Fallout archive   作:Rockjaw

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もう何をすべきか完全に分からないときが、パニックするときだ。
―――チェスプレイヤー『ジョン・ファン・デル・ウィール』


The Worst Kind of Understanding Person:Checkmate

「貴方なんかにッ私の何が分かるの!!?」

 

ジャッコンッ!

 

最早どの感情ともつかない形相のミカが対ネイトにために用意した規格外の大物『QF 1ポンド・ポンポン砲』。

 

当たればいかにX-02であっても損傷はおろかネイトも無傷では済まない事は確実の得物である。

 

だが、

 

「デカければ勝てるとでも思ったか!?」

 

ネイトは一切の恐れも見せずに微かに腰を落とし…

 

ズバォン!!!

 

地面を爆散させ左方にむけスプリントを発動。

 

ボォンッ!!!!

 

その瞬間、ポンポン砲の名の通りの独特な発射音とともに37㎜砲弾がネイトのいた空間を焼きながら通り抜ける。

 

「このぉッ!!!」

 

ボォンボォンボォンボォンボォンッ!!!!

 

ミカは苛立ちの声をあげてネイトを追いかけようとトリガーを引きっぱなしでポンポン砲を振るう。

 

しかし、『パワーアーマーシャーシType.BBINAH』に装着されたX-02の走行速度は時速130㎞にも上り…

 

(あぁもうッ!!!当たらない当たらない!!!)

 

ミカが照準に捉えるよりも早くネイトは走り抜けていき37㎜砲弾は彼の後方を通り過ぎていく。

 

「どうしたッ!!?トリニティ最強の一角の実力は…!!!」

 

そのままネイトはミカの背後まで駆け抜けたタイミングで…

 

「そんなものかッ!!?」

 

ズバォッ!!!

 

足下の土砂を巻き上げるほどのフットワークで方向転換しミカに迫る。

 

「あははッこれで当たりやすく…!」

 

ミカはそう言いながらポンポン砲を向けるも…

 

「遅いッ!!!」

 

「え…ッ!!?」

 

圧倒的速力ですでにネイトは彼女の間合いを殺し切り、

 

「フン!!!」

 

ゴガァンッ!!!」

 

「キャッ!?」

 

ポンポン砲の水冷ジャケットを踏みつけ地面にたたきつけ、

 

「喰らえっ!!!」

 

発射スイッチに指を掛けた状態でブロードサイダーをミカに向ける。

 

しかし、

 

「させないよッ!!!」

 

ドンッ!!!

 

ミカも負けじと左手を振るいブロードサイダーの側面に叩きつけ、

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

「チィッ!」

 

その砲口をずらし砲撃を回避する。

 

「だったら!」

 

すぐさまネイトは次の一手を打つ。

 

カシャン

 

「ッ!?」

 

空いた左手に『ウェスタン・リボルバー』を出現させミカに銃口を突き付け…

 

「もってけ、がらんどう!!!」

 

ズドドドドドドォンッ!!!

 

X-02のパワーアシストを活かし装填された.マグナム弾全弾を速射した。

 

熊をも仕留めうる.44マグナム弾、それもレジェンダリー効果により倍加し計12発が至近距離から叩き込まれた。

 

並のキヴォトス人ならば一回の射撃でも食らえば昏倒するほどの威力だ。

 

「………。」

 

シュ~…

 

速射によって発生した硝煙で視界が覆われ様子を窺うネイト。

 

しかし、すぐにその靄は晴れ…

 

パラパラ…

 

先端がつぶれ地面に落ちていく.44マグナム弾12発と

 

「…アハハッちょっと痛かったかな?」

 

そこには不敵な笑みを浮かべたミカがそこにいた。

 

少々肌に赤い斑点ができている程度で目に見えたダメージは認められない。

 

「何製だ、お前は…?!」

 

これにはさすがにネイトも少々面食らうも、

 

グワォ!

 

素早くウェスタン・リボルバーを収納し両手で持ってブロードサイダーを差し向けようとする。

 

対して、

 

「そろそろ離れて欲しい…!」

 

ミカもポンポン砲を両手で保持し直し、

 

「かなぁッ!!!」

 

グォン!

 

力いっぱい振り上げる。

 

200kg近いポンポン砲を1tを超えるX-02が踏みつけているというのに…

 

シュボォン!

 

「ぬぉッ!!?」

 

ネイトがまるでアドバルーンかのように宙高く打ち上げられた。

 

「空ならあなたの足の速さも関係ないでしょ!?」

 

ミカはそのまま宙に浮くネイトに向けポンポン砲を指向。

 

確かにX-02と言えどジェットパックでもなければ空中の移動など到底できない。

 

このままではポンポン砲が本来の『対空砲』として放たれてしまう。

 

しかし、

 

「足はなくても…!」

 

それで勝負を投げるネイトではない。

 

「これがあるんだよ!!!」

 

ミカが照準を終えるより一瞬早く宙に浮いたままネイトはブロードサイダーを構え…

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

明後日の方向に発砲。

 

ブロードサイダーの反動はパワーアーマーであっても踏ん張らなければ体勢を崩すほど強烈だ。

 

そんな兵器を踏ん張りがきかない空中で発砲すれば…

 

ドォウッ!!!

 

その反動を受け止めたネイトは発射方向と反対側に弾かれるように軌道を変更。

 

ボォンッ!!!!

