突如発生した『サンクトゥムタワー』のシステムダウンによる連邦生徒会の行政権失効。
これにより数千の学校を擁するキヴォトス全土は大混乱に陥った。
元より銃撃戦が日常な場所だ。
そんな場所が権力による統制を失えばどうなるか?
答えは簡単、火薬庫に火のついたダイナマイトを放り込むようなものだ。
キヴォトス各所で不良や武装集団の犯罪や暴動が発生。
普段は不良の活動があまりない学区でも活発化し一般生徒に危害が及ぶ。
さらに戦車やヘリなどの出所不明の兵器の不法流通も爆増。
ライフラインも不通になるという事態に陥った学校もある
キヴォトス三大校と呼ばれるマンモス校もこの事態の収束に四苦八苦していた。
そんな騒動は当然アビドスにも…
アビドス市街地にて…
《オラァ!邪魔だ邪魔だぁ!》
『キャー!』
市民を蹴散らし車を踏みつぶしながら大通りを疾走する戦車の集団。
型式はⅢ号戦車がほとんどだが…その数二個戦車中隊。
総数24台もの大軍団でアビドスの街を進撃。
「ヘン、噂に聞いてはいたが辺鄙なところだ。」
《これならゲヘナで暴れてたほうがよかったぜ。》
「やめとけ、あの『化け物』に出張られたらたまんねぇだろ?」
ここにやってきた者たちは要は他所で暴れる勢力からあぶれた不良たちである。
とにかくこの機に暴れたい、そういった特に目的などない集団だ。
そんな彼ら彼女らにとって衰退したアビドスは体のいいサンドバックも同然。
「いっそこのままこの辺の店でも略奪してやるか!」
《いいな、それ!こんな時じゃなきゃ出来ねぇし!》
と、市民を脅かすだけでなくいよいよ直接害を加えようとした時…
《第一分隊および第九分隊、頭とケツを潰せ。》
「「待ってました!」」
不埒者どもへ鉄槌を下す号令が下った。
次の瞬間、ビル屋上で待ち構えていたアビドス生徒が姿を現す。
その肩には筒状の兵器『M72 LAW』が背負われている。
それぞれ指示を受けた先頭と最後尾の戦車に向かい照準を定め発砲。
300㎜もの装甲を貫く成形炸薬弾、Ⅲ号戦車ならどこに当たろうと致命傷だ。
「な、なんだ!?何が起こった!?」
《上だ!上からロケット弾を撃ち込みやがった!》
《いったいどこの誰が!?》
予想外の反撃を受け混乱する戦車部隊の不良たち。
「くそ、下がれ!」
《ダメだ、後ろもやられてる!後退できない!》
先頭と最後尾の戦車を真っ先に潰されたため身動きもできない。
「だったら反撃を…!」
《撃てるか、そんなとこ!》
しかも攻撃は頭上から、砲身の仰角の関係で戦車は手も足も出ない。
戦車の死角『頭上』からの攻撃、的確な行動阻害、ビルに挟まれた立地…
「やばい、完全に誘い込まれた…!」
彼らは理解した。
理解はしたが…あまりにも遅すぎた。
次の瞬間、前方のニ両に襲い掛かる蒼い二本一組の閃光。
稲妻を凝縮したかのようなそれは容易に戦車を貫き一両貫いてもまだ衰えず後方の戦車内部にまで到達。
串刺しになった計4台の戦車は砲塔が吹き飛び爆発炎上。
「ッ!?なんだ今…!?」
《真正面からぶち抜かれたのか!?》
突然の事態に戦車部隊に衝撃が走る。
だが、そんな停滞すらも…アビドスの地を踏み荒らした者たちに牙をむいた。
「悪いが加減はしない!稼ぎたきゃ俺より早く『喰らえ』!」
ネイトが全速力で戦場をかける。
戦車二個中隊を相手に勇往邁進、真正面から突撃を仕掛ける。
「な、何だコイt…!?」
「遅い!」
動揺が抜けきらない戦車隊に向けネイトは片手でそれを構える。
『ガウスライフル』、使用弾薬は『2㎜EC』というせいぜい釘くらいの大きさと言う超小口径。
だがしかし…発射方式は『通常にあらず』。
引き金に指をかけ本体後部に装着されたニキシー管のカウントが『99』になった瞬間、発砲。
速度マッハ10、『超電磁』によって放たれた極超音速の弾丸は空気との摩擦で生じた放電現象が青白い光の尾を『二本』引いて飛翔。
