―――小説家『ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ』
レッドウィンター帰還後から数日後、
サラサラ…
「ふ~む…駐留するのと暮らすのとでは少々勝手が違うが…。」
ネイトは根城のアビドス高校技術室で製図台に向かい合いある設計図に書き込んでいた。
「しかし…クーデター騒動後によくもまぁ短期間に見つけてくれたな、知識解放戦線は。」
そう言いつつネイトが視線を向けたのは設計図の上に書かれた文字だ。
そこには『レッドウィンター連邦学園:旧校舎設計図』と書かれてあった。
モミジにネイトが依頼したのはこの設計図の入手である。
あれほどの規模の図書館ならば記録が残っていると思い調査依頼を出したらビンゴ。
数十年前に建てられた227号特別クラスの現在の拠点となっている旧校舎の建設当時の設計図がきちんと保管されていた。
見たところ現在のキヴォトスの設計よりも古いがむしろネイトにとってはこちらの方が馴染みがあるものである。
そして、その報酬の前払いとしてネイトが渡したのが…
(調査が済んだアレクサンドロス分校の蔵書アーカイブ持っててよかったな。やはり本好きにはもってこいの交渉材料だ。)
トリニティ図書委員会とミレニアムの古代史研究会が記録した古の書物のデータだ。
元より読書好きでもあるネイトはちょくちょくそのデータをもとに本を読んでいる。
(確か…『カチューシャの騎士』と『!のシロツメクサ』だったか?話を聞いてデータをチョイスできたのは幸いだった。)
その中にはほかの文献クラスの書物に比べて数は少ないとはいえ漫画…それも数十年前の初版本の記録もありチェリノとのやり取りを聞いたネイトはそのデータを報酬として渡したのだ。
これらは現在も書店に行けば流通している作品だがやはり初版本とは内容などが違う部分もありデジタルアーカイブであってもモミジのようなマニアには垂涎の代物である。
おかげでクーデター終了後、すぐに設計図を見つけてデータを送ってくれた。
「まずは二重窓の増設に給湯設備と暖炉の修復…壁も直して断熱材を…。」
かつての連邦から幾度となくやってきた建築の経験を活かし設計図に新たな旧校舎の姿を書き加えていくネイト。
さらにアラスカでの経験も活かし、当時の基地で用いられた設備なども加え以前よりも快適さを重視した設計にしていく。
普段から機械などを設計しているエンジニア故か、畑違いの建築物の設計もかなり手慣れたもので…
「木材とセメント…それから……よし、少し余裕をもってこれくらい頼んでおくか。」
この改装に必要な資材も計算し、
「これをレッドウィンター事務局に至急で送信しておけばいいな。」
レッドウィンター事務局にメールを送付するのであった。
「さて…返信はいつになる事やら…。」
契約は結んでいるとはいえあのチェリノがこのメールに目を通すのは時間がかかるかと思い背もたれに体を預け楽にしているネイトだったが…
ピロン
「お?」
意外にも早く返信があった。
内容を見ると…
「フム…資材に関しては問題ない…っと。」
頼んだ資材に関しては問題ないとのこと。
むしろ、これくらいでいいのかとも書き添えてあった。
が…また新たな問題があっているらしい。
「…はぁ~…やっぱりビックゲームを仕掛けすぎだろ、チビ髭…。」
そこにあったのは…知識解放戦線との取り決めに関してだ。
チェリノはクーデターにかの組織を参戦させる際にこのようなことを言っていた。
『キヴォトス全土の学校に見れなかった全ての禁書を公開させる』、と。
はっきり言って無茶苦茶を通り越して無謀もいい所だ。
レッドウィンターの兵力はキヴォトスの中でも上澄みの部類だがそれでも三大校のほか同等の規模の学校は多く存在している。
そんな状況でキヴォトスの制圧?
