―――政治家『ヨシフ・スターリン』
「ふふふ…なるほど、権力とは本当に甘く…素晴らしいものだな。」
場所はレッドウィンター連邦学園の中枢、『レッドウィンター事務局』の書記長室。
そこでは書記長のみが腰を掛けることを許される豪奢な椅子に寄りかかり満面の笑みを浮かべる現在の書記長である『池倉マリナ』がいた。
「好きなだけ昼寝も出来るしおやつも好きなだけ食べられる!会長だけだ吸われるこの椅子も…まぁちょっと小さい気がするがフカフカで気に入った!」
ひょんなことから起こしたクーデターでチェリノから勝ち取ったレッドウィンターの会長の座。
その特権と環境を満喫しているようである。
「この生活ならいつまででも楽しめるな…。これが天国というものか…。」
普段なら決して味わえない優越感を感じるマリナだが…
「ただ…チェリノ会長の行方が分からないのは気にかかるが…。」
一抹の不安が今も消えずにいる。
チェリノは確かに我儘で仕事もサボってばかりのどうしようもない生徒だ。
が、それでも幾度もクーデターを受けても必ず最後は書記長の座に帰って来る間違いない傑物でもある。
「………もう一度聞いてみるか。」
そう言い、マリナが内線電話の受話器を取りある場所につなげる。
Prrr…Prrr…
《はい、こちら『内務委員会』?》
数度の呼び出し音の後、電話の相手から気の抜けた声が返ってきた。
「『タイガ』委員長!私だ、マリナ書記長だ!」
《あぁこれはどうも、マリナ委員長。で、ご用件は?》
「チェリノ会長はまだ拘束できないのか!?あのちんちくりんの捕縛にいつまでかかっている!?」
書記長であるがゆえになんとも偉ぶって電話の相手に尋ねるマリナだが、
《そうはいってもねぇ。こっちも一生懸命やってるのよ。いやはや、流石はチェリノ会長。逃げ足に関してはレッドウィンター史上1間違いなしだね。》
「言い訳はいい!早く見つけろ!!!いいか、今日中にチェリノ会長を掴め切れないなら粛清だぞ!良いな!?」
彼女相手であっても全く畏まる様子の無い相手に業を煮やして怒鳴りつける。
すると、
《そうカッカすんなって。あ、そう言えば…。》
電話の相手が何か思い出したようだ。
「なんだ、何か手掛かりでもあるのか!?」
マリナは鼻息荒くしその内容に集中しようとするが…
《いやね、さっき工務部の昔馴染みから『今の会長は誰だ?』って聞かれたんだけどマリナ会長って答えてもよかった?》
「そんな当たり前なことにいちいち質問するな!早くチェリノ会長を捕まえに行け!」
ガチャン!
あまりにもどうでもいい内容だったのでとうとう受話器を叩きつけて電話を切ってしまった。
「全く…!チェリノ会長が重用していた委員長どもだから放っておいたのに…!」
多くの役職を名前だけだが兼任していたチェリノ。
だが、そんな彼女をしてマリナ同様に委員長を他人に任せている部署もある。
一つは保健委員会でもう一つが…内務委員会だ。
例えるならゲヘナの風紀委員会と情報部を掛けあわせたような『対学区内』用の治安維持組織のようなものである。
それぞれかなりの曲者だが能力は本物だ。
「…まぁきっとすぐ捕まるだろう。」
気を取り直し腕を組んでそう呟くマリナ。
「いくらレッドウィンターが広いとはいえあの頑固なちんちくりんがいきそうな場所など大方予想がついているからな、ハハハ!」
現在、彼女に付き従うべき親衛隊や保安委員会は全て彼女が抑えている。
この状況でチェリノ単独で書記長の座に返り咲くのは逆立ちしても不可能だ。
しかも、普段のチェリノの素行を快く思わない生徒も多い。
姿を現すのは時間の問題であろう。
「さて…次は何をしようか…?」
ともあれ今はこの贅沢なひとときを楽しもうとマリナが思いを巡らす。
「そうだな…。校内に設置された銅像をこの私の姿に変えて…。」
次に行う気まぐれな政策を思いついた…その時、
バァン!
