―――旧約聖書及びソビエト初代最高指導者『ウラジーミル・レーニン』
「なんと言うか…こんな北の地でもお前と顔を合わせるとはな、先生…。」
「いやはや全く…奇妙な縁のめぐりあわせとしか言えませんね、師匠…。」
ほんの少し前にトリニティで大立ち回りを演じたネイトと先生。
役職も本拠地も違い、顔を合わせないときはとんと合わせないが…
「それで…どうして先生はレッドウィンターにいらっしゃったんですか?」
「チェリノにイワン・クパーラに招待されてね。今まで関わりがなかった学校で大きな予定もなかったから顔を覚えてもらうついでに招待に応じたんだよ、アヤネ。」
変に噛みあうときはとことん噛みあうものだ。
ちなみに先生本人はネイトがレッドウィンターに訪れる予定であることはナギサとのお茶会の際に把握はしていた。
まさかここでタイミングが被るとは思ってもなかったが。
「シャーレらしいお仕事ね、先生。」
「生徒あっての私だからね。」
「まぁ理由は分かった。…で、だ。」
互いに事情の説明を終え…四人の視線は一か所に注がれる。
「なんだ、それは!?おいらにも寄越せ!!!検閲だ、検閲ッ!!!」
「い~や~で~す~!貴方みたいなチビには絶対にあげませ~ん!」
「なんだと、エロガキ!?書記長であるおいらになんて口の利き方を!!?」
「クーデターで逃げてきたくせにもう書記長じゃないでしょ?!」
そこにはノドカが高く掲げたチョコを奪おうと必死に背伸びして藻掻くレッドウィンター事務局のトップであるはずの人物『連河チェリノ』がいた。
ノドカも結構小柄な部類だがそれ以上の…最早幼稚園児クラスのチェリノではどうやっても届かないが一向に諦める様子もない。
「全く…いきなり転がり込んできて騒がしいな。」
「申し訳ありません、カイア委員長。」
「どうする、姉ちゃん?一発ゲンコいれて静かにさせるか?」
「サイナがやったら…確実に凹む…やめて。」
「アハハッそりゃ大変だねぇ。」
その様子を見世物のように見つめる227号特別クラスの面々とチェリノの側近である『佐城トモエ』。
「…すまないがもう一度何があったか説明してくれるか、先生?」
「分かりました。」
一気に騒がしくなった旧校舎の片隅で先生がこれまでの顛末を語り始める。
「まずは…チェリノとトモエに…マリナっていう生徒と一緒にいろんなところを視察していたんです。」
イワン・クパーラの催しもののために各部署を先生と共にめぐっていたチェリノとトモエ、そしてマリナ達。
まぁ…チェリノの理不尽な命令やら我儘などで多くの生徒が粛清にあったことはここでは割愛させてもらおう。
そして…
「視察も一通り終わってチェリノも疲れたので休憩しようと私も用意された休憩室で休んでいた時に…クーデターが起こったんです。」
「………待ってくれ、先生。」
「え?」
「なんでいきなりクーデターが起きるんですか…?!」
色々段階をすっ飛ばしているとしか思えない騒動の幕が上がった。
「もっとこう…なんかあるだろ、クーデターが起こるなら…!」
何分、トリニティをひっくり返しかねないクーデターを経験した身だ。
こんなカジュアルにクーデターが起こるなど誰が想像できる?
