『サンクトゥムタワー』機能停止1日目
キヴォトス各所にて混乱が発生
不良などによる犯罪行為が増大。
『サンクトゥムタワー』機能停止3日目
犯罪行為の件数がなおも増加。
『連邦矯正局』より7名の停学者が脱獄
(後に七囚人と命名)
『サンクトゥムタワー』機能停止4日目
ミレニアム学区にて風力発電がシャットダウン
トリニティ学区でも生徒の襲撃事案多発
『サンクトゥムタワー』機能停止7日目
戦車及びヘリなどの出所不明の兵器の不法流通率2000%超過
大半の学区にて正常な学園生活に支障が発生
『サンクトゥムタワー』機能停止10日目
連邦生徒会長失踪が連邦生徒会長代行より発表
連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』の担当顧問、通称『先生』によりサンクトゥムタワーの機能復旧
これにより連邦生徒会の行政権も復旧、キヴォトス全土で発生した混乱も徐々に終息
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キヴォトス全土を巻き込んだ『サンクトゥムタワー』機能停止に伴う大混乱。
どの学校も深いダメージを負い現在はその復旧を最優先にしている。
…そんな中、アビドスでは…
「…意外と平穏だったな。」
「一時はどうなるかと思ったけどねぇ。」
「ん…他所と比べると全然大丈夫だった。」
「1日2日目はめちゃくちゃ働いたけど…それっきりだったわね。」
「市街地や一般人のかたにも大した被害はないそうです。」
「何はともあれ皆さんお疲れさまでしたぁ。」
サンクトゥムタワー復旧までの特集をのんびり見ながらそんなことを語り合うネイトと対策委員会メンバー。
実のところ…アビドスの混乱は早々に終息していたのだ。
理由は大きく二つある。
一つ目、アビドスはそもそも暴れて得られるうまみが少ない。
哀しきかな、他所の学区と比べると(見かけ上)かなり貧相な学区だ。
そんなところに来てわざわざ暴れるのは本当に『暴れる』ことが目的の連中のみ。
絶対数的にはかなり少ない規模だ。
その少ない規模をネイトたちは水際で撃退。
これにより早々に不穏分子の排除に成功していたのだ。
二つ目、不良が少ない。
言わずもがな、アビドス高校の大半の生徒は不良やスケバン上がりの者たちばかり。
これはつまりアビドス土着の不穏分子がすでに減少していたのだ。
…というか、現役の不良たちはアビドス高校の精強ぶりは聞き及んでいる。
そんな連中のおひざ元で暴れるような度胸はさすがになかった。
何ならカタカタヘルメット団も今回の防衛戦に参加していたのでより騒動を起こす人員は少なくなった。
そんなこんなで他所が対応にてんやわんやの中3日過ぎるとアビドスの混乱は自然と終息。
一応、警戒体制は維持。
7日目位からは一部業務も再開。
当直や夜間の巡回の増員なども行い治安の維持活動はサンクトゥムタワー復旧まで続いていた。
それも現在は通常の業態に戻っている。
「なにはともあれいつものキヴォトスに戻ってよかったな。」
「そういえば日当とかの支払いは大丈夫だったのぉ?」
「言ったろ、貯蓄は十分あるって。…まぁ4割放出するにとどまった。」
「うわぁ…結構大盤振る舞いしたのね…。」
「それくらいの出費で済んだのはむしろ幸運だろう。」
「ん…私もボーナス沢山貰えてうれしい。」
「ヘルメット団の方や出稼ぎの方も喜んでましたねぇ。」
「そういえば何人かこちらに転入してきてくれました。」
とまぁ、目立った損害(?)と言うのはネイトの財布と備蓄資材の減少位だ。
それも弾薬工場をフル稼働&経費として挙げて節税対策として利用することによりダメージは回復している。
しかも出稼ぎの他所の生徒がここの環境を気に入ったのかそのまま残留。
帰っていった者たちもたまに来ると言っていたので小規模だが他学区に対する情報網を確立することに成功した。
そして…
「それに今回最も大きな利益は一般人に俺たちの存在を認知してもらえたことだな。」
「んね~、ホントに助かっちゃったよぉ。」
「ん…情報提供や差し入れもしてくれてありがたかった。」
今回の一件、一般人の協力も非常に大きな力となった。
ネイトのあの要請は口々に伝わりアビドス内は簡易的な戒厳令を敷くことに成功。
そんな中であっても、市民からは不審者の通報や巡回中の隊員への夜食やトイレ、休憩所の提供など縁の下でネイトたちを支えてくれた。
