―――小説『がばいばあちゃんの勇気がわく50の言葉』より
便利屋68の来訪とセリカへの他学区のヘルメット団襲撃と言う濃密な夜が明けた翌日早朝。
「さぁ!今日からW.G.T.C.への潜入任務、気合入れていくわよ!」
「は、はいっ!私も精いっぱい頑張ります、アル様!」
「おぉ~。朝から張り切ってるねぇ、アルちゃん。」
「もうバレてるから変に構えなくていいのは楽だね。」
ひょんなことからW.G.T.C.で一週間働くことになったアル達便利屋68。
昨日、帰り際にネイトから渡された作業服を着こんでアビドス高校へ向かっている。
任務ついでにお給料も出るのだ、これほど良い潜入任務はない。
と、
「それに…。」
表情を少々変えアルがそう呟く。
「どうかしたの、アルちゃん?」
それに気付いたムツキが不思議そうに尋ねるも、
「…いいえ、何でもないわ。さぁて、便利屋68としてプロの仕事と言うものをネイト社長に…!」
すぐに普段の自信満々な表情に戻りアビドス高校の校門を超えた。
その時、
『すんませんでしたあああああ!』
「ひょえ!!?」
「な、なんですか!?」
突如として響く謝罪の声。
何事かとそちらを見ると…
「そ、その!昨日のことは本当にうち等も何も知らなくて!」
「よその連中が他の縄張りで何かやるのはうちでもご法度なんす!」
「で、ですからどうか!どうか真相が分かるまで待ってもらえないすっか!」
30人ほどのカタカタヘルメット団の面々がネイトに向け頭を下げているではないか。
「………。」
一方、ネイトはそれを無言で見据え他の生徒たちも少々遠巻きで眺めている。
「あ…!」
「まさか昨日の…。」
アル達はすぐに納得がいった
昨晩、セリカを攫うために襲撃してきた『カクカクヘルメット団』。
生徒一人攫うために戦車すら撃ち抜ける対空砲まで準備する徹底ぶり。
幸いネイトがいたおかげで撃退することができたが…生きた心地がしないのはカタカタヘルメット団だ。
この半年、度々行われてきたアビドス高校襲撃でネイトの強さと戦いにおける容赦のなさは嫌と言うほど味わい尽くしている。
もしこの件でネイトがブチ切れて…『アレ』を着て報復を仕掛けて来れば?
言うまでもない最悪の結末になるのはカタカタヘルメット団全員がすでに分かっている。
しかも、そんな自分たちにこうして仕事を与えてくれ給料だけでなく食事の面倒まで見てくれている。
そんなネイトにもし見限られたら…。
それが…彼女たちにはたまらなく恐ろしく感じるようになっていた。
「…一つ聞く、本当にアレは他所の連中が勝手にやったことなんだな?」
頭を下げ続ける彼女たちにネイトは短く尋ねる。
「あ、あぁ!それは本当っす!」
「何ならうちの倉庫見てもらっても構わねぇ!」
「Flak41改なんて代物、うちにゃ買えないんす!」
顔を上げその質問に口々に答えていくカタカタヘルメット団。
その答えを聞いて、
「…分かった。じゃあ何か分かったら教えてくれ。さぁ朝礼を始めるぞ。」
短くそれだけ言い、ネイトはいつものように朝礼台へと向かっていく。
「…え?」
あまりにもあっさりしたネイトの対応に思わず呆けたような声を漏らすカタカタヘルメット団。
その声が聞こえたのか、
「…いろいろあったが半年以上こうやって一緒に過ごしてきたんだ。嘘を言ってるかどうか位なら分かるつもりだ。だからそれ以上頭を下げるな。」
振り返ることなく立ち止まりそう答えるネイト。
『…ありがとうございます!!!』
その背中にヘルメット団からの感謝の言葉を受け再び歩みだし朝礼台へ向かっていると…
「ん?おぉ来たか、便利屋68!」
「え、えぇ!今日から一週間、社員ともどもお世話になるわね!」
校門のそばに来ていた便利屋に気付いて挨拶する。
「じゃあ、そこに並んでくれ。作業の分配して体操したら出発だ。」
「はーい♪よろしくね、ネイトのおじ様♪」
「せっ精いっぱい頑張ります、ネイト様!」
「しっかり働かせてもらうよ、ネイト社長。」
こうして、少々普段と違うこともあったが便利屋も交えW.G.T.C.の一日が始まった。
さて、個性豊かな便利屋の面々。
ここで各々の活躍を簡単ながら紹介していこう。
まず『室長』浅黄ムツキ。
「ふんふんふ~ん♪…はい、外れたよ♪もってっちゃってぇ♪」
「すげぇ…クーラーってあんな簡単に外れるんだ…。」
便利屋の中でも『爆発物』、事『IED』などの運用が得意な彼女。
それに用いるため『工作』なども得意で手先が非常に器用なのだ。
ネイトはそんな彼女に解体予定の廃墟への先遣隊に編入。
普段は時間のかかるクーラーの取り外しや…
「えぇッと…ここをこうして…っと。やった、かかったよぉ!」
「おぉ~…。」
「親分並みに手先器用な奴初めて見た…。」
「でも、学校まで位しか動かないから早く持ってちゃって♪」
応急的ながらも廃棄車両を即興で修理、自走させることで運搬を容易にさせるなど裏方で大活躍。
かと思ったら、
「砂が噛んでるなぁ。コンプレッサー持ってきてぇ!」
W.G.T.C.の主要事業である『家電修理』の作業場にも出向。
ここも日夜、廃墟から持ち出したり住民からの修理依頼の家電が途切れなく運び込まれいつも忙しくみなが働いている。
作業員もネイトの元で半年以上腕を磨いてきた者たちばかりだが…
「ほいッと、いっちょ上がりぃ!」
「洗濯機ってあんなに早く直せるっけ…!?」
「イヤ…アヤネの姐さんでもあそこまで早いか…。」
そんな彼らをして舌を巻くほどの修理速度でどんどん家電を修理していく。
と、他の隊員が話していたように…
「ほら、ここの部品が腐食してるとこういう不具合が出るんだよ。」
「なるほど…じゃあ部品丸ごと交換じゃなくて腐食を落とせば…。」
