Fallout archive   作:Rockjaw

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国の興廃、この一戦にあり。各員一層奮闘努力せよ
―――連合艦隊司令長官『東郷平八郎』


The Iron-Blooded Line of Defense

ついに火ぶたが切って落とされたアビドスの存亡をかけたカイザーとの戦争。

 

「撃て、撃ち続けろ!敵はいくらでもいる、勲章山盛りだぞ!」

 

「そろそろ歩兵が動き出すぞ!刈り取ってやれ!」

 

「うっす!次弾、キャニスター弾セット!」

 

「装填完了。」

 

その先陣を切る番長率いる第一戦車小隊はまさに獅子奮迅の暴れようだ。

 

すでに敵戦車連隊は最早一個中隊までその数を減らしている。

 

「くそ、RPGだ!RPGを持ってこい!」

 

そんな中でもいまだ歩兵、自らの銃や対戦車火器を使用し何とかアビドスの戦車を仕留めようとするが…

 

「撃て!」

 

140㎜という大口径砲から放たれる『キャニスター弾』、ようは大砲で放つ無数の散弾が…

 

『『『『ぐぼっ!?』』』』

 

散開した歩兵たちをまるで雑草のように刈り取っていく。

 

さらに、

 

「セクレタリーズ、いるか!?」

 

《オウよ!支援砲火か!?》

 

「あぁ、フレシェット砲弾を撃ち込んでやれ!」

 

《任せな!すぐに届けるぜ!》

 

機動砲撃部隊『セクレタリーズ』に砲撃支援要請。

 

戦線よりはるか後方からかつてヒナに砲弾を叩きこんだ腕前は磨かれ…

 

『ぎゃああああ!!?』

 

侵攻部隊の頭上から数千本の鉄の矢が降り注ぎさらに敵の被害は増していく。

 

他の戦線でも防衛部隊は目覚ましい活躍を見せる。

 

「ひょえ~、クルセイダーがほんとにブリキ缶みてぇだ!」

 

「うちらも負けてらんねぇ!戦車だけがアビドスの力じゃねぇってとこ見せてやれ!!!」

 

第二防衛線部隊でもM1A4E2 Thumperは大活躍しているがそれに感化されたこの防衛線を担当する部隊が…

 

「弾は心配すんな!工場にあったもん全部持ってきたってんだから撃ち放題だぞ!」

 

こちらに迫る進攻部隊に向け…連装の砲身の兵器を構える。

 

その名も『ZU-23-2』、ソ連製の牽引式対空機関砲である。

 

ネイトも米中戦争で幾度となく目撃し時に撃たれたこともある傑作兵器だ。

 

そのバリエーションの中でも電動式旋回装置と電子式照準装置が追加されているタイプである。

 

ではなぜそんなものがここにあるかというと理由は水没地帯の工場内の倉庫にある。

 

そこはケテル用の弾薬などが格納されていたが…そこには夥しい量の23㎜砲弾が収められていた。

 

確かに高レートのガトリング砲を装備する機体もいたのでそれ用の在庫があってもおかしくはない。

 

正直、余り運用するうえで弾薬の種類が増えることは相応しくないが…有り余る在庫があるなら使ってしまおうというネイトの勿体ない精神が発動。

 

ちょうど工場の作成可能兵器の一覧に『ZU-23-2』も存在していたので防衛用火器として生産、防衛線に配備していた。

 

「装填よし!」

 

「耳塞いでろ、ぶっ放すぞ!!!」

 

射手である生徒が引き金を落とした瞬間、普段聞く銃声とはケタ違いの爆音が轟き23㎜砲弾が侵攻部隊に襲い掛かる。

 

「がべぇ!?」

 

銃弾とは一線を画す威力の23㎜砲弾を前にカイザーPMCのオートマタは粉砕、

 

「た、対空砲だ!対空砲でアタシらぼぐぉ!?」

 

カクカクヘルメット団の隊員も体の一部を掠めただけでノックアウト、直撃を受け数mフッ飛ばされている者もいる。

 

さらにこれほどの口径の機関砲弾なら…

 

