―――アリババグループやアントグループの創業者『ジャック・マー』
指摘を受け8/19に一部内容を変更
アビドスとゲヘナの境界付近のビル街の一角。
「『アル』ちゃ~ん、今回はどんな仕事なの~?」
「仕事中は『社長』と呼びなさい、『ムツキ』室長。」
「ねぇ社長、今回のクライアントはどこなのさ?」
「良い質問ね、『カヨコ』課長。今回のクライアントは大口…カイザーPMC理事直々の『便利屋68』への身辺調査の依頼よ。」
「さ、さすがアル様…!あのカイザーからも依頼が舞い込むなんて『便利屋68』の名前も知れ渡ってきましたね…!」
「ふふふ…その通りよ、『ハルカ』平社員。この仕事を完遂すれば私たちの名前が裏社会に轟き渡るわ…!」
その一室で四人の少女がテーブルを囲み先に依頼された『仕事』について話し合っていた。
『便利屋68』、金さえ払えば何でもやるという『何でも屋』である。
「今回のターゲットはアビドスの新興企業の『W.G.T.C.』と言う企業の社長、『ネイト』と言う人物よ。」
社長と呼ばれた不敵な笑みを浮かべる赤髪と角を持つ少女。
『陸八魔アル』、ゲヘナ学園の二年生なのだが…現在は学校を出奔し『真のアウトロー』を目指すために自ら『便利屋68』と言う企業を立ち上げた。
…なお放漫経営&見栄っ張りな彼女の性格のため、毎月カツカツの零細企業である。
「『W.G.T.C.』?聞いたことないけどどんな企業なの、アルちゃん?」
そうアルに尋ねる白髪のサイドテールの長髪のニヤニヤとした笑みを浮かべる少女。
『浅黄ムツキ』、ゲヘナ学園2年生でアルの幼馴染で彼女についてきて『便利屋68』に所属し『室長』の地位についている。
…が、普段からアルや周りを煽り起きる騒動を楽しむというかなり『イイ』性格をしている。
「理事の話ではウチと同じような何でも屋…総合商社を名乗っているからそこはシンパシーを感じるわね。」
「ちょっと待って、社長。登記の記録があるはずだから少し調べてみるよ。」
そう言いつつ、PCを操作し『W.G.T.C.』の情報を調査するパンクな格好の白と黒の入り混じり角と片翼を持った少女。
『鬼方カヨコ』、ゲヘナ学園3年生でこの『便利屋68』の中では最年長の課長だ。
このメンバーの中ではかなり常識人…なのだが、周りのメンバーがかなりエキセントリックなので苦労人枠だ。
「さすが早いわねカヨコ課長。」
「そ、それでその人をどうするんですか?め、命じられれば今すぐにでも…!」
と、おどおどしながらもその手に爆薬と起爆装置を取り出し物騒なことを口走るゲヘナの制服を着た少女。
『伊草ハルカ』、ゲヘナ学園一年生でアルとは二か月しか誕生日が違わないが一応最年少メンバーだ。
いじめられているところをアルに助けられた縁で便利屋68の平社員として所属している。
その性格は非常にネガティブでいつもおどおどしている。
…が、一度敬愛するアルを侮辱されようものなら一気に凶暴化。
見境なくあたりを吹き飛ばすというある意味便利屋1の危険人物である。
「ま、待ちなさいハルカ…!今回は調査よ、その人をどうこうするという依頼じゃないわ…!」
発言を間違えば今すぐにでも調査対象を爆殺しかねないのでハルカを落ち着かせるアル。
「でもアルちゃん、なぁんでカイザーなんて大企業がそんな新興企業を調べようっての?」
「そこはまだ分からないわ。でも、理事直々の依頼と言うことは新興企業とは名ばかりの凄い会社のはずよ。そんな会社を秘密裏に調査するなんて『アウトロー』らしくていいじゃない。」
とまだ見ぬ『W.G.T.C.』とネイトの正体に胸を躍らせるが…
「…あぁ~、社長?」
「なに、カヨコ課長?」
「…たぶん、社長の思っているような会社じゃないよ?」
そう前置きし三人に『W.G.T.C.』の登記を映し出した画面を見せるカヨコ。
「…なななな、なっ、なんですってーーーーーー!!!???」
それを見た瞬間、アルは白目をむき絶叫する。
そこに記されていたのは…
企業名:Wasteland General Trading Company
所在地:アビドス
代表者;ネイト
資本金:1万円