「そうそう、飲み込み早いじゃん♪さすがメガネっ娘ちゃん♪」
「め、メガネっ娘ちゃんって…。あ、でもここの不具合はこうすればいいとネイトさんが…。」
「おぉ…なるほど…。さすがは元本職のエンジニア…!」
ここにはアヤネもよく作業に参加するので彼女とも技術交流を兼ねて合同修理なども行い共に技術を向上していった。
「いやぁ!こうやって得意なこと活かせるっていい職場だね♪」
汗やオイル、埃でその可愛い顔は汚れているもののその顔はとても楽しそうだ。
続いて『課長』鬼方カヨコ。
便利屋68最年長かつ最も常識人な彼女が任されたのは…
「…うん、いい感じだね。」
割烹着を着込み、解体現場の飯場に立ち昼食の準備に勤しんでいた。
食費がないときは雑草まで食べるという非常に貧しい便利屋の食卓事情。
だが、これは本当に食費がないときの非常手段だ。
…その非常手段をとらなければならないことが多すぎることには目をつぶって。
普段まだ懐に余裕があるときは便利屋メンバーで持ち回りで料理しているので全員それなりに料理はできる。
その中でもアルが言うにはカヨコが一番料理上手なのだという。
なので、ネイトはカヨコを調理係に任命。
人数も増え調理する量も増えたが、
「カヨコさん、牛肉のスライスが終わりました。」
「分かったよ。じゃあ玉ねぎと一緒に鉄板で炒めておいて。臭み消しにショウガも入れてね。」
「分かりました。」
「じゃあ私は今のうちに煮込み用の調味料を作っておきますね。」
「よろしく。…ロボットのコックさんっていうのもホント面白いね、この会社。」
周りには以前からほぼ倍増しているMr,ハンディのコックがせわしなく動き回っている。
彼らもその三本のアームを巧みに操り常人よりも効率よく料理を作っていく。
「さて、厨房を任せられてるんだから私も頑張らないと。」
と言うことでカヨコも腕を振るって調理を行う。
外は暑く皆汗をかきながら働いているので、
「昨日は豚汁みたいだったし…今日はスープにしようかな。」
塩分補給も兼ねて汁物はスープにすることに。
出汁は…
「大量買いするからこういうのもあるのも助かるね。」
先ほどスライスした牛肉がついていた牛骨。
それを水から煮込み沸騰したらザルにあげ水で洗う。
それを臭み消し用のネギやニンニクなどと一緒に巨大な圧力鍋に放り込み煮込む。
「今のうちに付け併せもつくっちゃおうか。」
圧が抜けるまでの間にカヨコは白菜や人参を刻んでポリ袋に放り込み浅漬けの素と細切りした昆布や鷹の爪を入れ冷蔵庫にしまい込んだ。
「ふぅ~こんな大量に作ることなんかないんだけど…いい経験だね。」
額の汗をぬぐい水を飲みながらもカヨコは充実感に満ちた表情を浮かべていた。
次に『平社員』の伊草ハルカ。
彼女もムツキのように爆発物に精通した便利屋メンバーだが…
「えぇッと…柱の配置がこうで壁の材質が…。」
今は一人離れたアビドス廃墟群の中でも高層ビルが立ち並ぶエリアに派遣。
ヘルメットをかぶり何やら廃墟の高層ビル内に入りタブレットに様々な情報を打ち込みながら見て回り…
「ほ、ホントにこんなに『ダイナマイト』使っていいんですか…!?」
「あぁ、全部ウチ持ちだ。好きなだけ使ってくれ。」
「こ、こんなに好きに使えるのなんて初めてです…!」
「但し『スマート』に決めてくれよ、ハルカ?」
「は、はい!頑張ります!スマートにフッ飛ばします!」
ネイトが用意したのは…大量の『ダイナマイト』。
「そ、そこの柱には少し多めにお願いします…!」
「あいよ。」
「あ、あと穴は水のチューブで塞いでください…!」
それを他の隊員とともに計算してはじき出した量を柱や壁に慎重に仕掛けていく。
爆発物を扱うので慎重に慎重を期し設置には3時間はかかった。
設置完了後は全員ビルから結構な距離をとり…
「警報鳴らせ!」
ネイトの指示で手回し式のサイレンが鳴らされ周囲に響き渡る。
30秒ほど鳴らした後、
「ハルカ、やってくれ。」
「は、はいっ!あのビル、消しちゃいます!」
ハルカが電気式の起爆装置を起動。
次の瞬間、ビルの各所から爆発音が響き…ビルがまるで空き缶のように縦に潰れた。
「おぉ―!すっげぇペシャンてなったぞ、ペシャンって!」
「破片もほぼ飛び散ってない!こりゃ掃除が楽だな!」
周りにいた生徒たちもこれには大興奮。
「…経験があるのか?」
ネイともビルが粉塵が立ち上るビルの跡を眺めつつハルカに問いかける
「い、いえ!爆薬は扱いなれてますけどこういうのは初めてで!」
「そうか…。」
そのハルカの答えを聞きそう短く返す。
「も、もしかしてへたくそでしたか!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!こ、今度は私が消え…!」
ハルカはそんなネイトが怒っているかと思い何度も謝るが…
「…見事、いいものを見せてもらった。」
「ふぇ…?」
「初めてとは思えない腕前だ。これはきっと天性のものだな。」
そう、初挑戦とは思えない彼女の発破技術の高さを称賛し、
「よくやってくれた、ハルカ。また次もスマートな発破を頼んだぞ。」
彼女の肩に手を置き、次の仕事への期待を伝えた。
「は、はいっ!次はもっと『スマート』にやって見せます、ネイト様!」
「その意気だ。よし、重機班に連絡!あれ一棟で5000万以上の高額案件だ!気合入れていくぞ!」
『オオオオオオオオオ!!!』
久しぶりの大物に生徒たちも興奮、気合を入れて一斉に動き始めた。
(わ、私の技術で皆さんが…!)
そんな光景にハルカは今まで感じたことのない高揚感を感じていたのであった。
さて、ネイトは現在発破解体現場で監督を務めている。
では、普段の現場は誰が仕切っているというのか?