「に、逃げろ!クルセイダーじゃ耐えきれ…!」

 

次の瞬間、クルセイダーの天板や砲塔側面を貫通し砲弾が炸裂。

 

破片や爆炎によって搭載していた砲弾も誘爆し、ハッチから火柱が吹き上がった。

 

元より防御を捨てて速度に降り切った戦車。

 

正面装甲ならまだしもそれ以外の場所では23㎜砲弾は防げない。

 

しかし、やはり対空機関砲なので発射レートもすさまじく、

 

「装填!弾薬ボックスを頼む!」

 

「待ってろ!」

 

装填されていた弾薬をすぐに消費し装填となる。

 

だが、その隙を埋めるように…

 

「撃て撃て!!!この間合いだ、俺らの独壇場だぞ!!!」

 

他の隊員が陣地に据え付けられた重機関銃『ブローニングM2』で攻撃を開始。

 

カイザー侵攻部隊とは距離にして1㎞近く離れている。

 

戦車ならまだしも歩兵の持つ装備では到底太刀打ちできる距離ではない。

 

対してこちらは50口径の重機関銃。

 

そのくらいの距離などものともせず…

 

「ブベ!?」

 

「や、奴ら重機関銃まで使って来やがヴぉあッ!?」

 

「卑怯だぞ、テメヅアッ!?」

 

これまた大威力の弾丸、一発でも当たれば容易に行動不能にできる。

 

しかも、銃身にはウォータージャケットが装着されているので弾幕に途切れがない

 

両側面からはM1A4E2 Thumperの砲撃、真正面からは大口径の弾雨。

 

逃げ場を潰された侵攻部隊の行き足は完全に止まった。

 

そこへとどめと言わんばかりに…

 

《自走砲部隊、第二防衛線に支援砲火を!》

 

「了解、座標を送れ!」

 

後方に控える自走砲部隊に砲撃を要請。

 

うなりを上げてその長砲身を掲げ照準を定める。

 

この自走砲も今回の作戦のためにネイトが設計したものだ。

 

車体にはM1A4E2 Thumperの物を流用。

 

無人化された砲塔にはケテルの自動装填機構を参考にした機構と長大化させた砲身を搭載。

 

元のケテル自身がこの155㎜の大口径砲で対空射撃を行えるだけあってなかなかの連射速度を持つ。

 

そこにマサチューセッツの射撃管制システムを流用したベトロニクスを装備。

 

ドローンの観測も合わさることによって高精度のMRSI砲撃を可能とした。

 

あえて、現実に即した名称を付けるとするなら…『XM2001 クルセイダー』という試作段階で日の目を見なかったアメリカ軍自走砲に近い代物だ。

 

すぐさま、防衛線部隊から弾着座標が送信され、

 

「測的完了!」

 

「MRSI砲撃、開始!!!」

 

コンピュータが弾き出した仰角の切り替えと素早い連射速度に物を言わせて砲弾を発射。

 

放たれた5発の砲弾はそれぞれ違う放物線と速度で飛翔し…第二防衛線が相対する侵攻部隊の頭上五か所で炸裂。

 

戦車諸共多くの歩兵に衝撃波と破片が襲い掛かる。

 

《全弾効力射だ!ナイスショット!》

 

《こちら第二戦車小隊!侵攻部隊の残存兵力の大半が今ので吹っ飛んだ!よくやってくれた!》

 

「必要な時はいつでも呼んでくれ!どんな敵が来ようとフッ飛ばしてやる!」

 

前線をはる戦車部隊と大口径機関砲などを駆使する防衛部隊、後方からそれを支援する砲兵部隊の連携。

 

この一か月練りに練られた防衛作戦がカイザーの侵攻部隊をどんどん削り取っていく。

 

その頃…

 

「はっはっはっ!まさかアビドスに来て早々こんなすげぇ戦車任せられるとはなぁ!」

 

《いままでアタシら嘗めてくれた鬱憤、ここで晴らしてやらぁ!》

 

別の防衛線を担当する第三戦車小隊。

 

