Fallout archive   作:Rockjaw

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一人一人が自分の仕事をきちっとこなすこと。この個人プレーの連携が、真のチームプレーなのだ。
―――元ラグビー選手・スポーツキャスター『松尾雄治』


Breaking the Devil, Contracting the Devil

ゲヘナ風紀委員会のアビドス襲撃から端を発する今回の事件。

 

その騒動はまさに佳境を迎えていた。

 

時速100㎞と言う高速で迫るネイトに向け放たれるヒナの終幕:デストロイヤーの弾幕。

 

彼女たちは知らないがその高発射レートで『ヒトラーの電気ノコギリ』という異名で連合軍に恐れられた傑作汎用機関銃だ。

 

しかも、装填されている弾丸は炸裂式の『薄殻榴弾』である。

 

これを持って彼女は幾多の校則違反者たちを制圧してきた。

 

だが…

 

「打ち上げ花火なら…!」

 

「き、効かな…!?」

 

「よそでやれ!!!」

 

その弾丸をよけることなく一身に浴びてもネイトの進撃は止まらなかった。

 

無理もない。

 

幾ら薄殻榴弾と言っても7.92㎜モーゼル弾では炸薬量などたかが知れている。

 

それを旧式であっても25,000Jの運動エネルギーを吸収する装甲を有するパワーアーマー相手には…分が悪すぎる。

 

ましてやネイトが纏うは最新式のX-02、当然装甲性能も飛躍的に向上している。

 

ネイトはそのままロケットハンマーを降り下ろす。

 

「まだ…!」

 

射撃を中断し防御姿勢をとろうとするが、

 

「一人だけ見てていいの?」

 

「た、小鳥遊ホシノ…!」

 

ホシノのEye of Horusの弾丸がヒナに襲い掛かる。

 

弾丸は通常よく用いられるOOバックショット。

 

通常ならこれで気絶位はするが…

 

「クッ…!」

 

ヒナはまともに食らったがそれを耐える。

 

そして、

 

「むん!!!」

 

ネイトもスピードをたっぷり乗せたロケットハンマーを降り下ろすが、

 

「ツウ…!」

 

「…ほう。」

 

それを左前腕で受け止めて見せた。

 

彼女がなぜキヴォトス最強と称されるのか。

 

無論、ずば抜けた身体能力や神秘の総量などもあるが最も特筆されるのは…その防御力の高さだ。

 

彼女はその身一つで弾丸を浴びてもものともしない鋼の体を手にしている。

 

ネイトの攻撃を受け止めて無事なのもそれが一番の要因だ。

 

しかし、

 

「だったら、もう一丁!」

 

その状態で今度は左手にロケットバットを出現させ、

 

「ぜラァッ!!」

 

「がはッ!?」

 

ヒナのボディにフルスイングで叩きこむ。

 

幾ら受け止められるとしても規格外の怪力を誇るのはパワーアーマーを着たネイトとて同じ。

 

小柄な体ではその威力は受け止め切れず10mほど弾き飛ばされる。

 

「クゥ…!」

 

それでも今までの風紀委員と違いヒナは倒れない上ダメージも少なそうだ。

 

「頑丈な奴だ…。」

 

「通常弾は弾の無駄ですね。」

 

一旦場が仕切り直されたためネイトとホシノは今の短い時間でのヒナの戦闘力の分析をし、

 

「おしゃべりする暇があるの…ッ?」

 

「ホシノ、痺れさせてやれ!」

 

「了解!」

 

ヒナが得物を構えたと同時に二手に分かれ駆けだす。

 

(あの男…ネイトと言われていたわね。私の通常攻撃ではあの強化装甲を破壊するのは不可能…。)

 

間合いを確保するため後ろに飛びのきつつヒナもまた先ほどの短いやり取りでネイトとホシノの戦力を分析、

 

(ならば…私が先に狙うべきは…!)

 

その得物を向けたのは…

 

(小鳥遊ホシノ…!)