「マリナ委員長、大変だ!!!」
書記長室の扉が勢いよく開き一人の生徒が飛び込んできた。
「なんだ、同志『トウカ』!?失踪したチェリノ会長でも見つかったのか!?」
「いや、そうじゃない!」
「ではなんだ、その慌てようは!?」
いきなりのことにマリナは先ほどの苛立ちを引き摺っているのか声が荒くなるが…
「クーデターだ!!!またとんでもない生徒がここに押し寄せてきてるぞ!!!」
「なっ何、クーデターだと!!?」
まさかまさか、本日二度目のクーデター勃発である。
しかも…
「人数も半端じゃない!!!知識解放戦線に工務部、227号特別クラスの問題児まで加わってざっと数百人はいるぞ!!!」
「すっ数百人!?一体全体なんでそんなバラバラな部活の生徒が一斉にやってきたんだ!!?」
レッドウィンターの『クーデター』ではまず考えられないような異常事態が起こっていた。
事務局本庁舎前、今そこでは…
ズダダダ…!
「こっこちら庁舎西側!!!227号特別クラスの生徒がいきなり襲い掛かってきました!」
突然の奇襲を受けるも決死に反撃を行う保安委員会の部員たち。
やはりレッドウィンターの戦力の一翼を担うだけあり奇襲を受けてなお素早く集結し果敢に反撃を行っている。
そこへ…
「ごめんねぇ~。停学解除のためだからそこ退いてぇ~。」
ボシュシュシュッ!
素面とは思えないようなトロンとした声でシグレがリボルバー式グレネードランチャー『RG-6』、銘は『スプリングパンチ』を発砲。
「った、退ひ…!」
それを察知し逃れようとする保安委員会の部員たちだが…
ズガガガァァァン!!!
『のわああああ!!?』
飛来した『VOG-25』が着弾し炸裂、複数人を纏めて吹き飛ばした。
「皆、行くよぉ~。さっさと終わらせて祝杯を挙げようぉ~。」
「うっす、シグレ!!!最高のカンポット奢ってくれよ!!!」
「今までほったらかしにしてきた鬱憤、ここで晴らしてやる!!!」
その勢いのまま戦線を押し上げていく227号特別クラスの生徒達。
日々過酷な環境で過ごし鍛えられているのだろう。
人数こそ少ないが士気は旺盛で果敢に保安部へ攻撃を仕掛けている。
さらに別の方向からは…
「行け行けぇー!新しい知識を得る邪魔をするなら全部倒して進めぇー!!!」
「トリニティ中央図書館にゲヘナやミレニアムの図書館、待ってて!今行くからねぇ!!!」
バシュッバシュッ!
パラララ…ッ!
227号特別クラスの優に数倍はいるであろう軍勢『知識解放戦線』が遮二無二に突っ込み小火器の弾丸の雨あられを絶え間なく浴びせていた。
「くそっなんで知識解放戦線まで!?」
「マリナ委員長が本を踏み台にでもしたのか!?」
物陰に隠れながらそうぼやく保安委員会の生徒達だが無理もない。
通常、レッドウィンターのクーデターというものは参加人数の多寡はあれど『一組織』が行うものだ。
どこもかしこも我が強く癖もあるレッドウィンターの部活同士で手を取り合うなどそうそうない。
だが、このクーデターでは227号特別クラスに知識解放戦線という普段は接点はないであろう別組織がまるで息を合わせて勃発した。
そんな例外中の例外が起こっている中…
「こんなことできるのって…!?」
「馬鹿言え!いくらなんでもこんな短時間で…!」
保安委員会の生徒達の脳裏には一人の人物が思い浮かばれた。
が、
「~ッ!!?皆、退避ー!!!」
誰かがそう叫んだ。
思わず顔を覗かせると…
「私達の野望の邪魔になります!」
小さい体で最前線で戦うモミジが肩にRPG-7『図書館利用規則第7号』を構え弾頭の熊の顔をこちらに向けていた。
「あっRPGーっ!!!」
誰かが叫んだが…
バシュゥッ!!!
無情にも特異な形状のロケット弾は射出され、
ドッガアアアアアンッ!!!
