Fallout archive   作:Rockjaw

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『おれの育った暗黒街ではこう言う。“人は優しい言葉より銃の言う事を聞く”。』
―――映画『アンタッチャブル』より


The terrible Six

場面はネイトたちが銀行を襲撃を決行した同じ日の今朝方まで戻る。

 

便利屋68オフィスにて、

 

「ハイ、すべて報告書に書いた通りで…。」

 

アルはネイトの調査依頼を出したカイザーPMCから連絡を受けていた。

 

すると、

 

「…えぇ!?なっなぜですか!?」

 

突如として大声を上げるアル。

 

「どうして報酬の減額を!?…そ、そうは言われましても私共が彼の会社に潜入し社員たちの目で見た事実ばかりなのですよ!?」

 

どうやらカイザー理事はアルに支払う報酬を大きく減額すると言っているらしい。

 

時間を掛けていろいろと体を張って調べ上げたのにこの対応はあんまりだ。

 

なんとか依頼時の提示金額を捥ぎ取ろうと粘るアルだが…

 

「…え、近日中に新たな大きい依頼を寄越すですか…!?その時の報酬に今回の残りを上乗せ?」

 

代替案か、カイザー理事は次回の依頼の発注を約束、

 

「いえ、そうではなく今回の依頼の報酬を…!もしもし?!もしもし!?何よ、もう!!!」

 

それだけ言ってカイザー理事は電話を一方的に切ってしまった。

 

アルも怒りながら受話器を叩きつけるように戻す。

 

「なんなのよ、あの依頼人!?」

 

「社長、カイザー理事は何だって?」

 

「『我々でも掴んでいる情報ばかりだから報酬は減額させてもらう』ですって!だったら最初から自分のところだけでやりなさいよ、まったく!」

 

「あぁ~ネイトのおじ様も言ってたもんねぇ。普段使ってる『クラフト』って神秘はコンストラクションも把握してるって。」

 

そう、これがネイトが彼女たちを受け入れた要因とも言ってもいい。

 

確かにアル達にとってはネイトのクラフト能力は初めて見る未知の力だ。

 

だが…カイザーコンストラクションにはすでに半年前に知っていたこと。

 

当然、ケテルが持ち込まれた後にカイザーPMCもコンストラクションから情報を集めていたはず。

 

なので、便利屋68が集めた情報はあくまで補足情報にしか過ぎない。

 

一応、ネイトが『キヴォトス人』とも渡り合えるだけの戦闘能力があると判明したのでその分はカイザーPMCも評価して報酬を渡してきた。

 

…なお、このキヴォトス人が『小鳥遊ホシノ』だということは伝わっていない。

 

しかも、他のネイトの『真の実力』に関する重要情報は厳重に隠匿されているので別段ネイト側に痛手はない。

 

さすがに報酬減額まではネイトも予想外だったが…。

 

「ゆ、許せない許せない許せない…!アル様の報酬を勝手に減らすなんて…!」

 

これにアルを敬愛するハルカはふつふつと怒りを滲ませ…

 

「ちょっと出かけてきます…!」

 

「まッ待ちなさい、ハルカ!?何をする気なの!?」

 

「ネイト様のお仕事でノウハウはつかめました…!!!カイザーPMCの本社をペシャンコに…!」

 

事務所のドアに手をかけなんとも物騒なことを言い放った。

 

怖いのが…これが今の彼女には可能だということだ。

 

さすがと言ったところか、ネイトはこの一週間というわずかな期間でハルカの『爆破技術』も成長させてしまっている。

 

いや、便利屋にとってはいい事なのは間違いないが…

 

「わぉ、ハルカちゃんったらかっげきぃ~♪」

 

「言ってる場合じゃないでしょ、ムツキ!?と、ともかくハルカも落ち着いて!」

 

「はぁハルカの技術鍛えすぎでしょ、ネイト社長…。」

 

彼女本来の『凶暴性』があらわになってる今は非常によろしくなく、アルも必死でハルカを思いとどまらせた。

 

と、

 

「でも、社長…どうするの?」

 

カヨコが困り顔でアルにそう尋ねる。

 

「ど、どうするのって…?」

 

「ネイト社長からの給料があるからとはいえ…家賃とか光熱費の支払いが色々溜まってるよ?」

 

「うぐッ…!」

 

「それにぃカイザー理事もまたすぐに依頼出すんでしょ?経費足りるの、アルちゃん?」

 

「グヌヌヌ…!」

 

そう、ネイトからの給料は確かにアル達の懐を温めてはくれた。

 

