

「でしたら…私も貴方を護るために全力を尽くします。そのために…私がいるのですから。」

 

決意の籠った眼でナギサを見つめるのだった。

 

「シホさん…。」

 

「…さて、そろそろ行きましょう。目的地まであと一息ですから。」

 

話を終えシホは立ち上がりナギサに背を向ける。

 

「も、目的地とは…?」

 

「ちょうど見えてますよ。ほら、あそこです。」

 

ナギサの疑問に答えてシホが指さした方向には…

 

「…ッ!てぃ、T.A.G.の基地…!?」

 

眼下にトリニティの空を護るT.A.G.の基地が見えた。

 

戦闘機が配備されるほど大規模なものではないが確かにあそこに逃げ込めば…。

 

が、

 

「まっ待ってください…!私のセーフハウスからここまでは車でも相当かかるのですよ…!?」

 

ナギサが疑問を呈する。

 

彼女が把握しているあの基地まではトリニティからは直線距離で数十㎞は離れている。

 

ナギサが気を失っていたのは1時間少々でしかも自分たちがいるのは山の中だ。

 

どう考えても計算が合わないが…

 

「あ、大丈夫ですよ。山の中を基地の方向に一直線に突っ切ってきましたから。」

 

「…はい?」

 

ケロッととんでもない事を言ってのけたシホに淑女らしからぬ呆けた声をあげてしまった。

 

「や、山を…ですか…?」

 

「はい。多分…山を4~5つ登って降りてここまで来ましたね。」

 

信じられないが…事実、目的地の基地は目の前にあるではないか。

 

それに…シホが履いている靴は泥だらけになっている。

 

つまり、シホは真夜中の山中をナギサを背負ったまま自然と意識を取り戻すまで起こすことなくここまで走り抜けてきたのだ。

 

しかも、それほど息が上がっているようにも見えない。

 

(ま、まさか…!?一体どんな体力とバランス感覚なんですか…!?)

 

例えキヴォトス人の身体能力をもってしてもこの芸当ができる生徒がどれほどいるだろうか?

 

(これが…アビドスの精鋭の実力…?!)

 

銃を持たないハンデなど撥ね退けるほどのスペック。

 

ナギサはシホもネイトが認めた精鋭であるということをまざまざと思い知った。

 

「さぁ、お喋りはこの辺にして行きましょう。ナギサさんにはやってもらわなきゃいけないことがありますし。」

 

「や…やること…ですか…?」

 

「基地についてから説明します。さぁ、乗ってください。」

 

こうしてシホは再びナギサを背負子に載せ…

 

「では、じっとしててください。…行きますよ…!」

 

ダァオッ!!!

 

「ヒィッ!!?」

 

ナギサが恐怖を感じるほどの速度で再び夜の山の中を猛スピードで駆け抜けていくのであった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

それとほぼ同時刻、アリウス大隊との戦いも佳境に突入していた。

 

「コハルはいったん下がってサクラコが代わりに前衛を!」

 

「了解よ!」

 

「承知いたしました…。」

 

「マリー、シスターフッドの子達を数人率いて側面に回って!」

 

「はい、先生!」

 

「ヒナタは後方からグレネードランチャーで火力支援を!なるべく弾幕が途切れない様にショートバーストで発砲!」

 

「わ、分かりました…!」

 

ネイトが抜けた穴を先生はすぐさまシスターフッドの生徒達で補強。

 

「………よろしく頼む、歌住サクラコ…!あと少しで皆を止めることができる…!」

 

「ネイトさんほどではありませんがベストを尽くします。ともに参りましょう。」

 

「ま、まさかサクラコさんと一緒に戦う日が来るなんて…!」

 

「謎のベールに包まれたシスターフッドのリーダの実力を見れる機会はそうありませんもんね♬」

 

新たにサクラコが加わりアズサ・ヒフミ・ハナコが前線に躍り出る。

 

「こんのぉ…!奴がいなければお前らなど…!」

 

「立って、皆…!まだ私達は戦え…!」

 

対するアリウス大隊の生徒達もなんとか応戦しようと立ち上がる。

 

全員、砲撃による手ひどいダメージこそ受けてはいるものの頭数では圧倒している。

 

ネイトとあの携行大砲が無ければ…まだ勝機はあるはずだ。

 

だが、

 

「態勢を立て直させないで!ヒナタ、グレネード弾を掃射!!!」

 

形は変われど…とびっきりの大砲は今なおこちらにはある。

 

「りょ、了解しました!」

 

ドォンッ!