 

ホシノだった。

 

が…

 

「おいおい、よそ見する暇は…!」

 

「え…!?」

 

まだ間合いがあったはずのネイトが…ロケットハンマーを振りかぶった状態で眼前に現れ、

 

「ないぞッ!」

 

「がフッ!?」

 

今度こそヒナのボディにロケットハンマーがクリーンヒット、ビルの外壁に叩きつけられた。

 

「この…!」

 

それでもまだ動けるヒナはすぐにネイトに飛び掛かろうとするが、

 

「おっとさせないよ。」

 

「あぐぐぐぐ!!?」

 

そこにホシノがチャンバーに直接装填した『テイザー弾』を発砲し動きを阻害。

 

さらにチューブ後半に装填していたAPスラグ弾も叩きこむ。

 

散弾ならまだしもスラッグ弾はヒナにもダメージが通る。

 

そこへネイトも全力ダッシュ、ヒナ目掛け『Pain Train』の効果が乗ったショルダータックルを叩きこんだ。

 

1tの人型の金属の塊が突っ込んでくる。

 

その一撃の威力はかつてクルセイダーを横転させたことからも分かる通り。

 

さすがのヒナも食らって無事で済むはずが…。

 

だが…相手はゲヘナ風紀委員長だ。

 

「ぐッ!」

 

硬直する身体を強引に動かし刺さっていたテイザー弾を引っこ抜き…

 

「見くびらないで…!」

 

その巨大な翼を広げ宙に飛び立ちビルの壁を駆けのぼりネイトのタックルを回避。

 

そのままネイトは何もないビル壁に衝突、寸前で速度を殺したかそこで止まった。

 

「お前らって飛べるのかよ…!?」

 

見上げると翼をグライダー代わりに滑空しているヒナを見て思わずそう呟くネイト。

 

「とっておきを食らわせてあげる…!」

 

そう言うとヒナは…自らの神秘を終幕:デストロイヤーに込め始める。

 

するとどうだ?

 

その銃に付けられたマズルブースターが紫色に輝き始め…

 

「『イシュ・ボシェテ』…!」

 

最早ビームと言わんばかりの発射レートで放たれるヒナ必殺の紫の曳光の弾雨がネイトに襲い掛かる。

 

「出番だぞ…!」

 

次の瞬間、紫炎の爆発がネイトを包み込んだ。

 

(神秘を込めた炸裂弾の集中爆撃…!これなら…!)

 

あの一撃に耐えられた者はいない。

 

いかにあの男でも…そうヒナは思った。

 

だが…煙が晴れるとそこにいたのは…

 

「なっ…!?」

 

あの一撃を食らっても全くの無傷の純白の長円形の物体だった。

 

「うん、さすがはアイツの装甲だ…!」

 

それは先ほどまでネイトの背中に装着されていた純白のマントだったもの。

 

そのマントが変形した盾に護られたネイトはあの爆撃を無傷で乗り切った。

 

背後に隠れつつネイトはその性能とこの装備の有用性を満足そうに頷く。

 

そう、これこそネイトが先日開発した展開型背部防御ユニット、通称『スカラベ』である。

 

装甲材には『ケテル』の装甲を加工して使用。

 

あれだけの巨大さだというのにワイヤーによる高い機動力を有するケテル。

 

それを実現したのが…この装甲だ。

 

対戦車ミサイルを複数発受けてダウンするに留まったことから数㎝程の厚みでも並のMBT以上の頑強さは保証済み。

 

さらに戦車装甲並みに分厚ければヘルファイアミサイルをも完全に防いでいた。

 

そして、この装甲の驚異的な点は…その軽量さだ。

 

その密度は…1.2g/㎤、アルミの半分以下の軽量さで複合装甲に匹敵する強度を有するのだ。

 

キヴォトスから見て常識外れの技術を持つ連邦出身のネイトから見ても異常と言わざるを得ない常識外れの装甲である。

 

ケテル戦において『神秘』という新たな脅威をその身をもって味わったネイト。

 

その脅威に対抗するために…その脅威を味合わせたケテルの装甲に目を付けたのだ。

 

先日回収したケテルの残骸から装甲をはぎ取り成型、Mrハンディのアーム機構を強化し開発した展開機構とともに背部ユニットに装着。

 

パワーアーマーと言う大柄な体型上、形状は縦長の長円形に。

 

その形状が古代エジプト時代から崇拝されていた『スカラベ』に酷似していたことから命名された。

 

今日はその試験日だったのだが…『ゲヘナ風紀委員会委員長』という規格外のテスト相手に見事初陣を飾って見せた。

 

おそらく神秘が多分に乗った攻撃を受けてもネイトにそれは伝わっておらずEMVの増加もほとんどない。

 

「良い的だよ…!」

 

何はともあれ…ヒナは攻撃を放った反動で滞空状態だ。

 

スピードローダーでFLAG12を装填したホシノが速射。

 

「グゥッ!?」

 

薄い装甲板なら貫く貫通力を有するFLAG12がヒナに着弾。

 

いかに高い防御力を有する彼女でもこれはさすがに堪えたか回避するためすぐさま崩れた体勢を立て直し滑空を再開。

 

(なんてコンビネーション…!互いが互いを庇いあい、その隙を存分に…!)

