Fallout archive   作:Rockjaw

55 / 209
この資本主義的裁きに感嘆しろ!
―――哲学者『カール・マルクス』


Wriggling Kraken

「いよいよ…だね。」

 

「ん…そうだね…。」

 

「どう出てくるんでしょうか…。」

 

「覚悟はもうできてるわ…!」

 

「はい、どうなろうとも…。」

 

「私も腹はもう決まってるよ。」

 

「………。」

 

あのアビドスの土地の状況を知ってから45日後。

 

この日、ネイト筆頭に先生とアビドス対策委員会は委員会室で電話を囲みその時を待っていた。

 

W.G.T.C.も今日はすべての業務を休止し全生徒が自室で待機任務に就いている。

 

その時、電話の着信音がけたたましく鳴り響く。

 

「…はい、もしもし?あぁ、カイザーコンストラクションさん。お疲れ様です。」

 

相手はカイザーコンストラクションのようだが…

 

《――――!―――――――――!》

 

受話器越しでも分かる錯乱っぷりだ。

 

大絶叫で何かをネイトに捲し立てている。

 

「そう慌てないでくださいよ。でしたらこれからそちらに赴いて説明しますので。えぇはい。ではいつものアビドス支社で。」

 

担当者を宥めつつネイトは事情の説明のためにコンストラクション支社に赴く旨を伝え電話を切る。

 

「…始まったね、ネイトさん。」

 

「そうだな。…よし、出かけてくる。先生、留守は任せた。」

 

「おひとりで大丈夫なんですか?」

 

「向こうも俺の戦力は把握している。そんな状態で手を出すほど間抜けじゃないさ。」

 

「ん…それでも気を付けてね。」

 

「無事に帰ってきてください、ネイトさん…。」

 

「何かあったらすぐに連絡するのよ!」

 

「ベルチバードはいつでも出撃できますので。」

 

「分かった。」

 

皆から心配されながら見送られ、ネイトはカイザーコンストラクションの元へ向かう。

 

そして…

 

「こ、これは一体どういうことだ!?」

 

開口一番、電話口と変わらない勢いで捲し立てるカイザーコンストラクション本社社員。

 

「どういうことって…そこに書かれてある通りですが?」

 

対するネイトは、訳が分からないといった様子だが一切ひるむことなく本社社員に反論する。

 

「だっ、だからって!こっこんな請求額、常識を考えろぉ!!?」

 

もはやなりふり構っていられない様子で詰め寄り机にある書類を叩きつけた。

 

それは今朝がた提出した請求書の写しだがそこに記された金額は…

 

合計金額 ¥23,951,072,683-

 

どんなに金銭に疎い人間にでも分かる。

 

とんでもない金額がカイザーコンストラクション本社に請求されているのだ。

 

「に、にひゃ、二百億なんてどう考えても非常識…!」

 

怒りか混乱か、どもりながらネイトに詰め寄る本社社員だが…

 

「いや、契約書確認してます?歩合制で上限金額なんか設定してないでしょ?」

 

「うぐッ…!」

 

全ては契約に則った合法の請求だと冷静に主張するネイト。

 

そう、ネイトは一切契約違反を犯していない。

 

それどころか必要以上に遵守し、自らの正当性を証明している。

 

廃墟区画での作業では必ず証明記録の映像を撮影しカイザーコンストラクションに送付している。

 

無論、それはカイザー側も把握しており編集の跡もないことも確認が取れている。

 

だからこそ、この金額がいかに常識外れか分かるだろう。

 

「棟数にして300、中央値およそ8000万弱。請求額は何もおかしくはないのでは?」

 

「だ、だがこんな金額を二日以内に支払うなんて不可能だ!!!」

 

請求の正当性は分かった。

 

だが、こんな莫大な金額をおいそれと動かせるものではない。

 

通常なら社内稟議をかけて一月はかかるような案件だ。

 

「じゃあ、契約通り違約金を…。」

 

「そんなの払ってたら我が社が破産する!!!」

 

「ですがそういう契約で合意したのはそちらでしょう?」

 

