―――アメリカ合衆国第28代大統領『ウッドロウ・ウィルソン』
ネイト率いるアビドス部隊と便利屋68の初めての邂逅。
一触即発の空気が張り詰めたが…何ともしまらない幕切れで衝突は回避された。
そして、現在『柴関ラーメン』にて。
「こんばんは~。」
「いらっしゃ~い。まってたわよ、ネイトさん!」
暖簾をくぐって引き戸を開けたネイトにバイト中のセリカが元気に出迎えてくれた。
が、
「…って、誰、その人!?なんで引き摺ってんの!?」
挨拶もそこそこに盛大にツッコみを入れる。
まぁ、無理もない。
初めて見る他校の生徒の首根っこを引っ掴んでの来店なのだから。
「あぁ、今朝から盗撮とか尾行してた俺のストーカーだ。」
「す、ストーカー!?ちょっとアンタ、ネイトさんに何するつもりよ!?」
そんなネイトの端的な紹介に思わず身構えるセリカ。
「ちょぉ!?もっとちゃんと紹介してちょうだいよ!?」
言ったことに間違いは微塵もないのだがあんまりな紹介にアルも抗議の声を上げる。
「とりあえず席に着きたいんだけどいいか?他の皆はあとで来るから。」
「そ、それではこちらへどうぞ…。」
「ちょっと~!もう逃げないから放してよ~!」
「らっしゃい、ネイトさん!また新しい子連れてきたのかい?」
「あ、大将。すまないけど先に『スープ雑炊』を四人前作ってもらっていいかい?」
「あいよぉ!」
ネイトが連れてくるメンバーが違うのはいつものことなので柴大将の対応も慣れたものだ。
「ほら、そっちに座って皆が来るのを待っててくれ。」
「うぅ…こんなに雑に扱われたのなんて…結構あったわね…。」
「いや、あっちゃうのね…。」
そんなこんなでネイトとアルはテーブル席の対面に腰を下ろす。
それから一分と経たず、
『お邪魔します、大将にお嬢!』
「らっしゃい!みんな元気がいいねぇ!」
「空いてるお席へどうぞ!」
今回参加したアビドス生徒が入店。
ほぼ貸し切りに近いのでぞろぞろと座敷席やカウンターに腰を掛ける。
その際、
「すまないが、これ預かっててくれ。」
「うっす!」
ネイトは腰に提げていたウェスタンリボルバーをホルスターごと生徒に預けた。
そして、
「あ、アルちゃんいたいた!大丈夫だったぁ?」
「仔猫みたいな運ばれ方だったね、アル。」
「あっあなた、アル様に変なことしていませんよね!?」
ムツキ、カヨコ、ハルカの残りの便利屋メンバーも来店。
「おぉ、来た来た。オ~イ、こっちに座ってくれ。」
「おっ落ち着きなさい、ハルカ!私は大丈夫だから!」
ネイトは三人を自分が座っている座席に呼びアルはファイティングポーズをとるハルカを落ち着かせ彼女と同サイドに座らせる。
ちなみに、武器は持たせたままだが予備弾薬や爆薬などはアビドスの生徒が一時的に預かっている。
「さて…まだまともに挨拶ができてなかったな。」
役者がそろったのでアル達をまっすぐ見ながらそう告げるネイト。
「そ、そうね!互いに対峙した者同士でも礼儀は必要よね!」
しどろもどろながらもアルもネイトの意見に同意し、
「じゃあ改めて…『W.G.T.C.』社長のネイトだ。」
「…『便利屋68』、社長の『陸八魔アル』よ。」
まずは社長同士であるネイトとアルが互いに名刺を交換、
「じゃあ、次は私ね!『便利屋68』で室長やってる『浅黄ムツキ』だよ♪よろしくね、ネイトのおじ様♪」
「『鬼方カヨコ』、便利屋じゃ課長を任されてるよ。よろしく。」
「い、『伊草ハルカ』です…!ひ、平社員やってます…!よろしく、お願いします…!」
続いて残りの便利屋メンバーも自己紹介を終える。
「よろしく。しかし、高校現役生だけでよく起業しようとしたものだ…。」
そうネイトはしげしげとアル達を眺める。
学生が起業、アメリカではそこそこあった話だがまさか高校生が学生だけで起業するというのはさすがに聞いたことがない。
「ふふふ、なかなかやるでしょう?」
「ゲヘナには行ったことはないが相当な無法地帯と聞く。よくもまぁそんなところで…。」
「あそこは刺激的な場所よ?貴方も一度訪問してみるといいわ、ネイト社長?」
と、意味深な表情でネイトと会話を交わすアルだが…
「元は一部活だったんだけど実際は手あたり次第暴れ過ぎてゲヘナにいられなくなったんだよねぇ。」
「で、風紀委員会から逃げるために校外にオフィス構えて『会社』っていう体で活動してるんだ。」
「ちょ、ムツキにカヨコ!?そういうことは言わなくていいのよ!?」
『便利屋68』誕生の秘密をあっさりばらされその表情は崩れ二人にツッコむ。
「…それ、企業として成り立ってるのか?」
どう聞いても『思い付き』で会社を立ち上げたようにしか聞こえないネイト。
「うぐッ…!」
そんな冷静なツッコみに言葉に詰まるアル。
「だ、大丈夫です!たまにご飯食べれなくて雑草を食べることがありますが会社は運営できています!」
フォローのつもりかハルカが絶望的な食卓事情もカミングアウト。
「ざ、雑草…。」
これにはネイトも絶句。
連邦世界だとまだわかる。
だが、このキヴォトスで雑草…しかも以前のネイトのようなサボテンやユッカの類ではなく本当にその辺に生えている草を食べなければならないという事実に言葉が出ない。
「ハルカぁぁぁぁ…!?」
アルはと言うととうとう両手で顔を抑えうつむくしかない。
これでは同じ社長であるネイト相手にあまりにも格好がつかない。
と、そこへ…
「ハイ、スープ雑炊お待ちどうさま!」
セリカが先ほど頼んでいたスープ雑炊を持って来て、アル達の前に配膳する。
「え、これって?」
「…一日以上まともに食ってないんだろ?若いとはいえいきなりラーメンなんか胃が受け付けないからそれでいったん胃を慣らしなさい。」
そう、連れてきてなんだが空きっ腹にラーメンは確実に胃がびっくりする。
なので、いったんこの雑炊で胃を慣らしてもらおうというネイトなりの気遣いだ。
「でも、本当にご馳走になっていいの?まがりなりとはいえ私達、ネイト社長の敵になるかもしれないんだよ?」
と、カヨコが改めて先ほど一触即発となった相手に奢るのかと問うも、
「そん時はそん時だ。良いから食え。量も少ないからラーメンも入るだろ?」
非常にあっけらかんとし、むしろ次のラーメンのことを気にかけるネイトの答えを聞き、
「…じゃあ今日はごちそうになるね、ネイトのおじ様♪」
「ふ、二日ぶりのご飯をありがとうございます、ネイト様…!」