いや、レッドウィンターのクーデターは最早日常茶飯事なのは知っている。
それでもここまで脈絡もなにもなく起こるとは正直予想外だ。
しかも…
「ま、まぁ仰ることは分かりますが…クーデターの首謀者はマリナで…。」
「………ちょっと待て、色々待て…!?」
「なんで一緒に視察してた奴がクーデターなんか起こしてるのよ!?」
そのクーデターを起こしたのが他ならぬレッドウィンター保安委員長にしてチェリノの片腕のマリナ本人というではないか。
「あのバカコミー、一体何を思ってそんなことを…!?」
これには海千山千のネイトも頭を捻っても答えが全く出てこない。
「あ…あの…続けても…?」
「…スゥ~…フゥ~…!よし、続けてくれ。」
少し眉間を抑え続きを促すが…
「それで身を隠すためチェリノとトモエと一緒に事務局を脱出してここを目指してきた…って感じです。」
「…え、終わり?」
「え?」
これまたあっさりと話が終わってしまった。
「え、じゃなくて…もっとこう…今後の展望とかないのか…?」
流石にこのあとどうするかくらいのことは考えているかと一縷の望みをかけて尋ねるも…
「そ…その…はい…。」
先生自身も状況を飲みこみきれていないのか力なく返す。
「………どうなってんのよ、ここ。」
そんな溢れたように呟かれたセリカの言葉がネイトとアヤネの心情を的確に述べていた。
「…どうします、ネイトさん?」
しかし、いつまでも呆けてはいられない。
「…227号特別クラスの面々には悪いが一端帰ったほうがいいかもな。」
クーデターという政情不安定の極みに排斥された元指導者たるチェリノがここにいるという厄介事の抱き合わせだ。
一応、柊姉妹との約束は果たせているので情勢が落ち着くまでアビドスに戻りまた訪問するのが安牌だろう。
それにそちらのほうが資材などを持ってくれるので結果的に227号特別クラスの為になる。
「そうね。落ち着いたらまた来ればいいんだし。」
「ここで永遠にお別れってことでもないですもんね。」
セリカとアヤネもそんなネイトの案に賛成し、
「私もそのほうがいいかと。安全やネイトさん達とレッドウィンターの騒動は無関係ですから。」
先生も帰ろうとするネイトたちを引き留めることなくむしろ促してくれた。
「よし、それじゃカイアにそう伝えて…」
ならばということでネイトが立ち上がろうとした、その時だ。
「失礼します。先生にアビドスの皆さん。」
「トモエ?どうかしたかい?」
チェリノを眺めていたはずのトモエがいつの間にか先生の背後に控えていた。
「…何か用か?」
「お話に割り込んでしまい申し訳ありません。少々内容が聞こえたもので…。」
「だったら話が早い。俺たちはもう帰るからあとはそっちで頑ば…。」
正直、トモエにもチェリノやマリなほどではないがいい印象を覚えているわけではないネイト。
レッドウィンターの問題に関わる気はないと伝えさっさと退散しようとするが…
「その…今、レッドウィンターから航空機で自治区外に出ようとするのは正直お勧めできません。」
「…は?」
申し訳なさそうに語る彼女の言葉にその動きが止まった。
「ちょっとそれってどういうことよ?」
「ご説明します。今回のクーデターの首謀者は我々の同胞である池倉マリナという生徒です。」
「それが一体アビドスに帰るのを引き留めることに関係があるんですか?」
クーデターが日常となっているレッドウィンターでなぜマリナが首謀者ということに特に何も普段との違いを見いだせない3人。
しかし、
「彼女はレッドウィンターの治安維持を任じられた『保安委員会委員長』でもあります。」
「…ッ!まさか…?!」
改めてマリナの役職を聞かされネイトもようやく普段のクーデターとの決定的な違いに気づいた。
セリカとアヤネも察しがついたらしい。
「普段のクーデターならばチェリノちゃんが部隊を動かせば制圧は難しくはありません。ですが…」