 

その最中、ヒナはこの二人の連携による戦闘能力を評価する。

 

どちらもまるで己の『半身』かのように信頼し、その信頼に言葉を交わさずとも答える。

 

しかも単身の戦力は…

 

(小鳥遊ホシノ…2年前より遥かに鋭く強くなっている…!)

 

ホシノは自分がかつて知る彼女の強さははるかに凌駕し…

 

(そして、ネイト…!強化装甲服があるとはいえ…小鳥遊ホシノの強さを…!)

 

その時だった。

 

先ほどの自分の紫の弾道と対比するように蒼の弾道が迫り…

 

「きゃああああッ!!?」

 

ヒナの頭部に着弾、蒼い閃光を伴って炸裂。

 

今まで感じたことのない衝撃と痛みが彼女に襲い掛かる。

 

「フン、ブロードフライやブラッドバグのほうがまだ狙いにくい。」

 

いつの間にかスカラベを収納したネイトが構えていたのはガウスライフル。

 

いかにヒナが飛んでいようとそれは『直線的』過ぎた軌道だ。

 

かつて連邦で遭遇した突然変異の巨大昆虫の飛行と比べるとあまりにも狙いやすい。

 

そこに確実性を高めるV.A.T.Sとクリティカルを併用。

 

普通に発射してもキヴォトスに普及している戦車相手で複数台串刺しにできる貫通力だ。

 

その一撃が…ライフルによるヘッドショットを虫でも止まった程度にしか感じないヒナの防御を貫き大ダメージを刻む。

 

この一撃には耐えきれず…

 

「がはッ!?」

 

ヒナは道路に墜落、頭部からかなりの出血が見られる。

 

(な、何…あれ…!?わ、私の防御が役に立たない…!?)

 

未知の攻撃、頭部への大ダメージも重なり思考がまとまらない彼女に…あの足音が伝わってきた。

 

振り返ると先ほどのシールドを展開しこちらに迫るネイト。

 

「こ、来ないで…!」

 

まだダメージが抜けきっていない。

 

効かないのは分かっているが牽制のために終幕:デストロイヤーを発砲。

 

的が大きいためほぼすべての弾丸が命中するが…一向にその足は衰えない。

 

「だったら…!」

 

ならばと右こぶしを固めるヒナ。

 

先ほど、ネイトを殴り飛ばしたことからも彼女の力はキヴォトス人基準でもかなりのもの。

 

先ほどと同じことをしようと間合いを図る。

 

そして…ネイトが接近してきた瞬間…その背後から飛び上がる人影、ホシノが現れた。

 

その両手にはネイトが持っていたロケットバットが握りしめられ体中のバネを引き絞り振りかぶられている。

 

(た、小鳥遊ホシ…!)

 

ホシノに意識を持っていかれたタイミングを見図られたのか…眼前のシールドが解かれ…背後からロケットハンマーを横薙ぎに振りかぶるネイトが現れる。

 

上下で縦横の逃げ場のないコンビネーション攻撃だ。

 

(だ、ダメ…避け切れ…!)

 

次の瞬間、

 

「シィッ!!!」

 

「ゼェアッ!!!」

 

裂帛の声と共に…頭部と左側面へとてつもない衝撃と電撃が走り彼女の体は再び吹き飛ばされ今度は自分がショーウィンドウを突き破った。

 

「ナイスアタック、ホシノ。」

 

「その盾凄いですね、あれだけ喰らってほぼ無傷とは…。」

 

「想像以上の強度だ。これ以外にも利用できそうなのが楽しみだ。」

 

飛びあがったホシノを左腕で抱えるように受け止めたネイト。

 

彼女を下ろしつつ戦闘中だというのにそんな会話をするが両者とも意識はショーウィンドウの奥に向けられている。

 

その時、

 

「…!ホシノ、『来た』ぞ。」

 

「了解…!」

 

眼前を見据えると…

 

「はぁ…はぁ…!」

 

息も荒く全身ズタボロだが…ヒナが歩み出てきた。

 

(三発でようやく骨折か…。)

 

中でもネイトが注目するのは…彼女の左腕。

 