「…分かったよ、ネイト社長。今日、この場では私たちもこれ以上なにもしないと誓うよ。」
「「「いただきます。」」」
三人も警戒心を解き、スープ雑炊を食べ始める。
「………。」
「アルちゃん、冷めちゃったらおじさまに悪いよ?」
「ッは!そ、そうね!有難くご相伴に預かりましょ!」
ムツキの声で我に返りアルもようやくスープ雑炊を食べ始める。
「…美味しいわ、スルスル入っちゃうわね。」
「うぅ…こんなにしっかりしたご飯久々です…!」
「あ~…胃が元気になっていく感じがする~…。」
「うん…あったかいご飯っていいものだね。」
ラーメンのスープのコクと溶き卵と刻みネギやコーンが優しい味わいとなって空きっ腹の胃に染み渡っていく。
四人ともあっという間に完食し、
「よし。じゃあひとごこち付いたことだしラーメンと行こうか。」
いよいよ主役のラーメンを頼むことに。
メニューを見ていると…
「あ、あの!トッピングとかもしてもいいですか、ネイト様!?」
ハルカが挙手しそんなことをネイトに質問する。
「ちょ、ハルカ…!少しは遠慮…!」
アルが少々苦言を呈するが、
「チャーシュー麺大盛りに全部乗せでもいいぞ。餃子もチャーハンも頼め。」
メニューから顔も上げずそう返すネイト。
「い、いいんですか!?」
「こういう時に子供が遠慮するもんじゃない、ハルカ。安心しろ、俺の懐は分厚いぞ。」
「あぁッありがとうございますッありがとうございます!このご恩は忘れません!」
お腹いっぱい食べれることに感激したハルカは涙を滲ませながら何度もネイトに礼を述べ、
「じゃあ遠慮しないよ~、ネイトのおじ様♪すみませ~ん、注文いいですか~!!」
太っ腹なネイトの答えを聞いてムツキは喜んで遠慮なくどんどん選び、
「羨ましい限りだね、ホント…。じゃあ、私もトッピングしちゃおうかな。」
カヨコは自分たちとはまるで違う『W.G.T.C.』の『豊かさ』に肩をすくめ、
「くう…こ、これが大人の余裕と言うやつなのね…!」
同じ『社長』としての格の違いを見せ付けられ悔しさをにじませるアル。
そして、各々のラーメンを頼み出来上がるのを待っている間、
「それで?なんで部活と言うか四人で集まって便利屋なんてやってんだ?」
先ほど絶句して中断していた便利屋についての話を再開するネイト。
『思い付き』とはいえ起業するほどの何かが気になったのだ。
すると、
「うふふ…それは…!」
待ってましたと言わんばかりにアルは表情を引き締め…
「それは?」
「『真のアウトロー』になるためよ!」
自信満々の声で答えるのであった。
「アルちゃん、もうちょいオブラートに包むとか…。」
「ただでさえ相手はうちとは比べ物にならない会社の社長なんだよ…?」
「さ、さすがですアル様!どんな方が相手でも自分を曲げない姿、あこがれます!」
そんなアルの答えに便利屋組は三者三様の反応…いや、ムツキとカヨコは若干呆れてるので三者二様の反応を見せる。
大概、アルがこういうことを言うと相手は困ったように笑うか呆れるかの二択だが…
「ほぉ~、どんな形であれビジョンがあるのはいい事じゃないか。」
「「「…あれ?」」」
笑うでも呆れるでもなく真っすぐにアルを見つめそう評するネイト。
「え、えっと…。し、『真のアウトロー』になるためなのよ?」
「あぁ、しっかり聞いた。だからさっきも『アウトロー』ということに拘っていたんだろ?」
アルも思わず今一度言い直すがそれでもネイトの表情は変わらない。
「…どうしてそんな真っすぐな目で見てくれるの、アナタは?」
こんな反応が返ってきたことがないのでその真意を尋ねるアル。
アウトロー、つまるところ犯罪者だ。
決して褒められるような目標ではない。
そのことはアルもうすうす分かっている。
だが、目の前の大人であるネイトはそれを止めることも諫めることもしない。
それが…不思議でならなかった。
すると…
「だがな、アル。『アウトロー』になりたいんだったら俺から三つアドバイスがある。」
「三つのアドバイス…?」
「一つ、狙うのは大物だけにしろ。二つ、一般人に愛されろ。三つ、自分が決めた『美学』は死んでも守れ。」
真剣な眼差しとなりネイトはアルにそう三つのアドバイスを告げた。
「どういうことなの、ネイトのおじ様?」
「確かに『アウトロー』は犯罪者だ。だがな、不思議なことにそんな『アウトロー』の中でも度々市民から『英雄視』される特異点が生まれる。」
「…そんなことあるの?そりゃよっぽどの大犯罪者なら同業者からは憧れられたりするだろうけど…。」
「世情や景気なんかの影響もあるんだがな。それでも中には後世に映画になった『アウトロー』もいる。」
「そ、そんなすごい『アウトロー』がアル様以外に…!?」
「ど、どんな人がいたの…!?」
いつの間にかアルだけでなく便利屋全員がネイトの話に引き込まれていた。
「有名どころだと『ボニーとクライド』。カップルの強盗殺人犯でかつて4つの州…こっちでいうと学区で強盗、自動車窃盗、窃盗、逃亡、暴行、殺人で16の令状が発行された文句なしの大犯罪者カップルだ。」
「じ、16の令状!?そんな犯罪者、キヴォトスでもそうそういないわよ!?」
「だが、新聞や大衆は彼らを英雄視した。最終的に13人も殺した犯罪者なのにだ。なぜだか分かるか?」
「殺人までやってる犯罪者を…?!なんでなの、ネイトのおじ様…!?」
「これは大不況のさ中で一般人に政府への不満がたまっているっていう状況も原因だが…奴らが狙ったのは『銀行』や『商店』、ようは一般市民から目の敵にされるような場所ばかりだ。なんなら使用した武器は軍の倉庫から盗んだやつだぞ。」
「で、でも殺人は絶対にいけないことなのに…どうして世間はそんな二人を『英雄』だなんて…!?」
「ここがミソだ。二人が殺したのは『法執行機関職員』、詰まるところ警察や保安官が9人、他は押し入った先の店の店主ばかり。一般人には一切手を出さなかったんだ。」
「なるほど…一般人じゃ太刀打ちできない奴らしか手を出さなかったんだね…。」
「犯罪者は犯罪者だが…彼らなりの美学があった。だから大衆は惹き込まれていったんだ。」
と、ここでネイトは舌を湿らせるようにお冷を一口飲む。
「…だが、いくら英雄視されたアウトローでも…『一線』を超えたらただの悪党に成り下がる。『ジェシー・ジェイムズ』がいい例だ。」
「その人はどんなアウトローだったの、ネイト社長…?」