『ぎゃああああ!?』
遮蔽物諸共吹き飛ばされてしまった。
「こっこのチビ!!!」
それを見て難を逃れていた別の保安委員会生徒がモミジに向けAKMを構えた。
が、
「これで3羽目です。」
プシュ
シュドッ
「むにぁ…?」
ミツが『カクテリーズアンブラ』から発射した特殊弾頭が命中したちまち昏倒にしてしまう。
「ありがとうございます、ミツ先輩!」
「礼には及びません、モミジさん。これも研究のためですから。」
「そっそうですか…!では、皆さん!気を取り直して前進しますよ!!!」
自分達とはまた違う目論みながらも心強い仲間であることに変わりはない。
そんな奇妙な組み合わせの一団は着実に本庁舎に迫っていく。
と、庁舎の側面から迫りつつある二つの集団。
だが、そんな二つの集団をもってしても…
《進めぇ、同志諸君!!!我々の望みはすぐそこだぁッ!!!マリナ委員長を打倒せえええ!!!》
『ураааッー!!!』
「こっこちら事務局正面ッ!!!工務部がっ工務部が大挙して押し寄せてきてます!!!」
ミノリ率いる工務部の勢いには掛けあわせても届かないだろう。
銃はもちろん火炎ビンや投石、果てにはプラカードでそのまま殴り掛かりに突撃する者までいる。
「保安部が何する者か!!!労働者の底力を思い知れ!!!」
ドタタタッ!!!
ミノリも士気を挙げるだけでなく自らも愛銃のAKM『鋼鉄の松明』を発砲し保安委員会に果敢に攻撃を仕掛ける。
「来い、リサ!!!憎き権力の走狗が相手だ、遠慮はいらないぞ!!!」
「あぁ~なんでッ!?ただカツアゲしようとしただけなのにィー!?」
パンパァン!
そんな中、ミノリに尻を蹴り上げられるように檄を飛ばされリサもへっぴり腰で愛銃のTT-33『ラズヴェスタ』発砲。
彼女自身、徒党を組める程度には強いがそこはやはり工務部。
腕っぷしで彼女以上の生徒はごろごろいるため…ぶっちゃけた話『小物』である。
「あだぁ!?」
「よ、よっしゃ当たった!」
それでも銃の腕前はバカにできたものではなく拳銃で保安部の生徒を撃ち抜いて見せる。
「いいぞ、リサ!シゲコ、右翼の同志を仕切れ!怯むな、すべてを突き崩せ!!!」
「任せな、ミノリ!行くよ、アンタたち!」
そんなリサをしり目にミノリは作業班長であるシゲコに一部部隊を任せ多方面から攻勢をしかける。
「奴ら、分かれたぞ!分断して排除しろ!!!」
それを見た保安委員会の生徒が排除しようとするが…
「分かれた!?作業分担は工務の基本!!!」
先ほどまで姉御肌を感じられたシゲコの表情が一転、野性味あふれる凶暴な表情を浮かべ…
「突貫工事の時間だッ!巻き込まれたくなかったらそこを退きな!!!」
ズガガガガガガッ!!!
その恵まれた体躯に負けず劣らずの大物の機関銃『PKP ペチェネグ』、『クラッシャー・カバニョーク』を腰だめでまるでSMGのように振り回して発砲。
「あっアイツマジぐへぇ!?」
「ペチェネグだぞ!?一体どんなパワーしてギャン!?」
大口径のライフル弾『7.62×54㎜R弾』の弾幕が今まさに攻撃を仕掛けようとしていた保安委員会の生徒達に襲い掛かる。
「流石シゲコの姐さん!負けてらんねぇ!」
「それでこそうち等の班長だ!!!」
それに感化された彼女に随伴する工務部の部員たちも各々の得物を乱射する。
正にイケイケどんどんな雰囲気の工務部の戦端だが…
「音を出すな、背後をつくぞ…!」
「所詮は工事屋、戦術の理解が浅いな…!」
建物の路地を縫い工務部の背後を取ろうとする保安委員会の一団。
やはり日々訓練を積みレッドウィンター事務局を守護する部活だけあり正面突破以外の戦術も持ち合わせている。
そして、工務部の背後を取る絶好の位置について…
「行くぞ…!」
奇襲を仕掛けようと一歩踏み出した、その時だった。
ッピィン!
「え?」
戦闘を進んでいた生徒の足元からまるで張り詰めた糸を弾いたような音が鳴った。
思わず視線を下に落とすと…そこには緩んだワイヤーと輪っかに繋がったピンがあった。
さらにそれを辿ると…非常に見慣れた手榴弾『F1グレネード』が繋がれてあるではないか。
「あぁ…やっちゃ…。」
全てを察し諦めたように呟いた次の瞬間、
ドガアアアアアンッ!!!
