―――イタリア系アメリカンマフィア『マイケル・フランゼーゼ』
賑やかだった便利屋68の潜入調査も終え、普段の日常に戻ったアビドス高校。
そんな今日は…
「か、カイザーローンとお取引していただき毎度ありがとうございます…。」
毎月恒例のカイザーローンの返済金回収日だ。
「こ、今回の返済額…現金で1億4084万2752円、確かにお預かりしました…。」
相も変わらず…と言うか明らかに増額している返済額になぜか動揺しまくるカイザーローンの回収員。
「それで回収員さん、あとどのくらいで完済なんだったか?」
対照的にニンマリ顔の先生を除くアビドス対策委員会とネイトは借金の残高と完済予定を尋ねる。
「その…今回の返済で総額が…1億8924万8146円となりこのペースですと…完済まであと…1ヵ月か2ヶ月ほどかと思います…。」
「そっかぁ。回収員さんと会うのももう終わりかぁ♪」
「ん…会えなくなると思うと寂しいもんだね。」
「なんだかんだ私も半年以上も会ってるものね。」
「今まで長い間お世話になりましたぁ♪」
「ここに来なくなってもお元気で。」
そんなカイザーローンとの別れを惜しむ皮肉たっぷりの言葉を送り、
「で、ではまた来月伺います…。」
回収員は現金輸送車に乗って返っていった。
「ふへぇ~やっとゴールだねぇ。」
「す、凄い返済額だね…!あんな現金初めて見たよ…!」
「あぁ~、ここ半年で見慣れちゃったけど確かにそうね。」
「…本当にこの半年でアビドスって大変革したんだね。」
正直生きている中でも見ることが少ないであろう大金を目にして顔が引きつっている先生。
すると、
「ところで…カイザーローンはなぜ現金でしか返済を受け付けないのでしょう?」
いまさらながらノノミがそんな疑問を呈した。
「…あぁ確かに。毎度毎度あんな現金用意するのは大変だったから引き落としのほうが早いし楽なんだがなぁ。」
「え?ネイトさんも不審に思わなかったんですか?」
ネイトの意外な反応に先生もそう尋ねるも、
「いや、俺の国は給料とか返済は現金手渡しか小切手が基本だったし。そういうものかと…。」
そう、ネイトのいたアメリカは基本現金主義だった。
なので、カイザーローンが現金オンリーの返済でも特に不審には思わなかった。
「お国柄ですか。先生のところはどうだったんですか?」
「私のところも昔はそうだったらしいけど…とんでもない大金が輸送中に盗まれちゃってそこから振り込みが主流になったらしいね。」
「ん…先生、その現金輸送車ってどう襲われてた?」
「知ってどうする気?あの車は襲っちゃだめよ、シロコ先輩。」
「残念…。」
と、ここでいったんカイザーローンの話題は区切り一同は対策委員会室に戻り…
「それでは定例会議を始めたいと思います。」
何時ものように廃校対策委員会の定例会議が始まった。
「まずは先日、セリカちゃんとネイトさんを襲撃したカクカクヘルメット団が所有していた『Flak41改』ですが…。」
先日の一件で回収されたFlak41改はネイトに回収され徹底した調査が行われていた。
至近距離で砲弾が炸裂したせいでダメージはあったがそれでも分解して調べると色々分かった。
「やはり入手経路は『ブラックマーケット』経由だと判明しました。」
「かぁ~面倒なことやってくれたもんだ、カクカクヘルメット団。」
ネイトが天を仰ぎ愚痴るのも無理はない。
『ブラックマーケット』、キヴォトス内の条約で禁止されている違法な物品が流通し、連邦生徒会未認可の違法な部活なども多数存在する無法地帯だ。
だが、ここでしか出回らないレアものを求めてたまに一般生徒も出入りしているらしい。
「情報ではあの便利屋68もよく出入りしているそうです。」
「ん…アル達はアウトロー、別にあまり不思議じゃない。」
「でも、問題はアビドス外のヘルメット団があんなの入手してるのが問題よね。」
「うへ~、闇市場でもFlak41改なんてかなり値が張るはずだよねぇ~。」
「そんなものを生徒一人を誘拐するのに持ち出すなんて…気になりますね。」
出所は分かったが問題がある。