寸分違いなくⅢ号戦車の正面装甲部に命中しまるで何もないかのように貫入。
車体内部で弾頭そのものが小規模な爆発を起こし、
『グアアアアア!?』
搭載されていた弾薬も誘爆、爆炎を噴き上げる中、
「よっと!」
炎に怯むことなく砲塔上部まで駆け上がり跳躍、隣に並ぶ戦車に向け飛び掛かり、
「ウラァ!」
砲塔目掛け右飛び蹴りを放ち爆発ベントを作動させ砲塔側面の装甲を破砕。
砕かれた装甲版と爆炎が車体内部を蹂躙しソフトキル。
続けざまにV.A,T,S.を起動し、次列の二両に照準を定めガウスライフルを発砲。
V.A,T,S.によるピンポイント狙撃、弾薬庫を的確に撃ち抜かれほぼ同時に火達磨となった。
《食うのはえぇって、アニキ!?》
《うち等も負けてられるか!》
ほんの20秒程で8両撃破と言う恐ろしい戦闘速度に屋上にいる生徒たちも驚愕するがそこは日ごろネイトから鍛えられている者たち。
新しいM72を取り出し眼下の戦車目掛け撃ちおろす。
元より軽量安価な対装甲用火器、キヴォトス人の膂力をもってすれば10本近い量を一気に運搬できる。
何せ『ボーナス』が下をウロチョロしているのだ。
逃がさない手はない。
ネイトへの誤射を避けるためであるが後方の6両にロケット弾が降り注ぎ爆散。
「なッなんなんだよ、これ!?どうなってんだ!?」
「アビドスなんて雑魚しかいないんじゃなかったのかよ!?」
既に16両を喪失した戦車部隊残存の乗員たちは恐慌状態に陥る。
自分たちはゲヘナからあの『化け物』を避けるためにアビドスにやってきたのだ。
だがどうだ?
今自分たちの目の前にいるのは…見紛うことなき『怪物』ではないか。
次の瞬間、さらに4台が赤い閃光でハチの巣にされ爆散する。
それを実行した怪物は見たことない重火器を携え迫って来る。
(逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ…!)
恐怖に駆られ、心の底から後悔の念が噴き出すが…すでに時遅し。
目の前からはレーザーが、頭上からはロケット弾が襲い掛かり戦車二個中隊は全滅。
時間にして1分と経たない電撃戦であった。
「クリア!第一、第九分隊はそのまま次の場所に向かえ!」
《アニキ、一人で半分以上もってくのは無しですよ!》
「俺のボーナスはお前たちで山分けしろ!獲物はまだまだいるんだ、細かいことは気にするな!」
《マジすか!?よっしゃあ!俄然やる気が出てきたぜ!》
「分かったら次の侵入者のところへ向かえ!アビドスを荒らさせるな!」
瞬く間に戦車団を排除したというのにすぐさま転戦する生徒たち。
ネイトも今しがた破壊した戦車を解体し搭乗員を縛り上げる。
「角や尻尾持ち…こいつらゲヘナの連中か。」
キヴォトスでは学区ごとにその身体的特徴が如実に出る場合がある。
このように『悪魔』のような身体的特徴が発現しているのは隣接したゲヘナ学区の生徒に多い特徴だ。
「全く…元の居場所があるならそこで暴れてろっての…。」
そう独り言ちて移動しようとした、その時、
「あ、あのッ!」
「ン?」
「アビドス高校の関係者の方ですか!?」
先ほど逃げ去っていたアビドスの一般市民がネイトに声をかけてきた。
声をかけてきた人物以外にも後ろにはそこそこの人数がいる。
「そうですが…どうかしましたか?」
別に隠すことでもないしX-02の胸部装甲にはアビドス高校の校章が溶接されてあるので一目瞭然だ。
そう肯定するネイトに…
「あ、あのこれ!」
一般市民はネイトにミネラルウォーターのボトルを差し出した。
「これは?」
「わ、私たちこれくらいしかできないんですけど…貴方たちがアビドスを守ろうとしていることに感謝しているんです…!」
「いつもアンタたちは皆のために働いてくれてるんだ。だから少しでも協力したいんだ。」