この部隊は元カタカタヘルメット団の戦車の操縦経験のある生徒が中心に編成。

 

さすがにゲーム開発部のシミュレーターの訓練を受けていないので精細に若干かけるが戦車乗りの経験とM1A4E2 Thumperの性能でそこをカバー。

 

これまたほぼ一方的に侵攻部隊戦車や歩兵を排除していく。

 

「おいッ聞こえてっか、カクカクヘルメット団!」

 

《んな!?テメェらまさか!?》

 

「お前ら、アタシらの縄張りに…いや、アビドスに手ぇ出したこと後悔させてやんよ!!!」

 

《このッ、裏切りやがったな!?》

 

「裏切ったんじゃねぇ、表替えったのさ!!!」

 

中にはかつて使用していたヘルメット団の無線周波数でそこらにいるカタカタヘルメット団に煽り出す隊員まで現れる。

 

「アビドス高校での初陣だ!!!ど派手に決めんぞ!!!」

 

()()()()!()!()!()

 

「威勢がいいな!大いに結構、どんどん撃ち抜いてやれ!!!」

 

本当のところ、あまり好ましくないが戦意高揚につながることもあり車長のMr,ガッツィーも大目に見て彼女たちに指示を飛ばす。

 

だが、相手はカイザーPMC。

 

「こちら第三侵攻部隊!アビドスの未知の戦車部隊と砲兵部隊により損害甚大!至急、戦闘ヘリの援護を願う!!!」

 

《了解、至急対戦車装備の戦闘ヘリを送る!》

 

PMC社員の一人が後方拠点に航空支援を要請。

 

『戦車キラー』たるAH-64『アパッチ』が飛来、

 

「こちら第一対戦車ヘリ小隊、攻撃を開始する!」

 

戦車の射程外からヘルファイアミサイルを発射。

 

「食らいやがれ!いくら強かろうが戦車が俺らにかなうわけが…!」

 

アパッチのパイロットはゆるぎない勝利を確信する。

 

すると…

 

「ッ!?対戦車ミサイル検知!」

 

「や、やべぇ!いくら頑丈でもくらっちまったら…!」

 

「慌てるんじゃない!」

 

車長のガッツィーが自身に接続されたレーダーでミサイルの飛来を察知し、

 

「『L-APS』を起動する!」

 

そう宣言するように声を上げると戦車上部の全周型小型レーダーとレーザータレットが起動。

 

すぐさま飛来するヘルファイアミサイルを捉えレーザーを発射。

 

超音速で迫るヘルファイアミサイルを光速のレーザーが撃ち抜き着弾する前に破壊。

 

「す、すげぇ…!ミサイル撃ち落としちまった…!」

 

「フン、この戦車撃ち抜きたきゃ『キメラタンク』を持って来いってんだ!」

 

彼女らの中では戦闘ヘリから戦車が身を守る方法など運任せ以外なかった。

 

だが、この戦車は自身の力だけで対戦車ミサイルを防いで見せた。

 

『APS』、アクティブ防護システムと呼ばれるもので戦車が自らに放たれる対戦車火器に対する防護策の総称を指す。

 

ネイトの時代も戦車の砲塔上部にタレットを搭載しそれに近いものが存在していたが精度はあまりよろしいものではなかった。

 

しかし…ここはキヴォトスだ。

 

スマホに代表するように『ソフトウェア』関連に関する技術は連邦のはるか先を行っている。

 

パワーアーマーのヘルメットモジュールに存在している『リコンセンサー』。

 

これをキヴォトスの技術を生かし小型化し高出力化することによって飛来物を検知するレーダーを作成。

 

それとレーザータレットを組み合わせることによって戦前世界の性能を大きく上回る防空用タレットが完成。

 

それらを後付けながらすべての戦車に装備してあるのだ。

 

「クソッなんてもん乗っけてやがんだ!?」

 

《どうする!?》

 

「構うな、撃ち続けりゃ…!」

 

この事にヘリパイロットは動揺しつつも再度攻撃を仕掛けようとする。

 

