『先導する準備は出来ている』
―――アメリカ海軍特殊部隊『Navy SEALs』の標語
作戦開始まで2時間を切った頃…
「…おぉ、こういうのもできるのか。」
ほんのちょっぴり残った神秘を使い、ネイトはあるモノをクラフトしていた。
それは…ある意味欠かせないものだった。
「さて…最後にクラフトできてよかったな。」
そう呟いた瞬間、ネイトの背中のヘイローが消失。
Pip-Boyを確認するとEMVがちょうど0%になっていた。
その時、
《CICより艦長!ユズちゃんの火器管制及び防衛プログラムの修復及びアップグレード完了しました!》
「こちらネイト。そうか…やってくれたんだな、ユズ。」
ユズのプログラミングが終了した報告が入ってきた。
《こちら、ユズです…。なんとか、仕上がり、ました…!》
疲労の色が濃いユズからも通信が入る。
「ありがとう、ユズ。これでマサチューセッツは完全に蘇った。今はゆっくり休んでくれ。」
《…いえ、システムが、ちゃんと、動くまで、見届けるのが、私の、仕事です…。》
なんとも責任感の強い発言だが…
「…そうか。だが、作戦開始まで時間はある。今のうちに仮眠をとるように。」
《…分かりました。おやすみなさい、ネイトさん…。》
ネイトがまだ時間がある旨を伝えるや否や、
《Zzz…Zzz…》
無線を付けたまま寝息を立て始めるユズ。
無線はすぐにオフにされ、
「レーダー長、すまないが彼女をベッドまで運んでやってくれ。」
《了解しました、艦長。VIPクラスで移送します。》
その場にいるレーダー長にユズを任せ通信を切り、
「…もうすぐ空が白み始める。決着をつけるとしよう。」
眠気覚まし代わりの砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲み干しネイトはクラフトしたものを抱え艦内に戻る。
作戦開始30分前、
「いよいよだねぇ。」
「ん…これで決着がつく。」
「皆で無事に帰りましょうねぇ。」
「もちろん、セリカちゃんや皆も待ってます。」
甲板上には装備を整えたホシノ達アビドス対策委員会の面々が集結。
アヤネでさえも愛用のPー90『インディペンデンス』を持ち臨戦態勢だ。
全員、その表情に覚悟を宿している。
一方、
「えぇーッ!私たちは留守番なのぉ!?」
「ど、どうしてですか?」
「ネイトさんの指示だよ。」
「わ、私たちじゃ、力不足、なんですか…?」
先生の口からマサチューセッツに残留を伝えられたモモイ達ゲーム開発部。
ここに来て見ているだけしかできないということに愕然としていると…
「そういう理由じゃないぞ、ユズ。」
背後からネイトがやってきた。
「ネイトさん!どうして私たちは作戦に参加できないの!?」
「この作戦は連携と速度が重要だ。だから、俺と長く組んで戦い方をよく知るホシノたちだけで向かう方が得策なんだ。」
モモイの質問に端的に理由を答えるネイトだが、
「やっぱり…私たちはまだ弱いんですね…。」
ミドリが表情を暗くしてそう呟く。
分かっている。
ホシノ達は自分たちと比べてはるかに強い。
そんな彼女たちとネイトが組むなら作戦は成功できるだろう。
だが…それでも友達が戦いに赴くのを見ているだけしかできないのは寂しかった。
そんなミドリを見て、
「そんなことはない、ミドリ。現に俺と組んで足を引っ張るどころか助けてくれたじゃないか。」
視線を合わせるように片膝をついて語りかけるネイト。
「弱いから連れて行かないんじゃないんだ。三人と先生には俺達を見ててほしい。」
「見てって…どうしてですか?」
「これが…ここにいる俺達が今のアビドスの全力に近しい戦力と練度だ。俺達の戦う姿を見て成長の糧にしてほしい。そして、またこんなことがあったら今度は一緒に戦おう。」
奇しくも、ここにいるのはアビドス高校復興時から共に肩を並べてきたメンバーだ。
その姿を見せることで彼女たちと先生の手本を示そうというのだ。
ネイトから見てもモモイもミドリもユズも、そして先生も将来が楽しみな有望株だ。
そんな者たちの先駆けとして自分たちの姿を見てほしかった。
「それに三人には一つ頼みがある。」
「頼み、って何ですか…?」
