Fallout archive   作:Rockjaw

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一つの嘘を本当らしくするためには、いつも七つだけ嘘を必要とする。
―――神学者『マルティン・ルター』


War of Deception and the March of Trust

カタカタヘルメット団解散からのアビドス高校への合流。

 

「どういうことだ、カイザー理事!?」

 

《落ち着いてください、プレジデント。》

 

予想外の事態にプレジデントはカイザー理事を電話で問い詰めていた。

 

《こちらとしても想定外なのです。まさか奴らが2億を即金で収めてくるとは…。》

 

「貴様、あの若造が奴らと接触していたのを見落としていたのか?!」

 

カイザー理事ですらも理不尽な要求だと思っていた2億の違約金の納付が今朝がたに行われたのは確認済みだ。

 

たかが不良の徒党においそれと用意できる金額ではない。

 

その後の行動からも明らかにネイトの接触があったことは確定といえる。

 

《落ち着いてください、プレジデント。ただの不良の集まりが増えたところで戦局に影響はありません。》

 

「なぜそう言い切れる!?単純にあちらの兵力が倍に…!」

 

《数の問題ではありません。脅威対象の数があちらには少なすぎるのです。》

 

狼狽えるプレジデントに理事は落ち着き払い説明する。

 

この戦いで彼らが現状の脅威とみなしているのがネイトとアビドス対策委員会の面々…のみだ。

 

《うち一人、最大戦力である『小鳥遊ホシノ』は既にこちらの手に落ち奴らの戦力は大きくそがれたでしょう。しかも、今回の戦域は広く残りの者共でも手が回らないでしょう》

 

「…では一般生徒共は脅威ではない、ということだな?」

 

《その通りです。人員数も兵器の数もこちらが圧倒しています。奴らの手が回らないうちに学校を占領すればおしまいです。》

 

戦争というものは突出した戦力だけでは勝てない。

 

確かにネイト級の戦力であれば戦術的勝利は容易いだろう。

 

だが、その隙にアビドス高校を攻め落とせば?

 

ネイトを押さえつけ残りの戦力をアビドス各地の占領に向かわせれば?

 

戦術的勝利では戦略的勝利はつかめない。

 

たとえ一戦域でカイザー側の勢力が壊滅しても戦略目標を達成すれば戦争というものには勝てるのだ。

 

カイザー理事はそれを狙っている。

 

「…分かった、貴様に任せるぞ。」

 

《ご期待に応えられるよう努めます。》

 

プレジデントと理事の会話はそこで終わった。

 

一方、D.U.にある連邦生徒会本部。

 

その一室である防衛室長執務室にて…

 

「…防衛室長、あれは一体どういうことですか?」

 

「あれとは?いったい何のことでしょう、主席行政官?」

 

不知火カヤと長身で黒い長髪にメガネをかけた生徒が向き合っていた。

 

『七神リン』、連邦生徒会の主席行政官兼失踪中の連邦生徒会長の代行としてこの組織を統率する生徒である。

 

「とぼけないでください。先ほどのカイザーコーポレーションのW.G.T.C.という会社とアビドス高校に対する宣戦布告の予告についてです。」

 

彼女が眉を吊り上げ問い詰めるのも無理はない。

 

「あぁ、あの事ですか。…何か問題でも?」

 

そんなリンに対し、ひょうひょうとした態度で首をかしげるカヤ。

 

「…貴方はW.G.T.C.…いえ、アビドス側から説明を受けたのですか?」

 

「カイザーコーポレーションが独自に聞き取りを終えキヴォトス全体の脅威に繋がると判断し私に報告してきました。こちらがそのカイザーとW.G.T.C.の対談の記録です。」

 

そう言い、カヤはリンに分厚い封筒を差し出したが、

 

「…そうではありません。貴方自身がアビドス側からの事情や釈明を聞いたのか、と聞いているんです。」

 

それを横によけカヤに今一度自身で確かめたかを問う。

 

「いいえ。ですが…これを見ればはっきりと今のアビドスが異常だと分かるでしょう?」

 

そう言い、カヤが今度取り出したのはアビドス高校のここ最近の各種データ資料だった。

 

「…拝見します。」

 

リンもさすがにこれに目を通すが…

 

「…半年前から急激な財政回復に生徒数の増加…。」

 

