Fallout archive   作:Rockjaw

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損害も利益も返報しえないことは不真面目なり。
―――哲学者 ソクラテス


What Moves Mountains

核融合エンジンに換装したベルチバードはその後、ミレニアム学区を突っ切りアビドス自治区までノンストップで突っ切っていく。

 

道中、

 

《編隊飛行中の機体、降りてきやがれ!今度こそ逃がさ…!》

 

「聞こえませぇ~ん。」

 

何やら威勢のいい無線が飛んできたが従う義理はないので無視を決め込むネイトであった。

 

追手がかかった気配もないのでのんびり飛行し続け…

 

「ご搭乗の皆様方、当編隊はアビドス高校に到着しました。シートベルトをお締めの上お席を立たないようお願いします。」

 

《は、はい!アヤネ了解しました!》

 

正午を少し過ぎたあたりでアビドス高校に無事に到着。

 

生徒の誘導に従いまず吊り荷を先に下ろし、

 

「オーライ!オーライ!オッケェイ!」

 

「ふぅ~…。」

 

「帰ってきましたね、アビドスに。」

 

「新任早々、あんな修羅場を任せてすまなかったな。」

 

「いえいえ。いい経験をさせてもらいましたよ、ネイトさん。」

 

ベルチバードを着陸させる。

 

他の三機も間隔をとって着陸したのを確認しネイトと先生もアビドスの大地を踏みしめた。

 

「アニキ、お帰りなさい!」

 

「心配かけたな。頼んでいた物は手に入ったか?」

 

「はい、ちょうど入荷してたようで手に入れられました!」

 

「よし、代金はあとで払うから代物は対策委員会室に持ってきてくれ。」

 

「了解っす!」

 

出迎えてくれた生徒と言葉を交わし、

 

「いやぁ、やっぱ母校は良いモンだぁね。」

 

「ん…一日しか離れてないのにもう懐かしい…。」

 

「皆さん、無事に戻って来れてよかったですねぇ。」

 

「セリカちゃん、大丈夫かな…。」

 

「四人もお疲れ様。」

 

まるで一月でも離れていたかのような感慨深さで校舎を見上げるホシノ達に労いの言葉をかけ、

 

「わぁ、ここがアビドス高校かぁ…!」

 

「ネイトさんが立て直した学校…!」

 

「どんな、発明品が、あるんだろう…!」

 

「すまないな、モモイ達。帰りの電車賃は渡すから堪忍な。」

 

成り行きとはいえ連れてきたモモイ達にそう詫びる。

 

「ん…そういえばネイトさん。先生と二人で何話してたの?」

 

「後で説明する。今は少しのんびりしたい。」

 

「さぁ~んせぇい、おじさんもお昼寝したいよぉ…。」

 

「じゃあともかく校舎に入りましょうか。」

 

「そうだな。じゃあ、モモイ達も付いて来てくれ。」

 

「ねぇねぇ、ネイトさん!学校の中見て回ってもいい!?」

 

「あぁ~ノノミ、案内任せてもいいか?」

 

「はいは~い♪じゃあ後で私と一緒に探検しましょうねぇ♪」

 

「い、いいんですか?ここってネイトさんの技術がいっぱい…。」

 

「詳細なスペックを持ち帰られるのは困るがゲームのネタにするくらいなら構わないさ。」

 

「あ、ありがとうございます、ネイトさん。」

 

そんな会話を交わしつつ校舎内に入る一行。

 

すると、

 

「…あぁ、そうだ。一旦、委員会室に寄っていいか?」

 

突然、対策委員会室に立ち寄ることを提案しそそくさと階段を上るネイト。

 

『…え?』

 

そんなネイトの言葉に固まるホシノ達と先生。

 

「どうかしたの、先輩たち?」

 

「い、いやちょっと…。」

 

不審がるモモイに言葉を濁すが…

 

「と、ともかく後を追いましょ!」

 

今ネイトをあそこに向合わせるのは色々と拙い。

 

急いで追いかけることにしたが…時すでに遅し。

 

「ただいま~。セリカ、今帰っ…。」

 

既に委員会室の前に立ち扉を開けた瞬間、固まるネイト。

 

『あぁッ!?』

 

間に合わなかった、それでも急いでネイトに追いつき委員会室の中を確かめるホシノ達。

 

そこには…

 

「……………。」

 

「あっお帰りなさい、ネイトさんにホシノ先輩たち。」

 

まるで魂が抜けたように真っ白な少女とセリカがそこにいた。

 

(燃え尽きてるー!?)