「戦うことはできないけど…少しでもアビドス高校の方の助けになれたらと思って…ご迷惑でしたか…?」
なにもキヴォトス人の全員が銃撃戦に慣れているわけではない。
彼らのような一般人の中にはヘイローを持たない者もいる
そういう一般人は先ほどのような事態にはなすすべがなく逃げるしかない。
もしネイトたちがいなければ…。
そう考えるとぞっとするしかない。
だから、戦えないなら戦えないなりにネイトの助けをしたかったのだ。
それに対し、ネイトは…
「…ありがとうございます。いただきます。」
感謝を述べてボトルを受け取り、
「…ふぅ。ンッ…ンッ…ンッ…。」
パワーアーマーのヘルメットをとりミネラルウォーターを一気に飲み干した。
「プはぁ…ごちそうさまです。」
飲み干したボトルはPip-Boyに収納し。
「…俺達も全力でアビドスを守ります。ですので皆さんは家に帰ってしっかりと施錠し静かに過ごしてもらいたい。それが我々にとって一番の助けになります。」
戦うことではなく自分の身を守ることで自分たちに協力することを求めた。
この非常事態の現在、外敵の排除はできるが民間人の防衛までは人手の関係で手が回らない。
なので、ネイトはすぐに家に帰ることで最低限の防衛を自らとってもらうように求めたのだ。
「お願いします。俺達が全力でアビドスを守れるよう、どうかご協力を頼みます。」
深々と頭を下げるネイトに…
「わ、分かったよ!アンタたちが俺たちを気にしなくていいようにすぐ帰るよ!」
「陰ながらだけど応援してるよ!アビドスの街をよろしくね!」
「おじさんも気を付けてね!」
市民たちもその頼みを快諾してくれた。
「ありがとうございます。では自分はこれで。」
市民達の返答を聞き、ネイトもヘルメットを再装着し次の戦場へ駆けていた。
そう、戦場はここだけではない。
アビドス校区と隣接する学区をつなぐ進路では至る所で戦闘が勃発していた。
ある場所では…
「な、なんだあいつら!?弾丸が効かねぇのか!?」
「どうなってやがる!?アビドスの連中は化け物か!?」
ひと暴れしようと乗り込んできた数十人にも及ぶ不良の団体が驚愕しながら銃を乱射していた。
もう持参した弾薬の大半を消費しても『標的』は倒れない。
そんな不良たちに相対するは…
「アビドスで悪いことはさせませんよぉ!」
愛用の防弾エプロンを纏ったノノミと、
「どぉうだ!親分が仕立てたこの『防弾特攻服』の仕上がりは!」
同じくバリスティックウィーブによって防弾仕様となった特攻服を纏った番長だ。
どちらも現在進行形で弾丸を浴びているもののビクともしない。
そして、お返しと言わんばかりに…
「これ以上アビドスに踏み込むというなら!」
ノノミはリトルマシンガンVを構え番長は…
「さっさとしっぽ巻いて帰らねぇと!」
かつてネイトに破壊されたリーゼントを新調、かつては単銃身だった機関銃が…連邦製5㎜口径ミニガンに換装されている。
さらにおまけと言わんばかりに手にも連邦製ミニガンを所持。
『私(俺)達が相手になります(るぜぇ)!』
迫る数十人の不良に対しノノミと番長の三機のミニガンが一斉に火を噴き、
『グアアアアアア!!?』
あまりにも濃密な弾幕が不良の集団を文字通り削り取っていく。
まともな防弾装備もないのに棒立ちだった不良たちはそのまま掃討。
「「「「番長カッコいー!番長シビれる―!」」」」
「フハハハハッ!どんなもんだ、この野郎!」
囃し立てるかつての手下のエールにご機嫌な番長。
「ふふっ、今日の番長さんは絶好調ですねぇ~♪さぁ、どんどん行きますよぉ!」
『うっす、ノノミ姐さん!!!』
ノノミもそんな彼らを微笑ましそうに見るもすぐさま次の防衛場所へ向かう。
そしてある通りでは…
「くそ、誰かあのビルのスナイパーを何とかしろよ!?」
「無茶言うな!500m以上離れてんだ、どうやって倒せってんだよ!?」