「えぇ、こんな急激な上昇はどんな学校でも見たことがありません。」

 

確かに異常なデータだ。

 

主席行政官として様々な学校の統計的データは見てきたが…こんな滅茶苦茶なデータは見たことがない。

 

「連邦生徒会長失踪前から衰退していたアビドスは見向きもされていませんでしたが…まさかこんなあり得ない成長をしているとは考えられません。」

 

カヤの言い分ももっともだ。

 

そのタイミングはW.G.T.C.の起業…つまりネイトがやってきた時期と合致する。

 

「…確かに怪しさはありますが…W.G.T.Cという企業がアビドス復興を…。」

 

それでもリンはW.G.T.C.の起業としての働きの可能性を示唆するも…

 

「主席行政官、本気でそうお思いですか?」

 

「………。」

 

「あの連邦生徒会長ですら半ばさじを投げていたあのアビドス高等学校の復興をそんな新興企業がたった半年で成し遂げたと?」

 

そのカヤの言葉に二の句が継げなくなった。

 

確かに『超人』と謳われた連邦生徒会長の仕事っぷりを間近で見てきたのはリンだ。

 

そんな彼女だからこそ…連邦生徒会長ですら支援物資の配給を渋っていたアビドス高等学校の手の施しようのなさはすでに理解していた。

 

連邦生徒会長がどうにもできなかった学校をそんな短期間で立て直せるのか?

 

「しかも生徒数増加の件ですがほぼ元不良や他校の退学者たち、さらには手配が解除されたとはいえカタカタヘルメット団まで入学しているのですよ。」

 

「それは…。」

 

さらに現在は生徒も脛に傷を持つものばかり。

 

先ほど、ヘルメット団の一大グループまでアビドス高校に合流している。

 

不審がるな、というのが無理な状況だ。

 

「…資料で把握できる情報は理解できました。ですが。」

 

「まだ何か?」

 

「このような状況ならヴァルキューレを派遣するのが定石でしょう?」

 

リンの言うようにこのような事態に対応する組織も存在する。

 

『ヴァルキューレ警察学校』、アビドスの警察組織であり…

 

「カヤ防衛室長、なぜ指揮下のヴァルキューレを使い強制捜査などを行わないのですか?」

 

その指揮権限を有するのがこの防衛室なのだ。

 

「フム、確かにそうですね…。」

 

その言葉にカヤは一理あるという反応を示すが…

 

「ですが、もしアビドスのヴァルキューレにW.G.T.Cの手が及んでいたら?」

 

「…ッ!」

 

「ありえない、なんていうことはないでしょう?何せ我々にすら気取られずにアビドスに潜り込みこれだけの人員をそろえているのですから。」

 

これまたW.G.T.C.の秘匿性の高さがその懸念を強める。

 

現実でも犯罪組織やカルト教団の手の者が警察組織に潜り込んで捜査情報や強制捜査の時期などを密告するという事態は大いにある。

 

ましてやなかば暴力やら犯罪行為が日常のキヴォトス。

 

知能犯ならそれくらいの対処くらいしているかもしれない。

 

「ですので、ヴァルキューレの対応を一時飛ばし私の権限でカイザーコーポレーションの宣戦布告…いえ、アビドス高校解放作戦の発動を承認したのです。すでに各関連機関にはその旨を通達。アビドスからの一時退去も進んでいますよ。」

 

「…随分根回しがいいんですね。」

 

「キヴォトスの治安を守る、それが私の仕事ですので。」

 

確かに最悪の事態を予測し回避するという上では強引だが納得のいく理由だ。

 

「それに今回の問題は『企業対企業』、我々がどうこう言う権限は本来ないのですよ。」

 

連邦生徒会はあくまで『学校』の管理をする行政組織だ。

 

企業のやることに関して違法でもない限り強権を発動はできない。

 

カイザーコーポレーションの宣戦布告もキヴォトスの法に則って粛々と行われている。

 

第一、元から連邦生徒会は『各自治区での案件は各学園に任せており、無闇な介入はしない』というかなり不干渉気味な立場をとっている。

 

こうやってカイザー側から求められてカヤがわざわざ宣戦布告を容認するのはともかくその是非に関してあれこれ口を出す筋合いはないと企業に断られてもおかしくない。

 

「ということですでに事態は私の手を離れているので今からどうこうすることはできないのです。」

 