「『ボニーとクライド』よりも昔のアウトローにしてガンマンで強盗団を結成して銀行強盗6回に列車強盗3回、11人殺害したこいつも飛び切りの犯罪者だ。」
「ま、またキヴォトスだったとしてもすごい犯罪歴だね…。」
「だが、これまた当時の銀行の金利に苦しんで敵視していた農民や労働者や女性から金品を奪わなかったことから大衆人気が高かった。狙うのは実業家ばかりというある程度の『義』がそこにあった。」
「た、確かに一般人受けはいい犯罪のやり方ですね…。」
「『奪うのは労働者と貴婦人からではなく、シルクハットの紳士から』という新聞の見出しは後世でも伝わっている。他にも強盗の最中に傷つけた少女の治療費を出したり未亡人の借金を肩代わりして受け取りに来た借金取りからその金を取り返して未亡人に返すなんて伝説もある。」
「じゃあなんでそんな英雄の評判が悪党になり下がったのさ?」
「やり過ぎたのさ。ある銀行強盗の際、ジェシー達はもう動けない銀行員の喉を掻き切って殺害した。動けない相手への無意味な殺し、名声が落ちるには十分だろ?」
と、ここで再びネイトはお冷を一口飲み話を区切る。
「む、無抵抗の人をそんな残忍な殺し方で…!?」
「そんなことやっちゃおしまいでしょ…!」
「英雄なんかじゃない、クズだね…!」
「そんなの…美学も欠片もないじゃない…!」
ネイトの話に今まで目を輝かせて聞き入っていた便利屋メンバーがまるで汚いものを見るかのように目元を歪ませた。
「そうだ。犯罪者はさっき言ったルールを守り切って初めて『アウトロー』になれる。…そして、アル。アウトローになるんだったら…まともな最期は送れないものと思え。」
「ど、どういうことよ?」
「『ボニーとクライド』は車で逃走中に待ち伏せしていたレンジャーと警察にライフルやサブマシンガンで約130発の弾丸を叩きこまれて蜂の巣にされた。」
「そんなのキヴォトス人でも無事じゃすまないね…。」
「『ジェシー・ジェイムズ』はその首にかけられた賞金欲しさに仲間に裏切られて殺された。どうだ、まともな最期だなんてとても言えないだろ?」
「な、仲間に裏切られちゃったんですか…!?」
「うん…どっちも絶対になりたく無い最期だね…。」
そんなネイトの世界の名だたるアウトローの話を聞き終え…
「さて…ここまで聞いて…アル、君がなりたいのは何だ?」
「わ、私が…なりたいもの…。」
「あらゆる犯罪を犯しキヴォトスを震撼させる『大悪党』か?それとも弱きを助け強きを挫く美学を持った『義賊』か?」
再び真っすぐアルを見つめつつ彼女にそう問いかけるネイト。
「そ、それは…。」
アルは即答できなかった。
『一日一惡』、これは『便利屋68』設立時アルが掲げた社訓だ。
この社訓を体現するのは『大悪党』だろう。
だが…それは本当に自分が目指す『真のアウトロー』なのか?
ネイトの話を聞いたとき、彼女の胸は躍った。
そんな凄い『アウトロー』が存在したのか、と。
だが、そこを目指すと社訓はどうなる?
この社訓で付いて来てくれたムツキやカヨコにハルカは自分をどう思うだろうか?
「う~ん…!」
そんな二律背反な感情に頭を抱え唸るアル。
「…じゃあ、最後に俺が見た中で最高のアウトローの話をしよう。」
悩むアルを見てか、ネイトは昔を思い出す遠い目をしながら語り出す。
「さ、最高のアウトローって…?」
「俺が『義兄弟の契り』を交わした男、『ジョン・ハンコック』と言う最高に『Gool』な男の話だ。」
『ジョン・ハンコック』、かつてネイトとともに連邦を旅した『兄弟』の話を語り始めた。
元はあるコミュニティで平和に暮らしていたことを。
だが、ある時弟のように過ごしてきた男が市長になった際に人種隔離政策的な条例を発布したことを。
幾ら市長に抗議してもその条例は取り消されず何もできない無力感に苛まれ自身もコミュニティを立ち去ったことを。
そして流れ着いた先のコミュニティ『グッド・ネイバー』でもろくな状況じゃなかったことを。
それでも追い出された人たちを導き平穏に暮らそうとしても…彼らは姿を消していったことを。
そして、そこを取り仕切っていた市長『ヴィック』の人を人とも思わない圧政を。
そこでも無力感に苛まれドラッグに溺れたことを。
ある晩に路上で起こったヴィック達によって市民が惨殺されたことを。
それから逃げることしかできず、意識が飛んでしまうまでドラッグを服用したことを。
その時…目の前にあったかつての偉人『ジョン・ハンコック』の服を見て天啓を得たこと。
天啓を受け…自ら『ジョン・ハンコック』を名乗り有志と共にヴィックとその配下を打倒し自らグッド・ネイバーの市長になったことを。
「ハンコックは『人民による、人民のための』という志を忘れず、そしてもう傍観者のままでいることを止めた。敵対者には容赦なく、罪なき人には一切害をもたらさないそんな男だった。」
いつの間にか、店の中にいる全員がネイトの話に聞き入っていた。
「当然、綺麗ごとばかりじゃ成り立たない場所だ。汚れ仕事もハンコックはやれるときは自らの手でやってきた。俺もハンコックの敵対者を始末する仕事を請け負ったこともある。だがそれはすべて『グッド・ネイバー』で暮らす住民たちのためだった。だから、ハンコックは街の住人から慕われていた。」
「弱きを助け…強きを挫く…。」
「そして、ある事件…まぁ俺がハンコックの元居た町の市長の金庫破りをしようとした事件をきっかけに彼と俺は旅をするようになった。」
「って、ネイトさん…そんなことしようとしてたの…!?」
「いろいろ事情があったんだよ、セリカ。そんな旅の中、彼は俺を認めてくれた。最高の友人と、兄弟と言ってくれた。…嬉しかったなぁ、あれほどの男に認められて…。」
記憶が蘇り懐かしむような温かい目をしながらネイトはそう語る。
「…これが、俺の義兄弟にして俺の知る最高のアウトロー『ジョン・ハンコック』の話だ。」
その時、話の終わりを告げるかのようにちょうどお冷の氷がカランと崩れた。
それを聞いたアルはと言うと…
「ずびっ…!そんな過酷な人生なのに…グスッ!諦めずに進みづけた…ヒグッ!ハンコックさんて…まさに『真のアウトロー』ね…!」
感極まったのか鼻をすすりながら涙を流していた。
「ほらアルちゃん、お鼻をチ~ンってしましょうね~。」
「ありがとう、ムツキ…。」
と、涙を拭き鼻をかんでいるとふと思った。
(…待ちなさいよ?そんな『真のアウトロー』に認められて『義兄弟の契り』を交わしたネイト社長ってまさか…!?)