 

そんなことを内心突っ込むホシノたちをしり目に、

 

「あ、あぁただいま、セリカ…。で、そこのお嬢さんはどちらさん?」

 

状況を一切知らないネイトがその少女について尋ねる。

 

と、そこへ…

 

「何々、どうかした…あれ!?ユウカ、ここで何してんの!?」

 

「え、ユウカ先輩!?忙しくて電話に出れなかったんじゃ…!?」

 

「ゆ、ユウカ先輩、大丈夫、ですか…!?」

 

モモイ達もやってきてそこにいる二人の少女の名を呼ぶ。

 

「…へぇ?ってモモイにミドリにユズ!?」

 

聞き覚えのある声を聴いたからかユウカも再起動。

 

「…あぁ~セリカ。俺がいない間にあったここでの出来事を説明してくれ。」

 

何となく色々あったのだと察せれたネイト。

 

セリカに説明を求めると…

 

「分かったわ。ホント色々あったんだからね。」

 

目の前のユウカを見やりながら説明を始めた。

 

~居残り少女説明中~

 

「…と言ったのが今日までの流れね。」

 

と事のあらましを聞き終え…

 

「…なるほど、先生と一緒にウチにアポなしで押し掛けてきて清掃用プロテクトロンに鉛玉をプレゼントしようとしたと。」

 

まず初めにユウカがやらかそうとしたことを復唱するネイト。

 

「ちょ、そこは重要じゃないんじゃ…!」

 

こう蒸し返されてはさすがに敵わないとユウカも声を荒げるが、

 

「おい、セミナー会計。重要じゃないとはどういう了見だ?」

 

「あ、いや…その…!」

 

トーンを数段険しく先生とはまるで違う『厳しさ』を湛えたネイトの声に一気にトーンダウンする。

 

「あのロボットはアビドス高校の所有物だ。それを自分たちの不手際で敵対化させておいて壊そうとする…。道理が通ってないのはどっちだ?」

 

「そ、それは…。」

 

淡々と事実のみを突きつけユウカにどちら側に非があるかを認識させ、

 

「先生、アンタもアポなしでいきなり訪問するってのはどうなんだ?そこは最低限大人のマナーだろ。」

 

「ハイ…申し訳ありません、ネイトさん…。」

 

続けて、ここに来ることを提案した先生にも苦言を呈することを忘れない。

 

「えぇ…ユウカ、それはいくら何でもヤバいって…。私たちでももう少し気を使えるよ…?」

 

「警報を発動させたのにそのロボット壊そうとしたんですか…?」

 

「ち、ちょっと、他所の学区で、することじゃ、ないかなぁ、と思います…。」

 

「うぐッ…!」

 

これには同じミレニアム生であるモモイ達も若干ひき気味だ。

 

ちなみに長机に対面でネイト含むアビドス組と、先生とユウカにモモイ達ミレニアム組と言う配置で一堂に会している。

 

「で、アビドスの出納帳を確認中にモモイから連絡があって先生が離脱。それで残されて出納帳読み進めていったらさっきみたいに真っ白に燃え尽きていた、と。」

 

「一体何があったの、ユウカ?」

 

先生がそうユウカに真っ白くなっていた理由を尋ねると…

 

「どうしたもこうしたもないですよ…!半年前からこの学校はどうなってるんですか…!?」

 

そう頭を抱えながらユウカが差し出したのは半年前からの出納書の束だ。

 

(あぁ~…。)

 

それを見たネイト含むアビドス組は内心で納得する。

 

「おかしいでしょ…!?何よ、毎日140万円以上の収入得られる売電って…!!?それに何なの、一日に2000万近く稼ぐW.G.T.C.っていう連携企業…!?」

 

会計に携わっているからこそわかるこの異常な収支状況。

 

だが、それでも100万を超える安定収入と突如として現れた新進気鋭の高収益企業『W.G.T.C.』。

 

それだけのテコ入れが入れば廃校寸前のアビドス高校が持ち直すのは当然ともいえる。

 

つねに財政がカツカツのミレニアムサイエンススクールの会計であるユウカからしてみれば羨ましいを通り越して妬ましくも思える。

 

「え…!?」

 

その話を聞き、先生は驚きの声を上げ…

 

「い、一日に2000万円…?!にせんまんえんってなんえん…!?」

 

「2000万円は、2000万円だよ。落ち着いて、モモイ…。」

 