路地を衝撃波と撒き散らされた破片が呑み込んだ。
シャカシャカ…
「関係者以外立ち入り禁止だよ。事故が起こるからね。」
そんな保安委員会部隊の末路を路地の出口のそばでマルチツールを器用に弄びながら呟くワナカがいた。
工務部所属発破技師、伏見ワナカ。
彼女は爆発物の扱いもさることながら手先も非常に器用だ。
さらに少々悪戯好きな彼女の性格も相まってありあわせの材料を使い『ブービートラップ作り』を趣味としている。
普段の作業やデモ活動ではその趣味は早々活かされないが…
ッピィン!
ドガアアアアアンッ!!!
『のわあああああ!!?』
プッツン!
バゴオオオオオンッ!!!
『ギィやああああ!!?』
「足元に注意しなきゃ。…もう遅いけどね。」
至る所の路地で鳴り響く弦を弾くような音と爆発音に笑みを浮かべる。
最初からドンパチが起こることは分かり切っていたうえ保安委員会を丸ごと相手取るなら相手も背後を取る戦術をとるはず。
それを予期し…至る所の路地にトリップワイヤーと即起爆するように細工を施した手榴弾を仕掛けていたのだ。
「さて、と。私も前線に行こっと。」
自分の仕掛けが流々なの事とその仕上げを確かめワナカもAKS-74N『ライントラッカー』を携えミノリたちと合流するために動き出す。
227号特別クラス・知識解放戦線・工務部、思想も境遇も全く違う複数の部活による一斉攻勢。
普通なら指揮系統がめちゃくちゃでまともな作戦など遂行できるはずもないが…
《先生ぇ~、西側に増援が来たよ~。》
「分かったよ、シグレ。ミノリ、工務部から少し応援を回せるかい?」
《了解した!誰か我こそはという同志はいるか!?》
そんな面々を取り持つのが彼、先生の役目だ。
西側から進攻するシグレから要請がくれば大人数のミノリに要請をかける。
《爆発物は余ってる?そっちの方にもトラップ仕掛けときたいんだけど?》
「確かシグレがグレネードランチャーを使ってたよ、ワナカ。シグレ、弾薬に余裕はある?」
《VOG-25の通常弾でいい~?》
《上々だよ。先生、私が何人か連れて西に向かうね。》
さらに部隊間の装備の融通などの話もまとめ戦力の転用、
《こちらシゲコ、庁舎東角に大勢固まっている!》
「了解。モミジ、その角にロケット弾を撃ち込める?」
《お任せください!》
別方向からの火力投射など次々に飛び込んでくる要請を次々に捌いていく。
「トモエ、『ツァーリ』の様子はどう?」
「現在、待機中。突入タイミングの指示を待っています。」
「分かったよ。多分、そろそろ…!」
傍らでどこかと通信を行っていたトモエからの報告を受けまるで何かを待っているかのように戦場を窺う先生。
その頃、
「同志トウカ、戦況はどうだ!?」
「各方面から攻勢が激化して押されている!迎撃態勢構築までは何とか持つが…!」
想像以上の攻勢に書記長室で対応を苦慮するマリナ達。
「くっこうなれば総員に突撃を命じて…!」
なんとか事態の打開のために突撃命令を下そうかと思い至ろうとした、その時だ。
《こちら内務委員会委員長。》
「ッ!?タイガ委員長か!?」
先ほど内線で聞いたのとは質の違う真剣さを感じる声が無線で聞こえてきた。
《私が部隊を率いて援軍に出るからその隙に態勢を整えて。》
「大丈夫なのか!?」
《保安委員会ほどじゃないけど私らも戦力はあるから何とかするさ。》
「よし、では頼んだぞ!」
願ってもいない援軍に沸くマリナ。
「同志トウカ、タイガ委員長の稼いでくれた時間を無駄にするな!」
「了解、すぐに迎撃態勢を整える!」
正に事務局の走力戦の様相を呈してきたこのクーデター。
その舞台と言える事務局庁舎前では…
パンパァン!
「おらぁどうしたぁ!!!保安委員会なんか口ほどにもねぇなぁ!」
先ほどまでへっぴり腰だったが戦況が優位になっているからかネイトと初対面の時のチンピラ口調に戻っているリサ。
『ラズヴェスタ』を乱れ打ちしながら突撃し、
(よっしゃ、このままアタシが事務局に一番乗りだ!)
後続を突き放しながら事務局庁舎に迫る。
(へっへっへっこれでアタシも出世できる!手下もたくさん、もっと楽ができ…!)
そんな明るい未来を夢見て走り抜けるリサだったが…
「そこまでだよ、不穏分子。」
ダガガガ…ッ!!!