「ガタガタ抜かしてねぇで突っ込むぐあッ!?」
不良たちが遥か彼方からの狙撃に恐怖し一歩も動けないでいた。
周囲には頭部やバイタルパートを撃ち抜かれた跡を刻み気絶している不良が転がっている。
彼らが言うそのビル、およそ600mはあろうかというそこにいたのは…
「ハン、あれだけイキっといて臆病な連中ね。これでまた私がスコアトップだわ。」
「しゃーねっすよ、お嬢。一方的にやられるってめちゃ怖いんすから。っと、いただき!」
「お、出てきた!…よっしゃ、もう一つスコア増やしたぜ!」
セリカ率いるアビドス高校の『選抜射手部隊』である。
訓練において特に射撃成績が優秀な者たち十数人で編成された彼らはアビドスの一角にあるビルに陣取りこのビルを『スナイパータワー』化していた。
先述通り基本キヴォトス人はその頑丈さのため遮蔽物を使わない者が多い。
しかも、彼らは不良。
心理的に『隠れるのはダサい』という考えが働き余計に遮蔽物を使わない。
その心理を逆手に取りアビドスの広範囲を見渡せるビルに狙撃部隊を配置。
現状、ほぼ一方的にアビドスに侵入を試みようとする不良集団を排除もしくは足止めしている。
「でも、こうも歩兵ばっかだとボーナスが出ねぇなぁ。」
「文句言わないの。狙撃部隊には『スコア』で特別手当出るんだから。」
「一人5000円とはいえ馬鹿には出来ねぇっすからね。」
と、そんな銭勘定を喋っていると…
「…ン?おい、戦車だ!戦車が来たぞ!」
『何(だと)(ですって)!?』
今しがた語っていた『ボーナス』が自らやってきてくれた。
スコープの先に移るは軽戦車『BT-2』。
業を煮やした不良の誰かが呼んだのだろう。
が、セリカたちにとって…鴨が葱を背負って来たも同然。
「よっしゃ、俺がぶち抜いてやる!」
「何言ってんだ、今度はアタシの番だ!」
「ボーナスは早い者勝ちよ!喋ってないでぶっ放される前に叩き壊す!」
『うっす、お嬢!』
我先にと構えるは『シモノフPTRS1941』、『ヘカートⅡ』、『50口径スナイパーライフル』と言った対物ライフルの数々。
それらが一斉に火を噴き、少し間をおいて…BT-2が爆散。
「…今、誰が撃ったのが当たってあぁなったの?」
撃っておいて何だがセリカがそんな疑問を口にすると、
『…さぁ?』
全員、首をかしげる。
誰一人として手柄を独占しない辺りはネイトの教育が行き届いているようだ。
「…今撃った人は薬莢持ってきて。ボーナスは山分けよ。」
『う~っす。』
ちなみに戦車一台の撃破ボーナスは10万円。
ここにいる者たちと山分けしても1スコア以上に稼げるので誰も文句言わずに薬莢を持ち寄るのであった。
またある高架下では、
「来るな!来るなぁ!」
恐怖に駆られバックしながら同軸機銃を乱射するクルセイダーⅠ型。
なにに恐れをなしているかと言うと…
「ん…ボーナスは逃がさない…!」
瞳に¥マークを浮かび上がらせて目を輝かせているシロコだ。
その背後には数台の戦車が破壊され各坐している。
同軸機銃の弾幕を持ち前のフットワークで回避し戦車に接近。
素早く砲塔上部に飛び乗り、
「これで50万…!」
コンバットナイフを観音開き式ハッチの隙間に差込み器用にこじ開け、
「や、やめ…!」
「じゃあね。」
いつかのネイトがやったように火の付いたダイナマイトを放り込み素早くハッチを閉じる。
ご丁寧に脱出できないように取っ手部分を折ったアンテナを巻き付けて固定するのも忘れずにすぐに離脱。
数秒後、中から吹き飛ぶ戦車をバックに佇んでいると、
「あ、姉貴早いって!連携しろってアニキも言ってたでしょ?!」
「あんた一人でどんだけ稼ぐつもりなんすか!?」
「一人で先走らんでくださいよ!」
シロコに帯同する分隊員が追い付いてきた。
「ん…皆、どうだった?」
「えぇまぁこっちもみんなで3台ほど共同撃破しましたけども…。」