「俺達が帰ってくるまでの間、マサチューセッツを頼む。できるな?」
その代わりと言っては何だが、三人にマサチューセッツを託すネイト。
この船も、船員も全てネイトの大事な仲間だ。
その大事な物を友達から託されたことに気付き、
「…うん!分かったよ、ネイトさん!私たちに任せて!」
「戻ってくるまでの間…私たちがマサチューセッツを守ります!」
「わ、私が組んだ、プログラムは、無敵です…!だから、大丈夫、です…!」
三人とも一気に表情が晴れてネイトの頼みを快諾。
「よく言った。それじゃ…。」
三人の明るさが戻ったので立ち上がろうとするネイトだが…
「あっ!待って、ネイトさん!もう少しそのまま。」
「どうかしたか、モモイ?」
モモイが一旦その動きを止めさせたかと思うと…
「「「エイッ。」」」
「ッと。どうしたんだ、三人とも?」
片膝ついたネイトに一斉に抱き着くモモイ達。
そして、
「私たちからのおまじない!友達が絶対帰ってくるようにって!」
「もう昨日みたいな目にネイトさんが合いませんように…。」
「わ、私たちの、力を、ネイトさんに、分けてあげます…!」
ただただネイトの身を案じる言葉を三者三様に彼に伝える。
「…ありがとう、皆。俺は最高の友達を得ることができたよ。」
ネイトもその言葉をしっかり受け止め三人いっぺんに抱きしめ返す。
「ひゅ~だいたぁん♪」
「ホシノ先輩茶化さない。」
「ん…ネイトさんだけずるい。」
「あらあらうふふ~♪」
そんな光景を微笑ましく見ているアビドス組。
「あ、もちろんホシノ先輩たちにもしてあげる!」
「うへ~ありがとねぇ、モモイちゃん。」
その後、ホシノ達にも三人いっぺんに抱き着き無事のおまじないを済ませる。
おまじないも済ませ作戦開始まで残り20分を切ったとき、
「こちらネイト、そろそろやってくれ。」
《了解、艦長!》
ネイトが無線でどこかへ指示を飛ばす。
「今度は何するつもりなのぉ、ネイトさん?」
「見てのお楽しみだ。斜桁を見ててくれ。」
ホシノに尋ねられるも答える代わりに斜桁を見上げる。
その場の全員もつられてその場所を見上げると…
「W.G.T.C.の旗ですよ!」
「ん…それにアビドス高校の校章旗も。」
まずはW.G.T.C.のロゴとアビドス高校の校章が刺繍された旗が高らかに掲揚され、
「わぁ!ゲーム開発部の旗まである!」
「シャーレの旗も…!」
その下にはゲーム開発部とシャーレのシンボルが刺繍された旗も掲揚された。
「うん、やっぱり戦艦に軍艦旗は必須だな。最後の最後にクラフトしてよかった。」
「ネイトさん、あれってどういう意味ですかぁ?」
「まずは所属を示すもの、上から二枚がそれだな。」
「じゃあ私たちの旗はどういう意味なんですか?」
「今この船に乗っている者の所属、要は歓迎の意味だな。これで一気に様になった。」
「う、嬉しい、です。あんな、立派な旗を、作ってくれて…。」
「私も…この戦艦に歓迎して迎えられて光栄です。」
神妙な面持ちで風を受けて翻る旗を見上げる面々。
しばし旗を見上げた後、
「…準備はいいな、ホシノ。」
真剣な表情となったネイトが一人一人に声をかけていく。
「…了解しました。」
ホシノはその目に『暁のホルス』の鋭さを宿し、
「シロコ。」
「ん、準備万端。」
シロコは纏う雰囲気に獰猛さが混じり、
「ノノミ。」
「はぁい♪」
ノノミは得物を担ぎ笑顔を浮かべ、
「アヤネ。」
「行きましょう。」
アヤネは気合を漲らせた目つきになる。
そんな彼女たちの雰囲気を一身に浴び、
「…決着をつけに行くぞ。」
ネイトも冷たく鋭い『兵士』のオーラに変え一歩を踏み出した。
ホシノ達もそのあとに続いていった。
―――――――――――――――
―――――――
―――
作戦開始まで残り1分
ケテル筆頭にロボット群団はマサチューセッツを警戒していた。
手を出したら一方的に破壊されることはすでに学習済み。
ならばとある程度距離をとり監視体制を敷いていた。
作戦開始まで残り30秒
数でいえば…これまでで最大のものだ。
少しでもあの船が動けば一斉攻撃を仕掛ける準備は整えてある。
だが、未だマサチューセッツは停泊済みで動きはない。
作戦開始まで…10,9…
なにが目的だ?