腕の形状が数か所で『折れ曲がる』という痛々しいを通り越した惨状だ。

 

ネイトのロケットハンマーに付与されているレジェンダリーは『無力化』。

 

これは部位の耐久性へのダメージを増大化させるものだ。

 

加えてロケットハンマーその物にも四肢をへし折る効果がある。

 

キヴォトス人でも掠りでもすれば腕や足が折れるような代物だ。

 

それを直撃で三撃でようやく左腕を奪えた。

 

しかも、まだ彼女の闘志は衰えていない。

 

「随分頑丈だな。」

 

皮肉でも何でもなくネイトは彼女の心身のタフさを称賛。

 

「私もあそこまでの根性は見たことありません。」

 

ホシノも敵ながらヒナを評する。

 

「ま…負けられないのよ…!私は風紀委員会委員長…!」

 

ヒナは左手が動かないため足でレバー式のハンドルを踏み込み再装填、

 

「面倒ごとばかりでも…これだけは譲れない…!」

 

圧倒的不利な状況でありながらネイトとホシノをしっかりと見据える。

 

「…だったら俺達にも譲れないものがある。」

 

「アビドスの底力…その目に焼き付けろ…!」

 

その覚悟に答え…ネイトとホシノは攻撃を再開。

 

ヒナも終幕:デストロイヤーを構えネイトも得物をレーザーライフルに持ち替え互いに発射。

 

薄殻榴弾が前進に叩きこまれる中ネイトが狙ったのは…終幕:デストロイヤーそのものだ。

 

レジェンダリー『V.A.T.S.強化』の効果もあって高命中率とAP消費減少も相まって15発のレーザーが叩き込まれ、

 

「じ、ジャム…!?」

 

機関部が赤熱するほどの異常過熱により発射がストップ。

 

「隙あり!!!」

 

(お、斧…!?)

 

その隙に接近していたホシノ、手にはハンドアックスが握りしめられている。

 

いまあれを受けるのはまずい。

 

「ぐッ…!」

 

痛む身体を無理やり動かしその軌道上に終幕:デストロイヤーを滑り込ませる。

 

だが、それこそホシノの狙いだった。

 

ホシノのハンドアックスは完璧な軌道を描き…赤熱する機関部に叩きこまれ…

 

「鉄は熱いうちに…断てってね!」

 

「じ、銃が!」

 

斧の重量とホシノの膂力によって終幕:デストロイヤーが叩き切られた。

 

さらに、

 

「0距離でこれはかなり効くよ!」

 

「ガフッ!!?」

 

左手でEye of Horusをヒナに押し当て連続発砲。

 

さすがにこの攻撃は彼女にもきつく飛びのいて間合いを取り直すが、

 

「そこォッ!!!」

 

「クゥッ…!」

 

再び両手にロケットハンマーとロケットバットを構えたネイトがヒナ目掛けその凶器達を振りかざす。

 

喰らったらもうあとはない、ヒナも必死に回避するが…

 

「シィッ!」

 

「グフッ…!?」

 

無情にも近接戦に関する熟練度はネイトに軍配が上がる。

 

ロケットバットが彼女の右わき腹に叩きこまれヒナはまたしても道路のど真ん中まで殴り飛ばされ。

 

「ぐぅ…!」

 

最早全身ズタボロでいたくない場所はない、愛用の武器はもう破壊されてしまった。

 

それでも…

 

「ごめんなさい…。借りるわね…!」

 

その場で倒れ伏している風紀委員が持っていたライフル『AR70/223』を拾い上げる。

 

「…まだやるかい?」

 

「まだよ…!まだ終わってないわ…!」

 

「…そうか。だったら…一発は一発だ、覚悟しろよ。」

 

その時だった。

 

まるで笛のような甲高い音が響いたかと思った次の瞬間、

 

「―――――ッ!!?!!??!?」

 

ヒナのこれまでの経歴の中で…味わったことのない衝撃が左わき腹に襲い掛かった。

 

その一撃によってヒナの体は高速で横にカッ飛んでいった。

 

「…ホールインワンだ。よくやった、『セクレタリーズ』。」

 

ネイトがそれを実行した部隊に無線を送る。

 

ネイトたちがいる場所から…500m、アビドス側寄りの路上。

 

「いよっしゃああああああ!やってやった、やってやったぞぉぉぉ!!!」

 

「元トリニティの落ちこぼれのアタシらがゲヘナのッ!!!それも風紀委員長に一発ブチかましてやったぞおおおおお!!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

