―――哲学者『カール・マルクス』
知識解放戦線という大きな戦力を手に入れた一行。
「事務局の様子はどうだ、トモエ?」
「今のところは騒動も収まっているようです、チェリノ会長。」
現在は事務局のあるレッドウィンター中心街を見下ろせる丘まで移動しそこで停車してトモエとチェリノが偵察を行っている。
一方、
「…という作戦はどうでしょう、ネイトさんに皆。」
「なるほど、これならアレを応用すれば簡単だな。」
《それに次善策も兼ねて皆さんを動かすこともできますね。》
「オッケー、私は援護に徹させてもらうわ。」
《こっちもそれで構わないよ。セリカちゃんには応援でノドカとルマを付けとく。》
知識解放戦線が加わったことによりある程度の作戦を構築できるようになったので残りの三人は無線機を通じ待機中のアヤネとカイアも交えてブリーフィングを行っていた。
「…なぁトモエ、カムラッドやラフィアンたちは何を話してるんだ?」
偵察に飽きたのかチェリノがトモエにネイト達が何をやっているか尋ねると…
「それはチェリノ会長を再び書記長の座に着ける様に策を練っているんですよ。」
「むむッ!なんだと!?そんな重要な会議ならおいらも出なければならないではないか!」
彼女からその内容を聞き目を輝かせてずんずんと三人の元に駆け寄っていく。
「こらーッ!大事な会議なのにおいらを入れないとはどういう…!」
そして、勇んで話の輪に加わろうとするが…
「ん?もう会議なら終わったぞ。」
「なにぃ!?」
既にあらかた話がまとまっていたようで作戦会議はもう終了していた。
「ずるいぞ!おいらが書記長に戻るための作戦においらをのけ者に!」
当然、憤るチェリノだったが…
「安心しろ。お前にはとびっきりの主役級の役割を考えてある。」
「ッ!?本当か、ラフィアン!?」
「あぁ、俺にも先生にもできないお前だけの役目だ。」
ネイトから彼にもできないことを噛ませられたと聞き、
「なんだ、そうだったのか!任せるがいい、ラフィアン!おいらがその役目を必ず全うして見せるぞ!」
まんざらでもない表情を浮かべ一気に上機嫌になった。
そんな二人のやり取りを見て…
「…セリカ、あれっていいのかな…?」
「まぁ嘘は言ってないわ、嘘は…。」
先生とセリカは複雑な表情を浮かべる。
「それでこれからはどうするんだ、ラフィアン?!すぐに決行か?!」
上機嫌にネイトへ今後の予定を尋ねるチェリノだが、
「そう慌てるな。お前や先生はそうだが俺やセリカは事務局近くの状況を把握できてない。」
「ほぉつまり偵察ということだな!」
「そうね。ぶっつけ本番じゃ私も不安だわ。最低限付近の地形なんかは近くからこの目で見ておきたいわ。」
実戦を良く知るネイトとセリカから待ったがかかる。
情報の精度は作戦の成否に直結する。
遠目からだけでなく街中に潜入して探ることを提案した。
「そうだね。この作戦にはネイトさんやセリカ達の協力が不可欠だ。情報の共有も兼ねて潜入するのは私も賛成かな。」
「分かりました。では、目立たないように潜入しましょう。」
「任せろ!クーデターをやり返すときに敵情視察はよくやっている!二人とも、ついて来るがいい!」
この提案を残りの三人も賛成し徒歩でレッドウィンター中心街へ潜入するのだった。
幸い、マリナの手の者にばれることなく五人はレッドウィンターの中央通りにまで到着。
「ほぉ~ヘイローのホログラムを投影する帽子とは…。」
「こんなところにヘイローがない人型の大人がいたら目立つだろ?」
「なるほど、見かけでまず露見することは避けられますね。」
チェリノとマリナはネイトの頭上に浮かぶヘイローを模したホログラムをしげしげと見つめていた。
「なんだかちょっと落ち着かないような…。」
「変な先生。私たち産まれた時からずっとこうなのに。」
「エンジニア部の技術革新に感謝だな。」
先生にもネイトが普段使っているホログラム投影ができるデバイスを組み込んニット帽を被せてある。
「しかし、ほんの少し前に政変が起こったという割には…。」
ネイトは怪しまれないように周囲にいるレッドウィンターの生徒の話に耳を傾ける。
「ねぇねぇ、今年の連休って何か特別な予定とかある?」
「うぅん。今年の夏至祭は家で静かに過ごそうかなって。」
「え~せっかくの連休なのに。よかったらしないで一緒に遊ぼうよ!」
そこではクーデターの話題など一切上がらず来る『イワン・クパーラ』への楽し気な会話がそこかしこに溢れていた。
「随分と街中は平静を保っているな。」
「このレッドウィンターではクーデターはもう珍しくもない『催し物』みたいなものなのです。」
「自分たちに関わりがなければ普段通りに過ごすって事ね…。」
やはり『クーデター』が日常のレッドウィンター、その程度でいちいち騒ぐような肝の大きさはしていないようだ。
アビドスで過ごしているネイトとセリカにはよく分からない価値観である。
「聞いた話だと生徒会が3丁目の交差点にすっごい大きな焚火を用意するらしいよ!もしかしたらそこで素敵な出会いとかあったりするかもしれないじゃん?」
「う~ん…じゃあそうしよっかな…。」
「ほぉ、焚火ねぇ。」
「どうかしましたか、ネイトさん?」
「なに、『ファスナハト』でもフィナーレにでっかい冬将軍を模した像の焚火を起こしたなぁと少し懐かしく思ってな。」
「まぁキヴォトスの外にも似たような祝祭があるのですね。」
そんな会話を聞きネイトがアパラチアでの思い出に思いをはせている一方、
「………うぅッ気に入らない!もう何もかも気に入らない!!!」
先ほどまでの上機嫌が一変、ものすごく不機嫌になるチェリノ。
「どうされたんですか、チェリノ会長?」
「見ろ、トモエ!あぁしてお祭りの雰囲気に酔いしれ楽しそうに歩き回る我がレッドウィンターの生徒達を!」
