Fallout archive   作:Rockjaw

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酒は度を超さなければ、人にとってほとんど生命そのものに等しい。
―――旧約聖書の一文


Primordial and Present

「ここの空き部屋を使ってくれ。」

 

日も暮れたアビドス高校内。

 

ネイトは先生を校内の使われていない空き部屋に案内していた。

 

内装は事務作業用の机と来客用のソファとテーブルに収納棚があるシンプルなものだ。

 

「少し狭いか?あれだったら職員室も使えるが…。」

 

「いえ、十分な広さです。ありがとうございます。」

 

「寝泊りは裏の男子寮の一室を空けてる。最低限の家具家電は備え付けてある。」

 

「何から何まですみません、ネイトさん。」

 

「その分働いてもらうから気にするな。…ちなみにシャーレの仕事は大丈夫なのか?」

 

「仕事のデータを送ってもらえるよう手配しておきましたので大丈夫です。」

 

「分かった。じゃあ明日からよろしくな。」

 

「ハイ、よろしくお願いします。」

 

そんな会話を交わし、先生はネイトから鍵を受け取り男子寮の宛がわれた部屋へと向かった。

 

そして、残されたネイトはと言うと…

 

「よッと…ほっと…。」

 

調理室にこもりいくつかの料理を作っていた。

 

「…うん、初めて作ったにしては上々だろう。」

 

数十分後、作っていた料理が完成。

 

造っていたのは『タコス』と『ナチョス』と言った『ラテン料理』を中心にフライドチキンなどだ。

 

どう考えてもネイト一人で食べるような量ではないがそれらを大きなトレーに乗せて根城の技術室へ運び、

 

「…今日はコイツにするか。」

 

自身の晩酌コレクションからある一本と冷蔵庫からコーラなどを取り出しその時を待つ。

 

「冷めないうちに来るといいが…。」

 

そんなことを呟くネイトだが…

 

「おぉ、これは何とも美味しそうな匂いですね…。」

 

いつものように音もなくその者は現れた。

 

「…こんばんは、黒服。そっちからの飲み会の提案は珍しいな。」

 

「こんばんは、ネイトさん…。突然の呼びかけに応じていただき感謝します…。」

 

「気にするな。出張帰りでちょうど飲みたい気分だったのさ。」

 

言わずと知れたネイトの数少ない飲み仲間、ゲマトリアの『黒服』だ。

 

先ほど駅で連絡を受けた際、いつもならアポもなく突然現れるので黒服からの初めての着信に面食らっていたのだ。

 

「まぁ座ってくれ。男の料理だから味はあまり保証できないが丹精込めて作った。」

 

「クックックッ…何を言います…。歓迎の料理にケチをつけるなど紳士のすることではありません…。それに…この食欲をそそる匂い、不味いことがあるはずがありませんよ…。」

 

それでも気心知れた…と言うには互いに腹に色々抱え込みすぎているが親しい間柄だ。

 

促されて黒服もいつもの席に着き、

 

「今日はラム酒だ。少し俺も酔いたい気分だからな。」

 

「相変わらずお強い方だ…。いいでしょう、今日は存分に付き合わせていただきますよ…。」

 

ネイトが用意した酒、『ラム酒』と氷や割材の炭酸水にコーラやライムなどを机の上に置く。

 

「飲み方は?カクテルもできるぞ?」

 

「ロックでお願いします…。カクテルは少し料理を楽しんだ後にでも…。」

 

「じゃあ俺は…ストレートといこう。」

 

飲み方を尋ね素早く用意し…

 

「んじゃいつものように乾杯と言うことで…。」

 

「では…。」

 

これまた恒例行事となった互いにグラスを掲げて乾杯の音頭をとろうとする。

 

…その時だった。

 

「…お~い。そこで殺気立ってないで入ってきたらどうだ、ホシノ?」

 

「クックックッ…隠れていても貴女の神秘は伝わってきますよ、小鳥遊ホシノさん…。」

 

ネイトと黒服、二人の視線が技術室の入り口に注がれた。

 

次の瞬間、ドアが勢い良く開け放たれ…

 

「その人から離れろ、黒服…!」

 

黒服に愛銃『Eye of Horus』の銃口と殺気の籠った鋭い視線を向けるホシノがそこにいた。

 

「そんなに殺気立たないでください、小鳥遊ホシノさん…。今日は彼と晩酌を交わしに来ただけ…。」

 

常人なら震えて声も発せないほどの殺気を浴びているというのにどこ吹く風と言わんばかりに軽い調子で返す黒服。

 

「信じられるか、そんな話…!」

 

それを聞いてもなお、ホシノはトリガーに指をかけたまま間合いを詰めて問いただす。

 

「お前なら既に知っているはずだ…!ネイトさんにヘイローが出現していたことを…!」

 

「…クックックッ、お見通しですか…。えぇ、確かにその事象は我々も観測済みです…。非常に興味を惹かれましたよ…。」

 

黒服は愉快そうにホシノの質問を肯定、

 

「相変わらず耳が早い。…とすると、あそこで起こったことも…。」

 

「『デカグラマトンの預言者』の一角、『ケテル』諸共守護地がネイトさんに制圧されていることも把握してますよ…。それから…異世界の戦艦の存在も…。」

 

さらに水没地帯で起こった戦闘の様子も全て知っているようだ。

 

「だったら…なおのこと出ていけ…!」

 

一層その表情に殺気をにじませるホシノ。

 

「お前の狙いは分かっている…!ネイトさんをお前らなんかに渡すものか…!」

 

黒服…いやゲマトリアにとってネイトはこの上ない『被検体』だろう。

 

何せ、神秘も欠片もない存在に突如としてヘイローが顕現しキヴォトスでも類を見ない神秘を行使したのだ。

 