そこでカイザーを苦しめるのが違約金だ。

 

『一日ごとに50%を乗算』、それが一月も続こうものならいかにカイザーコンストラクションと言えど経営が傾くどころかひっくり返るだろう。

 

「ならせめて稟議中の違約金の停止を…!」

 

なんとかそれを防ぐためにネイトと交渉する本社社員だが…

 

「でしたらミレニアムも交えて一度契約内容変更の話し合いを行いましょう。」

 

「ぐッ…そ、それは…!」

 

ネイトの提案に言葉に詰まる。

 

ただでさえ現状、カイザーはミレニアムにイエローカードを出されているような状態だ。

 

そんな状態で契約関連でごねれば…今度こそすべての契約を打ち切られかねない。

 

二進も三進もいかないのはカイザー側も分かり切ってるが…

 

「…ともかくッ!何とかしてくれ!わが社が潰れたらそちらも困るはずだ!」

 

強引に話題を戻す本社社員。

 

とうとう自分の会社の存続を持ち出してきたが、

 

「あぁ、それは困りますねぇ…。」

 

W.G.T.C.としてもカイザーコンストラクションが無くなるのは困る。

 

何せ大事な金づ…金の生るk…取引先なのだ。

 

なので、ネイトも考えるそぶりを見せて…

 

「…でしたら、今回の支払いは現物払いで構いませんよ。」

 

支払いを現金でなく現物での建て替えを求める。

 

「そ、そんな200億を超える有価物なんか我が社には…!」

 

カイザーコンストラクションもそうしてもらえると助かるのだが生憎それほどの有価物はなかなかない。

 

何せ普段の支払いの一部ですら自社所有の重機で建て替えてもらっているのが現状だ。

 

だが…

 

「大丈夫です。ある物を譲っていただけたら今回は特別に差額分はまけますよ。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

条件を飲めば請求金額を大まけしてくれるとも約束。

 

これには本社社員も今日初めて笑顔を浮かべる。

 

「そ、それで御社が譲ってほしいものとは?!」

 

これを逃す手はないと飛びつくが…

 

「…御社が保有するアビドスの土地を全てでどうでしょう。」

 

「…え?」

 

ネイトのその一言ですべてが固まった。

 

「ですから、御社が数十年前からアビドス高校から買い叩いてきた自治区の土地、それで今回は手打ちにしましょう。」

 

「ど、どこでそれを…!?い、いやッダメだ!そんなの受け入れられ…!」

 

想定外のネイトの要求に動揺しつつも拒否するが…

 

「でしたら払いますか、239億?弊社はそれでもかまいませんが?」

 

「い、いやそれも…!」

 

支払いをするかと問われるとまた言葉に詰まる。

 

「一応伝えておきますとこれは非常にお得な取引なんですよ?」

 

キヴォトスにも一応、連邦生徒会が定めた『基準地価』に近いものは存在している。

 

いかに学園自治が認められていようと企業進出の際の不当搾取を防ぐための目安のようなものだ。

 

それに則ると…アビドスの基準地価はまさに二束三文。

 

広大な砂漠に値が付くはずもなく、市街地であっても他学区に比べるとはるかに地価は低い。

 

「基準地価をもとに弊社が算出した御社の保有するアビドスの地価総額は…どう考えても50億円程がせいぜいですよ?」

 

このような具体的な数字を出せるのも訳がある。

 

かつてのアビドス生徒会がカイザーコンストラクションに自治区を売りに出した際に残された売買の証明書だ。

 

その総額がおよそ40億前後。

 

正直言うと当時と比べて砂漠化は進行しているので地価はだいぶ低下しているのが実情である。

 

それにだいぶ色を付けて出したのが今回ネイトが挙げた数字だ。

 

「そ、それは…!」

 

「それを5倍近い値段で買い取るも同然の提案をしている、と理解していただきたい。」

 

土地売買においてこれがいかに破格か分かるだろう。

 

正直言って普通の土地だったら本社社員は喜び勇んでこのネイトの提案に乗っていただろう。

 

だが…今回ばかりは…アビドスの土地に関してはそういうわけにはいかない。

 