…情報だけ見ると標的は自分たちの会社にも劣る小規模な企業ではないか。
「うわぁ…うちより貧乏で小さい会社じゃん…。」
登記の情報を見ていつものにやけ顔も引っ込み困惑の表情を浮かべるムツキに、
「こ、こんなところをカイザーがアル様に調べろと…?!こ、これはアル様を侮辱してるんじゃ…!」
便利屋68に依頼するにはあまりに小物であることをアルへの侮辱ととらえ一層大量の爆薬を取り出すハルカ。
「…で?どうするの、社長?」
「…はッ!?ど、どうするって?」
「この依頼、受けるの?正直、私もカイザーがなんでこんな会社の社長を調べろって言ってるか理解に苦しむんだけど…。」
調べたカヨコ自身、まさか標的がこんな小物だとは思わずげんなり顔でアルに依頼受託の是非を問う。
「え、えぇっと…おっほん!」
と、社員のやる気が低くなってることを感じたアルは一旦咳ばらいをし、
「…良いこと、皆。多分これはカイザーから私達への『試金石』よ。」
「試金石ぃ?こんな小さな会社を調べることがぁ?」
「そう、これはあくまで私たちの実力を図るためのカイザーからのテスト。私が思うに…本命の依頼はこの次にあると見たわ。任務の難易度に比べて報酬金が高いのも私たちをつなぎ留めておくのが理由ね。」
「な、なるほど…!さすがアル様…!私には思いも付きませんでした…!」
「ふふふっ、だからこの依頼を完遂しようじゃないの!こういう小さな依頼を積み重ねていけば真のアウトローへの道が開けるわ!」
と、W.G.T.C.とネイトの調査依頼を自分たちへの試金石…試練と断定し自信満々で受けることを決めたアル。
「…はぁ、まぁそういうことにしとくよ。じゃあ、カイザーには依頼受託の報告入れとく。」
「よろしくね、課長!さ、どんな小さな標的が相手でも油断はしないわよ!便利屋68、任務開始よ!」
そう意気込み部下を鼓舞し出発するアルたち『便利屋68』。
だが…この時点で彼女たちの予想は大きく外れてしまっていた。
情報を得て現在W.G.T.C.が作業中のアビドスの廃墟街にやってきた彼女たちが見た物とは…
「なっ何なの、あれ…!?」
「すっごい数の重機…!」
「じゅ、従業員もすごい数です…!」
「登記の情報…全然違うじゃん…!?」
バレないよう作業区画から少し離れた廃墟の中で四人は驚愕していた。
視線の先では忙しく動き建物を解体する大量の重機。
作業工程を円滑にするためかまた多くの作業員が解体予定の廃墟に入り様々な物を運び出している。
「アルちゃん…!あれカタカタヘルメット団だよ…!」
「しかもトリニティの『七転八倒団』まで…!」
「従業員もほとんどがそこそこ名の知れた不良やスケバンだね…!」
よく見ると、従業員の多くは荒くれ者の不良やスケバン上がり。
中には各学区で名の知れた現役の不良もかなり混じっている。
「ど、どういうことよ…!?どうやってあれだけの不良をまとめ上げて…!?」
あれだけのメンツが集まってドンパチが起きないどころか全員真面目に働いている。
それがどれだけ異常か、ゲヘナにかつて通っていたアル達には理解できた。
と、その時、
「…あッあれ!写真にあったターゲットだよ!」
「どこ、ムツキ!?」
「ほら、右から二番目の重機のそば!」
ムツキに言われた場所に全員が視線を向けると…確かにそこにいた。
周りと比較すると少し小柄だがその頭上にはヘイローの無い大人の男性。
「アレが…W.G.T.C.の社長のネイト…!」
すんなり見つかったターゲットのネイト。
「あの人があの不良たちをまとめ上げてるの…?」
「そういうことになるけど…どうやってだろ?」
「なんだか…私でも勝てそうな大人の人ですね…。」
はっきり言ってイメージとかけ離れたネイトの姿に拍子抜けしたようなムツキにカヨコにハルカ。
あれだけの不良を束ねているのだ。
まるで化け物のような…それこそ自分たちの学校にいるあの『風紀委員長』クラスの怪物かと思っていた。
「そ、それでもターゲットよ!みんな、シャキッとしなさい!」
アルだけはそんな三人に気合を入れさせるために声を張り上げるも…
(で…でも、なんであんな人をカイザーは調査させてるの…?)