それこそ、ネイトを攫ってでも…自分たちの研究のためのモルモットにすることを厭わないはずだ。

 

「させるものか…!その人は私たちの大事な人なんだ…!お前らの好きになんかさせてたまるか…!」

 

最早銃撃を外しようもない距離までホシノは接近。

 

今にも黒服の頭をぶち抜きそうな勢いだ。

 

その時、ネイトがショットグラスを置いてゆっくり立ち上がり、

 

「ホシノ。」

 

ネイトさん、下がって…って、ネイトさん…!?」

 

「安心してくれ、ホシノ。俺は大丈夫だ。」

 

膝をついて『Eye of Horus』の銃口を天井に向けつつ、銃ごとホシノを抱きしめる。

 

「ありがとう、ホシノ。俺を心配してくれたんだろ?」

 

「そ、それは…はい…。」

 

「そうか…。じゃあ、聞くが…俺が黒服に負けると思うか…?」

 

優しく頭を撫でつつ耳元でそうささやくネイト。

 

その声で不思議と頭に上っていた血が引いていく。

 

「…いいえ。たぶん…ネイトさんなら…。」

 

考えてみればそうだ。

 

自分と接触してきた際の黒服はいつも『交渉』で勧誘を進めていた。

 

それも武力をちらつかせたりと言ったものではなくアビドスの借金を肩代わりするといったもの。

 

ホシノ自身、腕っ節で黒服に負ける等と思ったことはない。

 

そこにホシノ自身が自分以上と評価している戦闘力を有するネイトが相手なら…

 

「クックックッ…私の戦闘力ではネイトさんの足元にも及びませんよ…。」

 

「黒服…!」

 

そんなネイトに抱きしめられ一気に大人しくなったホシノを愉快そうに眺めながら黒服は自分とネイトとの戦力差を語り、

 

「それに…ネイトさんは私にとっても好ましい友人です…。そんな友人に手酷いマネなどできません…。」

 

友人のネイトを被検体になどしないと暗に宣言する。

 

「…だそうだ。だから落ち着いてくれ、ホシノ。」

 

「…分かりました…。突然こんなことしてごめんなさい、ネイトさん…。」

 

「気にするな。じゃあ、いったん銃は預からぜて貰うぞ?」

 

落ち着きを取り戻したホシノの手からするりと『Eye of Horus』を引き抜き背後のガンラックに立てかけるネイト。

 

そして、

 

「…ホシノ、夕食は食べたか?」

 

「え?い、いえまだですけど…。」

 

「じゃあ、ここで食ってけ。料理なら十分にある。」

 

彼女に一緒に酒宴に参加するように提案する。

 

「えっでも…!」

 

「おぉ…それは何とも魅力的な提案ですね…!」

 

困惑するホシノと対照的に黒服は非常に嬉しそうだ。

 

これがネイト一人なら喜んでホシノもごちそうになるのだが…

 

「監視ついでだ。それならホシノも安心できるだろ?」

 

「…分かりました。そういうことでしたらごちそうになります。」

 

このまま帰るのも心配なのでネイトの言うように『監視』と言う名目で相伴に預かることにした。

 

そして…

 

「先生、アンタも一杯どうだ?」

 

「え?」

 

開け放たれたドアのほうにネイトが声をかけると…

 

「すみません、殺気立ったホシノが学校に入っていくのを見て気が気じゃなくて…。」

 

ひょっこりと頭を搔きながら先生が姿を現した。

 

「なんと…今日はなんと楽しい晩餐なのでしょう…!望外の客人が二人も…!」

 

思わぬ人物の登場に黒服はより一層歓喜する。

 

「それで…そちらの方は?」

 

「どうも初めまして…連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの『先生』…。アナタとはいずれ顔を合わせてお話ししたかったのですがまさかこんな早くに実現するとは…!」

 

「喜ぶのはいいが自己紹介はしろよ。これから一杯やるんだからな。」

 

「おっと…これは失礼…。私のことはネイトさんや小鳥遊ホシノさんが呼ぶように『黒服』とでもお呼びください…。」

 

「黒服…。」

 

初めて見る異形の存在に警戒する先生だが…

 

「さ、乾杯の途中だったし二人とも席についてくれ。」

 

「って、ネイトさん…。」

 

「雰囲気滅茶苦茶じゃないですか…。」

 

そんな警戒など知ったこっちゃないと言わんばかりにそそくさとイスを二つ容易し席に戻るネイト。

 

「…先生、とりあえず座ろっか。」

 

「そうだね、ホシノ…。」

 

そんなネイトにより一層毒気を抜かれたのか、ホシノと先生は用意された席に座るのであった。

 

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

 

「ホシノはコーラでいいとして…先生、飲み方はどうする?」

 

「じゃあ…私はコーラ割でお願いします。」

 

「若いねぇ。」

 

未成年のホシノにはコーラを注ぎ、先生もラムコークを用意し…

 

「それじゃ、改めて…アビドスへの無事の帰還に。」

 

「ネイトさん、あなたの神秘の覚醒に…。」

 

「私は…アビドスの今後の発展に。」

 

「えぇッと…キヴォトスの平和に。」

 

『乾杯。』

 

各々の音頭で乾杯となった。

 

「ホシノも二日間お疲れ様。」

 

「お疲れさまでした、ネイトさん。」

 

「先生も今は遠慮せず楽しんでくれ。」

 

「ありがとうございます、ネイトさん。」

 

と、ネイトとホシノに先生の三人はグラスを合わせるも…

 

「では私も小鳥遊ホシノさんをねぎらうという意味で…。」

 

便乗し黒服もホシノにグラスを合わせるよう差し出すが…

 

「誰がアンタとなんかするもんか…。」

 