「大丈夫、ネイトさんに言って皆のボーナスに少し分けてあげる。」
「おぉ、姉貴太っ腹!やっぱあんたについてきて正解だったぜ!」
と、そんなことを話していると…
「良いか、音を立てるな…!」
「ヤロウ、苦労して奪った戦車を…!」
この戦車を率いていた随伴の不良たちが物陰からシロコたちの様子を窺っていた。
「ありゃアビドスの連中だ…!」
「いつの間にあんな化け物どもを引き入れてたんだ…!?」
「ともかく今は隙だらけだ…!」
「良いか、合図をしたら一斉に…!」
と、そんな風に報復の算段を立てていたその時…銃口が物陰から飛び出してしまった。
「ッ!コンタクト!」
それに素早く気付いた分隊員がその物陰目掛け発砲、
「くそっなんでばれた!?」
「テメェ、ドジ踏みやがったな!?」
早々に襲撃ができなくなり互いに罵り合う不良たちをしり目に、
「ん…突っ込むから制圧射撃よろしく。」
『うっす!』
再びコンバットナイフを抜き放ちシロコが突撃を仕掛ける。
その低い前傾姿勢はまさに狩りを行う『狼』そのものだ。
瞬く間に不良たちが潜む物陰に肉薄し、
「なッコイツッ!」
不良が慌てて追いかけながら撃つも銃口は彼女を捉えることはできず、
「シュッ!」
開いている左手で『平拳』を作り先頭の不良に放つ。
以前、ネイトに教わった。
『いいか、シロコ。パンチ一撃で人を行動不能にしたければ…喉を狙え。』
シロコの鋭い突きは、
「ゲェッ!?」
滑り込むように不良の喉に突き刺さり呼吸困難に陥れる。
そのままその不良の襟首をつかみ放り捨て、
「フンっ!」
「がっ!?」
逆手で持ったナイフで後続の不良の喉を掻き切る軌跡で振り抜く。
さすがは頑丈なキヴォトス人だけあって切れはしないが鋭い痛みと衝撃が伝わり意識を刈り取った。
そのまま腕を畳み、
「フッ!」
「ごがっ!?」
左手を柄頭に添え次の不良の顎下から脳天に突き抜けるようにナイフを身体が浮き上がる勢いで打ち込み、
「させない。」
「こ、このッ!?」
最後の一人の銃身をつかみ動きを封じ、持ち方を順手に変え…
「終わり。」
「がっ…!?」
喉笛を切り裂くようにナイフを振り抜いた。
「ん…クリア。」
「す、すげぇ…CQCでのしちまったんですか…!?」
「こんなの真似できねぇよ…。」
このキヴォトスにおいて銃弾を一発も使わず複数人を相手取り制圧。
このことがいかに異質か、彼らには理解できる。
容易くこんなことを熟せそうなのは…他にはネイトや各勢力最上位の者たちしか思い浮かばない。
「ん…とりあえず拘束しておこう。戦車はネイトさんに報告しておけば後で解体してくれる。」
『了解!』
と、さらなるボーナス獲得を目指しすぐさま次の獲物を探しに動くシロコたち。
そして…市街地中心部の大通り。
ここはキヴォトス三大校の一角で不良の数がトップの『ゲヘナ』と直通の場所。
ここに陣取るのは…
「アビドスに来たこと、後悔させてやる!!!」
「よっしゃー!うちらも気合十分だぜ、姉御!」
ユメの盾に防弾ベストとハンドガン装備で『臨戦』状態をとったホシノを筆頭にネイトの訓練で優秀な成績を修めた精鋭のスケバンたちだ。
ホシノが盾を構えつつ隊員はその背後に陣取り進撃。
「あがっ!?」
「ぐえッ!?」
いつにもましてホシノは『Eye of Horus』を連射。
「そう簡単に横は取らせねえよ!」
「ギャッ!?」
「がはッ!?」
「そんなヘボ弾でアタシらが止めれるかぁ!」
『ギャアアア!?』
「ただでアビドスから出ていけると思うなよ!」
『アガガガガッ!!?』
背後にバトルライフル『SCAR-H』とグレネードランチャー『M32A1』に汎用機関銃『M240』という重武装で固めた隊員が随行。
ホシノの防御力と大火力をもって迫りくるゲヘナの不良を次々に撃破していく。
「リロードッ!」
「了解!」