内心、アル自身もネイトと言う人物とそれを調査させるカイザーの意図を測りかねていた。
その後、時間が進み太陽がてっぺんに昇った頃。
アル達がいる場所にも聞こえるホイッスルの音が鳴り響いた。
「な、何かしら…?」
そう不審がり注意しよく確認してみると…
「あ、お昼の合図だったんだね…。」
作業していた生徒たちは重機を降り近くに立てられたプレハブに近づいていきトレイを受け取っている。
「メニューは…うわ、ご飯に豚汁に焼きシャケに卵焼き、ひじき煮まで…。」
全員が一汁三菜と言うバランスのいい見るからにおいしそうな食事を受け取り
満面の笑みで食べ進めていくのを見て…
「すッすごくおいしそうですね、社長…!」
「え、えぇそうね…!」
ハルカとアルは思わず生唾を飲み込む。
普通の女学生ならそこまでの反応はしないだろうが…
「…そういえば私たち昨日からごはん食べてなかったね。」
「今月もかつかつだからねぇ…。」
「し、仕方ないじゃない!この前の依頼で違約金払っちゃったんだから!」
悲しいかな、『便利屋68』は見栄っ張りで(本人は決して認めないが)かなりポンコツなアルの性格や依頼中のトラブルで違約金を支払うことも多々ある。
結果として非常に懐事情がお寒く食事に事欠くことも少なくない。
「まっ待っててください、社長…!い、いま食べられる雑草を…!あぁ!ここは砂漠で雑草がない…!ごっごめんなさい、役立たずでごめんなさい…!」
と、とんでもない食生活事情を口走りながら自らに銃口を向け始めるハルカ。
「わー!落ち着きなさい、ハルカ!あなたは何にも悪くないんだから!」
「…向こうも休憩中だから一旦監視やめよう。精神衛生によくないよ、社長。」
「そっそうね、カヨコ室長!アウトローでも休息は必要よね!」
「そだねぇ…このままだとお腹と背中がひっくり返ちゃうよ…。」
自分たちが空腹の中、他人の食事を眺めることほど辛いことはない。
そういう意味でもアル達も一旦監視を中断することに…
だが…
「………。」
「アニキ?どうかしたんですかい?」
「…折を見て生徒何人かに声をかけてくれ。」
ネイトは傍らで共に食事をとっている生徒にそう短く伝達したのもちょうどこのタイミングだった。
その後、昼寝などをしつつ昼休みも終え午後の作業が再開。
重機のエンジン音でアル達も昼休みが終わったことを察知し監視を再開。
だが、特に目新しいこともなく解体工事は進んでいき…午後4時になったタイミングで…
「あ、また笛の音がなったよ。」
「どうやら今日の作業はこれで終わりみたいだね。」
重機のエンジンも止まり作業員たちが片付け作業を始めた。
「…確かに設備や人数はすごいけど…いたって普通の解体業者って感じね…。」
「そ、そうですね…。今日だけで8軒解体する作業スピードはすごいですけど…。」
アルとハルカの言う通り、確かに仕事は早いが…それだけだ。
登記とのギャップに面食らったがこれと言ってカイザーが脅威に覚えるような要素もない。
ますますこの依頼の意味が分からなくなっている便利屋68の面々。
だが…
「あ、見て。ターゲットが別の場所へ向かってるよ。」
「何をしようと言うのかしら…?」
今まで生徒と作業しつつ監督を務めていたネイトがその場を離れ別の区画へと向かう。
何をしているのかとその後を追ってみると…向かった先にあった廃屋が次々に姿を消し始めたではないか。
「なっ何よ、あれ…!?家どころかビルもどんどん消えていってるわよ…!?」