それでも明後日までに240億近い支払いをするのも不可能だ。

 

「それで…如何しますか?」

 

「…一度、本社に持ち帰らせてもらいたい…!」

 

「構いませんよ。但し、違約金発生時にはその分の金額は支払うことを忠告します。でなければ大変なことになりますので。では、私はこれで。」

 

苦虫を嚙み潰したような声の本社社員の答えを聞き、そう言い添えてネイトはアビドス支社を後にするのであった。

 

そして…アビドスまで帰る道中に秘匿回線用の通信機器からネイトは全生徒に告げる。

 

「総員に告ぐ、総員に告ぐ。…クラーケンは入場した。繰り返す、クラーケンは入場した。」

 

―――――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

それから数時間後、場所はカイザーコーポレーション本社の会議室。

 

今そこにはカイザーコーポレーション各社の重役が集まり会議が開かれているが…

 

「なんだ、このバカげた請求金額はぁッ!?」

 

怒号が響き渡る室内。

 

怒号の主はカイザーコーポレーションのトップ、通称『プレジデント』と呼ばれるオートマタだった。

 

「コンストラクション、これはいったいなんだ!?」

 

「そ、それはですね…!」

 

名指しされたカイザーコンストラクションの社長は言葉に詰まりながらも説明を行う。

 

半年前からアビドスに現れアビドス高校と連携しているW.G.T.C.という新興企業のことを。

 

その社長、『ネイト』と言う理外の神秘と外見不相応の交渉能力と戦闘力の高さを。

 

先日、コンストラクション独自に排除作戦を実行したが失敗したことを。

 

これまでコンストラクションの総資産の約8%をこの企業に支払っているということを。

 

そして…

 

「き、昨日にはW.G.T.C.から廃墟区画での解体費用として約240億の請求がありました…!」

 

『ッ!?』

 

現在、とんでもない額の請求を突き付けられているということを。

 

「240億だって…!?」

 

「何かの間違いじゃ…?!」

 

ざわめく各社の重役たち。

 

「間違いなどではありません…!むしろ、それでも格安なほどの働きをW.G.T.C.は…!」

 

「そんなことはどうでもいい!さっさと本題を話せ!」

 

「は、はいぃ!と、当然そんな莫大な金額をすぐに支払えないと先方に伝えたところW.G.T.C.は…我が社が保有するアビドスの土地での建て替えを求めてきました…!」

 

『~ッ!!?!?』

 

コンストラクション社長が告げた途端、衝撃が走った。

 

あの地はこの会社の役員であっても数世代にわたって地道に買い集めてきた『宝の眠る』地だ。

 

それをたった半年前に出現した企業が奪おうとしている。

 

「断固として拒否すべきだ!!!」

 

「そうだ!!!そんな訳の分からない会社にあの地を…我が社の悲願を奪われてなるものか!!!」

 

荒れに荒れる重役たちだが…

 

「だが、240億なんて金をすぐに用意するのも不可能だ!!!特例決済として稟議を省いても10日はかかる!!!」

 

「かかってもいいじゃないか!!!」

 

「相手はミレニアムと結託して2日を過ぎると一日50%の違約金が発生するんだぞ!?」

 

「なっ…!?」

 

「その間に発生する違約金を払ってもらえるのか!?だったら稟議に掛けて正式に決済をとろう!だが、そんな会社がここにあるのか!?」

 

『………。』

 

確かに金で解決できる問題だが…あまりにも問題がデカすぎる。

 

10日間、毎日120億近い違約金を払える財力のある企業は…ここにはいない。

 

たとえ各社で折半して払ったとしても多額の出費になることは明白だ。

 

しかも…

 

「これは未だ推測の域だが…W.G.T.C.は決してあきらめない!!!再び同等の…いやさらなる高額の請求をしてくるに違いない!!!」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

コンストラクション社長の懸念にプレジデントも驚愕する。

 

それもそのはずだ。

 

「連中はミレニアム廃墟区画『全域』の解体事業を請け負ったんです!分かりますか!?あの高層ビルが乱立している広大なあの地のすべての建築物を解体し、それを我が社に請求する権利を持っているんです!!!」