だが、本来受け取るはずだったカイザーPMCからの報酬は大幅減額。

 

それを見越して溜まっていた諸々の支払いなどの計画を立てていたのだが…。

 

一応、無理なことではない。

 

しかしそれをやると…本当に食費分ギリギリ位しか残らないのだ。

 

それでは近々来るであろうカイザーの依頼で使う予算も足りない。

 

「こんなオフィス借りてるから資金がすぐにショートするんじゃない。」

 

確かに、便利屋68の事務所は業務規模から考えるとかなり豪勢だ。

 

…この原因は9割ほどアルの見栄っ張りな性格から来ている。

 

「で、でもちゃんとした会社なら事務所は必要でしょ!?」

 

と、社長として事務所の必要性を訴えるアルだが…

 

「私は前みたいに公園のテントでもいいけどぉ?」

 

「わ、私もアル様とご一緒ならどこででも!橋の欄干の下でも構いません!」

 

「ネイト社長も言ってたじゃん。『妥当』なラインを作れって。」

 

「あぁーもうッうるさいっ!」

 

部下たちに正論を投げつけられとうとう怒り出してしまった。

 

だが、怒ったとしても資金が足りないのは事実。

 

その打開策として、

 

「こうなったら銀行から融資を受けるわよ!」

 

企業として融資を頼むことにしたようだ。

 

「えぇ~?でも、アルちゃんって銀行のブラックリストに入っちゃってるんでしょ?」

 

「違うわよ!私はただ指名手配されて口座が凍結されただけ!」

 

「あぁ~そうだったぁ♪」

 

「イヤ、ホント。現金手渡しで払ってくれたネイト社長には感謝だね…。」

 

「見てなさい、カイザーPMC…!そっちがそのつもりなら『アウトロー』として今度の依頼はケチのつけようのない完璧な仕事を見せてやるわ!!!」

 

と言う事で便利屋68が向かったのが…

 

「…で、ホントにここで融資受けるの?ブラックマーケットの闇銀行だよ?」

 

ブラックマーケットの闇銀行だった。

 

「き、きっと利息がすごいんでしょうね…。」

 

「まぁその前にアルちゃんが審査通るかどうかだけどねぇ♪」

 

「う、うるさいわね!通るに決まってるでしょ!行くわよ!」

 

そう息巻いてアル達は闇銀行に乗り込んだが…

 

「誠に残念ながら今回は御縁がなかったということで。」

 

「ちょ、ちょっと待って!?それって融資できないってこと!?」

 

長い時間待たされた挙句帰ってきた答えが融資不可と言うものだった。

 

「左様でございます。」

 

「ちょ、ちょっと!?ちゃんと事務所も構えてるのにどうして…!?」

 

「事務所は賃貸、資産と呼べるのは銃火器のみ。これでは融資のしようがありません。」

 

「え、えぇ…!」

 

「担保できる財産、あるいは貴女に信用があれば融資は可能なのですが…。」

 

「そ、そんなのウチには…!」

 

あいにく貧乏家業な便利屋68。

 

これまでの散財や支払いなどもあって資産形成が疎かになっていた。

 

しかも、仕事が仕事だけに社会的信用など望むべくもない。

 

闇銀行をもってしても融資不可と言われても不思議はない。

 

「ですので、まず日雇いの期間工などをなさってはいかがでしょう?」

 

「は、はぁッ!?」

 

無慈悲な行員の言葉にアルはどんどん怒りのボルテージが上がって…

 

(む、ムカつく…!もういっそここで大暴れして銀行のお金を…!)

 

アウトローらしい最終手段をとろうとするも…

 

(い、いや…それはだめね…!マーケットガードもいるし…!)

 

背後にいる警備のマーケットガードの姿を見て思いとどまる。

 

ここで暴れるということはブラックマーケットそのものを敵に回すということに他ならない。

 

そして…

 

(明らかに一般人がいるようなところで暴れたら…!)

 

お客の中には自分たちのように切羽詰まってここを頼ってきた一般人も交じっている。

 

自分たちが暴れると巻き込んでしまうかもしれない。

 

それは…彼からの『アドバイス』を無視してしまうことになる。

 

(そ、そんな勇気ないわ…!もう…なんて情けないの、私って…!)

 

普段は強気なアルだが…実際のところは非常に憶病なものだ。

 

(キヴォトス1のアウトローになるってそう心に決めたのに…!)