「ネ、ネイトさん…。ホントに凄い会社の社長さんだったんだ…!」

 

 

改めてネイトがどんな会社を率いているかを見せつけられ目を見張るモモイ達。

 

だが、

 

「…え?ミドリ、今…。」

 

頭を抱えた状況だったとはいえ、彼女は聞き逃さなかった。

 

先生とは違うヘイローを持たない大人の男性。

 

名前は先ほどから『ネイト』と聞いている。

 

その人が…

 

「ま、まさか貴方が…!?」

 

目を見開きながらネイトを見るユウカに、

 

「…あぁ、自己紹介がまだだったな。」

 

ネイトは懐を弄り、

 

「改めて、アビドス高校用務員兼W.G.T.C.の社長と全部隊総代および総指揮官を務めるネイトだ。以後お見知りおきを。」

 

机の上に名刺を置きユウカのほうに差し出す。

 

その名刺を受け取り何度も名刺とネイトを見比べるユウカ。

 

「それで?アビドス高校復興の内容は知れたわけだろ?もう目的は果たせたんじゃないか?」

 

来校目的は先ほどセリカから聞いている。

 

「帰り道はあっちだ。電車代くらいなら出そう。」

 

そう言い、出口を指し示すネイトだが、

 

「ま、待ってください!そういうわけには…!」

 

なおも食い下がるユウカ。

 

すると、

 

「失礼しま~す。アニキ、頼まれてたモン持ってきました。」

 

ちょうどそのタイミングで先ほど言葉を交わした生徒がやってきた。

 

「お、すまないな。」

 

「んじゃ、失礼します!」

 

一旦話を区切りネイトは生徒からそれを受け取り、

 

「ほれ、モモイ達。今回いろいろ手伝ってくれたご褒美だ。」

 

ビニール袋に入ったそれをモモイ達の目の前に置く。

 

「え、これって…!?」

 

ビニール袋越しにうっすら見えるそれにモモイは素早く反応する。

 

「私たちが買おうとしてたゲームの初回限定版!?」

 

そう、彼女たちがネイトと出会ったときに買いに行っていたゲームの初回限定版だ。

 

「生徒に頼んで探してもらったら見つけられてな。どうもアビドスじゃ流通が少し遅れてたらしい。」

 

「わぁッいいの!?ホントに貰っちゃっていいの!?」

 

「ぜひ持って行ってくれ。」

 

「わぁい!ありがとー、ネイトさん!」

 

ネイトのプレゼントに大はしゃぎのモモイ。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん…!すみません、ネイトさんに先輩たち…。」

 

他校という場なのに大はしゃぎするモモイを諫めつつネイトとホシノたちに詫びるも、

 

「良いさ、ミドリ。むしろ大喜びしてもらったほうが俺も嬉しい。」

 

「欲しいものが手に入ったときは思い切り喜ぶのが普通だから気にしなくていいよぉ。」

 

ネイトとホシノはそんなモモイの様子を優しく見つめながらそう返すのであった。

 

シロコたちも同じような眼差しで特に気にしていないようだ。

 

「で、でも、本当にありがとうございます、ネイトさん。」

 

「どういたしまして、ユズ。…で、それが友人としての『ご褒美』でこっちが我が社としてのゲーム開発部に対する『報酬』だ。」

 

ユズにそう返しつつ次にネイトが報酬として取り出したのは…

 

「さ、札束ぁ!?」

 

「1000万ある。すまないが今俺に自由に動かせるのはこれが限界だ。」

 

帯付きの分厚い札束だった。

 

これには大はしゃぎだったモモイも我に返って仰天する。

 

ユウカでさえ目を見開きそんな大金をポンと差し出したネイトに驚愕している。

 

「な、なになに!?これも私たちに!?」

 

「さすがにこれは受け取れませんよ!?」

 

今までで見たこともない現金をポンと差し出されさすがに断るモモイとミドリだが…

 

「なに、俺の命の恩人であれだけの大仕事をやってくれたんだ。本来ならもっと支払いたい所なんだが…。」

 

ネイトがそんなことを言うものだから…

 

(あ、これ…!)