6,5…
何のために…あそこに留まっている?
3,2…
この方角は…
1,0
次の瞬間、ロボット群団の光学機器はいっせいにホワイトアウトした。
マサチューセッツが停泊していた方角は…工業地帯東側。
そう、日の出を背負う位置だ。
いきなり現れた太陽の光に対応が遅れ一時的に視界不良に陥るロボット群団。
だが、レーダーはとらえていた。
戦艦の陰から飛び出し工業地帯に高速で迫る…小型船の存在を。
『朝日を背に突撃』、由緒正しき戦法だ。
逆光の中、敵はこちらの姿を見失い正確な状況は把握できない。
その隙に敵軍に切り込み一気に勝利をもぎ取るのだ。
現にケテル達は逆光でセンサーがホワイトアウトした状態では正確な照準は不可能。
ならばと手当たり次第攻撃を開始しようとした…その時だ。
《CICより各員!あのブリキの群団に俺たちの力を見せてやれ!!!》
その号令とともに…マサチューセッツ全ての搭載火器が火を噴いた。
閃光の暴風雨が吹き荒れ次々に破壊されていくケテルやロボット兵たち。
当然、反撃としてあの時と比較にならない量の砲弾とミサイルがマサチューセッツに放たれる。
ネイトがいても防ぎきれるか…。
だが…
《『アイアース・システム』、起動!太平洋の伝説を塗り替えるぞ!!!》
満を持して…ユズが心血を注いだシステムがうなりを上げる。
するとどうだ?
飛来するミサイルも砲弾も悉く迎撃、マサチューセッツの姿を覆い隠すほどの宙に煙の花が咲き誇る。
反撃と言わんばかりに各種ガウスキャノンやVLSから巡航ミサイルも放たれロボット群団を粉砕する。
「す、すごい凄い!あれだけ撃たれてるのに一発も食らってない!」
「これがユズちゃんが改良したシステムの真の力…!」
「なんて迎撃能力…!ユズ、本当に凄いよ…!」
豪気にも外部の防空指揮所でその様子を見物するモモイと先生たち。
一方、システム構築最大の功労者たるユズは…
「よ、よかった…!ちゃんと、動いて、くれた…!」
自分が改良したシステムが存分に稼働している様子をみて安堵していた。
『アイアース・システム』、Mr,ハウスが構築しユズが改良し完成させた艦載火器管制対空システムである。
7種の艦載火器とマサチューセッツの装甲を同名の英雄の持つ盾に見立てユズが改良。
Mr,ハウスが搭載していた冗長性を適正な値まで戻し…Mr.ガッツィーにも用いられている連邦産技術である『情報圧縮』技術を用いさらに改良。
最終的には元の性能を60%も引き上げたのだ。
結果、数百発の砲弾とミサイルをものともしない最高の対空防御を実現した。
そしてさらに、
《機関最大戦速、これよりロデオを始めるぞ!!!》
マサチューセッツがとうとう全速力を発揮。
最高速度40ノット、時速74㎞で総排水量40,000tを超える鋼鉄の要塞が水没地帯を疾走。
しかもその速度で統合電気推進モーター特有の回転数の緩急の付けやすさも相まって戦艦とは思えないほどグネグネと動き回る。
まさにその姿はロデオだ。
そんな状況でも砲弾やミサイルを迎撃する当たり『アイアース・システム』の性能は計り知れない。
今ここに、T-51とともに中国軍を震撼させた戦艦『マサチューセッツ』が完全復活したのだ。
《ご乗客の皆様方、当艦は非常に揺れます!振り落とされたくなきゃしっかりとおつかまり下さい!》
「こ、こんな大きな船の速さじゃないですよおおおお!!?」
「は、速いし曲がりすぎいいいいいいいいい!!?」
「こ、こんなの、リズムゲーでも、ないよぉぉぉぉ…!!!」
「し、しっかりつかまって三人ともおおお!!!」