ホシノの装填の合図でぴたりと足を止め隊員はその間も銃撃を行い不良たちをけん制。
その時、
「姉御、装甲車だ!」
遠方から迫りくる一台の装甲車を発見。
『Sd Kfz 234』、5㎝の対戦車砲を装備した8輪の装甲偵察車だ。
「ッチ、スモーク!」
このままではまずいといったん装填を切り上げホシノはスモークグレネードを投擲、
「散開!装甲車を排除する!グレネーダー、牽制射撃!」
『了解!』
煙幕の展張とともに的になるのを避けるために散開。
「吹っ飛びゃしないだろうが喰らえ!」
ホシノの指示でM32A1を持つ隊員が装甲車に向け発砲。
確かに撃破には至らないが、
「ぐああああ耳がぁ!?」
装甲がまるで鐘のように震え搭乗員の聴覚を一時的に奪う。
「姉御、あとはお願いします!」
「まかされたよ!」
一時的に無力化された装甲車に向けホシノが突貫。
その際に薬室にある弾丸を直接装填する。
「オラオラァ!姉御の邪魔はさせねぇよ!」
「げはッ!?」
「その人にガンつけるなんざ100年早ぇよ!」
「あがっ!?」
周りの随伴はスケバンが片付け進路を確保。
そのままホシノは装甲車に肉薄し、
「装甲車なんか一発で十分!」
Eye of Horusを発砲。
放たれた弾丸は吸い込まれるように砲口に飛び込んだ刹那、装甲車のハッチから火柱が吹き上がる。
「す、すっげぇ…一発で装甲車が…!」
この光景に援護していたスケバンも驚愕する一方、
「うん、注文通り。さすがネイトさん。」
スライドを引き今しがた発砲したショットシェルを排莢、それを手に取り満足げに呟くホシノ。
そこにはこう記されていた、『Flag12』と。
『Flag12』、ショットガン用に設計されたグレネード弾である。
威力こそ40㎜のグレネード弾と比べるまでもなく低いがそれでも炸裂時の威力は並の弾丸の比ではない。
そんなものを砲弾が装填された砲口内に叩きこまれようものなら先のような結果になるのも当然である。
とそこへ、
「このチビが!」
「よくも装甲車を!」
「囲んでやっちまえ!」
複数人の不良がホシノを取り囲み襲い掛かる。
が、
「あたッ!?」
振り返らずホシノは手に持っていた空薬莢を投擲。
一人の不良の目間にぶつけ怯ませた隙に、
「やれるものならやってみろ!」
「「「あがぁ!?」」」
Eye of Horusを速射、瞬く間に三人を返り討ちに。
それぞれバイタルパートと顔面に一発ずつ、当分意識は戻らないだろう。
再び残弾が心もとなくなったので銃を逆さまにして肩に乗せて装填を行うホシノ。
その時、
「ヤロウ、隙を見せたな!」
その音を聞きつけたか物陰から不良が飛び出す。
しかし、ホシノはいたって冷静に対処。
装填を一時中断し胸元の『ベレッタ92F』を素早く引き抜き、
「あだだっ!?」
ダブルタップで正確に不良を撃ち抜く。
対処はできるが落ち着いて装填したいホシノは一旦そばの装甲車の残骸に身を隠し装填を再開。
数発装填できたところで再び不良の接近を察知。
「ぐあッ!?」
一先ず不良の足を撃ち抜き行動を阻害、接近しとどめを刺そうとしたその時、
「このッ!」
「ッ!」
装甲車の逆サイドに身を隠していた不良がEye of Horusを奪おうと掴みかかる。
「汚い手で触るな!」
「つっつよっ!?」
その行動に怒りを覚えたホシノ、不良を自らの方に引き寄せ、
「フン!」
「あぐぅっ!?」
下腹部に鋭い膝蹴りを叩きこみ不良を引きはがし、
「ばれてるぞ!」
「ぐあッ!?」
振り向きざまに背後から迫っていた不良に散弾を見舞いダウンさせ、
「次!」
「ギャン!?」
先ほど足を撃ち抜いた不良にも散弾を浴びせ排除、
改めて下腹部を蹴り抜いた不良にとどめを刺そうとするも弾切れ。
ならばと、
「むん!」
「がぁッ!?」
全体重をかけてEye of Horusでその不良を押さえつけ緊急用のシェルホルダーから薬室に直接装填し、
