―――医師『アントン・チェーホフ』
チョコの配達をしに来ただけなのにひょんなことからクーデターに協力することとなったネイト。
一先ず手数を増やすために旧校舎を後にし『知識解放戦線』が根城にしている丘の上の図書館を目指すことに。
旧校舎すら事務局から車で1時間と徒歩で1時間という僻地にあるのだが…
ギュオオオンッ!!!
「セリカぁ!地図はどうだ!?」
「この山道で間違いなさそうよ!」
ネイトはセリカと二人乗りで少々くたびれた外観のスノーモービルに跨り白銀の針葉樹林の中を駆け抜けていた。
「わっはっはっはっ!いいぞ、ラフィアン!どんどん進めぇ~!」
「廃車寸前の物をあぁも容易く修理してしまうなんて…!」
「ネイトさん達と合流できて本当によかったぁ~…!」
その後方で牽引されているソリに乗りご機嫌なチェリノとスノーモービルが動いていることが信じられないトモエにこの状況をかみしめている先生がいる。
このスノーモービルは出発の際、
『ちょいと機嫌悪いと動かなくなるが持っていきな。』
とカイアが旧校舎の車庫から提供してくれたものをネイトとアヤネが突貫で修理し万全の状態にまで戻したのだ。
さらに廃材から牽引用のソリをクラフトし先生たちも一緒に行動できるようにしている。
レッドウィンターに暮らすトモエや日々の鍛錬やバイトで鍛えられているセリカに極圏こそ真のホームグラウンドと言えるネイトならば多少の雪道は問題ないだろう。
しかし、日々デスクワークに勤しむ先生やチェリノ*1にはやはり厳しくスノーモービルが確保できたのは僥倖だった。
「ネイトさんが操縦できてよかったわ、ホント…。」
「理屈はバイクと一緒だからな。…と言うか、先生が運転してもいいんだぞ?」
「いっいやぁ…生憎と免許は普通自動車しかもってないもので…。」
「なんだと?よしっカムラッド!レッドウィンターで免許を取ればいい!」
「二輪車から大型車、それに重機や戦車などいろいろ取得できますよ?」
「せっ戦車!?」
「キヴォトスじゃ割とメジャーよ?」
「そいつが戦車乗り始めたらいよいよキヴォトスも末期だぞ…。」
そんな会話をしつつ一行は山道を疾走。
しばし走り続けると…
「あ、見えてきましたよ!」
「あそこがレッドウィンターの図書館か…。」
先ほどのトモエの説明の通り、丘の上になんとも立派な建物が聳え立っていた。
「トリニティ中央図書館とはまた違った…趣のあるところだね。」
「うむ!我がレッドウィンターの伝統ある建築物だからな!」
「なるほど、自慢するだけはあるわね。」
「見たところ事務局の奴らも来ていないようだ。行くとしよう。」
チェリノの見立て通り、まだマリナの手は伸びていない様なのでネイト達は堂々と正面から図書館へと近づいていくことに。
近づくとさらに重厚な造りがうかがえるようになった。
「さぁついて来てくれ、カムラッド!おいらの威光で知識解放戦線を手下にするぞ!」
「承知しました、チェリノ会長。」
「分かったよ。」
駐車スペースにスノーモービルを止め先生とチェリノとトモエはさっそく知識解放戦線のメンバーに会いに向かおうとする。
が、
「それじゃ用が済んだら呼んでくれ。」
「私達は本でも読んで待ってるわ。」
「ってえぇ!?一緒に誘ってはくれないのか!?」
ネイトとセリカはそそくさと別方向へ歩を進めようとしていた。
ギョッとして交渉に同席しないのかと声を上げるチェリノだが…
「俺とお前の契約はあくまで手勢に加わる事であって手駒を増やす協力は契約範囲外だ。」
「決起するときはちゃんと働くから安心しなさい、チェリノ先輩。」
「たっ確かにそうだが…!」
先ほど結んだ契約の内容を持ち出しなんともドライな答えが返ってきたので勢いが衰える。
シュンとするチェリノだが…
「まっ荒事になったら先輩や先生を護るくらいは働くわ。」
素っ気ない態度の仲にも感じるセリカの優しさと、
「それに…俺がわざわざ介入しなくても生徒を引っ張れるくらいじゃなきゃまたすぐに失脚するぞ?」
ネイトの不敵な笑みを浮かべながら発破をかける挑発的な言葉を受け…
「なっ何をぉ!?よぉし、見るがいい!ラフィアンたちがいなくともおいらの偉大さで知識解放戦線を手下にしてやるぅぅぅ!!!」
悔しさ混じりだが気合が入りチェリノは図書館内に駆け込んでいくのであった。
「…じゃあ、あとは二人に任せる。」
「ふふ、チェリノちゃんを元気づけていただきありがとうございます。」