 

「あぁもうっ!!!」

 

ポンポン砲が放たれる寸前でミカの照準から脱し、

 

ズガァンッ!!!!

 

「今度は俺の番だ!!!」

 

ズバォン!!!

 

その勢いで地面に着地後スプリントを発動。

 

「クッ!」

 

ミカが再び照準するよりも早く…

 

「ゼラァッッ!」

 

ドグォッ!!!

 

「がは…!?」

 

彼女の腹部に右前蹴りを叩きこみ、

 

バグゥオン!!!!

 

「~ッ!!?」

 

内蔵されたモジュール『爆発ベント』が作動し追い打ちをかけるように炸裂。

 

シュボォォッ!!!!

 

その二つがほぼ同時に叩きこまれ、三度ミカの体は木の葉のように吹き飛ばされた。

 

「クゥッ!!!」

 

しかし、そう何度も吹き飛ばされるミカではない。

 

ズザァッ!!!!

 

ダメージは受けつつも彼女は体勢を立て直し着地。

 

「ま、まだまだ…!」

 

臓腑が捩じくれる感覚を味わいながら向きなおろうとするミカだが、

 

「おまけだッ!!!」

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

「ッ!!?」

 

さらに追い打ちと言わんばかりにネイトがブロードサイダー内に装填された最後の一発を発射。

 

バガッシャァンッ!!!!

 

その砲弾はポンポン砲側面に装着されていたベルトリンクホルダーに着弾し…

 

ズババババババァンッ!!!!

 

砲弾内に内蔵されていた炸薬の黒色火薬が連鎖的に炸裂。

 

ミカの姿を黒色火薬から発生した白煙が包み込む。

 

至近距離で弾薬の爆発、普通なら勝負ありだろう。

 

「………。」

 

しかしネイトは一切油断せずにその白煙を見つめつつ…

 

ガッコン

 

ブロードサイダーの砲身を起こし砲弾を装填し始める。

 

その時、

 

シュボォンッ!!!!

 

「なッ!!?」

 

濛々と立ち込める白煙を突き破りポンポン砲がネイト目掛けて猛スピードで飛び出してきた。

 

ブロードサイダーを装填中のためとっさにスプリントを発動することはできない。

 

まともに食らえばX-02と言えど無事では済まない。

 

「クゥッ!」

 

ならばとネイトは装填を一発終えた段階で左手を解放し飛来するポンポン砲に向け…

 

カシャンッ!!!

 

タイミングを計りPip-Boyの収納機能を用いポンポン砲を消し去った。

 

が…

 

ズンッ!!!

 

「ぐあ…!?」

 

何しろ相手は200kgに迫る大物だ。

 

パワーアーマーを装備しているとはいえネイトに負荷がかからない容量を一発で超え全身にかなりの重量がのしかかる。

 

なんとか足に力を入れ態勢を保ち、

 

(早く…あのデカブツを外に…!)

 

ポンポン砲をPip-Boyから排出しようと操作しようとするネイト。

 

だが、

 

「…アハッ!やっぱり『魔法』には限界があるみたいだね♪」

 

「ちぃ…!」

 

嫌に快活な声が響き渡り…

 

「さっきのお返しをしてあげる!」

 

ドォウッ!!!

 

白煙を吹き飛ばすほどの神秘を溢れさせミカが姿を現した。

 

その手には新調した彼女本来の得物であるランチェスター短機関銃『Quis ut Deus』が握られており銃口がネイトを捉え…

 

「貴方はここで倒されるの。」

 

ズダダダダダンッ!!!ズダダダダダンッ!!!

 

蒼い尾を引く白い光弾が計10発放たれた。

 

(あれは…まずい!)

 

直感で理解するネイト。

 

あの攻撃には…今まで受けてきたどの生徒よりも膨大な量の神秘が込められている…と。

 

そして、

 

シュボボボ…ォン!!!

 

ミカの神秘を纏った銃撃はネイトの周辺に着弾。

 

とても9×19㎜弾だったとは思えないほどの爆発が発生し土煙でその巨体を覆い隠した。

 

さらに、

 

「まだまだ行くよぉ…!」

 

ゴォウッ!!!

 

ミカはさらにあらん限りの神秘を迸らせ…

 

「これはどうかな…?!」

 

シュドォッ!!!

 

その神秘は変質しかつてホシノに放った『流れ星』となってネイトがいた場所目掛け降り掛かり、

 

「これも返してあげ…るっ!!!」

 

シュボンッ!!!

 

その左手に持っていた『砲弾』をこれまた神秘を存分に込めて投げつけた。

 

先ほどのネイトの砲撃は確かにポンポン砲の継戦能力を奪うに至った。

 

だが…その砲弾は炸裂する寸前に再びミカによってキャッチされてしまっていたのだ。

 

(砲弾が装填されているのは一発…!どっちかに命中させられたとしても…!)

 

ミカはもうネイトに対し微塵の油断もしていない。

 

先ほどの攻撃でも…彼を仕留めきれない可能性は高い。

 

あのツルギの神秘を込めた攻撃が直撃してさらに重傷を負っていたとしてもネイトは倒れなかった。

 

だから、確実に仕留める攻撃を繰り出す。

 

(これで私の願いが…!)

 

勝利を確信し内心で沸き立つミカ。

 

だが…彼女は失念していた。

 

『油断』と『慢心』は…似て非なる者だということを。

 

ズドゥォォッンッ!!!!