「レッドウィンター連邦学園で最高の尊厳を持つおいらがこうして昼寝も出来ず大変な苦労をしているというのに生徒達は夏至祭の雰囲気を楽しんで…こんなの不公平だ!」
と、自分の境遇と周囲のギャップを大変遺憾に思っているようだが…
「そりゃ盛大なお祭りなんだから楽しみにするのは当たり前でしょ?」
「お生憎様、よほどのことがない限りトップの機嫌をおもんばかる必要がないのも子供の特権だ。」
セリカとネイトがど正論の火の玉ストレートできって返す。
「うるさいうるさい!みんな粛清だ、粛清!今夏至祭の雰囲気を楽しんでる奴らは全員これから一か月グラウンドの草むしりの刑に処する!!!」
それでも地団太を踏み周囲も巻き込んで不幸にする決意を見せるも…
「あの…チェリノ?今は会長じゃないんだから罰は与えられないんじゃ…?」
改めて先生に現状を突き付けられ…
「………そうだった…。」
目に見えてしゅんと落ち込んでしまう。
「まぁお前もさっさと書記長に戻ってイワン・クパーラを一緒に楽しむのが賢明だぞ。」
「そうしたら私達も早くアビドスに帰れるしね。落ち込むより今をどうにかしましょう。」
そんなチェリノにドライで損得勘定もりもりな言葉だがそれなりに元気づけようとするネイトとセリカ。
すると、
「あっそうです。せっかくですし私達も他の生徒達と一緒にこの夏至の祝祭を楽しんでみませんか?」
「他の生徒達と一緒に楽しむ…?」
トモエが他の生徒をひがむのではなく共に過ごしてみようと提案する。
「はい。チェリノ会長はいつも高い一関でイベントを総括指揮されていて生徒達と一緒にお祭りを楽しむような機会はありませんでしたし。」
「………確かにそうだったな。」
「この機会に普通の生徒としての立場で楽しんでみたら次のお祭りの準備に役立つかもしれません。」
「ほう…なるほど。」
そんな彼女の提案を頷きながら聞くチェリノ。
さらに、
「まぁ紛いなりにもトップはトップ。それなりの立場ってのもあるだろうしな。」
意外にもネイトもこの案に賛成の意を示す。
「え?いいの、ネイトさん?」
「駄々こねられるより周りに溶け込んで楽しんでる雰囲気の方が偵察もうまくいく。」
「確かに…皆が楽しんでる中で無言であちこち見るのは目立ちますもんね。」
チェリノのメンタル安定と偵察のアドバンテージ込みでトモエのアイデアを受け入れ、
「まっあんまり楽しみすぎるのは考え物だ。メリハリはきっちりしろよ、チェリノ。」
しっかりやることもこなすことも言い含めて夏至祭を見て回ることを了承するのだった。
「…そうだな!生徒たちがどのように生活しているかも把握することもまた指導者としての責務!偵察も兼ねて一度立場を忘れ普通の生徒の立場で街を視察するのもアリだな!」
ネイトからもお許しが出たからかチェリノの機嫌は一気によくなった。
「…決して遊びたくて言ってるわけではないぞ!本当だぞ!」
「ハイハイ。で…まずはどこに行きたいの、チェリノ先輩?」
「ではまずはあそこのケーキ屋に行くとしよう!急ぐぞ、カムラッドにラフィアンとチョールナヤ・コーシカ!」
「急ぐと転んだりして危ないよ、チェリノ。」
「な、なちょーるなや?こーしか?」
「レッドウィンターの言葉では『黒い猫』という意味になります、セリカちゃん。」
「ちょ、誰が黒猫よ!!?」
こうしてチェリノを先頭に一行は近くにあったケーキ屋に入っていく。
「うむ!この店のメドヴィクは本当に甘くておいしいな!これくらいならいくらでも食べられそうだ!」
「チェリノちゃん、お鬚にクリームがついてますよ。」
「おっおいらは子供じゃないんだから!勝手に髭に触らないで!」
「美味しい…!シグレ先輩のカンポット見たいに甘さ一辺倒だと思ってたけど…!」
「フム…このチョコスフレ、今まで食べたこともない食感だ…。」
「お菓子もトリニティに負けない位発展してますね。」
その後、各々ケーキや飲み物を注文しテラス席で楽しんでいる。
すると…
「だが…よかったのか、ラフィアン?」
「よかったって何がだ?」
「その…もうおいらのお小遣いの一ヶ月分くらい使ってるぞ?」
チェリノがおずおずとロシアンティーを楽しむネイトに尋ねる。
ここでの支払い、最初はチェリノが自分の分は自分で出そうとしていたがいつの間にかネイトがトモエとセリカの分もまとめて会計を済ませてしまっていた。
「こういう時は子供は遠慮するな。立場や因縁はどうであれこの場の年長者は俺だ。このくらい大したことないさ。」
それに対し、ネイトはとくに頓着せずにそう答えた。
間接的にだが行き違いで命のやり取りを演じ思想も相いれないがそれでもチェリノは子供でネイトは大人だ。
この状況でそれを持ち出すほどネイトも狭量ではない。
「そ、そうか…。その…ありがとう。」
子供扱いをされて一瞬言い返しそうになったが珍しく素直に感謝を述べるチェリノ。
「どうしたしまして。」
ネイトもまた彼女の感謝を素直に受け取ると…
「…だったら私にも奢ってくれてよかったんじゃないんですか、師匠?」
どこかおどけた様子でそうねだってくる先生に、
「お前は大人だろうが、馬鹿弟子。自分の位自分で払うんだな。」
素っ気なく返すのであった。
「むぅ~…もう少し弟子っぽく扱いしてくれてもいいじゃないですかぁ~。」
「徒弟にしてるんじゃないんだから金銭面の面倒までは見るわけないだろ。普段から割り勘なのに。」
「…随分さっぱりというか…砕けた関係なんですね、お二人とも。」
「これでもたまにお酒飲むくらいには良好よ、トモエ先輩。」
シャーレの先生と言えばキヴォトスで数少ない大人にして多くの生徒から信頼を勝ち取っている稀有な存在だ。
トモエも情報で知る彼の姿はキヴォトス人でもないのに生徒を護ろうと日々奮闘するものばかり。
そんな先生がネイトに肩肘もはらず友人というより…