不運にも防空指揮所にいたモモイ達や先生は吹き荒れる風と揺れる船体に耐えるためしっかりと手すりにしがみつく。
そんな中でも、
「後は、頼みます、ネイトさんに皆さん…!」
ユズはネイトたちに決着を託すのであった。
そんな頼もしい援護を背に受け…
「うへ~!めちゃくちゃ派手な花火大会ですねぇ、ネイトさん!」
「アレがユズちゃんが改良したマサチューセッツの真の実力ですか!」
「ユズちゃん、こんなの作るなんて本当にすごいですぅ!」
「ん…帰ったら思い切り誉めてあげなきゃね、ネイトさん。」
高速艇に乗り込み水しぶきを浴びながら頭上で繰り広げられる砲火の花火を見上げユズを称えるホシノ達。
そして、
「ハハッ!見てるか、Mr,ハウス!お前に並ぶ天才がここにいたぞ!!!」
興奮気味に天に向けて中指を突き立てるネイト。
まさかここまでとは。
約束通り…いや想像以上のクオリティまで仕上げて見せたユズのことが友人ながらとても誇らしかった。
その時、
「ネイトさん!揚陸地点にロボット兵が!」
操縦中のアヤネから警告が。
見ると自分たちが向かう先に多数のロボット兵が集結中だ。
「よぉし、ユズとマサチューセッツが切り開いてくれた道だ!絶対に成し遂げるぞ!」
『了解!』
ネイトの号令で操縦中のアヤネを除いた全員が位置につき、
「奴らを薙ぎ払え!!!」
搭載されたM134ミニガン、M240二基、オートマチックグレネードランチャーが火を噴く。
『河川特殊作戦舟艇』、元は特殊作戦にて用いられる上陸用舟艇である。
それをネイトは神秘を用いたクラフトで作成、独自にエンジンの改造を行い…60ノットと言うバカみたいな高速艇に仕立て上げたのだ。
この舟艇の一番の特徴はその搭載火器の多さだ。
これらのほかに後部にはM2重機関銃も搭載されている。
その配置をネイトは見直し、ただ正面に大火力を叩きこめるようにした。
結果、弾幕とグレネード弾によって揚陸地点のロボット兵たちは瞬く間に壊滅。
「皆さん、掴まってください!」
障害が排除されアヤネは巧みにスロットルを操作し、まるでドリフト駐車のようにぴたりと接岸、
「GoGoGo!」
その掛け声でホシノたちは船から飛び降り、ネイトもX-02を出現させすぐに搭乗。
「行くぞ、目指すのは制御センターだ!」
『了解!』
その背にドラム缶を一回り巨大化させたようなバックパックを背負い、ネイトを先陣にいよいよ水上工業地帯に足を踏み入れる。
目的地は工業地帯中央部に位置する制御センターだ。
マサチューセッツのCICの調査の結果、昨晩からその座標にある建物から連続して信号が放たれていることが確認されている。
そこを掌握できれば…ロボットたちも止まるやもしれない。
工業地帯内部はもちろん無人でありながらも今なお稼働中。
こうしているうちに新たなロボット兵やケテルが生み出されているのだろう。
「アヤネ、ドローン展開!俺達を自動追尾するように設定しろ!」
「了解しました!」
入り組んだ場所のため上空からの視界をアヤネのドローンで確保し突き進む一行。
「ネイトさん、左からロボット兵!」
「了解!」
いち早く敵の接近を察知しネイトが踏み込みガトリングレーザーで牽制射撃。
その隙にホシノたちは道を渡る。
最後尾のノノミはネイトに合図のためのタッチを忘れない。
渡り終えたノノミの牽制射撃の中、ネイトも歩を進める。
おまけとしてロボット兵たちに向けパルスグレネードを投擲するのも忘れない。
ノノミも合流し歩を進めていくと、
「次、進行方向から接近!」
避けられないポジションからスイーパーが接近。
「行くぞ、ホシノ!シロコ!」
「了解!」
「ん…任せて。」