「こっちは任せてゆっくり休んでてください。」
そんなチェリノの後を二人に感謝を述べて追いかけるトモエと先生であった。
「さて…俺達は中で温まらせてもらうとしよう。」
「そうね。流石にこの寒さは堪えるわ…。」
チェリノ一行を見送りネイト達も寒さから逃れるように図書館内に入っていった。
入るとそこは…
「わぁ…凄い本の量…!装飾もなんというか…豪快ね…!」
「確かにトリニティ中央図書館に引けを取らない迫力だな…!」
ずらっと並んだ本棚とそこに隙間なく収まった無数の本が二人の眼前に広がっていた。
さらに『ポスト構成主義』を彷彿とさせる大理石やブロンズを多用した厳かでラグジュアリーな装飾がふんだんに使われておりレッドウィンターらしさを醸し出している。
だが…
「…誰もいないな、本読んでる生徒。」
「いるのは多分知識解放戦線の子達よね?」
立派な設備とは対照的に利用者の姿はほとんど見えない。
「勿体ないわね。こんな立派なのに。」
「価値観は人それぞれさ。さぁどんな本があるかなぁ。」
それも裏を返せば静かに読書を楽しめるということだ。
二人はさっそく本棚に向い面白そうな本を探す。
「 『サボりと補習』、『雨合羽』、『クーデターと日常』、『アンナの遅刻日記』…。なんだか聞いたことあるようで違うタイトルだな。」
やはりココはキヴォトス。
ネイトが知る所謂『ロシア文学』はなく何やらどこかコメディチックさを感じるタイトルが並んでいる。
「まぁ面白い北の文学というのも初体験だ。」
これもまた経験ということでその何冊かを手に取るネイトだった。
一方、
「へぇ~…マンガとかも結構充実してるのね。」
別の本棚ではセリカがコミック本を眺めていた。
少々古いものだったりなにやら装丁が本屋で見るものよりも安っぽかったりと不審な点はあるが数自体は結構ある。
「…あ、これ知ってるやつだ。」
その中で彼女も知るタイトルのコミックを数冊抜き取り机に向かおうとする。
その時、
「おや、珍しい『鳥さん』がいらっしゃってますね。」
「え?」
不意にそう声をかけられそちらを向くと…
「何かお探しですか?」
そこにはチェリノやカイアたちとも違う青色の防寒着に身を包んだホワイト・ベージュの髪の生徒がいた。
肩には特異な形状の消音ライフル『VSS』が担がれていた。
「『鳥』…?えぇっと…どちら様?」
「初めまして。名乗る程のものではありません。」
そう言いつつ、その生徒はセリカに歩み寄り…
「実は少しあなたに耳寄りな情報がありまして…。」
肩に手を置き声を潜めて語り始める。
「…耳寄りって…どんな…?」
思わずセリカも声を潜めて尋ねると…
「ほんの1週間ほど、ベッドの上で過ごすだけでお金が稼げるお仕事があるんですよ…。」
「え…っ?!」
「その間、少し検査を受けていただきますがそうですね…一日あたり5万円をお支払いいたします…。もちろん、お食事のお世話もいたします…。」
「ごっ5万円…ッ?!食事付きでベッドの上で過ごすだけでそんなに貰えるの…?!」
なにやらかなり高給な仕事を紹介してきた。
『日給5万円』、これはネイトのもとで短期バイトで働く日当の3倍以上の金額である。
それがベッドで過ごすだけで手にはいる、これがどれほど美味しい話かセリカにはすぐに理解できた。
「今ならプリンの優先配給券もおまけしますがご興味がありますか…?」
「もっもちろん…!」
「では、こちらへ…。ご希望ならこの場で契約を…。」
彼女の話に食いつき本を抱えてテーブルへと誘われるセリカ。
その時、
「その子は俺の連れだ。『バードウォッチング』なら他を当たってくれるか?」
「あら…これまた珍しい『鳥さん』が…。」
「ッ!ネイトさん…?!」
いつの間にか背後に立っていたネイトが二人を制止する。
「ちょっちょっと待って、ネイトさん…!今めちゃくちゃ稼ぎのいいお仕事を紹介してもらおうと…!」
このチャンスを逃してなるものかとセリカはネイトを説得しようとする。
が、
「セリカ、その子がなんで『鳥』って言ったか分かるか?」
少々呆れた様子でネイトが尋ねる。
「と、鳥…?確かに変わった呼ばれ方だけど…。」
その真意はセリカは理解できなかったが…
「おや、まさかお分かりの方だったとは。」
その生徒は『バレたか』と言った態度になり、
「分かりました。このお話はなかったことにしますよ。」
