『そうらしい。では教育してやるか。』
―――ドイツ第三帝国親衛隊戦車兵『ミハエル・ヴィットマン』
「記者諸君…悲しい知らせをしなければならない…。」
12:00、再びカイザーコーポレーションプレスルームでプレジデントが記者会見を開いていた。
「先ほど11:40ごろ、宣戦布告前だというのにゲヘナに展開していた我がカイザーPMC部隊がアビドス側から砲撃を受け観測拠点が壊滅し負傷者が出てしまった。」
プレジデントの言葉に各報道機関の記者はざわめき、
「これは我がカイザーコーポレーションに対する重大な挑発行為である!我々はこれに対し断固たる対応として現時刻をもってW.G.T.C.及びアビドス高校へ即時宣戦布告を発布する!」
予定よりも一時間早い…カイザーコーポレーションとアビドスの戦争の火ぶたが切って落とされた。
トリニティ、
「…妙ですね。なぜ避難誘導中にあんな挑発行為を…?」
ゲヘナ、
「イロハッ!チアキと共にすぐに現地へ調査に向え!虎丸を出しても構わん!」
ミレニアム、
「クッ…現時刻をもって一般生徒の一時アビドス方面への往来を止めるわよ!」
三大校各校がにわかに動き始める。
そして、
「避難民の輸送状況は?」
「残り20%がまだ現地より避難中です…!」
アビドス高校指揮所は冷静に状況を精査。
カイザーは宣戦布告を行った。
避難民がいようと…カイザーはそんなの関係なしに攻め込んでくるだろう。
「カイザーめ…!一般人まで巻き込んでそこまで戦争をしたいの…!?」
「アル、カイザーは建前で戦争だって言ってるだけだよ。向こうの認識じゃ…普段と変わらない、武力に物を言わせた商売のつもりなのさ。」
歯ぎしりしてカイザーの蛮行に怒りを覚えるアルだが先生は冷静にカイザーの行動を分析する。
だが、彼のその目にも静かな怒りの炎がくすぶっている。
「…さて、状況はどうであれこれで俺達も表立って行動ができるようになった。」
宣戦布告はすでに発布された。
これでアビドスとカイザーコーポレーションは晴れて『交戦状態』になってしまった。
つまり…ここから先はこちらも手出しができるということだ。
「…行かれるんですね、ネイトさん。」
「これでも元軍人、戦場に帰って…大事な物を取り戻すだけさ。」
「分かりました。ホシノを…生徒をよろしく頼みます、師匠。」
「アビドスを頼んだぞ、愛弟子。」
ネイトと先生はグータッチを交わし…二人の大人がそれぞれの役目を果たすために動き出した。
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――――――――
――――
12:15、アビドスとゲヘナの学区境界線付近にて…
「へへへッ…全くカタカタの連中も馬鹿な奴らだ。」
《まさかこれからぶっ潰されるアビドスに入るなんてな!》
《なぁ、賭けしないか?誰が一番多くアビドスの連中ぶっ倒せるか!》
《そりゃ…民間人込みでか?》
「良いな、それ!退屈せずに仕事をこなせそうだぜ!」
下卑た会話をしながら進軍するのは…カクカクヘルメット団とカイザーPMCの部隊だ。
この日のためにカイザーは一時的にカクカクヘルメット団を雇用、カイザー所属とすることでゲヘナ風紀委員会の摘発をすり抜けさせていたのだ。
ということもあり、カイザーもまたヘルメット団のおかげで兵力を強化。
歩兵1個大隊に加えクルセイダーやそれを基に強化された軍用戦車で構成された一個戦車連隊というキヴォトスでも類を見ない一大侵攻部隊。
そんな大部隊が…まだ民間人が避難中のアビドスの地に迫っている。
