―――『鋼の錬金術師』より大総統『キング・ブラッドレイ』
8/31、一部内容を変更
ゲヘナ風紀委員会、言わずと知れたゲヘナの地の治安を維持する治安維持部隊だ。
その強さは折り紙付き、日々の訓練や校則違反者たちとの戦闘で経験も豊富だ。
銀鏡イオリ、火宮チナツ、天雨アコも無論それ相応の実力者だ
だが…そんな彼女たちの無線からは…
《こ、こちら第7小隊!至急救援を!部隊は壊滅、繰り返す壊め…いや、いやああ…》
《た、助けて!助けて、イオリ先輩!化け物、化け物がみん…》
《弾が、弾がもうない!!!なんで、何で止まらないの!?そんな、こんなの聞いて…》
《痛い痛い痛いぃぃぃ!!!やめて、放して!!!ごめんなさいごめんなさいごめ…》
《指示を聞いてただけなんです!いうことを聞いてただけなんです!だから助けて、神さ…》
《あ、アハハハハハ!!!こ、これはきっと夢だ、は、早く起きなきゃ訓練に遅刻す…》
『阿鼻叫喚』、恐怖・悲鳴・哀願・発狂…ありとあらゆる『悪夢』が無線の向こうで繰り広げられていた。
「第5小隊、第4小隊…通信途絶…!」
「な、何があったんだ!?応答をしてくれ!!!」
《誰か!誰でもいいですからなにが起こっているか報告を!!!》
幾らなんでも『速過ぎる』。
最初のあの通信から10分と経っていない。
だというのに…もうここにいる者以外で残っているのは…
「ざ、残存部隊は…第三小隊のみです…!」
すぐ後方に控える第三小隊のみだ
すなわち…奴がすぐそこまで来ている。
チナツが、イオリが、アコが、この場にいる風紀委員全員が後方に意識が注がれる。
いやでも伝わってきた。
交通事故のような衝撃が。
否が応でも聞こえてきた。
泣き叫ぶ同胞たちの絶叫が。
目を閉じても見せつけられた。
木の葉のように吹き飛ばされる同胞の姿が。
「ひっ…!」
誰かが発したか分からない短い悲鳴が聞こえてきた。
「あっアビドスは廃校寸前じゃなかったのか、アコちゃん…!?」
《じ、情報部からの情報は確かにそうだと…!》
「じゃあなんでこんなことができる化け物の情報がなかったんだよ!?」
こんなの情報にはなかった。
自慢ではないがゲヘナの情報部は優秀だ。
そんな組織が…こんな脅威を見逃すはずがない。
だが…
「ねぇ、その情報っていつの奴なの?」
セリカが何の気なしにそんな質問を投げかけた。
「は、はぁ!?そんなの最新の…!」
イオリがムカッとして怒鳴り返すも…
《そ、そんな…!》
逆にアコは手元の資料を見て愕然とする。
そこに記されていた日時は…
《な、七か月…前…!?》
「じっ冗談ではないのですか、行政官…!?」
はるか以前、もはや最新とは言えないような古い情報が…アビドスの最後の情報だった。
「ん…じゃあ知らなくて当然。」
「ど、どういう…!?」
「私たちは…半年前から変わったんですよぉ。」
「まだまだ小さいけど…生徒数は三桁超えてるのに。」
《さ、三桁!?どうしてそんなに回復を!》
自分たちの知らない情報の数々に驚愕するしかないアコやイオリ。
「…私もつい最近知って人のことを言えないけど…彼はたった一人、半年でアビドスを立て直した張本人だよ。」
「た、たった一人で…あのアビドスを…!?」
「その人は…私よりもずっとずっと優れてて強いよ。たぶん、この場にいる誰よりもずっと…。」
先生もその人物について語る。
「その人の名前は…『ネイト』。私と同じ…外からやってきた大人さ。」
その時だった。
