―――アメリカ合衆国上院議員『ハイラム・ジョンソン』
午前7:30、カイザーコーポレーション本社のプレスルームで記者会見が開かれた。
内容は当然…
「カイザープレジデント!通達にあったことは本当ですか!?」
「事実だ。我がカイザーグループは本日午後1時をもってアビドス高校及びその連携企業であるW.G.T.C.へ宣戦布告を行う。」
先ほど報道各社に通達された宣戦布告の件だ。
「なぜ、突然学校と企業に宣戦布告を!?」
記者が疑問に思うのは無理もない。
宣戦布告、つまり戦争を始める宣誓と言うものは簡単には出せない。
それほどまでに戦争の正当化と言うものは厳粛でなければならない。
そうでなければ喧嘩を売るような軽いノリで戦禍が巻き起こるからだ。
最低でも…多数の組織が『納得』出来るような理由が必須だ。
そんな物はカイザーコーポレーションには存在しないのだが…
「ではこちらの証拠資料を見てもらいたい。」
往々にして戦争と言うものは…『でっち上げ』で始まることもある物だ。
各報道機関記者に配られたのは…
「これらは半年前より同地で暗躍しているW.G.T.C.の社長を務める『ネイト』と言う男があの地で行っているカルト新興宗教的活動の証拠である。」
『ッ!?』
ネイトがアビドスでカルト宗教の教祖としてふるまっている様子だ。
生徒たちを跪かせ崇められている姿。
贅の限りを尽くした私室。
いかがわしい恰好で女生徒に奉仕させている姿etc,etc…。
無論、カイザーコーポレーションがでっち上げた証拠だが…
「まさかこんなことがアビドスで…!?」
「ひどい…!貧しい学校の生徒を玩具のように…!」
「なんだ、この外道の所業は…!」
W.G.T.C.の知名度の無さが悪い意味でカイザーの味方をした。
この場に集まったどの報道機関もW.G.T.C.という企業は初耳。
しかもアビドス高校は廃校寸前の学校。
そこにカルト教の教祖が乗り込んで乗っ取った…絵になる構図ではないか。
これだけでは宣戦布告するには薄い。
このような事態は通常ヴァルキューレが制圧すべき事態だ。
…無論、プレジデントの策はこれだけではない。
さらにこの宣戦布告に対する正当性を高めるために…
「さらに同社は秘密裏に多数の兵器を入手し生徒たちを訓練。我が社がつかんだ情報では時機を見てD.U.を占拠する計画を立てていることを察知した。」
『~ッ!?』
ネイトが強大な軍事力を率いキヴォトスの支配をもくろんでいることを明かす。
しっかりと証拠としてネイトが生徒たちに軍事訓練を施している写真も添付されている。
このように真実と虚構を織り交ぜたプレジデントの会見は記者たちのジャーナリスト魂をがっちりつかんだ。
「以上のことを鑑み、わが社カイザーコーポレーションが名代となり彼の企業と傀儡となっているアビドス高校に宣戦布告する運びとなった。」
ここまでの話ですべての記者はプレジデントの話を信じてしまっている。
さらに…
「ではここで多忙のためここに来ることができなかった…連邦生徒会防衛室『不知火カヤ』室長にリモートではあるが参加していただこう。」
プレジデントがそういうと彼の傍らにホログラムが出現。
かなり小柄でピンクの髪に薄目でうすら笑いを浮かべた連邦生徒会の制服を纏った少女が現れた。
《ご紹介に預かりました。連邦生徒会防衛室室長を務めます、『不知火カヤ』です。》
そう、彼女こそキヴォトス全域の治安維持を任されている防衛室の責任者『不知火カヤ』である。
《今回の1件は我々防衛室も重く受け止め、カイザーコーポレーションのW.G.T.C.及びアビドス高校への宣戦布告を支持し容認する結論に達しました。》
この発言によりこのカイザーの行動は連邦生徒会お墨付き、より正当性が証明された。
「ぼ、防衛室長!それはキヴォトスが戦場になるということですか!?」