「一体どんな手品使って…ううん、人にあんなことできるの…!?」
「いや、手品なんかじゃない…!たぶん何かの神秘の力なんじゃないかな…!?」
「あっあんな神秘聞いたこともないですよ、カヨコ室長…!?」
この世のものとは思えない光景に驚愕するしかない便利屋68の面々。
「まさか…アレがカイザーが私達に依頼をした理由…!」
そして、納得も言った。
あんな常識外れの能力を持った人物を脅威に思わない方がおかしい。
「ムツキ課長…!ちゃんと記録してるわね…!?」
「モチ、アルちゃん…!写真と映像でばっちり記録してるよ…!」
「あんな奴がアビドスにいたなんて…!」
「どッどうします、社長…!?ご命令があれば今ここであの人を…!」
「待ちなさい、ハルカ平社員…!なにも知らないのに手を出すのは危険すぎるわ…!このまま監視を続けるわよ…!」
こうして、ようやくターゲットの力の一端を知れた便利屋68。
警戒心を高めその後も記録をとりつつ監視を続けていると…
「…どうやらバスで帰るみたいだね。」
50軒ほど廃屋を解体したところで片付けも終了しネイトも合流。
バスに全員が乗り込みアビドス高校に帰っていった。
「追いかけるわよ、ムツキ課長…!ばれないように慎重にね…!」
「了解。アルちゃん。」
アル達も追いかけるために隠していた車両に乗り込み距離を取って追いかける。
バスはそのままアビドス高校に直帰。
学校内で作業していた生徒たちも集まり終礼を行った後、
「あの封筒…お給料かな…?」
「現金払いであんな人数に…!?」
「となると…100や200じゃ効かない額よね…!」
「み、皆ニコニコしてますよ…!」
ヘルメット団や七転八倒団といった日雇い組に手渡しで渡される日当。
彼女たちの表情からして非常にいい額を貰っているようだ。
あれだけの人数に現金払いができるということは羽振りも相当いいようである。
その後、バスの格納や工具を下ろしたりして生徒たちも寮へと帰り、
「あ、あの人出てきたよ。」
「買い物にでも行くのかな…?」
日も暮れかけてきたころ、紺色のコートとジーンズにブーツの出で立ちとなったネイトが一人で学校から出てきてどこかへと向かっていく。
頭には片側の鍔を折り曲げたカウボーイハットをかぶっている。
「追いかけるわよ…!」
調査のためなおもネイトの後を追う便利屋68一行。
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――――――――
―――
ネイトの行く先はなんということはない。
徒歩圏内のスーパーに向かい食材を購入。
その後、アビドス市街地に向け歩いていくネイト。
「どこまで行くのかしら…?」
「もうこの時間だとあんまり店は開いてないはずだよ?」
「ひょっとして…大人のお店にでも行くんじゃないの?」
「お、大人のお店だなんて…!?」
そんな姦しい話をしながら尾行し続ける。
そのままネイトは人気のない区画まで歩き続けある角を曲がった。
「と、見失っちゃいけないわね…!」
気付かれないように間隔をあけアル達も角を曲がると…
「あ、あれ?」
「見失っちゃった…?」
「し、社長。まだ足音が聞こえます。」
「じゃあそこまで距離は離されちゃいないね。」
コツンコツンと硬い足音は聞こえるがネイトの姿は見当たらない。
間隔をあけ過ぎたかと思い後を追ってその道に踏み込むアル達。
しばし歩を進めていた、その時だ。
背後で突如何かが倒れた音が響き渡る。
「「「「ッ!」」」」