「でも、そんな場所だと外部に漏れる情報はかなり少ないだろうね…。」
「全員後ろ暗い事やってる場所だ。水漏れは徹底的に防ぐのはどこの世界も一緒だな。」
大人二人が語るように無法地帯と言うものはどういうわけか非常に情報の秘匿性の高い場所だ。
有名どころでは九龍城、存在そのものは有名だがその内実を知る人物は非常に少ない。
つまり、真っ当なやり方で外部から行う現在のやり方では調査には限界がある。
となると…
「よ~し決まりだねぇ。んじゃ、行ってみよ~!」
「外から見てわからなけりゃ飛び込むまでだな。」
やることは一つだ。
――――――――――――――
――――――――
―――
オペレーターのアヤネを除いた6人は一路、アビドス学区を飛び出し…
「ここがブラックマーケット…。」
「わぁ、凄い賑わいですねぇ…?」
件の無法地帯、『ブラックマーケット』を訪れていた。
無法地帯…という割には生徒やオートマタに獣人と言った大人の姿も見えてかなりの賑わいだ。
「なんだか初めてきた気がしないな、不思議なもんだ。」
この後ろ暗い賑わいにネイトはかつての連邦の空気を感じノスタルジーを感じていた。
「連邦でもこういうところがあったんですか、ネイトさん?」
「こういうところと言うか今の俺くらいの時はどこもかしこも無法地帯だったからな。」
「この前話してくれたグッドネイバーってところはどうなの?」
「あそこは逆にハンコックが仕切ってたからマーケットじゃ割とフェアトレードができたぞ。」
とネイトと先生にセリカがそんな連邦時代の話をしている一方、
「ん…小さな市場を想像してたけど街一つくらいの規模だなんて…。」
シロコはただただブラックマーケットの規模に圧倒されていた。
「連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化しているとは思わなかった。」
「そういうもんさ、シロコ。法律が厳重になればなるほど破る奴の旨味が増す。そんな連中があれよあれよと集まってこういうところが生まれるんだ。」
「うへ~、私たちはアビドス学区内ばっかにいるからねぇ。学区外は結構変な場所が多いんだよぉ。」
「ホシノ先輩、ここに来たことあるの?」
「いんやー、おじさんも初めてだねぇ。でも他の学区にはへんちくりんな物がたくさんあるんだってさぁ。ちょーデカい水族館もあるんだって!アクアリウムっていうの!今度行ってみたいなー。うへ、魚…お刺身…。」
「断っとくが水族館じゃスシは出ないぞ、ホシノ。」
そんな緊張感のかけらもない会話をしていると…
《皆さん、油断しないでください。そちらでは何が起こるか分からないんですよ。》
上空からドローンで警戒中のアヤネから通信が入る。
その時、突如として鳴り響く銃声。
「銃声だ。」
「街中で聞くのは久々だな。」
そんなことを言いつつネイトもコンバットライフルを何時でも構えられる準備をしていると前方から、
「待てっつってんだろ!!!」
「う、うワアアアアアア!!!まずっ、まずいですー!!!つ、ついてこないでくださぁぁぁぁい!!!」
「そうはいくか!」
「アタイ等に付き合えよ!」
「ふぇぇぇん!私のほうは特に用はないんですけどおおおお!」
スケバン三人に追いかけられている一人の女生徒が。
《あれ、あの制服は…?!》
アヤネがその制服から彼女の所属を導き出す…よりも早く、
「あれ?『P,P』?何してるんだ、こんなところで?」
『P.P?』
ネイトが彼女に声をかけた。
「ふぇ!?あ、ネイトさあああああああああん!!!」
その声に気付いたか、彼女は素早くネイトに駆け寄りその背後に隠れる。
「え?お知り合いなんですか、ネイトさん?」
「まぁ浅からぬ縁と言うかなんというか。P,P、大丈夫…なわけないか。」
そうこうしているうちに、
「アァン!?なんだよ、テメェら!?アタシらはそいつに用があるんだ!」
スケバンが追い付いてしまった。
「そいつはキヴォトス一金をもってるトリニティ総合学園の生徒!サクッと拉致って身代金をたんまり頂戴ってな!」
「拉致って交渉!なかなかの財テクだろ?くくくくっ!」