 

鳴り響く砲声。

 

1ポンドの砲弾は飛翔し…

 

バッグアアアアアアアンッ!!!

 

ミカが降らせた流れ星と真正面で激突、空中で爆炎を噴き上げ互いに消滅した。

 

(でも、これで…!)

 

正直言ってあの流れ星を防ぐでも避けるでもなく『迎え撃った』ことには驚嘆するしかないが…これで万策尽きた。

 

ゴォウッ!!!

 

なおもネイトに迫るミカの投擲した砲弾。

 

生半可な一撃では撃破どころか起動もそらせない運動エネルギーの暴力が迫る。

 

…次の瞬間、

 

ドゴゴゴゴゴオオオオオオンッッッ!!!

 

「ッ!!?」

 

あの砲声ともウェスタン・リボルバーとも違う重厚さと鋭利さを兼ね備えた銃声が鳴り響き…

 

ズバゴォンッ!!!

 

「え…ッ!?」

 

道半ばで砲弾が爆発し、

 

ズババババガァッ!!!

 

「いぎぃやあああああ!!?」

 

ミカの体の複数個所で火花が伴わない『爆発』が巻き起こった。

 

それらの攻撃は…

 

ブシュゥッ!

 

.44マグナム弾を叩きこまれてもいも介さなかったミカの防御を食い破り右腕、左肩、左わき腹に右下腿部の皮膚がはじけ飛び血が噴き出す。

 

「あぁああああ痛いっ痛いよぉオオオオオ!!?」

 

味わったことのない激痛に思わず悲鳴を上げるミカ。

 

そして…

 

ズゥン…

 

重々しい足音と共に…

 

ズォ…

 

「クゥ…アホみたいな神秘を込めやがって…!」

 

苦悶の声を上げながらもその足でしっかりと立っているネイトが現れる。

 

見ると…X-02の装甲の数か所が煤けているではないか。

 

《だが…HPは87%…!その込め方と銃の腕がお粗末で助かった…!》

 

ネイトがミカの神秘が込められた銃弾を受けて無事なのはこれが原因だ。

 

確かにミカの神秘の量はネイトが今まであってきた生徒の中でも頭一つ抜けているだろう。

 

しかし…制御面で見ればそのランクは下から数えたほうが早い。

 

同じ水量の水でもホースの口の大きさで勢いが変わる、そんなイメージである。

 

ヒナやツルギは神秘の密度を上げ内部にまで届く勢いがある。

 

対してミカは…例えるならばバケツでドボドボと掛けてくるような印象。

 

つまり、水量自体はすごくてもその密度が薄いためX-02越しでも込められた神秘の割にそこまで重傷なダメージは負わなかった。

 

そして…

 

「なっなんなの、その銃!!?」

 

ミカは目を見開き叫ぶ。

 

ネイトの手に収まっていた『銃』。

 

それはミカにとっては異形としか言えない代物だった。

 

何より…サイズ感がおかしい。

 

先ほどのウェスタン・リボルバーも拳銃としては大型な部類なはずなのにX-02が持つとおもちゃのようなサイズ感になっていた。

 

というのに…その銃はまるでX-02に合わせてサイズアップしたかのような圧倒的なサイズだ。

 

「…フッフッフッ、アイツの言うこともあながち間違いじゃないな。」

 

そんなミカの姿を見てネイトはあの日のことを思い出したように笑う。

 

あの日…彼女はこう言っていた。

 

『あの正義実現委員会委員長すら倒しきれるだろう…!』と。

 

標的は違えど…ほぼ同格の相手に抜群の成果を示して見せた。

 

ならば…名乗らねばなるまい。

 

「純銅製テフロン加工No.12shot弾頭弾殻。」

 

チャッコンカチャン

 

ネイトは見せつけるようにエジェクションゲートを開き規格外の大きさの薬きょうを排莢し新たな弾丸を装填していく。

 

「耐圧特殊薬筒『K.A.M.Keter.Armor.Metal8』。」

 

チャッコンカチャン

 

絶好のチャンスだというのに痛みとその異様な光景にミカも動けずにいる。

 

「全長55cm、重量6500g…!」

 

チャッコンカチャン

 

徐々にネイトの口調にも熱がこもっていき…

 

「.600 N.E.セーフティスラッグ弾…ッ!」

 

チャッコンカチャン

 

「~ッ!!?それって?!」

 

明かされた弾薬の名前にミカも目を見開く。

 

あまたの銃弾が日々飛び交うキヴォトスであってもその弾薬の用途は限られる。

 

何せ…人ならざる巨獣を打倒すための弾丸なのだから。

 

そう、この銃は…

 

「『プファイファー・ツェリスカ』ッ!」

 

チャッコンカチャン

 

弾丸を装填し終え、

 

カシャン!

 

「パーフェクトだ、羽沼マコト!!!」

 

エジェクションゲートを閉じこの銃を送ってくれた人物…ゲヘナ学園万魔殿議長の名を高らかに叫んだ。

 

「~ッ!!!」

 

その名を聞いた途端、ミカの顔は怒りに染まる。

 

ゲヘナを攻め滅ぼすと豪語していた彼女の体に傷を刻み込んだ銃。

 

それがよりによってゲヘナの…それもそのトップが送った銃というではないか。

 

これほど…

 

「こぉのおおおおおおおおッ!!!」

 

ズダァンッ!!!