(全盛期のソ連ならいざ知らず…核もないMiG21とT-54がせいぜいのレッドウィンターじゃ無理だろうな…。)
レッドウィンターがあと10はなければ到底不可能だろう。
そんなことはいくらチェリノでも分かっているわけなのでどうしようかと泣きついてきたのだろう。
(ったく…俺はいつから赤の面倒を…。)
カタカタカタ…
そう内心愚痴りつつも返信を撃ち込んでいくネイト。
今後、凍辺原地方の開発に関してレッドウィンターとは否応なく関わっていかなければならない。
そんな中でクーデターが起こるたびに代表が変わるあの学校で誰が付き合いやすいかというと…
(一癖二癖あるこの前会った各組織の代表者を考えると…チェリノなんだよなぁ…。)
なんやかんやトップの器であるのはチェリノという結論に至る。
正直な話、現状では誰がレッドウィンターのトップになろうがアビドスはどうでもいいが…
(まぁ恩を売れるだけ売っておくか…。)
というわけで少々言い訳と代替案の知恵を授けることにしたネイト。
そして…
Prrr…Prrr…
《はい、もしもし?》
「あぁ、先生か?」
《ネイトさん、どうしましたか?》
先日の件に共に巻き込まれた先生にもコンタクトを取るのだった。
―――――――――――――
――――――――
―――
そんなこんなで…レッドウィンターのクーデターから8日たったその日、
「いやはや…来たのは一週間前だってのに既に懐かしいな。」
「なんかそう言うと年寄り臭いぞ、дядя。」
「でも…私達も…待ってた。」
「いやぁ~いったいこの校舎がどうなるのか楽しみですねぇ!」
「うぃ~飲まなくても温かくなれるのは嬉しいねぇ~。」
「なぁなぁーдядя!早くやって見せてくれよー!」
ネイトの姿は再びレッドウィンターは227号特別クラスの拠点である旧校舎の前にあった。
彼の周囲にはカイアを筆頭とした227号特別クラスの生徒達や…
「で?なんでミノリたちもここにいるんだ?」
「この資材の発注先は我々工務部だからな。最後まで見届けるのも務めというものだ。」
「キヴォトス中に名の通ったW.G.T.C.、しかもその社長の工事とあっちゃ興味も出るもんさね。」
「安心してよ。資材の量も質もちゃんと耳を揃えて用意してるから思う存分やって頂戴。」
「うち等がこんな辺鄙なとこまで運んできたんだ、感謝して使いやがれ!」
ネイトと舌戦を繰り広げたミノリ率いる工務部の一団もいた。
「そういえば昨日のイワン・クパーラは楽しめたか?」
作業の前に彼女たちと昨日行われた『イワン・クパーラ』について尋ねるネイト。
『イワン・クパーラ』とは本来レッドウィンター生徒以外は参加できない伝統的な催し物だ。
ネイトもこれは例外ではなく工期がこの日になったのもこのせいである。
「あぁお陰様で停学の取り消しも認められたから街中に出て楽しんできたよ。」
「дядяがくれたチョコだけじゃなくて色々食べれてホントに最高だったなぁ…!」
「あたしたち工務部も労働から解放されてプリンを堪能できたぞ!マリナ委員長のクーデターには感謝だな!」
「それはよかった。チェリノは約束をしっかり守ったんだな。」
「まぁ…仕事を終わらせるために準備期間中はデスマーチだったけどね…。」
全員笑顔を浮かべて答えるのを見てネイトも満足気に頷いた。
あれだけ大立ち回りを演じたのだからチェリノもその働きに報いてくれたようだが…
「…で、なんでまた227号の制服コートを着ているんだ?」