一人の記者が大慌てでカヤに質問を投げかけるが…
《それはまだ分かりません。相手が宣戦布告までの間にこちらの降伏勧告を受け入れれば平和に事はすみます。のちは我々が同組織に立ち入りを行い解体する予定となっています。》
カヤは冷静に戦争に至らない道筋もあることを説明。
宣戦布告まではまだ時間があるのはこのためだ。
カイザーも戦争を避けるという意思を見せつけることによって器の大きさをアピールしさらに支持を高める。
《何はともあれW.G.T.C.…いえ、ネイト氏には冷静な判断をしてもらいたいものですね。》
「我々も戦争がしたいわけではない。平和に解決するのが一番だ。」
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―――――――――
―――
この会見は各所で様々な反応を見せた。
トリニティでは…
「まぁ…低俗な方がいらっしゃったものですね…。」
「ねぇ、ナギちゃん。うちも兵力出してカイザーに恩を売っておく?」
「それは軽率ですよ、ミカさん。わざわざ『火中の栗』を拾う必要はありません。」
「えぇ~栗っておいしいのに…。」
「そういう意味ではなく…。…今度のお茶会のお菓子にモンブランを用意しましょうか。」
お茶を飲みながらネイトを酷評しカイザーに手を貸そうと提案する二人の生徒や…
「嘘だ!そんな…ネイト教官はそんな方じゃない!!!」
「落ち着いて、アズサちゃん…!」
「ヒフミは悔しくないのか!?ネイト教官が…教官がまるで犯罪者のように…!」
「そうよ!あの人は少し変わってるけど…絶対そんなことはしないわ!」
「分かってますよ、コハルちゃん。ネイトさんは…そんなことをしなくても人を惹き付ける方なのは私もよく分かってますから。」
その会見を見て涙を流して悔しがる生徒たちもいた。
ゲヘナでは…
「キャヒャヒャヒャヒャッ!見ろ、イロハ!馬鹿だ!馬鹿が二人映っているぞ!」
「マコト議長、行儀が悪いですよ…。」
「これが笑わずにいられるか!あのぼろオートマタ、でっち上げは一級品だが情報収集がお粗末過ぎる!キャヒャヒャヒャヒャッ!」
テレビを指さし涙を浮かべるほど大笑いするマコトとそんな彼女を諫める赤いボリュームのある髪を持つ気だるげな生徒。
「洗脳であんな精鋭が半年で育つものか!それができたら、我が万魔殿は『サツキ』を使ってとうの昔に無敵の軍団を手に入れている!」
(はぁ…まだイブキが寝てる時間でよかったですね…。議長はともかく、あの会見はあの子の教育には悪すぎますからね…。)
「キャヒャヒャヒャヒャッ!さぁ、ネイト社長!貴様はどうやってこの難局を乗り切るのだ!?」
依然として獰猛な表情を浮かべたままマコトはネイトがどう打って出るかを楽しみにしているようだ。
一方、
「チナツ、今動かせる全部隊の数は?」
「ハイ、4個中隊と迫撃砲2個小隊です。」
「全員、装備を整えて巡回を行わせなさい。ここはアビドスと隣接する土地、不良生徒がこの気に乗じて暴れ始めるやもしれないわ。」
ヒナを筆頭とする風紀委員会は迅速に行動を開始、唯一復帰しているチナツと共に部隊を展開し有事に備える。
そこへ、
「おっはよー、ヒナッち!なんだか大変なことになってるね!」
「キララ、おはよう。」
堅苦しい風紀委員会には珍しいギャル風の生徒がヒナに声をかけてきた。
「それでそれで!私に何かできることはない?」
「…じゃあ一般生徒は不要不急の外出を自粛するように全校放送で広めてもらえないかしら?」
「おっけぇ―!それが終わったらエリカと内勤の子達と一緒に書類やっておくね!」
「えぇ、お願いね。今日は私も忙しくなりそうだから本当に助かるわ。」
「困ってる人を助けるのは当然でしょ?だからヒナっちも頑張ってね!」
「分かったわ、行ってくるわね。」