「おやおや…つれないですねぇ…。」

 

そっけなく断られ引っ込めるのであった。

 

「随分嫌われてるな、黒服。…あ゛ぁ゛~、労働の後のアルコールのパンチの効いた一杯はたまらないもんだ。」

 

「…おぉ、これは癖になる甘苦さで…。バーボンと違ったフルーティな後味もまたいいものですね…。」

 

「…これは飲みやすいですけど…気を付けないと二日酔いになりそうですね…!」

 

ホシノを除く大人組はそれぞれのグラスに注がれたラム酒に舌鼓を打つ。

 

「そんなに美味しいんですか?」

 

ちびりちびりとコーラを飲みながらそんな大人たちの様子を不思議そうに眺めるホシノ。

 

「ホシノにはまだ分からない旨ささ。二十歳になったら一緒に飲もう。」

 

「…はい、楽しみにしてます。」

 

「さて、空きっ腹のままだと悪酔いしてしまう。料理も食ってくれ。」

 

「あぁ、自分でやりますからお構いなく…。」

 

「ホストは俺さ。もてなす役目があるんだから気にするな、先生。」

 

そう言いつつ、各人の取り皿に料理を取り分けていくネイト。

 

「うん、タコスのサルサがいいアクセントになって酒が進むな。」

 

「ネイトさんって料理が御上手なんですね…。このナチョスもとても美味しいです。」

 

「アヤネちゃんの指導の賜物だよ、先生。怒られる前はネイトさんったらレーションばかりとかトカゲ捕まえて食べてたんだから…。」

 

「えぇッ!?トカゲをですか!?」

 

「クックックッ…かつての生活の名残でしょうか、ネイトさん…?」

 

「結構旨いんだけどなぁ、トカゲ…。」

 

そんな風にラム酒と料理に舌鼓を打ちつつ酒宴は進んでいく。

 

先生とホシノは未だ黒服を警戒しているがネイトはそんな雰囲気はなくむしろ『友人』のように和やかな会話を交わしている。

 

「…ネイトさんと黒服っていつもこんな感じにお酒を飲んでるんですか?」

 

「酒とつまみ持ってくる当番は交互にな。たまにこうやって情報交換がてら飲んでるんだ。」

 

「前回はサンクトゥムタワーの騒動前日でしたので不完全燃焼でしたからねぇ…。」

 

「ッ!まさかあの時言った情報提供先って…!」

 

「黒服からだ。言っとくが、あの騒動と黒服たちは本当に無関係らしいからな。」

 

「騒動が起こる前にあの情報を手に入れていたなんて一体貴方は…。」

 

先生自身も深くかかわった先日のサンクトゥムタワーの騒動。

 

その情報をいち早く入手していたという黒服にけげんな視線を向ける。

 

「クックックッ…私たちはアナタと同じなのですよ、先生…。」

 

「同じ…?」

 

「そう、同じ…。キヴォトスの外部から来た者、ただあなたとはまた違った領域の存在でしてね…。」

 

「『ゲマトリア』、それが黒服の所属している組織らしい。」

 

「ゲマトリア…。」

 

「そう、我々は観察を行い、探究を行い、研究を行う…。その視点で見るなら、貴方と同じ不可解な存在と考えていただいて結構です…。…まぁ、ネイトさんはさらに異質な存在ですが…。」

 

「え、ネイトさんが…?」

 

黒服の言葉に引っかかる先生。

 

確かにネイトは身なりで見ればキヴォトスの外部からやってきた人物だというのは分かる。

 

だが、それでも自分や黒服とさらに違うというのはどういう意味か?

 

「あれ、ホシノから聞いてないのか?」

 

「え、えぇ…。ネイトさんが半年前にアビドスにやってきたということしか…。」

 

「…まぁ、いきなり言っても信じられるわけないか。」

 

よくよく考えると初対面の先生にあんなことを言っても混乱の元になるのは当然と判断するネイト。

 

「私もそう判断して伏せておいたんです。」

 

「あの、一体ネイトさんは…。」

 

ホシノの判断通り、若干混乱をきたしている先生に、

 

「例えるなら…このグラスのラム酒が先生、氷が我々と例えましょう…。これならグラスと言う一つの世界に二つの領域が存在しているということになりますね…。」

 

自らのグラスを用い、先生と黒服の存在を例える黒服。

 

「なるほど…ラム酒と氷が解けて交わる部分がキヴォトスと言うわけか…。」

 

「クックックッ…理解が早くて助かります…。と、そこへ…。」

 

と、今度は用意してあったライムを手に取り軽く絞った後グラスに入れる黒服。

 

「このライムのようにグラスの外部から入り込み混ざった存在…。それがネイトさんなのです…。」

 

「…ッ!つ、つまりネイトさんは…異世界からやってきた人…と言うことなんですか…?!」

 

「ご名答…!さすがは連邦生徒会長が呼び出した『不可解な存在』です…!」

 

このたとえ話で正解を導き出した先生に称賛を送りながらグラスを煽る黒服。

 

「じ、じゃあネイトさんってまさか…!?」

 

「どうも、210年間冷凍保存された300歳ピチピチの爺さんだ。」

 

「さ、300歳ッ!?」

 

「まぁ、そういう反応になるよね…。」

 

冗談交じりに語るがネイトの外見は先生よりも一回り年上としか思えない若々しいものだ。

 

それが300歳、冷凍保存されていた期間を引いても90歳の老人とは到底思えない。

 

「じ、じゃあネイトさんはどうしてこの世界に…!?」

 

「ん?頼まれたからだな。」

 

「た、頼まれた…?」

 

「向こうで死んで地獄行きの順番待ちしているときにここにいるホシノの先輩の『梔子ユメ』にアビドス復興を頼まれた。だから、俺はここにいる。」

 