 

ユズは『察し』、

 

「ありがとう、ございます、ネイトさん。これは、部費として、有効に活用、させていただきます。」

 

今までにない素早い動きでその札束を自分の方へ引き寄せた。

 

「ちょ、ユズ!?何やってんの!?」

 

「ダメだよ!?ちゃんとネイトさんに返さなきゃ!」

 

普段のユズからは考えられないような行動にモモイとミドリは慌てるが、

 

「ちょ、ちょっと聞いて…!」

 

二人を抱え顔を寄せ、

 

「いい?これ受け取っとかないと、大変なことになるよ、モモイにミドリ…?!」

 

「え…!?どういうこと…!?」

 

「さっき、『今自由に動かせるお金』、って言ってたでしょ…。」

 

「そ、そうだけどそれが…?」

 

「日が経つと、これ以上のお金、確実に持ってくるよ、ネイトさん…!」

 

「え゛ッ…?!」

 

ここ二日付き合っただけでもネイトはかなり気前のいい性格だというのはモモイとミドリも分かっている。

 

そこに日収2,000万近くを優に稼ぐという会社の社長と言う事実も加われば…

 

「だからここで受け取って、報酬を確定、させておこう…!」

 

「「うん、そうしよう…!」」

 

考えるのも怖いので二人もユズの言葉に納得、

 

「あ、ありがとう、ネイトさん!部費がカツカツだったから助かったよ!」

 

「じ、次回作のゲームができたら一番に遊んでくださいね!」

 

顔を上げ若干冷や汗をかきつつネイトに礼を言うのであった。

 

「あぁ、楽しみにしている。さて、ノノミ。そろそろ三人を連れて学校を案内しに行ってもらえるか?」

 

と、ここでノノミに案内を頼んでいたアビドス高校の探検へ向かうよう促すネイト。

 

「ハイハァ~イ♪行きましょうか、三人とも♪」

 

ノノミもネイトの腹の内を読み取り、モモイ達を連れてそそくさと部屋を後にしようとし、

 

『ハァ~イ。』

 

待ちに待った学校内の探検と言うこともあってモモイ達も一斉に委員会室を飛び出していった。

 

プレゼントされたゲームと報酬の1000万円を抱えて。

 

「まッ待ちなさい、三人とも!そんな大金をそのままアンタたちに渡すわけには…!」

 

と、ここで待ったをかけるのはミレニアムの金庫番たるユウカだ。

 

一部活、それもゲーム開発部に1000万の部費など他所から反発が起こるのが必至。

 

ならば、自分たちで徴収し問題が起こらないように管理し分配を…と思っての発言だった。

 

が、

 

「三人を追いかけると話は終わりだと判断するぞ。」

 

「なっ!?」

 

ネイトの短い言葉でその動きを止める。

 

今ここで三人を追いかけると…自分の目的は果たせない。

 

目の前にある1000万はそれを捨てるだけの価値があるか?

 

優れた計算能力を有する彼女は素早く勘定を弾き出し、

 

「クッ…!」

 

三人を追うのをやめ、席に着くのであった。

 

「で、理由が分かってなおここに用が残っているのか?」

 

ネイトも席に着き直し改めてユウカの目的を問う。

 

「それは…。」

 

ユウカは未だにネイトの迫力に気圧されながらも意を決し言い放つ。

 

「…この学校の経済的復興の方法を教えていただきたく…。」

 

「嫌だ。」

 

「…え?」

 

にべもないネイトの言葉に思わずそう声が漏れた。

 

「聞こえなかったか?『嫌だ』、と言ったんだ。じゃあこの話は終わりだな。お帰りはあちらだ。今度来るときはアポを取ってくれよ。」

 

呆然とするユウカを放置するようにネイトは話を切り上げ部屋を後にしようと席を立つ。

 

「ま、待ってください!ど、どうしてですか!?」

 

それに待ったをかけるユウカ。

 

「この学校を救えた方法を広く知らしめれば経済的に苦しむ多くの学校を救えるんですよ!?」

 

「…。」

 

「あなたの会社はその技術も機材もある!それを一社、一学校で独占するのはあまりにも非経済的です!」

 

「………。」

 

「その方法と機材を多くの学校に広めれば延いてはあなたの会社とアビドス高校にも大きな利益をもたらすはずです!」

 

「………。」

 

「だから、お願いします!ネイト社長、キヴォトスの多くの学校を救うためにどうか御社の技術の開示を…!」

 

自身の優れた経済的観点からも決して悪い話ではないとネイトにプレゼンするユウカ。

 

だが、

 

「おい、セミナー会計。今何と言った?」

 

「え…!?」

 

「俺の技術を…何のために開示しろ、と言ったんだ?」

 

再び声音を鋭く…いや先ほど以上にドスを聞かせた声でユウカに問い返すネイト。

 