さすがの反応速度か、四人が一斉に振り返り音の正体を確かめると…
『にゃ~。』
「なっ何よ、騒がしい野良猫ね…!」
そこには一匹の野良猫と倒れて中の生ごみが散乱したポリバケツがあった。
「ほら、あっち行きな。今はアンタに構ってる暇はないよ。」
『にゃ~。』
「さすがカヨコちゃん、猫の扱いはお手の物だね。」
「で、でもびっくりしました…!」
「猫くらいで驚かないの、ハルカ平社員…!さ、続きを…。」
カヨコがその猫を追い払い、追跡を再開しようとしたその時だ。
「ほぉ、これは何ともかわいい野良猫が四匹も釣れたか。」
『ッ!!!?』
突如、自分たちの背後…つまり進行方向だった方から声をかけられた。
アル筆頭に一斉に飛びのき3mほど間合いを確保。
そこにいたのは…
「よぉ、ゲヘナの仔猫の嬢ちゃん達。こんな辺鄙な街でこんなオッサンの尾行とは精が出るな。」
今しがた自分たちが尾行していたターゲット、ネイトがそこにいるではないか。
「い、いつの間に…!?」
「ど、どうやって…!?」
「気配も何も感じなかった…!?」
「あ、あわわわわ…!?」
突然のターゲットからの接触…いや、それよりも気配も何も感じることができなかったことに驚くしかない便利屋68の面々。
自慢ではないがこれでも修羅場はいろいろ経験してきている身だ。
彼女らの練度はそんじょそこらの不良では足元にも及ばないほど高い。
そんな彼女達が…声をかけられるまで背後をとられていることに気付かなかった。
「…いつから気が付いていたの?」
努めて冷静にアルがそうネイトに尋ねる。
「なかなかやり手だな、お嬢ちゃん達。…とか言いつつ今朝から現場で覗き見していたのはとっくに気付いていたぞ。」
「バカなこと言わないで…!500mは離れてたんだよ…!?」
望遠鏡でも使わないとまともに見れない距離だ。
そんな距離を肉眼で捉えられていたなど信じられないが…目の前のこの男がハッタリを言っているようにはとても思えなかった
「俺の目を潜り抜けたきゃ森林地帯で光学迷彩でも使うんだな。」
「アハハ…それは今度やらせてもらうね、おじ様…!」
「で?どこの誰からの差し金だ、お嬢ちゃん達?オッサンをストーカーして盗撮するようなもの好きには見えないからな。」
そして、ネイトは四人にそう尋ねる。
『ッ!!?』
その瞬間、今まで感じなかった冷たい気迫が放たれ四人を包み込む。
思わず後ずさりたくもなるようなプレッシャーの中…
「そ、それは言えません…!この依頼はアル様が躍進する第一歩なんです…!」
顔を青くしながらもハルカはいの一番に拒否する。
「そうよ…!そう簡単に口を割るなんて、アウトローのすることじゃないわ…!」
続いて、アルもネイトに力強くNoと返した。
「ほぉ…アウトローねぇ…。」
その気骨にか、はたまた『アウトロー』と言ったアルの言葉にかは分からないがネイトは感心したような声を上げ、
「…じゃあ、アウトロー。この場合はどう対処するんだ?」
浅く笑いながらそう尋ねつつ、コートの右裾をめくりあげる。
そこには…見るからに大口径のシルバーに輝くリボルバーが提げられていた。
「…アルちゃん、どうやら逃がしちゃくれないような雰囲気だよ…!」
「どうするのさ、社長?依頼はあくまで調査だけど…?」
「ごっご命令とあらばいつでもいけます、アル様…!」
プレッシャーに押しつぶされそうになりながらもアルに目配せをし対応を問う三人。
が、
(ど、どどどど、どうしましょー!?こんなおっかない人だなんて言われてないわよ!!?)