アウトリガーを展開した中型トレーラーの周囲にいた…元トリニティ所属『七転八倒団』の生徒たちが大盛り上がりで喜びを爆発させていた。

 

トラックの荷台には…砲口から砲煙を上げる純白の大砲が据え付けられている。

 

そう、これがネイトが言っていた修理が完了し今日試験を行うはずだった代物だ。

 

有り体に言えば…ケテルに搭載されていたキャノン砲である。

 

破壊されたキャノン砲型ケテルの残骸から状態の良い部品を持ち帰り修理しいくつか改良を加えたW.G.T.C.の新装備、軽量155㎜榴弾砲システム『サジェタリアス・アイ』である。

 

先述の通り、ケテルのあの白い装甲の素材は非常に軽量。

 

それは同じ素材のキャノン砲型ケテルの大砲にも言える。

 

それでいてそんな軽量でありながらも何の苦もなしにキャノン砲型ケテルは連続砲撃を行っていた。

 

つまり…非常に優秀な『駐退機』が装着されていることに他ならない。

 

サンプルはいくらでもあるのでネイトはその部品も捥ぎ取って回収。

 

それらを分析、修理し三重のマズルブレーキも装着することで155㎜と言う大口径砲の反動を極限まで低下させることに成功。

 

単発式となったが軽量さも相まってトラックに搭載しアウトリガーを展開すればわずか数人でも即砲撃支援が行える優れモノとなった。

 

そこへ一時期『砲兵』の役割を担っていた元七転八倒団の生徒を配置、今日射撃試験を行う…予定だったのだがまさかの実戦投入。

 

マサチューセッツの射撃管制システムを流用し狙いやすくなったとはいえこの距離で直接射撃で初弾から命中させたのはさすが元砲兵だ。

 

さすがに街中で実弾を使うわけにはいかないので炸薬の無い演習弾だが…それでも直撃すればタダで済むはずがない。

 

しかも…相手はゲヘナ最強の空崎ヒナだ。

 

歴史的にゲヘナとは敵対関係の元トリニティ所属、しかも元スケバンの彼女たちからしたら一生物の武勇伝として自慢できるだろう。

 

「次弾も演習弾装填、いつでも撃てるように準備。」

 

《了解っす、アニキ!》

 

「よし…ホシノ、決着をつけに行こうか。」

 

「了解です。」

 

――――――――――――――

 

――――――

 

―――

 

「カッ…かはっ…!?」

 

先ほどの場所から数百m以上離れた場所でヒナは藻掻いていた。

 

呼吸をしようにも肺が空気を受け付けてくれない。

 

起き上がろうにも身体が言うことを聞いてくれない。

 

傍らには路面に突き刺さった155㎜の演習弾がある。

 

(だ、ダイ…レクト…カノ…ンサ…ポート…!?)

 

いかに百戦錬磨のヒナでも…これほどの大口径弾を叩きこまれた経験はなかった。

 

こんな代物をアビドスが保有している情報はなかった。

 

(ど、どうして…なぜ…こんな…!?)

 

想定外のことばかりだった。

 

アコが無断で部隊を動かしアビドスに踏み込んだ。

 

急いで追いかけたら部隊は壊滅していた。

 

イオリを救うため仕留めようとしていた人物に攻撃を仕掛けたら…小鳥遊ホシノが現れた。

 

そして…もう戦いを止められない状況に自らの手で陥らせてしまったことに気付いた。

 

そして…二人とアビドスの力によって自分もまた動けないほど痛めつけられた。

 

その時…あの足音が響いた。

 

言うことを聞かない体で必死にそちらを見ると…

 

『………。』

 

自分を圧倒し続けたネイトとホシノがそこにいた。

 

ネイトはガウスライフルを携え、ホシノもAPスラグ弾を装填中だ。

 

とどめを刺しに来たのだろう。

 

そこへ…

 

《も、もうやめてください…!わ、私が…私が全部悪いんです…!》

 

映像用ドローンが飛来、ヒナを守るように両手を広げ号泣するアコが二人の前に立ちふさがる。

 

《お願いします…!もう…委員長を…風紀委員会の皆を…傷つけないでください…!》

 

『………。』

 

《私にできる償いなら…何でもします…!ですから…!》

 

涙ながらに懇願するアコだが…

 

「戦場にもいない癖に…ゲヘナが他学区のアビドスで好き勝ってやっておいて今更ごめんなさい?」

 