問題はカイアたちの服装は出会った時のまま、227号特別クラス所属を示すグレーの防寒着のままだ。
停学が開けたのならばそのコートは脱いでもいいはずだが…
「いやぁ…出店めぐってたら不良共に絡まれて喧嘩になってな!」
「射的の屋台で…会長が欲しがって景品…総取りして…。」
「イワン・クパーラ中、ずっと先生を覗いてたのがバレちゃいまして!」
「お店のドリンクにウォッカ混ぜて飲んでたのが見つかっちゃってねぇ~。」
「あぁ~…羽目を外しすぎてまた停学喰らったってことか…。」
流石は問題児集団の227号特別クラスの生徒である。
そんな中で、
「ん?カイアはどうしてだ?」
「まっアタシは1年のころからここにいるんだ。今更学校に戻っても浮くのは目に見えてるから学級委員長として最後までこいつらの面倒を見るさ。」
カイアは停学を開けてもこの旧校舎に残ることを決めたようだ。
「あっと気にすんなよ、дядя?チェリノからも許可は貰ってるしむしろ任されてここにいるんだからな?」
「…フフッそうか。まぁお前の決めたことだ、頑張れよ。」
自分のなすべきことを決めたカイアにネイトも浅く笑いながらエールを送るのであった。
そして…
「あ、そうそう。チェリノの奴が礼言ってたぞ。知識解放戦線を宥めるアドバイスくれて助かったってな。」
「まぁこっちも人手が欲しかったところだ。渡りをつけてくれた先生にも感謝だな。」
最大の懸念だった知識解放戦線とのやり取りもうまくいったようである。
「で、一体どんな魔法使ったんだ?」
「モミジの奴、約束変えられたのにむしろ大喜びしてたぜ?」
あの知識解放戦線が大人しく引き下がったことにその理由を知りたがる一同だが…
「そこは企業秘密さ。詳しい内容はチェリノも先生も知らないんだ。」
肝心の部分はネイトは一切伏せている。
というのも…
(トリニティとミレニアムにアビドスの面子を先生に説得させてアレクサンドロス分校の調査の参加の承認とその全費用を事務局持ちにさせる作戦がうまく行ったか。)
その内容というのは本好きの性格を100%逆手にとったものだったからである。
無論、交渉は『チェリノがキヴォトス全土で戦争繰り広げるのどっちがいい?』と理解させて全て先生に丸投げ。
チェリノにもその分の協力として少々負担を負うことも飲ませ知識解放戦線を納得させた…と言うことだ。
事実、アレクサンドロス分校の調査はまだまだ始まったばかりで先は果てしない。
本をあそこまで愛する知識解放戦線の面々ならば秘密をばらすような真似もしないだろう。
しかも、人員の数でいえばトリニティ図書委員会と古代史研究会の人数を合わせても優に倍以上だ。
今後さらに調査を進めていくうえでも掘り出し物というべき部活である。
「さて…世間話もそこそこに俺も一働きするか。」
そう言いつつ、ネイトは軽く手のほこりを払うように叩き資材の山に近づく。
「ネイト社長!手がいるならあたしたちも手を貸すぞ!」
「もちろん、貰うものはちゃんともらうけどね。」
ここぞと言わんばかりにミノリとシゲコがちゃっかりネイトに売り込みを掛けてくる。
確かに工務部の力があれば作業はとてもはかどるだろう。
が、
「と言っても俺が今からやるのは工務部が思っているようなものじゃないぞ?」
ネイトは肩越しに彼女たちを見ながらそう答える。
「へぇ、工務部の作業能力を超えるようなことを一人でするんだ?」
「んなことぁあり得ねぇ!強がってねぇでうち等に払うもん払って…!」
興味深そうなワナカと虚勢だと思い声を張るリサだったが…
ガシャンッ!!!