「えぇっ?!なんでよ?!」
セリカの肩から手を退け一歩下がった。
「ちょっとネイトさん!食事付きで日給5万のバイトだったのに?!」
せっかくの儲け話を破談にされネイトに噛み付いてくるセリカだが…
「話を戻すぞ?鳥ってのはな…『モルモット』の隠語だ。」
「はぁ?!鳥なのにモルモットって訳が…!」
「モルモットは『実験動物』って意味もある。」
「………え?」
全く動じずに答えられたネイトの言葉に一気にその勢いがなくなった。
「そう呼んだセリカに日給5万?ずいぶんとヤバそうな『治験』に雇おうとしたな、お前?」
「ヤバいとは心外ですね。ただ少し効果が不明な注射を投与して経過観察をしたいだけなのに。」
「ちっ治験…?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるセリカだが…
「未承認や実験段階の薬剤を投与して効果や副作用を調べる仕事だ。そういうリスク込みだから割高なのは当然だが…5万は破格もいいとこだ。」
「ひっ…!」
その言葉と日当が示す意味を聞き竦み上がってネイトの後ろに隠れるのだった。
「ご心配なく、今までヘイローが壊れた生徒はいません。…少しの間、性格が変わったケースはありましたが。」
「どこが心配なくよ?!思いっきり副作用出てるじゃない?!」
「ちゃんと同意と提示した報酬は支払ってますし断られたら素直に引き下がりますよ。非難される謂れはありません。」
「う〜ん…何とも徹底してるな…。」
セリカを丸め込もうとしたと思ったらちゃんと理論武装を整えているあたりかなりの食わせ物っぷりが伺えるこの生徒。
「ともあれ、ここで立ち話は何だ。一先ず席に着こう。」
「そうですね。知識解放戦線の方々に怒られるのは面倒です。」
「いっいいの、ネイトさん…?!」
「何かしてくるようなら守ってやるから安心しろ。」
こうして各々本を持ち対面してテーブルに着き、
「改めまして…レッドウィンター連邦学園三年生、『保健委員会』委員長を任されています、『毒島ミツ』と申します。」
いきなりセリカを治験に巻き込もうとした生徒、『毒島ミツ』は丁寧な態度で自己紹介してくれた。
「どうも。俺は…」
ネイトも自己紹介を返そうとすると…
「存じ上げています。アビドスW.G.T.C.社長のネイトさんですね。」
「なんだ、知ってたのか。」
「えぇ、キヴォトスの医学界でも有名ですよ。」
ミツ自身はネイトのことをすでに把握していたようだ。
「あぁ…なるほど。」
「あんなことやったら知られないわけ無いわね…。」
これにはネイトとセリカも納得する。
D.U.で入院した際のネイトのエピソードは今やキヴォトスの医学界では語り草だ。
また、そのキヴォトス人基準でも規格外の身体に関しても実しやかに囁かれている。
「どうです?貴方なら日当7…いえ10までならお出ししますが…。」
そんな彼なのでミツはこれまた破格の条件でオファーをかけるが…
「あいにく身体は資本という考えは俺にもあるがそういう使い方は教育に悪いから避けてる。」
「そうですか。それは残念です。」
にべもなくネイトに断られるとあっさり引き下がるのであった。
「なんでこの流れで治験に誘えるのよ、この人…!?」
「新薬は様々な方が求めてますね。早く世に出したいだけですよ。」
「その考えは真っ当だが節操なしだな、君は…。」
そんな出力がかなりぶっ飛んでいるミツにセリカは表情を引き攣らせネイトはどこが懐かしさを感じていた。
「そっそれでミツ先輩はどうして図書館に?」
場の空気を変えようとセリカがミツに図書館の訪問目的を尋ねる。
「ここは医学書もたくさんありますからね。インスピレーションを得るにはもってこいなんです。」
「ほっ…なんだ、ちゃんとした目的だったわ…。」
と、相変わらず無表情なミツの答えを聞き胸を撫で下ろすが…
「それに図書館なら寝ぼけてたり知識解放戦線にやられた生徒が多いですから隙を見て治験の契約を安定して取りやすいんです。」
「ってやっぱり実験台探しじゃない?!」
「ここまではっきりされると気持ちいいくらいだな…。」
サラッと明かされたもう一つの目的に愕然とするしかなかった。
「それはそうとアビドスのお二方がなぜレッドウィンターに?」
「俺たちもちょっと訳ありでな…。」
今度はミツの方からネイト達の来訪目的を尋ねてきた。
その時、
チュドォオオオンッ!!!