どうやらこのスケバンたちもあの日のカクカクヘルメット団のように彼女の誘拐が目的らしい。
「興味あるならお前らも乗るか?身代金の分け前は…。」
そんな誘拐行為にネイトたちも誘うが…
『『『がブァッ!!?』』』
「悪いな、知り合い攫われそうになって金で動くような性格じゃないんでね。」
「おぉ、相変わらずの早業。おじさんでも見逃しちゃうねぇ。」
パワーフィストを装着したネイトがV.A.T.S.で急襲、瞬く間に三人とも伸してしまった。
「…で、P,P。なぁんでトリニティの君がこんなところにいる?」
「あ、アハハハ…。」
ネイトが向き直り彼女に尋ねると困ったような表情を浮かべ誤魔化す。
「危ない所だったね。えぇっと…。」
「あ、ありがとうございました!私、『阿慈谷 ヒフミ』と申します!」
「ヒフミちゃんかぁ、よろしくねぇ。それでぇ、繰り返しになるけどなんでトリニティのお嬢様がどうしてこんなとこに?」
「あ、アハハハ…。」
ホシノに再度尋ねられ彼女『阿慈谷 ヒフミ」は笑ってごまかすも…
「どうせレアものの『ペロログッズ』探してぇとかそんなとこか、P,P?」
「うぐッ。」
ネイトの言葉に声が詰まる。
どうやら図星だったようだ。
「ペロロ?」
「は、はい!これです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定のぬいぐるみ!」
そう言うとヒフミはスマホの画面をみんなに見せる。
そこにはアイスを口にツッコまれた…お世辞にもあまり可愛くな…
…おっほん、独特の愛嬌のあるキャラクターの人形が映し出されていた。
「この人形、限定で100体しか作られていないグッズなんですよ。ね?可愛いでしょ?」
『…。』
正直反応に困る一行だが唯一…
「わぁ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよねぇ!」
ノノミだけが非常に好意的な反応を見せる。
「私はミスター・ニコライが好きなんです♪」
「分かります!ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて!」
「…いやぁ何の話だか、おじさんにはさっぱりだねぇ。」
「ネ、ネイトさん。彼女とお知り合いのようですが分かりますか…?」
「…彼女のグループとの付き合いで名前くらいなら分かるがそれっきりだ。」
と、話に完全に置いてけぼりを食らっているホシノや先生にネイトだが、
「ん…じゃあなんでヒフミとネイトさんは知り合いなの?」
シロコがそんな彼女をあだ名で呼ぶほど親しいのか尋ねる。
「それはですね!ネイトさんが熟練の『ヴィンテージペロロハンター』だからです!」
「ヴィ、『ヴィンテージペロロハンター』?」
聞いたこともない単語に首をかしげるセリカだが、
「以前、解体作業中のゲームセンターからそのシリーズのかなり初期のキャラクターグッズが大量に出てきてな。」
場所によってはもう何十年も砂の下になっているアビドスの廃墟群。
その中には店舗も多くたまに商品が残ったままになっている場合もありネイトが挙げたのもその一例だ。
一応、元の所有者にどうするかお伺いを立てるのだが余程貴重な物でもない限りほとんどW.G.T.C.が処分している。
「そのことを生徒のモモッターから知ったのか彼女のグループが全員砂漠まで押しかけてきたんだよ、クルセイダーで。」
『え゛…!?』
「いやぁ、まさにあのゲームセンターは宝の山でしたね!砂の中だったので状態もとてもよかったですし!」
と、こともなげにネイトの口から初めて語られる衝撃的なファーストコンタクトに言葉を失うアビドス組。
こんなどこにでもいるような少女が戦車を乗り回してアビドスの辺境までやってきたとは到底信じられなかった。
「まぁ、それが縁でたまに出てくるグッズを彼女が買い取っているって関係だ。」
「だからネイトさんの趣味じゃない人形があそこにあったわけね…。」
「あ、ネイトさん!また何か出てきたら真っ先に私に知らせてくださいね!」