「アル監督、作業中だった家屋の解体終わりました。」
「わ、分かったわ!じゃあ、ヘッドを変えて今度は廃材の積み込みよろしくね!」
「了解っす。」
「アル監督!業務用の冷蔵庫が見つかりました!」
「でかしたわ!手隙の人を回すから慎重に運び出してちょうだい!」
「か、監督!解体予定の家屋から宝石や貴金属が!」
「えぇーッ!?ほ、保管して調査部に連絡!元の家主を調べて連絡して!」
そう、便利屋68社長『陸八魔アル』がネイト不在の間の現場監督を任せられていた。
ご丁寧に『現場監督』の腕章をつけている。
発破解体現場にそこそこの人数が割かれているもののそれでもかなりの人数を任せられている。
普段は部下三人なのにいきなりこんな大所帯を任せられててんやわんやだが…
「空きの解体用の重機がこれくらいで予定工期がこれくらいだから…。」
手元の地図とここにある機材数、工期などの表とにらめっこし…
「…よし、午後の作業からは少し解体速度を落として先に内検と内装解体を重点的にやりましょう。」
「いいんすか?少し作業に遅れが生じるんじゃ…。」
「今日は発破のほうに少しもってかれて普段より少ないのよ。」
「あぁ、そういえばアニキたち、初めて高層ビル街のほうに行ってるっすね。」
「だから無理して解体を進めるより今日は下ごしらえを進めましょう。向こうが終わったらここを一気に片付けるわよ!」
「うっす、みんなに伝えてきます!」
少ない人数を効率よく分配し、作業を自分なりに効率的に進めていく。
そして…
「…と言う感じで午後の作業を進めていくつもりだけどどうかしら、ネイト社長?」
《あぁ、そんな感じで進めてもらって構わない。》
ある程度の作業工程が決まったらネイトにも無線で報告の連絡をし相談。
ネイトもアルの報告を受け承諾。
《遅れがでそうなら追加で重機の輸送をそちらの判断でやってくれ。》
「…いいの?外様の私にそんな裁量を与えて?」
《俺は任せられる奴にしか仕事は任せない。こういえば満足か?》
「…フフッ、分かったわ。その信頼を裏切らない様に頑張らせて…!」
ネイトのその言葉に気をよくしたのか決め顔でそう答えていると…
「うぎゃああああああ!!!ゴキブリの群れぇぇぇぇー!」
「誰だよ、生ごみそのままにして引っ越したやつううううう!」
「服に入ったあああああああ!誰か取ってええええええ!」
先に内検に向かわせた家から飛び出してくる作業員たち。
《…殺虫剤の散布機と防護服ならバスに積んである。頑張れ、アル現場監督。》
そう言い、ネイトは無線を切った。
最後の一言からして…この事態の対応は彼女の仕事らしい。
「なななな、なっ、なんですってええええ!!?」
表情が一気に崩れ白目をむいたアルの絶叫が現場に響き渡った。
その後、
「いぃやああああああ!!!」
防護服を着こんで廃墟に乗り込み悲鳴を上げながら殺虫剤をぶちまける彼女なのであった。
とまぁ、こんな感じで各々の分野で頑張っている便利屋メンバー。
時間は正午になり、
「ハルカちゃぁん、初めてのビル発破はどうだった?」
「は、はい!ネイト様やみなさんに誉めてもらいました!」
「おぉ、ビルを丸ごとフッ飛ばさなかったんだ。やるじゃない、ハルカ。」
「ふぇぇぇぇ…もうあんな部屋は入りたくないわぁぁぁぁ…。」
「へばってないで早く食っちまえ、アル。牛丼だけじゃなくてカヨコのスープや浅漬けも旨いぞ。」
「フフッ。ありがとね、ネイト社長。」
現場作業員は一堂に会し、本日の昼食の『牛丼』、『牛骨のカキタマワカメスープ』、『浅漬け』というシンプルながらがっつり食べられるメニューに舌鼓を打っていた。
「…昨日も見てたけど、ネイト社長も同じメニュー食べてるのね。」
アルはそう疑問に思った。
昨晩もそうだが、ネイト自身も結構裕福な部類の人だ。
だが、その食生活は非常に質素な物。
昼食もいつも飯場で出来上がったものをみんなと食べている。
普通の社長ならもう少し豪勢な物を食べてもおかしくはないのだが…。
そんなアルに対し、
「こうやって仲間と食う食卓以外、何がいるってんだ?」
牛丼をかき込みながら短く答えるネイト。
「…はぁぁぁ私もまだまだなのね…。」
「そこは個人の主義思想だから俺には何とも言えん。だが、『同じ釜の飯を食う』っていう言葉は俺は好きだぞ。」
「…そうね。たとえ贅を尽くしたご馳走でも…一緒に食べる人がいないと寂しいものね。」
「そういうのは俺は嫌だな。」
「…じゃあ、私も早く食べちゃいましょ!午後もビシバシ働くわよぉー!」
そんな会話をネイトと交わしつつアルも昼食を食べ進めていくのであった。
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そんなこんなで様々な経験をしつつ便利屋68のW.G.T.C.潜入任務は続いていき…
「え、戦闘教練ですって?」
「あぁ、週一で生徒全員の戦闘教練をやってるんだ。参加するか?」
最終日前日、ネイトからこんなお誘いがあった。
この日、通常業務は休みで毎週恒例の戦闘教練が行われる。
「ネイトのおじ様も出るの?」
「言い忘れてたが俺はこの社の全部隊総代で総指揮官だぞ?当然俺も出るさ。」
「へぇ、ネイト社長直々に鍛えてるんだ。」
「と言うか、生徒全員俺が鍛え上げた。見くびってると足をすくわれるぞ。」
「そ、そんなに皆さん強いんですか…!?」
「サンクトゥムタワーの騒動の時、俺達だけでアビドスに襲撃してきた不良共を返り討ちにしたと言ったらどれほどか分かるか?」
「あれだけの人数でアビドスを守り切ったですって…!?」
「で、どうする?参加するのなら装備を整えて集合してくれ。」
確かに自分たちを狙った隊員たちの練度の高さは推して知るべしといったところだ。
だが、彼らが標準と聞かされると…
「…分かったわ。せっかくだから参加させてもらおうかしら。」
「んじゃ、私も参加させてもらうねぇ♪おじさまの実力ももっと見たいしぃ♪」
「ここまでオープンな調査対象ってのも珍しいね…。まぁ腕試しにはいいかな。」
「わ、私も頑張ってネイト様の訓練についていきます!」
やはりキヴォトス人、『強さ』と言うものにはかなり関心があるようだ。
「よし、じゃあ全員参加だな。せっかくだ、便利屋メンバーとアビドス高校生徒で模擬戦やってみるか。」
「あら?この前はへましたけど私たち結構やるわよ?」
「安心しろ。ふさわしい相手はすでに見繕っている。」
そう言うことで便利屋68も戦闘教練に参加することが決定。
そして、模擬戦相手と言うのが…
「やぁやぁ、今日はよろしくね。便利屋の皆ぁ~。」
「ん…アル達と戦うの楽しみ。全力で行くよ。」
「負けませんよぉ~♪私達だって強いんですからぁ~♪」
「やるからには全力で行かせてもらうわよ!覚悟してよね!」
「お互い実りある模擬戦をしましょうね。」
(ななななっ、な、なんですってええええ!!?)