「ご、ご覧ください!歩兵だけではなくものすごい数の戦車です!今まさに、この大部隊がアビドスへ進撃しています!」
あれからシノンをはじめとした報道ヘリは流れ弾による撃墜を避けるため近くの平野に着陸しその部隊に帯同し取材を続行している。
その時だ。
「?なに、この音…?」
どこかからか野太い風切り音が響き渡ってきた。
進攻部隊から少し離れカイザーたちよりも高性能な音響機器だからこそ捉えられた。
報道陣がその音の正体を探ろうと周囲を見渡す。
次の瞬間、進攻部隊の頭上数か所で連なるように炎の花が咲き誇りそれから撒かれた鋼鉄の種と開花の音が周囲に襲い掛かる。
「い、いったい何が…!?」
見たこともない光景に固まるシノンだが砲煙が晴れた同じ場所の光景を見ると…
「ひぃぃぃぃっ!!!」
キャスターらしくない悲鳴を上げた。
無理もない。
先ほどまで雄々しく進んでいた戦車はまるで巨人に踏みつぶされたかのように爆散。
周囲にいた歩兵たちも例外なく戦闘不能…それも確実に『再起不能』だと分かるほどの重症。
カイザーPMC所属のオートマタに至ってはもはや原形など分からないほど破壊されている。
周囲に…焼けるオイルと鉄の匂いと…質の違う生臭い鉄の匂いがにわかに漂い始めた。
《こちら第2防衛部隊!初弾命中、戦車10両を含む歩兵二個小隊が戦闘不能!》
「これが…『MRSI砲撃』…!」
観測ドローンからの映像と前線にいる防衛部隊からの報告で先生は息をのむ。
Multiple Rounds Simultaneous Impact砲撃。
読んで字のごとく、複数発の砲弾を炸薬量や仰角を調整し同時に着弾させる砲撃である。
敵に回避の隙も与えず一挙に広範囲を制圧することも可能な制圧砲撃だが高性能の自動装てん装置を必要とする。
それを可能にする代物が…今アビドスにはあるのだ。
「よし、敵の出鼻は挫いた!各戦線、準備はいいね!?」
初撃は文句なし、敵も浮足立ってる中先生は各地に展開中の部隊に確認を行う。
《こちら第一戦車小隊!いつでも行けるぜ、先生!》
《第二戦車小隊も位置に付いた!こっちにもわんさかいやがる!》
《第三戦車小隊、準備完了!すげぇ、こんな戦車乗ったの初めてだ!》
《第一自走砲小隊、次弾装填完了!》
《こちら機動砲撃部隊『セクレタリーズ』、展開完了!必要ならどこへでも行くぜ!》
《野戦砲小隊も準備完了!全戦域への支援砲火可能だ!!!》
《こちらアサルトロン『断雲号』。アサルトロン分隊各隊、各地に展開完了。》
《セントリーボット『雷雲号』、セントリーボット各班も各戦線への展開を完了。》
続々と返ってくる準備完了の返信を聞き…
「了解!…総員に告ぐ、カイザーコーポレーションは卑劣にも民間人を無視した侵攻作戦を行ってきた!」
先生はいつになく語気を強め隊員たちに檄を飛ばす。
「君たちはこの一か月、『ゲーム開発部』の協力を得て訓練を積み重ねてきた!!!その力を遺憾なく発揮し今こそ『アビドス機甲部隊』の実力をキヴォトスに知らしめる時だ!」
これまでの訓練を思い出し全員の体に力がこもる。
「君たちの任務は敵を打倒することじゃない!避難民を守ることだ!!!戦果を望まず、彼らを守る盾となってほしい!!!一兵、一輌たりとも近付けさせないでくれ!」
先生のその熱量は徐々に隊員たちにも波及、さらに闘志に火をつける。
「そして、心にとめておいてもらいたい!君たちが守っているのはアビドスの住民じゃない、アビドスの未来そのものだ!!!そのことを胸に存分に戦ってほしい!!!」
その肩にかかる重圧すら…隊員たちの闘気をさらに押し上げる。
《…以上をもって私からの訓示を終える!》