ズゥン、と言う重々しい音が周囲に響いた。
肩を震わせる風紀委員会の面々。
恐る恐る振り返るとそこにいたのは…
「…お前らが主要部隊だな。」
身の丈2.5mはあろうかと言う真紅の装甲を纏った巨人だった。
両手にはそれぞれロケットブースターが装着されたハンマーとバットが握られている。
その背中には真紅の装甲と対比するかのように純白の金属製マントのような物が装着されていた。
さらに両手の得物と体のいたるところに装甲のそれとは質の違う『赤』が付着していた。
そしてなぜか…腰には黒いごみ袋を提げている。
「ま、まさか八個小隊を…たった一人で…!?」
チナツには信じられなかった。
八個小隊、つまり150人以上の人員だ。
それをわずか10分足らず…いや、移動込ならばさらに短時間で一人で…『撃滅』してきたというのだ。
その事実に至り…自らの意志とは関係なく奥歯がガチガチと鳴り始めるチナツ。
「お、お前が…!」
「なんだ、黒兎。」
「お前が…私の部下たちを!!!」
対するイオリが満身の怒りを込めて睨みつけるが…
「あぁ、あのただの案山子どもか。」
「か、案山子…だと…!?」
こともなげに今まで切磋琢磨してきた部下を案山子と切り捨てられ言葉に詰まる。
そして…
「ほれ、お前らに土産だ。」
ネイトはイオリやアコ達の前に腰に提げていたゴミ袋を投げた。
地面に落ちた衝撃で口が解け中が見えた瞬間、
「ひっ!?」
「あ…あぁ…!」
イオリとチナツの表情は凍り付いた。
中に詰まっていたのは腐りかけの生ごみと…大量のゲヘナの認識票と風紀委員会の腕章だ。
そのどれもこれも…血でべっとりと汚れている。
「…どうした、お前らが望んだことだろ。」
「の、望んだって…どういう…!?」
「お前ら…俺達と戦争がしたいんだろ?だったら、戦争で手柄を示すのは当然だ。」
恐ろしく平坦な声だった。
こちらのことは何も眼中にない。
まるで…子供が遊び半分で虫を潰す、そんな無関心さだった。
「ち、ちがい…ます…!こんなの…私たちは…!」
「おいおい、まさかもっと違うのを持って来いっていうのか?」
否定するチナツを見て何を思ったかその者は…
「…よし、じゃあ次からは…お前らご自慢の角を持ってくるとしよう。」
名案でも思い付いたかのような、そんな軽い調子で提案してきた。
限界だった。
「てぇめえええええええええええええ!!!!!」
「い、イオリっ駄目!!!」
怒りを爆発させたイオリが全速力で突っ込む。
「許さない!土下座しようと大金詰もうと足舐めようとテメェだけは!」
突っ込みながらクラックショットを連射。
だが…すべての弾丸はむなしい金属音を上げ弾かれ装甲に傷一つつかない。
さらに、その怒りの文言を言い終える前に…
「ぐえッ!!?」
その者は一瞬のうちに間合いを詰めイオリの鳩尾にロケットバットを叩きこんだ。
今までに感じたことのない衝撃と痛みだった。
「がっ…はぁ…ッ!」
武器が手からこぼれ腹部を抑え地面に跪くイオリ。
だが、
「おい、立て。」
「きゃあ!?」
その者はイオリの長い銀髪を掴み強引に起き上がらせ、
「こんなもんですんじゃ…俺の気が収まらないんだよ…。」
「ヒィッ!」
ヘルメットのバイザー越しでも分かる怒りに満ち満ちた目で睨みつけた。
見たこともないその怒りの濃度、狂気を感じるおどろおどろしさ。
イオリは先ほどまでの怒りなど忘れ悲鳴を上げる。
その時、
「い、イオリ先輩を離せえええええ!!!」