アビドス高校で文句なしの『最強部隊』、アビドス廃校対策委員会全員だ。
「あ、ちなみにあっちの司令官は先生だ。」
「今日は胸を借りるつもりで精いっぱいやらせていただきます。」
「…マジ?」
「これは…手強い…で済ませていいの?」
「あ、あわわわ!」
しかも指揮官がシャーレの先生。
僅か四人、しかも寄せ集めのメンバーを指揮し暴動状態のD.U.を突破したという逸話はアル達も聞き及んでいる。
おそらく…アビドス高校で組みうる最強のカードがあちらに集結しているだろう。
「カードは先生率いるアビドス廃校対策委員会、俺が前線指揮する便利屋68。ルールは敵拠点占領を想定した遭遇戦。武装は…各員の主武装以外は拳銃とナイフくらいでどうだ?」
「勝利条件は?」
「敵勢力の全滅、もしくは敵拠点の占領でどうだ?」
「それで異存はありません。…アレは使いませんよね、ネイトさん?」
「使うと訓練にならないからな。武装も普通のを使わせてもらう。」
「分かりました。…全力をもってあたらせてもらいます。」
指揮官同士のルールの取り決めも終わり互いの開始地点へと向かうネイトと便利屋68。
「だっ大丈夫なの、ネイトさん!?あ、あの子たちだけでも強いはずなのに先生まで向こうに付いちゃって!?」
「勝てないとは言えないが相当きついな。だがアル、アウトローなら逆境が燃えるだろ?」
「だろうねぇ…。なんてたって、ネイトのおじ様の秘蔵っ子でしょ?」
「しかも、全員W.G.T.C.各部隊の長だ。まぐれはないと思え、ムツキ。」
「…ひょっとして訓練にかこつけてリンチしようだなんて思ってないよね、社長?」
「だったら俺がこっちにいることがおかしいだろ、カヨコ?しかも前線指揮官で。」
「わ、私お役に立てますかね!?め、命令とあらば爆弾を括りつけてあちらに…!」
「滅多なことを言うもんじゃない、ハルカ。『カミカゼ』なんか絶対俺は許さないぞ。」
そんな言葉を交わしつつ開始地点へと向かうネイトたち。
「…そういえば一つ気になったんだけど。」
「なんだ?」
「あの…ホシノだったかしら?もう大丈夫なの?」
そんな中、アルはホシノの状態をネイトに尋ねる。
数日前、柴関ラーメンで出会った際幼児退行までしていた彼女だ。
先ほど見たときは割と普通に見えたが…
「あぁ…それね…。」
ネイトはそう言い、遠い目をしながら答える。
結局あれから二日ほどホシノはデロッデロのクッズクズの幼児退行状態だった。
『やり過ぎた』、反省した対策委員会メンバーはネイトに相談。
そして
『………ネイトさぁん、だっこ。』
『『『『『…え?』』』』』
『ホシノのことだっこしてくれなきゃヤぁぁぁ…!』
『あぁーッ!分かった、抱っこだな!もちろんいいぞ!』
話を聞きに行ったら開口一番にホシノに涙目で抱っこをねだられ
『あのね…あのね…みんながね…ホシノのことをいじめるの…。』
『大丈夫、皆ホシノのことをいじめたりしないさ。』
「でも…ホシノがネイトさんとおやすみしたことを…。』
『みんな、君が羨ましいのさ。ホシノが一等賞だったんだからな。』
『…うへへへ~、そっかぁ。ホシノがいっとうしょうだったからかぁ~…。』
…こんな感じで一時間ほどお喋りして何とかホシノのメンタルは通常状態まで復活した。
つまり一時間、ずっとホシノに抱き着かれっぱなしだったので…
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(そんな目で見るなら最初っから茶化したりすんなよ!!!)
射抜くというか…もう目からレーザーでも撃たんばかりの目力で四人にずっと睨まれながらだったので逆にネイトの精神はすり減ったのであった。
「…まぁともかく、今のホシノは元通りだ。警戒し過ぎてしすぎなことはない。」
「…大変なんだね、ネイトのおじ様も…。」
「今度ウチに来なよ…。御もてなしはできないけど話は聞くからさ…。」
「で、でも抱っこだけでホシノさんを回復させたネイト様、さすがです!」
とまぁそんな感じで語らいながら一行は自陣に到着。
「ハンドガンは色々ある。好きなのを選んでくれ。」
「う~ん…私はいいかなぁ。」
「私も二丁拳銃とか柄じゃないし。」
「あ、ありがたいですけど私も爆薬などがあるので…。」
ムツキ、カヨコ、ハルカは拳銃の武装はパス。
一方…
「…。」
アルはある拳銃をジィッと見つめていた。
それは…あの日ネイトの腰に下がっていたウェスタンリボルバーだ。
すると…
「こういう戦闘だとリボルバーはあまりお勧めしないぞ、アル。」
「え!?」
「あの時みたいな早撃ちは条件がそろわなければ俺もしないしな。」
「き、気付いていたのね…。」
ネイトが銃の選択にアドバイスをする。
「だが、スナイパーなら護身用に拳銃を持っておくのは大いにアリな選択肢だ。」
「そ、そう!…じゃあ、ネイト社長!何かおすすめはあるかしら!?」
「おすすめか?…個人的にはこれだな。」
そう言い、ネイトがアルに差し出したのは…
「…見たことない拳銃だけどこれは?」
「『N99 10mmピストル』、俺がいた軍での正式採用拳銃だ。」
軍在役時代だけでなく戦後でもお世話になった拳銃『N9910㎜ピストル』だ。
「使用弾薬は10㎜…つまるところ『40S&W』。反動と威力と装填数のバランスがいい。ガス圧利用方式だから精度も十分だ。」
「キヴォトスじゃ珍しい弾薬を使うのね…。」
「コイツの売りはカスタマイズパーツが豊富な点だ。マガジン、レシーバー、マズルデバイス、グリップ、モジュール、ユーザーの好みに合わせて組み替えることができる。マシンピストル化だって可能だ。」
「へぇ、そんなに自在なカスタムができる拳銃はなかなかないねぇ。」
「要望があればこの場でカスタムするぞ。どうする?」
「…気に入ったわ、ネイト社長。その銃を使わせてもらおうかしら。」
アルもネイトのプレゼンが気に入ったかN99ピストルを受け取る。
「ついでだ。全員の銃もカスタムしておくか?」
「良いの?言っとくけど先立つものがないよ、ウチ?」
「週雇いとはいえ今はうちの社員だ。社割扱いで格安にしとくよ。」
「あぁ!ありがとうございますありがとうございます!」
少しでも不利を埋めるために便利屋メンバーの得物のカスタムも行うことに。
「…凄いわね、フィット感は変わらないのに精度と反動の低さが段違いだわ…!」
アルの『ワインレッド・アドマイアー』は『トゥルーレシーバ』、『トゥルーロングバレル』、『トゥルーストック』、『パーフォレイトマガジン』、『コンペンセイター』という精度と反動軽減を重視したカスタム。