その時、アパッチのコックピット内にけたたましいアラーム音が鳴り響く。

 

「ミッミサイルアラート!?ブレイクッブレイクッ!!!」

 

聞きなれた対空ミサイルにロックオンされた際に鳴り響くミサイルアラートだ。

 

それが一機だけなら問題ないが…すべてのアパッチで一斉に鳴り響いていた。

 

一気に散開しフレアなどを巻きつつ何とかミサイルから逃れようとするも…

 

「な、なんて数のミサイルぶっ放してやがんだ!?」

 

迫るミサイルは一発二発どころではない。

 

最低でも一機に対し10発以上のミサイルが追尾してきている。

 

《だ、ダメだッ避け切れ…!》

 

《どうなってやがる!?こんなの聞いて…!?》

 

《来るな、来るなぁぁぁ…!!!》

 

圧倒的ミサイルの物量を前に次々と撃墜されていく僚機のアパッチ。

 

「クソックソッチクショおおおお!!!」

 

フレアも撃ち尽くし最早打つ手もなくなり…最後のアパッチも撃墜された。

 

「すっげぇ…アパッチ一個小隊が形無しだぜ…!?」

 

「こんなのが親分の世界にあんのかよ…!?」

 

空に咲いた鉄屑の花火を眺めつつ防衛部隊の隊員は呟く。

 

目線の先にはビルの屋上で空を睨むHの形をした巨大なタレットが鎮座している。

 

『自動式対空ミサイル』、『ASAM』とも呼ばれる多連装式対空ミサイルタレットである。

 

ネイトが遠征した土地、アパラチアで200年近く以前に猛威を振るったコウモリのクリーチャー『スコーチ・ビースト』。

 

ヘリ以上の機動性を有し下手な航空機よりも高速で空を飛ぶモンスターに対抗するために結成した直後のB.O.S.が配備、運用していた。

 

マサチューセッツにも搭載されていて性能は折り紙付きである。

 

三×二連装、毎分50発を超える追尾ミサイルの鶴瓶撃ちを前にいかにアパッチといえど逃げ切れるわけがない。

 

それらをネイトは防衛線各所に配備し堅牢な対空防御態勢を構築していた。

 

《だ、ダメだ!!!敵の防空体制が硬す…!》

 

《だ、第二対戦車ヘリ小隊!我が小隊、壊滅!繰り返す、壊め…!》

 

《戦車がこっちに撃ち返してきやがった!?アレはレーザー…!?》

 

「馬鹿な…そんなッ馬鹿な…!?」

 

PMC隊員の無線には各所に支援に向かった対戦車ヘリ部隊の悲痛な声が響き渡る。

 

「なぜだ…!?どうして…こうなった…!?」

 

楽な仕事のはずだった。

 

相手はアビドス、人員もせいぜい一個大隊。

 

いかに強者がいようと少数精鋭では物の数ではないと聞かされていた。

 

だが…この惨状は何だ?

 

自慢の戦車旅団は今やスクラップとなり果てた。

 

カクカクヘルメット団を買収してまで増強した歩兵部隊も砲撃と防衛線からの弾幕でみるみるうちに排除された。

 

切り札の対戦車ヘリ部隊もハエのように撃ち落とされた。

 

アビドスは…弱小勢力などではない。

 

一騎当千の戦車に精密な砲兵部隊、綿密に構築された防衛線。

 

どれもこれも短時間に用意できるものではない。

 

こうして…PMC隊員は悟った。

 

「そうか…。俺達は…アビドスに…ハメられたん…。」

 

その言葉を結ぶ前に…頭上で155㎜砲弾が炸裂。

 

隊員の言葉は爆音にかき消されるのであった。

 

ところ変わって、アビドス高校野戦指揮所。

 

《こちら第一戦車小隊!当戦線の侵攻部隊の排除完了、これよりアサルトロン・セントリーボット部隊と共に掃討作戦及び敵部隊の拘束に入る!》

 

「了解、最後まで気を付けてね。」

 

各戦線から続々とカイザー侵攻部隊排除の報告が入り、先生は忙しく情報の整理に追われていた。

 