「ぶゲラッ!?」
事務局庁舎の入り口からけたたましい銃声と共に飛来した弾丸が浴びせられ声をあげて地面に臥した。
「なっなんだ!?」
「あ~こりゃ厄介なのが…!」
ミノリは驚くがシゲコはこれを行った人物に心当たりがあるのか表情が少しひきつる。
さらに、
ダダダッ!!!
「保安委員会!援軍に来たぞ!」
「あっありがとう!」
庁舎の中から黒を基調とした制服に身を包んだ生徒達が駆けだし保安委員会の部隊の支援に入る。
「あ、アイツら!?」
「内務委員会の部隊!?」
その制服こそ、保安委員会と双翼をなすレッドウィンターの治安維持組織『内務委員会』の実働部隊の象徴だ。
そして…
「あーあ…誰が書記長になっても私の席があればどうでもよかったのにさぁ…。」
気だるげながら圧倒的な雰囲気を纏った声と共に彼女が現れた。
黒い内務委員会の制服の腰にラバー警棒を差し純白のコートとロシア帽を着込んだ生徒。
携える得物は分隊支援火器『RPD』、銘は『イスカリニーチェリ』。
そうため息交じりに呟いたかと思えば…
「──そこ動くな、根絶やしにする。」
鋭い視線を工務部の一団に向け…
ガダダダダダ…ッ!!!
『うわあああああ!!?』
手当たり次第に7.62×39㎜を掃射し始めた。
これにより先陣を切っていた工務部の集団が一気に気絶させらた。
「たっタイガ委員長まで!?」
「ウソだろ!?『不動のタイガ』が出てきやがった!!?」
この人物の登場に保安委員会と工務部の面々も驚愕する。
「誰が不動だ?私の席さえ守られて美味しい思いができれば他はどーでもいいだけだよ。」
「やっやっぱとんでもねぇ奴どわッ!?」
「なんだってこんなタイミングでぇ!?」
なんとも怠惰なことを言いながらRPDを打ち続ける彼女。
『九城タイガ』、内務委員会委員長を務める生徒だがお世辞にも勤務態度はまじめとは言えない。
クーデターの度に書記長が変わるレッドウィンターにおいて己の立場さえ盤石ならだれにでも従う軽薄なスタンス。
さらにはラバー警棒を用いた強引な取り調べや賄賂の授受など黒い噂が絶えない。
だが、そんな彼女にこれまでの書記長たちは更迭などの処分は下さない。
なぜなら…彼女自身の戦闘能力もさることながらその黒い関係を利用し様々な権力者の弱みを握っているのだ。
しかも、現在の地位を保証するならその時の書記長の力になると公言おり事実不穏分子の取り締まりは行ってはいる。
つま、下手に処分を下そうと手を出せば失脚と戦力ダウンと不穏分子の暗躍が避けられないという三つの損失を折ってしまうのである。
そして、
「あっシゲコ!」
「よぉタイガ!珍しく重役出勤かい!?」
「アンタ、珍しく連絡とってきたと思ったらこういうことだったのか!」
「何っ!?シゲコ、内務委員会の知り合いというのは!?」
「そう、アイツだよ!」
シゲコがコンタクトを取った内務委員会の人物はタイガのことである。
「このっいつもデモの時に便宜図ってやってるのに恩を仇で返す気か!?」
「そっちだって一人だけ色々美味しい思いしてんの知ってんだからな!?」
ガダダダダダ…ッ!!!
ズガガガガガガッ!!!
まさかの対面に互いに悪態つきながらそれぞれの得物を放ち始める。
「タイガ委員長、指示を!」
「保安委員会部隊と連携して戦線を維持!迎撃態勢が整う前まで耐えな!」
『了解!』
タイガの指示を受け内務委員会部隊の生徒も交戦を開始。
「くぅこれは少し予想外だな!」
まさかの援軍の登場に身を隠しながら状況を確認するミノリ。
普段のデモやクーデターならば相手をすればいいのは保安委員会の部隊だ。
だが、今日のクーデターはいささか大騒ぎし過ぎたようだ。
「先生、こちらミノリ!内務委員会の援軍だ!このままでは進軍が停止する!」
事態打開のために彼女は先生に指示を仰ぐ。
すると、
《了解、ミノリ!すぐに支援を行うよ!》
「し、支援?!」
先生から素早く返事が来てその内容に首を傾げるミノリ。
「迎撃態勢はまだ整わないのか?!」
「も、もう少しとのことです!」
タイガ率いる内務委員会の応援が駆けつけてくれたことにより息を吹き返した保安委員会の部隊。
そのおかげもあってか工務部やほかの戦線でも進攻がゆっくりとなり余裕が生まれつつある。
「よし、あとは耐えれば…!」
迎撃態勢が整えはあとは消化試合、タイガはそう思い笑みを浮かべる。
その時だった。
バガッドガッメキィッ!