「いってらっしゃーい!」
彼女の力になろうとするその生徒に仕事を託しヒナは微笑みながら自らの仕事を果たそうと行動する。
「…ヒナ委員長、変わりましたね。」
「?どうして?」
「いえ、こうやって外部の方に頼ったりそんな風に肩の力が抜けた笑顔を浮かべるようになったり…。」
「…誰かさんが送ってくれた言葉のおかげかしらね。」
「誰かさんとは?」
「気にしないで、チナツ。…さぁ、私たちは私たちの役目を果たしましょう。」
「了解です、ヒナ委員長。」
こうして、表情を引き締めヒナとチナツはこれから始まるであろう混乱に立ち向かう覚悟を決めるのであった。
そしてミレニアムでは…
「なによ、あのでたらめな情報!!!」
「ゆ、ユウカちゃん落ち着いて…。」
「落ち着けるわけないでしょ、ノア!私はこの目でアビドスを見てきたのよ!?あんなのをやっている場面なんて1㎜もなかったわ!」
会見を見てネイトを悪し様に侮辱され激昂するユウカを何とかなだめようとするノア。
「で、でも万が一っていうことが…。」
それでもひょっとしたら…と言う可能性を口にするも…
「ノア、貴方もそういうの!?貴方はネイト社長とも会っているでしょ!?彼がそんなことをするような人だって本気で思ってるの!?」
「…ッ!」
ノアもここ最近ネイトと交流を持つ機会が増えその為人を知ることができた。
ミレニアムの技術に目を輝かせ、エンジニア部とは時間も忘れてエンジニアトークを熱弁しあうネイトの姿を。
そして、ゲーム開発部のモモイ達に心の底から信頼されている姿を。
彼女の優れた記憶力はそのすべてを覚えていた。
「…いいえ、私も…彼がそんな人だとは信じられません。」
だからこそ、彼女もまたネイトを信じるのであった。
「でしょう!?それをカイザー、ふざけた真似でしかも宣戦布告!?防衛室長もろくに調べないでなんで承認してるのよ!?」
なおも激昂が収まらないユウカだが怒っているのは彼女だけではなかった。
「………。」
「ぶ、部長…!も、モノに当たってはだめです…!」
「気持ちは痛いほどわかります…!だから冷静に…!」
エンジニア部部室でウタハは他の二人の部員に宥められていた。
なぜなら…今しがたウタハがブチ切れ会見を映していたテレビにレンチをぶん投げ破壊してしまったからだ。
「冷静?私は冷静だよ?」
口ではそう言っているが…今まで彼女から感じたことがない怒りが迸っている。
「そうさ、冷静さ…!今すぐにでも雷ちゃんをカイザー本社に突っ込ませたいと思っているくらいにはね…!」
ウタハもまたネイトと触れ合い彼の人物像を知る生徒の一人だ。
彼女すら認める優れたエンジニアとしてだけではない。
不思議な暖かさを持ち人を惹き付ける魅力とそれを善行に使おうとする良心も彼女には分かっていた。
そんな彼を侮辱されウタハもまた冷静に怒髪天となっていたのであった。
そして…
「ねぇ、あの会見見た?」
「見た見た、あんなひどい大人がいたんだね。」
「はぁ~あ、さっさとカイザーにやられちゃえばいいのに。」
会見を見た一般生徒はネイトの非道っぷりを話のタネに盛り上がっている。
中にはこの戦争の顛末でトトカルチョを始めている生徒までいる。
そんな中で…
「…~ッ!!!」
歯を食いしばり拳を握りしめ涙を零すモモイ。
「お姉ちゃん…。」
「モモイ…今はまだ…。」
傍らでそんな彼女をミドリとユズが慰めている。
「分かってる…!約束…したもん…!ネイトさんが…アビドスの皆が…動き出した時が…私たちの出番だって…!」
モモイも分かっている、今は耐える時なのだと。
それでも…
「悔しい…!友達があんなに言われてるのに…!私たちは何もできないなんて…!」
許されるなら今すぐにでも叫びたい。
ネイトを悪く言うやつを引っ叩いてやりたい。
だが…モモイは耐える。