その結論に達する寸前だった。
「あいよ、お待ちどうさまぁ!いい話聞かせてもらっちゃったから皆にチャーシューサービスだよ!」
こちらも若干涙目になってる柴大将がネイトたちの席に注文したラーメンを持ってきてくれた。
目の前に出されたトッピング山盛りのラーメン。
先の雑炊のおかげで胃が元気になり『早く寄越せ』と暴れ始める。
「さ、俺の話も一段落したし頂くとしようか。」
「うわぁ…!こんな豪華なラーメン初めてです…!」
「そうだね、ハルカ。私も久々だよ。」
「いや~尾行に気付かれてよかったね、アルちゃん!」
「そ、それとこれとは話が別よ!で、でも…ありがたく頂くわ、ネイト社長!」
アルは満面の笑みを浮かべネイトに礼を述べ
『いただきます!』
今一度、いただきますを言ってからラーメンを食べ始め、
『ん~おいし~!』
「だろ?ここのラーメンは絶品だ。」
四人とも柴関ラーメンの味はとても気に入ったようで満面の笑みを浮かべている。
…が、
「それで?俺の調査依頼を出したのはカイザーPMCか?」
「ぐフッ!?ゲホゲホ!?」
ネイトの突如として先ほどの問いかけの続き、しかもいきなり正解を言い当てられ咽かえすアル。
「「「ッ!?」」」
他の三人も箸がぴたりと止まる。
「フフッ、その反応を見るにどうやら正解らしいな。」
その反応に満足したのか、ネイトも自分のラーメンを食べ始めた。
「ゲホゲホッ!ど、どうしてそれが!?」
あれだけ意地を張って口を割らなかったのにあっさり見破ったネイトに理由を尋ねるアル。
「なぁに、直近の出来事から逆算しての簡単な思考トレースさ。」
「し、思考トレースって…なんですか…?」
「要は相手ならどう思うか『思考』を真似ることだ。」
「そんなのでどうして分かるの…!?」
「詳細は省くが昨日カイザーのグループ会社の交渉の場で『ある物』を見せつけてな。それを見てたり聞いたりして一番興味を引きかつ俺に調査を依頼できるような立場の場所は?…とこう考えていくと自ずとカイザーPMCに行き着く。」
「スッゴ…ちょっと会っただけでそこまで見抜かれるなんて…!?」
「で、でもカイザーだとは限らないんじゃ…!」
例えネイトの言う通りだとしてもキヴォトスには会社など山ほどある。
他にも選択肢もあるのにどうしてそれほどピンポイントに正解を導き出せるのかアルには不思議だったが、
「自慢にはならないが我が社の知名度はいわゆる『知る人ぞ知る』どまりだ。実際、アル達も俺の会社の存在は初めて知っただろ?」
「た、確かに…!」
「で、うちのことをあまり知らずなおかつ容易に知れるポジション。しかも、急に調査だなんて始める理由があるところは?…と、最初から選択肢は少なかったってことだ。」
ネイトの言葉に納得するしかない。
アビドスの近くに社を構える自分たちでさえ今回の調査がなければW.G.T.C.の存在を知ることはなかっただろう。
だが、
「で、でも食べてるときに聞くのは卑怯よ!」
あまりにも意地が悪すぎるタイミングにアルは抗議するも、
「何言ってる。どんな生物でも『食事時』まで油断しない奴はそうそういない。それこそ腹ペコの状態でご馳走を前にした状態ならなおさらな。」
「うぐぅッ!?」
「どこまでもお見通しだったってことかぁ…。」
交渉の手腕だけじゃない。
相対する相手の心理状態の分析、交渉の場のセッティング、仕掛けるタイミング…どれをとっても今までで見たことない妙手ばかりだ。
「…相当いろんな修羅場潜ってきたんだね、ネイトのおじ様。」
「これでも君達より長生きしてるんだ。若いモンにはまだまだ負けんさ。」
普段は煽り散らかすムツキでさえ、目を見張ってネイトを見るしかできなかった。
「じ、じゃあここに連れてきたのは…!?」
と、いやな予感が脳裏をよぎるハルカ。
見るからにネイトたちが常連の店、周りにはネイトの部下ばかり、自分たちは武装をほぼ奪われている…。
まるで…自分たちをこの場で…。
ムツキもカヨコも思わず身構える。
だが、
「…安心しなさい、ハルカ。この人は絶対にそんなことしないわ。」
「あ、アル様…!?」
こういうタイミングで真っ先にてんぱりそうなアルが冷静に三人をなだめる。
「あぁ、それは本当にラーメンをご馳走しようとしただけ。もう聞きたいことは終わったから存分に食べてくれ。」
ネイトもあっけらかんとハルカの疑問に返し自分のラーメンをすすっていく。
「…どうして?今この場ならカイザーにも情報持ってかれないんだよ?」
アルとネイトの言葉に警戒心を薄めつつもカヨコはネイトに真意を尋ねると…
「腹ペコの子供が『旨い、美味しい』って笑顔で食事してるんだ。その喜びを奪うような真似、俺にはできない。」
レンゲで煮卵を頬張りながら真っすぐアル達を見つめてそう返す。
「…敵わないわね、この人には。」
「ホント…こりゃ参っちゃったよ。」
「うん…とんでもなくデッカイ人だよ…。」
「ご、ごめんなさいごめんなさい…!疑ったりしてごめんなさい…!」
「さぁ俺の奢りだ、どんどん食え。麺が伸びたら台無しだぞ。」
『(うん)(ハイ)!』
こうして、張り詰めた空気も弛緩し再び賑やかな空気の中ラーメンを食べ進めていくネイトと便利屋68。
…だが、騒動と言うものは去ってもまた新たに来るものである。
突如として開かれる柴関ラーメンの扉。
「いらっしゃい!すみません、今貸し切りで…。」
セリカが座れるスペースがだいぶ限られているので申し訳なさそうに断ろうとするも…
「ん…こんばんは、セリカ。」
「セリカちゃん、バイト頑張ってるね。」
「あ、あれ?シロコ先輩にアヤネちゃん、どうしたの?」
そこにいたのシロコとアヤネだったので首をかしげる。
さらに、
「へぇ、ここが柴関ラーメンかぁ…。」
「せ、先生まで?!ホントにどうしたの!?」
「こんばんは。急にお邪魔してごめんね、セリカ。」
現在、アビドスでネイトに弟子入り中の先生も登場し一層状況が分からなくなる。
そして…
「ほらほら、ホシノ先輩ぁい♡みなさん、おまちかねですよぉ♡」
「うにゃああああああああ!!!やだぁ!わたしもうおうちかえるううう!!!/////////」
「えぇ!?ノノミ先輩、ホシノ先輩の首根っこ引っ掴んで何やってるの!?と言うか、その人本当にホシノ先輩!?」