「フッ…アハハハハハッ!」
その訓示を聞き終えた番長は…腹の底から笑った。
《番長、どうかしたんですかい?》
「なぁ、信じられるか!?半年前まで日陰者だった俺らがアビドスの未来を守るための盾になれたんだぜ!?」
おそらく、過去の自分に言っても信じられないだろう。
ただの不良で粋がっていた自分がこんな重大な局面の最前線に立っているということに。
「…嬉しいなぁ、嬉しいなぁッおい!」
緊張も重圧も一入だが…それが嬉しくて仕方なかった。
《そっすね、番長!こんな役目任されるなんてマジで光栄だ!》
「オウともよ!やってやろうぜ!」
小隊間の無線で以前からつるんでいた手下とそう言葉を交わし、
「第一戦車小隊隊長から全防衛部隊へ!あんなブリキ缶共をこのアビドスに一歩も踏み込ませんなよ!!!全部スクラップにしてアビドスの礎にしてやろうぜ!!!」
《ウオオオオオオオオオっ!!!》
全部隊に気合を入れる通信を発信、無線から無数の鬨の声が沸き起こる。
その声を聴き…
《よし、では戦闘開始!みんなの武運を祈っているよ!》
先生から開戦の号令が響き渡った。
《何が起こったんだ!?》
「ほ、砲撃だ!!!奴等、一気に何発も砲撃を撃ち込んできやがった!!!」
先ほど砲撃を食らったカイザー進攻部隊は大混乱に陥っている。
これほどまで高精度に同時炸裂する砲撃など彼ら彼女らは知らない。
《また来るぞ、散開しろ!!!》
初弾から効力射、すでに測距はほぼ完ぺきにあっていることに他ならない。
このまま隊列を組んでいてはいい的だ。
カイザーPMCのオートマタが素早く部隊をばらけさせる指示を出す。
しかしそれでも…砲撃は容赦なく降り注ぐ。
「な、何なんだよ!?アビドスにこんな化け物みたいな砲があるなんて聞いてねえよ!?」
その砲撃は次々に戦車や歩兵たちを刈り取っていった。
部隊が大所帯な分散に時間がかかり犠牲こそ出たもののなんとか進攻部隊は砲撃の脅威を軽減することに成功。
だがそこへ…
「見ろ、アビドスから戦車が出てきたぞ!」
アビドス側から四両の戦車が左右に二台ずつに分かれ発進。
「奴等、戦車までもってやがったのか!?」
《バカみてぇに足の速い奴だ!》
土ぼこりを巻き上げ快速で知られるクルセイダーの路面速度を優に超える速度で不整地を疾走するアビドスの戦車。
「ビビんな!あんな足だったら装甲は薄いし走り回ってて当てられるわけが…!」
ヘルメット団の一人がそう部隊に呼び掛ける。
彼女らの常識ではその認識に間違いはないだろう。
…相手が自分たちの常識の範疇の戦車なら。
次の瞬間、アビドスの戦車の一両が発砲。
目測で2㎞近く離れあちらも移動中でカイザー側の戦車も動いていたはずだった。
だが…砲弾は狂いなくクルセイダーの側面に命中。
その威力はクルセイダーだけで衰えることはなくその背後にいた強化された軍用戦車の防盾に命中し…ぶち抜いた。
二両とも砲塔がびっくり箱のように吹き飛び火柱を噴き上げた。
「…は?」
移動中に砲撃し命中、しかも一発で二両を仕留めるほどの威力。
他の車両も行進間射撃を実行、一発で確実に一台もしくは射線の関係で2台を撃ち抜き次々と撃破していく。
「う、撃ち返せ!あんだけでかい砲と快速だ、紙装甲に決まっている!」
しかし黙ってやられるカイザー部隊ではない。
数ではいまだこちらが圧倒している。
数両のクルセイダーと強化された軍用戦車がアビドスの戦車に向け発砲。
距離もあり移動中の標的であったため殆ど外れたが…幸運にも一発、それも高威力の強化された軍用戦車の砲弾が着弾。