「見ててなさい、カイザーにアイツらも…!私の友達は…最強なんだから…!」
ネイトに任されたその時こそ、反撃の時なのだと。
そしてそんなモモイと同じように、
「ふざっけんじゃないわよ、カイザーコーポレーション!!!」
アビドス郊外の『Cafe Franklin』で半袖シャツにスカートとエプロンと言うウェイトレス姿のアルもカイザーコーポレーションの会見を見て激怒していた。
「ネイト兄さんがカルト教祖!?あの人をそんな小悪党に仕立ててアイツら、言いがかりで戦争始める気ね!!!」
伊達に一週間も共に過ごしていない。
アルは即座にカイザーが戦争を始めたいがためにすべてをでっち上げたと理解した。
「うへぇ~、ネイトお兄ちゃんはあんなけばくないのに…。」
「お金持ってても全く興味示さないからね、ネイト兄って。」
「で、でもこのままだとネイト兄様やアビドスの皆さんが…!」
同じくウェイトレス姿で開店準備中のムツキ・カヨコ・ハルカも会見を見てありえないと即座に判断。
そして…
「フム…これは…。」
マスターも顎を撫でながら何かを思案していた。
そんな様々な反応が巻き起こる他校の中…
「ハハッ、カルト宗教の教祖様か!これは傑作だ!いっそのこと宗教法人立ち上げるか、税金も免除だし!」
当の本人であるネイトは大笑いしながら会見の様子を見ていた。
「あっはっはっ!なによ、あの部屋!実際の技術室見たら記者たち腰抜かすわね!」
「ププッ…ネイトさんにそんな趣味なんてないのに凄い捏造証拠ですね…!」
「あらあら♪あれくらいくっつく位ならもう普段からやってますからねぇ♪」
「ん…ひれ伏さなくても皆がネイトさんのことは信頼してるのに変な写真。」
セリカもアヤネもノノミもシロコもカイザーの会見を面白おかしく見ていた。
「フフッあんまり思い切りよすぎたイメチェンしちゃってますね、ネイトさん…!」
先生ですらあまりにもトンチキな証拠の数々に笑いをこらえきれなかった。
皆が非常事態だというのにそれを笑っていた。
だが…ひとしきり笑い終えると…
『…………。』
全員の一瞬で表情が切り替わった。
その表情は…まさに憤怒。
この気迫だけで…慣れていないものは腰を抜かすだろう。
「…番長、全員をシェルターに集めてくれ。」
「うっす!」
ネイトの命を受け番長、そしてスケバンも委員会室を飛び出す。
「予想外もあったが…予定通りだ…!」
―――――――――――
――――――
―――
「カイザーは確実に戦争を仕掛けてくるぞ。」
『ッ!!?』
45日前のあの日、ネイトの言葉で全員が固まった。
「ど、どういうことなの…!?」
「簡単な作戦だ。これは『金』が問題の発端。だったら…こっちも『金』で奴らに襲い掛かるのさ。」
ネイトの作戦は簡単だ。
カイザーコンストラクションにとんでもない請求額を叩きつけその代わりとしてアビドスの土地を取り返すというものだ。
「で、ですがそんな一気にやらなくても…!」
「そうよ!だって何十億も一度に稼げるんでしょ?それを繰り返していけば…!」
強引すぎるネイトの作戦にアヤネとセリカは反発するが…
「…いいえ、アヤネちゃんにセリカちゃん。そんな悠長にやってはいられません。」
「の、ノノミ先輩…!?」
何時もはブレーキ役のはずのノノミが二人の言うことに異を唱える。
「確かにそれでもアビドスの土地は取り返せるかもしれませんが…もしそれに勘付かれて土地の所有権をグループ他社に移されたらどうなると思いますか?」
「そ、それは…!」
カイザーコンストラクションも馬鹿ではない。
もしネイトの思惑に勘付かれたときそれに対処する方法くらいいくらでも取って来るだろう。
それは時間を掛ければかけるほどそのリスクは跳ね上がっていく。
もしコンストラクションから別の社にアビドスの所有権が移ったらもう手が出せない。