「その部隊丸々をそのマリナって生徒が握っちゃってるってこと…?!」
そう、D.U.では大馬鹿っぷりを晒したマリナだがレッドウィンターの戦力を任せられる『保安委員会委員長』という役職なのだ。
しかも、あのチェリノをしてその役職を任せられているあたり能力自体は決して馬鹿にはできない。
レッドウィンター連邦学園の軍備は決して侮れるものではない。
今やその全てがマリナの手中に収められていると言っても過言ではないのだ。
「おそらく…。そして、マリナ委員長はチェリノちゃんの逃亡しうる手段を見逃すはずはありません。」
「そんな時に私たちがベルチバードでアビドスに帰ろうとすれば…?!」
「…『レッドウィンター連邦空軍』がすぐに駆けつけるでしょう。」
そんな彼女がこんなタイミングで自治区外に向け飛び立つ存在に目を光らせていないはずがない。
「この学校の主力機体は…?」
「はい、ネイト様。当校の主力機体は『Mig-21PFM』、全天候型ジェット戦闘機で機体下部にガンポッドを搭載できるよう改修を受けた機体です。」
「フィッシュベッドか…。これまた厄介な戦闘機が…。」
「Mig-15の進化系…軽快さでいえばF-20Eにやや劣る程度の高機動機ですね…!」
当然、相手になるのはレッドウィンターの戦闘機だ。
『Mig-21PFM』、ネイトの世界では超音速機としては規格外の製造数を誇るベストセラー機だ。
F-20Eと比べれば当然性能こそ劣るもののベルチバードが敵う相手ではない。
「それでもレーダーを掻い潜るくらい低空で飛べば…!」
セリカのアイデアも確かに有効だ。
現にトリニティではさらに快速のライトニングからも照明弾の支援がなければ逃げ果せられたであろう策だが…
「地上レーダー以上にこの気候が脅威だ。リスクが高すぎる。」
「トリニティの時のようにはいかないでしょうね…。」
レッドウィンターの荒れた気候では下手に低空飛行すれば墜落のリスクも付きまとう。
つまり…
「じゃあ何…!?私達が安全にアビドスに帰るには…!」
「このクーデターを終わらせて空路の安全を確保する以外ないですね…。」
「現状、それが最も確実な方法になります。」
最低でもマリナをレッドウィンターのトップから引きずり下ろすことが必須なのだ。
しかも、
「…で、その後釜に据える人物も…。」
「ウェエエエエエン!!!おいらにもちょっとくれてもいいじゃないかぁ~!!!」
「ちょッ泣かないでくださいよ!?私が悪いみたいじゃないですか!!?」
こちらには元ではあるが書記長のチェリノもいる。
そして…
「…貴方方にこのようなことをお頼みするのは筋違いも重々承知です。」
トモエは居住まいを正し、
「ですが…図らずも我々の利害は一致しております、ネイト様にアビドスの皆さん。」
「…言いたいことがあるならはっきり言え。」
「では率直に。…どうか書記長の復帰に手を貸してはもらえないでしょうか?」
ネイト達にチェリノの復権、つまり…
「クーデターに私達も手を貸せってこと…?!」
「いくらなんでもそれは…?!」
マリナへのクーデターの協力を求めてきたのだ。
「トモエ、それはいくらなんでも…。」
「全くもって面倒な…!」
これには先生も苦言を呈しネイトも判断に悩んでいると…
「なんだか難しい話してるようだな、アンタ等。」
「なになにぃ~私達も混ぜてぇ~。」
ノドカとチェリノの見物に飽きたかカイアとシグレが話の輪に加わってきた。
「いや何…俺達が帰るには…。」
隠し立てすることでもなくネイトはこれまでの話のあらましを説明。
「…そりゃなんとも災難だな、дядя。」
これにはカイアも同情しネイトの肩を軽く叩き、
「まぁまぁこれでも飲んで元気出してぇ。私が漬けた『カンポット』だよぉ。」
シグレはどこからか取り出したビンからショットグラスに中身を注ぎネイト達に差し出した。
「『カンポット』?」
「果物の砂糖漬けだよぉ。去年の秋に漬けてたんだぁ。」