さらに防衛戦の活躍によりアビドス高校の現状も広く認知させることにも成功。
「そういえば番長たちも『仕事が増えた』って張り切ってたわ。」
「廃墟から持ってきたもの以外の仕事も出来て喜んでましたね。」
今までカイザーの解体業務がメインだったW.G.T.C.に一般人からも依頼が舞い込み始めた。
主に修理などだがこれも今までやってきた業務の延長線上のことなのでお客も満足いく仕事を行えている。
結果、今回の騒動でトータルで見るとアビドス高校はむしろプラスになることだらけなのであった。
「でもぉ、連邦生徒会長が失踪していたのには驚きましたねぇ。」
「それも数週間前からって話でしょ?いったい何があったってのよ。」
だが、そんなアビドスの面々でもやはり連邦生徒会長の失踪は大きな衝撃を受けた事件であった。
「…でも、俺達にはあんまり関係ないような気がするんだが気のせいか?」
「ア、アハハハ…積極的に肯定できないとはいえ確かに…。」
…いや、あんまり衝撃はなかった。
第一、ネイトが来てからと言うもの連邦生徒会とは全くと言っていいほど付き合いのないアビドス高校。
むしろ、こちらの困窮を訴えても支援物資を出し渋る彼の組織にはあまりいい印象を抱いていないのが正直なところだ。
たぶん、連邦生徒会側からもコンタクトがないのでアビドス高校のことは忘れているのかもしれない。
「まぁ、連邦生徒会長がいなくなったっておじさんたちがやることは変わんないしねぇ。」
「ん…むしろあれこれ詮索されない分やりやすいから助かる。」
と、むしろノータッチなのをいいことに事態を進められたのでわざわざこちらの様子を伝えるメリットもない。
最低限の付き合いだけ続けていこう、と言うのがアビドス高校の生徒共通の意志である。
と、
「…と、もうこんな時間か。」
時計の時間を見てネイトが何やら準備に行こうとする。
「ん?どっかでかけんの、ネイトさん?」
「カイザーコンストラクションから呼び出しがあってな。」
「…それって大丈夫なんですかぁ?」
カイザーコンストラクションの名前が出た途端ノノミの目に剣呑な光が点る。
ホシノをはじめ他の面々も同様だ。
「いや、今回の呼び出しはアビドス支所より上の本部の役員からだ。」
対するネイトは変わりなくケロッとしている。
相手がより上層の者だという返答に、
「なおのこと危険じゃないの?」
より疑惑の念を強めセリカが問いかける。
「かもな。だが、俺のやってることはどうやらアビドス支所の段階で過小に報告されているらしい。」
「ん…それってどういうこと?」
「どうも俺と結んだ契約があまりにも無警戒すぎて支所の連中が処罰を今も恐れているらしい。」
「うへ~相変わらずの隠ぺい体質だぁ。」
なにもネイトも無策で赴くわけではない。
ネイトとネフティスの調査の結果ではW.G.T.C.の評価は『仕事の早い解体業者』ぐらいの認識らしい。
その評判を聞きつけた本部からネイトへ仕事のオファーが入ったのだ。
「一応、相応の準備はしていく。向こうがやる気なら遠慮なくやり返すだけさ。」
「…ひょっとしてそれが狙いだったりしませんよね?」
「まさか、俺は平和主義者だぞ?」
「ん…頭に積極的ってつく気がするけど気を付けてね。」
というわけで黒いスーツ(バリスティックウィーブ済み)に着替えカイザーコンストラクションに向かったネイト。
「…廃墟の解体事業を弊社に?」
「ハイ、御社の評判はこの支部から聞き及んでおりますので是非と思いまして。」
聞かされた内容は何のことはない、いつものような廃墟の解体事業の委託である。
が、問題はその場所である。
「場所は『ミレニアム学区』の郊外にある廃墟区域です。」
場所はアビドスを飛び出し科学技術に力を入れている学区『ミレニアム』の郊外にある廃墟である。
聞くところによると以前に『ミレニアムサイエンススクール』から解体事業の委託契約を受けていたカイザーコンストラクション。
しかし、先の混乱でこの契約を果たす余力がないらしい。
そこでアビドスで躍進著しいW.G.T.C.にお鉢が回ってきたということである。
「一先ずは御社に現地に赴いていただき作業が可能かを確認していただきたいのですが…。」
「その調査次第で解体作業に入るかどうかの判断を弊社が決定してもいいと?」
「えぇ、構いません。契約内容もその際に内容を煮詰めましょう。」
「…ただの廃墟街なら現地調査もなく作業に入れますが?」