「お前等の作戦で一般人が負傷し町が壊されてそれを身内が傷つけられたからもう勘弁しろだと?」

 

『ふざけるなよ…!!!』

 

《ひっ!!!》

 

二人の凄まじい怒りに燃え滾る視線を浴び腰砕けになった。

 

そんなアコを見て興味が失せたかネイトとホシノはとどめを刺すために得物を構える。

 

その時だった。

 

《きゃあッ!?》

 

『ッ!?』

 

突如としてアコの通信から鳴り響く爆音、

 

《いたぞ、捕縛しろ!》

 

《な、なぜあなた達が!?》

 

《議長、天雨アコの身柄確保しました!》

 

同時に風紀委員会とはまた違う生徒数人がなだれ込みアコを取り押さえ画面外に連れ去った。

 

そして…アコがいなくなった立体映像に新たな人物が映り込む。

 

《キキキッ…何とまぁ無様な姿をさらしているじゃないか、空崎ヒナ。》

 

ヒナよりもはるかに長身かつ地面に付くほどの白い長髪。

 

デザインは違うが軍服状の制服に制帽を着込み頭には後頭部から前にせりあがるように生えている二対の鋭い角。

 

片目を髪で隠すようにしているが鋭い目つきだ。

 

《しかし…まさか泣く子も黙る風紀委員長をたった二人で圧倒するとはな。》

 

次にネイトたちに向き直り感嘆と若干の歓喜が混じった目で見据える。

 

「…誰だ、お前?」

 

風紀委員会の関係者ではなさそうな人物の登場にいったん足を止めるネイトとホシノ。

 

《初めましてだな、アビドスの諸君。私はゲヘナ学園生徒会『万魔殿』議長…『羽沼マコト』様だ。》

 

ネイトの問いかけにその少女、『羽沼マコト』は自信満々と言った様子で答える。

 

「万魔殿の議長ってことは…。」

 

「ゲヘナのトップ、ということか。」

 

言い方は違うがようはゲヘナの生徒会長、三大校のトップの登場に…

 

「で、その議長様が一体何の用なのさ?」

 

「見たところ…ここに転がっている奴らと仲はあまりよくなさそうだな。」

 

《キキキッ、さすがの肝の座りっぷりだ。私を前にして一切動じないとはな…。良いじゃないか、気に入ったぞ。》

 

特に何か変わった様子もなくフラットに対応する二人を見てマコトも何故か愉快そうだ。

 

《実は風紀委員会の行政官が何やらコソコソやっているのを察知してな。》

 

《な、なぜ分かったんですか、マコト議長!?》

 

今回の風紀委員会の行動を知られていたことに驚く画面外のアコだが…

 

《貴様らの委員長にも隠し通せていないことを我々が察知できないわけないだろう?》

 

《クッ…!》

 

「なるほど、それはもっともなことだ。」

 

至極納得のできる意見を返され言葉に詰まる。

 

《はじめは貴様らをあとで強請るネタのつもりで見物していたが…いやはやなんともとても愉快な物を見させてもらったよ。》

 

「随分いい性格してるじゃないか。自分のところの連中が叩きのめされているのに。」

 

《勘違いしてもらっては困る。万魔殿は風紀委員会、特にそこでズタボロになっている空崎ヒナとは別に仲良しこよしと言うわけではないぞ?》

 

「そうか。じゃあ、止めさしても…。」

 

マコトのその言葉を聞きネイトはヒナにガウスライフルを構えるが…

 

《…話は最後まで聞いてもらおうか、W.G.T.C.の『ネイト』社長。》

 

「…ほぉ、初対面だったよな?」

 

《キキキッ…このマコト様の情報網を甘く見てもらっては困る。》

 

初めて…初対面で自分の名前と身分を言い当てられたことに興味を示しその動きを止める。

 

《半年前に突然アビドスに現れカイザーと渡り合う新興企業…キキキッ興味をひかないわけがあるまい?》

 

と、かなり前から知っていたという雰囲気を醸し出すマコトだが…

 

《実際はこの前の騒動で盗まれたモスボール戦車が一台も戻ってこないことに焦って慌てて調べ始めただけなんですけどね。》

 

《イロハァッ!?余計なことを言うな!!!》

 

画面外から聞こえてきた気怠げな声の主にそうツッコミを返し雰囲気が台無しに。

 

「漫才なら余所でやってくれる?」

 

「それともこいつ等の救援のための時間稼ぎのつもりか?だったら…。」

 