最早、幼児退行の域まで達しじたばた暴れる真っ赤なホシノを逃がさんと首根っこを捕まえたノノミも集結しいよいよ訳が分からなくなる。
「ちょ、ちょっと一体何が…!?」
「ん…セリカ、ネイトさんはどこ?」
「え、ネイトさん…!?ネイトさんなら…。」
状況が呑み込めないままシロコの質問にセリカはその席を差そうとする。
が、それより早く…
『お疲れ様でぇす!!!』
「あれ?みんな、どうかしたのか?」
隊員たちのあいさつと共にテーブル席からひょっこりとネイトが顔を出した。
「「「…いたぁ♪」」」
瞬間、三人の目がギラリと輝いた。
「さぁ行きますよ、ホシノ先輩ぁい♪」
「やめてええええ!!!もうゆるしてええええええ!!!/////////」
ホシノを引きずったまま不気味な雰囲気を纏ったシロコたちは席に近づいていく。
「ん…こんばんは、ネイトさん。」
「お、おぉこんばんは…。」
「お食事中のところすみません。」
「それは構わないがどうかしたのか?」
「ちょぉっとお聞きしたいことがありましてぇ♪」
「あぅぅぅぅぅ…!/////////」
「いや、俺もホシノの状況を聞きたいんだが…。」
さすがの胆力か、そんな迫力を浴びながらも動揺も最小限にシロコたちとコミュニケーションをとるネイトだが…
「ヒィッ!?」
対面にいるアルや便利屋メンバーはすっかりその雰囲気に圧倒されてしまっている。
そして…
「ん…昨日は…ホシノ先輩と同じベッドで眠ったってホント?」
「えぇ///!?」
「うわぁ、おじ様だいたぁん…!///」
「ちょ、ちょっとそれは…。///」
「あ、あわわわわ///!」
火の玉ストレートど真ん中の質問に耳年増な便利屋たちは完全にそういう『行為』をネイトと…
「ごめんねぇぇぇぇ…!ごめんね、ネイトさぁぁぁん…!」
そこで首根っこ掴まれている小柄な生徒と致したという発想に至り全員顔を真っ赤に染める。
「はぁぁぁぁ!?ネイトさん、ホシノ先輩と一緒に眠るって何やってんのよ!?///」
これにはセリカも顔を赤くし青筋立てネイトを問い詰める。
が…
「イヤ…ホントも何もシロコが言ったことに一言一句間違いはないぞ?」
『ええええぇぇぇぇッ!!?///』
誤魔化すでもはぐらかすでもなくその火の玉ストレートを愛用のロケットバットでかっ飛ばす勢いで答えた。
それも場外本塁打クラスの長打に便利屋たちはさらに顔を赤らめ叫ぶ。
すると…
「…ん…こうまで素直に言われちゃうともうどうしようもない。」
「少しはホシノ先輩みたいに反応してくれたらいいんですが…。」
「うふふふ♪どこまで行ってもネイトさんはネイトさんですねぇ♡」
「そんな余裕たっぷりだとなんだか怒る気もなくなっちゃったわ…。」
あの迫力が一瞬で引っ込みまるで『仕方ないなぁ』といった雰囲気に変わった。
と、
「…あぁ、そっか。さすがにこんなオッサンと一緒に眠るのは嫌だったか、ホシノ?」
「ふぇ…?/////////」
「ごめんな、さすがに酒を飲んでいたとはいえ軽率だった。この通りだ。」
ホシノが嫌がったのでこういう事態になったと勘違いしたのか、ネイトはホシノに向き直って頭を下げる。
そんな竹を割ったようなネイトの言葉に…
「あ、あら?」
「…まさか、眠ったっていうのは…。」
「本当に…一緒に睡眠をとっただけ…?」
「あぁ、変なこと想像してすみません!すみません!」
便利屋たちもようやく二人は普通に寝ただけと言うことに気付く。
「ん…違う。ホシノ先輩は嫌がってなんかいない。」
「え?でもホシノが嫌がって三人に俺の苦情を…。」
「違いますよぉ♪むしろ、ホシノ先輩はメロメロになってましたからぁ♡」
「はい、それを隠そうとして色々誤魔化そうとしてましたけど匂いがばっちり残ってました。」
シロコたちはそうネイトの謝罪の必要はないと説明するも…
「え、嘘。もう加齢臭が出てくるようになったのか…?!」
「…たぶんそういうことじゃないと思うわよ、ネイトさん。」
今度は自分の体臭が臭かったのかとあらぬ誤解をしてしまうネイト。
すると、
「ち、ちがうもん!!!ネイトさんはくさくなんかないもん!!!いままででいちばん安心できたいいにおいだもん!!!////////////」
顔をトマトも逃げ出すほど真っ赤にさせながらネイトの言葉を否定し安心できる匂いだったと宣言するホシノ。
「ちょおッホシノ先輩!?大きな声でなんてこと言っちゃってんのぉ!?」
「えっ!?あッ!い、今の…!」
セリカにツッコまれ我に返り訂正しようとするも…もう遅い。
「うおおおおおおお!!!ホシノの姉御にとうとう青春が到来したぞおおおおお!!!」
「野郎ども、宴だああああああああ!!!」
『『『『『かんぱあああああああああい!!!!』』』』』
周りにいた隊員たちは大盛り上がり、あれよあれよという間に宴会モードに突入。
「うわああああああん待ってええええええ!!!話を聞いてえええええええ!!!」
さすがに…この状況は悶絶して死にそうになる。
ホシノは慌てて隊員たちを落ち着かせるため突撃していった。
「…そっか、俺…臭くないんだ。」
「ちょっと!?今の話聞いてそこに落ち着くの、ネイト社長!?」
「馬鹿言うな!中高年にとって体臭は死活問題だぞ!」
相変わらず少しずれた発言にとうとうアルが盛大にツッコんだ。
「ん…そういえばあなた達がネイトさんを追いかけてた人たち?」
「えっ!?そ、それは…!」
と、ここでようやくシロコがネイトの対面の席に座る便利屋68の面々に声をかけた。
どうやら、身辺調査をしていたことは知られているようでどう誤魔化したものかとアルは悩む。
すると…
「そう、便利屋68。明日から一週間、週払いの契約でうちで働くらしい。」
今まで一切話題に出てなかったことをシロコに伝えるネイト。
「え!?ちょ、ちょっとそんなこと聞いて…!?」
慌てて訂正しようとするアルだが…
「時給2000円、残業代あり。昼食付き。」
「え!?そ、そんなにお給料いいのにお昼ご飯まで!?」
「各種特殊技能・危険作業手当あり。」
「おぉ~、特技活かせるんだ!」
「報酬は振り込み、現金手渡し選択可能。中抜き無し。」
「それは…かなり魅力的だね。」
「週休完全二日制、週働きなら寮に短期入居可能。家具家電付き、バスルームトイレ別。家賃はその期間の水道代と保全費のみ。」
「お、お風呂までついてるんですか!?」