そう、傍らにいるホシノの頭を撫でながらこの世界にやってきた理由を語るネイト。

 

「ちょ、ちょっとネイトさん…。」

 

突然撫でられ少し困ったような声を上げるホシノだが気持ちよさそうに目を細めている。

 

と、

 

「…そうだ。黒服、いくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

ネイトも黒服に聞いておきたいことがあったのを思い出す。

 

「それは…貴方の神秘についてですね…?」

 

と、ネイトの質問の内容を予測する黒服だが…

 

「それもあるが…ヘイローが出現する前のことだ。」

 

「ヘイローが出現する前…ですか…?」

 

どうやら当てが外れたようだ。

 

そしてネイトから語られる気絶していたわずかな間に経験した出来事。

 

全身白装束の謎の司祭たち。

 

皆既日食のような何か。

 

それらを語り終えた瞬間…

 

「クックックッ…アッハッハッハッ!貴方は本当にっ!何度我々の想像のはるか上を超えていくというのですか、ネイトさん!」

 

「な、何…一体…!?」

 

いつもの様子からは考えられないほど大興奮する黒服。

 

顔からあふれる光の靄の量が今まで見たことないほど勢いよく噴出した。

 

見たこともないテンションの彼にドン引きするホシノ。

 

「…で、あのKKKの出来損ないみたいな司祭の連中や俺が浴びたアレは何なんだ?」

 

「クッフッフッフッ…いやぁ、興奮して申し訳ない…。順を追って説明していきましょう…まずは司祭ですがそれは…『無名の司祭』と我々は呼ぶ存在です…。」

 

「『無名の司祭』…。」

 

「かつて…キヴォトス以前の世界の主であり…今は淘汰され痕跡のみを残すはずの存在です…。」

 

黒服はそう前置きし『無名の司祭』について説明する。

 

かつては『名も無き神』という神を崇拝する自然信仰の一派のような集団だった。

 

だが、かつてのキヴォトス人とは友好的ではなく戦争状態だったらしい。

 

その戦いに敗れ歴史の表舞台から姿を消したが今なお『忘れられた神々』と言う存在を消滅させるため秘密裏に暗躍しているらしい。

 

「なんとも危なっかしい連中だな…。俺に向けて撃たれた兵器も奴らの産物か?」

 

「おそらくは…。現在のキヴォトスでも脅威となりうる『オーパーツ』としていまだ現存している可能性もあります…。」

 

「なんともぞっとしない話だな。」

 

幸運にも無傷だったがそれらが現実にも存在している可能性を知らされ身をすくめるネイトだが…

 

「異世界最高の戦艦を生み出した貴方がそれを言いますか…?」

 

ネイトもネイトでキヴォトス基準でもとんでもない代物を生み出したことを軽くツッコむ黒服。

 

((確かに…。))

 

珍しくホシノと先生が黒服の意見に内心同意した瞬間である。

 

「まぁそれは置いといて…俺が浴びたあの日食みたいなやつは何だ?」

 

「それは我々や先生同様、『キヴォトスの外』に属する存在…。我々、ゲマトリアにとっても本来かつ最大の敵…『色彩』ですね…。」

 

「『色彩』…無名の司祭共もそんなことを言っていたな…。」

 

「それに接触してしまったら最後…『神秘』は『恐怖』に反転させられ二度と元に戻らないと言われています…。記録では…『人々を狂気に陥れる光』ともされています…。」

 

「じ、じゃあその無名の司祭って奴らはその色彩を使って…!」

 

「おそらく、ネイトさんの神秘を恐怖で上書きし…。」

 

「『世界を創り直す』とか言っていたな。『忘れられた神々』が生まれる前まで時を戻すとか。」

 

「クックックッ…一歩間違えばこの世界は終わっていたでしょうねぇ…。」

 

「危なかったな、ホント…。」

 

黒服から世界消滅の危機だったと聞かされソーダ割を口にするネイトだが…

 

「いやいやいや!そんな軽く反応するような内容じゃないですよ、ネイトさん!?」

 

そんな軽い様子に思わず盛大にツッコんでしまった先生であった。

 

「しかし…アレを浴びてよく無事で…。」

 

と、そんな色彩を浴びてなんともないネイトにその理由を尋ねる黒服だが…

 

「…元から狂いに狂ってるやつを『狂わせる』ことなんてできるのか?」

 

言いようのないおどろおどろしい雰囲気を纏いつつ端的に答えるネイトに…

 

「…なるほど、無名の司祭の彼らはどうやら…色彩にとって最悪の人材を選んでしまったというわけですね…。」

 

ネイトが無事だった理由を察する黒服。

 

ある意味…ネイトはすでに『反転』した存在なのだと。

 

狂気に身を置き続けた余り…『正常』のまま『狂う』という狂気の沙汰を実現しているのだと。

 

「まぁ、俺が色彩の影響を受けなかったから司祭たちも強硬手段に出たわけだ。」

 

「じゃあ、ネイトさんはどうやってその司祭たちの猛攻をしのげたんですか?」

 

「ユメが助けてくれた。」

 

「…え!?ユメ先輩にあったんですか!?」

 

まさかのここでユメの話題が挙がり身を乗り出し食いつくホシノ。

 

「あぁ、嬉しがってたよ。ホシノがユメの後を追うんじゃなくて自分の青春を送ってくれていることにな。それからアビドス高校が賑わっていることも。」

 

「そうですか…!ユメ先輩…今もずっと見てくれていたんですね…!」

 

今の自分をユメはしっかりと見てくれている、そのことにホシノの目にうっすらと涙が浮かんだ。

 

…が、

 