机に広げられた地図には敵味方を示す駒や様々な色のペンで撃破数やメモなどが書き込まれている。

 

「…一先ずは初戦は上々かな。」

 

「こちらの損害は弾薬の損耗くらいであります。」

 

「戦車隊はどうだったかな?」

 

「報告では数発受けた車両もありますが損傷は微小、戦闘に支障なしとのことです。」

 

「ありがとう。今のうちに砲弾と燃料の補充を向かわせておいてくれるかい?」

 

「イエッサー。」

 

戦況はいったん沈静化、次の戦闘に備えて補給の指示も怠らない。

 

(ナイルラインは未だ堅調、避難民の収容ももうすぐ終わる…。)

 

指示を出し終え再び地図とにらめっこしつつ思案する先生。

 

(撃退したカイザーの侵攻部隊は戦車三個連隊に歩兵三個大隊…。報告では隊員にカクカクヘルメット団が多い…。)

 

確かに大部隊だが…カイザーの総兵力からしてまだだいぶ余裕があるだろう。

 

そして、何より気になるのは隊員の構成だ。

 

カイザーPMCはオートマタを主戦力としている。

 

そのオートマタの数が…規模に対して少ないのだ。

 

それらのデータを勘案し…

 

「…なるほど、この部隊は威力偵察か陽動の可能性が高いね。」

 

この大部隊を囮と判断する先生。

 

「この規模が陽動ですか…!?」

 

「うん、戦力は確かに大きいけど構成員がヘルメット団が多い所を見るに本命部隊は別にいる。」

 

「とするとやはり…!」

 

「大丈夫、そのための備えも万全だよ。」

 

機械らしくない焦った声音を発するガッツィーだが先生はあくまで冷静だ。

 

「カイザーも考えたけど…この陽動部隊も全て投入しなきゃ抜かれないよ。」

 

カイザーはミスを犯した。

 

カイザーのあの大戦力が陽動部隊のように…あの防衛部隊もアビドスの全戦力ではない。

 

「ベルチバード部隊…いや、『航空騎兵中隊』に出撃命令。目的地はアビドス-トリニティの学区境界線。付近のロボットソルジャー部隊にも出動を要請。野砲部隊にもそこを射程に捉えるよう伝達を。」

 

「イエッサー!」

 

すぐに先生は机上の地図にそれぞれを示す駒を配置。

 

ガッツィーもそれに従い各部隊に出動要請や転戦の指示を出す。

 

そして…

 

「それから…『スフィンクス』を直ちに起動。彼なら…十二分に敵を排除できるはず。」

 

一際大きな駒が…アビドスとトリニティの学区境界線に置かれるのであった。

 

――――――――――――――

 

―――――――

 

―――

場所はアビドスとトリニティ間の森林丘陵地帯。

 

「アビドスもかなりやるみたいですね…。」

 

「だが、おそらく奴らは総力を挙げて戦車部隊を迎え撃っているはず。」

 

鬱蒼としたその場所を突き進むカイザーPMCの部隊がいた。

 

この場所は原生林だけでなく湿地も点在し大規模な機甲部隊の進行は困難な場所だ。

 

一応、整備された道路はあるものの必然的に見つかりやすいので部隊は森の中を進軍している。

 

歩兵戦力だけではかなり不利に思えるかもしれないが…カイザーPMCには切り札があった。

 

「『パワーローダー』部隊はどうだ?」

 

「今のところ、連隊全機問題なく進行中。」

 

PMCの目線の先には高さ3.5mはあろうかという二足歩行の機動兵器がのっしのっしと歩いていた。

 

『パワーローダー』、本来は工事現場などで重量物運搬などに用いられる重機だがそれをカイザーPMCは兵器に転用。

 

右腕には50口径ガトリング銃『GAU-19』、両肩部にはロケット弾ポッドといった戦車とまではいかないがかなりの重装備で固められている。

 

装甲もライフル程度ならものともしない強度を有し一般的なキヴォトス人相手には圧倒的な性能を有する。

 