「…フフッまるで兄弟か親子のようですね。」
そう思えるような距離を感じていた。
ほんのからかいも交じった特に含みもない印象だが…
「「………。」」
「…おや?」
それを聞いた途端、先生とセリカの動きが止まった。
「どうかされましたか、お二人とも?」
「あ…あぁ何でもないよ。」
「うん、何でもないわ。」
首を傾げるトモエが声をかけるもぎこちなく返すことしかできない。
(言えない…。ネイトさんと私達や先生の『本当の年齢差』なんて…。)
(親子どころか…孫や下手すればひ孫位離れてるなんて言えないよねぇ…。)
そう、トモエの発言は実は結構的を射ている。
が、これは本当に限られた者のみが知ることを許されたネイトの真実だ。
黙して語らずを通すしかない。
「おいおい、俺の戸籍上の家族はアリスだけだぞ?」
「…ですよね。変なことを言ってしまい申し訳ありません。」
一方、ケロッと返したネイトの言葉にトモエもそれ以上の追及を止めた。
「ご馳走様!よし、おいらは満足したぞ!」
「それじゃ偵察に戻るとしようか。」
チェリノも視察を満喫できたか、一行はケーキ屋を出て偵察に戻ろうとする。
「さて…もう少し事務局に近づいてみるか。」
「ここから先は親衛隊も多くいるはず。気を付けて行きましょう。」
今はチェリノは追われる身だ。
もし見つかればこの五人でレッドウィンターの即応部隊を相手どらなければならない。
いかにネイトでもそれは厳しいので慎重を期す必要がある。
「むぅ~…コソコソとそう言うのはおいらには合わない…!」
「我慢してよ、チェリノ先輩。」
「もう少ししたら作戦を始められるから、ね?」
それでもやはりチェリノからすればもどかしく感じるのだろう。
「急がば回れってやつだ。焦って行動を起こしても碌な結果にならない」
「…分かったぞ、ラフィアン。おいらが書記長に戻るためだ。それくらいの我慢など、どうということはない。」
それでもこれは必要なことだと飲み込み偵察を再開しようとした…その時、
「おぉっと。ちょいと待ってもらおうか?」
「むッ!?なんだ、お前たちは!?」
「あぁ~…そりゃいるわよね。」
「コイツはまた…。」
一行の前に見るからにガラの悪い3人の生徒が立ち塞がる。
さらに…
「へへへ…ッ!」
「か、囲まれたぞ!?」
「全部で5人か。」
後にも二人立ち塞がり退路を断つ。
「えぇっと…何か用かな?」
聞かなくても予想できるものの一応先生が目的を尋ねてみるが…
「なに、そろそろ祭りがあるんで有志の方々に『お小遣い』を貰おうと思ってね?」
立ち塞がる生徒の中でこの寒空だというのにブラウンのレザージャケットを着ている一人の生徒がそう答えた。
「なんだと!?おいら達からカツアゲするつもりか!?」
「話が早くて助かるよ、チェリノ会長。」
「なるほど、最初から狙いを付けてたという訳か。」
「そりゃレッドウィンターのトップがお供の親衛隊もつれずに街ん中歩くなんてめったにないからなぁ。」
確かに普段のチェリノはトモエだけでなくマリナやお付きの親衛隊によって護衛されている。
それが今や戦闘向きとは思えない秘書官のトモエとたった三人の仲間しかいない。
「何があったかは知らねぇが…たんまり持ってるモンを『労働者』に還元させるチャンスだ。」
紛いなりにもレッドウィンターの権力者の彼女を襲おうというのは自明の理である。
「そこの猫耳と大人二人も出すもんだしな。服くらいは残してやっから。」
「なんだか最早懐かしさすら感じるわ…。」
「アハハ…凍えるのはちょっと勘弁だなぁ。」
そして、先生やセリカからもお小遣いを強請ろうとするその生徒。
見ると何やら派手に装飾された金色の拳銃をひけらかしている。
他の四人もAK-74系統や木製ハンドガードのAR-15系統のライフルを持っている。
人数こそ互角だがこちらはチェリノと先生という戦力外も抱えている状況。
それだけ見れば不利だが…
「邪魔だ、退け。」
「…は?」
「こっちはさっさとこんな寒い所からおさらばしたいんだ。小遣いが欲しいのなら真面目に働け。」
まるで犬にでも吠えられたかのような態度で彼女たちを追い払おうとするネイト。
「そうだそうだ!お前達、おいらが書記長になった暁にはトイレ掃除1か月の粛清を行うぞ!」
これに勢いづいたか、チェリノも声をあげて彼女たちを追い払おうと声を上げる。
「………はぁ~あ、こっちは穏便に済ませようとしてんのによぉ~…。」
その生徒は顔を俯かせそう漏らしたかと思ったら…
チャキッ
「もう関係ねぇ。財布だけじゃなくて身ぐるみも全部置いてってもらおうか?」
しかめた顔を上げてその手に持っていた銃『トカレフTT-33』の銃口をこちらに向けてきた。
ジャキジャキジャキッ!
「ひっ!」
「チェリノ、隠れるのはいいが掴むな。動きにくい。」
「ハハッ威勢がいいのはもうおしまいか、会長さんよ?」
他の四人もライフルを構えるので恐れをなしてチェリノはネイトの陰に隠れる。
「さぁサッサという通りに…。」
包囲状態な上に戦力も装備の差も歴然。
余裕綽々と言った様子で再度恐喝を行うその生徒だが…
「そっちこそサッサと道を開けろ。三度目はないぞ。」
『…は?』
「ちょ、ちょっとラフィアン!!?」
ネイトは微塵も怖気ずに最後通告と言わんばかりに退くように命令する。
「…へぇ…!寒さで頭の中まで凍っちまった奴がいるとは…!」
それを聞き寒さとは違う意味で震え始めた彼女を見て…
「あ~あこれは御愁傷様ね…。」
セリカはやれやれといった態度をし、
「あ、あの~…手加減してくれたらうれしいんですが…!」
先生はやんわりとお願いをするが…
「アンタ達、構うことはねぇ!!!やっちまえ!!!」
『オウッ!』
取り囲んだ生徒達は一斉に襲い掛かるのであった。
………十数秒後、
ズガァン!!!