コンストラクションとW.G.T.C.が密接につながっている今こそアビドスの土地を取り戻す最初で最後のチャンスなのだ。
「ですから、一撃必殺が求められるんです。例え勘付いても…所有権を移す間にコンストラクションが破滅することが確定されるほどの莫大な請求額が。」
同じ企業人である父を持つノノミだからこそネイトの策の真意を理解できた。
「で、でも戦争だなんてそんな…。」
それでも先生はネイトの考えは飛躍し過ぎていると述べるが…
「うへ~…先生、それは見立てが甘いねぇ。…カイザーコーポレーションは絶対仕掛けてくるよ。たとえどんなに滅茶苦茶な言いがかりだろうと、絶対にね。」
「ん…ヘルメット団を使ってまで私達を追い出したがって何十年もかけて集めてきたアビドスの土地を手放すつもりは絶対ない。こっちを滅ぼしてでも…ね。」
カイザーと長い間関わってきたホシノとシロコが可能性は大いにあり得ると断言する。
そして…
「…ネイトさん、私はその作戦に乗っ…。」
ホシノが答えようとしたその時、
「待て。これは俺達だけで決めていいような作戦じゃない。最低でも…ここにいる生徒全員に一度問うべきことだ。」
ネイトがそれを制する。
「そう…ね。もう私達だけの問題じゃないものね…。」
「アビドス高校だけじゃありません。ひょっとしたら住民の方たちまで…。」
「意思を統一するにしても判断は…慎重にすべきですね。」
「ん…じゃあ早く皆に伝えよう、ネイトさん。」
「…ごめん、ネイトさん。私気が早まっちゃった。」
ネイトの意見ももっともだ。
ここは一度冷静になって全員に事の詳細を伝達すべきである。
「では体育館に皆を…。」
「いや…これは極力外部に知られたくない。シェルターでやろう。」
「シェルター?」
「付いて来てくれ、先生。」
そう言い、ネイトは対策委員会室を出ていき先生たちもその後に付いて行く。
途中、何かの装置を取り出しスイッチを押し込んでいた。
向った先は校舎一階の…
「…消火栓?」
どんな学校にもある備え付けの消火栓の前だった。
見たところ何の変哲もないが…
「まぁ見てろって。」
そう言うとネイトは消火栓の扉を引っ張り開ける。
中には…
「…普通の消火栓ですね。」
ごくごく普通の消火ホースとバルブがあるだけだ。
が、
「まぁまぁ。」
そういい、ネイトは今度は中身を引っ張るとそこも開き…
「か、階段…!?」
地下へと続く階段が口を広げた。
「狭い入口だがまぁ入ってくれ。」
ネイトを先頭にホシノ達も続き先生もおっかなびっくりだが付いて行く。
しばらくその階段を歩いていくと目の前に鉄製の上下式スライドドアが現れそこが開くと…
「こ、これは!?」
「ようこそ、先生。アビドス高校最大の秘密基地だ。」
「どう?これがネイトさんが数か月かけて作ったシェルター、その名も『Vault Abydos』だよ。」
電灯で照らされ配管が張り巡らされた壁で覆われたとてつもなく広い空間だ。
Vault…かつての連邦のメガコーポ『Vault‐tec』が全米各地に建造した地下シェルター…の皮を被った人体実験場だ。
ネイトもかなり因縁深い場所だが…ここ『Vault Abydos』は違う。
「アビドス高校の校庭とその周辺の地下を丸々くりぬいて作った地下シェルターだ。7階層、バンカーバスターでも貫けない重量鉄骨と鉛の装甲板、地下水ポンプもあるから少しは籠城も可能だ。」
そう、ここはネイトが有事の際に備えて建造した純然な地下シェルターだ。
電力は『Vault-Tecリアクター』よりほぼ無制限で供給、ABC兵器に対する対策も万全。
「す、すごい…!こんなのまで作れるんですね…!」
とても人一人…いやたとえ大人数であっても半年でこれほどの物を作れるはずがない。
そんな脅威の代物に先生は圧倒されっぱなしだ。
と、そこへ…