おそらくエントランス付近で爆発音が鳴り響いた。
「…アイツらは穏便という言葉を知らないのか?」
「早速出番のようね…。」
その発生原因はすぐに見当がつきそれぞれ得物を持ち立ち上がるネイトとセリカ。
『荒事になったら守る』と言ってしまった手前、無視するわけにもいかない。
さらに、
「鳥…いえ、怪我人も出ていそうですね。」
ミツはVSSのマガジンを抜き装弾を確認し…
「私も同行しましょう。」
それを差し直して席を立った。
「戦えるの、ミツ先輩?」
「ご心配なく。予算が足りなければクーデターを起こしたりしてますのでそこそこ戦えますよ。」
「流石はレッドウィンター生と言ったところか?…それじゃ、行くぞ。」
予想外の加勢を得て三人はエントランスへと向かう。
エントランスでは…
チュドォン!シュバァン!
「伏せてください、チェリノ会長に先生!」
ズダァンッ!
「なぜだぁ!?どうしてこうなったぁ!?」
「チェリノがお昼寝したいって枕代わりにモミジから本を奪おうとしたからかなぁ?!」
大理石の柱の陰に隠れて銃弾の雨をやり過ごす先生とチェリノに愛銃であるOTs-48『ヴィエールナシチ』で反撃するトモエ。
「図書館は本を読む場所!いつもいつも昼寝するんじゃないですよ!」
「強引な検閲ばかりして!!!読書の自由を返せぇ!!!」
バシュッバシュッ!
パラララ…ッ!
対する『知識解放戦線』は『PSS消音拳銃』や『PP-91ケダール』などの狭い図書館内で運用すること前提の小火器を用いて三人と交戦。
威力こそ低いものの頭数の差で先生たちを封殺する。
何しろ普段は親衛隊がいて手出しができないチェリノがお付きのトモエのみとくれば日ごろの鬱憤をはらさでおくべきかと言わんばかりに責め立てている。
そんな知識解放戦線の中で…
「皆さん!今こそ『知識解放戦線』の底力を見せるときです!!!」
白いモコモコとしたフード付きの防寒着を纏ったチェリノよりほんの少し背の高い生徒が声を張り上げる。
「先生がいますから手加減しますがこれもまた知識を得る自由と私達の蔵書を護るため…!」
その生徒はそう決意を込めた言葉を発し…それを担いだ。
小さな体に不釣り合いな長大な得物。
『RPG-7』、安価で大威力で頑丈という兵器に求められる全てを兼ね備えた対戦車擲弾発射器の傑作である。
随分可愛らしくデコレーションされ弾頭も熊というファンシーな外観だがその威力は決して馬鹿にできない。
「お二人とも、非常事態です!モミジちゃんが!」
「待ってぇ!モミジ、ちょっと待ってぇ!!!」
「えぇいッどいつもこいつもおいらを馬鹿にしてぇ!!!」
流石に対戦車擲弾など食らっては大理石の柱など粉みじんになるだろうが…
「図書館ではお静かにっ!」
バシュゥッ!!!
彼女は躊躇なく熊型の対戦車擲弾を発射した。
このままでは先生の身も危ない…と思われた、その時だ。
Pi
ズバァンッ!
ボシュシュシュッ!
エントランスにくぐもった重低音が響き、
バギャガボガァンッ!!!
飛翔中の熊型弾頭が粉砕され、
ガシャァン!!!
「えぇッ!?」
「た、助かった…!?」
ロケット部分となった発射体が柱に衝突し表面を傷つけるにとどまった。
「なっなんだ!?ロケットが不良品だったのか!?」
「どうして!?何でいきなり壊れたんですか!?」
原因が分からず困惑するチェリノとその生徒だが…
「たっ助かった…!」
「こんな芸当も出来るんですか…!?」
先生とトモエはその正体に勘付いていた。
そして、
ズダダダァン!!
「あギャッ!?」
「ぐあッ!?」
「あっ新手ですか!?」
知識解放戦線の数名が瞬く間に撃ち抜かれる。
「来てくれたんですね、ネイトさんにセリカ!」
「らっラフィアンたち!?」
声が弾む先生と顔を上げるチェリノに答えるように、
「機先を潰したわ、ネイトさん!」
「突入する!!」
図書館二階の廊下から狙撃態勢を取るセリカに合図を出されエントランスにネイトが踏み込む。
「皆さん、新しい規則違反者ですよ!制圧してください!!!」
弾頭を破壊されたことに面食らったもののその生徒は素早く指示を出しネイト達に応戦しようとする。
だが、
ボシュシュシュッ!ボシュシュシュッ!