これが一個連隊…120体にも及ぶ大部隊が狭い木々の隙間を縫いアビドスへ迫っている。

 

さらに歩兵オートマタも三個大隊、ゲヘナで動員された総戦力級の人員が揃っている。

 

「ですが…平気でしょうか。ゲヘナ戦線では化け物みたいな戦車が…。」

 

先ほどからゲヘナ戦線の悲痛な戦況がひっきりなしに入ってきている。

 

隊員がそう懸念するのも無理はないが…

 

「安心しろ、こんな森林地帯を突破できる機甲戦力はパワーローダー位だ。それにここはゲヘナ側より奴らの本拠地よりも近い。奴らが救援に来るより早くアビドス高校を占拠できりゃいいんだ。」

 

指揮官のオートマタが自信をもって答える。

 

カイザーPMCは当初からゲヘナの戦車部隊とトリニティからのパワーローダー部隊の二正面…いや、アビドス砂漠に配備している部隊と連携しアビドスを包囲する計画を立てていた。

 

だが、早々にゲヘナの侵攻部隊は壊滅し計画は狂いが生じている。

 

それでも予定通り、アビドス高校占領を任された自分たちが任務を全うできればアビドスに勝利できる。

 

そのため、この部隊はカイザーPMCの中でも戦闘経験が豊富なベテラン、パワーローダーのオペレーターも熟練という精鋭部隊だ。

 

アビドスの実力は想定よりも高い。

 

その事実をゲヘナの部隊が身をもってして証明した。

 

だから、彼らは慢心なく森林地帯を突き進んでいく。

 

その時だった。

 

彼らのセンサーが規則的に伝わってくる振動を検知。

 

さらにメキメキという木々をへし折る音まで聞こえてきている。

 

「警戒しろ!アビドスの連中だ、戦闘態勢をとれ!!!」

 

アビドスが何らかの行動を起こしたのは明らかだ。

 

指揮官は素早く部隊を展開し迎撃態勢をとる。

 

徐々にその振動と破壊音は増大。

 

森林故にその姿は未だ判明しないが…その音はおよそ数百m先で止まった。

 

「構えろ!何が来ても…!」

 

警戒度を一気に引き上げるパワーローダー部隊。

 

だが…次の瞬間だった。

 

森林地帯に轟く野太い砲声。

 

それと同時に前方の木々が弾け飛び圧し折れ…

 

『ぎゃあああああ!?』

 

オートマタだけではなく装甲を有するパワーローダーすらも爆散。

 

さらに弾け飛んだ木々の破片すらも凶器となりオートマタ達を破壊していく。

 

「な、なんだ!?一体何が来やがった!?」

 

警戒してはいたがこんな惨状はその想定のはるか上を行っている。

 

ここにはまだアビドスの部隊が展開しているという情報は来ていない。

 

しかもここは未だ森林地帯のど真ん中。

 

先ほどの振動やら破壊音から計算しても森林地帯を戦車が突破してきたにしては『速過ぎる』。

 

それにこの被害は戦車砲ではない、より発射レートに優れた対空砲のそれだ。

 

「アビドスの奴等、いったい何を差し向け…!?」

 

木々の破片と木の葉に埋もれながらも指揮官は起き上がりその正体を確かめた…途端、

 

「…は?」

 

彼は茫然とした声を上げる。

 

距離にして300m先に…ソレはいた。

 

それは…森林迷彩が施された四脚の多脚戦車だった。

 

それは…二機の単銃身機関砲とVLSを装備していた。

 

それは…アビドスの校章が刻まれていた。

 

それは…煌びやかに輝くヘイローを頂いていた。

 

それは…彼らにとっての『トラウマ』だった。

 

それを見た途端…指揮官の記憶がフラッシュバックした。

 

若かりし頃、部隊を壊滅させたあの『怪物』の姿を。

 

「ほ、本部ッ本部!!!」

 

《どうした、何があった!?》

 

「あいつだッアイツが出やがった!!!」

 

パニックになりながら本部に通信を飛ばす指揮官。

 