「果汁ジュースのような物ですか。ありがとうございます。」
「頂かせてもらうわ。」
シグレから『カンポット』の説明を受け、アヤネとセリカは礼を言ってショットグラスを呷った。
が、
「~ッ!!?甘んまっ!!?チョコなんか目じゃないじゃない!!?」
「ゲホゲホッ…!こ、これは歯が溶けそう…!」
幾ら砂糖漬けと言っても限度を超えた甘さに驚愕し声を上げる。
一方、
「ん~…確かにこれは甘さが強いな…。」
ネイトもその甘さに少し驚くも…
「だが、ジンやラムと割るといい味わいになりそうだ。」
大人ゆえこのカンポットの割り材としての価値を見出した。
すると、
「でしょ!?これをウォッカで割ったらとっても飲みやすくなるんだよね!」
これまでトロンとしていたシグレが一気にしゃんとしてネイトにお勧めの飲み方を教えて始める。
「おぉ、それはいいな。ウォッカか、在役時代に仲間とショットで飲み比べなんかもしたなぁ。」
「なんだ、ネイトさん!真面目な人かと思ったら話が分かるね!」
「そりゃ酒をたしなむ身だ。良い飲み方を教えてくれてありがとう、シグレ。」
「気にしないでよぉ!こんなところで同士に会えるなんて私も嬉しんだからさぁ!ジンとラムかぁ、私もやってみたいなぁ!」
そんな飲酒談議に花が咲く二人だが…
「…ところで、シグレ?」
「なになに?」
「なんでウォッカで割ると美味しいなんて知ってるんだ?」
ふと、ネイトがシグレにそう尋ねる。
見ると、セリカとアヤネに先生もギョッとした視線を向けている。
「あぁ、それはね?」
「私からご説明します。」
シグレが飄々として説明しようとするのをトモエが変わって述べ始めた。
ここ、227特別クラスはレッドウィンターで停学処分を受けた生徒たちが収容されている場所だ。
柊姉妹は暴れすぎたことが原因だが…
「シグレちゃんは以前、支給用のカンポットにウォッカを混入して酩酊者を多く出したことで停学処分を受けています。」
「ちょ!?それ洒落にならないじゃないのよ!?」
「生徒にお酒は厳禁なんですよ!?」
酒類を飲むどころか所持も厳禁なキヴォトスな生徒でありながらシグレはどこかからウォッカを入手しそれをカンポットのカクテルにし多くの生徒に飲ませてしまったのだ。
「そんなこともあったねぇ、えへへ~。」
「あ、あのシグレ…?!笑い事じゃないと思うよ…!?」
「下手すればテロ同然の行為じゃないか…。」
まるで懐かしいと言わんばかりに笑うシグレに絶句する先生とネイト。
「ある意味、アタシたち姉妹よりもやらかしてる奴ではあるな。」
「ちなみにノドカちゃんはシャーレの先生への度重なるストーキング行為。ルマちゃんは狩猟中に流れ弾でチェリノ書記長の髭を撃ち抜きまして…。」
「いやぁ…まさかノドカとここで再会するとは思わなかったよ…。」
「…なるほど、一癖二癖ある集団だとはよく分かった。」
他の面々も中々やらかしてると分かり改めて問題児集団ではあることを理解するネイトだった。
「で?дядя達はどうすんだ?」
話は改めてネイト達の行動方針について戻る。
「そうだなぁ…。」
ネイトは腕を組んで考える。
クーデターが落ち着くまで身をひそめるという手ももちろんある。
しかし、チョコであれだけ喜ぶほど物資が枯渇している227号特別クラスの厄介になり負担になることは避けたい。
ほんの少し、ネイトは逡巡し…
「…はぁ~。」
ネイトは深く息をつき、
「アヤネ、紙とペンをくれ。」
「え?わっ分かりました。」
アヤネに紙とペンを求めなにかを書き始める。
「…よし、こんなものか。」
それを認め終えると…
「…トモエだったか?あのチビ書記長を連れてきてくれ。」
「承知しました。」
トモエに頼んでチェリノを呼んでもらう。
「トモエぇエロガキがおいらをいじめるぅ~!」
「大丈夫ですよ、チェリノちゃん。書記長の座に戻ったら好きなだけ注文すればいいんですから。」