果敢にも風紀委員会の隊員たちがネイトに向かい突撃。
「やッやめろ、来るなあああ!!!」
イオリが制止するも…
「ふん。」
ネイトは鼻で笑ったかと思うとイオリの髪を手放した瞬間姿を消し、
「げギャッ!?」
今度は突撃してきた先頭の風紀委員会隊員に袈裟斬りの要領で右手に持つロケットハンマーを叩きつけ叩き潰した。
比喩ではない、まるで潰れた空き缶のようにその体は潰された。
『ッ!?』
悲惨な仲間の末路に怯んだか、後続の風紀委員たちの足が鈍った。
それを見逃すネイトではない。
すぐさま一歩を踏み込み、
「づぇあ!!!」
「ごボォッ!?」
左手のロケットバットを顔面に叩きこむ。
その一撃で頭部を形成する骨格と左半分の歯が粉砕。
勢いそのままにその隣にいた数人諸共を腕や肋骨に脊椎を破壊しつつ殴り飛ばし迫撃砲で破壊された車両に叩きつけた。
さらに、
「シュッ!」
「ぐえっ!?」
続く風紀委員にヤクザキックの如く右足で前蹴りを放ち、肋骨を粉砕。
おまけに爆発ベントが作動、ビルの壁に叩きつけられる勢いで吹き飛ばされた。
一撃一撃が…弾丸すら寄せ付けないキヴォトス人の肉体を容易く破壊する凶器。
「こ、このおおおおおお!!!」
ならばと今度は間合いを取り一個分隊ほどの風紀委員たちが弾丸の雨を浴びせるが…
「芸がないな。」
まるでそよ風かのように弾丸を浴びながら歩むネイト。
全身で火花が散っているが装甲そのものに傷一つついている様子がない。
その弾幕もマガジンの残弾をすべて吐き出し止まり、
「そ、そんな…!?」
「終わりか?じゃあ…お返しだ。」
呆然とする風紀委員たちに対するネイトの対応は早かった。
すぐさま手にある物を出現させ、その尾部を自らの装甲で叩きその一団に剛速球で投げつけ、
「ぐえッ!?」
それは一人の風紀委員の腹にめり込み動きを止めた…瞬間、レーザーライフルを抜き放ちV.A.T.Sを起動し照準を合わせ発砲。
Perk『Demolition Expert』、ネイトが扱う爆発物の加害範囲・威力を増加させるPerkであるがもう一つ特殊な効果がある。
それは…V.A.T.S中に爆発物を撃ち抜くとさらに威力が倍加するというもの。
ネイトが今投げつけたそれは…風紀委員が用いていた50㎜迫撃砲弾だ。
一発で建築物を瓦礫に変える威力を持つ砲弾の威力がさらに倍。
瞬く間に爆炎と衝撃波がその一団を飲み込む。
そんな物が間近で爆発してタダで済むはずがない。
炎が晴れると…すべての手足があらぬ方向に曲がった状態で地に伏せていた。
『ヒ…ヒイイイイイイイイっ!!!』
瞬く間に…一個小隊が食われた。
残るは…第一小隊の自分たちだけ。
誰が挙げたか分からない悲鳴を上げ蜘蛛の子を散らすように逃げる。
前方はアビドス対策委員会と便利屋68がいる。
逃げるには…ネイトの逆サイドを突くしかない。
だが…
「ギャガッ!?」
「どこへ行く?」
「あ…あぁ…!」
ネイトは再び瞬間移動の如き速度で自分たちの一番前を走る風紀委員をロケットハンマーで叩きのめし立ちふさがった。
「言ったろ。お前たちは…一人も逃がさない。」
両手に再びロケットバットとロケットハンマーを握り直し血糊を振り払いながら迫る。
すると、
《…貴方がアビドスを立て直したというネイトさん…ですか。》
「あ、アコ行政官!」
ネイトと風紀委員の間に割り込むように新たなドローンが飛んできてアコがネイトと対峙する。
(大丈夫…普段通りよ、アコ。そうすれば…この子たちを守れる…!)