「ぐはっ?!」
「なっ?!」
傍らにいた内務委員会の隊員に弾丸がたたき込まれた。
さらに、
バシィッ!チュドォッ!ガスっ!
「「「あがぁッ?!」」」
立て続けに撃ち抜かれていく周りの生徒たち。
これを見せられようやくタイガも気付く。
「そっ狙撃だ!スナイパーが居るぞ!」
そう…先生が事態打開のために用意した支援、それこそが…
ズバァズバァズバァンッ!!!
タァンッ!タァンッ!
「先生…また一人…制圧した。」
「こっちも保安委員会の子をやったわよ!」
《ありがとう、セリカにルマ!この調子で援護をよろしくね!》
ルマとセリカの2人で構成されたスナイパー部隊だ。
「いい腕してる…やるね…セリカ。」
およそ200m後方の屋根の上で伏せながら戦場を覗くルマ。
小口径ライフルである『シンシアリティ』で立て続けに精密射撃をこなすセリカに短くも褒め言葉をかけるが、
「ルマ先輩こそそんな大口径の速射で当てれるなんて凄いわね…!」
セリカもセリカでルマを見え少し目を見開きながら彼女を称賛する。
ルマが構えるその銃、それはセリカの『シンシアリティ』をサイズも口径も上回る代物だ。
その名も『SVDS』、『マークスマンライフル』という分野の先駆けである『SVD』のストックを折りたたみできるようにした改修型だ。
名は『トリョフズヴォーン』、ルマはこの銃による3点バーストの如き速射による狙撃を得意としている。
「まだまだ居る…私と競争…する?」
「いいわね、アビドスの意地を見せてあげるわ!」
奇しくもともに仲間のせを守る者同士。
ルマとセリカは再びスコープを覗き込み狙撃支援を再開する。
そんな2人と一緒にいるのが…
「えへへへぇ…皆を指揮する先生も素敵ですねぇ…!」
「ってどこ覗いてんのよ、ノドカ先輩?!」
望遠鏡越しに先生を堂々とストーキングするノドカだ。
「いやぁなかなか見れないのですからこの機会を逃すわけにはいきません!」
「皆が戦ってるのにストーキングしないでよ!」
それを誤魔化すどころかむしろ誇るような態度にセリカのツッコミが響き渡る。
「ノドカ…早く次の標的…見つけて。」
「そうよ!先輩は『スポッター』としてここにいるんだから!」
「おおっとそうでしたね!」
二人に言われてようやく望遠鏡のレンズを戦場に向ける。
「事務局庁舎右側に反撃を企図する動きがあります!距離、238m!」
「庁舎右側…見つけた…私が撃つ…。」
ズバァズバァズバァンッ!!!
「あっ左側じゃ機関銃手がつきそうになってますよ!距離は247m!」
「了解、すぐに黙らせるわ!」
タァンッ!タァンッ!
そして、持ち前の観測技術の高さを活かし保安委員会と内務委員会の脅威になりそうなポイントの発見と距離を素早く伝え二人がその指示された場所へ狙撃を放つ。
「た、タイガ委員長ッ!狙撃です、スナイパーが狙ってイタぁッ!?」
「しかも腕がめちゃくちゃいい奴でむギャッ!?」
「クッいつもそんな準備してこないくせに!?」
これにより庁舎正面を護る部隊の動きは抑え込まれ、
「やるじゃないか!227号特別クラスのスナイパー!」
「アビドスの助っ人も聞いたところじゃ精鋭らしいぞ!」
「同志諸君、道が開けたぞ、権力者の走狗を蹴散らせぇぇぇ!!!」
「どんなもんだ、タイガ!今日のデモは一味違うんだ!
ミノリたちの勢いも再燃し再び攻勢が再開する。
《こちら227号特別クラス、こっちの抵抗が弱まったよぉ。》
《知識解放戦線の方もこのまま前進します!》
「先生、全ての戦線で攻勢が再開したそうです!」
「了解、トモエ!そろそろ頃合いだ、『ツァーリ』に出動を要請して!」
これを受け…いよいよ作戦は最終段階に進む。
「全く…バラバラな連中なのにイヤに連携が取れてるなぁ…!」
ガッチャン!