「分かった分かった。」
「…ところで、ネイトさんやみなさんはなぜこちらへ?」
と、今度はヒフミが疑問に思う番だ。
自分ならまだしもネイトやアビドスの生徒がブラックマーケットに来ているのが不思議な様子。
「私たちも探し物があってね。」
「手に入れにくいものなんだけどここで扱ってるって話を聞いて。」
「そうなんですか…。なんだか私と似てますね!」
「それでもこんな危ない所に一人で来るのは感心しないぞ、P,P。」
「そ、その…色々危ない所だってのは知ってたのですが…連邦生徒会の手が及ばないのをいいことに企業が好き勝手している場所だとも聞きましたし…。ここ専用の金融機関や治安機関があるほどだとか。」
『ッ!』
ヒフミの何気ない一言にネイトたちは一気に彼女に視線を向ける。
「銀行や警察があるってこと…!?そ、それってもちろん認可されていない違法な団体なのよね!?」
「と、特に治安機関は避けるのが一番!、だそうです。」
「スケールがケタ違いですねぇ…。」
「ここだけでも学園数個分の規模に匹敵しますからね。」
「ほぉ~ヒフミちゃんホントここのことに詳しいんだねぇ。」
自分たちも把握してなかったブラックマーケットの内情にかなり精通しているヒフミ。
「えっ?そうですか?危険な場所なので事前調査をしっかりしたせいでしょうか…?」
「…よし決めたー。」
そんな彼女を見てホシノがニヘラッと笑い、
「え?決めたって…?」
「助けてあげたお礼に私たちの探し物を手伝ってもらおうかなぁ♪」
先ほどの恩を利用してかヒフミに案内を要求する。
「え?…ええええええええええ!!??!」
「わぁ、いいアイデアですね!」
「ん…なるほど、誘拐だね。」
「えぇッ!?」
「誘拐じゃなくて案内をお願いしたいだけでしょ?もちろん、ヒフミさんがよければ、だけど。」
「全く強引な…。だが、このまま一人で歩くとまた攫われかねない。俺達と一緒に行動するのが得策だと思うが、どうだ?」
「あ、あううう…私なんかでお役に立てるか分かりませんが…ネイトさんやみなさんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます。」
と、かなり恩着せがましくなってしまったがヒフミもネイトたちの調査を手伝ってくれることになった。
…が、
「はぁ…しんど…。」
「もう数時間は歩きましたよねぇ…。」
「全く手掛かりなしかぁ…。」
幾ら探ろうとも一向にFlak41改に関する情報が出てこない。
確かにそんじょそこらにポンと置いてあるような代物ではないが…それにしても影も形もなさすぎる。
しかも、ヒフミの言うようにここだけでも学園数個分もあるほど広い場所だ。
ずっと歩き通しなのでホシノ達も疲れてきている。
すると…
「…お、タイ焼き屋があるな。」
「本当ですね…。こんな治安の悪い所にも屋台が…。」
少し先にタイ焼き屋の屋台を発見したネイト。
風に乗って甘く香ばしい香りが漂ってきている。
「ちょうどいいしブレイクタイムと行こうか。俺がご馳走するからさ。」
「さんせ~い、いやぁおじさんもそろそろ膝が限界なんだよねぇ。」
「え…ホシノさんは一体おいくつなんですか…?」
「ほぼ同年代よ、ヒフミさん。」
「じゃあ適当に買って来るな。」
そんなこんなで一時休憩をとることに。
「いただきます、ネイトさん。…美味しい!」
「いやぁ、ちょうど甘いものが欲しかったところだったんだぁ♪」
「アヤネちゃん、私達だけでごめんなさいね。」
《大丈夫ですよ、ノノミ先輩。私もここでお菓子とか摘まんでますし。》
「P,P、『Ha,P』や『HExecutioner』に『B,B,E』は元気か?」
「ハイ、皆ネイトさんに会いたがってますよ!」
「ん…ネイトさんがそんなにトリニティの生徒と知り合ってたの意外。」
「しかもみんなあだ名呼びなほど親しいんですね。」
「ウチに負けず一癖も二癖もあるグループだからな。」
「これが不思議なことに皆結構気に入ってるんですよね、ネイトさんのあだ名。」
そんな風にしばし談笑しながらタイ焼きを楽しむ一行。
すると、