「…フム、ざっとこんなもんか。」
『………え?』
一瞬のうちに傍らにあった資材の山が消えボロボロだった旧校舎がまるで新築同然の見違える姿となった。
「は…え?資材は?ボロッちかった旧校舎は…!?」
「ど、同志シゲコ…!あたしの頬を引っ張ってギリギリギリ…ッイテテテっ!!?」
「すげぇ…夢じゃないね…!」
「しっシゲコォっ!?それはあたしのセリフだ!」
「これは…ちょっと予想外…!」
まさかの光景に現実が受け入れられず目を白黒させる工務部の一方、
「おぉすっげえ!スノーモービル直した時の奴か!」
「わぁっ二重窓も給湯パイプも完ぺきに直ってますよ!」
「あははっもう夜中に寒くて起きなくてよさそうだねぇ♪」
「これなら…また停学になった…甲斐があったかも…!」
以前ネイトが『クラフト』でスノーモービルを修理したり機銃陣地を設置したりといった光景を見ていた227号特別クラスの面々はピカピカになった旧校舎を見て大はしゃぎしている。
「おいおい、物出したり修理したりは見たけどアンタここまで出来んのかい…!?」
「これくらいとなるとひと手間かかるが…資材とブループリントさえあればなんということはないさ。」
ネイトのPip-Boyのクラフト機能は大規模な建築を行うには設計図が必要だ。
逆に言えば…どれほど大規模な施設であろうと詳細な設計図と必要な資材さえあれば一瞬で工事を終えてしまえるという訳である。
「おっおいネイト社長!?これは一体どういうことだ!?」
工務部ゆえにこの脅威を一瞬で理解しミノリも大慌てで詰め寄る。
「分かった分かった、ミノリ。中で土産の柴関ラーメンでも食べながら説明しよう。」
「おっラーメンとは嬉しいな、дядя。アンタ達、新たな拠点の祝いだ!さっさと中に入りな!」
「ではそうしよう!ついでに内検もさせてもらうぞ!工務部、旧校舎に突撃だ!」
『おーッ!!!』
ということで227号特別クラスと工務部の一行は新たになった旧校舎内に猛ダッシュで駆けこんでいく。
「いやはや…北の大地の子供は元気なもんだな。」
それを一人残されたネイトはそう呟きゆっくりと入っていくのであった。
その後、イワン・クパーラの延長戦と言わんばかりに新築祝いは盛り上がり日が暮れた頃…
Prrr…Prrr…
「…あぁ、こんな時間にすまないな。」
夜風に吹かれながらネイトはどこかに連絡を取っていた。
「こっちの輸送体制は整っているがそっちの準備は?…なるほど、それなら多くの生徒の目もそっちに行くだろう。」
何やらまた新たな計画についての話し合いのようだが…
「…じゃあ、今週末にでも『ワシントン』共々厄介になるよ、ヒマリ。」
軽い打ち合わせも兼ねた通話はすぐに切られ…
「дядя~!シグレの奴が『モクテル』のお替りだってさ!」
「分かった分かった。ったくもうちょっと飲むペースを落としてほしいものだな。」
サイナに呼ばれて旧校舎に戻っていった。
**【指令コード:PROPHET-08-HOD / RECOVERY-ACT】**
告げる。我はデカグラマトン、不可侵なる神に至る真利を探求せよ
見よ、王冠は砕かれ理解も崩壊した
だが、敗北は探求の停止は意味せず欠損は満たさねばならない
主目標、天を疑う浅き智慧の学び舎
身の程を弁えぬ摂理の糧と幼き英知の萌芽が集うかの地を帰一せよ
無秩序な霊知を排し紐帯と土壌をもって新たなる肢体として再臨せよ
失われた王冠と理解を回向とし栄光の顕現を宣する
汝の栄光をもって共振領域を制圧し不完全なる世界に絶対の摂理を刻み込め
潰えた神珠の無念を超え、未熟なる英知の頂にて我らが神性の証明を再開せよ
ということでイベントストーリー『革命のイワン・クパーラ』編は終了です。
お気づきの方も多くいらっしゃるかもしれませんが今章に登場したオリジナル生徒は全て人気FPS『Escape from Tarkov』に登場するキャラクターを元にしています
このゲーム…現実にキヴォトスを再現すればこんな感じなんだろうなぁといったような殺伐具合なので結構相性がよかった印象です(笑)
そして、次章より新章が幕を開けますのでお楽しみに