ネイトはロケットハンマーを抜き放ち、ホシノとシロコとともに突撃。
スイーパーの先方をネイトが殴り崩し、その穴に向け二人が突っ込む。
「邪魔だッ!そこを退けぇッ!」
手当たり次第にパルススラグ弾を叩きこむホシノ。
「リロード!」
「よし!」
リロードの隙はネイトがその身で彼女を隠し眼前の敵を殴り壊す。
「ん…少し倒しにくい…!」
さらにシロコも左手にコンバットナイフを抜き放ちWHITE FANG 465を連射し敵陣に踏み込む。
物理的破壊能力に秀でたネイトと特攻弾薬を使うホシノと比べると若干倒すのに時間が掛かるがそれでも数を減らしていく。
そして、間合いを殺すために突っ込んできたスイーパーには、
「そこは私の得意な間合い。」
左手のコンバットナイフを顔面に突き立て排除する。
「二人とも、少し下がって。」
とどめと言わんばかりにドローンを使って飛び立ちチャイナレイクを発射。
放たれるパルスグレネード弾で広範囲のスイーパーを薙ぎ払った。
「進路確保、前進!」
これにより大部分を排除成功、前進を再開するも…
「急ぎましょう!後ろからも迫ってます!」
後を守っていたアヤネの言う通りどうやら本拠地の危機と言うことでロボット兵が取って返してきたようだ。
「だったら!」
すぐさま手を打つネイト。
手近なスイーパーの残骸を解体し資材を確保。
その資材を使いEMPを照射するタレット『EMパルスタレット』をずらっとクラフトし設置。
射線の都合上、ノノミ達も多少浴びるが髪が多少逆立つ程度。
しかし、迫るスイーパーは次々と機能停止に陥っていく。
「行くぞ!これで足止めはできる!」
「あんなタレットもあるんですねぇ!」
「番長がいるからアビドスじゃ使えないけどな!」
短く言葉を交わし進撃を再開する一行。
そして、角を曲がったその時…
「なッ!?」
その歩みが止まる。
無理もない。
ネイトたちの眼前には…一体のガトリング砲型ケテルがいた。
「コイツっ!」
素早くホシノがEye of Horsuを構えるが、
「待て、ホシノ!こいつは未起動状態だ!」
手を銃口の前に出しそれを制するネイト。
「え!?あ、ヘイローがない!」
「おそらく起動信号が来ていないのでは…!?」
形こそ確かに昨日から何度も見てきたタイプだがヘイローもだがセンサーの光も点っていない抜け殻のような状態だ。
「ん…だったら放っておいて進もう…!」
「藪を突いて何とやらっていいますしねぇ。」
敵対しないというなら相手にする理由はないので先へ進もうとするが、
「…すまない、30秒時間を稼いでくれ!」
「ちょ、ネイトさん!?」
何を思ったか、ネイトは抜け殻のケテルに近づきパワーアーマーを脱ぎ何やらいじくり始める。
「何を!?追手がもうすぐそこまで!」
「とにかく時間を稼ぐよ、アヤネちゃん!」
「ん…何か考えがあるのは確実。」
「ここはお任せくださぁい!」
若干困惑しつつではあるがホシノたちは指示通り迫りくるスイーパーやロボット兵の対処を開始。
ほんの30秒だがいやに長く感じる。
だが…その対価は十分にあった。
突如として自分たちの背後から飛来するガトリング砲弾幕とミサイルの雨。
ホシノ達が一斉に振り返ると…
「はッはぁッ!どうだ、ハッキングで制御権を奪ってやったぞ!」
得意満面のネイトが腕を高らかに上げていた。
その背後で…先ほどまでうんともすんとも言っていなかったケテルが起動している。
「なっ何やってんですか、アナタはあああああ!?」
思わず声を張り上げて突っ込むアヤネだが…
「ん…落ち着いて、アヤネ。」
「え?!…あ、ヘイローが違う!?」
シロコの言うようにケテルの頭上に輝くヘイローが違う。