「ギャンッ!?」
「うぼぁっ!?」
「生憎、図書館の戦いは経験済みなんでな…!」
ネイトはハンドメイドライフル『The Problem Solver』を短連射し知識解放戦線の生徒を次々に撃ち抜いていく。
ボシュシュシュ…ッ!
「いたぁッ!?」
「こっこのお返に゙ギィ!?」
特に遮蔽物に駆け込むでもない。
ドラムマガジンの大容量を活かし制圧射撃と本命の射撃を織り交ぜながら無人のエントランスを先生たちが隠れている柱に向って進んでいく。
「なっなんですか、あの人はぁ!?」
「物陰に隠れて!!!下手に出るとすぐに撃ち抜かれ…!」
それを避けるために一部遮蔽物に隠れる生徒も出るが、
ボシュシュシュ…ッ!
幾発か撃ち込まれるうちに…
ボガァンッ!!!
「ぬわぁあああ!?」
「は、柱を撃ち抜いた!!?」
『The Problem Solver』のレジェンダリー効果『猛烈』によって増大した弾丸が遮蔽物を粉砕し隠れていた生徒に襲い掛かる。
「このッ!」
「隙あり!」
他方からネイトを撃ち抜こうと銃を向けるも、
「見え見えよ…!」
ズダダァン!
「ブヘッ!?」
「むギャッ!?」
セリカの『シンシアリティ』から放たれる精密射撃がそれより早く弾丸を叩きこむ。
「そのまま進んで、ネイトさん!」
「俺の見てない方は任せる、セリカ!」
長く組んで戦って来ただけあり阿吽の呼吸で知識解放戦線を抑え込み撃ち抜いていくネイトとセリカ。
「らっラフィアンは怖くないのか!?」
「パワーアーマー無しでもあの強さとは…!」
「相変わらず抜群のコンビネーションだなぁ…!」
そんな二人の戦いっぷりに思わず反撃の手を止め見入る先生たち。
「狙撃手がいます!まずはそちらを!」
一方、この状況を打破しようと知識解放戦線はまずはセリカへの攻撃を行おうとする。
周囲の意識の集中が限界まで注がれた。
まるで、それを見計らっていたかのように…
「効能は後日書面で報告してください。」
プシュプシュッ
戦闘音の中に紛れるようにまるで炭酸飲料のキャップを開けた時のような音が発生。
シュドシュドッ
直後、セリカを狙おうとしていた生徒達に何かが命中し…
「は…はにゃあ…?」
「へにょぉ…?」
バタンッ
「えぇどうしたんですか!!?」
気の抜けた声をあげて床に倒れた。
見ると…
「ち、注射器…!?」
その者たちの体には弾頭の先端が針になった注射器のような構造の弾頭が刺さっていた。
レッドウィンター広しと言えどこんなものを使う人物は…一人しか思い浮かばない。
「ど、ドークタル?どうして!!?」
「ど、ドーク…??」
聞きなれない言葉に首を傾げる先生だが…
「おや、チェリノ会長にトモエさんではないですか。」
「うわぁッ!?」
「ひっ!?みっミツ!?」
「奇遇ですね、ミツ委員長。」
いつのまにやら先生たちのいる遮蔽物にまで忍び寄っていたミツにチェリノ共々仰天する。
そんな彼女が携えている銃の銃口からは微かな硝煙が立ち上っている。
『VSS ヴィントレス』、銃身のほぼすべてがサプレッサーで構成されており専用弾にして亜音速弾の『9x39mm弾』と合わさりその静粛性は並の銃の比ではなく高い。
狙撃銃だが元から長距離での狙撃性能を捨て近~中距離からのフルオート性能を生かした連続狙撃を主目的とした運用で正に『特殊用途狙撃銃』としての独自の地位を確立しソ連・ロシアの特殊部隊の相棒として長年活躍している。
そんなミツの愛銃『カクテリーズアンブラ』は薬剤学に秀でた彼女によって製造された弾頭に様々な薬品を仕込んだ注射器の特殊弾薬を放つことができる。
「…なるほど、ということは貴方が先生ですね。」
「ど、どうも初めまして…!?」
「お時間がありましたら是非検査をさせていただきたいのですが…ひとまずはこの場をおさめましょうか。」
「きっ協力してくれるのか、ミツ?!」
「これは心強い援軍ですね!」
ミツは先生に好奇心が灯った視線を向けるもすぐさま知識解放戦線との戦闘に意識を戻していると、
「よぉ、馬鹿弟子に愉快なチビ髭!助けるとは言ったが積極的に揉め事起こせとは言った覚えはないぞ!?」
「チッチビ髭だと!?」
「言い訳のしようもありません、師匠…。」
「その…申し訳ありません、ネイト様…。」