 

先生はヒナタに指示を飛ばしいつも彼女が抱えているトランクが床に置かれたかと思うと…

 

「あ、アリウスの皆さん!い、痛いかもしれません!」

 

ガッシャアンッ!

 

開くと同時に三脚に据え付けられた『Mk.19』が飛び出し、

 

「こ、これもトリニティのため…! 恨むならどうか私のことを…!」

 

ボシュボシュボシュッ!

 

銃よりもくぐもった発砲音を響かせグレネード弾が放たれる。

 

通常のグレネード弾よりもさらに遠距離に対応するため弾速が向上した40×53mmグレネード弾は体育館を突っ切り、

 

ズガガガァアアアンッ!!!!

 

「うわぁっ?!」

 

「ぎゃあっ?!」

 

「ま、またあんなの持ってきたのかよおおお?!」

 

態勢を整えつつあったアリウス大隊に襲い掛かりその前衛を吹き飛ばした。

 

「今だ!4人は前進して制圧を!」

 

「補給品は私が持つ!行くぞ、皆!」

 

その隙にアズサ達に先生は進行を指示しアズサがダッフルバックを背負い『Et Omnia Vanitas』を構え前進を開始。

 

ズパパパンッ!ズパパパンッ!

 

「こ、この裏ぎあがっ?!」

 

「どっどうしうグッ…!」

 

態勢が未だに崩されたままのアリウス生たちを精密に撃ち抜きその数を減らしていく。

 

「ネイトさんがいなくとも私たちならやり遂げられます!」

 

「えぇ、あとで目一杯ネイトさんに褒めてもらいましょうね♡」

 

「主よ、どうか皆さんを守り分け隔てなく幸いがあらんことを…。」

 

ズパパパパァンッ!!!

 

ズパパパンッ!!!ズパパパンッ!!!

 

それに続いてヒフミ、ハナコ、サクラコの3人も発砲し前進を開始した。

 

「ぐはッ!?」

 

「ズあッ!?」

 

「気を付けろ、あのシスターも強いぞ!」

 

移動は遮蔽物伝いのために速度こそ遅くなったものの着実にアリウス生の数を減らしていく。

 

実力が未知数のサクラコだったが流石は一派閥のトップを務める生徒だけあってしっかりしたフォームでなかなかの精度で射撃ができているようだ。

 

「コハル、狙撃支援でアズサたちを援護はいける?!」

 

「大丈夫よ、先生!弾はシスターフッドの子達が持ってきてくれたから!」

 

ズダァン!!!

 

「あがっ?!」

 

さらに30-06弾の補給を受けコハルが後方から『ジャスティス・ブラック』による狙撃で

 

「よし!シスターフッドの子たちも脅威になりそうなアリウス生を見つけ次第発砲を!」

 

『承知いたしました!』

 

ズパァンッズパァンッ!!!

 

そこへシスターフッドのシスターたちが持つ『ガリル』による射撃も放たれる。

 

「クッくそっ!!!どっちを狙えば!?」

 

「人数が増えてあちらの戦術が多彩になってやがる!」

 

前衛と後衛からの波状攻撃にアリウス生は攻めあぐねている。

 

ネイトがいた際の戦術はX-02とブロードサイダーという常識はずれな要素はあれどいわば力押しも同然の単純な戦術だった。

 

だが、ネイトが抜けシスターフッドが入ったことにより単純な頭数が増加。

 

これにより戦術に『多彩さ』と『柔軟性』が加わる。

 

前衛だけだったところに後衛と重火力支援という本式の軍隊さながらの陣容。

 

対するアリウス大隊は人数こそまさっているが未だにネイトの砲撃によるダメージが抜けきらない。

 

抵抗しようにも少数では前衛の銃撃を喰らい隙を狙おうにも多数の後衛からの狙撃、纏まろうとすれば機関擲弾銃からグレネード弾が撃ちだされる。

 

普段の訓練で身に染みている連携が悉く取れない。

 

そうしているうちに…彼女たちの脳裏にこんな考えが浮かぶ。

 

『負ける』、『このままでは負けてしまう』…と。

 

「た、体勢を立て直す!!!いったんここから後退するぞ!!!」

 

アリウス大隊の誰かが叫ぶ。

 

そうだ。

 

こんな閉所にこの人数が展開するなど土台無理なのだ。

 

ならば、さっさとここから抜け出しいつものような連携を取り戻せばいい。

 

その思考はすぐに伝播し後退を開始しようとするアリウス大隊だったが…

 

「申し訳ありませんが…ここはお通しできません…!」

 

「なッ!?」

 

体育館外から側面に回り込んだマリーたちがその退路を断つ。

 

「どうかアリウスの皆さんに…安らぎがあらんことを…!」

 

彼女たちが開けた穴の陰に隠れながらマリーは大口径ハンドガンの代名詞であるデザートイーグル『パイエティー』を構え…

 

ドガォンッ!!!