「ぐほッ!?」
押し付けたまま発砲。
「相変わらずえげつねぇっすね、姉御…。」
「敵に容赦してたらこっちがやられるよ。」
「まぁ確かに。こっちは片付きました。」
ここでスケバンたちも合流。
見ると周囲の不良はあらかた掃討できたようであるが、
「少し暴れ過ぎましたかね、残弾が心元ねぇっす。」
「…私もちょっと足りなくなってきたかな。」
派手に戦ったせいかホシノも含めて残弾の消耗が激しい。
「補充を頼もうか。…もしもしアヤネちゃん、補給物資をお願い。」
今後の戦いに備えてホシノは無線で連絡を取る。
「了解しました、ホシノ先輩!補給パックHを送ります!」
場所はアビドス高校校庭。
そこは今、臨時の野戦指令所となりアヤネが筆頭にオペレーターAIを積んだロボットがアビドス自治区内の戦場の情報収集と補給物資の手配などを行っていた。
「補給パックHヲオ持チシマシタ。」
すぐさま倉庫から清掃用プロテクトロンが指定された補給物資のケースを持ってきた。
これを今から人力で運搬するかと言うとあいにくそんな余力はアビドス高校にはない。
なので…
「『カーゴボット』、離陸!5分で到着します、ホシノ先輩!」
《了解、相変わらず仕事が速いねぇ!》
スラスターが4基付いた畳二畳ほどの巨大なドローンにケースを乗せて飛び立たせた。
『カーゴボット』、アパラチアの空を頻繁に飛行していた空輸ドローンである。
ネイトのもとの世界では小型化しつつ性能の向上はかなり限界があった。
ならばとアメリカ政府は考えた。
『デカくしてパワー上げて積載量を増やそう』と。
結果、ドローンとは思えない積載量を誇る機体が完成したのだ。
以前から対策委員会メンバーの戦闘の際にドローンを用い支援していたアヤネ。
カーゴボットの登場でより大量の物資の運搬を行え人手不足の中であっても物資輸送が苦も無く行えている。
ならば普段のドローンはお役御免か、と言うとそんなことはない。
「第2分隊、B-13地区に新手です!現地へ急行願います!」
《こちら第2分隊、了解した!》
《こちら狙撃部隊、現在足止め中の敵勢力の掃討を頼みたいわ!》
「分かりました!第9分隊、F-4地区へ向かえますか!?」
《第9分隊、了解!補給が済み次第向かう!》
アヤネは小型ドローンをアビドス市街地中の上空に監視用として展開。
これ等と監視システムの併用によってリアルタイムでの部隊運用と敵性勢力への対処が可能となった。
さらにアヤネの高い指揮能力によって人員に限りがあるアビドス高校の隊員たちは適切な事態への対処を行えている。
さらに、
《こちら第3分隊、戦車部隊を発見!現在対戦車火器を使い切っている!至急航空支援を願う!》
装備の都合で対処できない標的が現れた際には…
「了解、航空支援を開始します!」
アタッチメントを換装し機体下に『25㎜グレネードマシンガン』を搭載したカーゴボットを用い航空支援を実施。
25㎜グレネード弾と言えど薄い天板に叩きこまれれば戦車もたまったものではなく撃破。
これによりアヤネも戦車撃破の数は上位に食い込んでいる。
こうして各々ができることを最大限実行し侵入者を迎え撃つアビドス高校の面々。
「お、来た来た。」
「ホント便利っすよねぇ、カーゴボットって。」
「さぁ、補充が済んだら次行くよ。」
『了解!』
ホシノ達のもとにも先ほど要請した補給物資が到着。
手早く必要な物をバックパックやチェストリグなどに詰め込んでいく。
すると、
「…姉御、変わった奴らが来た。」
「?変わった奴って?」
監視中のスケバンがホシノを呼び寄せる。
言われてホシノが道路側を覗いてみると…
「…スケバン…だよね?」
「白旗上げてますけど…。」
こちらに白旗を上げて近づく30人ほどのスケバンがいた。
「ん?羽持ち?トリニティのスケバン?」