エントランスを横断してきたネイトも合流する。
「セリカが奴らの後続を抑え込んでいる!このまま制圧するぞ!」
「分かりました!トモエも狙撃を継続して!ミツだったね、ネイトさんに追従して火力支援を!」
「分かりました、先生!」
「お任せを。」
手早く今後の方針を纏め一行は知識解放戦線に反撃を試みる。
すると、
「よし!総員、おいらに続けぇ!」
ネイト達合流に勢いづいたかチェリノがいの一番にナガンM1895『チーストカ』を高々と掲げて突っ込んでいく。
「あ、チェリノ!?」
「行くぞ、ミツ!」
ドンパチ向きではないのに無謀なチェリノを放置するわけにもいかずネイトとミツも遮蔽から飛び出し攻勢を仕掛けるのであった。
「来たか、ラフィアンにミツ保健委員長!」
「お前がぶっ倒されたら誰が後釜に座るんだ!?少しは大人しくしろ!!!」
「チェリノ会長、健康診断が近いので今度は逃げないでくださいね。」
「ヒエッ!?」
そんなベクトルの違う二人の文句を聞きつつチェリノも果敢に攻撃を仕掛けていく。
数分後…
「うぅ~…!ま、負けてしまいました…。『バスチーユの薔薇~30年限定エディション~』の価値も分からないこんな小さい子に…。豚に真珠、馬の耳に念仏です…。」
ネイト達は攻撃を仕掛けてきていた知識解放戦線の生徒達を制圧。
「図書館にいる子たち全員相手にしなくてよかったわね…。」
「そうなってたら弾が全然足りなかったな…。」
やっと攻勢が落ち着き肩の力を抜くセリカとネイト。
なんせ、トモエの話では知識解放戦線の所属数はレッドウィンターで三本の指に入る勢力。
そんな人数を相手にするのはさすがに勘弁願いたかった。
「ふむふむ。鳥…いえ、怪我人が結構出ましたね。軽い処置をしてきます。」
ミツも戦いが終わると保健委員長として手当を始めている。
「今日の敗北を期に文明の森は燃え…退廃することになるでしょう…。」
「そこまで言うのはひどすぎるだろう?!それにおいらは小さくないといったい何度言えば…!」
何やらひどく落ち込んでいる知識解放戦線を仕切っていた少女にそう突っ込むチェリノ。
「いや、ホシノ先輩よりちっこいのはさすがに…。」
「セリカ…しっ…!」
思わずチェリノに突っ込みそうになったセリカを制する先生だった。
「で?成り行きで参戦したが一体全体何をどうしてこんな撃ち合いに?」
「それは…。」
ようやく落ち着いたので一先ずトモエから説明を受けるネイト。
最初は復権の戦力として知識解放戦線を率いれようと息巻いていたがチェリノだったが…
「そろそろお昼寝の時間だったので図書館の片隅でおやすみしようとしていたところ…。」
100歩譲って図書館で眠くなるのは旧校舎で先生も認めていたところなのでそこは納得するが…
「お布団を敷いて枕代わりに『モミジ』ちゃんの大切な本をお借りしようとして…。」
「………なぁおい、アイツは本当に復権する気があるんだよな?」
「なんでこっちから喧嘩売るような真似してんのよ…。」
明らかにこちらの落ち度で知識解放戦線の怒りを買っていたではないか。
「先生よ、自主性の尊重も結構だが明らかにルート逸れそうだったら軌道修正位しろ…。」
「申し訳ありません…。まさかここまで大事になるなんて…。」
「チェリノ先輩、アナタも最優先事項をはき違えないで。復権と昼寝、どっちが大切なのかいちいち部外者の私が言わなきゃならないの?」
「うぐッ…!」
呆れ果てた様子で語るネイトとセリカに注意される先生とチェリノ。
「…ほら、この本は還そう。」
「え…?ですがさっきまでは何としてでもこの本を枕にしてお昼寝するって…。」
「おいらがすべきことは昼寝ではない。二つの意味で目が覚めた。」
そう言い、チェリノは抱えていた少々分厚い本をその生徒に返した。
「それにおいらにはよく分からないが…お前たちにとっては大事な物のようだからな。」
「チェリノ会長…。」
普段のチェリノらしからぬ殊勝な振る舞いにその生徒が目を見開いていると…
「というか、この本はそんなに大事な物なのか?」
本にそこまで造詣が深くないチェリノが不意に漏らしたこの疑問に、
「もちろんですよ、チェリノ会長!」
「うわッ!?」