「そ、それは…多くの学校を救うため…!」

 

声を詰まらせながらもユウカがそう答えると…

 

「ハンッお話にもならんな。さっさと帰れ。もう二度と来るな。」

 

今までにないほど厳しく返すネイト。

 

「ど、どうしてですか…!?こ、この学校を、救えたアナタになら…!」

 

「…言わなきゃ本当に分からないのか?」

 

「な、何を…!?」

 

「じゃあ聞くが…この学校が砂漠化と借金に苦しんでいた時…別の学校やミレニアムは助けてくれたのか?」

 

「ッ!?」

 

ネイトの言葉に殴られたような衝撃を受けるユウカ。

 

「出納書に全部目を通したんだろ?その中に一円でもそういうのはあったか?」

 

「そ、それは…!」

 

「答えてやろう、0だ。そこにある出納書以外にも遥か昔までさかのぼっても0だ。」

 

ネイトも『このような事態』をすでに想定し調査は進めていた。

 

無論、寄付があればそれに見合った『見返り』をするつもりでいたが…哀しいかな、寄付をしてくれたような学校はただの一校となかった。

 

「そりゃそうさ。ミレニアムは新興の三大校の一角。大勢力を誇っていたアビドスの凋落は願ってもない事だっただろう。」

 

「そ、そんなことは…!」

 

否定したいが…ユウカには否定の言葉は出せない。

 

事実、歴史が浅いミレニアムサイエンススクールが三大校の一角に収まれたのはアビドス高校がその座から落ちたというのが一番大きい。

 

そんなチャンスにわざわざこの座に座っていた学校を助けるか?

 

ユウカ自身、セミナー会計のためそんなことがあった記録など見たこともないので否定できないのだ。

 

「で、だ。そんなアビドス高校が立ち直せたと思ったら今度はその方法を『タダ』で開示しろと?…お前の頭は相当ハッピーでエキセントリックみたいだな、セミナー会計。」

 

「う、うぅ…!」

 

「こっちが苦しんでいるときには放置し、復興すれば手の内を明かせ…。ハンッまるで銀行の悪徳営業だな、えぇ?」

 

心底、ユウカを嫌悪した目と口調で話をつづけるネイト。

 

「うちのモットーは『実直な仕事には、ふさわしい報酬を』だ。働きもなければ恩も義理もない、そんな奴に明かす情報なんざ一文字もないんだよ。」

 

「じ、じゃああの三人にはなぜッ!?」

 

容赦のないネイトの言葉にユウカも怒り交じりに先ほどのゲーム開発部への対応を指摘するが、

 

「ほぉ、戦友で命の恩人のモモイにミドリにユズと自分が同列だと?…思い上がるなよ、貴様。

 

さらに怒りまで混ぜ合わせた威圧的な声音となりユウカを睨みつけるネイト。

 

「せ、戦友で…命の恩人…!?」

 

「誇張抜きでいうぞ。あの三人の働きがなければ俺は幾度となく命を落としていたし全員無事でここに帰って来れなかった。そんな三人にあらん限りの礼を尽くすのは当然だ。」

 

「そんなことがあったなんて知るわけが…!」

 

「聞いたぞ、モモイが助けを求めて連絡を取っていた時に冷たく突き返したそうだな。」

 

「それは…あの時にはもう出納書の調査を始めて…!」

 

「ほぉさすがは『冷酷な算術使い』、同じ学び舎の生徒の声よりも他所の学校の財布の中のほうがご執心とは恐れ入った。」

 

「もっモモイですね、そのあだ名は…!」

 

「ぴったりだと思うが?馬鹿なことをしたものだ。モモイの話を聞いてさえいれば少しは見返りはあったものを。」

 

「そ、そんな…!」

 

損得勘定には人一倍聡いと思っていたユウカ。

 

だが…今回のアビドス出張では行動すべてが裏目に出てしまった。

 

モモイの話を聞いてさえいれば…。

 

もう少し冷静になって交渉すれば…。

 

アビドスに少しでも手を差し伸べていれば…。

 

「話は以上だ。俺は別件で用があるから席を外す。」

 

終ぞ険しい口調のままネイトは委員会室を後にしていくのであった。

 

室内に取り残されたホシノたちと先生、そして…

 

「そんな…そんな私はただ…!」

 

ネイトの容赦ない言葉に打ちのめされぶつぶつと何かを呟くユウカ。

 

すると、

 