《だから何があった!?状況を端的に報告しろ!》

 

本部もそんな狂乱状態の指揮官の通信に要領を得ず怒鳴り返すように返信すると…

 

「あ、アビドスの奴らがっ俺達に『ケテル』を差し向けやがったんだ!!!」

 

《…は?》

 

指揮官が口走ったその名前を耳にした途端…通信手も呆然とした声を上げる。

 

そう、彼らの前に立ちふさがったのは…かつてカイザーPMCの総力を一方的に叩き潰した『預言者』。

 

第一宝珠(Sefirah)『KETHER』だった。

――――――――――――――――――

 

―――――――――

 

――――

三日前の深夜…ミレニアム郊外。

 

「………。」

 

そこに敷かれた線路の片隅でネイトは何かを待っていた。

 

すると…遥か遠方に光が点りこちらに迫ってきた。

 

「来たか…。」

 

ネイトは立ち上がりその光が近づくのを待つ

 

そして、光が…いやある電車がネイトの目の前で停車した。

 

青を基調としたその電車は貨物列車のようで機関室上部にはM45四連装対空機関銃架と多連装ロケット砲が据え付けられている。

 

その運転席から…

 

「待たせたね!アナタがネイト社長!?」

 

「ふぁ~…眠いー。」

 

車掌のような黒い制服制帽姿で悪魔のような尻尾を持つ瓜二つの二人の少女が下りてきてネイトに声をかけてきた。

 

「そうだ。夜分遅くにすまないな。」

 

「私は『橘ノゾミ』!でこっちが姉のヒカリだよ!」

 

「ヒカリだよー。今日はよろしくねー。」

 

「よろしく頼む、ノゾミにヒカリ。」

 

そうネイトと握手を交わす全く対照的な二人、ノゾミとヒカリはどうやら双子のようだ。

 

そんな彼女たちの所属先…いや、電車に乗ってきたから言うまでもないだろう。

 

「それでそれで?!私達ハイランダー鉄道学園の『CCC』に『あのお方』経由で私たちに頼みたいことって何さ?!」

 

そう、彼女たちの所属はキヴォトス中の鉄道の運行・運営を取り仕切るハイランダー鉄道学園。

 

その中でも彼女たちは行政や路線工事などを担当する『CentralControlCenter中央管制センター』という部署の幹部なのだ。

 

「急かしちゃだめだよ~、ノゾミ。大事なお客さんなんだから~。」

 

「でもでも、こんな深夜に人っ子一人いない場所で取引ってなんかワクワクするっしょ!」

 

「仲がいいな、二人とも。」

 

「まぁね!それでそれでっネイト社長は何を私たちに…!」

 

捲し立てるようにノゾミが自分たちを呼び寄せた理由をネイトに詰め寄りながら尋ねる。

 

「まぁ、待ってくれ。今呼ぶから。」

 

「呼ぶって誰を~?」

 

ノゾミを宥めつつネイトがPip-Boyを操作すると背後の茂みを突き破りケテルが現れた。

 

「なっ何これッ!?こんなロボット見たことないよ!?」

 

「うお~すっごぉ~い。」

 

「さて、今回君たちにやってもらいたいのは…こいつを誰にもバレることなく二日以内にアビドスまで運んでもらうことだ。」

 

驚愕する二人をしり目にネイトは彼女たちへの依頼内容を告げる。

 

かつて、ネイトや先生たちと死闘を繰り広げたデカグラマトンの預言者『ケテル』。

 

だが…このケテルとは明確な差異がある。

 

型式はガトリング型だが武装が23㎜ガトリングから30㎜チェーンガンに換装。

 

白が基調だったカラーも森林迷彩に塗られている。

 

何より…頭上に頂くヘイローがVaultボーイの物と同様の形状。

 

そう、このケテルは水上工業地帯攻略時にネイトがハッキングして起動させた機体だ。

 

その機体を継戦能力を向上する改良を施しここまで連れてきたのだった。

 

どうやって連れてきたかというと…性能差をごり押しして廃墟ビルを立体機動で突破してきたのだ。

 