その時、上空に四機の爆装されたベルチバードが飛来し周囲を旋回。

 

機体下部には無誘導爆弾『Mk 82』が6発搭載されている。

 

「ご覧の通り、生半可な部隊は返り討ちにできるぞ。」

 

《ほぉ、いい機体だ。万魔殿でも採用したいが一機幾らだ?》

 

「悪いがあれは売り物じゃない。」

 

《キキキッそれは残念だ。…だが、ネイト社長。貴様の予想は外れと言っておこうか。》

 

「へぇ?本当に風紀委員会とは不仲なんだ、万魔殿って。」

 

《言っていたはずだ、小鳥遊ホシノ。風紀委員会がやられる様は非常に愉快だったとな。ネイト社長の暴れっぷりはそれはもう胸がすく思いだったよ。》

 

だが…、とマコトは言葉を区切り…

 

《…このまま風紀委員長が討ち取られるのはゲヘナ学園組織の沽券に関わる。腐っても我々の最大戦力がなすすべもなく敗北…どんな影響が出るか分かったものではない…。》

 

そう悩ましげに語るマコトの言葉に…

 

「ゲヘナ中の不良共が大暴れし始めるってことか?」

 

「それともエデン条約締結前にトリニティに攻め込まれるとか?」

 

ネイトとホシノは彼女の語る悪影響を予想するが、

 

《その両方…いやさらに悪い影響がでると思ってもらっていい。アビドスも例外じゃないかもしれないぞ?》

 

『………。』

 

その余波がアビドスにも及ぶ可能性を示唆。

 

ゲヘナは不良の巣窟だ。

 

もし、風紀委員会が惨敗したという情報が洩れればゲヘナの不良は暴れ出しアビドスにもやってくるかもしれない。

 

普通の不良なら物の数ではないが…こちらもタイミングが悪い。

 

なにせ、カクカクヘルメット団しかりカイザーコーポレーションしかりとアビドスも少々対応を迫られている状況だ。

 

そこに雑魚とはいえゲヘナの不良の流入…。

 

現状では手が足りなくなる可能性がある。

 

あと一発。どちらかが発砲すればヒナを討ち取れるだろう。

 

…だが、その弾丸一発でその後で何発の弾丸をゲヘナの不良相手に消費しなくてはならなくなる?

 

派遣された風紀委員会部隊は文字通り壊滅。

 

激烈な示威にはなった。

 

ここで自分たちがすっきりするためにヒナを討つか?

 

それとも…

 

『…。』

 

両者とも同じ結論に達したのだろう。

 

ネイトはガウスライフルを担ぎ、ホシノはEye of Horusにセーフティをかけた。

 

事態の段階は…戦闘ではなくすでに政治に移っていた。

 

(…上手いな、この羽沼マコト。俺とは逆、この先起こるであろうデメリットを提示し落し所を見つける交渉か。)

 

(前半の話は時間をおかせて私たちの怒りを落ち着かせるため…。ゲヘナのトップ…伊達じゃないね。)

 

二人も今一度マコトの評価をただの権力欲に溺れた為政者ではないと改めることに。

 

《理解できたようで何よりだ。》

 

二人のその行為から言外の意味を察したと判断したマコトは…

 

《…この度のゲヘナ風紀委員会の暴走に等しい事前通達無しでの無断兵力運用及びアビドス自治区にて一般人を巻き込んだ騒動を起こしたこと、これらのことについてゲヘナ学園生徒会『万魔殿』議長『羽沼マコト』としてアビドス高等学校並びにW.G.T.C.に対し正式に謝罪する。…すまなかった。》

 

姿勢を正し脱帽の上、ネイトとホシノに対し深く頭を下げた。

 

傲慢で不遜な態度だがいざと言うときにはすぐに頭を下げられるだけの度量。

 

これがあのゲヘナのトップに立つ存在、この場の全員にそれを見せつける。

 

「…謝罪だけで終わりか?」

 

だがすでに頭を下げて終われる段階はとうに過ぎてしまっている。

 

続いて今回の一件の賠償についてネイトが言外にマコトに尋ねると、

 

《無論、賠償責任もしっかりと果させてもらう。あいにく我々も今回のことが外部に漏れるのは好ましくない。》

 

あちらもそれは分かっているようであっさり了承、

 

「…被害者に口止め料も払う気だね?」

 

《理解が早くて助かる。被害確認は…。》

 

「…うちがやろう。手数料はきっちりいただくがな。」

 