 

そんな臆病な自分に嫌気がさした。

 

資金繰りに苦しみ融資も受けれず社員を食わせることもできず…

 

(私が望んでいるのはこんなことじゃない…!何事も恐れず何物にも縛られない…そんなハードボイルドなアウトローに…!)

 

そんな時…アルの脳裏に彼の姿が浮かんだ。

 

その男は巧みな話術でわずかな情報から真実を導き出していた。

 

その男はたとえ多くの敵に囲まれても堂々と構えていた。

 

その男はたとえ『死』が眼前に迫ろうと山の如く動じず敵を迎え撃った。

 

その男は…様々な人から愛されていた。

 

そして…対峙したはずの自分たちにも別れ際にこう言ってくれた。

 

『腹減ったらまたウチにこい。働いてくれるんならウチはいつでも大歓迎だ。』

 

その言葉を聞いて…アルは久しく感じてなかった『暖かさ』を感じていた。

 

確かにそこに…自分が目指すべきものを感じ取ることができた。

 

(…彼ならこういう時どうやって…。)

 

その時だった。

 

突如として窓や出入り口のシャッターが下り、

 

「あ、あれ停電?」

 

銀行内の電灯が一斉に消灯。

 

行員や利用客や警備員も不審に思った、次の瞬間だった。

 

突如吹き飛ぶ出入り口部分のシャッター。

 

警備員が巻き込まれて地面に倒れその空いた穴から…

 

「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

 

「両手を見えるところに出せ!いう通りにすれば全員無事に家に帰れる!」

 

「いうこと聞かないとぉ痛い目にあっちゃいますよぉ♪」

 

「あ、アハハ…皆さん、怪我しちゃいけないので…指示に従ってください…。」

 

「ぎ、銀行強盗ですって…!?」

 

天井にライフルと古めかしいサブマシンガンを乱射しながらなだれ込んできた6人の強盗団。

 

一人紙袋をかぶった強盗犯の目が死んでいるがどう見てもただ物じゃないオーラを纏っている。

 

「ひ、非常事態発生!非常事態発生!セキュリティ!」

 

行員がすぐさま警報を起動しようとするも…うんともすんとも言わない。

 

「うへ~、無駄だよ~。通報システムは全部ロックしちゃってるからね~。」

 

「そ、そんな…!」

 

「ほら、そこ!伏せてってば!下手に動くとスクラップにするわよ!」

 

「ヒィどうかお助けぇ!」

 

6人は瞬く間に行内を制圧。

 

一人バケツをかぶり大容量のボストンバッグを提げた男の強盗犯が足元にあったゴミ箱の中身を全部出し、

 

「『クーガー』、この場にいる全員のスマホをこの中に回収しろ。」

 

「分かったわ、『デリンジャー』。」

 

4と書かれた赤い目出し帽の強盗犯『クーガー』にゴミ箱を渡してそう指示する。

 

その時、地面に倒れていた警備のオートマタが銃をとろうと動いた瞬間、

 

「おっと、ダメだよぉ?」

 

「あババババ!?」

 

1と書かれたピンクの目出し帽の強盗犯がスタンバトンを警備員に押し付け無力化。

 

これを見たもうひとりの警備員も戦意喪失し頭の後ろで手を組んだ。

 

「さぁてここまでは計画通り!次のステップに進もうかねぇ!」

 

そう言い…

 

「さぁ、リーダーのファウストさん!指示をよろしくぅ!」

 

「え?…えぇッ!?『ファウスト』って私のことですか!?」

 

指示を請われた紙袋の強盗犯『ファウスト』は何やら混乱し自分を指さす。

 

「もちろん!」

 

「ハイ!リーダーです!私たちのボスです!」

 

そう3と書かれた緑の目出し帽をかぶった強盗犯に『ファウスト』はリーダーに指名され…

 

「ちなみに私は…『クリスティーナ』だお♣」

 

その強盗犯自身は自らを『クリスティーナ』と名乗った。

 

「うへ、ファウストさんは怒ると怖いんだよぉ?」

 

「そうだ!下手なことを言うとドタマフッ飛ばされるぞ!」

 

「あぅリーダーになっちゃいました…。これじゃもうあそこに顔向けが…。」

 

『デリンジャー』と呼ばれたバケツ頭の強盗犯に補足され『ファウスト』は肩を落とすのであった。

 

と、そんな集団を見て…

 

「…あれ…あの人たちって…。」

 

「あ、アビドス対策委員会にネイト社長…?」

 

「だよね、知らない顔もいるけど…。何やってるの、こんなとこで…?」

 