 

彼女の気位を傷付けられる銃はないだろう。

 

激昂したミカはネイト目掛け飛び掛かる。

 

ズドドドォンッ!!!

 

それに対し、ネイトは再び左手にウェスタン・リボルバーを出現させミカに発砲。

 

バシシシシシシィッ!!!

 

計6発の.44マグナム弾が着弾するも弾かれてしまいミカは止まらない。

 

しかし、

 

ドゴオオオオオオンッッッ!!!

 

今度は右手のプファイアー・ツェリスカを向け大音響の銃声を轟かせ発砲。

 

その一発が…

 

ドバガァッ!!!

 

「いぎぃやぁ!?」

 

再び右腕に着弾、セーフティスラッグの特性で弾頭そのものが爆散し更なる深手をミカに与える。

 

ドシャァッ!

 

「痛いッ痛いぃィぃィぃ!」

 

その衝撃と痛みで今度こそミカは地面に倒れ着弾箇所を抑えて藻掻く。

 

「さぁどうする?どうするんだ?お前が殺したがっている大人はここにいるぞ、がらんどう。」

 

対して、油断なくプファイアー・ツェリスカをミカに構えとっさの反撃に備えるネイト。

 

「よくもッ!よくも私をそんな銃でぇ!!!」

 

ミカは声を荒げるがダメージが抜け切っておらずなおも地面で藻掻いている。

 

「…いい機会だ。お前に聞きたいことがある。」

 

不意にできた戦いの合間にネイトはミカにそう声をかける。

 

「ふざけないでッ!!!貴方に話すことなんか…!」

 

ミカは痛みと苛立ちに声を荒げるが…

 

「お前は俺を殺しゲヘナに攻め込みたいんだろ?」

 

ネイトは構わずミカの計画に関する話を続け…

 

「それで…お前は何をやりたいんだ?」

 

「はぁッ!?」

 

心底疑問と思っている様子でそう尋ねた。

 

「な、何言って…!?」

 

「ゲヘナと戦争をする、それはいいだろう。…で、お前は一体何のためにゲヘナに戦争を仕掛けるんだ?」

 

改めてゲヘナとの開戦の目的を問われ…

 

「それは…ッ!」

 

ミカは声を荒げて答えようとする。

 

だが…

 

「そっ…それ…は…!」

 

その勢いは徐々になくなっていき…

 

「それ…は…。」

 

最後には俯きネイトの質問に答えることができなくなった。

 

「…フン、やはりな。そんなことだろうと思った。」

 

そんなミカを見てネイトはそう呟く。

 

「だから、お前は『がらんどう』なんだ。」

 

「それが何だっていうの!?貴方やアビドスだってカイザーを叩き潰したくせに!!!」

 

そんなネイトにミカは反論するが…

 

「俺達はアビドスの防衛と自治権の奪還という『戦略目標』をちゃんと定めていた。」

 

それによどみなく反論する。

 

「それで…お前はどうだ?ゲヘナを叩き潰したあと…なにをするつもりだ?」

 

「ぐッ…!そ、そんなのゲヘナを倒してから考えれば…!」

 

「どこまで『倒す』んだ?」

 

「は…はぁ…!?」

 

続けざまの質問の意味が分からず呆けた声を上げるミカだが…

 

「万魔殿までか?風紀委員までか?それとも…ゲヘナの自治区にいる一般市民や初等部やそれより下の子供までも血祭りにあげるのか?」

 

「~ッ!!?」

 

ネイトのその言葉に喉が詰まる。

 

「戦略目標がなくただゲヘナを叩き潰したい。つまり…それは『絶滅戦争』をするということに他ならない。」

 

「チッ違…っ!!!」

 

「いいや、違わない。そうしなければ…お前は『何者』でもなくなってしまう、それが只…嫌なだけなんだろ?」

 

「…ッ!!?」

 

「そのためにお前はトリニティの何もかもをひっくり返して叩き売ったんだろ?」

 

反論したいはずなのに、拒否したいはずなのに…

 

「………ッ!!!」

 

ミカは口をパクパクと動かすだけで言葉が出てこない。

 

「そうしなければ一歩も前に進めないんだろ?進む方向も歩き方も知らないんだ。ただ…『いらなくなる』のが怖いから。『なにも成し遂げられない』のが嫌だから。」

 

そんな彼女を見下ろしネイトは言葉を紡ぎ…

 

「ふざけるな?ふざけているのはお前の方だ、がらんどう。」

 

ガチリッ

 

プファイアー・ツェリスカの撃鉄を起こし、

 

「先生はお前のことを『共同経営の牧場の経営者』と言ってたが…俺から言わせればそんな上等な存在じゃない。」

 

今一度彼女に狙いを定め・・・・

 

「お前は『ケダモノ』だ。『肉』の味を知っていきっているただの『羊』だ。アリウスのような『狼』よりもおぞまし…駆除以外選択肢の無いどうしようもない存在だ。」

 

ミカをまるで汚物を見るような目つきになり…

 

「さぁかかって来い、がらんどう。」

 

吐き捨てるようにそう言ってのけた。

 

「…るさい…。」

 

もう弾ける物なんかない、そうミカは思っていた

 

「うるさい…!」

 

誰も自分を理解していない、そうも持っていた。

 

「うるさい!」

 

だが、違った。

 

何も語らずそこまで触れ合ってないのに…自分を理解ってくれる人はいた。

 

それも寄りにもよって…

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」

 

自分がもっとも嫌いになった大人が…だ。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ!!!!!」

 

もう体の痛みなど関係ない。

 

「うるさあああああああああいッ!!!!!」

 

ドォウッ!!!