スコープは普段使いの物が慣れているらしいので据え置き。
「わぁ!すっごい使いやすいしリロードがスッゴい楽!!こんなに違うんだ!」
ムツキの『トリックオアトリック』には『フォーカスオートレシーバー』、『ポーテッドバレル』、『反動吸収ストック』、『クイックイジェクトドラムマガジン』、『リフレックスサイト』、『マズルブレーキ』、近接時の取り回しを考え反動と装填速度の向上を主としたカスタム。
「…うん、いい威力と精度。気に入ったよ、ネイト社長。」
カヨコの『デモンズロア』は『ヴィシャスレシーバー』、『トゥルーショートバレル』、『トゥルーグリップ』、『パーフォレイトマガジン』、威力向上と腰だめで撃っても十分な精度を得られるカスタムに。
「…どうだ、なかなかいい発想だろ?」
「面白いこと考えるね、ネイト社長。使わせてもらうよ。」
そして、『デモンズロア』の特徴を引き出すマズルデバイスをネイトは即興で作成し提供した。
「あ、あわわわわ!わ、私の銃までこんなに立派に…!」
ハルカの『ブローアウェイ』は『スナッピーレシーバー』、『安定化ミディアムバレル』、『フォースフルストック』の腰だめ時の制度と反動、そして彼女の戦闘スタイル故バッシュダメージを向上するカスタマイズだ。
「って、ネイト社長のライフルもすっごいカスタムしてるわね…。」
「オッサンが若者に追いつくにはこれくらいの補助がいるんだよ。」
彼女たちの武装、そしてネイトも参加するため『軍用戦闘服』の上に愛用のコンバットアーマーを装備。
武装は『M4』のコンパクトカービンモデル、『パワフルオートレシーバー』、『反動吸収ストック』、『3倍ブースター付きリフレックスサイト』、『サプレッサー』、『60連マガジン』、そのほかレーザーサイト、フォアグリップと言うこれも徹底したカスタマイズ品だ。
これで便利屋メンバーにかけていた小銃手の役割も埋まる。
「さぁて行きますか。…度肝を抜いてやるぞ、新兵。」
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―――――――
―――
訓練場に鳴り響くサイレン、模擬戦開始の合図だ。
《よし、じゃあホシノを先頭にシロコ・アヤネ・セリカ・ノノミのポジションで進行。》
「了解。みんな、気合入れていくよぉ。」
先生率いるアビドス廃校対策委員会メンバーは進み始める。
普段から共に戦ってきたメンバーなので連携はばっちりだ。
(ネイトさんならおそらくカウンターで進撃してくるはず…。そこをノノミの弾幕とホシノの盾でカバーしつつ展開していけば…。)
先日の作戦行動から見て先生はネイトのスタイルは『攻撃は最大の防御』と分析。
正直言って獰猛さと冷酷さをマッチさせた攻めの姿勢は先生にはまねできない。
ならば、それを受け止めてカウンターを行うという防御重視の陣形だ。
(問題は便利屋の子達の戦闘スタイルがいまだ不明なこと…。そこをどうにか私の指揮で…。)
一抹の不安はあれどそれでも腹を決めて指揮に臨む先生。
…だが、
「…おかしいわね。気配が一切しないわ…。」
「ん…そろそろ向こうの拠点が見えてくる…。」
これと言ったアクションがないまま、ホシノ達はネイト陣営が拠点と定める建造物が見えてきた。
ここまで一発の銃声も鳴り響いておらずネイトたちの影も形もない。
「…先生、どうしますかぁ?」
「このまま進軍してもいいのでしょうか?」
《…うん、だけどより警戒を厳重に…。》
予想が外れたこともそうだがこの状況はあまりにも不気味過ぎる。
それでも先生はより警戒を厳とし進行を指示。
…次の瞬間、
《アル、やれ。》
「フフッ、この距離で外すとでも?」
「きゃあ!?」
「ッ!?スナイパー!」
最後方のノノミが狙撃され赤い粉が舞い散る。
彼女は防弾エプロンなどで防御を固めているが…その間隙を縫うように肩への狙撃を叩きこまれ転倒。
ホシノ達は追撃を避けるためにすぐさま遮蔽に飛び込み身を隠す。
撃破には至らずともホシノ達と分断された。
「ノノミ先輩、大丈夫ですか!?」
すぐさまアヤネが救助に向かおうとするが、
「出ちゃダメです、アヤネちゃん!」
ノノミが彼女を引き留めたその時、彼女の眼前を弾丸が通過。
さらに牽制のためかノノミに当たらない距離に次々に弾丸が撃ち込まれる。
「制圧射撃要員を排除しての友釣りを狙った狙撃…!」
「ん…足止めされた…!もうネイトさん達は動き始めている…!」
「相変わらずやることがえげつないのよ。あの人…!」
《誰か狙撃地点は見えた!?》
「は、はい!制圧地点の手前の廃車が置いてある建物の屋上です!」
《よし、ホシノはスモークを投げて!煙幕展張後はノノミの救助と狙撃手の制圧!》
「分かったよ、先生!」
《シロコ、そこから迂回して狙撃地点の制圧!いけるね!?》
「ん…任せて。」
素早く先生は状況を総括、突撃部隊隊長でこの中で最も接近戦に秀でたシロコを矢面に立たせ現状の打破をもくろむ。
「スモーク!」
すぐさまホシノがスモークグレネードを投げ煙幕が周囲を覆い隠し、
「行って、シロコちゃん…!」
「ん…行ってくる。」
シロコが路地を潜り狙撃地点に向かい、
「セリカちゃん、今のうちに!」
「分かったわ!」
視界が効かないうちにセリカをノノミ救助に向かわせた。
…その時、耳を劈く大音響の鋭い発砲音が響き渡る。
「キャッ!?」
「うわッ!?」
「クゥッ!?」
反射的に耳を塞ぎ身を屈めてしまうホシノ・アヤネ・セリカ。
「位置が特定できた。ムツキ、遮蔽物の場所に制圧射撃。」
《おっけぇ、カヨコちゃん!》
次の瞬間、ホシノが身を隠す遮蔽物にムツキの制圧射撃が浴びせられる。
「こ、この!」
返す刀にセリカがその地点にカウンター狙撃。
「おぉっと!ヒィ…真正面からやりあうのは無茶だねぇ…。」
煙幕越しとは思えない正確な狙撃にムツキは身を隠し制圧射撃は打ち切られてしまう。
さすがはネイトが育てた生徒、彼女もおふざけなしにその実力を評価する。
だが、
《ムツキ、集束手榴弾行けるか!?》
「くふふふ、待ってましたぁ!」
ネイトからの指示でバッグの中からM24集束手りゅう弾を取り出し、
「いっくよ、おじ様ぁ!」
思い切り振り被り煙幕に向け投げ込む。
そこへ5,56mの弾幕が叩き込まれ…命中した手りゅう弾は空中で炸裂した。
(三人で包囲陣形…!?ノノミを分断して狙撃者排除のために人員を裂くことも読まれていた…!?)
先生はすぐさま、あえてノノミを無力化にとどめ狙撃手の存在をこちらに明かしたか理解した。
そして…
一方…
(今の爆発音は…!)