「い、いったい何の目的があってこの闇銀行に強盗を…?!」

 

ムツキ、カヨコ、ハルカはその正体に気付いた。

 

あのネイトまでここにいる理由は分からないが…

 

「…ともかく狙いは私達じゃない。今は言うこと聞いておこう。」

 

何はともあれいうことを聞いておいた方が得策だ。

 

彼女たちの強さは折り紙付きな上今回はネイトもいる。

 

争っても勝てる見込みはかなり低いので指示通り床に伏せ手の届かない距離までスマホを滑らせた三人。

 

「もう、アルちゃんは何してんのさ?」

 

そう言いムツキはアルのほうに目線を向けると…

 

「………。」

 

イスの上に両手を付き彼らの様子を呆然と眺めていた。

 

「…『ファング』、フェイズ2だ。」

 

「ん…了解、デリンジャー。」

 

そう言い、デリンジャーと2と書かれた青い目出し帽をかぶった強盗犯『ファング』はカウンターに近づき、

 

「監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、すべて頭に入ってる。全員、無駄な抵抗はしないこと。」

 

「ひ、ヒィいいいい!」

 

「そこのアンタ。このバッグに少し前に到着した現金輸送車の…。」

 

二人して先ほどまで自分の相手をしていた行員に銃を突きつけながらバッグをカウンターの上に放り投げる。

 

だが、言い切る前に…

 

「わっ分かりました!なんでも差し上げます!」

 

「え?」

 

「現金でも、債券でも、金塊でもいくらでも持ってってください!!!ですのでどうか命だけは!!!」

 

その辺にあった有価物やらを自らバッグの中に詰め込み始めた。

 

「…ファング、ここは任せる。俺は奥の金庫室に行く。」

 

「ん…了解。」

 

デリンジャーはそう言い残しカウンターを越えるために足をかけた。

 

「ん?」

 

その時、足下にトレイに乗ったいくらかの小銭や紙幣が置いてあるのを発見。

 

周囲を見るとすぐそばにくたびれた格好の獣人が蹲っていた。

 

「…このカウンターの金はアンタのか?」

 

「は、はいそうです!ど、どうぞお収め…!」

 

完全に怯え切った獣人だが…

 

「しまっておけ。俺達の狙いは銀行の金だけだ。」

 

「へ?」

 

「迷惑をかけるな。じっとしてれば家に帰れる。」

 

デリンジャーはそのトレイを獣人のもとまで滑らせ優しく声をかけた後カウンターを越えていった。

 

そんな二人の姿を…

 

(や、やばーい!何なの、この人たち!?ブラックマーケットの銀行を襲うなんて!)

 

目をキラキラしながら見つめるアル。

 

(どう逃げるつもりなのかしら!?そ、それ以前にこんな大胆な計画を立てちゃうアウトローがいまだ存在するなんて!!!)

 

こんな大胆不敵な計画を立てて実行に移す度胸に、

 

(そ、それに狙った獲物以外に目もくれず一般人には手出しどころかお金も奪わないなんてなんて気高い人なの!?)

 

そこにある成果に目もくれないどころか市民に優しさすら向けるその誇り高さに。

 

彼女は思い出していた。

 

柴関ラーメンでネイトから聞かされた伝説のアウトロー。

 

まるでそんな憧れの存在が今まさにそこにいるではないか。

 

(みんな超手際いいし超プロフェッショナル!ものの2分で闇銀行を制圧するなんて!カッカッコいい…!痺れるっ!これぞまさに『真のアウトロー』!うわぁぁ涙出そう!)

 

そんな彼らの姿に大興奮するアル。

 

一方、カウンターを乗り越えたデリンジャーはというと…

 

「お前が頭取だな?」

 

「そ、そうだ…!」

 

「来い、俺と一緒に遊ぼうぜ。」

 

「ぐあッ!?」

 

素早く頭取のオートマタを発見、ネクタイを引っ掴んで奥へと消えていった。

 

「さぁ降りるぞ。」

 

「き、貴様ここがどんな銀行か分かって…!」

 

「あぁ、知ってるよ。」

 

そこには地下へと続く階段があり…

 

「来るぞ、構えろ…!」

 

そこには地下の金庫室がありまだ警備のオートマタが二体残っていた。

 

足音が聞こえてくるので身構えていると…

 

「ぐぎゃ!?」

 

『ッ!?』

 

頭取が階段を転げ落ちてきて一瞬身を固めてしまった。

 

「ぐギャ!?」

 

「ゴフッ!?」

 