遮蔽物に隠れながら新たな弾帯を装填するタイガ。
一次は押し返しかけたが絶え間ない狙撃支援により再び攻勢部隊の勢いは復活。
このままでは押し込まれるやもしれないが…
「タイガ委員長、朗報です!」
彼女の元に保安委員会の隊員が駆け寄ってきて…
「迎撃部隊の配備がそろそろ完了、屋上に重機関銃隊が敷設するとのこと!」
「やっとか!」
待ちに待った保安委員会の迎撃部隊が到着することを知り表情を崩す。
「これで反乱分子も蹴散らせます!いかに柊姉妹がいようと重機関銃陣地には無力…!」
そして、このクーデターの終結を確信したようにえみっをこぼす保安委員会の生徒。
確かにいかにレッドウィンターの最強を関する柊姉妹と言えど重機関銃の縦列の前では無力だろう。
「そうだな。流石にあの暴れん坊の…姉妹…も…」
「?タイガ委員長?」
その言葉にタイガも同意仕掛けるが…
(なんだ、この違和感は…?)
内務委員会の委員長で身に着けた洞察力が何かをかぎつけた。
このクーデターは前代未聞の複数組織による大規模なものだ。
その中には227号特別クラスの姿もある。
そして、こんな大騒動であの柊姉妹がいないはずが…
「~ッ!!?227号特別クラスとやり合ってる連中、聞こえるか!?」
「たっタイガ委員長!?」
突如、無線機を手に声を荒げるタイガ。
《はっはいどうかしましたか!?》
「そっちに柊姉妹…いや、姉妹のどっちかでもいい!姿は確認できるか!?」
《え?!し、少々お待ちを!》
227号特別クラスとぶつかっている西側の部隊に柊姉妹の所在を尋ねるタイガ。
しかし…
《いっいません!姉と妹のどちらもいません!》
「何…だと…!?」
その姿はどこにもないという報告に固まった。
再度言うが…この大騒動であの二人がいないことはあり得ない。
そんな二人がいないということは…
「各戦線、警戒しろ!まだ終わりじゃ…!」
タイガがそう警告を発したと同時に…
《こちら保安委員会!屋上に重機関銃を設置する!》
待ちに待った保安委員会からの報告も入ってきた。
《先生、こちらセリカ!事務局の屋上がなんか騒がしいわよ!》
その変化は先生側にも伝達。
「問題ないよ、セリカ!そろそろ…!」
対して、先生は冷静に返す。
「急げ急げ!反乱者たちを駆逐するんだ!」
問題の屋上では多くの保安委員会の生徒があわただしく活動、三脚を設置しそこへ重機関銃『DShK38重機関銃』を据え付けていく。
ベストセラー重機関銃『M2』のそれよりも巨大な弾薬『12.7x108mm弾』を発射する強力な銃だ。
「準備ができ次第すぐに撃ち下ろせ!マリナ委員長を護るんだ!」
正に意気軒高な保安部隊が反撃を行おうする。
その時だった。
ドドドドドドドッ!!!
「…ん?なんだ、この音は…?」
彼女たちは聞き慣れない音を聞き取った。
機関銃の発砲音とも違う。
それよりももっと巨大で力強いものが空気を叩くような音だ。
これに当てはまるものと言えば…
「マリナ委員長がヘリ部隊でも要請したのか…?」
レッドウィンター連邦空軍所有のヘリが保安委員会の生徒に想起された。
が、それにしては空にその姿が見えない。
「一体何の…?」
頭に疑問符が浮かぶが…
ドドドドドドドッ!!!
「んなぁッ!?」
その答えは突如現れた。
幹線道路の上を這うように飛行し突如現れたのは…レッドウィンターではまず見られない双発のティルトウィング機。
しかし、その正体はこのキヴォトスではもう知られたもの。
「あ、アビドスのベルチバード!!?」
「なんでここに!?」
保安委員会の生徒達は驚愕し、
「来たぞ、我々の最強の切り札たちが!!!」
「行けぇー!やっちまぇー!」
「あとは任せましたよー!」
クーデターを起こしていた生徒達は歓喜する。
《こちら『ツァーリ2』ネイト、ただいま現着。これより椅子を奪う。》
「了解しました!お気をつけて!」
「頼みましたよ、お三方!」
無線で飛び込んできたネイトからの通信に先生は答えトモエはどこか心配そうな言葉を贈る。
そんなベルチバード機内では…
「ネイトさん、屋上に重機関銃が!」
パイロットのアヤネからの報告を受け、
「『ツァーリ3』に『ツァーリ4』、作戦開始だ!ど派手にぶっ放してやれ!」
「任しな、дядя!」
「ヒャッホウ!やっと暴れられる!!!」
ハッチそばにいる完全装備の『ツァーリ3』カイアと『ツァーリ4』サイナにそう声をかけ…
「喰らいな、保安委員会!!!」
「二年前のお返しだ!!!」
ヴゥオオオオオ…ッ!!!!