爆発音は気になりつつも自らに与えられた任務をこなすため進み続ける。
そして、ようやく目標としていた狙撃地点に到着。
チャンバーに初弾が装填されていることを確認しドアを蹴破り突入…だが、
《シロコ、用心して!!!そこには…!》
「ッ!?」
先生の警告の無線と同時だった。
シロコの眼前にあったのは…弁当箱ほどの直方体の物体。
「まずっ…!」
見覚えのあるシロコの身の毛がよだつが…
「く、クレイモア起爆…!!!」
死角に隠れていたハルカが起爆装置を押し込みクレイモアが起爆。
前方に鉄球代わりの赤いペイント弾がぶちまけられ…ドアの外には真っ赤になったWHITE FANG 465が転がっていた。
「やっやりました、ネイト様!シロコさんを…!」
思わぬ大金星か…そう浮足立ちネイトに報告するハルカだが…
《まだだ、ハルカ!!!そんなもんじゃシロコは…!》
「え…?」
返ってきたネイトの警告にそんな声を挙げた瞬間、
「ッ!!!」
「そ、そんなッ!」
再び、室内にシロコが突入。
体には僅か数滴しか赤いインクが付いておらず撃破判定に至っていない。
その手にはナイフと愛用のハンドガンが握られている。
「うッうわあああああ!死んで下さい死んで下さい死んで下さい!」
半ばパニックになりながらもハルカはブローアウェイを乱射。
しかしシロコは巧みなフットワークで銃口を回避、瞬く間に間合いを潰す。
「わぁぁっ!?」
それでもハルカは諦めずに接近戦のためにブローアウェイを振り被りシロコに殴りかかる。
「グゥッ!?」
その一撃をシロコはよけきれず右肩に命中、手からハンドガンが零れ落ちるも、
「捕まえた…!」
「ひっ!?」
ハルカの手を抑え込み動きを封じ、
「フン!」
「キャッ!!?」
足払いと手首のコントロールでの組み合わせでハルカを地面に投げ飛ばし、
「終わり…!」
左手をトントントンと首と胸を計三回突く。
これで撃破判定だ。
「じゃあね…!先生、ハルカを制圧した…!これから屋上に向かうね…!」
《よッよくやった、シロコ!》
「ひぅぅぅ…や、やっぱり私は役立たず…!」
こうしてシロコは屋上にいるアルの下へと向かった。
そして、場面は前線に戻る。
先の集束手りゅう弾の爆風の影響で煙幕は吹き飛ばされ視界は非常にクリアになっていた。
「さて…どうなったかな…?」
ムツキが物陰から戦果を確認する。
そこには…先ほど倒されたノノミが振り撒かれた真っ赤なパウダーに塗れていた。
「…ふ~ん、うまく避けられちゃっ…。」
ともかく一人撃破した、そう判断した瞬間だった。
倒れたノノミを押しのけ…
「…そこぉっ!!!」
「え…!?」
セリカが上半身を起こしムツキに狙いを定め、発砲。
「あだッ!?」
狙い澄まされたその一撃はムツキの顔面に直撃、撃破判定を受ける。
(まさか、あの子をかばった!?)
カヨコはすぐに思い至る。
あの一瞬、煙幕の中で戦闘能力を削られたノノミがまだ戦えるセリカをかばいパウダーを一身に浴びてかばったのだ。
勝利のために一瞬の逡巡なくそれを実行し、その思いにこたえる一撃。
(クゥッどんだけ鍛え上げたのさ、ネイト社長!)
改めて『ネイトが手頭からに鍛え上げた』と言うその意味を思い知るカヨコ。
だが、それでも…
「やられっぱなしは性に合わないんだよね…!」
カヨコは遮蔽から飛び出し素早く二発発砲。
その銃口には…例えるならラッパのようなマズルデバイスが装着されている。
『デビルズホルン』、『デモンズロア』の爆音の如き銃声に『指向性』を持たせより遠距離の敵まで怯ませるというサプレッサーとは真逆の効果を持つマズルデバイスだ。
二方向くらいならば連続して怯ませることが可能だ。
「クゥッ!!?」
「キャッ!?」
「ネイトさんの発明かなぁッ!?」
再び耳を劈く銃声にその身がわずかな間だが固まる三人。
その隙に、
「お返しだよ…!」
「あぐッ!?」
遮蔽物から突出していたセリカに向け発砲。
頭に一発、胸に二発の『コロラド撃ち』で撃破を捥ぎ取る。
そしてすぐさまホシノ達にも銃口を向けるが…
「クゥ!アヤネちゃん、援護!」
「は、はいっ!」
「チッ…!」
既に体勢を立て直したホシノが盾を構え防御の構えをとり、連射速度に優れた『インディペンス』を発射しカヨコをけん制。
《アヤネ、そのまま射撃を継続!ホシノは盾を構えて前進!》
「で、でもスナイパーが…!」
《すでにシロコが突入してハルカを制圧、そろそろ屋上に突入するから気にしないで!》
「信じるよ、先生!」
ホシノが盾を展開し、カヨコの隠れる遮蔽物へ前進。
「…ネイト社長、いける?」
《任せろ…!》
このままではやられるがそれでもカヨコは冷静にネイトに通信。
そして、ホシノとアヤネが遮蔽物から飛び出したその時…ホシノの背中に赤い光点が現れた。
「ッ!ホシノ先輩、危ない!」
「えっ!?」
咄嗟にその光点が自分にかぶるように身を乗り出しその光源を狙うアヤネだが…
「あうぅ!?」
「アヤネちゃん!!!」
反撃に間に合わず複数発の弾丸が着弾し、撃破判定。
「カヨコ!もう一発かませ!」
《了解…!》
なおもネイトはカヨコに指示を飛ばし大音響の銃声をホシノに浴びせるが…
「ごめん、アヤネちゃん!」
「えぇ!?」
その爆音に耐え撃破判定を食らったアヤネを引っ掴んでネイトからの射線をカバーしつつ前進。
そして…
「やぁ!」
「クゥ!?」
ホシノはカヨコの目の前に躍り出て、
「痛いけど勘弁ねぇ!」
「ぐフッ!?」
シールドバッシュでカヨコの体勢を崩し、
「とどめ!」
「かはっ!」
Eye of Horusを押し付けて発砲し、カヨコを撃破し、
「そこで休んでて、アヤネちゃん!」
すぐさまアヤネをカヨコの隣に座らせ背後に盾を構えた瞬間、数発の弾丸が襲い掛かる。
盾越しに見ると…そこにはこちらに狙いを定めるネイトが佇んでいた。
「…ハハッ、最後はやっぱり貴方か…!」
「フフッ、最後に残るのはやはり君か…!」
奇しくも二人とも同じような言葉を呟く。
ネイトとホシノ…アビドスの二大巨頭が今激突。
先に動いたのはネイトだった。
ホシノに対し左斜めにM4を連射しながらダッシュを開始。
それに対しホシノもEye of Horusを発砲するも…
(さすが…!盾の死角に潜り込んでくるなんて…!)