「いやはや、ネイトさんも手厳しいねぇ。」

 

「ん…でも、言ってくれたことに間違いはない。」

 

「ユウカ先輩、あれはいくら何でも図々しすぎるわよ。」

 

「ちょ、ちょっとセリカちゃん…言いすぎだよ…!」

 

ネイトがユウカと話し始めてから一切口を挟まなかったホシノたちが各々先ほどのネイトの話の内容に後添えを始める。

 

「でっ、でもホントにわたしはただ…!」

 

「うん、わかってるよぉ。ネイトさんの技術を使えば多くの学校を豊かにできるのは私たちも分かっている。」

 

「だ、だったら…!」

 

「でも、それと同じくらい…どうして今まで助けてくれなかったくせに都合のいいことを、っていう怒りの感情もあるかな。」

 

「それは…。」

 

改めてホシノからその事実を言われユウカもうつむく。

 

だが、一理どころかホシノの話は納得するしかない。

 

もしミレニアムが危機を迎えた時、どの学校も助けず起死回生の方法で復活した後にその技術目当てで声をかけてきたら?

 

きっと自分もアビドス高校の生徒と同じ対応をとっているはずだ。

 

「ん…それにアナタはネイトさんに何も『見返り』を提示しなかった。」

 

「それは将来的に大きな利益をえられるって…!」

 

「それは確約されたもの?」

 

「そんなのわかんないわよ!そんな技術ウチにもないんだから!」

 

まだ明かされてもいないネイトの技術から得られる利益はさすがのユウカにも未知数である。

 

その返答を聞き、

 

「ん…じゃあ、そんな不確かなメリットのためにネイトさんは絶対に技術を渡さない。」

 

シロコは頷きながらネイトの行動の妥当性を示す。

 

「それにアナタはミレニアム生、技術を得たらそのままバイバイなんて可能性もある。」

 

「するはずないじゃない、そんなこと!」

 

「アナタはそう言っても普通は信じられない。ネイトさんが信じるのは『信用』と『契約』。」

 

「会って間もないのに信用だなんて…!」

 

シロコのそんな言葉にユウカも無茶な、と言った声音で返すも、

 

「ん…でも、モモイ達『ゲーム開発部』は会って一日も経ってないのにあそこまでネイトさんから信用を勝ち取っている。」

 

「そ、それは…!」

 

自分とほぼ同条件のはずのモモイ達の存在がその反応を許さない。

 

 

「ユウカ先輩、ネイトさんはここに来た時にどうやって私たちの信用を得たと思う?」

 

「ど、どうやって…?」

 

「ヘルメット団の襲撃に飛び入りで参戦して私達を守ってくれたのよ。それにLMGの弾幕から体を張ってホシノ先輩を護ってくれた。」

 

「キヴォトス人でもない普通の人間が!?」

 

「一発でも当たれば下手すれば死んじゃうのによ?でも、そのおかげで私たちはネイトさんを信用できたわ。あの人はいい大人だって。」

 

ネイトがいかにして初対面で自分たちの信用を勝ち取ったかを語るセリカ。

 

ユウカはというと共に戦場を渡ったが後方支援専門だった先生と違いネイトは前線に立ち戦いあまつさえ体を張ってホシノを守ったという事実に驚愕するしかない。

 

「で、ユウカ先輩。アナタはネイトさんから信用を得られるようなことを何かしたの?」

 

「………。」

 

ユウカに答えられるわけがない。

 

なぜなら、自分はネイトから信用を得られるような行動を何一つとってすらいないのだから。

 

「こんな短時間じゃ難しいわよ。でもそれもなしに技術を明かせって虫が良すぎるんじゃないかしら?」

 

「じゃあ、モモイ達は…。」

 

「ハイ、見ず知らずのはずだったネイトさんを助けようと必死に行動して戦い続けてくれました。だから、ネイトさんもモモイちゃん達に信頼を置いているんです。」

 

そこでなぜモモイ達を『戦友で命の恩人』と呼んだかも判明する。

 

今の自分とモモイ達、どちらを信用するか…言うまでもないだろう。

 

「ネイトさんって優しい人ですけど…だからと言って絶対に『甘くない』んです。」

 

「甘く…ない…。」

 

「日常でも戦闘でも…ある意味どこまでも『シビア』に判断できるから私達や皆はネイトさんを信頼しているんです。あ、でもメリハリはちゃんとありますよ。」

 

続けてアヤネがネイトと言う人物の為人を語る。

 