性能ではすべての面においてクルセイダーを上回る戦車だ。
だが…砲弾は金属音を響かせ装甲にわずかな傷をつけ弾き飛ばされた。
「そ、そんなバカ…!」
驚愕するPMCだがお返しと言わんばかりにアビドスの戦車から砲撃を受け強化された軍用戦車は爆散する。
「当ててきやがった!被害は!?」
「あんな豆鉄砲で壊れるほど軟かねぇ!砲手、次は方位25のクルセイダーだ!」
「合点!」
「次弾ノ装填完了シマシタ。」
先ほど砲撃を食らった戦車内、番長たちや車長のMrガッツィーと装填手のプロテクトロンは連携しすぐに次の標的に砲撃を加える。
砲撃による混乱があったとはいえ僅か一個戦車小隊、4両で戦車旅団を相手取るこの戦車…
全長 9.83m
車体長 7.92m
全幅 3.66m
全高 2.37m
重量 45t
速度 整地85㎞/h、不整地55km/h
主砲 GA社製42口径140㎜滑腔砲
装甲 ケテル装甲及び無拘束セラミックにタングステンプレートの複合装甲
その名も…『M1A4E2 Thumper』。
資源が枯渇する以前…最強をほしいままにしていたアメリカ陸軍の第四世代主力戦車を独自に改良した最新型である。
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時は廃墟区画水没地区の工業地帯の調査まで巻き戻る。
あの時、アヤネが見つけた兵器生産ラインのディスプレイに表示されていたのは…
『パットン』、『レオパルド』、『センチュリオン』、『マスタング』、『スカイレイダー』、『スカイホーク』etc…。
それらはネイトも聞いたことがある第二次大戦以降の戦場の古強者の名前だった。
銃器はかなりネイトが知る中でもかなり新しい種類が揃っているキヴォトス。
だが、兵器に関しては戦闘ヘリを除いてその技術は第二次大戦で止まっている。
かなりいびつな発展具合だが…そこに来てこの兵器達だ。
あの後、ネイトが潜り込んで調べてみると…ネイトの世界において資源枯渇が顕著になる前の戦車などの兵器の存在も確認できた。
さすがに連邦でも点在していた核融合エンジン搭載の連装砲戦車『M2 シュワルツコフ』はなかったが…。
その時はネイトもすぐには必要としなかったが…一月半前に事態が急変した。
急ぎ戦力拡充を推し進めねばならない状況になったが生憎アビドスの人員は限られている。
ならばどうするかというと…単騎の性能を極限まで高めた兵器を配備するしかない。
そこで目を付けたのが…M1エイブラムス、米陸軍において改良されながら半世紀近く運用されてきた主力戦車だ。
現実世界ではA2までだったが…ネイトの世界では違った。
時は超冷戦、どの国も兵器開発に余念がなかった時代だ。
その間に開発されたのが…140㎜砲搭載のエイブラムスのバリエーション通称『Thumper』である。
当初は自動装てん装置や無人砲塔など最新技術を盛り込まれていたが技術的限界があり装填方式や砲塔設備は従来型のまま配備されていた。
それをネイトが独自改良。
装甲材である均質圧延鋼板から非常に軽量なケテル装甲に換装。
これにより圧倒的な防御力向上と軽量化に成功。
但し、軽量化し過ぎた場合反動の問題が出てくるので劣化ウラン装甲からタングステン装甲に変更し割合を増やすことで重量バランスを確保。
そして主砲駐退機もケテルが用いたものに換装、140㎜砲の強烈な反動を軽減。
結果として…軽量化によって速度と燃費も向上。
大飯ぐらいで補給泣かせだったM1戦車の腹持ちがそこそこ良くなった。
…だが、戦車だけあっても乗員が未熟ではお話にならない。
そこで白羽の矢が立ったのが…