「先ほどもお伝えしましたがこの本は『バスチーユの薔薇』が発売されてから30周年を記念して出版された愛蔵版で100冊しか刷られなかったために…!」
その生徒が一気にテンションが高まりその本について説明を始める。
「ということでマニアたちの間でもなかなか手に入らないことで有名なんです!」
「おっと…なんだかどこかで見たことあるような変わり身だな。」
「おや、ネイト様のお知り合いにも本好きの方が?」
「あぁ、それもとびっきりのな。」
そんな彼女の姿からある人物たちの姿が想起されたネイト。
「特に付録としてついている特別短編のネームは今まで一度も公開されてなかった希少な物で『バスチーユの薔薇』のファンならだれもが欲しがるくらい貴重な物なんです!あ、もちろんこのネームはコピーで原本はトリニティの大図書館に展示されていますが。」
「分かった、分かったからそんなに目をキラキラさせてにじり寄って来るな!」
そんなマニア特有のディープな話題を早口でまくしたてられチェリノもたじたじになる。
「それよりもそんなに貴重な物がトリニティの大図書館にあるならこんなコピー本より直接行ってみればいいじゃないか。」
確かにレッドウィンターは極圏に近い独立色の強い学校だが他校とかかわりがないわけではない。
時間はかかるだろうがトリニティにもいこうと思えば行けるはずだ。
「トリニティの大図書館の蔵書は他の学校の生徒達には閲覧できませんからレッドウィンター連邦学園の生徒である私達はコピー本で満足するしか…。」
が、そこはやはり三大校のトリニティ。
セキュリティ的な観点からかそのような制限があるようだ。
すると、
「え?俺達はアビドスだが普通に色々読めるぞ?」
「…はい?」
ふと漏らしたネイトの言葉に彼女は反応する。
「そりゃあれだけトリニティ図書委員会に協力してるんだからそれくらいはしてもらわないと。」
さらに続けたセリカの言葉に…
「どッどういうことですか!!?」
チェリノから矛先が変わりネイト達に詰め寄ってきたその生徒。
「ん?あぁっと…君は何て呼んだらいい?」
「初めまして、レッドウィンター知識解放戦線の『秋泉モミジ』です!先ほどの話は本当ですか?!どうして他校には門戸を固く閉ざしているはずのトリニティ中央図書館が貴方方アビドスに解放されているんですか?!」
彼女、秋泉モミジは先ほど以上の熱量でネイト達に問いかける。
「まぁちょっと色々な。おおっぴらに堂々と言えるような話題じゃないのがやましい事をしているわけじゃない。」
「そう言うことで向うの好意でアビドスはトリニティ中央図書館に入れるの。あまり行く人は少ないけどね。」
「いいなぁ~!いったいどうやったらあの現役最大の図書館に入れるんですか!?」
要点はぼかしつつ図書委員会に恩がある故の特典のようなものだと明かしそれを羨むモミジ。
すると…
「~ッ!」
チェリノに電撃のようなひらめきが舞い降り、
「…ふっふっふっそうねだるんじゃない、モミジ…!」
「チェリノ会長?」
「おいらが率いるレッドウィンター連邦学園に不可能なことなんてないのだ!」
胸を張り仁王立ちとなってモミジに宣言し始める。
「トリニティの図書館がそんな不公平な扱いをするならおいらたちがトリニティを占拠して支配してしまえばいい!!!」
「「「…え?」」」
あまりにも突飛な言葉に固まる先生とネイトとセリカ。
そんな三人をしり目にチェリノの演説は続く。
「『知識解放戦線』の仲間たち共々おいら…いや、この私に忠誠を誓うなら今までお前たちが見られなかった全ての禁書を公開させると約束しよう!!!」
「そっそれは本当ですか、チェリノ会長!!?」
「もちろんだ!この私の手にかかればトリニティ総合学園はもちろん、ゲヘナもミレニアムも百鬼夜行などもいずれはキヴォトス全ての学校側が傘下になる!」
なんとも大言壮語を地で行くような野望を語るも…
「もちろん、その前に事務局を占拠しているマリナを追い出しておいらの権力を取り戻すことが先だが…。」
それができない理由をトーンを落としてあげるや否や…
「会長の命令に従います!いえっぜひ従わせてください、チェリノ会長!!!」
ほぼ条件反射で彼女への恭順を知識解放戦線諸共誓うモミジ。
周囲を見ると他の知識解放戦線の生徒達もやる気満々のようだ。