当のアルはと言うと内心冷汗三斗の勢いで焦りまくっていた。
まさかの予期せぬターゲットからの接触。
しかも、相手の実力は自分たちを出し抜けるほど。
戦闘能力に関しては未知数だが…そこら辺の雑魚くらいの強さなわけがない。
四対一とはいえ…ここまで勝利へのビジョンが見えないのも久々だ。
だが…
「ふ、フフフッ…!そうね…!私たちはアウトロー…!」
それでそんな動揺を一切外には出さず不敵に笑い、
「障害が自ら立ちふさがるのなら…実力で排除するのみよ!」
ネイトを排除するという命令を三人に下した。
瞬間、一斉に得物をネイトに向け構える便利屋68。
…だが、
「あ、あれッ!?マガジンは!?」
「嘘、ベルトリンクがない!?」
「確かに今朝挿してたはずなのに…!?」
「シェ、シェルがチャンバーにも一発もありません!」
四人の得物に装填されていたはずの弾倉等が消失していた。
何なら、チャンバー内にあったはずの弾丸もない。
「探し物はこれか?」
『なッ!?』
と、そんなときにネイトはある物を手に持ち声をかける。
右手には見覚えのあるマガジンとベルトリンクにショットシェル、左手には…
「え、私のバッグ!?」
「わ、私の爆薬も!?」
ムツキがいつも提げているバックとハルカが愛用している爆薬と起爆装置がそこにあった。
「全く、こんな物騒な物をもって追跡なんておっかない嬢ちゃん達だ。」
そう言いつつ、手に持ったものを背後に投げるネイト。
「いつの間に…!?」
「前に標的を据えているのに振り返るからこうなる。」
「あんな短い時間で掏り取ったなんて…!?」
「どうだ?オッサンでもなかなかやるだろ?」
こともなげに語るネイトだが…この技術はPerkによるものだ。
Perception Perk『Pickpocket』、スリの技能を挙げるPerkである。
ネイト自身、あまり使うことのないPerkだったがその技術は一級品。
もし、やろうと思えば先ほどのタイミングで四人の服も掏り取ることができた。
「で、次はどうするんだ?」
「ど、どうするって言われても…!?」
実力行使は寸で潰され正直あとできるのは…
「…。」
アルは背後を少し振り返りこの角までの距離を測る。
が…
「おっと、ダンマリのまま逃げるのは許さないぞ。」
ネイトは左手を上げパチンッとフィンガースナップを響かせた。
瞬間…
「ちょ、何よこれぇッ!?」
「ま、待ち伏せされてた…!?」
「誘い込まれたのは私達だったってことね…!」
「あ、あわわわ!ど、どうしましょう!?」
アル達の体に赤い光点が照射される。
見ると、近辺のビルの窓や屋上から…十人以上の者が狙いを定めていた。
「『巻き狩り猟』って知っているか?キルゾーンを構築してそこに獲物を誘い込むのさ。」
「つ…つまり今の今まで…!」
「全部俺の掌の上だってことさ。…さぁ、もう一度聞くぞ。雇い主は誰だ、お嬢ちゃん達?」
今度こそ言い逃れを許さないという意志の表現か、ホルスターのボタンを外しハンマーを起こしながら問いかけるネイト。
もはや進むことも退くことも許されない八方塞がりだ。
下手を打てば仕留められるのは自分たちだ。
…それでも、
「…もう一度言ってあげるわ…!アウトローたるもの…そう簡単に口を割るなんてまっぴらごめんよ!」
こんな状況であってもアルはネイトを睨みつけきっぱりとNoを突きつけた。
「!」
これには珍しくネイトも目を見開き少し驚く。
さらに、
「…そうだよねぇ、アルちゃん…!このくらいのピンチ切り抜けられないでアウトローは名乗れないよねぇ…!」
「わ、私も精いっぱい頑張ります…!何とか切り抜けましょう、アル様…!」