「親分、何があったんですかい!?」
「急にここに呼び出すなんてただ事じゃないってことだね。」
別の場所にあったドアから番長やスケバンたちがぞろぞろと入ってくる。
「まさか寮にもつながっているんですか?!」
「ん…外部に漏らしたくない打ち合わせとかする時に召集がかけられるようにつながってる。」
「ちなみに寮の入り口は談話室の畳の下にありますぅ♪」
と一か月近く過ごしているというのにまだ知らない設備があったことに唖然とする先生。
「…休んでいたところすまない。皆に伝えなければならないことがあるんだ。」
全員が集まったことを確認し、整列させた後ネイトは事の顛末を話し始めた。
アビドスの土地のことも自分がやろうとしていることも包み隠さず全てだ。
「…以上だ。」
『………。』
全てを聞き終えて…生徒たちの間に重い沈黙が流れる。
「…すまない。今までいろいろ皆に教えてきたが…俺にはこんな短絡的な方法でしかアビドスの土地を取り戻す方法は思い浮かばなかった。」
そんな中、ネイトは生徒たちに謝罪をし…
「もし…この作戦に参加したくない者、または異がある者は…退出してくれて構わない。こんな無茶苦茶な作戦だ。参加拒否しても処罰はない。すべて忘れて元の生活を送ってくれ。」
参加を拒否する者に対し退出を促した。
ネイトに彼らを無理やりこの戦いに巻き込む意思はない。
戦争になる前にここを辞めて出ていくというのであれば多額の準備金を渡すつもりでいる。
どんな結論を出そうとその生徒のことを尊重するつもりだ。
だが、次の瞬間…
「見くびんじゃねぇよ、親分!!!」
シェルター内に響き渡る番長の怒号。
「俺ぁアンタに全部預けるつもりでアビドス高校に入ってきたんだ!!!アンタが何かやるんなら俺も全力で付き合う、その覚悟でずっと過ごしてきたんだ!!!」
列から離れネイトに詰め寄り…
「それをカイザーとの戦争が嫌だったら逃げろ!?あんた、そんな覚悟で俺らの面倒見てきたのかよ!?舐めんなよ、こちとら元不良だ!!!根性ならアンタにだって負けてねぇんだよ!!!」
ネイトの胸ぐらをつかみながら叫び続ける。
「だからっ!!!アンタはいつものように俺らを指揮しろ!!!そして言ってくれ!!!俺と一緒に戦ってくれって!!!それだけでいい!!!俺はアンタに地の果てまでついてってやるよ!!!」
勢いはそのままだが後半はもう涙声になりながら言葉を発し…
「頼むよ…親分…!アンタに出会うまで…俺は逃げっぱなしだったんだ…!だから…もう逃げたくねぇんだ…!こんな俺を…引っ張り上げてくれたアンタを…見捨てさせないでくれ…!」
頭をネイトの胸に当てながら懇願する番長。
それが…起爆剤となった。
「やってやろうぜ、アニキ!!!カイザーがなんぼのもんだ!!!」
「そうだッ!!!俺たちゃアビドス生徒だ!!!あんなタコ野郎なんか負けっこねぇ!!!」
「なにすりゃいいか言ってくれ、親分!!!アタシら、アンタの力になるんだったら喜んで手を貸すぜ!」
『うおおおおおおおお!!!』
男女関係なく…この場にいる全員がネイトの作戦に参加する決意を固めた。
誰一人として…この場を去らなかった。
「………。」
その光景を沈黙のまま眺めるネイトに…
「やっぱ聞くまでもなかったかぁ。当然と言えば当然だねぇ。」
「ん…全部ネイトさんが半年間頑張ってきた成果。」
「ハイ♪みんな、ネイトさんもアビドスも大好きなんですから当たり前です♪」
「さぁて、アビドス一世一代の大勝負。どう暴れようっての、ネイトさん?」
「指示を。アビドス高校全校生徒、貴方に付いて行きますので。」
ホシノ達アビドス廃校対策委員会も参戦を表明し、
「…はぁ、先生として止めるべきなんでしょうけど…これもまた生徒の困りごと解消のためです。協力させていただきますよ、『師匠』。」