畳みかけるようなネイトのW.G.T.C.の労働環境のプレゼン。
「…どうだ?悪くないだろ?」
「そ、それはそうだけど…どうして…?」
はっきり言ってキヴォトス中のバイトをひっくり返して探してもこれほど好待遇な仕事はなかなかないだろう。
そんな仕事を敵対企業から調査依頼を受けている自分たちに斡旋してくれる意図が分からずネイトに尋ねるアルだが…
「これは社長としてアルへの説教だ。…部下はちゃんと食わせてやれ。」
「うぐぅッ!?」
「そっちの経営状況は知らないし問い詰めるつもりもない。だが、慕ってくれて集まってくれた部下は絶対食うに困らないようにしてやれ。」
「…はい。」
「あと、会社の経済状況に合わせて『妥当』と呼べるラインはしっかり引け。どうせ見栄張って便利屋としての仕事以外は絶対やらないとか意地張ってるだろ。」
「ぐはぁッ!?」
「アル様あああああああ!?」
「うわッ…言い当てられちゃったよ…。」
「確かにアル…日雇いとか絶対にやらないって言ってたもんね…。」
ズバズバと同じ社長としてのネイトの説教がアルに突き刺さる。
「…だから、潜入調査と言う名目でうちで働け。そうすれば二月分の食費くらいは楽に稼がせてやる。」
「…はい、よろしくお願いします…。」
もうアルにネイトに反論する元気はなかった。
「ハイ、契約成立。明日からよろしくな。説教は終わり、ラーメンの続きだ。」
「ん…そういうことならよろしく。後ネイトさん、今度私とも一緒に寝て。」
「私とも今度お願いしますぅ♡」
「お、お邪魔でなければ私とも///。」
「ちょお!?流れでなんて何てことお願いしてんの!?しかもアヤネちゃんまで!?」
さりげなく…と言うには見逃せない爆弾発言にセリカのツッコミも冴えわたる。
「えぇ…本気で言ってる?俺オッサンだしベッドに入ったら一瞬で寝れるからなんも面白いことないぞ?」
オッサンと言ってるが中身は爺さんの自分と寝る事の何がいいのか分からないネイトだが…
「ん…構わない。隣で寝てくれるだけでいい。」
「ですです~♡ホシノ先輩みたいに抱き着かせてもらえるともっと嬉しいです♡」
「…まぁ、そっちがいいなら俺は構わないが…。」
シロコとノノミにそれでもいいと言われ首をかしげながら了承する。
「ちょおっとネイトさん!?なんで了承しちゃってんのよ!?」
「イヤだって…断っても絶対潜り込んでくるだろ、この二人。」
「った、確かに…!」
そんなネイトを叱りかけたがその意見には納得するしかない。
この先輩二人が一回断ったくらいで諦めるタマではないのは自分がよく知っている。
ならば…
「じ、じゃあアヤネちゃんが寝るときは私が監視で一緒に寝るわ!///それならOKよ!///」
「えぇッセリカちゃん!?///」
と、何やらとんでもない妥協案を突きつけるセリカ。
「いや、さすがに三人は寝れない…。」
「じゃあもっと大きいベッドにしなさいよ!」
「えぇ~…。」
「えぇ~じゃない!そのくらいちょちょいのちょいでしょ!?」
挙句ネイトにベッドを大型化させてまで実行する気だ。
そんなワイワイ騒がしくなったネイトの座席を見て…
「…皆から愛されてるんだね、ネイト社長って。」
「なんだかW.G.T.C.のお仕事楽しそうだね、アルちゃん♪」
「わ、私もしっかり働きます!これでカイザーの報酬もあればしばらくはしっかり食べていけます!」
「…そうね、あなた達をしっかり食べさせてあげられるくらいしっかり働かなきゃね。」
便利屋68はひょんなことから始まるW.G.T.C.への潜入任務(笑)に不思議と胸を躍らせていた。
「いやぁ、賑やかなのはいいもんだねぇ。」
「あはは、ご迷惑でなければいいのですが…。」
先生はカウンターに腰掛け柴大将と話し込んでいた。
「なぁに、賑やかなのが一番だよ。ネイトさんが来てくれたおかげでウチだけじゃない、町が明るくなったんだからね。」
「そうなんですか?」
「そうさ。今ホシノちゃんが止めてる生徒、みんな元はそこらにいた不良たちなんだよ?」
「え?」
柴大将からそんな事実を聞き、先生は目を見張って彼らを見る。
サンクトゥムタワー復旧の際の戦闘でキヴォトスにおける不良の凶暴性は知っている。
だが、そこにいる彼ら彼女らは全くそんな気配はない。
どこにでもいる普通の生徒で…みんな心から笑っている。
「ネイトさんがそんな連中をみんなみんな雇って、仕事を与えてやってくれたから治安が一気によくなったんだ。」
「生徒数が急激に増えたのはそういう理由だったんですね…。」
「それにアビドス高校を乗っ取ろうとしてたヘルメット団の連中だって日雇いでしょっちゅう働きに来てる。自分の敵だった連中になかなかそんなことできないよ?」
「そうなんですか…。」
昨日はその背中の遠さを知った。
そして今日は…ネイトのその懐の深さを知った。
彼が言っていた『アビドスの復興』。
それはアビドス高校だけではない、アビドス全域の話なのだ。
だから…本当に『アビドスのすべて』をネイトは救うつもりなのだろう。
「…ホント、敵わないなぁ。」
「あんた、シャーレの先生だろ?だったら、あの人の姿、しっかり見ときなよ。俺もそこそこ長く生きてきたが…あんな良い『人生』の先生は見たことねぇんだからな。」
「はい、もちろんです!」
「よぉし、じゃあ何にしましょう!?ネイトさんからたんまり貰うから気にせずどんどん頼んじゃってくれ!」
そんな柴大将からエールを受け先生もこの打ち上げに参加する。
柴関ラーメンのにぎやかな声は…閉店までずっと続いたという。
――――――――――――――
――――――――
―――
「大将、お先に失礼します!」
「おぅ!今日はお疲れさん!」
ネイトたちも帰り、片づけを終え帰宅の途に就くセリカ。
「ん…ん~みんな食べ過ぎよぉ…。」
結局あの後、あの場の全員で大宴会に突入。
大半は若い胃袋だ。
ラーメンも何杯も出てサイドメニューも何度作ったか分からない。
結果、柴関ラーメンのその日の材料は底を付き宴会は終了。
代金はネイトが現金で一括払っていった。
とても疲れたが…ここちのいい疲労感だ。
対策委員会の皆がいて、アビドスの生徒がいて、先生がいて、ネイトがいる。
そんな空間がとても愛おしかった。
「さぁって…帰ってシャワー浴びてさっさと寝ないと…。」