そのわずかな動揺を付かれネイトに両方とも撃ち抜かれてしまう。

 

「さぁ、行こうか。」

 

ネイトはそのまま頭取を再度引っ張りながら歩を進める。

 

その道中に地面に伏した警備員にスタンバトンを食らわせ気絶させるのを忘れない。

 

そして二人は金庫室前の扉の前に立ち、

 

「金庫空けゲームの開始だ。さっさと開けろ。」

 

サブマシンガンを頭取に付きつけ金庫室を開けるように要求。

 

「わ、分かっているのか…!?ここに入っているのがどんな奴らの…!」

 

頭取は時間稼ぎのつもりか説得のつもりかネイトにそう告げるも…

 

「グハッ!?」

 

「お前の給料は死んでまでここを守るほど高いのか?それともホントに死んで英雄になりたいか?」

 

ネイトがストックで殴りつけ引き金に指を掛けながら脅迫、

 

「…ほら、さっさと開けろ。」

 

「ぐぅ…!」

 

頭取も諦めたのか今度は直に金庫室を開けた。

 

中には無数の鍵付きロッカーやむき出しで置かれた現金のブロックがごろごろしている。

 

「あ、あの今ロッカーを…!」

 

「いや、アンタの役目は終わりだ。」

 

だが、デリンジャーはそんなものに目もくれずロッカーの各列の一番上と中ほどにバッグの中から長さ50㎝ほどの筒状の物を取り出しくっつけていく。

 

それが終わると現金のブロックを抱えているバッグに詰めるでもなく一か所に固め、その近くにバッグから取り出したバッテリーとポリバケツにミネラルウォーターを注ぎ片方の+の電極を突っ込み―の電極は水から出してアルミテープで水と接触させる。

 

「ど、どうするつもりだ…!?」

 

「ん?こうする。」

 

頭取が不審そうに眺めている中デリンジャーは今度はその現金の山に黒い粉を振りかける。

 

ある一定量振りかけたら今度はそれを金庫室の外まで繋がるように撒き、

 

「おら、出ろ。」

 

頭取を金庫の外に押し出し、発煙筒に火をつけその粉の上に落とす。

 

すると、火は粉の道にそって火花を散らしながら動く。

 

「こ、黒色火薬…!?」

 

頭取もこの男が何をしようとしているのか分かった。

 

さらにデリンジャーは何かのスイッチを押し込むと張り付けられた筒から電子音が鳴りカウントダウンが始まる。

 

「閉めろ。銀行丸ごとバーベキューは嫌だろ?」

 

確かにここは地下で金庫室は分厚いコンクリートと鋼鉄の扉で覆われているため扉さえ閉めれば延焼は免れる。

 

「は、はいぃ!」

 

頭取も素早く扉を閉め、

 

「離れてろ。」

 

そのカギ穴を潰すように弾丸を数発撃ち込むデリンジャー。

 

階段を上っていると金庫室内から発砲音のような物が聞こえてきた。

 

「お?終わったの、デリンジャー?」

 

「すっきりしたよ、『ストリックス』。ファング、そっちは?」

 

「あぁ…うん…でも。」

 

なんとも煮え切らない返事のファングだがどうやら目的は達せられたようだ。

 

「よし、状況終了!全員撤収だ!」

 

「アディオ~ス☆」

 

「お、お客さんにはけが人はいないようですし…すみませんでした、さようなら!」

 

ならばここに用はないと言わんばかりに6人は一目散に逃げ去った。

 

「や、奴らを捉えろ!!!道路を封鎖、マーケットガードに通報だ!!!」

 

行員がすぐさまマーケットガードに通報しブラックマーケット中の道路を封鎖するも…

 

《封鎖地点を突破、この先はもう安全です。皆さんお疲れ様でした!》

 

「やったぁ、大成功!」

 

『覆面水着団』…もといネイト一行はすでに包囲網を脱していた。

 

「せ、先生としてこれでよかったのかな…?!」

 

「うぅぅぅ…。」

 

「二人ともお疲れ様。」

 

良心の呵責に苦しむ先生とヒフミをケロッとした様子で労をねぎらうネイト。

 

精神強度が段違いだ。

 

「シロコちゃん、集金記録は?」

 

「うッうん、それが…。」

 

ホシノが目当ての物が手に入ったか尋ねるとシロコは困ったような表情を浮かべる。

 

なぜなら…

 

「な、何じゃアこりゃあああ!?」

 

「シロコ先輩、お金盗んできちゃったの!?」

 