「…で、この程度か?」
「ひぃいいいいい!!?」
彼女はたん瘤を作り地面に尻もちをつき足の間に『穿孔ショックロケット』が搭載されたインディゴロケットバットを叩きつけるネイトに恐れをなしていた。
『キュ~…。』
「一体何が…!?」
「わ、分かりませんでした…!」
周囲にはたん瘤をこさえた彼女の取り巻きたちが伸びている。
「まぁ…ネイトさんの間合いに入った時点でね…。」
その様子をセリカは当然といった様子で、
「う~ん…シャーレとしては取り締まるべきなんだろうけど…!」
先生は助けてもらった手前複雑そうな表情を浮かべていた。
先ほどの戦い、彼女たちが引き金を落とすよりも早く『V.A.T.S.強化』のレジェンダリー効果が付与されたこのバットでネイトがV.A.T.S.を用い全員にフルスイングを叩きこんだ方が早かったのだ。
「セリカ、伸びてる奴等の武装解除を。」
「分かったわ。」
「で…一体何だ、この悪趣味なトカレフは?」
他の不良をセリカに任せつつネイトも自分の足元に落ちている彼女のトカレフTT-33を拾い上げた。
元が安価な拳銃なのにそこにあらん限りの豪華な装飾が施されておりまるで見栄を張りたいギャングの銃のようだ。
「で、お前は一体どこのどいつなんだ?」
「う、うっす!自分、レッドウィンター連邦学園1年生で『工務部』に所属してます、『蛇喰リサ』って言うちんけなチンピラです!!!」
完全にネイトにおびえながら彼女、『蛇喰リサ』はつらつらと聞かれた質問に素直に答える。
「工務部?」
「当校全体の工事や建築作業を一手に引き受ける大規模な部活です。リサさんのおっしゃっていることに間違いはありません。」
「…ネイトさんの会社にもいろんな不良とかいろいろ来てるけどここまで露骨なのはいないわよ?」
確かにW.G.T.C.にも多くの不良やスケバンが多く訪れているがそこはネイトの腕っぷしを知る者たちが多い故か、行儀良くしてる者たちが大半だ。
が、不良を地で行くリサのような人物がまんま所属しているのは中々違和感を感じている。
「この周りの奴らもか?」
「うっす!アタシの手下っす!ナマ言ってすんませんでした!!!」
「………。」
そんなリサの話を聞きネイトは彼女やその手下の様子を確認する。
見ると手はまだ汚れ服も埃っぽくほんの少し前まで作業していたようだ。
つまり、
「…おい、立て。」
「うっす!」
ネイトの号令で一瞬のうちに気を付けの姿勢で立ち上がるリサに対し、
「お前のまとめ役の所まで案内しろ。」
「はっはい?!」
「ネイトさん?」
彼女のTT-33を突き付けながら工務部のいる場所まで連れていくことを要求。
「見たところこの辺りで何かの作業してるんだろ?」
「う、うっす!イワン・クパーラの準備をしてました!」
「じゃあ、さっさと連れてけ。」
「わっ分かりました!こちらっす!!!」
明らかに自分では敵わない実力差をすでに身をもって叩き込まれたのでリサも反抗することなく回れ右をし歩き始めた。
「ラフィアン?いったい何をしようというんだ?」
「行きがけの駄賃だ。手勢を増やすとしよう。」
―――――――――――――
――――――――
―――
と、リサに案内され工務部が作業しているという場所までやってきたネイトたち。
「こっここっす!」
「…なぁ、工務部って土木工事とかをやっている部活なんだよな?」
着くなりネイトは誰に聞かせるでもなくそんな疑問を呟いた。
てっきり重機などを動かし賑やかに催しの準備をしているものと思っていた。
しかし、そこで繰り広げられていたのは…
《あたしたちは決して奴隷にはならない!!!》
『わあああッー!!!』
「え、あれ?なんだ、この雰囲気は…?」
「ちょっと…工事どころかまたクーデターでも起こそうって雰囲気じゃない…!?」
1人の生徒がお立ち台のような即興の高い台に上り拡声器片手におそらく工務部の部員たちになにやら檄を飛ばしていた。
《これから数日間、『イワン・クパーラ』の連休が始まる!!!》
その生徒はネイト達に気付くことなく話を続ける。
《『イワン・クパーラ』はどんな祝祭だ!!?冬の間、ずっと食べていたかわいたパンや塩漬けの肉を捨て大洋から贈られる新鮮で豊かな果実を楽しむ新緑の祝祭ではなかったのか!?》
「…おい、あのお立ち台にいるのは?」
「う…うっす…あの人がアタシらの部長の『安守ミノリ』先輩っす…!」
「随分話し方がうまい生徒なんだね…。」
「それは好意的な意見過ぎるんじゃない、先生…。」
今声をかけると面倒なことになることは確定なので一旦お立ち台の彼女『安守ミノリ』の話が終わるのを待つことに。
《これはレッドウィンターのどの生徒にも例外はない!あたしたちにもこの祝祭の連休を楽しむ権利があるはずだ!!!》
『そうだっそうだッ!!!』
『私達にも連休をー!!!』
《しかぁし!!!あたしたちは連休はおろか1日2交代制の過酷な環境の中で昼夜問わず作業に動員され労働力を搾取察れているではないか!!!》
「…お前、それはやりすぎだろ?」
「何を言う、盛大なイワン・クパーラを祝うための致し方ない犠牲だ!」
「それを強要するのが問題だって言ってんのよ。」
話を聞く限り…彼女たちの発言は確かに当然の権利であると思える。
工務部という部活に所属しているとはいえ彼女たちも学生だ。
他の生徒同様に休みをもらう権利はある。
「いやぁ話が分かってもらえて何より…。」
と、そんな声を聞き調子を良くするリサだが…
「だからってカツアゲが許されるわけじゃないからな?」
「ッす…!」
にべもなくネイトに言われて一気にしぼんだ。
《これはあたしたちのレッドウィンター連邦学園の理念である『自由と平等』の精神に反する!!!よって、アタシはこの状況を強く糾弾したい!》
『おおおッー!!!』
「チェリノ会長を含むレッドウィンター連邦学園の事務局所属の者たちはあたしたち『工務部』の権利を保障しろー!!!」
「まぁ…言っていることはかなり真っ当…かな?」
「W.G.T.C.がそんな労働環境なら絶対に誰も来ないのは分かるわね。」
「だからそう言う所は滅茶苦茶気を配ってるんだよ。」
「えッウソ、時給どんくらいなの?」
そんな働き方に関する話もしていと…
《あたしたちに十分な休息時間と追加の手当てにそしてっ!えっと…二つずつのプリンを支給しなければストライキとデモを続けていくこととする!!!》
『わああああっー!!!』
『ストライキだ、ストライキ!!!』
ミノリが事務局への要求と抗議活動の継続を宣言し他の工務部員たちもそれに声を上げる。
「待て待て待て、お前たちッ!!!誰の許可を得て…!」
これにはチェリノも黙っていられず声をあげてやめさせようとするが…
「黙ってろ、チビ髭。」
「むギャッ!?」
「ここでお前が目立つと面倒…。」
その首根っこを掴み引き留める。
「はっ放せ、ラフィアン!このまま奴らに好き勝手やらさせる気か!!?」
「セリカに言われたろ、行動の優先順位を見極めろとな。」
「だがっこのままではおいらの威厳が…!」
先の図書館での騒動を引き合いに出し何とかチェリノを押しとどめようとするも…
「………チェリノ会長?」
バッ!!!