「おぉ、これは臨場感がすごいな…!」
「でしょ~!一週間、頑張って作ったんだから!」
「ネイトさんが詳細なスペックをくれたので助かりました。」
「ステージは、砂漠に平原と数パターンの市街地。モードは、PVEとPVPを、同梱してます。」
モモイ達、ゲーム開発部である。
あの日から一週間後、現在より38日前。
この日ネイトは再びミレニアムを訪れ完成したシミュレーターをプレイしていた。
この手の技術は連邦にもあったが…キヴォトスのそれは現実と見まごうクオリティである。
自らの記憶にフルダイブして追体験する『メモリー・ラウンジ』なども経験したことはあるがそれにも引けを取らないだろう。
「いやー、想像以上だ。これなら皆も楽しめる。」
「でもこんなスペックの戦車なんてホントにあるの、ネイトさん?」
「モモイ、こういうのは本物っぽいってのが重要なんだ。」
「リアルとリアリティは違うみたいなことですか?」
「そう言うことだ。速度をいじくれば重機の操縦訓練にも使えて一石二鳥だしな。」
「お仕事だと、重機使う人、いっぱいいますもんね。」
…ネイトは彼女たちには隠していた。
これはあくまで遊ぶためのものだといって作ってもらった。
この子達に…自分がやろうとしていることの重荷を背負わせる訳にはいかない。
「じゃあ、これが代金だ。」
「ハイ、確かに受け取りました。」
報酬である10万円をミドリに手渡しそれを彼女が確認し終えると…
「よ~し!じゃあ今日はとことん付き合ってもらっちゃうよ!」
「どんと来い、モモイ。部室が閉まるまで付き合うさ。」
「じゃあ、どれから、始めましょうか。」
この後は約束通りゲーム開発部と遊び始めるネイト。
「へッへ~ん!お邪魔ポヨ乗っけたからこれで連鎖は…!」
「油断大敵だぞ、モモイ。」
「え?…えぇーッ!?全消し連鎖!?」
「作戦には第二プランを用意しておくものさ。」
モモイと『ポヨポヨ』という詰み崩し系パズルで対戦し油断したところを逆転したり、
「こ、こういう!体動かす!のもあるのか!」
「ネイトさん!テニス!やった事、あるんですか!?」
「ない!でも!なかなか!いいもんだな!」
コントローラーを振ってボールを打ち返す『フィットネス・シミュレーター』でミドリとラリーを繰り広げたり…
「………!」
「待って、待ってくれッユズ!そんなコンボ聞いてない!」
格闘ゲーム『スチューデントファイター2』では『UZQueen』モードとなったユズにコテンパンにされ…
「…次のラウンド、V.A.T.S.アリでやっていい?」
「「いやいやいや!」」
思いのほか悔しかったので少々大人げない提案など飛び出しながら四人で賑やかにゲームで遊んでいく。
ネイトも前世を通じてここまで高画質でバリエーション豊かなゲームを遊んだのは初めてで童心に帰り楽しんだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき…
「うぅ~ん!今日はめちゃくちゃ遊んだぁ~!」
「私たちの好きなゲームばかりでよかったんですか、ネイトさん?」
「な~に、俺も存分楽しませてもらったよ。たまには童心に思い切り帰るってのもいいものだ。」
「楽しんで、貰えたようなら、私たちも、嬉しいです。」
あっという間に部室を閉めなければならない時間となった。
日もとっぷり暮れ今はネイトが三人を寮まで送っているところだ。
すると、
「ねぇねぇ、ネイトさん!今度はいつミレニアムに来てくれるの!?」
早くもネイトと遊べる次の機会を待ちきれないといった様子でモモイが尋ねるも…