 

桁違いの銃声を轟かせ.50AE弾を発砲。

 

一応拳銃弾の区切りだがそのエネルギーはライフル弾に匹敵する怪物と言っていい弾丸だ。

 

「ガベァッ!!?」

 

そんなものをまともに食らって耐えきれるキヴォトス人はそう多くない。

 

直撃を受けたアリウス生はまるでハンマーでも叩き込まれたかのようにひっくり返って昏倒。

 

「皆さん、争いはここで終わらせます!」

 

「シスターマリーに続きなさい!」

 

「シスターフッドの使命を果たすのです!」

 

ズパパパパ…ッ!!!

 

そこへマリーと共に側面に回ったシスターたちもガリルで応戦しアリウス大隊の退路を一つ遮断。

 

元は狭い突入口、わずかな人数でもそこを抑えられてしまえば近付くアリウスの生徒達は近付くことはできない。

 

「だっ駄目だ!!!回り込まれてる!!!」

 

「こっちだ!急げぇ!!!」

 

すると、今度は別の場所に開けた突入口に駆け出す。

 

確かに逆サイドにも穴が開いておりそこからならばまだ脱出できるだろう。

 

命からがらそちらへ駆け出していく。

 

「先生、アリウスの人たちが逃げてしまいます!」

 

「でもこれ以上カバーには…!」

 

ヒフミの声に先生は苦い表情を浮かべる。

 

アリウスの後退を許すわけにはいかないがいまだにあちらの正面戦力の数は多い。

 

少しでもこちらも正面戦力を割くと押し切られる可能性もある。

 

こうなれば多少のアリウスの逃亡も見逃すべきか?と先生の中で浮かぶと…

 

「ご安心を、先生!」

 

「サクラコ…?!」

 

「そろそろ皆さんが到着するころです!」

 

そんな先生の苦悩を察してかサクラコが声を張り上げてそう言う。

 

一瞬、先生は首を傾げた…その時だ。

 

ヴォンッ!!!ヴォオオオンッ!!!

 

鳴り響く銃声を塗りつぶすかのようにけたたましいエンジン音が割れた窓から体育館内に響き渡った。

 

「なっ何!?」

 

「新手かッ!?」

 

先生やアズサはアリウスの増援かと警戒するが…

 

「も、もう少し穏やかに来てくださると嬉しいのですが…!」

 

「ですが、何とか間に合ってくださいましたね…!」

 

「こ、この音がとても頼もしく感じます…!」

 

サクラコやマリーにヒナタたち、シスターフッドの面々は苦笑しながらも待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「い、一体何が…!?」

 

驚愕しているのはアリウスの生徒達も同様で外に出れたアリウス生は足を止める。

 

次の瞬間、

 

カッ!!!

 

「うわッ!?」

 

アリウス生達は見たこともないほどこうこうとした明りに照らし出され思わず目元を覆う。

 

そして…

 

「どぉこ行こうってんだ、この不信人ども!!?」

 

突如投げかけられるなんともガラの悪い声。

 

眩む目で何とか前を見ると…

 

ブロロロォン!!!

 

目の前にはエンジン音の唸りを上げ煌々とヘッドライトが光る多数のバイクがアリウス生を取り囲むように止められており、そのライトを背に佇む二人の生徒がいた。

 

それは…

 

「こんな夜中に出歩いてちゃ神様に説教喰らっちまうぞ!!?」

 

シスターフッド兼七転八倒団総長、火向レイナと…

 

「トリニティだけじゃなくアニキまで狙おうッたぁふてぇ野郎どもだ!!!」

 

シスターフッド聖歌隊兼七転八倒団の轟カノンだ。

 

そう、シスターフッドが用意した別動隊こそ『七転八倒団』だ。

 

シスターフッドに所属しているとはいえまだ日が浅い彼女たちはまだ一スターフッドの教練の練度が低めだ。

 

そこでサクラコは思い切ってレイナに七転八倒団の統率を任せ別方向からの方位を任せたのだ。

 

練度が低いというのはシスターフッドでの話だ。

 

彼女たちはネイトの下で鍛えられた教え子たちだ。

 

単純なぶつかり合いならば…正義実現委員会の一般部隊にも引けを取らないだろう。

 

「なっなんだ、貴様ら!!?」

 

服装は修道服だが明らかに経路の違う集団にさすがのアリウス生も面食らうが…

 

「我ら七転八倒団!!!こっから先は通さねぇぞ!!!」

 

それに構うことなく獰猛な笑みを浮かべながらレイナはミニUZI『ルペンテンス・アクセル』を構え…

 

「ハレルヤ! 懺悔の時間だ、ハチの巣になりな!」

 

バララララ…!