 

廃墟区画は遺棄された地ながらその発展具合だけでいえばミレニアムを優に超える大都市だ。

 

そこにある高層ビルの数など…数えたくもない。

 

つまり、ネイトにはこちらを優に破滅させるだけの残弾が存在しているということに他ならない。

 

「しかも、この契約にはミレニアムも一枚かんでいます!!!下手に契約を不履行すればコンストラクションだけではない!カイザーコーポレーション全体に悪影響が出てしまうんです!」

 

しかも退路はすでに閉ざされている。

 

ミレニアムとの関係が悪化すればその被害はこの請求額を超える可能性が高い。

 

つまり…

 

「つまり…もうコンストラクションには滅びるまでこの莫大な請求額が来るたびに支払いを…アビドスの地を手放してあちらを宥めるしか方法はない…!」

 

どちらにしてもコンストラクションには未来はない。

 

最後まで支払いを続けたとしても…債務不履行でアビドスの土地を差し押さえられることは目に見えている。

 

つまり、ネイトにコンストラクションがアビドスの土地を保有していることを勘付かれた時点で…すでに終末への片道切符が発行されたのも同義なのであった。

 

重い空気が立ち込める本社会議室。

 

だが…

 

「クックックックッ…アッハッハッハッハッ!!!」

 

『ッ!?』

 

突如として笑い出し、

 

「随分調子に乗っているじゃないか、そのネイトと言う若造は!!!」

 

怒り交じりでネイトを若造と評するプレジデント。

 

さらに、

 

「フン、何かと思えば…ことは簡単ではないか。」

 

これまで一言も発さなかったカイザー理事もなにやら意味深に呟く。

 

「プ、プレジデントにカイザー理事…!?な、何をなさるおつもりで…!?」

 

動揺しながらも二人にある重役が問いかけるが…

 

「W.G.T.C.…新興企業故知名度も低い。しかも連携機関はあのアビドス高校…!」

 

「しかも、あそこに屯っているのは不良やスケバン上がりばかり。…材料は十分です、プレジデント。」

 

「いつ実行できる…?」

 

「二日もあれば準備が整います…。」

 

プレジデントとカイザー理事は答えることなく二人で会話を交わし…

 

「よし…では教育してやろうではないか…!このキヴォトスで我がカイザーコーポレーションに牙をむくとどうなるかを…!」

 

プレジデントは邪悪な笑みを浮かべたのだった。

 

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

――――

二日後…まだ日も登らない早朝のアビドス高校にて…。

 

(…すぐ戻りますからお借りします、ネイトさん。)

 

ホシノがこっそり車両格納庫からネイトの私物となっているATVを拝借しどこかへと走り出した。

 

そのまま、アビドス砂漠をしばし進んでいき…ある場所で停車した。

 

そこはなんの変哲もない砂漠の一角だ。

 

だが…ホシノにとっては忘れようとも忘れられない場所だった。

 

「…おはようございます、ユメ先輩。」

 

ATVから降りたホシノは語りかけるように言葉を発する。

 

そう、この場所こそ…ホシノがユメを見つけた場所なのだ。

 

「…私…いえ私たちは今日…アビドスが変わる日を迎えるかもしれません。」

 

その場所にミネラルウォーターのボトルと一輪の白百合の花を供えるホシノ。

 

「半年ちょっと前にはこんなことになるなんて思いもしませんでした。」

 

ひょっとしたらいるかもしれない彼女に報告するように語り続ける。

 

「たぶん、先輩がネイトさんを送り届けてくれなかったら…今でもアビドスは借金まみれ、土地はカイザーの物のままだったかもしれません。」

 

思い出されるこの半年間の出来事。

 

ネイトに殺すつもりで銃を撃った衝撃のファーストコンタクトを。

 

彼が自分の呪縛を解き『小鳥遊ホシノ』として再び前を向かせてくれたことを。

 

未知の技術で借金問題を解決してしまった衝撃を。

 

生徒も増え騒がしくも賑やかになったアビドス高校の学校生活を。

 