 

ミカは叫びながら立ち上がり先ほどよりも膨大な神秘を溢れさせ…

 

「私はもうっ行くとこまで行くしかないの!!!」

 

「………。」

 

「その邪魔はさせないッ!!!たとえそれが何であっても!!!たとえそれがっ誰であっても!!!」

 

目から涙を溢れさせながら己の決意を叫ぶ。

 

キヴォトスに生きる者ならミカの規格外の神秘に恐れ戦くだろう。

 

その出力だけで見るなら…キヴォトスでも並ぶ者はいないはずだ。

 

だが…

 

「…まるで天の川だな。」

 

そんな彼女をネイトは冷静に眺め…

 

(見た目だけ一丁前の粗悪な汚濁の造花…か。)

 

かつての夢の茶会で狂乱の王子から聞かされたそんな言葉を思い出した。

 

見かけは綺麗だ。

 

それに神秘も決して紛いものではない。

 

だが…ミカのあの表情、狂気に染まっているように見えるが…

 

「やはり…がらんどうだな。」

 

ネイトにはどこまでも空虚なものに思えた。

 

ならば…

 

「『本物』を見せてやろう。」

 

カシャン

 

ネイトはその手にある物を取り出した。

 

それは…左上半分がごっそり欠けた狐の面だった。

 

「そう言えば…これに関してはお前に礼を言うべきだったな。」

 

カポッ

 

その狐の面をX-02のヘルムの上から被り…

 

「お前のおかげで踏み出せた一歩だ。とくと堪能するといい。」

 

ネイトがそう呟いた…次の瞬間だった。

 

ドォウッ!!!

 

「…え?」

 

ミカのそれを圧倒するほどの禍々しい赤黒い神秘を迸らせた。

 

「…なるほど、これがアイツの…。」

 

ネイトは迸るそれをまじまじと見つめる中…

 

「なっ…何…なの…!?」

 

驚愕に顔を染めミカは固まる。

 

目の前の大人からは今の今まで神秘など欠片も感じなかった。

 

どれほど強かろうが…それは不変の事実のはずだった。

 

それがどうだ?

 

今…その大人は自分にまけないほどの神秘を迸らせているではないか。

 

それも…

 

「ッ…!」

 

思わず後退りたくなるような禍々しく濃度の高い神秘を。

 

「…だから…!」

 

そんな自分に喝を入れるように…

 

「なんだっていうの!!?」

 

ドォ!!!

 

地面を爆ぜさせネイト目掛け突撃を行う。

 

(そう言えば…あの時は試せてなかったな。)

 

それに対し、ネイトは…

 

ギュンッ!!!

 

左手のウェスタン・リボルバーに自身から溢れる神秘を込め…

 

ズドドドォンッ!!!

 

リボルバー内に残っていた3発の.44マグナム弾をミカ目掛け速射。

 

ツーショットの効果で倍加した6発がミカに殺到する…が、

 

バシシシシシシィッ!!!

 

彼女の頑丈さは健在。

 

目立ったダメージは与えられない。

 

だが、これでいい。

 

なぜなら…

 

ヴォンッ!!!

 

ミカの頭上に煌々と輝く桜紋は出現。

 

00:10

 

「その動きは…もう見飽きた。」

 

ジィッ

 

Pi

 

ネイトはV.A.T.S.を起動、近接モードでミカに照準を定め、

 

シュンッ!

 

「シィッ!!!」

 

ベキィッ!!!

 

「ぐギィッ!?」

 

鋭いアッパーカットを叩きこむ。

 

00:09

 

グワォ!

 

不意の顎への衝撃。

 

格闘のノウハウなどないミカはそれをもろに食らい顎を挙げて打ち上げられる。

 

そこへ…

 

ジャキッ

 

彼女のバイタルゾーンにそれが差し向けられる。

 

00:08

 

桜紋の花弁が一枚消える。

 

ネイトはミカ目掛け右手のプファイアー・ツェリスカを構え…

 

ドゴゴオッッッ!!!

 

00:07

 

ゴゴオオオオンッッッ!!!

 

「ぐふぅっ!!?」

 

ファニングショットで残弾4発を全て叩き込む。

 

00:06

 

二枚目の花弁が散った。

 

「ああああああああああッ!!!」

 

ゴォウッ!!!

 

引き裂くような悲鳴を上げミカはダブルスレッジハンマー*1を振り下ろす。

 

だが…

 

コッ

 

シュボッ

 

「~ッ!!?」

 

ネイトはそれを『拂手ファクサオ』を駆使し軌道をそらせ空ぶらせ…

 

カシャシャン

 

両手に持っていた得物をしまい…再びブロードサイダーを取り出す。

 

00:05

 

ズドォ!

 

「カハッ?!」

 

「これなら当たる。」

 

その砲口をバッシュでミカの土手っ腹に押し付け…

 

00:04

 

三枚目の花弁が散ったと同時に、

 

ズドドドゥォォッンッ!!!!

 

ブロードサイダーに再装填されていた三発の砲弾がミカに打ち込まれ、

 

00:03

 

シュボォォッ!!!!