責任の所在はすでにカイザーコーポレーションに移った。

 

「…分かりました。これ以上先ほどのことについてはもう言いません。」

 

これでリンであってもこれ以上カヤを追求することはできない。

 

この先に起こる出来事はすべてカイザーとW.G.T.C.がどうにかする問題だ。

 

だが、最後に一つだけ聞いておかなけれらばならないことが彼女にはある。

 

「…では防衛室長、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの『先生』は御存じですか?」

 

「えぇ、あの連邦生徒会長が肝いりで創設した超法規的捜査が可能な部署…いえ部活ですよね?」

 

連邦捜査部S.C.H.A.L.Eは連邦生徒会の下部組織だが防衛室とは管轄が違ううえ設立して日が浅くカヤは面識がない。

 

「彼が今どこで何をしているか…ご存じで?」

 

「さぁ、細かく把握していませんが…。」

 

リンの質問にカヤはあごに指を充てて考え込むそぶりを見せるが…

 

「…先生は現在長期出張で『アビドス』にいらっしゃるのですが?」

 

「…ハイ?」

 

その先生の所在を聞きカヤは目を少し開き驚愕するのであった。

 

―――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

場面はアビドスに戻る。

 

唐突な宣戦布告とアビドス高校のカルト教団の巣窟と化しているという会見。

 

だが…

 

「早くなさい!アビドス高校へ避難するわよ!」

 

「待ってよ、お母さん!」

 

意外なことに住民たちは率先してアビドス高校への避難を開始している。

 

「全く、あんな会見を私たちが信じるもんですか…!」

 

そう、カイザーの誤算は…アビドス住人にはあの会見が一切信用されていなかったことだ。

 

確かにW.G.T.C.の知名度はかなり低いが…それはアビドス外での話だ。

 

むしろ、アビドス自治区においては珍しい新興企業でありアビドスの復興事業だけでなく非行生徒を雇い治安改善を進めてきた優良企業であることが知られている。

 

サンクトゥムタワーの騒動の折はアビドス高校と共に兵力を展開し迫りくる不良集団を打ち払い住民の平穏を守っていたことも周知の事実だ。

 

それからは地域住民からも仕事の依頼が舞い込み、それ以外にも手が空いているのなら老人宅の御用聞きなども行い交遊を深めていた。

 

さらに…

 

「えぇっと持っていく物は…これでいいですね。」

 

「じゃあ徒歩で向かい始めるとしよう。」

 

住民たちはある物を見ながら身支度を進めている。

 

それはW.G.T.C.が発行した『緊急避難マニュアル』だ。

 

簡単ながらも避難時の注意事項や所持品などを簡単にまとめたものだ。

 

これまた先月のゲヘナ風紀委員会の襲撃事案…他学区では柴関ラーメンのガス爆発として報道された…後にネイトが作成し発行。

 

元より軍人上がりな上核戦争の危機の中にあった戦前世界生まれのネイト、このようなマニュアルを作るのには一家言ある。

 

そこで有事の際に真っ先に戦場と化すであろう他学区との境界付近の住民に優先的に配布し、起こるであろう混乱を極力抑えるよう策を講じていた。

 

正直、役に立つ日など来ないでほしかったが…これのおかげで住民は素早く避難準備が行え安全を確保する行動に素早く移れた。

 

それでもやはり過疎化が進んでいるとはいえそこそこの住民がいるアビドス自治区。

 

避難所として指定されているアビドス高校までの道は長く避難民の列は長く続いている。

 

するとそこへバスや大型トラックの車列がやってきた。

 

見ると装備を整えた生徒たちや防衛用の設置物が座席や荷台に満載されている。

 

そして、

 

「じいちゃんたち、無事か!」

 

「おぉ、アビドスの!」

 

避難民に近づきバスを止め中からバスを操縦するアビドスの生徒が声をかけてきた。

 

「ちょっとまってな!今乗ってる連中をこの先で降ろしてからすぐ戻ってじいちゃんたち運ぶから!」

 

「そりゃ、助かる!」

 

「なぁに、それも俺達の仕事よ!じゃあ急いで戻ってくるからそのまま先へ進んでいっててくれ!」

 

「分かった、アンタたちも気を付けておくれよ!」

 

「アビドスを頼んだよ!」

 