「でも…あんなに私のことを…。」

 

「それは、ユウカ先輩が嫌いだからではなくあくまでW.G.T.C.の社長として先輩を『ビジネス相手』として接していたからですね。」

 

「ビ、ビジネス相手…。」

 

「社長としてアビドス高校生徒全員を背負ってますから自然と厳しくなっちゃうんです。」

 

考えてみれば当然だ。

 

アビドスはネイトの技術で立ち直った。

 

そのおかげでW.G.T.C.社員、もといアビドス高校の生徒も増えた。

 

彼ら彼女らの生活を守る責任もあの肩にのしかかっている。

 

そんな重責の中にいるネイトに自分は軽々と…

 

「あぁ…私…なんて馬鹿なことを…!」

 

初対面であったとしても信頼も何もない。

 

明確なメリットも提示できていない。

 

それなのにただただネイトから技術を求めることしかやっていない。

 

自身もミレニアムを背負っているセミナーの会計という立場でありながら…。

 

その事実をようやく理解し頭を抱えるユウカだが、

 

「…ユウカ、私もね。ネイトさんを見て自分はまだまだ未熟だなって思ってばかりだったんだ。」

 

「先生…?」

 

「ネイトさんは自分とは何もかも違う。単純な腕力も、身体能力も、銃の扱いも、戦闘技術も、指揮能力も、経験も、思想も、発想力も、思考力も、知識も…何もかも全部私なんか及びもつかないんだ。」

 

この二日間、ネイトと交流し見せつけられたその差を語る先生。

 

まざまざと見せつけられたネイトとの隔絶した差を苦笑交じりに語る先生を見て、

 

「そ、そんなに…!?」

 

戦闘の際にはその指揮能力で戦況を容易にひっくり返す場面を見てきたユウカもそんな彼のネイトに対する評価に言葉をなくす。

 

「私が勝っているのは身長くらいかな…。それで私も大ポカやらかしちゃったんだよね。」

 

「せ、先生が大ポカを…!?」

 

「うん、油断しちゃって乗ってたヘリを落とされそうになったんだ。寸でのところでネイトさんがカバーしてくれて大事には至らなかったけどね。」

 

「だ、だったら先生も…。」

 

「お説教されちゃったね。でも、こうも言われたんだ。『生きてさえいればミスも糧にできるんだ』ってね。」

 

「み、ミスを糧に…。」

 

「その一言で彼がどんな人なのか少し分かったんだ。彼はとにかく『行動することを第一』に考えてるんじゃないかなってね。」

 

「行動を…。」

 

「だから失敗してもネイトさんが復元できるミスなら修復してくれるし次はどうすればいいか教えてもくれるんだ。だから…ユウカもまだ間に合うんじゃないかな。」

 

「間に合うって…何がですか…?」

 

「ネイトさんから信用を得るために行動するのにさ。」

 

「ッ!」

 

先生の言葉は半ば希望的観測だった。

 

正直、ユウカとネイトの関係は非常にこじれている。

 

自分の時のようにすんなりいくとは思えない。

 

…だからこそ、ユウカは自分の力で乗り越えなくてはならない。

 

そうすれば…彼女自身の大きな飛躍につながるだろう。

 

「…私、もう一度ネイトさんと話してきます!」

 

失敗するかもしれない。

 

それでもユウカは今一度ネイトとの対話を試みることに。

 

「ネイトさん、裏のヘリポートにいると思うよぉ。」

 

「ん…今度は健闘を祈っている。」

 

「上手くやりなさいよ、ユウカ先輩。」

 

「大丈夫です。自信をもって行ってください。」

 

「ありがとうございます!」

 

ホシノ達の見送りを受けユウカはネイトのもとに向かうのであった。

 

―――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

「積み込みはどのくらいで済む?」

 

「あと30分ほどかかるようです。何分デカブツなもので。」

 

「ゆっくりでいい。安全に確実に頼む。」

 

委員会室をあとにしたネイトはホシノの言ったようにトレーラーにベルチバードで懸架していた『ある物』の積み込み作業を行っていた。

 

「でも、こんなの持ってたら奴等度肝抜かすでしょうね。」

 

「上手くいけば我が社の大きな躍進に繋がる。使えるものは何でも使わなきゃな。」

 

傍らにいた生徒とそんな話をしていると…

 

「ネ、ネイト社長!」

 

「…来たか。少し外してもらえるか?」

 

「うっす。」

 