 

砲弾を三発抱えたままミカは後方に弾き飛ばされる。

 

「トドメ…!」

 

カシャシャン

 

そう言い、ネイトはブロードサイダーを収納しそれを出現させた。

 

00:02

 

花弁は…残り一枚となった。

 

ズォ…

 

プファイアー・ツェリスカよりも煌びやか装飾が施されX-02の身に長けに迫るほどの巨体。

 

「やっと身軽になれた…!」

 

『QF 1ポンド・ポンポン砲』、ミカが投げつけてきたものがまだPip-Boy内に収納されていたのだ。

 

ミカがこれをネイトに投げつけてきたのは単純な理由。

 

『ベルトリンクホルダーが破壊されたし露出していた部分も吹き飛んだからもう撃てない』と。

 

一見すればなにも間違いない思考だが…ここにミカの愛銃が影響を与えていた。

 

ランチェスター短機関銃、古い設計のサブマシンガンでその機構は『オープン・ボルト撃発』。

 

細かい説明は省くが…この手の機構の銃はコッキングしてもマガジンが抜かれると薬室に弾が入っていないので発射できない。

 

対する、『QF 1ポンド・ポンポン砲』…もといその原型の『マキシム機関銃』。

 

機関銃の元祖ということでこちらもランチェスター短機関銃と同じ…ミカはそう勘違いしてしまっていた。

 

マキシム機関銃…これに派生する最初期の機関銃は『クローズドボルト方式』である。

 

ざっくり説明すれば…コッキングした段階で薬室に弾丸が装填されておりマガジンを抜いても一発は撃てる。

 

つまり…ミカが撃てないと判断したこのポンポン砲は…

 

00:01

 

Pi

 

ズバァンッ!

 

(最後のクリティカル…持っていけ…!)

 

ボォンッ!!!!

 

ネイトが保持できる最後の5度目のクリティカルを発動し…ポンポン砲を発射した。

 

ガゴォン!!!

 

ミカの腹にめり込んでいた砲弾の隙間を縫うように着弾。

 

ドォッ!!!!

 

37㎜砲弾の炸薬の黒色火薬が炸裂し…

 

カッ!!!

 

その衝撃が周囲の砲弾にも伝播し誘爆が発生。

 

Perk『Demolition Expert』…発動。

 

ドガァオオオオオンッ!!!!

 

爆発力倍加に加え砲弾三発がまとめて吹き飛び…

 

00:00

 

全ての花弁が散った。

 

瞬間、

 

ズバゴォンッ!!!

 

ミカの体に今日一番の衝撃が駆け抜けた。

 

そう、あの仮面はかつて七囚人『狐坂ワカモ』と戦った際の戦利品だ。

 

そして、今の技は…

 

「…一発でEMVが空っけつ、か。やはり多用はできないな。」

 

彼女の奥義『深紅の花占い』である。

 

まさかうまくいくとは思っていなかったが…結果はまだ20%近くあったEMVがすべて消費しきりあれほど迸っていた神秘はかけらも感じなくなっていた。

 

おそらく…ネルの鎖を用いてやってもこの事態は変わらなかっただろう。

 

しかし、効果はかつてその身に受けたものとなんら遜色はない。

 

「………。」

 

ガシャン!

 

ネイトはポンポン砲を投げ捨て彼女の元に向った。

 

シュ~…

 

「………ゲホッゴホッ…!」

 

グラウンドに刻まれたクレーターの中、しばしの失神の後…ミカは目覚めていた。

 

「…あぁ…そっかぁ…。」

 

全身痛くない場所はなく服もボロボロでもう指の一本も動かせない。

 

「…どうして…?」

 

不思議と先ほどまでの激情は引っ込み冷静になったミカは思いをはせる。

 

「何を…見誤っちゃったのかなぁ…。」

 

どうしてこんなことになったのか?

 

「………ハナコちゃんを…見くびったから…?」

 

浦和ハナコ、たしかにこのトリニティであっても規格外と呼べる存在だ。

 

だが、その牙はいつの間にか消えて計画に影響を及ぼさない変数と言えるほどまでに無害なものになっていた。

 

「………アズサちゃんが…裏切ったから…?」

 

白洲アズサ、自分が招き入れた精鋭の狼だ。

 

だが…彼女は所詮操り人形。

 

どう転ぼうと…ミカが望む結果には何の影響もなかった。

 

「………あの二人も…違う…。」

 

ヒフミも普通の生徒でコハルも少々オツムが残念な一般的な生徒だ。

 

変数、なんて呼べる存在ではない。

 

クイーンもルークもビショップもナイトも…自分の前ではなんの意味をなさない駒だったはず。

 

「………それなのに…どうして負けるかなぁ…。」

 

だが、結果はどうだ?

 

自分の大勝負は見事に大敗。

 

「………どこで…ずれちゃったんだろ…。」

 

チェスの盤面さながらに…チェックメイトを差されてしまったではないか。

 

そこへ…

 

ズゥン

 

「………アハハ…そう言えば…。」

 

重々しい足音が聞こえ首だけ動かし視線を向けると…

 

「一番…大切な駒を二つ…忘れちゃってた…。」

 

その敗因の一つともいえる存在、

、

「………。」

 

ネイトがそこにいて自分を見下ろしていた。

 

チェスの駒で最も大切なのは?