「あぁ、この前宝探ししたときにうっすら聞こえてきたのもユメだったらしい。」

 

「…え?」

 

「今度ホシノの夢枕にも立つってさ、よかったな。」

 

「そ、それは…う~ん…!」

 

急なホラー的な展開。

 

ユメに会えるのを喜んでいいのか怖がるべきか唸りながら考えるのであった。

 

「『天真のオシリス』は相変わらずのようですね…。それで、彼女はほかにはなんと…?」

 

そんなホシノをいったん置いておき黒服はユメがネイトに語った内容を尋ねるが、

 

「俺の神秘はキヴォトス『原初の神秘』で『源流』の名を持つって言ってたな。」

 

『原初の神秘』、『源流』の二つのワードを聞いた途端…

 

「ッ!やはり…!アナタに初めて会った時からそうだと思っていました…!」

 

再び興奮し顔からあふれる光の靄の量が増した。

 

「おーい、ヒートアップする前に答えてくれよ。」

 

このままにしておくとまた面倒になりそうなのでいったんネイトが正気を取り戻させる。

 

「おっと…すみません…!では、お答えしましょう…。『原初の神秘』、そして『源流』…。この二つの名を有する人物はキヴォトスの歴史上ただ一人…。」

 

「それは?」

 

「…『一水 サヤカ』、無名の司祭と同時代、初代アビドス高校生徒会長にして…初代連邦生徒会長を歴任したキヴォトス『原初』の生徒です…。」

 

「一水…サヤカ…。」

 

「アビドス最初の生徒会長が…初代連邦生徒会長も務めていたの…!?」

 

「その『知恵』と『強さ』と『創造の神秘』で無名の司祭を退けキヴォトスを平定した伝説の女傑です…。その異名は…『源流のネイト』…。」

 

黒服の口から語られる遥か昔のキヴォトスに存在した、もはや伝説の存在の生徒の名前とその異名。

 

「ネ、ネイトって…!?なんでネイトさんの名前が…!?」

 

奇しくもそれは…ネイトと同じものだった。

 

「『天真のオシリス』や小鳥遊ホシノさんの二つ名と同じような物、内包する神秘を『忘れられた神々』の真名に落とし込んだのです…。」

 

「忘れられてるのによくそんなことができるな。」

 

「そこは我々の秘匿技術と言うことで…。ネイトさん、貴方の持つその名は原初にして最強…と言っても差し支えない神秘を持つ神の真名その物なのです…。」

 

そんな馬鹿な…と言いたいがホシノと先生は否定できない。

 

アビドスを半年で立て直しカイザーをやり込めるほどの『知恵』。

 

大量の戦車やロボット兵が相手でも容易に蹴散らす『戦闘能力』。

 

戦艦『マサチューセッツ』を生み出す常識外れの『クラフト能力』。

 

どう転んでも…その『一水 サヤカ』と言う人物の能力に近づくではないか。

 

一方、

 

「…あまり実感がわかないな、そんなことを言われても。」

 

当のネイトはあまりピンときていないようだ。

 

知恵は90年生きてきて培ったもの。

 

何せ戦闘能力はほぼ自前。

 

クラフト能力に関してはあちらの世界では数は少ないながらも結構使える者がいた。

 

第一…

 

「俺のこの名前は本名と同義とはいえ本来は短縮形だぞ?」

 

「あ、そういえば…。」

 

『ネイト』と言う名前自体ネイト本来の名前ではない。

 

昔からそう呼ばれているから彼自身も使っているのであって本名は別にある。

 

英語圏では名前の短縮形は本名と同義で使えるという理由が大きい。

 

すると…

 

「フム…では、『見立て』というのはご存じですかな…?」

 

黒服が変な質問をネイトにする。

 

「…診断とか鑑定っていう意味じゃないよな?」

 

文面通りの意味を予想するがネイト自身、黒服が言う意味とこれが違うことはなんとなく察している。

 

「確かにその意味もありますが…芸術においては『対象を他のものになぞらえて表現する』と言う意味になります…。」

 

「…あ、落語とかで扇子を煙管とか箸に例えて使う表現があるからそれか…。」

 

「あぁ、なるほど。俺の国だと『メタファー』とかそういう意味が近い表現になるな。」

 

「キヴォトスにおいては百鬼夜行連合学院などの芸術作品でよく用いられる手法です…。」

 

黒服の説明で出身地のお国柄かネイトよりも先生が先に理解でき、ネイトも自分なりに噛み砕いて理解できた。

 

「それで?その『見立て』がネイトさんに何の関係があるのさ、黒服?」

 

「クックック…そう焦らずに、小鳥遊ホシノさん…。この『見立て』と言うものは神事においてもよく用いられます…。厄払いなどで別な物を見立てて退治する、古式ゆかしい呪いが有名ですね…。」

 

「それに準えるとネイトさんはまさにと言った感じと言うことか…。」

 

「別物どころか…ネイトさんの名前自体がその神様の真名そのものがあるわけですからね…。」

 

「はぁ~…300年生きても知らないことが盛りだくさんだ…。」

 

神秘あふれるキヴォトスにおいて神事で用いられる手法は確かに連邦やキヴォトス外の世界よりも強力になるのは必然だ。

 

となると…『ネイト』と言う名前の人間を用いることにより『古代の神秘』を蘇らせるということも可能なはず。

 

「…あぁ、だから初対面で俺の名前聞いたときに固まってたのか。」

 

「えぇ…予期せぬところで神の真名を聞いたわけですからね…。

 

初めて酒を飲み交わした時のことを思い出しあの時の反応に納得するネイト。

 

しかし、直ぐに表情を引き締め…

 