と、そんな時だった。
「よぉお疲れさん、セリカ。」
「え、ネイトさん!?」
自宅への途中にある自販機コーナーでネイトが待っていた。
「ほら、これでも飲んで一息ついてくれ。」
「うわッ!」
そこで買ったのだろうスポーツドリンクをセリカに投げ渡し今日の労をねぎらう。
「ど、どうして…?」
「なに、半ば俺のせいでここまで遅くなったんだ。家まで送っていこうと思ってな。」
「そ、そうなの…。あ、ありがとう…。」
「んじゃ、歩きながらお喋りでもしつつ行こうか。」
と、ネイトとセリカと言う珍しいコンビが夜の街を進んでいく。
「あの便利屋68っていう連中、一週間も雇っちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。あれは若気の至りで悪ぶってる感じだ。アルやほかの3人の心根そのものはかなり善良よりだろう。」
「…そんな子たちがなんでそんな『真のアウトロー』なんて目指してるのか訳が分からないわね。」
「セリカ、『憧れ』や『夢』ってのはそういうものだ。どんなに目を離そうとしても離せない、そんな夢中になれるものを見つけられるってのは幸せなんだぞ?」
「ネイトさんは…そういう物見つけられたの?」
「さぁ…見つけられたようにも思えるし見つけられてないようにも思える。」
「フフッ、何それ。」
と他愛のない会話を繰り広げながら歩いていく二人。
…その時だ。
「…さて、セリカ。そろそろおっぱじめようか?」
「そうね。…さっさと出てきなさい。いるのは分かってるわよ。」
突如、二人の表情が引き締まり互いに『冷気』と『怒気』を孕んだ雰囲気が発せられる。
すると…
「ッチバレていたか…!」
「やるな、クソオヤジ。」
「痛い目見たくなけりゃ…そいつを渡しな。」
二人を前後で取り囲むように6人のヘルメット団が現れて。
何分しょっちゅう顔を合わせることが多いカタカタヘルメット団。
もう大半のメンバーとは一度は顔を合わせているはずだが…ヘルメット越しでも分かる。
「…カタカタヘルメット団じゃないな。」
「あんた達、どこのもんよ?」
こいつらは別派閥のヘルメット団だ。
詳しいことは分からないがよく見るとヘルメットの意匠も違う。
「誰が吐くかよ、クソオヤジ。」
「おい、うちらも殺しはしたくねぇ。」
「用があるのはそこの『黒見セリカ』だけだ。」
「見逃してやるから…さっさと失せな、クソオヤジ。」
端っから答えるつもりはないのか、セリカを置いて立ち去れと脅すヘルメット団。
「…なぁセリカ。やっぱ俺ってオヤジくさい?」
さっきからクソオヤジと呼ばれ続けて思わずセリカにどうか尋ねるネイト
「いいえ、そんなしょぼくれた感じじゃないから安心して。」
セリカもこんな状況なのに律義に答えてくれた。
「そっか、安心した。」
「おい、何話して…!」
「おぉっと、すまんな。…で、俺の答えだがNoと言わせてもらう。」
「はぁ?おい、この状況分かって…!」
「分かってないのは…どっちだ?」
そう言い、ネイトはコートの右裾を上げウェスタンリボルバーを露わにする。
「…どういうつもりだ?」
「せっかくライフル持ってんのにこんな近づいちゃ宝の持ち腐れだろ?腰の相棒の射程圏内に入っちまってんだから。」
ヘルメット団にそう答えた瞬間、
『…プっアッハッハッハッハッ!!!』
周囲のヘルメット団が大笑いする。
「おいおい、こっちは六人なんだぞ?!」
「そんなリボルバー一丁でどうにかできんのかよ?!」
「面白れぇ!やれるもんなら見せてもらおうか!」
そう笑いながらどうネイトがこの状況を打破するか楽しみなヘルメット団。
「…あ~ぁ、『酷いこと』になりそうね。」
セリカはそう独り言ち、
「ネイトさん、弾入ってる?」
ネイトに視線を向けそう尋ねると、
「祈るのみだ…。」
そうネイトが答えた瞬間だった。
バァバァァァン!!!、夜のアビドスの街に響き渡る間延びした大音量の銃声、
「「「「「「グェア!!?」」」」」」
取り囲んでいたヘルメット団がほぼ同時に眉間に『二つ』の弾痕が刻まれ後ろに倒れ込む。
弾丸が増殖するセリカにかつて『反則』と呼ばれたレジェンダリー『ツーショット』が付与されているのだ。
熊をも倒す.44Magを二発も顔面に叩きこまれたのだ。
無事で済むはずもなく、ヘルメット団は全員昏倒する。
街に静寂が戻りいつの間にか抜き放たれていたウェスタンリボルバーからジィィィ…という弾倉が空転する音だけが残った。
「…相変わらず反則染みてるわね、V.A.T.S.って。」
「使えるもん使って何が悪い?」
「確かに。」
まぁ御多分に漏れず、V.A.T.S.によるファニングショットである。
それでも…
「でも二発分しか銃声聞こえなかったわよ?」
「ちゃんと6発撃ったさ、ほら。」
「ワァオ…。ミニガンとどっこいじゃない、発射レート…。」
そう言い、弾倉をスイングすると発射済みの薬莢が6発落ちてきた。
6発撃って2発分の銃声…どれほどの発射速度で撃ち抜いたか筆舌に尽くせないだろう。
「んじゃ、さっさとこいつらを調べて…。」
何はともあれ襲撃者は排除できたので正体を確かめようとするセリカ。
その時…
「…ッ!セリカ!」
「キャ!?」
突如セリカを抱え路地に飛び込むネイト。
次の瞬間…先ほどまで自分たちがいた場所が爆散。
続いて轟く野太い砲声。
「対空砲によるダイレクトカノンサポートか…!」
「い、今の砲声『Flak41改』よ!?ネイトさんいるってのになんてもんぶっ放してんの!?」
「おいおい…アハト・アハトぶっ放しやがったのか…!」
さすがにいくらバリスティックウィーブ衣装でもそんなものは防ぎきれない。
「ネイトさん、パワーアーマーは!?」
「あいにく整備中だ。ケテルとの戦いが激しかったからな。」
虎の子のパワーアーマーも今は手元にない。
幸い、今は先の爆発で巻き起こった爆発煙と砂ぼこりで視界が奪われているので追撃はない。
「…なぁ、今のって着発式信管だったよな。」
「多分…それが?」
「…セリカ、『バッファロー・ビル』と『アニー・オークレイ』の共演と行こうか。」
「え?」
スピードローダーでウェスタンリボルバーに再装填し、ネイトは不敵に笑って見せた。
数十秒後…
「ようやく煙が晴れてきやがった。」
「まさか避けられるとはな…!」