ベルチバードのドアガンであるミニガンを屋上目掛け掃射。
「たっ退避ー!たいグハッ!?」
「あっあんなの聞いてヅァッ!!?」
毎分3000発以上の発射レートで放たれる5㎜弾の雨は次々に屋上に機銃陣地を築こうとしていた保安委員会の生徒達を撃ち抜き、
「いいぞ、アヤネちゃん!屋上はクリアだ!」
「了解しました、サイナちゃん!接近します!」
あっという間に屋上の安全を確保。
ベルチバードは高度を下げ屋上に接近し、
「3と4は突破口の確保、急げ!」
「行くぞ、サイナ!三度目の血の雪事件にしてやろうぜ!!!」
「オウよ、姉ちゃん!邪魔すんのは全部ぶっ壊しゃいいんだな!!!」
柊姉妹が素早く屋上に飛び出し、
「おいおいッ前より軟になってんじゃないか、保安委員会よぉ!!!」
ズドドドドドドォッ!!!
「二年前の保安委員会だったら即発砲だ!!!優しくなったんじゃねぇか、えぇ!?」
ズダダダダダダダッ!!!
『ぎゃあああああ!!?』
「あっ『Окровавленный падуб』だッ!!!」
「な、なんでこんなタイミングで!!?」
まだ意識のある保安委員会の生徒目掛けRPK16『ムシチェーニイェ』とSaiga-12K『グルービー』を叩きこんで進路を確保する。
そして…
「早く降りろ、『ツァーリ1』!アヤネはこの後航空支援なんだよ!」
「いやだぁ!こんな恐い所を行くなんて聞いてないぃぃぃ!!!」
『The Problem Solver』を携えたネイトは『ツァーリ1』こと、チェリノを降ろそうと腕を引っ張る。
そう、ネイト達が考案した作戦とはど派手な陽動と航空機による中枢への急襲。
このような作戦…憶えはないだろうか?
何を隠そう、これはかつての『アビドス独立戦争』のカイザー・コーポレーション本社への最終作戦をブラッシュアップしたものである。
そして、この作戦の要として同行しているのがチェリノだ。
「お前がクーデター終結宣言しないと話が進まないんだ!!!早く来い!!!」
なんせネイトは部外者な上に柊姉妹はそんな柄ではない。
となると、あの面々の中ではその宣言に相応しいのはやはりチェリノだけということになる。
「そっそうだ!おいらはこのまま空中で戦場を監視しておく!三人でマリナを確保するのだ!!!」
しかし、まさかこんな戦場のど真ん中を突っ切っていくとは聞いておらずチェリノは駄々をこねる。
なんとか降りずに済むように説得するが…
「それは先生とトモエがやってる!お前にとびっきりの役目残したんだから四の五の言わずに来い!」
そのような逃げ道はすでにネイトが塞いでいる。
先生に陽動部隊を任せたのはこのためである。
「とっともかくおいらは降りないぞ!!!」
と、キヴォトス人の力を活かし踏ん張るチェリノだが…
「お生憎様、いくらキヴォトス人でもな!!!」
ズリズリ…ッ!
ネイトは徐々に彼女を引っ張り始める。
「お前くらいなら俺でも力負けしないんだよ!」
「なっなんでぇ!?」
まさかのこの事実に驚くチェリノだが無理もない。
ネイトと彼女では体重差はおよそ3倍。
例えるなら超高性能なエンジンを乗せた軽自動車と大型SUVが引っ張り合っているようなものである。
重量差がありすぎていかにハイスペックな軽自動車でも大型SUVに引っ張られるのは自明の理だ。
というわけで無情にもチェリノは引き摺られ…
「来い!革命の時間だ!!!」
「いぃやあああああ!!!」
「では皆さん、御武運を!!!」
二人は事務局庁舎に降り立つのであった。