そう心の中で呟き…
《…このキヴォトスで銃ではなく鈍器で戦い、我々風紀委員会に奇襲を仕掛けるとは…先生と違って余程の蛮地から来られたと見えますねぇ。》
シロコやアル達に見せた慇懃無礼な態度を一切崩さずネイトを挑発。
「…。」
だが、ネイトは一言も発さずその歩を止めない。
《あなたには大勢の風紀委員がお世話になったようですね…。でしたら、そのお礼をしなければと…。》
なおもアコは皮肉を込めた言葉を重ねるが…
「…。」
《え…?》
ネイトはアコの立体映像を無視し通り過ぎ、
「ばべっ!!!」
『~っ!!!???』
そこにいた風紀委員を無慈悲に叩きのめし始めた。
「や、やめッヴぇあ!?」
「あ、アコ行政官助けぼべぇっ!?」
「も、もう二度ときまビュバッ!?」
悲鳴と助けを求める声にアコは…
《やめなさい!その子たちにもう戦う意思は…!》
「………。」
必死の形相でネイトを制止するが一切聞く耳を持たない。
中にはへたり込み茫然自失となり涙を流す風紀委員も出たが一切容赦しない。
その様子を見て…
「あ~ぁ、アコちゃんお気の毒さまだぁ…。」
ムツキが愉快そうな表情をしながらアコに同情する。
「ん…どういうこと、ムツキ?」
「だって、アコちゃんったらずっと『私がこの場のボスだ!』って感じでふんぞり返ってたじゃん?」
「確かに、ずっとむかつく態度だったわね。」
「それをガン無視されて風紀委員の子達を滅多打ちにされてるでしょ?あれじゃあアコちゃん立つ瀬がないよ。」
「あれじゃまるで学級崩壊の教壇に立つ教師見たいですねぇ…。」
「あはっ、面白いたとえだね!」
「ノ、ノノミ?私の精神もダメージ喰らっちゃいそうだから想像させないで…。」
終始、そう笑顔でアコの精神状況の分析を語るムツキ。
そして、
「ねぇねぇ?そんなに取り乱しちゃだめだよ、アコちゃぁん?」
《ムツキさん…!》
こちら側にあるアコの立体映像に近づき煽り始め、
「ほらぁ、さっきみたいに笑ってよ!ほらほらぁ!」
《今はそんなことを言ってる状況じゃ…!》
「あれぇ?どうしたの、そんなに眉間にしわ寄せちゃってぇ?笑ってよ、ほらぁ!こう笑うんだよぉ?!」
牙をむき出しにしたような獰猛な笑顔を見せつけた。
そうこうしているうちに…
「ギャブッ!?」
「フン…。」
最後の風紀委員にロケットハンマーが叩き込まれ…一般風紀委員は全滅。
残るは…
「さて…続きをしようか。」
「ひっ…!」
ネイトはそう言い、イオリに迫る。
と、そこへ…
「と、止まってくっ…ください…!」
「ち、チナツ!ダメだ、逃げろ!」
チナツが割り込みネイトに向け自身の銃モーゼルM714『サポートポインター』を構える。
ライフル弾でさえ通用しないのだ。
いまさら拳銃でどうこうできる相手ではないと分かっているが…
「と、止まらないと撃ちます…!」
震える足でそれでもネイトの前に立ちふさがりイオリを守ろうとする。
「ほぉ?」
ネイトはそんなチナツにそう声を漏らし…彼女の目の前で歩を止めた。
そして…X-02のヘルメットをとり、
「ほら、撃てよ。」
「え…!?」
「撃てよ、ほら。ここを狙うんだよ。」
何を思ったか、サポートポインターの銃身を掴み自分の眉間に押し当てさせた。
「なっ何をしてるんです!?」
「どうした?撃つんだろ?簡単だ、引き金を落とせばいい。」
「じ、自分が何をしてるか…!?」
「どうした、早く撃てよ。俺はキヴォトス人じゃない。引き金を引けば一発だ。」
そう、ここで今チナツが引き金を引けば…ネイトは容易く死ぬ。
そうすればイオリは守れる。
だが…
「どうした?言っとくが…いまさら銃の撃ち方を教えてやるほど俺の気は長くはないぞ?」
「い、いや…!」
「やれよ、ほら。千載一遇のチャンスだぞ。」
「イヤっ!嫌です、放して!!!」
チナツは涙を流し一向に撃とうとしない。
それを見て…
「…そうか。」
一言ネイトがそう呟き、彼女の手を離した…瞬間、
「ーッ!!!」
「グハッ!!?」
パワーアーマーの巨拳が…彼女の顔に叩きこまれ殴り飛ばされた。
「攻撃仕掛けておいて敵を撃つ覚悟もない奴が…戦場に立つんじゃない…!」
倒れ伏すチナツに唾棄の視線を向け、ヘルメットをかぶり直すネイト。
「さぁ、残るはお前だけだ。」
「よ、よくもチナツを…!」
銃を杖代わりにしなんとか立ち上がるイオリ。
だが…その目に先ほどの闘志はもうない。
「あぁ、そうだ。せっかくだから…俺も言っておこう。」
「な、何を…!?」