ここはひとつ切り込んでみるネイト。
アビドスの廃棄地区でW.G.T.C.の仕事ぶりは過小評価ながら知っているはず。
ならばわざわざこちらに現地調査など任せずにさっさと事業契約を結べばいい。
何らかの罠の可能性もあると考え問いかけると…
「いえ、大半の場所はそれでもかまわないと思ったのですが…一部、と言うにはそれでも広大な区画が少々訳アリでして。」
そう悩ましげにつぶやくカイザー側の担当者。
「訳アリとは?」
「この廃墟区画の奥地が…広範囲が水没しているのです。」
「水没?廃墟街が?」
「何分昔のことですのでどんな理由なのかは分かりませんが高層ビルが丸々水没する湖のような状態になっているのです。」
ネイトもかつての連邦で水没した廃墟を見たことがないわけではない。
だがそれは川の近くで流れによる浸食や配管の損傷などによるものがほとんどだ。
規模も広くてせいぜい町数区画で床上浸水位のもの。
それが『湖』と呼ばれるほどの広範囲で『都市』が水没したなど聞いたことがない。
「…なるほど、それは確かに現地調査が必要な案件ですね。」
どうやらそのことに関しては嘘ではないと読み取ったネイト。
ここはキヴォトス、自分の理外のことも起こる。
「では、今回の案件をお引き受けしていただけますか?」
「…分かりました。後日、現地へ赴き調査し可能かどうか判断いたします。」
「そうですか!いや~弊社としても御社に受けてもらえなければ大変なことになるところでした!」
ネイトの承諾の答えに頬を緩ませるカイザー側の担当者。
「では、こちらが廃墟地区への立ち入り許可証です。現地に行かれました際に検問に提出してください。」
「分かりました。では明日出発し可及的速やかに報告します。」
彼から廃墟地区に入るためのパスカードを渡され今日の会合は終了。
外に出るともう日がとっぷりと暮れていた。
「ホシノたちももう帰っているだろうな…。」
そう考え、ネイトはアビドス高校のグループトークに…
『明日、少し出張に出る。業務は普段通り行うように。』
と送信し、帰路に就くのであった。
その頃、カイザーコンストラクションにて…
「フン…。欲にくらんだか、若造め。」
先ほどの温和な態度はどこへやらネイトを見下す担当者。
「こ、この度は本部の方まで出向いていただき…感謝します…!」
その対面にはかつてネイトと契約を結んだ際に立ち会った上司だった。
「全く…ここのところ資金流出が止まらないと思ったらまさかあんな若造に出し抜かれていたとはな。」
そう、ネイトはここで一つ重大な見誤りをしていた。
隠ぺいされている段階はアビドス支所ではない。
すでにカイザーコンストラクション本部上層の段階まで上がっていたのだ。
「まさか、ここ半年だけでコンストラクションの5%近い資産を持っていかれるとは思わなかったぞ。」
ネイトの動きはいささか派手過ぎた。
いまだ本社には伝わっていない物のすでに資金流出はかなりの段階に。
これに気付かないコンストラクション本部ではなく一月ほど前にとうとうこの原因がネイトであることがアビドス支所からばれた。
しかし、あくまでネイトの行為は『契約上』のこと。
しかも取りやめようものならさらに資産を持っていかれてしまうというトラップのおまけつき。
そこでコンストラクション本部は考えたのだ。
「まぁ、これで奴も終わりだ。水没地区の…『アレ』が始末をつけるはずだ。」
事故に見せかけたネイトの殺害である。
こうすれば契約はご破算。
しかもアビドス高校の躍進はネイトによる働きが大きい。
もしここで彼を失えば…アビドス高校はいかようにでも料理できる。
「フフフッ、せめて残り少ない栄華を楽しむがいい…!」
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場面は変わりキヴォトスの首都に当たる地区『D.U.』。
その外郭に聳える施設、連邦捜査部『シャーレ』のタワー。
その一室にて…
「『先生』、次はこの書類をお願いします。」
「うん。分かったよ、『ユウカ』。」
一人の女生徒とネイトよりも年若い男性が書類仕事に追われていた。
そう、彼こそが連邦生徒会長が指名し先日のサンクトゥムタワーの一件を収めた張本人、通称『先生』である。
彼の権力は凄まじく、キヴォトス中のあらゆる自治区に自由に出入りでき所属に関係なく希望すれば生徒をシャーレの部員として加入させることができるほどだ。