構える盾が逆にホシノの動きを阻害、銃撃を浴びているので防御を解くこともできず、
「フン!!!」
「ぐッ!」
ネイトは全体重をかけてホシノの盾にタックル。
いかに人間とキヴォトス人と言う隔絶した力の差はあろうとホシノは華奢な身体だ。
その衝撃は腕を痺れさせるには十分だ。
さらにネイトは盾に身体を押さえつけたままM4の銃口を盾の背後に回し込む。
「つぇあ!」
素早く反応したホシノ、左足と盾で銃身をロック。
これによって発砲された弾丸は宙を裂き飛翔。
お返しと言わんばかりに今度はホシノが腕を回しネイトにEye of Horusを構え発砲。
だがネイトも盾を抱え込むように密着、銃身の内側に潜り込み散弾を回避。
それだけではない。
すぐさま左手でEye of Horusの銃身を掴みM4を離して右手をフリーにし、
「ぜりゃあ!!!」
Eye of Horusごとホシノを引っこ抜く様に一本背負いの要領で投げを打つ。
「かはッ!?」
言ったようにホシノの体は華奢だ。
しかも左足の踏み込みがなかったこともあり地面に叩きつけられた。
そして、
「むん!」
「クゥッ!?」
ネイトは盾を踏み込みホシノの動きを抑え込み、弾切れのM4ではなく素早く右腰から10㎜ピストルを抜き取り足元のホシノに構える。
「まだまだっ!」
「ぐあ!?」
これでやられるホシノではなかった。
小さな体を盾の下で折り曲げ両足を一気に跳ね上げネイトの拘束から脱出。
ヘルメット越しとは言え盾をネイトに叩きつけ怯ませる。
「そこッ!」
跳ね起きたホシノはEye of Horusを構え発砲…するが、
「ぐッ!」
ネイトはすぐに自らに叩きつけられた盾の裏側のグリップを掴み構え散弾を防御する。
「す、凄い…!」
「相変わらず激しいですねぇ…。」
「なんて動きしてんのよ、二人とも…!?」
「アレがネイト社長の…!」
「やばいねぇ、おじ様もホシノちゃんも…!」
ほんの30秒にも満たない攻防だ。
だが、互いに一瞬でも判断を誤るとやられるという危険性を孕んだ高度な駆け引きを繰り広げていた。
周囲の撃破判定者たちも思わず見入っていた。
しかし、すぐさま状況は動く。
盾を構えたネイトがホシノに突撃。
なおもホシノはEye of Horusを連射するもその行き足は衰えず、
「ッ!クゥッ!」
チューブ内の弾丸をすべて吐き出しスライドがストップ。
お返しと言わんばかりにネイトも盾越しに10㎜ピストルを発砲するが、
「ッ!!!」
一切怖気ることなくホシノはEye of Horusをいったん手放しダッシュ、間合いを図りスライディングをし、
「のぉっ!?」
盾の下部ごとネイトの体を前につんのめらせる。
上下で場所が入れ替わりネイトも盾を手放し…
「ぐッ!?」
なんとか受け身をとり素早く体勢を立て直し、ホシノもほぼ同じタイミングで起き上がり…
「「ッ!!!」」
互いに最後の装備、『カトラス・ディサイプルズナイフ』と『ハンドアックス』を突きつけあった。
『…。』
そして、まるで示し合わせたかのように互いにゆっくり立ち上がりナイフファイトの構えをとるのであった。
そして、もう一つの激戦地でもこの時激しい戦いが繰り広げられていた。
「来てるわね…!」
アルはすでに唯一の屋上の入り口に向け『ワインレッド・アドマイアー』を構えていた。
彼女には…先ほどからまるでこの建物に猛獣が入り込んだようないやな気配がしてならない。
(おそらくハルカはもう撃破された…!問題は…相手がどれくらい損害を負ったかね…!)
狙撃していた時にも見ていたが…アビドス廃校対策委員会の実力は本物だ。
正直、今便利屋メンバーで正面からかち合うと勝負になるかどうか怪しい。
なんとか戦えているのはネイトの作戦と指揮があってこそだ。
ハルカの実力はそれこそ暴走気味なところがあるとはいえアルも認めるところ。
だが…ここに乗り込んできた生徒、砂狼シロコが正面切っての相手が務まるかと言うと…
(彼女のライフルは外に落ちっぱなし…。となると彼女の装備はハンドガンとナイフのみ…。)
それでもハルカの働きは無駄ではない。
WHITE FANG 465は無効化されている。
これが無かったら勝負にならなかったかもしれない。
(射程も精度も私が上…!一撃で決めるわよ、陸八魔アル…!)
シロコがそのドアを開けるのを今か今かと待ち構えるアル。
そして…その時は訪れた。
軋みを挙げて開かれるドア。
その奥に…こちらに向け駆けだそうとしているシロコが見えた。
(そこッ!)
淀みなくアルは発砲、弾丸はそのままシロコを捉え着弾。
…した瞬間、シロコの顔が罅だらけになった。
(か、鏡!?)
気付いた時にはすでにシロコはドアを開け放ち屋上に突入。
すぐにアルも次弾を放とうとするも…
「むん!!!」
「きゃあ!?」
シロコは自らのハンドガンをアルに投げつけ怯ませた隙にナイフを構え一気に間合いを詰める。
(ライフルじゃ間に合わない!だったら!)
長物故に素早いシロコには対処が難しいと瞬時に判断したアルは右腰に提げた10㎜ピストルを抜き放つ。
『グラスシルバー・ヴィジランス』、かつて銀のグラスを用いワインに毒が混ぜられていないかの用心をしていたことから由来しアルが名付けた。
『徹甲ハードオートレシーバー』、『ロングライトポーテッドバレル』、『安定化グリップ』、『大型クイックイジェクトマガジン』、『標準グロウサイト』、『コンペンセイター』、更にレーザーサイトと言う徹底したカスタマイズが施されている。
レーザーサイトで素早くシロコに照準を定め発砲。
「クッ!」
シロコも接近を断念、サイドに流れ10㎜弾の弾幕を回避。
隙ができたこともあってアルも素早く『ワインレッド・アドマイアー』を左手一本で構えさらに追撃。
だが…
「それなら…!」
それこそシロコが待っていた瞬間だった。
得意のフットワークで一気に逆サイドに逃げる。
「逃がさないわよ!」
アルもそれを追いかけるが…
「ッ!弾切れ…!」
『グラスシルバー・ヴィジランス』が弾切れ、残るは『ワインレッド・アドマイアー』のみだが…
(ダメ、追いつけない…!)