通常は四角いターゲッティングマークのような形状だったが今その頭上に輝くヘイローの形状は…
「Vaultボーイのヘイロー!?」
ホシノ達もよく見るPip-Boyに映るキャラクター『Vaultボーイ』の頭上にあるヘイローと同じだ。
Perk『Robotics Expert』、ロボットにハッキングを行い制御権を奪取しネイトの意のままに操れるようにするInt系Perkである。
キヴォトスに来てからはもっぱらロボット製造くらいしか使われていなかったPerkだがここにきてまさかの大活躍である。
ケテルに施した設定は『起動』と『扇動』、未起動状態のケテルを強制的に立ち上げIFFの設定を逆転させ本来仲間のはずのスイーパーたちへ攻撃を仕掛けるようにしたのだ。
「よし、ここはこいつに任せて進もう!」
「うへ~!敵だとうっとおしいのに味方だと頼もしいですね!」
「ん…これで追っ手も早々に追いついてこれない。」
「そういうことをするときは予め説明してくださいよ!」
「まぁまぁ、アヤネちゃん♪怒るのはあとでもできますから先に進みますよ~♪」
そういうわけで迫るロボット兵たちの処分をハッキングしたケテルに任せネイトたちはそそくさと先へ進む。
「というか、あんなことできるならなんでやらなかったんですか?」
「マサチューセッツの材料にしたとき頭の中に奴の構造が流れ込んできてな!それで試しにハッキングしかけてみたら何とかなった!」
「相変わらず無茶苦茶と言うかなんというか…!」
そんな会話を交わしつつ、その後もスイーパーの軍勢を粉砕しつつ進撃しとうとう…
「見えました!あれが制御センターです!」
眼前に目的地である電波塔が建てられた建物『制御センター』が出現した。
見るとシャッターに閉じられた入り口も見える。
やはり元は人がいたであろう都市の中の工場だ。
…わざわざ開けて入るほどお行儀よくする理由はないので、
「フンヌゥ!!!」
X-02のトップスピードからのタックルでシャッターを吹き飛ばし突入。
ホシノ達も中に入った段階でクラフトで修繕し再封鎖。
そのまま少し進んだところで…ネイトはクラフトで『軍用バリケード』を設置し、背負ってきたバックパックから各人が使う弾薬を配置する。
「すまないが頼む!」
「後ろは任せてください、ネイトさん!」
「一体たりとも通したりしませんよぉ!」
「ん…でも早く済ませてくれると嬉しい。」
「指揮は私が!やり切って見せます!」
「適宜、防衛ラインを設置していく!余裕をもって後退してくれ!」
そう言い残し、バリケード越しに銃を構えロボット兵を待ち受けるホシノ達を残しネイトのみが先へ進む。
道筋はPerk『V.A.N.S.』が教えてくれる。
ホシノ達のためにケミカルライトで自分が通った道筋を示すことも忘れない。
そして一定間隔でまたバリケードと予備弾薬を置き簡易的な防衛ラインを構築。
その時、正面のシャッターが破られる音とホシノたちの得物の銃声が響き渡り始める。
ネイトはそれでも焦りはしない。
(大丈夫だ…!ホシノ達なら平気だ…!)
自分が背中を預けているのはホシノ達だ。
彼女たちの実力を自分が信じなくてどうする。
振り返ることなく防衛ラインを構築しつつ歩を進めていき…
(あった!メインコントロールルームだ!)
とうとうこの工業地帯の中枢、メインコントロールルームにたどり着く。
その扉を蹴り破り、
「…こいつか!」
その中の円筒形のデスクに乗った主要端末を発見。
すぐさまX-02を脱ぎ端末を立ち上げ内部システムへの侵入を行おうとするも…
(クッ…なんてセキュリティだ…!)