避難民たちからの声援を受け一旦車列はアビドスと他学区の境界線付近を目指し進んでいき、

 

「よし、荷物を下ろして防衛ラインを構築してくれ!」

 

「アンタも避難民の護送頼んだよ!」

 

素早く人員と装備や資材を下ろして今度は避難民の護送任務へと移る。

 

こうしてW.G.T.C.とアビドス高校主導の避難民護送作戦が始まり…時計は10:15を回る。

 

「アヤネ、防衛線の構築と避難民の状況は?」

 

「ハイ、防衛線の警戒部隊の配備は完了。防衛ライン付近の避難民の護送もピストン輸送で40%は完了しました。」

 

「ペースとしてはまずまずですね…。」

 

「このまま順調にいけば、な。」

 

アビドス高校校庭に設けられた野戦指揮所ではネイトや先生にアヤネが各地の隊員や護送車からの通信を収集し情報を精査していた。

 

「ですが、先ほどアビドスを拠点とする民間のバス会社や運送会社も避難民の護送に参加を表明してくれたのでペースは確実に上がっています。」

 

「現地企業の方々が協力を申し出てくれたことは本当に僥倖でしたね。」

 

「あぁ、本当にありがたい限りだよ…。」

 

そう、避難に協力してくれているのは民間人だけではない。

 

民間企業もアビドス高校とW.G.T.C.の避難作業に協力。

 

彼らもまたネイトの半年間の活動によって治安が安定し強盗などの被害が減ったことの恩を返すために協力を申し出てくれたのだ。

 

結果、加速的に避難民のアビドス高校への集結は進んでいる。

 

「さて…俺達も作戦を考えようか。」

 

そう言い、三人は机に集まり今後の作戦会議に入る。

 

「現状、アビドスの防衛ライン『ナイルライン』の構築は終わっている。」

 

「主にゲヘナ方面を集中的に防衛していますがこれは?」

 

「カイザーの部隊配置と組する不良集団の関係だね。」

 

この日に向け、ネイトと先生は日夜『防衛作戦』の策定を行っていた。

 

そこで構築されたのが絶対防衛ライン『ナイルライン』である。

 

「ここにはすでに防衛部隊の展開と極秘に重防衛設備の配備も終えている。」

 

「主戦場はおそらくゲヘナ方面。ここは平野が続いているから互いに戦車を含む大部隊の展開がやりやすい。そして、ゲヘナにはカクカクヘルメット団がいる。おそらく今回の作戦に総力を挙げてカイザー側に参戦するだろうね。」

 

「…なるほど、確かにトリニティ方面は深い森林地帯があるため大規模な機甲戦力などの展開は難しいですね…。」

 

「そこを踏み越えてきても…『奴』をここに仕込ませている。たとえあちらの総力をここに投入しても対応できる時間稼ぎは容易だ。」

 

「念のため、監視ドローンと焼夷グレネード弾装備のカーゴボットをトリニティ方面に展開させておきます。」

 

「頼んだ。そして現在の懸念材料は…この砂漠に展開しているカイザーPMC部隊、およそ一個旅団だ。」

 

そう言い、ネイトが指さすのはナイルラインの反対側、アビドス砂漠の奥地だ。

 

「ここには大規模軍事拠点が一つと中規模の拠点が二か所確認されている。当初の作戦では宣戦布告と同時に『MRSI砲撃』で一挙に破壊するはずだったんだが…。」

 

「ホシノ先輩…ですね。」

 

「…あぁ、奇しくもそれができない状況に陥ってしまっている。」

 

軍事作戦において『二正面作戦』は絶対に避けるべき展開だ。

 

しかも、自分たちの背後をとっているのはカイザーPMC付きの部隊。

 

放置すべき相手では決してない。

 

それができない状況になっているのが…ホシノの存在だが…

 

「問題は…このどこにホシノがとらえられているかだ…。」

 

「順当に考えると設備のいい大規模基地かもしれませんが…。」

 

「その考えも分かるけど中規模の基地も即製ながら大隊配備のなかなかの規模だよ。決してここに捕縛されていないと言い切れない。」

 

「幸い、ここの部隊がアビドスから出ていった形跡はない。アイボットからも同数の部隊が出撃・帰還をしたことが確認されている。」

 