さらによく見ると背中に鳥のような羽が生えている者たちが多い。
身体的特徴からして『トリニティ』の生徒たちらしい。
「え、トリニティすか?」
「知ってるの?」
それに反応したもう一人の隊員が彼女らを確認すると…
「…姉御、ありゃ『七転八倒団』だ。」
「え、知り合い?」
「まぁ、蛇の道は蛇ってやつっすよ。」
どうやら知り合いのようだ。
「七転八倒団!何しにここまで来た、白旗上げて!?」
「お、顔見知りだ!おーい!」
声を上げて呼びかけると知り合いがいたことに安心したのか駆け寄ってくる七転八倒団の面々。
顔見知りらしいが一応警戒しホシノたちはいつでも撃てる態勢をとる。
「やぁたいへんな事になってんなぁ、アビドスも。」
と、近づくなり世間話のノリで話しかけてくる七転八倒団。
「そりゃキヴォトス中どこでもだろう。で、何しに来たんだ?」
「聞いてるぜ。アビドス高校って今人手足りてねぇんだろ?それに日雇いも雇ってるって。」
「…随分知られちゃってるみたいだねぇ。」
目的を尋ねるとどうやらアビドス高校に売り込みに来たようだ。
確かにアビドス高校は平時から日雇いで不良たちを雇いその過程で転入し生徒数を増やしてきた。
彼女らのように他所からそれ目的でやってきても不思議ではない。
「…姉御、どうします?」
「ん~おじさんとしては気にしないけど…市民に危害加えたりしないよね?」
一応の確認として彼女らにそう尋ねるホシノ。
「しないっすよ。給料保証されてるのなら。」
と軽く返す七転八倒団だが…どうにも腹に抱えているようにしか見えない。
「…まぁ君たち雇うかどうかは…。」
その時だった。
少し離れた通りを戦車が爆走している。
《嫌だ、嫌だあああああああ!!!》
何やら悲鳴に近い声を拡声器で漏らしながら。
その後方から、
「ん…顔を見せて、こっちへ。優しく早くするから、信じて。」
ドローンにぶら下がりロケット弾をばらまきながら追撃するシロコ。
『………。』
「シロコちゃん、張り切ってるねぇ。」
そんなとんでもない光景に絶句する七転八倒団。
さらに…
《うワアアアアアア!!!ごめんなさあああああい!!!》
再び絶叫しながら逃げ惑うクルセイダーⅠ型。
その背後を…
「叫べ!叫んでその下らない命を乞え!」
ドップラー効果を効かせながらダッシュで戦車よりも速い速度で追いかけるネイト。
で、ちょうど見えなくなったタイミングで響き渡る爆音。
『…………。』
「あ、さっき走ってた人が私たちの司令官ね。」
さらに口をあんぐり開ける七転八倒団。
とそこへ…
「ん?ホシノ、どうしたんだ?」
戦車を排除したネイトが近づいてきた。
なぜか先ほど撃破したであろうクルセイダーの砲塔を引き摺って。
「あぁ、ネイトさん。彼女たち、トリニティからアビドスに出稼ぎに来たんだってぇ。」
「ほぉ、それは遠くからよく来たな。」
「で、彼女たちどうするの?」
「…よし、今は人手が欲しい。協力してくれるなら喜んで雇おう。」
背に腹は代えられない、ネイトは七転八倒団の雇用を即決。
「こちらネイト。アヤネ、助っ人が来た。現時刻から時給計算を頼む。」
《了解しました!あ、あとヘルメット団の方々も参加したいとやってきているのですが。》
「構わない。そいつらも部隊に組み込んでくれ。分配は任せる。」
《了解しました!》
アヤネにその旨を伝え、
「ホシノ、彼女たちの世話頼めるか?」
「オッケェイ。」
ホシノに七転八倒団のことを頼みすぐさま次の戦場へ移動していった。
「…とまぁ、もし何か変な気を起こせばあの人が出張って来るってことで一つよろしく。」
「あ、あとここにいる姉御もとんでもなく強ぇからな。」
『うっす、よろしくお願いします!』
とまぁ、初っ端にアビドスの強者の実力を見せつけられた七転八倒団。
変な気など一気になくなりまじめに仕事をこなすのであった。