 

気合の叫びと共に弾丸を浴びせかける。

 

さらに…

 

「主は仰いました…。」

 

カレンはサングラスをクイッと指で上げながらまるで祈るように静かな口調で語り始めたかと思うと…

 

「…『気合入れろ!』ってねぇッ!!!」

 

ガッシャァン!

 

サングラス越しにでも分かる凶暴な目つきに豹変しネゲヴ『シャウト・アット・ザ・ロード』にドラムマガジンを叩きこみ、

 

ズダダダダダ…ァッ!!!

 

5.56×45mm弾の濃密な弾幕を浴びせかける。

 

「アンタ等も撃ちな!!!アニキに鍛えられたアタシらの強さを見せる時だよ!!!」

 

「アリウスだがアリノスだか知らねぇがどっちが強ぇか見せつけてやんなぁ!!!」

 

さらに先陣を切った二人の叫びに呼応し、

 

「うっす、姉御ぉ!!!」

 

ズバガガガガガ…ァッ!!!

 

他の七転八倒団の面々も各々の得物をぶっ放す。

 

「ぎゃあ!?」

 

「なっなんなんだよ、いったぐぎぃ!?」

 

「はっはんげぐほぉッ!?」

 

果敢に応戦しようとするアリウス生達だがこれまた狭い出入り口に加え七転八倒団の容赦ない銃撃とヘッドライトの逆光でろくに反撃ができず次々に打ち取られていく。

 

「押し返せぇ!!!誰に手ぇ出したか、後悔させる隙も与えるな!!!」

 

「アンタら、アレ持ってきな!こういう時のために用意してたんだからね!」

 

それを逃すまいとレイナとカノンは銃を撃ちながら追撃する。

 

「シスターサクラコに先生!!!」

 

「来てくれましたか、シスターレイナにシスターカノン…!」

 

「カノンさぁ~ん、そちらはお任せしますねぇ~♪」

 

「任せな、ハナコちゃん!!!!絶対ぇ通さねぇぜ!!!」

 

「か、彼女たちは?!」

 

「し、七転八倒団の方々です、先生…!ね、ネイトさんの下で鍛錬を積んでらっしゃいます…!」

 

「だったら、実力は折り紙付きだな!」

 

「ふ…不良でもあんなに強くなれるの…!?」

 

「マリーちゃん!そっちは平気か!?」

 

「はっはい!何とか頑張れそうです!」

 

七転八倒団も合流しこれでシスターフッドの総力が集結。

 

「よし、あと一歩だ!皆、気を引き締めていくよ!!!」

 

『了解っ!!!』

 

先生の声に全員が呼応し一層攻撃の勢いが増す。

 

「どッどうする!?」

 

「出口は後…!」

 

周囲を包囲されアリウス生達は決断を迫られる。

 

出入り口はほぼ制圧され正面からも先生の指揮する部隊が迫りつつある。

 

側面の突破口は封じられ残る脱出口は…

 

「あ、あそこしかないのか…!?」

 

先生たちとの対面にあるミカとネイトが出ていった穴しかない。

 

つまりこの先には…

 

「方陣を組め!!!何とか持ち堪えるぞ!!!」

 

最早逃げることも出来ないと覚悟を決めたアリウス大隊の生き残りたち。

 

なんとか残った面々で各方向への攻撃に対処するため密集し攻撃を行う。

 

「グレネードランチャーと後方を抑えろ!!!あれさえなんとかできればまだ勝機はある!!!」

 

『了解!!!』

 

ズパパパパァンッ!!!

 

そして、これまでも重火力を投射し続けているヒナタやコハルたちに向け一斉攻撃を放った。

 

チュイィンッ!!!

 

「うわぁッ!?」

 

「キャッ!?

 

「ヒナタ、コハルッ!?」

 

「へっ平気です!」

 

「先生、隠れてて!!!」

 

最後のあがきともいうべき弾幕にさらされヒナタやコハルたちも身動きが取れなくなる。

 

「このッ!」

 

「させません!」

 

ズパパパパァンッ!!!