外からやってきた二人目の大人、少し頼りないが自分たちを第一に考えてくれる先生を。

 

この半年間…本当に充実して心から笑えた日々だった。

 

「…だからユメ先輩、見守っていてください。私…精一杯戦います。このアビドスの未来のため…。そして、ネイトさんが務めを果たせるように…。」

 

手を合わせ、ユメに決意を伝えるように語るホシノ。

 

「…また来ますね。今度は…アビドスを取り戻してから。」

 

短いながらも強い決意を胸に秘めホシノは立ち上がりATVに跨りその場を走り去った。

 

…その時だった。

 

「きゃああああああ!?」

 

ホシノの跨るATVが突如として爆発。

 

…いや、寸前でホシノは察知した。

 

(へ、ヘルファイアミサイル…!?)

 

ベルチバードでも用いられる対戦車ミサイル『ヘルファイア』、それがホシノのATVに命中したのだ。

 

ATVに耐えきれるはずもなく爆発、ホシノは砂地に投げ出される。

 

「クゥ…!まっ、まさか…?!」

 

おそらく超長距離からの戦闘ヘリによる超長距離からの襲撃。

 

今、このタイミングで…こんなことを仕掛けるのはあそこしかない。

 

(迂闊だった…!奴等、もう…!)

 

誰にも言わず行動してしまったことを後悔するホシノだが…あいにくあちらはそんなことお構いなしだ。

 

はるか彼方の上空、ホシノを包囲するように再びいくつもの光源が現れた。

 

「ま、まず…!」

 

隠れようにも…ここは砂漠のど真ん中。

 

キヴォトス人の脚力と言えど…ヘルファイアミサイルから逃れるのは困難だった。

 

先ほどのダメージも相まってホシノの動きも芳しくない。

 

(あぁ、こんなところで…!)

 

まだ直ってなかった自分の悪癖を悔やむホシノだが現実は変わらない。

 

無情にも幾発ものヘルファイアミサイルにロケット弾や機関砲弾がホシノに殺到、砂漠のど真ん中で大爆発が起こった。

 

……………

 

(あれ…体中痛いけど…生きてる…?)

 

体中が痛み立ち上がることができない。

 

それでもうっすらと意識はまだあったホシノ。

 

これだけの攻撃を受けてキヴォトス人であってもただでは済まない。

 

それでも…彼女は重傷は負っていなかった。

 

(ど、どうして…?)

 

動かない体で顔を持ち上げ周囲を見ると…

 

(あぁ…来て…くれたん…ですね…。)

 

爆発煙に溶け込むかのように…彼女はいた。

 

彼女はホシノの前に両手を広げ立ちふさがり…周囲にバリアを展開していた。

 

そして、肩越しにホシノを見て…

 

『大じ…だよ、ホシ…ゃん。みん…きっ…すけに…れるから。』

 

うっすらと微笑みながら語りかけてくれた。

 

(じゃあ…安心…だね…。)

 

ホシノの意識はそこで途切れてしまった。

 

その後、

 

「ガラガラヘビよりHQ、隼は堕ちた、繰り返す隼は堕ちた。」

 

彼女の周囲に現れたのは…カイザーPMC所属のオートマタだ。

 

警戒しながら接近し、ホシノに意識がないことをしっかり確認し厳重に拘束し収容車に放り込んだ。

 

ホシノ確保の報告を受け…

 

《了解だ、ガラガラヘビ。まさかこんなタイミングで単独行動するとは幸運だったな。これでアビドスの戦力は半減したも同然だ。》

 

カイザー理事は喜びをにじませつつ答える。

 

《よし、そのまま奴をあそこに放り込んでおけ。》

 

「了解しました。」

 

それだけを伝え、カイザー理事は通信を切った

 

(クックックッ…黒服に感謝だな…!あの気味の悪い奴等の設備があればいかに小鳥遊ホシノであっても拘束できる…!)