彼女の甲高い声は想像以上に通りがよくミノリにも届きこの場にいた工務部員たち全員が一向に視線を向ける。
「………一歩遅かったようですね、ネイトさん。」
「はぁ~あ…こんなのばっかりだ…。」
「なぜこんなとこにいるかは知らないが…ちょうどいい!皆、チェリノ会長を捕まえてこの薪の山に縛っておけ!」」
そう言ってミノリは周辺の工務部員たちに命じチェリノを確保しようとする。
「ま、待て!来るな!おいらを誰だと…!?」
流石にこの人数に詰め寄られるのは慣れておらずに怯えるチェリノ。
その時、
パンパァン!
『ッ!!?』
突如鳴り響く鋭い銃声。
全員が視線を向けると…
「…おい、見かけだけ派手でメンテナンスも碌にしてないだろ。返す。」
「わわッ!?」
チェリノの首根っこを掴んだまま開いた右手で宙高くリサのTT-33を掲げて撃っておいて文句を言いつつ彼女にそれを投げ返し、
チャキッ
「悪いがコイツと契約中なんだ。そっちに引き渡すわけにはいかないな。」
懐からデリバラーを抜き工務部員たちに向ける。
ネイトから醸し出される迫力、そして…
カチッ
「私達の帰りのフライトのチケットなのよ、その先輩。持ってきたかったら…覚悟することね。」
シンシアリティのセーフティを解除し鋭い闘気を放つセリカ。
人数は圧倒的だが…周囲の工務部部員たちは動けなくなった。
「なんだ、お前達!デモ活動の邪魔をするのか!?」
この行動にミノリも腹を立てたかお立ち台から降り…
「『シゲコ』ッ『ワナカ』ッ!一緒に来い!」
周囲にいたであろう部員に声をかけて部員たちに道を譲ってもらいながらこちらに近づいてくる。
そして…
ザザッ!
「デモを邪魔するものは何人たりとも許しておけない!早くチェリノ会長をこちらに引き渡せ!!!」
ネイトの前に出て一切勢いが衰えることなくチェリノの身柄を要求するミノリと…
「あれ?リサ、あんたそっちで何やってんの?いつもの手下は?」
「姿が見えないと思ったら…なんでチェリノ会長と一緒にいるわけ?」
彼女の両脇に控えるように二人の生徒が現れた。
1人は工務部のジャケットの下に赤いカーディガンを着込んだ非常に恰幅も身長も大きい生徒。
そんな巨躯に合わせるように獲物も汎用機関銃『PKP ペチェネグ』とかなりの大物をスリングでぶら下げている
もう一人は腰回りに無数のグレネードとワイヤーやフックにニッパーなどの様々な道具を装備した目つきの鋭い生徒だ。
彼女は脇にグレネードランチャー『GP-25』を装着した『AKS-74N』を下げていた。
「ど…どうも、シゲコ先輩にワナカ先輩…!これにはちょっとばかり深い理由が…!」
「リサ、お前も権力者の犬になり下がったのか!?」
「まっまっさか~!そんなわけないじゃないっすかぁ、部長!」
と、この状況がまずいと思ったか弁明しようとするリサだが…
「さっきコイツの取り巻きにカツアゲされかけてな。全員伸して連れて来させたんだ。」
「ちょぉ!?」
あっさりネイトに所業をばらされ顔を青ざめさせた。
「なんだと!?リサ、工務部の同胞だというのに搾取するブルジョアのような真似を!?」
「違うんすよ、部長!!!この人、ネイトっていうんすけどマジでバケモンだったんすからぁ!」
ミノリの詰められリサは涙目になり顛末を説明すると…
「なに?ネイト…だと…?」
目を見開きネイトを見つめ、
「…そうだが?」
彼も警戒しながらだが名を明かす。
それを聞いた途端、
「皆ッ見ろ!!!このキヴォトスに蔓延る『悪しきブルジョア』の権化ともいうべき大人が今ここにいるぞ!!!
『わあああッー!!!』
ミノリは声高らかに叫び周囲の工務部員たちも更なる熱狂に染まる。
「ちょッ何なのよ、一体!?」
「な、なんでネイトさんの名前を聞いた途端…!?」
「トモエ~!何が起こってるんだ~!?」
「わ、私にもさっぱり…!」
これには先生を含めた全員が事態が呑み込めず圧倒されるしかないが…
「…なるほど、そう呼ばれる日が来ようとはな。」
ネイトは不敵に笑い、
「トモエ、コイツ預かっててくれ。」
「はっはい!」
首根っこを掴んでいたチェリノをトモエに託す。
「なっ何をする気だ、ラフィアン!?」
「『労働争議』の対処も…社長の仕事の一つさ。」
そう言い、デリバラーをホルスターに収め…
ズシャッ!