「…だが、黒服。これだけは言っておく。たとえ俺にキヴォトス原初の神秘を宿す力があっても…『俺』は『俺』だ。『一水 サヤカ』じゃないしなるつもりもない。俺は…このアビドスで勤めを全うする、ただそれだけだ。」

 

改めて自分がここにいる使命とネイト自身の存在を改めて黒服に宣言する。

 

「えぇ、もちろん…ネイトさんはネイトさんです…。貴方は、貴方のままどうか今後も勤めを全うしていってください…。」

 

その言葉にまるでそういうことが分かっているかのように頷きながらネイトに静かなエールを送る黒服。

 

「…妙に素直じゃないか、黒服。何時もだったら私を勧誘するときにあの手この手使うくせに。」

 

普段の黒服の様子を知るホシノはそんな素直な黒服を不審がる。

 

「お伝えしたではないですか、小鳥遊ホシノさん。彼は好ましい友人だと…。友人のなすことを見守るのもまた友人の務めですよ…?」

 

と、改めてネイトを『友人』と呼び見守ることに徹すると宣言する黒服。

 

「フン、どうだか…。」

 

到底そんなことを信じられるわけがなく吐き捨てるようにコーラを煽るホシノだが…

 

「あぁ、それから…以前から申してました『提案』の件ですが…あれはもうお忘れください、小鳥遊ホシノさん…。」

 

「ブフッ!?ケホケホッ!」

 

「おおッと。大丈夫か、ホシノ?」

 

黒服のそんな言葉に驚いたのか、コーラが変なところに入り咽かえす。

 

「ケホケホッ!ど、どういうこと…!?」

 

あれだけ断ってもしつこく勧誘をしてきたのにこの呆気ないとしか言えない提案の終了。

 

当然、その理由をホシノは知りたがる。

 

「なに、アビドス高校『そのもの』の問題は解決しつつあります…。その状況で以前の提案をしても貴女は応じる可能性は万に一つもなくなりましたからね…。それに…。」

 

それに対し、黒服はアビドスの状況改善という理由を伝え…

 

「…それに?何さ、いったい?」

 

「クックックッ…私の実験に貴女を巻き込むより…再び自らの『翼』で羽撃き『大空』に飛び立った貴女を観測する方がよほど価値あるものと判断したのです…。」

 

「え…?」

 

「誰かの模倣ではなく…貴女自身の変化と進歩が…我々の興味を塗り替えたのですよ、小鳥遊ホシノさん…。」

 

ホシノの変化そのものが提案を取り下げた大きな理由だと告げる。

 

「ひょ、ひょっとして…。」

 

「ハイ…すべては彼が貴女を『鳥籠』のごとき呪縛から解き放った結果です…。」

 

そう言い、ホシノと黒服の視線がネイトに注がれる。

 

「俺は何もしてないぞ…なんて言っても納得はしないよな、黒服?」

 

「それは笑えないジョークですよ、ネイトさん…。」

 

「だがまぁ、ホシノに平穏な生活を返してくれたのは感謝するよ。」

 

「なに、得難い観察と研究と探究をさせ続けてくれている貴方へのささやかなお返し、とでもお思いください…。」

 

「…そうか、ありがたく受け取って置く。」

 

黒服の彼らしい気遣いにネイトもグラスを持ち上げ礼を述べる。

 

と、そんな風に会話の間も酒を飲み交わし料理に舌鼓を打っているうちに…

 

「ッと、もうこんな時間か…。」

 

時計を見るとかなり遅い時間になっていた。

 

酒もそろそろ底をつき料理もあらかた平らげたので…

 

「では、今日の酒宴はこの辺りでお開きにしますか…。」

 

「だな。今日はいろいろ情報をありがとう、黒服。」

 

「何を仰る…。これくらいではまだ足りません…。次の酒宴ではさらに特上の逸品をもって参上しますよ…。」

 

そろそろお開きと言うことで言葉を交わすネイトと黒服。

 

「それではお三方、本日は何とも楽しい一夜を送らせていただき感謝します…。」

 

そういい、席を立つ黒服だが…

 

「あぁ、それから先生…。」

 

「…何だい、黒服?」

 

その際に先生の声をかけ…

 

「貴方が目指そうとしている場所、山頂とでもいいましょうか…?そう易々とたどり着けないことは肝に銘じていただきたい…。」

 

「ッ!」

 

「彼は己の人生の大半をかけ…様々な物を失いながらも昇りつめた巨峰の頂です…。到達者たる彼の道のりの険しさ…努々忘れることの無きように…。」

 

ネイトを目指そうとする彼にそう警句を告げ、

 

「先生、貴方のことは強く警戒していますが気に入ってもいます…。歩みが止まることがないことを願っていますよ…。」

 

最後に健闘を祈る言葉をかけ技術室から出ていくのであった。

 

室内に残された三人はと言うと…

 

「黒服め、前途ある若者のやる気をそぐなっての…。」

 

黒服の最後の言葉に愚痴を吐きつつグラスに残った酒を煽るネイトだが…

 

「いえ…彼の言うことは…決して間違っていないと思います、ネイトさん…。」

 

対する先生は黒服の言葉をかみしめるようにうつむいていた。

 

「正直言って…私は浮かれていたのかもしれません…。同じ人間の男性で年上で…経験豊富な貴方がこのキヴォトスにいて…。」

 

このキヴォトスで唯一の大人と思っていた。

 

そこで知った先達のネイトと言う同じ大人の存在。

 

歳もそう離れておらず、経験の差はあれど追いつけるという自信があった。

 

だが…

 

「…。」

 

「すぐに追いついてやる、追い抜いてやる…そう軽く考えてしまいました…。ですが…ネイトさんのそれは私が生まれるよりもずっと前から積み上げてきたものと知って…自分の矮小さを知りました…。」

 