「でも…妙ですね。ここまでお探しの対空砲の情報がないなんてあり得ません。」
ヒフミがこれまでの調査の結果を顧みて訝しむ。
「絶対どこかにあるはずなのに探しても探しても出てきませんね…。」
「…何者かがその情報を意図して隠匿している、そういうことか?」
「ハイ、販売ルートも保管記録もここまで何もないなんて…。」
「そんなことができる組織があるのかい?」
「いいえ、いくらここを牛耳っている企業でもここまで徹底してやるのは不可能なはずです。」
「一つの企業が頑張っても商売敵がもらさないとは限らないしねぇ。」
「ん…それは異常なことなの、ヒフミ?」
「普通、ここまでやります?って感じですね。」
外部に情報を漏らさないように協力していても内情は食うか食われるかの企業間闘争が行われているのがブラックマーケットだ。
そんな中であれほどの代物の影も形もつかめないとなると…
「…アレを卸したのはここじゃない、別の組織。それもブラックマーケットの企業を抑え込めるだけの力を持った連中ってことか。」
「ハイ、ここの企業はある意味で開き直って悪さをしてますから逆に変に隠したりしないんです。」
「『赤信号、みんなで渡れば怖くない』ってやつだね…。」
「そういうことです。例えば、あそこのビル。」
そう言ってヒフミが指さすのはこの辺りでもかなり立派なビルだ。
「あそこはブラックマーケットの中でも一際有名な闇銀行です。」
「闇銀行って…随分堂々としてるわね…。」
「聞いた話ですと…キヴォトスで行われる犯罪に関わる金融資産の15%近くがあそこに流されているそうです。」
「うへぇ…そりゃまた真っ黒だねぇ…。」
「横領、強盗、誘拐etc…様々な犯罪によって獲得された財貨が違法な武器や兵器に変えられてまた別の犯罪に使われる…そんな悪循環が続いているのです。」
「一種のマネーロンダリングのようなものだね…。」
「そんなの、銀行が犯罪を助長しているようなものじゃないですか。」
「その通りです。ここでは・・・銀行も一つの犯罪組織に過ぎないんです。」
「まるでウロボロスの輪だな。どこまで行っても終わりがない、まったく場所が変わってもそこは変わらないな。」
なんともやりきれない話をヒフミから聞いていた、その時だ。
《お取込み中失礼します!そちらに武装した集団が接近中です!》
ドローンで警戒中のアヤネから緊急の通信が入った。
「了解、いったん身を隠す。」
ネイトは短く返し他の全員も目立たないように隠れ様子をうかがう。
そこに現れたのはバイクに乗ったかなり重武装のオートマタだ。
「あ、あれはマーケットガード…!」
「マーケットガード…?」
「ここの治安組織の中でも最上位の規模と戦力を保有する組織です…!」
「ん…現金輸送車を護衛している。」
マーケットガードの護送部隊と現金輸送車は先ほどの闇銀行の前に停車。
そして、現金輸送車から…
「ちょ、ちょっとあのオートマタ…!」
「あぁ、うちにいつも回収に来る銀行員だ…!」
最早顔なじみとでもいうべきカイザーローンの回収員が下りてきた。
「アヤネ、彼の会話をドローンで拾えるかい?」
《分かりました、少々お待ちください…。》
しばしアヤネがドローンを操作し指向性マイクを起動、ネイトたちのインカムに回収員の会話が流れてきた。
《お待たせしました、今月の集金です。》
《ご苦労様、ではこちらの書類にサインを。》
回収員は闇銀行員から差し出された書類にサインを行い…先ほどアビドスから回収したものと同じジュラルミンケースを闇銀行員に差し出した。
「カイザーローンと闇銀行がつながってる…!?」
「か、カイザーローンですか!?」
「ヒフミちゃん、知ってるの?」
「皆さん、そんなところから融資を受けてるんですか!?」
「は、話せば長くなるのよ…!それにもう来月には完済できるわ!」
「…思えば返済が現金だけだったのは…履歴が残らず足がつきにくいから…?」
「まさか闇銀行に流れていたなんて…。」
「て、事は…私たちはずっと犯罪資金を提供し続けていたって…!」
衝撃の事実に行き当たり怒りを露にするセリカだが…