 

「………シャーレの…先生…。一番大きい変数を見てたのに…忘れちゃってたなぁ…。」

 

『先生』、彼はまさにこの戦いにおける『キング』だった。

 

「………ナギちゃんが騒ぐから…仕方ないなぁ…って…。ちょうどよさそう…って思って『シャーレ』に連絡して…。」

 

彼の力は自分が用意した計画を無に帰すほどのものだった。

 

彼を抑えれば勝負は決まったようなものだと思っていたがそんな彼も駒の一つ。

 

自ら動きこの盤面をひっくり返すほどの変数となった。

 

だが、ミカはもう一つ気付く。

 

『キング』は勝敗を決める重要な駒だ。

 

だが…もう一つ、そんなキングを抑えチェスにおいて『魂』と呼ばれる駒がある。

 

「………ポーン…。」

 

ポーン、チェスの盤面では最弱の駒だ。

 

「………忘れ…ちゃってたなぁ…。ポーンは…あっという間に変わる…ってこと…。」

 

だが…ポーンの真価は『プロモーション』、敵陣深く切り込めば…キング以外のどんな駒にだってなれることにある。

 

縦横無尽に盤面を駆ける最強の『クイーン』、突撃で敵を蹴散らす攻守に優れた『ルーク』、想定外の方向からの奇襲を得意とする『ビショップ』、トリッキーな動きで敵を翻弄する『ナイト』。

 

「………アハハ…そっかぁ…。貴方を…巻き込んだ時点で…。」

 

ストン、と腑に落ちた。

 

誰よりも弱いのに…誰よりも強くなれる駒。

 

そんな駒を相手にして…勝てるわけがない。

 

「………あぁ~あ…ダメだなぁ、私…。」

 

そんなことにこんな状況になってようやく気付けた。

 

「はぁ…。」

 

不思議と…あれほどまでネイトに抱いていた憎悪は消えていた。

 

それでも…

 

「………ねぇ…終わらせてよ…。」

 

けじめはつけなければならない。

 

「………そうだよ…。私は…『殺し』を知ってしまった…ただのバカな『生徒』…。貴方も…殺そうとしちゃった…。」

 

自分の身勝手で同僚の命を奪い…理不尽な計画で彼をも殺そうとした。

 

到底…許されるわけがない。

 

「………貴方なら…ちょっと悔しいけど…いいよ…。」

 

そう言い、ミカは微笑み…

 

「………さぁ…空っぽの私を…砕いて…?」

 

ネイトにそう求めてきた。

 

「………。」

 

チャキッ

 

そんなミカの願いにネイトは黙ったままプファイアー・ツェリスカを構える。

 

狙いはミカの眉間。

 

身体のダメージも深刻な上神秘も尽きかけている。

 

おそらくは…。

 

「………ごめんね、セイアちゃん…ネイトさん…。」

 

それはミカも分かっておりポツリと呟き…

 

グッ

 

撃鉄が落とされようとした…その時、

 

「ダメだッネイトさん!!!」

 

「………え…?」

 

周囲に響き渡った大人の声。

 

「…やっと来たか。」

 

それが聞こえた途端、ネイトも肩の力を抜き銃口をそらした。

 

そして、

 

ズザァッ!

 

「ネイトさん…!こ、これ以上は…!」

 

「………せ…先生…?」

 

先生が割って入り自らを盾にするように立ち塞がった。

 

「あ…貴方の気持ちも…分かります…!」

 

「おい、先生。落ち着け。」

 

既に銃は向けていないのだがネイトの声もむなしく先生は止まらない。

 

「こっ…この子が身勝手な理由で貴方を殺そうとしたことに憤る気持ちは理解します…!」

 

「聞けって。もうやる気はない。」

 

「でッ…でも…わっ私は先生なんです…!こっ…これ以上、この子を傷付ける事は…!」

 

「お~い、馬鹿弟子~?ブロードサイダーの砲声で耳やられたのか~?」

 

ネイトの前に立つ緊張感と先生としての職責がごちゃ混ぜとなって今の彼にはネイトの声が届かない。

 

「お…お願いします…!わっ私にできることなら彼女の責任を請け負い…!」

 

こうなってはらちが明かない。

 

「少しは俺の話を聞けッ!!!」

 

ゴチンッ!

 

「へぶぅ!!?」

 

ネイトは彼の頭上に軽ーく拳骨を落とし話を打ち切らせ…

 

「イツツ~…!」

 

「…安心しろ。俺はもうやる気はない。」

 

「ほッ…本当ですかぁ…?!」

 

「勝負が決まったのに無駄撃ちするほど俺は浪費家じゃないんでな。」

 

そう肩をすくめながらもう手出ししないと答えるネイト。

 

さらにそこへ…

 

「ミカさん…。」

 

ハナコも近づいてきた。

 

「………アハハッ…ハナコちゃん…。私を笑いに来たの…。セイアちゃんを…殺したのに…けじめもつけてもらえない…私を…。」

 

そう自嘲気味に返すミカだったが…

 

「………セイアちゃんは無事です。」

 

「………え…?!」

 

ハナコのその一言でその目が見開かれた。

 

「ずっと…偽装していたんです。襲撃の犯人が見つからなかったので…セイアちゃんの安全のためにトリニティの外で…身を隠して治療を受けています。」

 

正直言ってハナコの嘘かもしれない。

 

そんな都合のいい話が…あるわけがない。

 

だが…

 

「セイアちゃん…無事…なの…?」

 

ミカは縋るような表情でそう尋ねる。

 