《構わん。どうせ風紀委員会に請求書を回す予定だからな。》

 

「ちゃっかりしてるねぇ」

 

賠償以外にも諸々の諸経費をゲヘナ側…もとい風紀委員会が負担することを承認、

 

《それで今回の首謀者『天雨アコ』の身柄はどうする?》

 

賠償の話の次は下手人の処断について尋ねられるが…

 

「そんな躾のなってない喧しいだけで何の役に立たない駄犬の処理なんかウチに押し付けるな。」

 

「煮るなり焼くなりそっちの好きにして。ただし、こっちも納得できるようにね。」

 

《なっなんです…!》

 

容赦のない二人の言葉に画面外から反論するアコだが、

 

《キャヒャヒャヒャヒャッ!確かにッ!安心しろ、そちらも納得できるような処罰を課すことを誓う!》

 

対してマコトは大笑いしアコの処分はゲヘナが引き受けることに。

 

《では、後ほどそこに転がっている役立たず共を『救護医学部』の者たちが回収に伺う。》

 

「監視はつけさせてもらうぞ。下手なことしたら今度こそ…分かるな?」

 

「それから、そっちの治安維持はしっかり頼むからね。こっちは何とか溜飲を下げたんだからね。」

 

《無論だ。風紀委員会を存分に扱き使いそちらに迷惑はかけないことを誓おう。》

 

さらにマコトが発言した懸念にゲヘナがきちんと対処するという言質も取り付けた。

 

「…先生にアヤネ、今のは記録してるか?」

 

《はい、映像が切り替わった時点から録画録音を行っています。》

 

《私もドローンでネイトさんとホシノ先輩とマコト議長の会話を撮影してます。》

 

「了解、こっちでも録画している。これで証拠はばっちりだな。」

 

《抜かりないな、ネイト社長。だが、それでこそカイザーと渡り合える傑物だ。》

 

先生とネイトにアヤネ、三人がこの会談の様子を記録しゲヘナ側に言い逃れができない様にした。

 

マコトもネイトの用心深さに好印象を抱いているようだ。

 

《では、これで一度失礼させてもらう。いろいろと手配があるからな。おい、そこの駄犬は地下牢に拘禁しておけ!》

 

と、ここで映像は終了。

 

マコトの背後にいたヒナに目が合った。

 

「…議長に感謝しなよ、風紀委員長ちゃん。今日のところはこれで見逃してあげる。」

 

「でも…二度目はない。次またこんなことしたときには…お前らのすべてを瓦礫に還してやる。」

 

話し合いを終えたのでそれだけ伝え二人は彼女に興味をなくし、シロコやアル達の下へ戻っていった。

 

「…うぅ~…ヒグッ…エグッ…!」

 

一人残されたヒナは…声を殺して涙を流す。

 

負けて悔しいから?

 

傷の痛みから?

 

マコトに救われたという屈辱から?

 

いや…違う。

 

ヒナは…ホシノが羨ましかったのだ。

 

かつてと比べはるかに強くなっていた。

 

例え、ホシノ単独であっても勝てていたか分からない。

 

だが、彼女は決して『孤独』ではなかった。

 

彼女には…同じ高みに至った同志がいた。

 

背中を預け、また預けられる信頼できる仲間がいた。

 

そして…その者は彼女のすべてを受け入れ羽を休めさせてくれる『止まり木』でもあった。

 

同じ『強者』として…ホシノにシンパシーを感じていた。

 

だが…その実情はまるで違っていた。

 

それが…ヒナには眩しく思えるほど堪らなく羨ましかった。

 

ネイトという頼りにできる『大人』の存在が。

 

「うぅぅぅ…あぁぁぁぁ…!」

 

涙があふれて止まらなかった。

 

初の敗北以上にヒナはその差に打ちのめされたのだった。

 

こうして、アビドスで起こったゲヘナ風紀委員会が引き起こした武力衝突は幕を閉じた。

 

 

 

 

被害報告

 

アビドス市街地。

 

全壊一棟、破損車両並びに建物の被害多数、負傷者1名。

 

ゲヘナ風紀委員会部隊、一個中隊約200名及び風紀委員長『空崎ヒナ』。

 

被害判定『全滅』。

 

アビドス対策委員会並びにW.G.T.C.戦闘部隊、便利屋68。

 

被害判定、負傷者1名。




地獄はそのままひとつの言葉のなかにある。すなわち、孤独。
―――政治家『ヴィクトル・ユーゴー』
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