「さぁ『プロレタリアート』の諸君、この俺に一体何の不満があるんだ?」
『ッ!?』
ミノリの目の前に立ち真っすぐに彼女を見据えて静かにそう告げた。
「なっあの大人…!?」
「ミノリ部長に一人で…!?」
他の工務部員たち見たこともない光景にざわめき、
「へぇ…これは面白そうだね。」
「今までの奴とは違う…。」
傍らに控えていた二人も一歩下がり二人だけの空間を作る。
「フンッ!私は知っているぞ!!!貴様がキヴォトス各地で生徒に労働させ富を得ているということを!」
まず口火を切ったのはミノリだ。
「カイザーが打倒されたと思ったら蓋を開ければその富を貴様の会社が簒奪してブルジョアの顔が変わっただけじゃないか!さぞ、アビドスの労働者階級は今も辛い目にあっているだろう!!!」
アビドス独立戦争から端を発したW.G.T.C.の躍進。
それを引き合いに出しネイトを糾弾し始める。
対して、
「…月平均5%。」
「何!?それはなんだ!?」
「カイザー奪還後のアビドスの月平均の経済成長率だ。」
「なっ!?」
ネイトは冷静にミノリが挙げた時期からのアビドスでの成果のデータを上げる。
今やアビドスはカイザーがいなくなり抑圧されていた商業も復活したうえ有力校ともコネクションを構築することに成功。
さらにはビナーというアビドス砂漠の脅威も排除し更なるインフラへの投資も見込まれている。
「カイザーの経済的圧迫の開放の反動もあるだろうがアビドスは今や爆発的な成長期を迎えている。『ブルジョアの顔が変わっただけ』?俺がカイザーから富を分捕り利益を独占しているだけではこうはいかないだろう?」
そのことを淡々と答えネイトはミノリに手番を回した。
「だが現にW.G.T.C.は数多くの生徒を労働に投入しているではないか!?砂漠での解体事業にゲヘナでの硫黄採掘の話は聞いている!それはその生徒達から富を搾取してるに他ならない!その現実を否定する気か!?」
続けざまにミノリはW.G.T.C.の雇用状況について意見する。
確かに、W.G.T.C.のメインの労働力はアビドスをはじめとした多くの生徒達だ。
ミノリからすれば確かに自分たちと境遇が似ているようだが…
「完全週休二日、時給はキヴォトス平均の倍以上で危険手当や資格手当に特別報酬といった給与面や資格取得援助や各種保険の福利厚生も充実している。特に求職をしてないのに新しい生徒がどんどん働きに来てくれているし離職もそうそうないが?」
労働に見合った対価を支払いバックアップも行っているので彼女の言うような状況でないことを明かすネイト。
「時給が平均の倍以上だって…!?」
「危険手当や資格手当もあるのか…!?」
「私、溶接の免許取るのに全額自腹だったのに…。」
それを聞き、周囲の工務部員たちからそんな声が上がり、
「ぐッ…!」
ミノリも一瞬それを聞き怯んでしまう。
「では今度は俺から君に尋ねるが…。」
彼女の反応を見て…
「『ブルジョア』のなにがいけないんだ?」
「なっ!?」
彼女が自分を目の敵にしている理由である『ブルジョア』、いわゆる『資本家』をなぜそこまで毛嫌いするのかを尋ねる。
「言っただろう!?貴様のようなブルジョアがいるから我々労働者はいつの時代も搾取されているんだ!!!」
「では…プロレタリアはどうやって金を稼ぎ腹を満たす?それは俺のような存在が資本を労働の対価として支払っているからこそだろう?」
「そんなもの、皆が『真の平等』が結実しさえすれば必要ない!富の独占は悪だ!私はブルジョアジーを妥当し富を再分配するために日々活動している!!!」
ネイトの質問に一気呵成にブルジョアジー打倒を叫ぶミノリだが…
「では…ブルジョアジーがいなくなった後、君達はどうやって日銭を稼ぎ糧食を得るつもりなんだ?」
「ッそれは…!」
「答えは簡単だ。残ったプロレタリアートの中から元より貧しい別のブルジョアジーが生まれ…さらに貧しいプロレタリアの集団が出来上がるだけだ。」
その末路を端的に言い表す。
「そもそも…雇用者と労働者は本来は対等な存在だ。差し出す物が給金か労働力の違いはあるがな。」
「しかし、雇用者は使えない労働者はすぐに解雇できる権限を持っているではないか!?」
「雇う前に雇用契約書というものがあるだろ?その契約を満たせなければ契約は不履行、罰を受けるのは当然だ。」
「それでもその解雇された労働者はどうなる!?結局は貧しくなってしまうだけではないか!?」
「その代わり、雇用者はその労働者よりも多くの労働者を養う義務がある。壊疽を切り捨てその分を健全な部分に回すのは間違いなのか?」
「ならばW.G.T.C.はどうなんだ!?使えない生徒を切り捨ててのその繁栄に意味などないぞ!?」
「なにも即切り捨てるわけじゃない。育成期間を設けて適性に合った部署に配属すればいい。そのために色々補助を出している。」
「グヌぅ…!」
一歩も引かないどころかこちらに攻め込んでくるネイトの反論。
ミノリ自身非常に弁が立つ生徒でそれゆえに多くの部員たちが彼女の言葉に感化され付き従っている。
しかし、そんな彼女すらも押し返す経験と実績がネイトにはある。
故に…ミノリと互角以上に意見を交わすことができているのだ。
すると、
「無論、契約が適切と感じず労働者が訴えを起こすのは正当な権利だ。当然、雇用主はその訴えに耳を貸す必要があるのもまた事実。」
ミノリたちがやろうとしていることにも一定の理解を示したネイト。
「~ッ!ならば、今我々『工務部』がチェリノ会長を糾弾するのもまた正当な…!」
それを好機とみて勢い付こうとするミノリだったが…
「だが…ミノリだったな?どうして二交代制休みなしだなんて契約を結ぶ?」
「…え?」
「契約の時点で内容がすでにおかしいのは俺でも分かる。だが、それを認知してなお君は契約に同意した。それはなぜだ?」
彼女自身が結んだイワン・クパーラの準備に関する契約について問う。
「もし、その時におかしいと思ったのならそれを交渉し正常な物にするのが君の役割だ。それをしなかったということは…ただの怠慢だ。」
「怠慢…だと…!?」
「君はいわば工務部の中の『テクロクラート』だ。君の指示で全員が動く。その全員が苦しむような契約を…なぜ結ぶ?」
「それは…!」
外野のネイトやセリカから見ても工務部の労働状況ははっきり言って異常だ。
ミノリがそれを見抜けないほど耄碌していないこともこれまでの話からもよく分かる。
だからこそ、