目指す先は自分の数倍長く生き歩み続けてきた果てにたどり着いたものだと知れた。

 

ただ歩んできただけではない、自分には想像もできない代償を払って進んできた道だと知った。

 

そんな道のりを自分は…。

 

そう、うなだれる先生に…

 

「…先生、右手を出せ。」

 

「え?」

 

「良いから。」

 

「は、はい。」

 

ネイトは有無を言わさず先生に右手を出させ、

 

「良いか、これは俺がこの世界に来て好きになった二つの言葉だ。」

 

そういい、その手にマジックである文字を書く。

 

それは…

 

「『共育』と『恩送り』…?」

 

「日本語は面白いな。同じ読みで全く違う意味を伝えられるし英語じゃ表現しにくい言葉も簡単に表せられる。」

 

先生として知る『教育』ではなく『共育』という文字だった。

 

「良いか、先生。俺は黒服の言うような大層な人間じゃない。この経験も強さも…周りに人がいて共に過ごし育つことができたから手に入れられた『贈り物』のようなものだ。」

 

「贈り物…ですか…。」

 

「だから、『共育』だ。共に育っていけば黒服の言う道のりも少しは登りやすいだろう。」

 

そう、先生とともに自分もその道を行くというネイトだが、

 

「で、ですがそれでもあなたに私は何も見返りを…。」

 

今の自分ではネイトに報いることが果たしてできるかどうか…。

 

そう、言葉に詰まる先生に…

 

「これに関しちゃ俺は見返りなんかいらない。言ったろ、これは『贈り物』だ。俺は先生に贈り物を渡す。先生はそれを俺に返すんじゃなくて…次の誰かにつないでいってほしい。『恩返し』じゃなくて『恩送り』をしてほしいんだ。」

 

見返りではなくさらなる経験の伝播を望むというネイト。

 

「次の誰かに…恩を送る…ですか…。」

 

「だから俺はアビドスの皆と一緒に育ち育てられている。ユメからもらった『第二の人生』という恩を…今を生きる生徒たちに繋ぐ為にな。」

 

「ネイトさん…。」

 

「それにな…俺は到達者なんかじゃない…。あの日、あの時、あの瞬間から…俺は『永遠の未熟者』だ。」

 

「ネイトさんが未熟者…!?」

 

「いやいや、未熟者は決して悪いものじゃない…。だから…俺は今なお前進を続けていられる。」

 

そう一瞬暗い表情を浮かべるが…すぐに先生の目をまっすぐ見つめ、

 

「黒服の言うように楽な道のりじゃない。ひょっとしたら途中で力尽きるかもしれない。それでも…一歩ずつ、亀のような足取りでもいい。進んでくれ、先生。そうすれば…そこから見える景色はきっと今より良いものを見れるはずだ。」

 

図らずも後ろに続く者を得た先人としてこの若者を後押しする言葉をかける。

 

「…ぐすっ…はい、分かり…ました…!歩み…続けます…、ネイトさん…!一歩一歩を…大事にして…ネイトさんの…後を追います…!」

 

その声援で…先生の心は溢れた。

 

キヴォトスに来て…ずっと不安だったのだろう。

 

自分なんかに生徒を導けるのか?

 

自分なんかに…生徒を救えるのか?

 

まるで…街灯も何もない闇夜の道を一人で歩み続けているような気持ちだった

 

そんな不安を押し殺し今まで仕事をしてきた。

 

だが…今は自分は一人ではない。

 

険しいが…道筋は見えた。

 

そして…ともに歩んでくれる人も現れた。

 

それが…先生にとってとても安心できた。

 

その安堵か、はたまた酒のせいか涙が止まらなかった。

 

「うん、先生が俺に追いつける日が来ることを楽しみにしているぞ。…さ、明日もやらなきゃいけないことばかりだ。片付けは俺がしておくからもう部屋に戻って休んでくれ、先生。」

 

「ハイ、すみません…!…おやすみなさい、ネイトさん…。」

 

「あぁ、お休み。ホシノ、先生を寮の前まで送ってくれるか?」

 

「分かりました、ネイトさん。」

 

そんな先生の見送りをホシノに託し酒宴は幕を閉じた。

 

その後、ネイトは食器を片付け残った料理を冷蔵庫にしまい…

 

「ふぅ~さっぱりしたぁ。」

 

宿直者用のシャワー室でシャワーを浴び寝支度をととのえ技術室に戻ってきた。

 

すると

 

「おかえりなさい、ネイトさん。」

 

「あぁ、ホシノ。先生を送ってくれてありがとう。」

 

先生を送り終え戻ってきたホシノが部屋の前でネイトの帰りを待っていてくれた。

 

「今日は巻き込んですまなかったな。」

 

「いえ、貴重な情報も聞けましたしいい機会でした。」

 

「そうか。まぁ、社交の一つだ。今後もあぁして黒服からいろいろ情報交換をしていく。」

 

「それは…正直控えてほしいですけどネイトさんがそういうなら…。」

 

「助かるよ。んじゃ、俺もそろそろ寝るから。ホシノもあんまり遅くまでパトロールは…。」

 

そんな言葉を交わしつつネイトは部屋に入り床に就こうとする。

 

すると…

 

「あっ…。」

 

「ホシノ?」

 

「あ、いや…その…。」

 

無意識にと言っていいだろう。

 

通り過ぎようとしたネイトの寝巻の裾を摘まむホシノ。

 

「どうかしたか?」

 

「そ…その…。」

 

何時もらしくなくもじもじするホシノ。

 

そんな様子を見て察せないほどネイトは酔ってなかった。

 

「…今日は一緒に眠るか、ホシノ?」

 

「うぇ///!?」

 

「たまにはいいさ。こんな枯れたオッサンでも抱き枕くらいにはなるだろう。」

 