「準備しろ、次で仕留める!」
装填手と砲手に観測手の三人のヘルメット団がその時を今か今かとまっていた。
距離にして100m、次弾を発射すれば勝負が決まる。
そして…煙が晴れるとそこにいたのは…
「息止めててよ、ネイトさん…。」
「外すなよ、セリカ。」
「もち…!」
片膝をつくネイトの背に隠れるようにセリカがその肩に銃を乗せ依託射撃の姿勢をとっていた。
「いたぞ、あそこだ!」
「二人一緒なら好都合だ!」
そう言い、砲手がペダルを踏み込もうとした瞬間、
「させないわよ!」
セリカが『シンシアリティ』を発砲。
W.G.T.C.狙撃部隊総長の彼女の実力なら…
「ゴハッ!」
撃たれる前に砲手を撃ち沈めることなど訳ない。
さらにセリカは二発発砲、
「くそ、観測器がやられた!」
狙いを定めるのに必須の照準器を破壊。
これでFlak41改は正確な射撃ができなくなった。
だが、照準は最初からずれてない。
「おい、早くぶっ放せ!」
狙撃を避けるためにしゃがんだヘルメット団が匍匐前進でにじり寄り、
「食らいやがれ!」
手で発射用ペダルを押し込んだ。
だが…
「ネイトさん!後は頼んだわ!」
「任せろ、フィナーレは決める。」
それより早くネイトがウェスタンリボルバーを構えV.A.T.S.を発動しFlak41改に照準を定める。
だが狙うのは大砲本体ではない。
ヘルメット団がペダルを押し込んだ瞬間…新たなターゲットが出現。
『88×855mm R弾』、Flak41改に使われる砲弾だ。
大砲の撃針が雷管を叩く寸前、ネイトはクリティカルを発動し発砲。
速度こそ砲弾に劣るがこちらが一歩早かった。
二発の.44Magが距離の3分の2を飛翔したタイミングでFlak41改が発砲される。
そして…砲弾が砲口から飛び出し5m飛翔したその時に同時に二発の.44Magが砲弾の先端と正面衝突。
瞬間、着発式信管が作動。
「「ぎゃあああああああああ!!?」」
元は対空砲弾、炸裂時の衝撃波と破片がヘルメット団に襲い掛かった。
発射された砲弾に弾丸をぶつけ暴発させる神業の如き射撃。
「す、すごい凄い!ホントにうまく行っちゃった、ネイトさん!」
ネイトの背中に抱き着き興奮するセリカと対照的にそれを成し遂げたネイトはと言うと…
「フォッ…。」
まるで…蠟燭の灯を消すように銃口から立ち昇る硝煙を息で吹き飛ばし、銃を高速回転させるガンプレイを披露しホルスターに収めた。
「わぁ…!」
真剣な表情かつ『クール』な所作に思わず見惚れてしまうセリカ。
「…セリカ、また腕を上げたな。」
「え!?ど、どんなもんよ!」
「うん、それでこそ我が社の狙撃部隊のエースだ。…立ちたいから離れてもらっていいか?」
「あ、ごめんなさい!」
「ありがとう。じゃあ改めて正体を確かめるか。」
今度こそヘルメット団を完全排除し、正体を改めるネイトとセリカ。
「でも、こいつらどこの所属なのかしら…。」
「こういうのは専門家に任せた方がいい。」
「専門家?」
そう言い、ネイトはスマホでヘルメット団のヘルメットの意匠を撮影し何やら操作する。
「何してんの?」
「カタカタヘルメット団にモモトークでさっきの写真を送った。」
「え!?」
「日雇いしてるんだ。連絡先知っててもおかしくないだろ?」
「…それもそっか。」
ヘルメット団のことはヘルメット団に聞くのが手っ取り早い。
そのネイトの考えは間違っておらず答えはすぐにわかった。
「…こいつらゲヘナが縄張りの『カクカクヘルメット団』だと。」
「げ、ゲヘナのヘルメット団がなんで…!?」
セリカが驚愕するのも無理はない。
学校には『学区』と言う自治領があるようにヘルメット団にも派閥ごとの『縄張り』が存在する。
他所の縄張り内で活動することは普通しない。
最早彼女たちには不文律のような掟だ。
だが…それが今夜破られた。
「…どうやらヘルメット団もこの襲撃は聞いてないらしい。これから上層部による話し合いが始まるってさ。」
「一体何がどうなってんのよ…。」
「どうなってると言えば…あれだな。」
そうネイトが視線を向けた先にあったのはボロボロになったFlak41改だ。
明らかにそんじょそこらの不良の徒党が持ってていい代物ではない。
「…セリカ、ともかく君を家に送ろう。」
「ネイトさんはどうするの?」
「君を家に送り届けてからあれをアビドス高校に持ち帰る。Pip-Boyのクラフト収納を使えば楽勝だ。」
「分かったわ。じゃあ急ぎましょう。いない間に連中が回収しちゃたまんないわ。」
そうして、ネイトとセリカは駆け足で彼女の家へと向かった。
…そんな激戦の後に…
「わぁ…!二人で皆倒しちゃったよ…!?大砲まであっち持ってたのに…!」
「あの早撃ち…あのままやりあってたらやられてたのはこっちだったね…!」
「は、発射された砲弾を撃ち抜くなんて…!そんなことできるんですか…!?」
物陰からひょっこり現れた便利屋68の面々。
先ほどのネイトの戦いぶりに驚愕するばかりだ。
一瞬で6人撃ち抜いた早撃ちに砲弾を撃ち抜く射撃精度。
キヴォトス広しとはいえ…これだけの芸当ができるものは何人いようか?
そんなネイトの実力に絶句する三人だが…
「………。」
「…アルちゃん?」
「ッ!な、何ムツキ!?」
まるで熱に浮かされたようにボォッとするアルがムツキに声を掛けられ我に返る。
「大丈夫?さっきのネイトさんが怖かったの?」
「そ、そんなんじゃないわ!むしろカイザーに渡す情報が増えて大助かりよ!」
「そう?ならいいけど…。いやぁ、ホントに大変な人を調べさせられちゃったねぇ…。」
「ともかく…明日からあの人の下で働くから少し覚悟しなきゃね。」
「だ、大丈夫です!きっとネイト様は戦い以外だとあのラーメン屋での姿が…!」
「…今はともかく帰りましょう。明日から任務本格始動よ!」
『おー!』
アルの気合を入れる声に全員腕を上げ答える。
この場に残っていてはネイトに色々質されるかもしれない。
…いや、すでに気付いているだろう。
ともかく、今出会うと面倒なことになりそうなのでアル達は退散することに。
そんな中…
(アレが本物の…。)
視線だけをネイトが立ち去った方向に向けアルは何かを思案していたのだった。
「夢を見るのもけっこうだ。ただし、目を開けて見ろ。」
―――映画『豹/ジャガー』(1968)のセリフ