 

後方からの火力支援は生命線だ。

 

なんとか妨害を阻止するために前線のアズサたちも射撃を加えるも、

 

「が…まっまだまだぁ…!!?」

 

「簡単に倒れて堪るかよ…!」

 

「た、耐えてるんですか…!?

 

「向こうも必死ですね…!」

 

例え、まともに食らおうと気合で必死に意識を繋ぎ留め射撃を続けるアリウス生達。

 

(まずい…!アリウスの生徒達は『コンバット・ハイ』になっている…!)

 

この状況に先生は苦虫を嚙み潰したよう鳴表情を浮かべた。

 

『コンバット・ハイ』、戦闘によってアドレナリンなどの神経伝達物質が過剰に分泌され痛みや恐怖に疲れを忘れて極度の興奮状態に陥る現象のことだ。

 

こうなってしまっては多少の負傷は意に介さず動きを止めることが無くなってしまう。

 

人間であれば肉体の耐久面での限界がすぐに来るが彼女たちはキヴォトス人。

 

常人の優に数倍以上は頑丈な耐久力でコンバット・ハイになろうものならその厄介さはけた違いだろう。

 

(どうする…!?今の彼女たちを制圧するにはそれこそネイトさん並みの火力が…!)

 

ヒナタが封じられた以上、同等の威力の火力を投射できる存在はこの場にはいない。

 

選択を迫られる先生だが…

 

「やってくれるじゃねぇか!!!だがなぁ!!!」

 

「火力だけならうち等も負けてねぇぞ!!!」

 

「しっ七転八倒団の皆!?」

 

ここで名乗りを上げたのがレイナとカノンの七転八倒団だ。

 

彼女たちの得物はLMGが最大火力かと思われたが…

 

「アンタ達、構えな!!!」

 

「吹っ飛ばされんじゃないよ!?」

 

『うっす!』

 

二人の気合を入れるような掛け声と共に…

 

ガッコォン!!!

 

『………え?』

 

七転八倒団が抑えている突破口からそれが覗き先生も補習授業部も他のシスターフッドもアリウスも全員が固まった。

 

この銃器が溢れるキヴォトスで合ってそれはあまりにも異質。

 

だが、この場にいる全員がそれに見覚えがあった。

 

それもつい先ほど…だ。

 

「全員、耳抑えてろよ!!!」

 

「ぶっ飛ばしていくぜぇ!!!」

 

唖然とする一同に構わずレイナとカノンはボルテージを上げそれを掲げる。

 

それは…棒の先端に付けられた長めの火口だ。

 

「みっ皆、耐ショック姿勢!!!」

 

「………?!」

 

先生は泡食って指示を飛ばしこちらの陣営の全員が一も二もなく耐ショック姿勢をとった。

 

何を隠そう…それほどまでにヤバい代物なのだ。

 

「やッやめろおおおおおおおお!!?」

 

「「喰らえ、七転八倒団必殺奥義!!!」」

 

アリウスの悲鳴に近い声にも構うことなくレイナとカノンは声を揃えて叫び…

 

「『なんでもキャノンストーム』!!!」

 

バシュゥッ!

 

火口を点火孔に突っ込んだ瞬間、

 

ドゥォォッンッ!!!!

 

ブロードサイダーを超える砲声と共に猛烈な白煙が吹き上がった。

 

そして、

 

ズバッシャアッ!!!!

 

「が…!!?」

 

方陣を組んでいたアリウス生達は『鉄の豪雨』としか言えない様な衝撃を味わう。

 

全身くまなく、それも強烈なインパクトを喰らい…

 

ドサドサドサ…ッ!!!!

 

まるで刈り取られた様に全員意識を失い倒れ伏した。

 

「いよッシャアアアアやってやったぜぇ!げぇほげほぉっ!!?」

 

「見たかこれが七転八倒だゴホゴホっ!!?」

 

「す、すごいもの持ってきゲホッゲホゲホッ!?」

 

「い、今の一撃で…けほっ!」

 

一撃でアリウス大隊の残存兵力を壊滅させた一撃に歓喜を上げる七転八倒団の面々も唖然とする先生とアズサも例外なく咳き込む。

 

「こ、これは強烈な煙ですね…!ケホケホッ…!」

 

「み、耳が痛いです…!こほこほッ…!」

 

「あんなのどっから持ってきたのよ…!?」

 