もしホシノがアビドス外部に連れ攫われていたら手に負えない状況になっていた。

 

「手あたり次第に制圧、捜索するのが手っ取り早いがそれだと時間がかかりすぎる。一か所を制圧している間に他の箇所の基地が動き出したら取り逃しがあるやもしれない。」

 

「何か有力な情報でもあれば…。先ほどキヴォトスのセントラルネットワークにアクセスして調べましたがおそらくスマホは破壊、もしくはこちらでも捉えられない場所にあるようです。」

 

「…先生、ここでシャーレの権限を使って強制捜査を行うことは…。」

 

アヤネの言うようにこれはシャーレが動くべき案件だが…

 

「イヤ、今シャーレが動くのはまずい。」

 

ネイトがアヤネの案を却下する。

 

「ど、どうして…!?」

 

「捜査するにしても連邦生徒会と連携を図る必要があるんだ。だけどあちらにはでっち上げた証拠に乗せられたとはいえ防衛室お墨付きがついてる。私が絶大な権限を持っていてもシャーレは連邦生徒会の下部組織、上がカイザー側の時点で…。」

 

「さらにシャーレはできたての組織、しかも現状大衆はアンチアビドスに情勢が傾いている。そんな中で先生が権限を用いて強制的にカイザーを捜査すれば…今後の彼の活動に大きな影響をもたらすだろう。」

 

シャーレとて組織の歯車の一部だ。

 

上がカイザー側を支持した時点でシャーレの意見は弾かれるか、もしくは時間を浪費してしまうのがオチだ。

 

そうなると、ネイトの懸念通り先生自身が今後の活動をやりにくくなる可能性だってある。

 

いまでこそ先生はアビドスの専属となっているが本来この状況はかなり異常。

 

ここを離れた時、彼に及ぶ影響を考えあえてネイトは先生にはシャーレの権限は使わせないようにしている。

 

「あ、あんな証拠嘘だって証言すれば…。」

 

「アヤネ、ふがいない話だがプロパガンダ戦ではあちらが先手を取っている。今俺達や先生が声高に叫んでも大衆は聞く耳を持たないだろう。」

 

「だから私本来の役目は『勝った』後だよ、アヤネ。そして、指揮官としてならネイトさんよりは頼りないかもしれないけど頑張るから任せて。」

 

「…分かりました、必ず勝ちますのでその時はよろしくお願いしますね。」

 

アヤネも何とかこの状況を納得し、先生に戦後のことを託す。

 

「でしたら救出部隊の作成ですが…。」

 

「そんなの言わなくても分かっているだろ?」

 

求められるのは少数精鋭、そんなことができる人員はこのアビドス高校には…。

 

すると、

 

「親分!賑やかな連中がやってきたぞ!」

 

周辺の監視を行っていた生徒が指揮所にやってきて嬉しそうに報告してきた。

 

「賑やかな連中というと?」

 

「あぁもうすぐ来る…。」

 

その時、アビドス校門からドリフトしながら一台の小型の旧車が乗り込んできた。

 

「お、おいおい…『フィアット』でなんちゅう無理な運転を…。」

 

「フィアット?」

 

「あぁいや俺の世界にあった似た感じの車のことだ…。」

 

唖然とするネイトをしり目に車は校庭の一角に留り中から…

 

「ネイト兄さん!便利屋68、ただいま義兄弟の契りによってこの戦争へ助太刀に参上よ!」

 

「ヤッホー!随分な因縁カイザーに付けられちゃったね、ネイトお兄ちゃん♪」

 

「な、何でも言ってください、ネイト兄様!ご命令なら今すぐにでもカイザーの本社を…!」

 

「落ち着きなよ、ハルカ。でもやるってんなら全力でサポートするよ、ネイト兄。」

 

「あ、アルさんに便利屋の皆さん!」

 

ネイトと義兄弟の契りを交わしたアウトロー集団、便利屋68がポーズを決めて降りてきた、

 

「お前ら…。その車どうしたんだ?」

 

「マスターが貸してくれたの!大丈夫、マスターは独自のルートでアビドス外に脱出しているわ!」

 

「そうか…。…援軍に感謝する、兄妹たち!」

 

妹たちが自分のために駆け付けてくれた、最早これ以上の理由を聞く必要はない。

 

「それで状況はどうなってるの、ネイト兄?」

 