「う~ん、ちょっとこれからまた忙しくなるからしばらくは来れないかな。」
本来の目的は言えないがしばらくは会えないとネイトが答えると…
「…そっかぁ、お仕事忙しいんじゃ仕方ないよねぇ。」
がっかり…というよりも寂しそうな表情を浮かべる。
「…ごめんな。でも、落ち着いたらまた遊びに来させてもらうよ。」
ネイトもそんなモモイを慰めるように声をかける。
「「………。」」
そんなネイトの様子をミドリとユズがじっと見つめていた。
その後、特に騒動に巻き込まれることなく三人の寮に到着。
「それじゃ俺はここまでだな。今日はとても楽しかったよ、またな。」
さすがに女子寮の中までは送れないのでネイトはここで退散しようとする。
その時だ。
「ネイトさん…。」
「ユズ?」
ユズがネイトの袖をつかみ…
「あのシミュレーターで…なにをしようと、してるんですか…?」
普段のおどおどとした雰囲気は霧散し目線に力を込めてネイトに尋ねる。
「説明したじゃないか。ウチの生徒たちの娯楽だって。」
「…嘘ですよね、ネイトさん。」
ネイトがそう誤魔化して答えると今度はミドリがユズとは逆の手を掴みながら問う。
「どうしてそう思うんだ、ミドリ?」
なおも不思議そうな表情を浮かべてミドリに尋ねるが…
「…分かるよ。だって…ネイトさんの声…あの時の声だもん。」
さらにモモイがネイトの体を抱き留めそう答える。
「…あの時って?」
「…ネイトさんが…ケテルに…。」
既に三人とも気付いていた。
今のネイトの声は…ケテルに叩き飛ばされる直前に発したときの雰囲気を帯びていたことを。
このまま帰らせてはいけない、このままでは…この人はまたどこかへ行ってしまう。
言葉を交わすことなくネイトを引き留める行動をとれたのはさすがゲーム開発部といったところか。
「…そっか。俺も隠し通せると思っていたんだがなぁ。」
ユズの答えを聞き、これ以上は無理だと察するネイト。
「…三人とも、壊れて困るような電子機器をいったん少し離れた場所に置いて来てもらえるか?」
三人にそう伝え、モモイ達も言われた通り携帯ゲーム機やスマホにヘッドホンなどをいったん外し、
「これで覗き屋は…!」
さらにパルススラグ弾の弾頭を踏みつけ極小範囲のEMPで万全を期し、
「さて…結論から言おうか。俺達、アビドスは…。」
ネイトはアビドス高校が計画している作戦を伝える。
今回のゲーム開発部に作ってもらったシミュレーターは…戦車搭乗員の訓練のためのものだとも、伝えた。
「…すまなかったな。本当のことを伝えずに作らせたりして。」
本来の目的を伝えず巻き込んだも同然の行いを謝罪するネイトだが…
「謝らないでください、ネイトさん。ネイトさんの気持ちは分かります。」
「むしろ…そんな大事なことに、私たちを頼ってくれて、嬉しいんです。」
ミドリもユズもネイトを責めなかった。
確かに目的を伏したことはいい気はしないが…それでも友達が頼ってくれた。
それもこんな重要な役目を…自分たちにまかせてくれた。
その事実が嬉しかった。
「ありがとう、二人とも。そう言ってくれると気が楽になるよ。」
すると…
「…ネイトさん、私も一緒にカイザーと…!」
モモイが強いまなざしと決意を込めてその言葉を放とうとした…が、
「ダメだ、モモイ。」
「ッ!?ど、どうして…!?」
ネイトがきっぱりと拒否を突き付ける。
「これはアビドスの問題だ。三人をこれ以上…ましてや戦いに巻き込めない。」
「でも、友達が戦おうとしているのに…!」
なおも食い下がるモモイだが、
「友達、だからだ。今回の戦いは…モモイ達が経験してきた銃撃戦とはわけが違う。ケテルの時より一層激しい…本当の意味で戦争なんだ。」