「俺もな、お前らが土下座しようが大金積もうが足舐めようが…一切許すつもりはない。」
「~ッ!?」
イオリの先ほどの発言が…超音速のブーメランとなって襲い掛かる。
「う、うわあああああああ!!!」
破れかぶれだった。
絶叫しながらイオリはクラックショットを振り被りネイトに殴りかかろうとする。
だが、
「よく撥ねるウサギだ。」
「ああああああああッ!!!?」
《イオリッ!!?》
フルスイングのロケットハンマーがイオリの両膝を薙ぎ払い吹き飛ばす。
その一撃でイオリの両膝は破壊、機動力を一気に奪った。
「さて…とどめと行こうか。」
「たっ助けっ助けて、アコちゃん!!!助けてよ!」
ここにきて、ネイトはロケットハンマーを両手で握りしめイオリに迫る。
動かない足を引き摺り這いずって逃げようとするイオリだが、
「ぐあ!?」
「大丈夫、キヴォトス人は…そう簡単に死なない。」
ネイトは足を踏みつけそれを阻み…
「じゃあな、黒兎。今度アビドスに手を出したら…今度こそ地獄に叩き落としてやる。」
全重量を込めてイオリの頭目掛け大上段からロケットハンマーを降り下ろした。
《やめてええええええええ!!!》
アコの悲鳴が周囲に響き渡った次の瞬間…地に響くような衝撃音が周囲に響き渡った。
『ッ!!?』
その場の全員が固まった。
「あ…あれ…?」
イオリの意識は…まだあった。
ネイトがこの一撃を外すとは思えない。
「な、何で…!?」
理由を確かめるために見上げると…
「イオリ、大丈夫?」
「ッ!?」
その人は…そこにいた。
パワーアーマーを着たネイトと比べ二回り…いや半分以下と言ってもいいほど小柄な体。
腰からはその身の丈を優に超える一対の翼が生えている。
頭上には実体化したゲヘナのシンボルと同じ形状のヘイロー。
腰まで伸びた柔らかい白髪。
その得物は…体格に不釣り合いな長物『MG42』。
軍服のような制服と肩にかけているコートには『風紀』の腕章。
その細腕が…片腕でネイトの全重量を乗せたロケットハンマーを受け止めていた。
そして、
「…フン!」
「ぐあッ!?」
圧倒的体格差と重量さだというのに…右のパンチ一撃でネイトをビルのウィンドウを突き破る勢いで殴り飛ばした。
「ひ、ヒナ委員長ッ!!!」
イオリの目に一気に輝きが戻り…
「ヒナっ…!?」
「まさか、奴まで出てくるなんて…!?」
「こりゃ少しヤバいかも…!」
「あ、あわわわわ…!」
便利屋たちは一気に焦り始める。
「あれって…!」
《外見情報も一致します…!間違いなく本人のようです…!ゲヘナの風紀委員長…空崎ヒナ…!》
「ん…ゲヘナ最強っていう…!」
「超大物じゃない…!」
シロコたちもその正体に驚愕する。
空崎ヒナ…ゲヘナの風紀委員長にして…ゲヘナどころかキヴォトスにおいて最強の一角と称される人物だ。
「い、委員長…!?どうしてここに…!?」
「…アコ、この状況…説明してくれる?」
「そ、それは…ッ!」
有無を言わさないヒナの質問に言葉を濁すアコ。
《そ、その!こ、これは素行の悪い生徒たちを捕まえようと…!》
「…そこにいる便利屋68のこと?」
《そ、その通りです!ですから…!》
ヒナの指摘を聞き、それに飛びつくが…
「そのためだけにアビドスまで無断で部隊を動かし無警告の砲撃を加えたの?」
《そ、それは…!》
「アコ、これがどういう意味か分かる?私たちは風紀委員であって生徒会じゃない。他学区での部活動は原則禁止…もちろん知ってるわよね?」
《は、はい…!》
「他校自治区における無断兵力運用、および一般人への無警告発砲、他校生徒との衝突…いくら問題を重ねれば気が済むの?」
アコに対し理路整然と正論をぶつけ彼女の愚行を認識させるヒナ。
そして…
「では…この惨状は?一個中隊が壊滅、全員が重傷よ。何があったの?」
《それに関しましては…!》
風紀委員会の惨状について尋ねた…その時だった。
周囲に鳴り響くエンジン音。
その音はシロコたちの後方から響いてきた。
そこにいたのは…
「お待たせ、まだやってる?」
ATV、四輪バギーに跨ったホシノだった。
「ホシノ先輩!」
「ん…ネイトさんがほとんど倒しちゃったけど…!」
「ゲヘナの風紀委員長さんが…!」
「…分かったよ。みんな、少し下がってて。」
周囲の戦場の様子とシロコたちの話を聞きホシノは銃と盾を携えてシロコたちの前に歩み出る。
その目は…鋭いものに変わっていた。
(アビドスのホシノ…!?まさか…小鳥遊ホシノ…!?)