「いいや、行員が勝手に詰め込んだんだろ。」

 

バッグの中にぎっしりと札束が詰まっていたのだ。

 

「ネイトさんの言う通り。目当ての書類もちゃんとある。」

 

「うへ~…ざっと1億はあるねぇ…。」

 

「見慣れたっていうのも変な感じですけどやっぱりすごい量ですねぇ…。」

 

予想外のおまけに言葉を失っていると…

 

「やったぁ!じゃあさっさと早く持って帰ろう!」

 

セリカが喜び勇んでバッグを持ち帰ろうとする。

 

だが、

 

「待て、セリカ。」

 

「ネイトさん?」

 

バッグの取っ手を掴むセリカにネイトが優しく手を重ねる。

 

「それはだめだ。」

 

「ど、どうして!?」

 

「私も少し待ってほしいな、セリカ。」

 

「先生まで!」

 

《そ、そうだよ!ネイトさんや先生の言う通り!そんなことしちゃだめだよ、セリカちゃん!》

 

ネイトがセリカを制止し先生とアヤネも止めるように言うも…

 

「なんでよ!?これは…これはアビドスの皆やネイトさんが必死に稼いだお金よ!?それがあの闇銀行に流れてたんだよ!?」

 

『………。』

 

声を張り上げてこの現金を持って帰ることに対する正当性を訴えるセリカ。

 

「…確かにそのお金をそのままにしていたら犯罪者やヘルメット団の武器に換えられていたかもしれませんね…。」

 

《ノノミ先輩!?》

 

「そうよ、悪人のお金を盗んで何が悪いの!?」

 

「…私もセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし私たちが正しい使い方をした方が…。」

 

「それにこれだけあれば来月には借金も完済できるんだよ!?」

 

ノノミも賛同しこの現金を持ち帰ろうとする意見が強まるが…

 

「…セリカ、安心しろ。借金なら来月に完済できる。」

 

「え…?」

 

「忘れたか?カイザーから廃墟街の解体事業を分捕ったんだぞ?」

 

「あ…!」

 

ネイトが微笑みながらそう伝えた。

 

そうだ、確かにネイトはカイザーコンストラクションからとんでもない大型契約を勝ち取っている。

 

それも、たとえ半年前であっても一回作業すれば借金が帳消しになるほどの超大型案件だ。

 

「あと少ししたらその作業に入れる。だから…こんな汚い金に頼ることなんかない。」

 

「そだよぉ、セリカちゃん。」

 

「ホシノ先輩…?」

 

「私たちに必要なのは書類だけ、お金じゃない。」

 

続けてホシノも今回の獲物は書類だけだと改めて説明し、

 

「今回は悪人の資金だからいいとしてその次は?そのまた次は?これに慣れちゃうとこの先同じようなことになったらまた『仕方ないよねぇ』って言ってやっちゃいけないことに手を出すと思う。」

 

一回許せばもう堰を切ったようにまた強盗を行ってしまうようになるという危うさもセリカに説く。

 

「私としては可愛い後輩にそんな風になってほしくないかなぁ。」

 

「………。」

 

「それにぃ、皆の鬱憤ならネイトさんが代わりに晴らしてくれちゃったしぃ~♪」

 

『え?』

 

ホシノがそういうと一斉にネイトに視線が注がれる。

 

「あの銀行に預けていた犯罪者の資産や他所への弱みは全部灰にしてやったよ。」

 

「ど、どうやってあんな短時間に!?」

 

「これだ。」

 

そう言い取り出したのはネイトが金庫に設置していた筒状の物体だ。

 

「コイツは火薬の力で鉄杭を打ち出してその空いた穴にマグネシウムテルミットを注入し点火する代物だ。これで金庫室にあったロッカーの中身は全部燃え尽きただろう。」

 

「そ、そんなのどこで!?」

 

「ムツキとハルカのアイデアさ。まさかこんなとこで役に立つとはな。」

 

そう言い、筒をPip-Boyに収納し、

 

「それにそこにあった現金…ざっと数十億だな。それも今は灰の山だろう。」

 

「と言うことはつまり…!」

 

「闇銀行もこの後大変だろうなぁ…!金どころか金には代えられないようなものを預けてたのにぜぇんぶなくしちゃったんだからな…!」

 

この後に起こる闇銀行の災難を予想し、口角を吊り上げるネイト。

 

いかに、カイザーローンと闇銀行の所業にブチギレていたかいやでも分かる。

 