ノドカとの小競り合いで泣きじゃくりトモエの胸に縋りついているチェリノ。
「さ、チェリノちゃん。ネイト様からお話があるようですよ。」
「なんだ、ラフィアン!おいらは今傷付いて…!」
そんな状態なのでネイトに食って掛かるチェリノだが…
カシャン
「ほら、これをくれてやるから話を聞け。」
「え…?!」
ネイトがPip-Boyから取り出したソレに一瞬で目を奪われた。
そこにあるのは…先ほどまでノドカと取り合いになっていたものと同じ梱包がされたトリニティの高級チョコの箱だ。
「く…くれるのか…?!」
「ちゃんと泣き止んで話を聞くのが条件だ。じゃなきゃ…これは俺達の胃袋に収める。」
チョコの箱を手でもち揺らしながら言い放ったネイトの言葉を聞き…
「…ぐすっいいだろう!話を聞かせてみろ、ラフィアン!」
チェリノは涙をぬぐいいつもの調子でネイトに向き直った。
「お前の側近から復権の助力を要請された。俺達としてもアビドスへ無事に帰るにはあのバカをトップから引きずり下ろす必要がある。」
「うむ!おいらも事務局の奪還のために手下を集めなければならない!ラフィアンがおいらの手下になるなら…!」
目的が一致しネイトも手勢に加わることに気を良くするチェリノだが…
「勘違いするな。」
「え…?」
「手打ちが済んでるからと言って…俺はお前のためにタダ働きするつもりなんか毛頭ない。」
ぴしゃりとネイトは互いの関係性を指摘する。
そう、曲解に曲解が重なりこそしたものの…ネイトはチェリノに命を奪われかけたのだ。
話がついてるとはいえその事実はなくならない上、元からネイトはタダ働きを嫌う性格だ。
「ぐッ…じ、じゃあどうすればいいのだ…!?」
表情を歪めるチェリノ。
確かにネイトとの関係は非常に悪くそれは一朝一夕では好転しないだろう。
しかし、それ以上に現状でネイトを味方に引き入れられれば大きな戦力になることは間違いない。
そして、書記長の職を追われた自分にネイトを納得させるような材料がない事も理解しているが…
「簡単な話だ。俺にメリットを提示しろ。」
「メリット…?おいらに何をしろと…?!」
「この契約書にサインしてちゃんと履行すればいい。」
その答えとしてネイトは先ほど書いた一枚の書類…契約書を差し出した。
「なになに…?」
「私にも見せてください、チェリノちゃん。」
それを受け取り中身を確かめるチェリノとトモエ。
ざっと内容を上げると…
「そこに書いてあることを『レッドウィンター書記長』としてではなく『連河チェリノ』個人として確実に履行することを確約しろ。」
内容としては非常にシンプルだが…
「お、おいら個人として…?」
「俺が協力してお前が書記長に戻ってすぐに失脚しようと…。」
「何があろうと確実にこの契約は果たさせる…と言うことですね。」
確実にチェリノという一個人から報酬を取り立てるという契約だ。
「これが飲めるなら…俺は協力しよう。」
「グヌヌ…!」
正直言って非常にリスキーな契約だ。
クーデターが日常のレッドウィンターで書記長という地位が無くなってもついて回る契約というのはかなり厄介極まりない。
「さぁどうする?俺を味方に引き込むということは…それくらいのリスクを負う覚悟を持ってもらおうか。」
静かに彼女を見ながら今一度問いかけるネイト。
そのリスクを背負いネイトを引き入れるか、それともネイト抜きで勢力を集めマリナに挑むか。
チェリノは悩みに悩み…
「…いいだろう、ラフィアン!お前の提案を受けよう!!!」
「…分かった。じゃあ、そこの署名欄にサインをしてくれ。」
チェリノは腹をくくり契約書にサインし…
「さぁラフィアン!これでお前はおいらの手下だ!」
「手下じゃない。あくまで関係は対等だ。」
「何でもいい!おいらを書記長に戻してくれるのならな!」
はれて契約は成立。
「全く…俺が追放されたコミーの親玉と手を組むとはな。」