初めてそんな提案をされ顔を真っ赤にするホシノ。

 

変な意味は一切含んでいない、というかネイトにそういう『欲』が非常に希薄なのはホシノ含めみんなが知っている。

 

だが、そういう意味がなくても同衾は恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

…しかし、

 

「は…はい…お邪魔します…///。」

 

それ以上の誘惑にホシノは逆らえなかった。

 

その後部屋に入り…

 

「す、すみません、汚れたままで…。」

 

「気にするな、俺だってたまに夜そのまま寝ることだってある。」

 

着替えがないので制服のままのホシノとネイトはそそくさとベッドに入った。

 

セミダブルほどの大きさなので体格の小さい二人ならまだ余裕をもって寝れる。

 

「んじゃ…お休み…。」

 

と、ネイトはベッドに入るや否やすぐに目を閉じ…

 

「…Zzz…Zzz…。」

 

(は、早い…!)

 

僅か数秒で寝息を立て始めた。

 

これもまたネイトの才能の一つなのだろう。

 

(ネイトさん…。)

 

そんな寝息を立てるネイトを添い寝して眺めるホシノ。

 

「じ、じゃあ…失礼します…。」

 

『抱き枕くらいにはなる』と言質は取っているが遠慮気味にネイトの腕に抱き着いた。

 

が、

 

「んん~…。」

 

(わわっ…!?)

 

それに反応したのか寝返りを打ったネイトの腕がちょうど彼女を抱きしめるような体勢になる。

 

驚くのはもちろん、

 

(わ~!ベッドの中だからいつも以上にネイトさんの匂いが…!)

 

ネイトが普段使っているベッドも相まって少しアルコール交じりの濃厚なネイトの匂いがホシノを包み込む。

 

当然ドギマギするホシノだが…

 

「Zzz…Zzz…。」

 

「…人の気も知らないでこの人は…。」

 

相変わらず寝息を立てるネイトの顔を見て…

 

「…おやすみなさい、ネイトさん…。」

 

お返しと言わんばかりにネイトの体に抱き着き…

 

(でも…とても…とても安心できる…。)

 

体温と心臓の鼓動でより強くネイトを感じ心の底からリラックスできたおかげか…

 

「…すぅ~…すぅ~…。」

 

まもなくしてホシノも眠りに落ちるのであった。

 

―――――――――――――――――

 

―――――――――

 

――――

 

場面は少し戻り…『カイザーPMC本社』…

 

「な、なんだと…!?も、もう一度言ってくれ…!」

 

カイザーコーポレーションの軍事力を率いるカイザー理事は部下からのある報告を受け驚愕していた。

 

「ケ、ケテルが…討ち取られたのか…!?それもたった一人で…!?」

 

内容は今日のカイザーコンストラクションで起こったあの件だ。

 

カイザーコンストラクションにも警備用としてカイザーPMC所属のものが配備されている。

 

その者からの報告であった。

 

「あ、あぁ、分かった…!私のほうからも調査を進める…!新しい情報が分かったら知らせてくれ…!」

 

何時もの高圧的な態度も鳴りを潜めカイザー理事はそのまま電話を切った。

 

(ど、どうなっている…!?アレを…ケテルをどうやって仕留めたというのだ…!?しかも単身だと…!?)

 

カイザー理事もこの情報をうまく呑み込めないでいた。

 

数十年前、かつてまだ理事になる前だった彼はあの戦場に身を置いていた。

 

迫りくる尽きないロボット兵の群団。

 

そして…部隊を立った一機で壊滅に追い込んだ預言者『ケテル』。

 

なすすべもなく倒れていく仲間たち、破壊されていく戦車。

 

そしてそれらを嘲笑うようにこちらを蹂躙するケテル…。

 

そんな暴力の化身が…たった一人に仕留められた。

 

それも…ヘイローもないただの男にだ。

 

「何なのだ…!?この『W.G.T.C.』と言う会社は…!?」

 

…とうとう、カイザー理事はたどり着いた。

 

カイザーを手玉に取り続けカイザーの戦力を優に上回る戦力を有する企業『W.G.T.C.』の存在に…

 

「どうやってあんな化け物を仕留めたのだ…!?この『ネイト』と言う男は…!?」

 

その元凶ともいえる存在、『ネイト』と言う人物に…。

 

情報が確かなら…アビドスにデカグラマトンの預言者に匹敵する『怪物』がうろついていることになる。

 

そうなると今後の『計画』の大きな障害となるやもしれない。

 

調査が必要だが…

 

「最悪のタイミングだ…!我々の部隊はそう動かせないというのに…!」

 

カイザーPMCの部隊は計画のために動かすことはできない。

 

と言うより、PMC社員が町中を闊歩するのは目立ち過ぎる。

 

ならば…

 

「…仕方ない、『奴等』を頼るか…。」

 

カイザー理事はある場所に連絡を取り始めた。

 

………暗い事務所の中、古いダイヤル式の電話のベルが鳴る。

 

その部屋の主が優雅さを醸し出すゆっくりとした動作で受話器を持ち上げ、

 

「はい…『便利屋68』、『陸八魔』です。…えぇ、ターゲットの身辺捜査から武装組織の撃退までどのような依頼にもお答えします…。…分かりました。その依頼…『便利屋68』にお任せください。」

 

電話の主、カイザー理事の依頼を受託する『陸八魔』を名乗る少女。

 

暗い事務所内に…三つの撃鉄を起こす音が響く。

 

…アビドスに『悪魔』の嵐が吹き荒れるまで2週間を切っていた。




人間の教育は、その死に至るまで、決して完璧なものにはならない。
―――アメリカ南部連合軍司令官・教育者『ロバート・E・リー』
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