その名を聞きヒナはホシノに警戒を高める。
「さて…ここがどこだか分かってるよね、ゲヘナの風紀委員長ちゃん?」
ホシノはヒナと対峙し鋭い目つきのまま尋ねる。
「…一年生の時のまま…いえ、もっと鋭くなってるわね、小鳥遊ホ…。」
ヒナはホシノにそう声をかけるが…
「御託はいいよ。さっさと答えて。」
「…ッ!?」
「あなた達は、アビドスに、こんな大勢率いて、柴関ラーメンをフッ飛ばして、何をしに来たのか。…さっさと答えろ。」
凄まじい気迫を発しヒナに余計な発言を許さないとプレッシャーをかけるホシノ。
「…この衝突は決して風紀委員会の総意じゃない。」
「ふんふん。」
「でも、そちらが私たちの公務を妨害したのも…。」
その迫力に気圧されずヒナも反論する。
「それって便利屋ちゃんたちのこと?」
「えぇ…彼女達はゲヘナでは指名手配されているわ。」
「…それはゲヘナでの話。ここはアビドスで彼女たちはなぁんにも悪いことしていない。それは分かる?」
「それは…。」
「で、それなのにこんな大勢で私たちの街に攻撃を仕掛けたと…。」
次の瞬間だった。
「悪いけど…落とし前付けてもらおうか。」
「なッ…!?」
「ヘイローの無事は保証できないよ。」
凄まじい怒りがホシノから放たれEye of Horusに初弾を装填する。
さらにその時、
「いいパンチだな、嬢ちゃん。」
『~ッ!!?』
「ゲヘナの風紀委員長…その称号は伊達じゃないってわけか。」
《嘘…!?》
「ノーダメージ…!?」
ケロッとしたネイトがヒナに殴り飛ばされて空いた穴から出てきた。
「ネイトさん、大丈夫ですか?」
「イヤぁ面目ない。EMVが結構たまったが…パンチの威力自体は大したことなかったな。」
「そうですか。で、まだやれますよね?」
「No Ploblem。サッサと…その『綿埃』を掃除するとしようか。」
そう言い、今一度ロケットハンマーを握り直すネイト。
「了解、いったいここがどこで…何をしたかを骨の髄まで教育してやる…!」
ホシノも一層闘志を漲らせる。
「小鳥遊ホシノにそこのあなた、私達にはもう戦闘の意志は…!」
ヒナは何とか両者をなだめようとするも…
「俺に殴りかかってきておいてよく言う…!」
「戦いの火蓋きっといて…その程度で私たちが止まるとでも…!?」
最早…分水嶺はとっくに過ぎてしまっている。
次の瞬間、
ネイトは猛ダッシュで一気にヒナとの間合いを詰め、ホシノはEye of Horusを構え引き金を下ろした。
「クッ!」
ヒナも自身の得物MG42『終幕:デストロイヤー』をネイトに構えた。
今ここに…ゲヘナ最強とアビドス二大巨頭の戦いが幕を開けた。
『一人でも最強。チームなら無敵』
―――『特攻野郎Aチーム』より