「セリカちゃん、そこまでだよ。」
「え?あ…!」
鋭い目をしたホシノがそれに待ったをかけた。
そうだ、もしセリカが言うことが事実なら…。
「…すまない、皆。俺のせいだ。」
そう言い、ネイトはホシノたちに頭を下げる。
一月に一億円以上、ネイトは犯罪組織に資金を流していたことに他ならない。
それだけではない。
これまで自分の活動に積極的に支援を続けてくれた『セイント・ネフティス』すらも裏切るようなことではないか。
「そっそんなことあるわけないじゃない、ネイトさん!貴方が頭を下げることなんて一つもないわ!」
《まだそうはっきりと決まったわけじゃありません!カイザーローンがアビドスの返済金を闇銀行に運んだ証拠がありませんし…!》
「ネイトさんは今までずっと私たちのため、アビドス高校のために必死に働いてくれてたんですよ!?」
「ん…悪いのは全部闇銀行とつながっていたカイザーローン…!だから謝らないで…!頭をあげてほしい、ネイトさん…!」
「…ネイトさん、それ以上頭を下げるなら私も怒りますよ?そんなことをさせるために…ユメ先輩は貴方を送り届けてくれたわけじゃないんですから…!」
「一億円なんて大金を毎月この子たちのために返済し続けてきた立派な人です、ネイトさんは…!ですからどうか…その事実には胸を張ってください…!」
アビドスの皆はネイトに頭を上げるよう必死に懇願する。
頭を下げていいわけがない、謝っていいわけがない。
縁も所縁もないアビドスにただユメの願いだけでやってきたネイトが今まで必死に自分たちのために働き続けてきたのだ。
ただアビドス復興のため、ただただ自分たちの学校生活を…青春を取り戻すために。
そんな彼の半年以上に及ぶ努力を…踏み躙らせはしない。
すると、
「あ、あの!集金の際は受領証明書が出ますよね!その発行の記録が見つかれば証拠になりませんか!?」
「ッ!それだよ、ヒフミちゃん!ナイスアイデア!」
ヒフミがカイザーと闇銀行のかかわりを示す証拠のありかを提案するも…
「…でも考えてみたら書類は銀行の中ですし…無理ですよね…。」
「そ、それは…!」
「ブラックマーケットの中でも最も強固なセキュリティを誇る銀行の中となると…。それにあれだけの数のマーケットガードが目を光らせてますし…う~ん…。」
すぐに障害にぶち当たる。
銀行と言うのはいわば現代の要塞のようなものだ。
守るに易く攻めるに難い、そう易々と目的の書類は手に入れられないだろう。
…ならば、
「ん…ねぇホシノ先輩。ここは『例の方法』しか。」
「お、例の方法?…あぁ、あれかぁ!」
「そうですねぇ!確かにあの方法なら!」
「…アレってまさか…!私が思っているあの方法じゃないわよね!?」
ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカが示し合わせたかのような反応をする。
「あれって…なにするつもりなの、皆…!?」
嫌な予感がビシバシ伝わってくる先生。
冷汗をだらだらかきながら何をするつもりか尋ねる。
「ん…ネイトさんが来る前まで私が考えていた借金返済方法…。」
「あ、あのう…全然話が見えないんですけど…『あの方法』って何ですか?」
ヒフミも訳が分からずシロコに尋ねると…
「残された方法はただ一つ…。」
シロコは肩にかけていたバッグを弄り…それを…2と刺繍された青い目だし帽を被り宣言した。
「ん、銀行を襲う。」
「はいぃぃぃいいいいッ!!?」
「シロコッ!?ちょっと待って、他にも何か方法が!」
さすがに生徒に銀行強盗などやらせるわけにはいかず先生も制止するが…
「大丈夫、犯罪の証拠を明らかにしてネイトさんの名誉を守るだけ。」
「そ、それは…そうなのかな・・?!」
状況が状況、その声は徐々に小さくなってしまった。
「だよねー、そういう展開になるよねー。」
「えぇ!?」
いつの間にかピンクの1と縫われた目だし帽をかぶっているホシノ、
「わぁ!そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