「と言うわけで、証拠も手に入ったし犯罪資金もぜぇんぶ消しちゃったからこのバッグは置いていくこと。これは対策委員会委員長の命令だよ~。」

 

「…分かったわ、ネイトさんにホシノ先輩…。ごめんなさい、あんなこと言っちゃって…。」

 

「じゃあ、貰うのは必要な書類だけ。それでいい?」

 

『うん(ハイ)!』

 

一先ず、このバッグの現金は置いていくことに。

 

「…でも、だからってこのままにしていくわけにはいきませんね。災いの種みたいなものですから。」

 

「だったらいっそのことこれも燃やすか、一億円のキャンプファイアなんて早々見られないぞ?」

 

「おぉ~それは何とも豪華な焚火になりそうだねぇ!」

 

「あ、いいですね♪早速どこか安全な場所で…!」

 

と、このバッグの処分方法で盛り上がっていると…

 

《…ッ!待ってください!何者かがそちらに接近しています!》

 

ドローンで周辺を監視中のアヤネから通信が入った。

 

「アヤネ、マーケットガードか?」

 

《い、いえ…あれ、この人は…便利屋のアルさん?!》

 

「え、アル!?」

 

思わぬ人物の名前にネイトも驚愕。

 

だが今この場で素顔を見られるわけにはいかないので…

 

「はぁ、ふう…ま、待って!」

 

「…何の用だい、ゲヘナのお嬢ちゃん?」

 

「あ、落ち着いて。私は敵じゃないから…!」

 

再び全員がそれぞれのマスクを被り応対することに。

 

「なんでアルさんが…!?」

 

「撃退する…?」

 

「いやぁ、一週間一緒に過ごした子を叩きたくはないかなぁ。」

 

「あの…お知り合いですか?」

 

「この間までネイトさんの会社で働いてらっしゃったんですよぉ。」

 

正直顔見知りに発見されたのは痛いが…かといって叩きのめすのは気が引けるので対応に困る一同。

 

「あ、あの…大したことじゃないんだけど…。さっきの襲撃、見せてもらったわ。」

 

と、こちらの正体に気付いていないのかアルはそう熱弁し始める。

 

「ブラックマーケットをものの二分で制圧して目的の物だけじゃなくて犯罪組織の資金まで台無しにしてすぐさま撤収…!しかも一般人には優しさすら見せるなんて…あなた達はまれにみる『真のアウトロー』だったわ!」

 

「?」

 

「しょ、正直いってすごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆かつ見事なことができるなんて感動的と言うか…!」

 

「…そいつはどうも。」

 

「わ、私も頑張るわ!あなた達や『あの人』みたいに法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂!そんなアウトローになりたいから!」

 

そう興奮気味に語り続けるアルに…

 

「ねぇさっきからアルさんは一体何の話をしてるの…?」

 

「さぁ?やっぱりいろいろ影響受けやすい子なんだよ。」

 

「そ、そういうことだから…な、名前をっあなた達の名前を教えて!」

 

「な、名前…?」

 

「その、組織と言うか、チーム名とかあるでしょ?私が今日のあなた達の雄姿を心に深く刻んで置けるように!」

 

どうも暴走気味のアルの対応に悩む一行だが…

 

「ハイ、仰ることはよーく分かりました!」

 

「ちょ、ノノミ先輩…!?」

 

何を思ったかノノミがあるの頼みに答え、

 

「私たち五人は人呼んで・・・覆面水着団です!」

 

「ふ、覆面水着団!?」

 

彼女が名付けたグループ名『覆面水着団』を名乗り、

 

「そして、彼は助っ人の…!」

 

キラキラした眼差しをネイトを指さし名乗りを任せる。

 

アルも同じような視線を向けているので…

 

「…俺は『ジョーカー・デリンジャー』。大物狩りが趣味のしがない小男さ。」

 

「じ『ジョーカー・デリンジャー』…!」

 

彼なりに即興で決めた名前をアルに名乗りを上げた。

 

「や、やばい…!超クールカッコ良すぎるわ!」

 

それを聞いたアルは一層目を輝かせる

 

「…ふふふのふ!目には目を!歯には歯を!無慈悲にっ孤高にッ我が道の如く魔境を征く!これがアタシらのもっとうだよ!」

 

(ホシノ、お前そんなキャラだったか?)

 

ホシノもそれに乗ってかあらぬ設定を盛りまくる。

 

(か、かっこぉいい…!)