ユウカがこちらに向けて声を挙げながら駆け寄ってくる。

 

傍らにいた生徒をいったん下がらせ、

 

「…何しに来た?見ての通りこっちは取り込み中だが?」

 

声音こそ少し柔らかくなったものの態度を先ほどのものに変え応対を始めると…

 

「先ほどは大変無礼な提案をしてしまい申し訳ありませんでしたっ!!!」

 

ネイトに対し深々と頭を下げ先ほどの非礼を謝罪するユウカ。

 

「………。」

 

「初対面のアナタに対し明確なメリットも提案しないままアナタの技術を求め剰え今までアビドス高校に一切支援もしてこなかったのに技術だけを求めて申し訳ありませんでした!!!」

 

「………。」

 

「ですので、どうか!どうか私の学校の技術でアビドス高校の力になれることを教えてください!!!私個人でも協力できることがあるなら存分に力になります!!!」

 

一気呵成にユウカは叫ぶように謝罪とアビドス高校への協力の提案をする。

 

「………。」

 

それを彼女の方をちらりと見ることもなく無言で聞くネイト。

 

その無言はユウカに重くのしかかり…

 

「で、ですから…お願いします、ネイト社長…!私たちミレニアムに…どうかチャンスを…!」

 

泣きそうになりながらもなおも言葉を紡ぐ。

 

すると…

 

「ほら。」

 

「え…?」

 

「これでも飲んで一旦落ち着け。」

 

ネイトはユウカに向けミネラルウォーターのボトルを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

困惑しながらもユウカはそのボトルを受け取ると、

 

「…ホシノや先生からの入れ知恵か?」

 

「うぐッ…!」

 

全てはお見通しだ、と言わんばかりにユウカの変化の原因を言い当てる。

 

一瞬で図星を突かれ言葉が詰まるユウカだが、

 

「で、ですが…今のも私の本心です…!」

 

しっかりとネイトの目を見ながら答えて見せた。

 

すると、

 

「だが、まぁ…さっきのよりも今のプレゼンは魅力的だったな。」

 

「え…?」

 

「おべっか使ったさっきの君よりもすべてをさらけ出した今の言葉のほうがだいぶ心に響いたよ。」

 

浅い笑顔を浮かべつつ先ほどのユウカのプレゼンを評するネイト。

 

「そうだ。世の中『ギブアンドテイク』が基本だ。どちらが欠けてもどこかで狂いが生じる。俺はそれを嫌うからただ働きもしないしさせない。」

 

「それは…そうですね。」

 

ネイトの言葉はスッとユウカの胸に入り込んでくる。

 

共に人の上に立つ立場の存在。

 

いかに親しかろうとその原則を忘れるといずれ関係が壊れることはユウカも知っている。

 

そうだというのに先ほどの自分と言えば…と思い出すと恥ずかしくなってくる。

 

「だから、我が社とアビドスのために『働く』意志を見せた君のために…少しチャンスをやろう。」

 

「ちゃ、チャンス…ですか?」

 

「頼みが一つ、テストが一つだ。それが完遂出来たら…好きな技術を一つ提供しよう。それが俺の技術を君に明かす条件だ、受けるか?」

 

ネイトからの技術提供に向けてのチャンスの提案。

 

どんなことを言われるかまだ分からない。

 

だが…先ほどと比べれば大きな進歩だ。

 

この提案にユウカは…

 

「や、やります!社長の提案、受けさせていただきます!」

 

逃すわけにはいかないと即答で了承。

 

「良い返事だ、セミナー会計…いや、『ユウカ』。」

 

満足げに頷くネイトに、

 

「!は、初めて名前を…!」

 

役職ではなく名前で呼ばれたことに目を見開くユウカ。

 

「じゃあ。最初の頼みだ…。」

 

そして、ネイトの口からある『頼み』が語られるのであった。

 

それから一時間ほど後、

 

「んじゃ行ってくる。」

 

「行ってらっしゃい、アニキ!」

 

ある荷物を積み込んだトレーラーがアビドス高校を出発。

 

「準備はいいな、ユウカ?」

 

「ハイ、これだけ揃えば大丈夫です!」

 

助手席にユウカを乗せて向かう先は…

 

「それじゃ…カイザーコンストラクションに向け出発。」

 

今回の騒動の発端、カイザーコンストラクションであった。




巣箱の利益にならざることは、蜜蜂の利益にもなりえず。
―――ローマ皇帝 マルクス・アウレリウス・アントニヌス
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