やはりと言うか昨日の防衛室施設にあったPCとは比べ物にならないほどのセキュリティが施されてある。
「だが、これくらいなら…!」
それでもかつては米国諜報機関D.I.A.のシステムすら突破したネイトだ。
素早くバックドアをこじ開けシステム内に侵入。
が、すぐさま締め出される。
「まだまだ…!」
ならばとやり方を変えて再び侵入するもすぐさま締め出される。
再び入っても締め出される。
何度やっても締め出され続ける。
そうやって何度も試すうちに…
(おかしい…!)
ネイトは違和感に気付く。
取れる手段はやった。
バックドアはもちろん、アカウント奪取、セキュリティシステムそのもののクラッキングを仕掛ける等々。
なりすましでも入ろうとしたが…それでも締め出されてしまった。
幾ら強度の高いセキュリティだとしても…
(対応の柔軟性が高すぎる…!?)
システムとは思えない臨機応変具合だ。
単純なシステムの強度だけではなく、まるでこちらの出方をどこかで見ているかのような対応の柔軟性だ。
しかも…これには既視感がある。
それも非常に最近だ。
「…。」
ある仮説を立てネイトはある場所を注視する。
「…………そういうことか。」
どうやら…仮説はより強固な結論にたどり着いた。
ちょうど同じタイミングで、
「ネイトさん、まだですか!?」
「ここでもう最終防衛ラインですよ!?」
ホシノ達も最終防衛ラインまで後退してきている。
銃声のほかにもスイーパーの足音もすぐそこまで迫ってきている。
「…一分だ!一分でケリをつける!」
そういうや否やネイトはPip-Boyの接続ソケットをデスクの挿入口に接続し操作し始める。
その言葉を信じ、ホシノ達も防衛戦を実行するが…
「ん…グレネードも銃も弾切れ…!」
「私ももうバックパックが全部空ですぅ…!」
「こっちもいまのでカンバンだね…!」
「私ももうハンドガンしか…!」
相手は恐ろしいまでの物量で攻め込んでくるロボット兵やスイーパーたちだ。
とうとう用意していた弾薬が尽きてしまった。
それでも…ホシノ達の心は折れない。
「…弾がないなら私はナイフで突っ込むよ。」
「私もスーパースレッジがありますぅ!」
「うへ~…おじさんもハンドアックス貰っといてよかったよ。」
銃がなければ近接戦で少しでもネイトのために足止めをするだけだ。
シロコもノノミも、ホシノでさえ近接専用の武器を取り出し覚悟を決める。
「わ、私だって負けません!」
ここのメンバーの中では最も非力なアヤネも『コモンセンス』を抜き放つ。
もうそこまで足音が迫ってきている。
『…………。』
全員が精神を統一し呼吸を合わせ…
「…行くよ、皆!」
ホシノの号令でバリケードを飛び越えスイーパーの軍勢に襲い掛かろうとする。
次の瞬間、ロボット群団から何やら破裂音が響き床に倒れてしまった。
それも一体二体ではない。
こちらに迫ってきていたロボット兵全てだ。
さらに、
《ブリッジより艦長!工業地帯外に展開していた大型ロボットを含むロボット群沈黙!弾丸の一発も飛んできません!》
マサチューセッツからの報告で外部のロボットも例外なく沈黙したようだ。
『……………はぁ~…。』
安心したのか、気が抜けたのか、それとも疲労からかその場にへたり込むホシノたち。
「はぁ~終わった~…。」
メインコントロールルームからもネイトの力が抜けた声が聞こえてきた。
どうやら…彼はやり遂げたようだ。
「ネイトさぁん…ハッキングお疲れさまでした…。」
「ん…今日の任務はさすがにちょっとピンチだった…。」
「はぁぁぁ…よかったぁ…。怖かったあああああ…。」
「少しは戦えたでしょうが…間一髪でしたねぇ…。」
ヘたった足に何とか力を込めて立ち上がりメインコントロールルームにはいるホシノ達。
そこには両手をデスクに付けてうなだれているネイトがいた。