 

…もう何を言ってもアルは憧れてくれるようだ。

 

「…なにしてるの、あの子たち?」

 

「アルちゃんドはまりしちゃってるねぇ!まるで特撮ヒーローショー見てる子供みたい!」

 

その様子をムツキ達が少し離れているところで眺めていた。

 

「もういいでしょ?適当に逃げようよ!」

 

「じゃあ我々はこの辺で!アディオス~☆」

 

「行こう、夕日に向かって!」

 

「ま、まだお昼ですよ?」

 

これ以上はぼろが出る可能性があるのでそそくさとネイトたちは撤収。

 

「…よし、『大物狩り』に『我が道の如く魔境を征く』…その言葉、魂に刻むわ!私も頑張る!」

 

その場に残され決心を新たにするアル。

 

「…何時言う?」

 

「面白いからもうちょい放置で♪」

 

タイミングを見計らってカヨコ達もやってきてそんな会話をしていると…

 

「あ、あのこのバッグ、あの人たち置いてっちゃったんですけど…?」

 

ハルカが道の上に置きっぱなしのバッグに気が付いた。

 

「ん?これはまさか…覆面水着団とジョーカーが私のために…!?」

 

「いや、ただの忘れ物じゃない?」

 

「結構重いよ?何が入ってるんだろ?」

 

彼らが持ってたものなので危険はないだろうが一応警戒して開けてみると…

 

「ひょえええ!?」

 

「こ、これは…!」

 

「これで…もう食事抜かなくて済みますか…?」

 

中に詰まった札束を見て普段の彼女たちとは思えない反応を見せ。

 

「―――――!?」

 

アルは白目を剥いた。

 

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

夕方となり場所は便利屋オフィス。

 

「なあああああああにいいいいい!!!?覆面水着団がアビドス廃校対策委員会でジョーカー・デリンジャーはネイト社長だったですって―!?」

 

「アハハハ!アルちゃんショック受けてるー!」

 

「はぁ…。」

 

結局、アルはムツキやカヨコから覆面水着団とジョーカー・デリンジャーの正体をばらされ白目を剥いてショックを受けていた。

 

が、

 

「…そう、そうだったの…。」

 

「ありゃ?意外と早く落ち着いちゃった?」

 

取り乱したのはそれっきりで落ち着きを取り戻した。

 

「そうか…。やっぱり…あの人は…あの人こそ…。」

 

「あ、アル様?」

 

そうぶつぶつとつぶやいていたその時、社長デスクに置かれた電話のベルが鳴り響いた。

 

「っととと、はい『便利屋68』、『陸八魔』…あぁ、カイザー理事。お世話になります。」

 

相手は今朝がた少々もめたカイザー理事からのようだ。

 

「ハイ、ハイ…えぇ!次の仕事が決まったんですか!」

 

「おぉ!予想よりも早く決まったねぇ!」

 

どうやら今朝言っていた次の仕事の依頼のようだ。

 

「えぇ、我々はいつでも仕事をお受け…。」

 

これで報酬も手に入る。

 

アルは笑顔になりながら内容を聞く。

 

だが、

 

「…え?」

 

「あ、アル?」

 

突然、アルの顔から笑顔が消えた。

 

「そ、それは…本気なのでしょうか…?い、いえそういうわけでは…!」

 

「あ、アル様?大丈夫ですか?」

 

その表情はどんどん沈んでいく。

 

どころか、その額には冷汗が浮かび上がり呼吸が荒くなってきた。

 

「わ、分かりました…。で、ですが少々社員と相談をしたいので…。は、ハイ、ハイ、可及的速やかに依頼受託の回答を…。では、失礼します…。」

 

と、そう言いアルは電話を切った。

 

その顔からは完全に血の気が引いている。

 

「あ、アルちゃん?カイザー理事からなんて言われたの…?」

 

「まさか、そんなに危険な依頼を任されたの?」

 

「だっ大丈夫ですよ、アル様!私達ならきっと…!」

 

他の便利屋のメンバーもいつにない彼女の異常事態に駆け寄りなにを言われたか尋ねる。

 

すると…

 

「…しよ…。」

 

アルがぼそりと呟き、

 

「ん?ごめん、アル。もう一回…。」

 

「い、依頼内容は…ネッネイト社長のさっ…殺害…依頼よ…。」

 

『ッ!!!?!?』

 

カイザー理事から便利屋に送られた依頼内容に今度は三人とも固まるのであった。




『大げさなことじゃない。死はつきもの。夢の国で会おう。』
―――シリアルキラー『リチャード・ラミレス』、通称『ナイト・ストーカー』
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