撃つ前から結果が見えていた。
先ほどのネイトのカスタマイズで確かに精度と反動制御こそ向上したものの逆に近接時の取り回し性能が若干低下。
そこをカバーするための『グラスシルバー・ヴィジランス』だったが、それも弾切れ。
ライフルでシロコを狙うか、一瞬のスキを突きハンドガンを装填するか…。
否、どちらも間に合わない。
どちらも実行しようとすればシロコがそれより早くナイフで襲い掛かってくる。
こうしているうちにシロコは方向転換しこちらに迫ってきている。
このまま彼女にCQCでやられるしかないのか?
(…いいえ、まだ私に…いえ私にしかできないことがあるわ!)
アルの脳裏にネイトの言葉が蘇る。
『一つ、狙うのは大物だけにしろ。二つ、一般人に愛されろ。三つ、自分が決めた『美学』は死んでも守れ。』
『真のアウトロー』への答えはまだ彼女には出せてはいない。
だが…それでも…
(仲間を守る…!これが…私の『美学』の一つよ!)
そう思い…アルは背中から宙にその身を投げ出した。
「えっ!?」
目前まで迫っていたシロコは思わぬ行動に固まる。
しかし、アルはやけを起こしていたわけではない。
落下しながら…『ワインレッド・アドマイアー』を構え狙いを定めていた。
スコープの先には…ハンドアックスを構えネイトと対峙するホシノの姿が。
(できる…!私になら…できるっ!)
あの日、ネイトは砲弾をリボルバーで撃ち落として見せた。
距離は近い、標的も大きい。
たとえ落下しながらでも…彼女の誇りをもって外すわけにはいかなかった。
狙い澄まされて放たれたワインレッド・アドマイアーの弾丸。
その弾丸は…
「あぐぅッ!!?」
ホシノの右手に命中、ハンドアックスを弾き飛ばし、
「うぐッ!?」
アルは下に止められていた廃車の屋根に落下した。
「ーッ!!!」
その好機をネイトは見逃さない。
力強い踏み込みで一気に間合いを殺し、斧を弾き飛ばされた相手の右手を左手でつかみ、
「フン!」
「わッ!?」
右手を添えてホシノを宙で一回転する勢いで一気に横に投げ飛ばし、
「ひゅっ!」
「…あ~あ。」
胸と首に頭の順に突かれ撃破判定。
アルの援護があったとはいえ…この勝負の勝者は『ネイト』となった。
そんな勝利の立役者のアルだが…
「いつつつ…!」
さすがは頑丈なキヴォトス人、痛がっているものの特に異常はないようで転がるように廃車の屋根から地面に降りた。
「はぁ…はぁ…。」
それでも痛いものは痛い。
息を切らせながらではあるが『シルバーグラス・・ヴィジランス』を再装填。
その時、廃車の上に響く衝撃音。
見上げるとそこには…
「…武器を捨てて。」
ナイフをこちらに向け突きつけるシロコがいた。
「…あら、優しいのね。そのまま攻撃を仕掛ければいいのに。」
「この状況なら私が速い。」
「…そうね。」
確かに、下手に動けばシロコのナイフが自分に突き立てられるほうが速いだろう。
だが…
「でも…『もっと速い』のが残ってるわよ?」
アルは勝利を確信したように不敵に笑って見せた。
次の瞬間、
「~ッ!!!?」
シロコに襲い掛かる5.56㎜弾の弾幕。
全身に叩きこまれ彼女の全身が真っ赤に染まった。
「ま、まさか…!」
シロコはそちらに視線を向ける。
そこには…
「………。」
3倍ブースターを起こしシロコに狙いを定めるネイトの姿があった。
《状況終了状況終了、勝者チームB》
訓練場内に鳴り響く終了のアナウンス。
「ふぅ~…。」
ネイトが深く息をついてアルに近づく。
なぜか右手を挙げて。
「フフッ…。」
アルも何かを察し右手を挙げてそれを待つ。
そして…二人は無言でハイタッチを交わし勝利を祝うのであった。
模擬戦結果
●小鳥遊ホシノ ネイト〇
●砂狼シロコ 陸八魔アル〇
●十六夜ノノミ VS 浅黄ムツキ●
●黒見セリカ 鬼方カヨコ●
●奥空アヤネ 伊草ハルカ●
無傷とはいかないまでも…このメンバー相手に大金星と言ってもいい結果だろう。
「…自分ができることをやり遂げる…。その自信こそが勝利の秘訣かぁ。」
先生は結果とそれまでの訓練の推移を分析しそう一人ごちるのであった。
練度の差を奇襲と人数差で埋め、各々ができることを最大限行い仲間を助ける。
ムツキの制圧射撃は部隊を分断し爆撃でノノミを排除。
カヨコは得物の特性を生かしホシノたちを足止めしセリカを確実に排除。
ハルカは敗れこそしたもののシロコの武器を奪い勝利までの大きな足掛かりとなった。
アルは狙撃手と言う己の役目を全うしホシノすら敗れる要因となった。
そしてネイトは…己の経験を活かし不利な戦力を補強し自らの技術でホシノと渡り合い執念で勝利をもぎ取った。
全員が一つの目標に突き進み、一つの生命体のように動き勝利をつかんだ。
「…なるほど…うん…ほんの少しだけ…分かったような気がします、ネイトさん。」
敗れこそしたものの…先生は何かに指をかけることが出来たような気がした。
その後…
「アルさん、狙撃上手ですねぇ。まさかエプロンの隙間を撃たれるとは思いもしませんでしたよ。」
「うへ~、落ちながら右手を狙い撃ちにされるなんて予想できなかったよぉ~。」
「えぇ、どんなもんよ!アウトローたるもの、狙った獲物は絶対に逃がさないわ!」」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッネイト様!わ、私シロコさんを倒せなくて!」
「いや。よくやった、ハルカ。シロコからライフルを奪ったんだ。大戦果だぞ。」
「ん…アレが無かったら確実に勝敗は変わっていたはず。」
「ねぇ、そのバッグの中なにが入ってるのよ…?」
「それは女の子の秘密だよぉ♪」
「なるほど…こんなモジュールもあるんですね…。」
「うん、使ってみたけど戦術の幅が広がりそうだよ。」
訓練に参加した全員が賑やかに各々活躍の称賛や反省会を行い訓練は終了。
こうして…多額の現金収入だけでなく大きな経験も得ることができた便利屋68の潜入任務は幕を閉じるのであった。
自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ。
―――株式会社リクルート創業者『江副 浩正』
私事ですが今作のネイトの外見と言うか誰似かと言うのが何となく決まりました。
アニメの先生がかなり甘いマスクだったので極力別ベクトルな感じにしようかなと思っていましたが…武術家で俳優の『スコット・アドキンス』の10年くらい前の姿みたいな感じだと御想像ください。