「はぁ…あんまりできることないんだけど…一丁やりますか。」
ムツキ、ハルカ、カヨコも目に力が宿りネイトを見据える。
アルの言葉一つで…便利屋68の勢いが蘇った光景を見て…
「…いい部下を持ったな、君は。」
剣呑な雰囲気を引っ込め純粋に便利屋68を称賛する言葉をかけるネイト。
「フフッ、当然よ…!これが『便利屋68』よ…!」
「『便利屋68』、か。…分かった、そこまで言うなら…君たちに敬意を表しよう。」
そういい、ネイトはその手にある物を出現させる。
それは2発の7.62×51㎜NATO弾、一発のショットシェルと9㎜パラベラム弾だ。
「受け取れ、便利屋68。」
「ちょッうわわ!?」
それを器用にアル達の持つ得物に対応した弾丸を指ではじいて渡すネイト。
「…どういうつもりなの、おじさま?」
「四対一だ、一人一発でつり合いが取れるだろう?」
ムツキの言葉にそう答えつつ、ネイトはアル達に銃口が向かないよう注意を払って腰の得物『ウェスタンリボルバー』を抜きハンマーを戻しシリンダーをオープンさせ二発抜き取り、
「さぁ、これでイーブンだ。」
クルクルとガンプレイを披露しつつホルスターに戻し、
「…好きに抜きな、便利屋68。恨みっこなしの…早撃ち勝負だ。」
少し腰を落としていつでもウェスタンリボルバーを抜き放てる態勢をとった。
その意図を組んでか、アル達の体に照射されていたレーザーポインターも消失する。
「正気なの、アンタ?こっちは四人…。」
あきれ顔でそう尋ねるカヨコ。
一発とはいえこちらは四人、つまり誰か一発でもネイトに当てることができれば勝負あり。
対して、ネイトの装填数は4発。
一発も外すことは許されずなおかつ撃たれる前にこちらを全員撃ち抜かなければならない。
状況は一気に便利屋68側有利に傾いた。
だが…
「だから?それがどうした?四人程度で…俺が倒せるとでも…?」
臨戦態勢を維持したまま、ネイトはそうカヨコの問いかけに返す。
どれほどの自信家か、はたまた馬鹿なのか…。
だが…
「…分かったわ。その勝負、受けて立ちましょう。」
アルは自らの得物であるセミオート狙撃銃PSG-1『ワインレッド・アドマイアー』のチャンバーに躊躇なく7.62×51㎜NATO弾を装填。
「…アハハハ!凄いね、おじ様!一瞬でも気を抜いちゃうと…ぶっ殺されちゃいそうだよ…!」
ムツキも牙をむき出しにした獰猛な笑顔を浮かべ汎用機関銃MG5『トリックオアトリック』に7.62×51㎜NATO弾を装填。
(カイザーめ…。とんでもない怪物に私たちを差し向けちゃって…報酬の割り増しお願いしなきゃ。)
カヨコは内心でそう愚痴りながらハンドガンH&K P30『デモンズロア』のスライドを開け弾丸を薬室に放り込む。
「ま、負けません…!ど、どんなにあなたが怖かろうと…勝って見せます…!」
ネイトの迫力に気圧されそうになりながらハルカもポンプアクションショットガンHK FABARM FP6『ブローアウェイ』にシェルを滑り込ませる。
誰一人として…ネイトを嘗めてはいない。
打倒すべき障害として覚悟を込めた視線を向ける。
夜のアビドスの街に砂塵を含んだ風が吹く。
さながら…西部開拓時代の決闘だ。
ネイトもアルもムツキもカヨコもハルカも…微動だにしない。
張り詰めていく戦場の空気。
そして…その時は来た。
クキュルルルルル~…
「「「え?」」」
周囲に響くなんとも気の抜けたような腹の虫の鳴声。
その音源をたどると…
「…/////////。」
決め顔のまま白目をむき耳まで真っ赤になりプルプル震えるアルにたどり着いた。
「アルちゃん…雰囲気ぶち壊しだよ…。」
「ちょっと、社長…。今ここでってマジなの…?」