戦果とこんな事態をもたらした原因に補習授業部にシスターフッドの視線が集中する。

 

そう、七転八倒団が用意したものは…

 

「いやぁ、アニキが『12ポンド砲』の整備済ませててくれてよかったぜ!」

 

「しかも、黒色火薬まで調合してるとは準備がいいね!」

 

月明かりで砲身が黒光りする巨大な大砲、ネイト達が納屋で見つけた『前装式12ポンド砲』だ。

 

ネイトはこの大砲をティーパーティーの生徒からの呼び出しを受けた際に『もしもの時』に備え整備を始めていたのだ。

 

砲身を磨き新たな砲架を作り、果てにはカレンに園芸店から肥料の『硝酸カリウム』を買ってきてもらって発射薬の黒色火薬まで調合を済ませていた。

 

まさかこんな事態になるとはネイトも予想できなかったがそれでも有事は有事。

 

自身以上の大火力を投射できるこの12ポンド砲を七転八倒団に託し彼女たちもこれをバイクに繋いで出陣してきていたのだ。

 

問題は砲弾でいかに整備しようと12ポンド砲弾をそのまま用いれば暴発の可能性もあったが…

 

「こ、これは…ネジやボルト…!?」

 

「空薬莢までありますよぉ…!?」

 

このような旧式の兵器の利点は砲口の中に入りさえすればどんなものだろうと発砲できる点である。

 

そこで、ネイトは代わりに上記のような小型の金属資材にキヴォトスならそこら中に落ちている空薬莢を詰め込み『ブドウ弾』のようにしたのだ。

 

結果、放たれた数百にも上る『散弾』がアリウス生達を襲い根こそぎ気絶させてしまったのだ。

 

「いよッシャアアアア!大成功だぜ!!!」

 

「見たかぁ!!?これが七転八倒の実力だ!!!」

 

この成果にレイナとカノンたち、七転八倒団は抱き合いながら歓喜の声を上げる。

 

「な、なんて無茶苦茶なことを…!?」

 

「で、ですがこれで…!」

 

「…うん、アリウスの軍勢を…制圧できた…!」

 

そう、過程はどうであれ…これでアリウス大隊は制圧できた。

 

まだ各地にいる可能性はあるがおそらくここの部隊がミカが用意したアリウスの本隊と言っていいだろう。

 

「これでミカ様の野望も…!」

 

と、そこへさらに吉報が舞い込む。

 

Prrr…Prrr…

 

「とと…ハイもしもし?」

 

間がよく先生のスマホがなり出てみると…

 

《あ、先生!こちらシノです!》

 

「シノ!無事だったんだね!」

 

相手はシノで少々息は上がっているようだが…

 

《たった今、T.A.G.にナギサさんの身柄を引き渡しました!すぐに正義実現委員会の待機状態を解除するとのことです!》

 

「ホントかい!?」

 

「たったこれだけの時間でT.A.G.の基地に着いたっていうの…!?」

 

「す…すごい足の速さと体力ですね、シホさん…!?」

 

彼女も自分の務めを果たしてくれたようだ。

 

《私もナギサさんと一緒にそちらに戻ります!》

 

「分かったよ!ありがとう、シホ!君はの本当に凄い子だ!」

 

《どういたしまして!では、私も少々聴取がありますのでこれで!》

 

そう言い、シホとの通話が切れたが…

 

「よし、これでミカを止めることができる…!」

 

「やっと本来の計画に軌道修正ができそうですねぇ♪」

 

「ならば、私達もそれまではトリニティの平穏を護るために力を貸しましょう。」

 

周囲に生徒たちの間に安堵の空気が流れる。

 

正義実現委員会さえ動けばさすがのアリウスも引かざるを得ないはず。

 

そうすれば…ミカも計画をあきらめざるを得ないはずだ。

 

「よし、今はここにいるアリウスの子達を一時拘束して!怪我がひどい子は後で救護騎士団に引き渡すから…!」

 

それでもやるべきことは山済みだ。

 

先生がそう指示を飛ばし一同が動き出そうとした…その時。

 

ドォウッ!!!

 

『ッ!!?』

 

「な。何…!?」

 

この体育館にいる全員が身をすくめるほどの禍々しい神秘の波動を感じ取った。

 

その方向は…

 

「ネ、ネイトさん!?」

 

ネイトとミカが戦っているであろう方向からだった。




終盤戦の前に、神々は中盤戦を創りたもうた
―――チェスプレーヤー『ジークベルト・タルラッシュ』
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