「あぁ、現在避難民を受け入れ中。今は今後の作戦について…。」

 

そして、アル達も指揮所に迎え入れ有事の際の作戦会議を続ける。

 

現在の状況やもろもろのあらましを聞き終えると…

 

「この調子ならお昼過ぎるくらいには防衛線付近の避難は完了できるわね!」

 

アルが笑顔を浮かべてそんなことを言ってのけた。

 

確かに今も続々とバスやトラックがアビドス高校周辺にやってきている。

 

避難民たちはネイトがアビドスの体育館をコピーして作った建物で休んでもらっている。

 

民間企業の応援もあり避難率は60%を超え始め、あと少しで避難が完了する。

 

だが…

 

「…アル、そんなに戦争というものは甘くないぞ。」

 

「…え?」

 

「俺の予想では…正午前だ。そこで事態が大きく動く。」

 

アルに冷や水を浴びせるようにネイトは時計を見ながら不穏なことを呟いた。

 

―――――――――――

 

「こちら、クロノス報道部の『川流シノン』です!いま我々はヘリに乗りアビドス郊外の上空に来ています!」

 

時刻は11:30、この時間になると何機もの報道機関のヘリがアビドス上空にやってくるようになった。

 

中でも一番乗りだったのがこの『クロノスジャーナリズムスクール』所属の報道部のヘリだ。

 

暴力沙汰が日常茶飯事のキヴォトスでも『戦争』というものは未知の物だ。

 

それこそ…彼女たちは何かの『催し物』のようなものを想像している。

 

「見てください!地上ではアビドス学区の境界線付近から今なお避難民が列をなしてあのカルト教祖の『ネイト』氏が支配するアビドス高校に救いを求める子羊のように向かっています!」

 

あれから各報道機関がW.G.T.C.に取材を申し込む連絡をしているが機械音声で…

 

『現在、通常業務はすべて休止中。御用の方はメッセージをお残しください。』

 

というメッセージしか返ってこない。

 

なので、こうやってヘリを飛ばし眼下のアビドスの状況を好き勝手な憶測を交え報道しているのだ。

 

「カイザーコーポレーションが示した宣戦布告の時刻まで1時間半を切りました!いまだにW.G.T.C.側からの回答はなくこのままではキヴォトス史上類を見ない企業対企業の武力戦争が幕を開け…!」

 

その時だった。

 

ドオオオオオオォォォォォ…ンッ…!!!

 

「…え?」

 

アビドスとゲヘナの境界線から…数キロの場所から突如爆音が発生し濛々と煙が上がり始めた。

 

「ご、ご覧ください!突然、ゲヘナ側の学区で爆発が起こりました!まだ宣戦布告までは時間が…!」

 

この情報はキヴォトス中を駆け巡り…

 

《こちら、第5防衛部隊!アニキ、やっぱり連中『早漏』だったぞ!》

 

「了解!そちらに増援部隊を送る!」

 

直ちに防衛配備中の部隊からも指揮所にその情報がもたらされた。

 

「まさか、ホントにやらかしたの!?」

 

「よくあることさ!それで俺の国も戦争吹っ掛けたことがあるからな!」

 

そう言いつつ、ネイトは手元にあった端末を操作、

 

「こちらネイト!番長、出れるか!?」

 

《全車いつでも行けるぜ、親分!》

 

「よし、では暴れて来い!…『アビドス戦車大隊』並びに『アビドス砲兵大隊』!急行せよ!!!」

 

番長に声をかけ、端末のスイッチを押すとアビドス高校からアラームが鳴り響き…

 

「こ、校庭が割れてるわよ!?」

 

校庭の地面が重厚な音を上げて割れて…いや、ある箇所から下がりスロープ状になった。

 

そして、周囲に甲高いエンジン音が鳴り響き…

 

《アビドス戦車大隊及び砲兵大隊、カイザーの野郎にブッコンで行くんで夜露死苦ぅッ!!!》

 

『『『『『『『夜露死苦ぅッ!!!』』』』』』

 

アビドスの地下から…鋼鉄の軍団が地上に躍り出た。




いったん戦争が我々に押し付けられれば、これを迅速に終わらせるためには、使えるすべての手段を使う以外に選択肢はありません。
―――アメリカ陸軍元帥『ダグラス・マッカーサー』
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