先生も少し困った表情で微笑みながら一緒に戦う決意を固めてくれた。
「…ありがとう…!ありがとう、皆…!」
ネイトは万感の思いの中全員に感謝を述べる。
この日、この時を持って…
「取り戻しに行くぞ、俺達のアビドスを…!」
『了解!!!』
アビドス高校の心は真の意味で一つとなった瞬間だった。
―――――――――――
「………。」
「ん…ネイトさん、どうかしたの?」
「いや、少しこの前のことを思い出してな。」
場面は戻ってアビドス対策委員会室にて。
「いよいよ…すべてが動き出しますね。」
「あぁ、この日のためにこの一か月以上動き回ったんだ。」
「お金も考えられないくらい使っちゃったんでしょ?」
「もう逆立ちしても何も出ないくらいに、な。」
「じゃあ、もう勝つしかないですね。ホシノ先輩も助け出して。」
「大丈夫です!きっと勝てます!だってネイトさんや先生も付いてくれてるんですから!」
この場の全員がゆるぎない勝利へのヴィジョンを見据えている。
すると…アビドス周辺に仕掛けられた監視装置がけたたましく鳴り響く。
「…来たか。俺一人で行く。みんなは先にシェルターに向かっていてくれ。」
『了解。』
それだけ言い、ネイト一人で出迎えに向かった。
そう時間もたたず…『彼女ら』は現れた。
校庭を埋め尽くすかと言わんばかりの人数の不良…『カタカタヘルメット団』だった。
場面は変わり、カイザーコーポレーション。
「フフフッ…これでアビドスもW.G.T.C.も終わりだ…!」
会見の成功をほくそ笑みながら喜ぶプレジデント。
先ほどの記者会見でマスコミは完全に自分の味方となった。
これで圧倒的優位でアビドスへの対処に当たれる。
なにせ、マスコミが味方と言うことは大衆がカイザーの支持に回るということと同義なのだ。
と、
《全く…こんなことに『超人』である私を駆り出すなんて。》
その対面のソファーにはホログラムのカヤが座っていた。
「防衛室と我が社の仲ではないか。協力してもいいだろう?」
《でっち上げの証拠に宣戦布告の容認。防衛室長の権限をもってしてもここまでのことをやらされたのは歴代初でしょう。》
「いい響きではないか、歴代初。まさに超人にふさわしい称号だ。」
《…そう言われると悪い気はしませんね。》
これらの会話からも分かる通り…防衛室とカイザーコーポレーションは長年の間癒着関係にある。
治安を守るはずの防衛室と合法非合法の間を渡り歩くカイザーコーポレーション。
例えるなら…保安官とならず者が手を組んでいるというかなり厄介な組み合わせだ。
《ですが、今回の協力に対する約束は果たしてもらいますよ?》
「無論だ。『時期』が来た際には我が社が全力でバックアップしよう。」
《よろしくお願いしますね。》
と両者、あくどい笑顔を浮かべながら会話をしていたその時、
《防衛室長、緊急のお知らせが!》
「プレジデント、お耳に入れておかなければならないことが!」
ほぼ同時に互いの部屋に部下の者が駆け込んできた。
「なんだ、騒々しい。」
《落ち着きなさい。いったい何が…。》
眉をひそめながら尋ねるプレジデントとカヤだが部下たちからの報告で…
《な、なんですって!?》
「どういうことだ!?」
一転して驚愕の表情を浮かべるのであった。
《こちらクロノスチャンネルです!再び衝撃的ニュースが舞い込んできました!ヴァルキューレアビドス支所からの報告によりますと先ほどアビドスに拠点を構える武装集団『カタカタヘルメット団』が解散届を提出!さらに全所属員の手配解除金を納付!その後、アビドス高校に合流するとの報告がありました!》
カイザーコーポレーション宣戦布告まで…残り5時間30分。
人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり
―――戦国武将『武田信玄』