生理現象だから仕方ないとはいえ…タイミングが悪すぎる。
ジト目と呆れ顔でそんなアルを見るムツキとカヨコ。
対して、
「だッ大丈夫です、アル様!私もお腹すいてますから!」
フォローのつもりか、自分が鳴っていてもおかしくなかったと伝えたかったハルカだが…
「やめて、ハルカ…!余計にグサッと来ちゃうから…//////!」
そのフォローが逆に痛いアルなのであった。
一方、
「…………はぁ~。」
深く…深~くため息をつくネイト。
いつの間にか構えは解いていた。
「ちょ、ちょっと待ってタンマ!ブレイクよ、ブレイク!もう一回!もう一回空気整えるから!」
慌てて仕切り直しを提案するアルだが…
「イヤ…どう考えても無理だろ、なぁ?」
「「うんうん。」」
「ムツキにカヨコぉ!?どっちの味方なの、アナタたちは!?」
ネイトの意見に思わずうなずく部下二人に盛大にツッコむのであった。
「…ごめんね、おじさま。なんか…変な空気になっちゃって。」
「いや、構わないさ…。」
「その…まぁ、この後どうするの?」
「う~ん…。」
「ちょっとぉ!?」
そんなアルを放置し三人で話を進めるネイトとムツキにカヨコ。
「…腹減ってるのか、全員?」
「そっそんなことは…!」
遠い目をしながら空腹か否かを尋ねるネイトにアルは否定しようとするも…
「ハイ…昨日から殆どまともなのを食べてなくて…。」
「ハルカぁ!?」
「もう意地張っても仕方ないよ、社長。…ちょっと食費がカツカツでね。」
「この仕事中もつらかったんだよぉ?現場で皆美味しそうなの食べてるの見てなくちゃならなかったんだからねぇ?」
「もぉ~!そこまで言わなくていいじゃない!」
部下三人に腹ぺこであることを暴露されてしまう。
「…そうか、分かった。」
それを聞き、ネイトはスマホを取り出し、
「…あぁもしもし、セリカか?さっきの予約だけどあと四人追加ってできるか?うん、うん、そう。分かった、大将にありがとうと伝えてくれ。じゃあ今から向かう。」
どこかへと連絡を取り、
「…全員集合!」
周囲に響く声量で叫ぶとぞろぞろと現れる完全装備のアビドス高校の生徒。
その数は20人に迫ろうとしている。
「あ、現場で見た人たちだ。」
その顔触れは今日現場監視中に見た者が大半だ。
あの時とは打って変わって全員鋭い雰囲気の残渣が感じられた。
「すげぇ、マジで便利屋68だ…。」
「アニキに用があってきたのか?」
「ちょちょッと何をするつもりなの!?」
突然そんな大人数に囲まれ混乱がさらに深まるアルだが…
「飯食ってないんだろ?奢ってやるから一緒にこい。」
「えぇ!?」
「拒否権無しだ。行くぞ。」
「ちょ、ちょっとコート引っ張らないで!伸びちゃう~!」
ネイトにコートの首根っこを掴まれ引き摺られていくのであった。
「あ、アル様ああああああ!」
「落ち着いて、ハルカ。あの人、社長をとって食おうってんじゃないから。」
「さぁて、うちらも行きますか。」
「ねぇ、ホントにおじさまご馳走してくれるの?」
「アニキが奢るって言ってんだから嘘はないよ。」
「早くいこうぜ。どうせアンタらのボス迎えに行くんだろ?」
「…じゃあ、私たちもごちそうになろっか。」
「そだねぇ、カヨコっち。いやぁ、まともなご飯なんて何十時間ぶりだろ?」
「で、でもきっと安いのしか食べさせてもらえないんじゃ…。」
「そんなケチでしみったれた真似をアニキはしないよ。」
残されたアビドス生徒とムツキ、カヨコ、ハルカも二人の後を追いかけるのであった。
向う先は…柴関ラーメンである。
食べものが口の中にあるかぎり、すべての問題はとりあえず解決済みだ。
―――作家『フランツ・カフカ』