3と縫われたミドリの目出し帽を被りなんとも楽しそうなノノミ、
「はぁ、マジで?マジでやるのよね?…それならとことんやるしかないか!」
「あわわわ!?」
踏ん切りがついたのか4と縫われた赤い目出し帽をかぶるセリカ、
《…はぁ、了解です、止めても聞く耳持たないでしょうし…。》
普段はストッパーになるはずのアヤネも今回ばかりは止める気がないようだ。
さらに…
「ごめん、ヒフミ。」
「え!?」
「私の準備不足でヒフミの分の覆面がない。」
「ヒィッ!?私もぉ!?」
「うへー、このままだとばれたら全部トリニティのせいだってことになっちゃうねぇ。」
「えぇッ!?そんなッ覆面ってッなんでっえっと!わ、私は遠慮し…!」
「仲間外れだなんてそれは可哀そ過ぎます!」
どうやら…ホシノたちはヒフミも巻き込む気満々のようだ。
「そ、そそそそんな私は全然気にしませんから…!」
なんとか逃れようとするも…
「ヒフミちゃん、こちらをどうぞ♡」
普段からは考えられない圧をかけタイ焼きが入っていた紙袋を差し出してくるノノミにたじろぐしかない。
「ちょ、ちょっとまってくださ、ののっ!?」
そして有無を言わせずにノノミはヒフミに紙袋をかぶせ…
「ひぅぅぅ…!」
「ん…完璧。」
「うん、とってもお似合いです♪あ、番号は5を振っておきました♪」
「見た目はらすぼすきゅうじゃない? 悪の根源だねー、親分だねー」
頭に紙袋をかぶった共犯者の出来上がりである。
「わ、私もご一緒するんですか?!闇銀行の襲撃に!?」
「なぁに言ってるのさ、ヒフミちゃん。さっき約束したじゃん、今日は私たちを手伝うって!」
どうやっても逃げ場はないが…
「そ、そうだッ!ネイトさん、皆を止めて…!」
ヒフミは一縷の望みをかけてネイトに皆を止めるように求める。
だが…
「どうだ、けっこう様になってるだろ?」
「おぉ~かっくいいい!」
「わぁ!とってもお似合いですぅ♪」
「そんな服いつの間に買ってたのよ?」
「ん…バケツをかぶるだなんて結構いいアイデア。」
「Noooooooo!!!!?」
ネイトはどこで拾ってきたのかJ・Dと書かれた金バケツに視界確保用の穴を開けて被りやる気満々のようだ。
しかも、服も先ほどとはまるで違う。
スリーピースジャケットの上に丈長のジャケットを着込み首にはこれまた長めのストールをかけている。
ご丁寧にバケツには『フェドーラ帽』がのっかっている。
しかも武器は…トンプソン・サブマシンガンだ。
彼女たちには分からないが恰好だけでいうとまんま禁酒法時代のマフィアのそれだ。
「ネ、ネイトさん…!?」
普段こういうことはネイトは止める立場のはずだがこのノリノリ具合はさすがにおかしいと思い先生が尋ねるも…
「すまないな、先生。今回ばかりは…俺も少し鶏冠に来てる…!」
「は、はい…!」
ひしひしと伝わってくるネイトの怒りに何も言えなくなった。
「ふぇぇぇ…わ、私もう生徒会の方々に合わせる顔がありません…!」
「大丈夫、私たちは悪くないし!」
「ん…先生はどうする?」
時ここにいたり、今一度先生にどうするか問うシロコ。
「…はぁぁぁ、こうなったら私も参加するよ。ネイトさんやアビドス高校の皆のお金が犯罪に使われているとしたらそれは由々しき問題だしね。」
先生も腹を決めたようだ。
「でも、一般人には絶対に手を出さないこと!それは絶対守ってね!」
「まっかせてぇ、狙った獲物以外は眼中にないからさぁ!」
「よし、じゃあ気を付けて行っといで!」
先生からの注意と見送りの言葉を受け、
「それでは!『覆面水着団』、出発です!」
ノノミの号令で闇銀行襲撃部隊『覆面水着団』が動き出す。
その際、
「…ネイトさん、先ほどの『注意事項以外』でしたら私も何も言いません。彼女たちをどうかよろしくお願いします。」
インカムでネイトだけに非常に含みを持たせた言葉を告げた先生。
「…了解、先生。…良いじゃないか、俄然やる気が出てきた…!」
バケツの下、ネイトがいつにない獰猛な表情を浮かべるのであった。
怒りは、しばしば道徳と勇気との武器なり。
―――哲学者『アリストテレス』