「ここは確かに独裁色の強いレッドウィンターだ。だが、それでもその土木関連の事業を一手に引き受ける『工務部』ならばこうも言えるはずだ。『そのような不当な契約は断じて結ばない』…と。」
工務部を取りまとめる部長として断固として契約内容の見直しを締結前に行うべきだ。
いや、
「それとも…君はわざと…。」
「~ッ!?」
その先をネイトが口にしようとした…その時だった。
「そこまでだね、ミノリ部長。」
ミノリの肩にシゲコと呼ばれた生徒が手を置き、
「相手が悪かったね、これは。」
ワナカと呼ばれた生徒がもろ手を挙げて首を振った。
「シゲコにワナカ…!」
「いいから少し落ち着きなって。」
「皆も見てる。これ以上は…分かるでしょ?」
「………すまない…!」
二人にそう諭されミノリは一歩下がった。
「さて…白熱した議論の途中にすまなかったね、ダンナ。」
「まさか部長がここまで詰められるのを見る日が来ようとはね。」
そして、二人が代わりにネイトの前に立ち相対する。
「構わんさ。ディスカッションとしては有意義な時間だったとは思ってる。」
ネイトも先ほどまで纏っていた真剣な雰囲気を霧散させて軽く二人に応じた。
「自己紹介がまだだったね。あたしは『猪瀬シゲコ』、レッドウィンター3年生で工務部の『作業班』班長を任せられているんだ。」
「私は『伏見ワナカ』、レッドウィンター連邦学園の2年生で工務部じゃ発破技師をやってるよ。ウチのリサが迷惑かけたみたいでごめんね。」
「後輩の指導位ちゃんとしてほしいものだがな。…おい、もういいぞ。」
「うっす…!」
自己紹介も終えネイトはリサを工務部の方へと戻らせた。
「しかし、やるねぇ。部長があそこまで言い負かされてるのは長い付き合いだけど初めてだよ。」
「部長相手に一切飲まれずにペースを掴ませないなんてね…。」
「彼女も若いなりには結構やる方だとは思ったが?さすがはこんな大所帯を率いれている存在だ。」
ただ弁が立つだけでなく彼女自身にもカリスマがあるからこそこれほどの人数の部員をまとめ上げられているのだろう。
「先生だったらあの人に討論で勝てそう?」
「いやぁ~…どっちかというと私の仕事は生徒の補助だから…。」
そう腕を組んで唸る先生だが彼も自信をもって彼女と議論できる確証はない。
ネイトだからだったこそ互角以上に渡り合えたのだろう。
「それで…部長がアンタを『ブルジョア』と言って罵倒したのは許してほしい。」
そして、シゲコがミノリの言動を謝罪する。
「なに、あれくらいの罵倒は俺のいたところじゃ挨拶にもならん。」
「それはそれでどうなの…?」
「まぁ気にするな。事実、カイザーとやり合った時に比べても比でもない。」
と、ミノリの言動は気にしていない旨を述べつつ…
「で…『そう言う』ことなのか?」
ネイトは端的に二人にそう尋ねる。
「まぁ…そう言うことだよ。」
「おかげでみんながまとまるってのもあるけどね。」
シゲコとワナカも少し困った表情を浮かべて答えた。
「難儀なものだな、全く。」
ネイトは少し呆れたように肩をすくめる。
ネイトがミノリに感じたもの。
それは…『手段が目的になってしまっている』ということだ。
つまり、労働環境を良くするためにデモやストライキをするのではなく…デモやストライキをするために労働環境の非を探しているという本末転倒な状況なのである。
「なんだか見慣れてる見るみたいな反応だね。」
「長生きすると彼女以上の存在を目にする機会はあるのさ。」
そんな存在をネイトはいくつか見たことがある。
『人類のため』のために『技術の独占』を掲げ武力を行使してきた『B.O.S.』。
『人造人間』のため『その他の人命』の犠牲をいとわずに暗躍した『レールロード』。
そして…『人類の未来』のために『地上の人類』を排除しようとした『インスティチュート』。
そんな破格のスケールの物を見てきたのだ。
ミノリの思考を読むことはネイトにとっては容易かった。
「よくもまぁ他の部員はついて来てるが…。」
そう呟くネイトだが…その理由も往々にして分かっている。
「この面子をまとめ上げる事ができるのもまた彼女だけ…と言うことか。」
「理解してもらえて助かるよ…。」
「そう、私やシゲコ先輩にはできないことをミノリ先輩はやってるの。」
往々にしてそのような組織のトップにはすさまじい『Charisma』とそれを存分に活かせる『Intelligence』が備わっているものだ。
だから、この工務部の部員たちも一も二もなくミノリに付き従うのだろう。
「…なぁ、もう一度彼女をここへ。」
「…なにをする気だい?」
ネイトの要求に表情を鋭くするシゲコ。
「ネイトさん…。」
先生もおぼろげながらミノリという生徒がどんな存在か察し警戒するが、
「安心しろ。俺の意見を言うだけだ。」
「…分かったよ。部長。」
「う、うん…!」
ネイトのその言葉を信じ再びミノリは彼の前に立った。
「ミノリ、確かに君から見れば俺はブルジョアだ。それは俺の自信も否定することはない。」
「………。」
「だがな、俺自身も砂に塗れて働く一人の『プロレタリア』でもある。」
今なお第一線に自らも立って働くというミノリたちに通じる立場であり、
「今の地位は最初は一人で砂漠で砂に塗れ働いていたのが始まりだ。」
彼女同様に闘争の末に得た一切の後ろめたさのないものだと答える。
さらに、
「幸運なことに俺の元にも多くの生徒が集まって共に働いてくれている。生きるためにやってきた子達だ。それを護る義務が俺にはある。だから働いてもらって利益を得てそれを還元している。」
自身もミノリ同様に多くの生徒達を抱え守る存在とも述べる。
「今のW.G.T.C.…そしてその社長という地位は幾多の今現在をもってしても強大な相手に勝ち取った地位だ。それもきちんと法と契約に則った正当なやり方でだ。」
カイザーだけではない。
三大校に連邦生徒会…どれひとつとっても一切の油断を許さない強敵たちばかりだ。
「そう…なんだ…。」
「あぁ。その全てを『悪しきブルジョア』の一言で片づけられるのは…はっきり言って心外の至りだ。」
それを貶めたミノリの発言に嫌悪感を示し、
「ミノリ、君の心情や嗜好はこの際何も言わない。それでも…俺はブルジョアの立場でプロレタリアの身を案じている大人の一人…ということは理解してもらいたい。」
自分の譲れないラインを彼女に示した。
それを聞き…
「…すまなかった、ネイト社長…。貴方を知りもせずに貶めたことをあたしは今は恥ている…。」