「この前からコミーコミーと一体何だ、それは?」
「こっちの話だ、知る必要はない。」
ネイトはこれで前世から数えて2度目のコミーとの契約を結ぶこととなった。
さらに、
「…はぁ~仕方ないわね。」
「アビドスに無事に帰るためだもんね。」
セリカとアヤネもため息混じりに苦笑を浮かべ…
「チェリノ先輩。その契約書貸して。」
「ムッ何をする気だ?」
「アビドスの精鋭二人もおまけについてきてあげるわ。」
「なっなんと!?」
「ただし、私達はネイトさんの指揮で動きますけどね。」
「あぁ構わない!味方になってくれるのならな!」
チェリノから差し出された契約書を受け取りネイトの名前が書いてある欄の隣に連名するのであった。
「すまんな、二人とも。」
「もう慣れっこよ。気にしなくていいわ。」
「皆と一緒に解決、前と何も変わりません。」
「ありがとうございます、ネイトさん。セリカとアヤネも感謝するよ。」
「ご契約の内容はチェリノちゃん復権後、確実に履行することを確約いたします。」
「うむっ!これでおいらが事務局に帰るために一歩前進したな!」
こうしてチェリノの協力者としてアビドスの精鋭三人が加わった。
「それじゃ…さっさと行くとするか。」
「え、もうなのか!?」
「道中で作戦は考える。先生も力を貸してもらうからな。」
「もちろんです。」
契約も済んだので早速マリナを打倒すべく行動しようとするネイト。
先生もサポートをしてくれるようだが…
「ちょいと待ちな、дядя。」
「ん?なんだ、カイア?」
カイアがネイトを呼び止め…
「マリナのヤロウどもと喧嘩すんだろ?んな面白そうなのに227号特別クラスをのけ者にしようってか?」
剃刀を彷彿させるような獰猛な笑みを浮かべながらそう言い放った。
そして…
「なんだと!?カイア、お前もおいらにつくのか?!」
「久しぶりに骨がありそうな相手だからな。お前のお遊戯に付き合ってやるよ、チェリノ。」
「いいのか、カイア?」
「アンタにもまだまだ世話になりそうだからな。修理代代わりに手ぇ貸すぜ。」
レッドウィンター最強の一角である柊カイアもこの作戦に参加を表明。
「それは心強い!よし、おいらが事務局に戻れた暁にはすぐにでもお前たちの停学は取り消してやるぞ!」
「えぇ本当ですか!?」
気を良くしたチェリノのこの発言にノドカも食いつく。
「これで頭数はざっと…小規模小隊3つくらいか。」
「どうかな、トモエ?この人数でマリナに勝てる?」
「柊さん達も加わったのは心強いですが…正面からではまだ厳しいですね。」
「相手はレッドウィンターの正規部隊、即応戦力だけでも相当な数はいるはず…。」
「いくらアタシとサイナでも保安部丸ごとはさすがに厳しいぞ?」
こうして現状の戦力を整理し作戦を考える面々。
「この際、練度は問わないがもっと頭数が欲しいな。」
「となると…事務局の息がかかってないであろう部活から協力を頼みますか?」
戦力さを考え更なる増強という案がネイトと先生から出た、その時…
「…おいらにいい考えがある。」
「チェリノ?」
「あぁチェリノちゃん。お口の周りチョコで汚れてますよ。」
「んむッすまない、トモエ!」
ネイトからもらったチョコを頬張っていたチェリノが何かを思い出したようだ。
マリナに口を拭いてもらい…
「図書館だ!」
「図書館?なんでまたそんなとこを?」
胸を張り心当たりのある場所を言い放つ。
「このチョコを見てたら思い出した!トリニティ総合学園の大きな図書館にはやや劣るかもしれないが我がレッドウィンター連邦学園にも立派な図書館が一つあるのだ!」
「へぇ流石…と言ったところか?」
これにはネイトも納得するような表情を浮かべる。
ネイトがレッドウィンターから想像する国家『ソビエト連邦』。
意外のもこの国は『読書』に力を入れていたからか、最盛期には国土全域の総館数と人口当たりの図書館の密度は世界一位を誇っていたのだ