 

ほくそ笑むカイザー理事だが…

 

「た、大変だ…!」

 

その様子を遠くからある人物が眺めていたことに気が付かなかった。

 

それから2時間ほど経ち午前7時…

 

「…誰かホシノと連絡はとれたか?」

 

「ダメです、モモトークにも既読すらつきません…。」

 

「電話も何度かけても通じないわ…。」

 

「ホシノ先輩…いったいどこで何を…?」

 

「ん…もういつ始まってもおかしくないのに…?!」

 

「とにかく連絡を取り続けよう、皆。」

 

アビドス高校の対策委員会室ではネイトたちが連絡の取れないホシノの身を案じていた。

 

車庫からATVとオフロードバイクが一台ずつ無くなっていることは確認されていることからおそらく誰かとどこかへ出かけた可能性もある。

 

そのもう一人と言うのが…

 

「番長とはどうだ?」

 

「ダメね、こっちも出ないわ。」

 

生徒たちのまとめ役の一人、番長だ。

 

荒っぽい性格だが面倒見もいい彼のこと、無断で出ていくとは考えられなかった。

 

その時、校庭に鳴り響くバイクのエンジン音。

 

見ると、オフロードバイクを乗り捨てて番長が校舎内に走り込んできていた。

 

「なっ何があったんですか…!?」

 

ただならぬ様子に全員の表情が硬くなる。

 

そして…

 

「たっ大変だ、親分!!!」

 

「落ち着け、何があった?」

 

「ほ、ホシノの姉御がカイザーPMCの連中に襲撃されて拉致された!!!」

 

『~ッ!!?』

 

彼の口から衝撃的な出来事を伝えられ全員驚愕する。

 

「ど、どういうことなの!?」

 

「日が昇る前目が覚めて外を見てたらホシノの姉御がバギーに乗って出ていったのを見つけたんだ!時期が時期だから気になってよ、俺もバイクを借りて追っかけたんだ!」

 

そして、ホシノに気付かれないようATVのヘッドライトの明かりを頼りに追跡。

 

砂漠の一角で何かをしていてそれが済んだのか再びATVに跨り帰路に付こうとした時、

 

「か、カイザーの戦闘ヘリだ…!10機以上が一気にホシノの姉御に全武装をぶっ放しやがったんだ…!」

 

「へ、ヘリ二個中隊が…!?」

 

「先輩…ホシノ先輩は!?」

 

「そのあとカイザーのオートマタが回収していったから気絶していただけだと思う…!」

 

いかにホシノがキヴォトスで指折りの強者と言えどたった一人に投入するには明らかに過剰な戦力だ。

 

アウトレンジからのつるべ撃ち、ネイトであっても対処できるかどうか…。

 

「すまねぇ…!すまねぇ、親分に皆…!俺…見てるだけで何もできなかった…!」

 

目の前でただホシノが痛めつけられ連れ攫われるのを見ているしかできなかった自分を恥じる番長。

 

だが、

 

「バカなことを言うな、番長…。」

 

「お、親分…?」

 

「よく知らせてくれた。あとは任せろ。」

 

そんな番長の肩に手を置き労をねぎらい安心させるよう声をかけるネイト。

 

その時、再び…

 

「アニキに先生に皆!始まったぞ、テレビでもラジオでもいいからつけてくれ!」

 

スケバンの生徒が飛び込んできて慌ててネイトたちに報告する。

 

「まさか…ホシノ先輩の誘拐も…!」

 

「全て計画のうちだったってことですか…!」

 

ここまでの出来事が連動し過ぎている。

 

ホシノの単独行動こそ彼女の意志だろうがこれは…。

 

「ノノミ、テレビをつけてくれ。」

 

「分かりました…!」

 

ネイトに頼まれノノミがテレビをつけると…

 

《こちらクロノスチャンネルです!繰り返しお伝えします!先ほど午前7時過ぎ、カイザーコーポレーション社長『プレジデント』氏よりアビドス高等学校及び連携企業『W.G.T.C.』に対し…本日午後1時に宣戦布告を行うという通達が各報道機関に発せられました!》

 

クラーケンの触腕が…アビドスに降り下ろされようとしていた。




The first blow is half the battle.
最初の一撃で戦闘の半分は決する。
―――イギリスの諺
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。