「はい。傷はまだ完治していなくて意識も戻っていませんが…ミネ団長が治療を続け今もすぐそばで護衛をしてくれています。」

 

「ミネ…団長が…?」

 

「はい。救護騎士団の業務以外の時はずっと付きっ切りで…。そして、あの時セイアちゃんを助けてくれたのは…。」

 

とハナコはセイアを助けた功労者の名を明かそうとするが…

 

「…いえ、これは御本人の口から聞いた方がいいでしょう。」

 

ちょっとした悪戯心とそれを語る資格が自分にない事に気付き秘密にすることにした。

 

「…そっか。生きてたんだ…。」

 

それを聞き、

 

「………よかったぁ…。」

 

ミカの目から一筋の涙があふれた。

 

「………ふん、やっぱりな…。」

 

「何がやっぱり何ですか、師匠?」

 

「お前はずっと知らなくていい事さ、馬鹿弟子。」

 

そんな様子を見てネイトと先生はこんな会話を交わしていたという。

 

そして、ちょうどその頃…

 

「ハスミ先輩!周囲の武装勢力は鎮圧したとのことです!!!」

 

「分かりました!」

 

ナギサによって待機状態が解かれた正義実現委員会。

 

いの一番に向ったのはずっと爆発音と銃声が鳴り響き続けていたトリニティの街中にある一際高い時計塔だ。

 

「これより、カレンさんの保護に向います!総員、私に続いてください!!!」

 

その時計塔目掛けハスミは駆けだす。

 

ナギサからの伝達では…この時計塔ではカレンが陣取り狙撃支援を行っているとのこと。

 

その周囲には約一個中隊の戦力が確認されている。

 

個人個人の戦力は正義実現委員会の一般隊員とほぼ互角な部隊が一個中隊。

 

そんな軍勢相手に…カレンは一人で応戦していたのだ。

 

「はぁッ…はぁッ…はぁッ…!」

 

同じ狙撃手として…それがいかに無謀なことか、彼女は分かっていた。

 

ハスミは時計塔内に入り中にある階段を駆け上る。

 

「カレンさん…!」

 

交わした言葉こそ少ないが…二人は通じ合うものもあって親しい間柄となれた。

 

そんな友が傷付いている…それがハスミには耐えきれなかった。

 

息も絶え絶えになりながらハスミは階段を駆け上り…

 

バァン!

 

「カレンさん!」

 

時計塔最上階の扉を蹴破り突入した。

 

だが…

 

「え…?」

 

そこに広がっていた光景は彼女の想像を超えていた。

 

床一面に散らばった瓦礫と300WM弾の薬きょう。

 

その中で…

 

「……あ、ハスミさん。」

 

柱の陰で湯気が昇るシェラカップを持っていたカレンがいた。

 

「か…カレンさん…?」

 

周囲の状況とのミスマッチさに一瞬フリーズするが…

 

「けっ怪我はありませんか!?」

 

すぐさま容態を確かめると…

 

「……はい、ちょっと瓦礫が当たったりしたけど…私は元気です。」

 

なんとこの状況で彼女はほぼ無傷だった。

 

「……皆さんが来るのが見えて…少し休憩してました。」

 

「………はぁ~…。」

 

いつもと変わりないカレンの朴訥とした答えにハスミは力が抜けへたり込む。

 

「…無事で良かったです、カレンさん…。」

 

「……ハスミさんも飲みます?」

 

「お気持ちだけ受け取っておきます。私はこれから合宿所の方に…。」

 

と、カレンの無事も確かめることができ次の現場に無開こうとするハスミ。

 

すると…

 

《は、ハスミ先輩…!今大丈夫ですか…!?》

 

「ッと、はいどうかしましたか?」

 

何やら緊張した声音で通信が入ってきた。

 

《時計塔周辺の捜索を終了…!武装勢力の拘束も完了しましたが…!》

 

「何か問題でも…?」

 

特段変わったところのない報告にハスミは首を傾げる

 

だが…

 

《…武装勢力のおよそ4分の3がすでに意識を失ってました…!》

 

「………え?」

 

続く報告に言葉を失う。

 

一個中隊、およそ百人としてその大半が気絶。

 

《気絶していた子全員が眉間やバイタルパートを一撃で撃たれてます…!》

 

「い…一発で…?!」

 

《一一体何があったんですか…!?》

 

無線の向こうの正義実現委員会の隊員が絶句するのも無理はない。

 

そんなこと…ハスミ自身ですらできるかどうか。

 

「………。」

 

ハスミは気付かれないように背後を見る。

 

「……ネイトさんやシホちゃん、大丈夫かなぁ。」

 

それを成し遂げた少女、カレンは外を眺めながらそう呟いていた。

 

(カレンさん…。貴方は一体…。)

 

底知れない彼女の実力にハスミはそう思うしかできなかった。

 

「……あ、朝日…。」

 

そんなハスミの想いと裏腹に太陽が顔を覗かせトリニティの街を照らしていく。

 

こうして…トリニティの命運を分けた一夜の決戦は幕を閉じるのであった。

*1:
両手を合わせての鉄鎚打ち




チェス盤の上では、嘘と偽善は長くは続かない。創造的なコンビネーションは嘘の思い上がりを露呈させ、チェックメイトに至る容赦ない事実は偽善者を打ち負かす。
―――数学者『エマニュエル・ラスカー』
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