普段の雰囲気ではない、前世で帯びていた兵士の雰囲気を纏い彼女を諫めるネイト。
「…ッ!」
その鋭く冷たい雰囲気にあてられモモイは一歩たじろぐ。
「…すまない、モモイ。だが分かってくれ。この戦いは…アビドスとして勝利を収めなくては意味がないんだ。」
真剣にモモイの目を見ながらネイトは説くが…
「で、でも…友達が戦ってるのに何もできないなんて…!」
それでもネイトの力になりたい。
スカートの裾を握りしめ目に涙を浮かべて必死に訴えるモモイ。
「…私からもお願いです、ネイトさん。何か・・・お手伝いさせてください。」
「た、戦い以外にも、私たちが、力になれることが、きっとあるはずです…!」
ミドリとユズも目を潤ませながらネイトの力になりたいと訴える。
「…………。」
そんな少女たちの姿を見まわし、
「…分かった。これは本当は使いたくなかったが…。」
ネイトはPip-Boyに一つのホロテープを挿入。
その内容をすぐに書き終え…
「モモイ、これを君に託す。」
取り出したそれをモモイに手渡した。
「いいか、このホロテープを…約束通りに戦闘が始まらなかった時にユウカに渡してほしい。」
「これって…?」
「内容は見るな。いいか、もしちゃんとカイザーが約束を守ったときはちゃんと破棄するんだぞ。」
「…分かった。」
このホロテープの使い方、使わないときの対応を簡潔にモモイに伝え…
「そしてこれが一番大変だぞ。…カイザーが俺のことをどんなに馬鹿にしようとその時までは絶対に我慢するんだ。できるな?」
モモイにそう口添えする。
ユウカから聞いている。
モモイは普段はかなりの問題児だということを。
特に自分たちが作ったゲームを馬鹿にされたときはすぐに襲撃を仕掛けるような問題行為を起こす。
そんなモモイが…ネイトを馬鹿にされて我慢できるか、正直怪しい所だ。
だが…
「…うん、約束する…!絶対にどんなことがあっても…我慢する…!」
モモイもネイトの目を見てしっかりと答えた。
友の望みを踏みにじることは…モモイにとって何物にも耐えがたい事なのだ。
だから…ネイトにも自分にも誓うようにしっかりと答えた。
「…そうか。じゃあ、頼んだぞ。」
その答えを聞き、ネイトはようやく表情を崩し…
「…おいで、皆。」
そう優しく声をかけると…モモイ達はネイトの胸に飛び込んできた。
「ネイトさんっ…絶対に帰ってきてね…!」
「もう遊べないなんて…絶対に嫌ですから…!」
「だから、絶対に、カイザーに…負けないで…!」
肩を震わせながら…ネイトの武運を祈るモモイとミドリにユズ。
「任せろ。俺やアビドスの皆の強さは知ってるだろ?必ず…必ず勝って帰って来るさ。」
その三人をいっぺんに抱きしめ…ネイトは勝利を約束するのであった。
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―――――――――
――――
そして…その時は来た。
「行くよッ!ミドリ!ユズ!」
「「うん!!!」」
もう我慢の時は終わりだ。
今こそ、自分たちの出番だ。
今こそ…友を助けるその時だ。
「見てなさい、カイザー!!!誰の友達に手を出したか、思い知らせてやるんだから!!」
涙をぬぐいモモイは一歩一歩を力強く踏み出し進み続ける。
戦いはまだ…始まったばかりだ。
もし君が悩む友を持っているなら、君は彼の悩みに対して安息の場所となれ。
だが、いうならば、堅い寝床、戦陣用の寝床となれ。そうであってこそ君は彼に最も役立つものとなるだろう。
―――思想家『フリードリヒ・ニーチェ』