レッドウィンターもご多分に漏れずそういう思想なのだろう。
「おいらも失脚する前はよく行っていたものだ!うるさい生徒はいないし適度な明るさで目にも優しいし…。」
チェリノ自身も図書館には愛着があるのか読書をしに…
「しかも枕にちょうどいい本もいっぱいある!昼寝するにはもってこいの場所だ!!」
「て、本読みなさいよ!?」
「図書館っていい感じに眠くなるよね…。」
「シミコとウイが知ったら噴火しそうな利用法だな…。」
訂正、そんなことはなかった。
「大切なのはそこではない!その図書館にはおいらにいちいち反抗してくる反乱分子がいる!」
「反乱分子?図書委員会みたいな人たちがですか?」
「うむ!あいつらは本が好きすぎるあまりに認可されてない不法な書籍まで手に入れようとする本の虫の集まりだ!」
「…もうちょっと御法を護ろうと努める奴らはいないのか、ここは…?」
図書委員会的な組織なのにそれでいいのかと眉間を揉むネイトだが…
「師匠、キヴォトスはそう言う所だってもうあきらめましょ…。」
先生も先生でどこか達観した表情で肩に手を置くのだった。
「確かそいつらの名前は『知識…知識…。えっと…トモエ、なんだっけ?」
「『知識解放戦線』です、チェリノちゃん。」
「そう、『知識解放戦線』!奴らめ、『図書館では本を読む以外の行為は許されない』という詭弁を主張してしょっちゅうおいらの昼寝を邪魔してくるのだ!」
「な、なんとも物騒な名前の部活ですね…。」
「というか、あんたも昼寝だけで行ってたらそう言われても無理ないわよ。」
「…で、そいつらならお前の作戦に力を貸してくれる…と?」
名前こそ仰々しいが図書委員会がクーデターも参加してくれるとは思えないが…
「奴等のことだ!おいらが書記長に返り咲いた暁には見れなかった禁書を公開させるとでも約束すれば力を貸すはずだ!」
「だっ大丈夫、チェリノ…?そんな大風呂敷広げて…?」
「心配するな、カムラッド!おいらのカリスマがあれば不可能などない!!!」
なおも自信満々なチェリノ。
「…そいつらの人数は?」
「知識解放戦線はレッドウィンターの中でも3本の指に入るほどの生徒数を有している大きな部活です。戦力としては申し分ないかと。」
それでもこのレッドウィンターにおいてトップ3に入る部員数は魅力的だ。
しかも、普段からチェリノに噛みついているような者たちならばマリナに靡いている可能性も低い。
「その図書館の場所はどこだ、チェリノ?」
「ここからまた少し歩いたところだ!マリナもまだ勘付いていないだろう!」
「そして、丘の上にあるので天然の要塞です。事務局を攻撃するにはもってこいの拠点に使えるでしょう。」
「立地条件も悪くない…か。」
半ばチェリノの思い付きのようだが中々馬鹿にできない考えのようだ。
「こんな短時間でここまで完璧な戦略を練るだなんて…流石はチェリノ会長ですね!」
「そうか、トモエ?へへ、えへへ…♬」
「…一先ずそこを目指してみるか。」
「ですね。とにかく話を持ち掛けてみましょう。」
トモエの賞賛に気を良くするチェリノをしり目に現状を鑑み図書館に向かうことを決定するネイトと先生。
これである程度の方針を立てることができた。
「セリカ、一緒に来てくれ。アヤネはベルチバードで待機を。」
「「了解。」」
「227号特別クラスも準備しとく。作戦が決まったら無線を入れてくれ。」
「あぁ、その時は頼む。」
「よし、ではカムラッドにラフィアン!おいらについてくるんだ!」
「案内をよろしくね、チェリノ。」
素早く役割を割り振り行動を開始する一同。
「いやはや…クーデターを止めたと思ったら今度は起こす立場になるとは…。」
人生ままならないものだ。
そう実感しつつ、ネイトも肩にハンドメイドライフルを背負い…白銀の世界に一歩踏み出すのであった。
人間とは取引をする動物である。犬は骨を交換せず。
―――経済学者『アダム・スミス』