が、権力があろうと『書類』だけは自らで処理しなければならない。
現在も先日の騒動で発生した各学区からの要請や嘆願の書類をさばいている最中だ。
「…ん?」
そんな中、彼の目に一枚の書類が目に留まった。
他の書類に比べやけに日焼けし時間が経っているように思えるその書類がどうしても気になった。
「?どうかしましたか、先生?」
「いや、ちょっとこの書類が気になってね。」
手が止まったことを不審がる『ユウカ』と呼ばれた女生徒をしり目にその書類を引き抜き中身を改める先生。
それは…かつてアヤネが連邦生徒会向けに送っていた支援物資の嘆願書であった。
どうやら業務関連のゴタゴタでこちらの書類に紛れ込んでいたようだ。
「…『ユウカ』、アビドス高校って知ってる?」
「アビドス高校ですか?あぁ、廃校寸前の学校っていうのは少し前に情報が来てましたね。」
「は、廃校?どうして?」
「生徒数がもう5人だけなんですよ。それでなくてもどうやらいろいろ問題を抱えてるらしい、っていうのは知ってます。」
「えぇッ!?」
ユウカの話を聞き改めて書類を改める先生。
内容からして非常に切迫した状況であることは伝わってくる。
さらにその日付は…もう7か月前のものだ。
「ま、まさかもう廃校に…!?」
赴任早々に護るべき生徒たちのいる学校の消滅、と言う事実に青ざめる。
「…気になるなら調べてみては?」
「そ、そうだね。」
ユウカのアドバイスを受け、
「『アロナ』、アビドス高校が今どうなっているか調べられるかい?」
傍らに置いてあったタブレット機器のようなものに先生が呼びかけると、
《はい、アビドス高校についてですね!》
画面には一人の少女が浮かび上がり何やら探すような動きをしている。
しばし待っていると…
《あ、ありました!アビドス高校の最新データです!》
お目当てのものは見つけられたようだ。
「で、どうなの?アビドス高校はもう…?!」
《安心してください、先生!アビドス高校はまだ存在してますよ!》
「そ、そっか…。よかった…。」
どうやらアビドス高校はまだ頑張って続いていると思い胸をなでおろす先生。
だが…
《ですが、先ほど言われていた情報とはかなり齟齬がありますね。》
現状はどうやらユウカの言うこととかなり違うらしい。
「え?情報が違う?」
「どういうことですか?」
先生の声を聞きユウカもそばに寄ってきてタブレットをのぞき込む。
そこには『現在』のアビドス高校の詳細な情報が載っていた。
「え、生徒が100人超えてるですって!?」
まず驚くことは以前とケタ違いに生徒数が増えているということ。
しかもここ最近、あの大騒動があった後でも他校からの転入者が存在していた。
さらに、
「ざ、財務状況どうなってるの!?V字回復どころかL字になってるじゃない!?」
ある時を境に学校の財務状況も急速に回復、健全化。
今に至るまで右肩上がりを維持し続けている。
生徒数当たりの財務環境の良さではそこいらの学校の比ではない。
「こんなのおかしいわ!何かの間違いよ!」
「おっ落ち着いて、ユウカ…。」
考えられない情報の数々に取り乱すユウカだが…
《間違いじゃありません!情報は昨日アップロードされてますし改ざんの跡もありません!》
「そ、そんな…!?一体、何があったのよ…!?」
情報は確かなものだと知らされ言葉を失う。
「…ねぇユウカ。これって普通はあり得ないこと、と判断していいんだよね?」
そんな彼女に先生は優しく問いかける。
「…はい、こんなことをできる人がいるならぜひお会いしたいものです…。」
「分かったよ。…じゃあ一緒に行ってみようか、アビドスに。」
「え…?」
先生の提案に今度は目を丸くするユウカ。
「だって、これは普通だと考えられない事態なんでしょ?シャーレの先生としてこのまま放置することはできないよ。それに…。」
「それに?」
「…助けを求めていたのにずっと放置しちゃっていた、そのことも謝らなきゃいけないしね。」
書類が届いたのは先生がキヴォトスにやって来るずっと前のこと。
しかもあて先は連邦生徒会で先生には一切関係のないことだ。
だが、見て見ぬふりはできない。
困った生徒がいるのなら手を差し伸べ助ける。
それが自分の…先生としての責任なのだから。
「…分かりました、先生。私もアビドスまで同行します!」
「よし、じゃあ決まりだね。アロナ、出張の届け出をお願い。」
《分かりました!》
ユウカもこの提案を了承しともに二人でのアビドス出張が決まった。