ミノリも神妙な面持ちとなり先ほどの激情は鳴りを潜めネイトに素直に謝罪するのだった。
これには周囲の工務部員たちもざわつく。
「…いいさ、理解してくてたのならな。」
ネイトもそれを受け入れ…
「あ、あと一つ言っておくことがあった。」
「ん?なんだ?」
「今の書記長はそこのチビ髭じゃないぞ。」
『………え?』
サラッとチェリノが現在の書記長ではない事をネタ晴らしした
「こらーッ!!!誰がチビ髭だぁー!?」
「…一体どういうことなんだ?」
「事情を説明しますと…。」
ネイトの相変わらずの言い草に怒るチェリノといまいち状況が呑み込めないミノリにトモエが一行の状況を説明してくれた。
「なんと…では、今レッドウィンターの権力を握っているのはマリナ委員長でチェリノ会長は単なるチビに過ぎないということか…。」
「チビって言った!!?またチビっていったぁ!!!」
「で、今私やネイトさんが手を貸しているのは安全にアビドスに帰る為って事。」
「そのほかいろいろ契約して恩恵に与れるようにしてるから今このチビを薪にくべられるのは困るってことだ。」
「うぁああああん!!!みんなおいらをチビってよぶぅぅぅ!!!」
説明を終え歯に衣着せぬ物言いのネイトとミノリの言葉にとうとうチェリノは地団太を踏み始める。
「………あぁ、ありがとう。部長、どうやら話は本当みたいだ。」
「何か分かったか、シゲコ?」
「『内務委員会』の知り合いの話じゃ確かにクーデターでマリナの奴が今書記長室にいるってことだ。」
「内務委員会って何だい?」
「要はまぁ不穏分子の監視とかやってる連中だよ、先生。」
事務局内部の情報からそのことが真実だと判明。
「………なるほど、では今チェリノ会長を糾弾しようとあたしたちの待遇の改善にはつながらない…と言うことか。」
「そう言うことね。」
現状を把握できたミノリは顎に手を当て考え…
「…ネイト社長やアビドスの生徒は契約でチェリノ会長側についてるんだな?」
「俺達だけじゃない。227号特別クラスと知識解放戦線もそれぞれチェリノに約束を取り付けて作戦に参加する予定だ。」
「そうか、分かった。」
ネイトとチェリノの関係性を聞き…
「…ならば、チェリノ会長!我々の要求をのめば我々工務部も会長の復権に協力しよう!!!」
「何…!?」
「要求は『イワン・クパーラ』中の休日と手当の増額、そしてプリンの支給を部員全員倍!それが飲めるならあたしたちは会長の味方だ!」
朗々高らかにチェリノへ協力の契約を提案した。
「それは…!」
チェリノは一瞬返事に悩む。
だが、
「チェリノ会長、これはチャンスですよ…!」
「トモエ…!?」
「工務部の生徒達は敵に回すと厄介ですが味方にすれば心強いです…!それに彼女たちはちゃんと報酬があれば裏切ることはありません…!」
トモエが耳打ちして彼女にアドバイスする。
彼女はチェリノを補助するために様々な生徒のデータを頭に叩き込んでいる。
工務部もまたレッドウィンターきっての大所帯だ。
「さらに同等の知識解放戦線とレッドウィンター最強を擁する227号特別クラスも加わればマリナ委員長と言えど太刀打ちはできないでしょう…!」
「つまり、おいらが書記長に戻る近道…と言うことか…?」
「はい…!おそらくネイト様もこれが狙いでここへやってきたのかと…!」
「う~む…!」
チェリノはトモエの意見を聞き得られるメリットと支払い関連のデメリットを勘定し…
「………いいだろう!貴様らの要求を呑む!だが、必ずおいらを事務局書記長に戻すんだ!!!」
胸を張ってミノリの提案を行け入れることを告げ手を差し出す。
「契約成立だ!」
ミノリも彼女の手を取り握手し、
《皆、我々の勝利に向けて事務局に突撃する準備を整えよう!!!!》
『おおおッー!!!』
拡声器を握り作戦参加の旨を部員たちに伝えるのであった。
「…少々予想外だが大方狙い通りだな。」
「予想外ってどういうこと、ネイトさん?」
「本当なら俺が間に入って工務部とチェリノに交渉させるはずだったが…。」
その様子を浅い笑みを浮かべながら見つめるネイト。
「なかなかどうして…短時間に変化するものじゃないか。」
「ですね…。生徒の子達の成長はいつ見ても驚きばかりです。」
僅かな時間で自分たちで考え行動する域にまで達したチェリノを先生と共に微笑ましく思うのだった。
「さて…手勢は十二分だな。俺はそろそろ動く。」
「分かりましや。こちらは任せてください。」
「そっちも気を付けてね、ネイトさん。」
「セリカや先生もな。じゃあ、また後で。」
そう言い、周囲が鬨の声に包まれる中ネイトは静かに離脱する。
作戦の時は…間近に迫っていた。
………なお、
ガシッ
「さぁチェリノ、出番だ。」
「………え?」
その際に有無を言わせずにチェリノの首根っこを掴み引きずっていくネイトなのであった。
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 リサ
フルネーム 蛇喰リサ
役割 STRIKER
ポジション FRONT
武器種 HG:TT-33『ラスヴェスタ』
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 貫通
防御タイプ 軽装甲
学園 レッドウィンター連邦学園1年生
部活 工務部
年齢 15歳
誕生日 11月21日
身長 153㎝
趣味 廃品回収・『お小遣い』徴収
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 ワナカ
フルネーム 伏見ワナカ
役割 SPECIAL
ポジション MIDDLE
武器種 SR:AKS-74N+GP-25『ライントラッカー』
【挿絵表示】
クラス サポーター
攻撃タイプ 爆発
防御タイプ 軽装甲
学園 レッドウィンター連邦学園2年生
部活 工務部
年齢 16歳
誕生日 9月8日
身長 161㎝
趣味 発破・ブービートラップの開発
オリジナル生徒紹介
【挿絵表示】
ヘイロー
【挿絵表示】
名前 シゲコ
フルネーム 猪瀬シゲコ
役割 STRIKER
ポジション BACK
武器種 MG:PKP ペチェネグ『クラッシャー・カバニョーク』
【挿絵表示】
クラス アタッカー
攻撃タイプ 貫通
防御タイプ 重装甲
学園 レッドウィンター連邦学園3年生
部活 工務部
年齢 17歳
誕生日 5月26日
身長 175㎝
趣味 食べ歩き