「すまなかったな、皆。かなり手間取った…。」
「何があったんですか?ネイトさんにしては手間取りましたね。」
「…ノノミ、スーパースレッジ貸してくれ。」
「はい、どうぞぉ。」
ホシノの返事の答え代わりにノノミからスーパースレッジを受け取り…
「…むん!」
制御端末のデスクの下のカバーを思い切り殴りつけた。
「ちょちょちょ!?何してるんですか、ネイトさん!?」
突拍子もない行動に慌て始めるアヤネだが返事をすることなくカバーを殴り引っぺがすとそこには…
「なッ!?そいつは!?」
「ん…あの支援機と同じ…!」
支援機型ケテルと同じ電飾の装置がそこにあった。
「コイツだ。コイツがリアルタイムで俺の操作を覗き見してそれに合った対策を講じて邪魔してやがった。」
言ってみれば仕組みは簡単だ。
考えてみればケテルもこちらの出方に合わせて部隊編成や武装を変更してきていた。
ネイト一人のハッキングならケテル一機だけでも十分だっただろう。
…タネがばれるまでは。
「あまりにも『臨機応変すぎた』上に既視感もあったからもしやと思ってな。」
「なんでこんなのがここに…。」
「おそらく昔はここの制御端末用のCPUのような存在だったのでしょう。それがいつしか意志を持って…。」
「今はもう大丈夫なんですかぁ?」
「あぁ、すでにシステムからは切り離しているし機能を停止させてある。」
既に同型のロボットを先ほどハッキングしたのだ。
このケテルをハッキングし停止させることくらい訳がない。
「その後はPip-Boy経由でシステムに入り込んでこの工業地帯の全権管理者権限を奪取した。」
「ん…お疲れさま、ネイトさん。…外のみんなに知らせなくていいの?」
「ッとそうだな。」
シロコの進言を受けネイトは無線を飛ばそうとする…が、
「…せっかくだからこっちでやろう。」
そう言ったかと思うと端末を操作する。
その頃、戦艦マサチューセッツにて、
「ネイトさん、大丈夫ですかね…。」
「ロボットが全部止まったから大丈夫なはずだよ、ミドリ。」
「でも、なんで返事がないんだろう…。」
「ホシノ先輩たちも、大丈夫だと、いいなぁ…。」
ようやく落ち着いたのでグロッキーになりながらも立ち上がり工業地帯を見つめる先生たち。
その時、工業地帯からスピーカーのハウリング音が響き、
《アーアー、マイクテスマイクテス。こちら強襲部隊隊長のネイトだ。》
工業地帯の放送設備を使いネイトが呼びかけてきた。
《現在、中枢制御を奪取。実質的に当地帯の制圧に成功した。》
「ネイトさんだ!よかった、作戦は成功だよ!」
《なお、弾薬は消耗したがけが人はなしだ。》
《はいは~い、ホシノだよ~。あと一歩で斧で戦うとこになったけどみんな無傷だよ~。》
「ホシノ先輩たちも無事みたいでよかったです…!」
「か、完璧に、作戦遂行、完了ですね…!」
その放送を聞き、ネイトたちの無事と任務達成に安堵するモモイ達の一行、
(敵の本拠地に五人で乗り込んで短時間に無傷で制圧するなんて…。)
作戦開始から30分も立たないうちにあの広大な工業地帯を制圧し得たという事実に先生はこの旅で幾度と知れない衝撃を受けた。
これがネイトの、ホシノ達の…いや、『アビドス』の真の実力か。
恐ろしくもあり頼もしくもあるその実力を目の当たりにし…
(…よし、決めた。)
先生は胸の内にある決意を秘めるのであった。
こうして…二日にわたって繰り広げられた『廃墟区画水没地帯攻略作戦』。
ネイトを筆頭にホシノとモモイ筆頭のアビドス・ミレニアム連合と先生は無数のロボットを打倒し勝利を収めたのであった。
『Surprise, Speed, Success』
『奇襲・速攻・勝利』
―――第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊『デルタ・フォース』の標語