「たった一言で知識解放戦線の仲間たちを虜にするだなんて流石は会長ですね!トモエ、感激しました!」
「ふふっこの私、偉大なるチェリノ様のカリスマ性の前では誰も抗うことなどできない!!!」
これにはトモエも感極まりテンションが上がるが…
「…おい、先生。分かってるな?」
「チェリノ先輩の言うことがホントになったら…。」
「ナギサの胃が今度こそ引きちぎれるだろうね…。」
一歩引いてその熱狂を見つめる三人。
まさか本気ではないだろうが実行されればキヴォトスは大混乱だ。
「もしもの時はちゃんと説得しますので…。」
「頼むぞ。…だがまぁこれで…。」
「知識解放戦線を仲間にすることはできたようね。」
方法はともかくとしてチェリノのほぼ独力で知識解放戦線はこちらに加わった。
「なんやかんや言って…あのチビがレッドウィンターの生徒会長の『器』ではあることは確かなようだな。」
自分とはまた違う人の導き方にネイトも彼女への評価を少し検めることに。
すると、
「それでは何から始めましょうか?!事務局に行ってマリナ委員長を引きずり出して校舎の裏にある氷の湖にでも沈めますか?!」
「ちょっとなんか相当物騒なこと言い始めたわよ!?」
「それとも二度とクーデターなんて起こす気が起こらないように一日中くすぐりの刑に処しますか!?」
「それ立派な拷問で存在しているぞ…!?」
興奮しすぎて可愛らしい姿からは想像もできない過激なことを言い放つモミジ。
「まっ待て!いくらおいらでもそこまで残酷なことは考えていない!平然とそんな怖い事を言うな…!」
これにはさすがのチェリノも少々引いているようだ。
そこへ…
「フム、今の書記長はマリナですか…。」
「み、ミツ保健委員長…?!」
処置を終えたミツがいつの間にか近づき…
「…分かりました。私もチェリノ会長の復帰に協力しましょう。」
「ほッ本当か!?」
「マリナに研究…医療用の予算を減らされたらたまったものではありませんからね。」
「おい、サラッと予算横領してるみたいなこと言ったぞ?」
彼女も彼女の目的でチェリノ復権への参戦することに。
「これは頼もしいな!期待しているぞ、ミツ保健委員長!」
「お礼は反乱分子の『鳥』を10人ほどで手を打ちますよ。」
「と、鳥?一体どういう意味なの、セリカ?」
「知らない方が身のためよ、先生…。」
なんとも彼女らしい要求に苦笑を浮かべるセリカ。
「そっそれはおいおい決めようか!よし、では知識解放戦線とミツ保健委員長は中心街近くに進出しおいらの号令を待つように!」
こうして心強い味方を得て復権に一歩前進したチェリノ。
「行くぞ、皆!おいらの復権は目の前だ!」
「えぇ、チェリノ会長!参りましょう!」
トモエを伴いそそくさと図書館の外へと飛び出していった。
「全く気が早いな…。」
「でもこれでアビドスへの帰りに一歩前進ね。」
「お騒がせしたね、モミジ。私達はこれでいったん失礼するよ。」
「ではまたお会いしましょう!」
その後を追い先生とセリカも図書館を出ていく。
すると、
「…あ、モミジだったよな?」
「はい、どうかしましたか?」
「ここが図書館ということで一つ聞きたいんだが…。」
ネイトが一人残りモミジにあることを尋ねる。
「う~ん…探せばどこかにあると思いますよ?その手の物は必ず保管しているでしょうし…。」
「じゃあ、探してもらえるか?報酬は…。」
お目当ての物はあるようでその捜索を依頼しPip-BoyからあるUSBを取り出した。
「中を拝見しても?」
「あぁ、構わない。」
それを受け取りモミジはPCに接続し保存された情報を確認すると…
「こっこれは!!?」
目をこれ以上ないほど見開き驚愕する。
「こ、こんなのをどこで…!?」
「まぁ端的に言えば…それがトリニティ図書委員会に認められている理由と言ったところかな?」
そんなモミジに浅く笑みを浮かべながら答えるネイト。
「利用法は任せる。…で、報酬は十分か?」
「もちろんです!むしろ多すぎるくらいですよ!」
「それじゃ、契約成立だな。よろしく頼むぞ、知識解放戦線。」
「お任せください、ネイトさん!」
二人は契約成立の握手を交わし、
「じゃあ俺はいかせてもらう。」
「すぐに見つけますのであとでお渡ししますね!」
ネイトも図書館を後にしていくのであった。