「ガタイはでかいが重量はそこまでじゃない。行けるか?」

 

「ま、まぁそのくらいは平気だしこの路線にはトンネルはあんまりないからいけるけど…!」

 

「ねーねー、こんなロボットなんに使うのー?」

 

ケテルに圧倒されっぱなしのノゾミに対しヒカリはマイペースにネイトにケテルを何に使うか尋ねるが、

 

「それは悪いが機密事項だ。」

 

「そっかー、秘密じゃ仕方ないねー。」

 

意外にもネイトが話せないと答えるとあっさり引き下がった。

 

「で…幾らで引き受けてくれるんだ?」

 

今度はネイトから二人にケテル運搬を行うための費用を尋ねると、

 

「…パヒャヒャッ、そう来なくっちゃ!『時は金なり』ともいうしね!」

 

「仕事はシュバッと、行政それなりに、だねー。」

 

ノゾミも先ほどの調子を取り戻しネイトの商談に乗っかってきた。

 

「ヒカリ、ここから先の監理室の検問は何か所!?」

 

「ここからだとー…5か所はあるかなー。」

 

「とすると、他の『アビドス宛』の荷物に紛れ込ませるとして通常運送料金や私たちの口止め料も諸々合わせて…これくらい頂かないとね!」

 

ノゾミは脳内でそろばんをはじきネイトに五本指を立てて見せる。

 

「なるほど…納得の値段だ。小切手でいいか?」

 

「財務状況は『あの方』から聞いてるし構わないよ!」

 

「そっちが軽いし隠せるから助かるー。」

 

二人の了承を得て小切手を取り出し金額を書き込み…

 

「んじゃ契約成立だな。」

 

「毎度ありっ!いや~気前良いとはきっ…!?」

 

それを受け取り額面を見た途端…再びノゾミが固まる。

 

「いちーじゅーひゃくーせんー…わぁおーこんな貰っていいのー?」

 

「…ひょっとして一桁多かったか?」

 

「うんー、ついでだからこんなには…。」

 

ヒカリがさすがにこれは多すぎるので書き直させようとすると、

 

「何言ってんの、ヒカリ!くれるっていうなら貰っとかなきゃ!」

 

ノゾミは慌ててその小切手を懐にしまい、

 

「じゃあ契約成立ってことで!積み荷はしっかり届けさせてもらいますッ!」

 

額が額なためか今日一番しっかりとした姿勢をとる。

 

「そうか、じゃあ頼んだ。桁が一つ多いんだ、しっかり運んでくれよ。」

 

「了解っ!じゃあ社長、お荷物をこちらへ!」

 

その後、ケテルは素早く空いた荷台に乗り込み機能を一旦停止。

 

他のハイランダー生徒と協力し外からばれないようにシートを複数枚かけてロープでがっちり固定し、

 

「ではネイト社長!納期にはしっかり届けますのでッ!」

 

「またねー。あ、アビドスでー線路敷きたかったらーいつでも声かけてねー。」

 

ノゾミとヒカリたちはそそくさと列車に乗り込み走り去っていった。

 

「…モモイとミドリより強烈な双子だったな。」

 

走り去っていく列車を眺めつつそんなことを呟くネイト。

 

…そこへ複数台の車が近づいてきていた。

 

―――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

ノゾミとヒカリは完璧に仕事をやり遂げケテル…機体名『スフィンクス』はカイザーに気取られることなくアビドスに運び込まれカイザーの精鋭部隊に襲い掛かった。

 

《だ、ダメだ!装甲やシールドが抜かれがべぇっ!?》

 

放たれる30㎜機関砲はパワーローダーの装甲を意に介さず次々にカイザー部隊を破壊し、

 

《き、効かねぇ!50口径だぞ、どうして動けブガッ!?》

 

対して、ケテルはその持ち前の特殊装甲で50口径の弾幕すら寄せ付けず攻撃を続ける。

 

「退けッ!これでもくらいやがれ!!!」

 

業を煮やした隊員の一人がバズーカを発射する。

 

だが、ケテルは脚部からワイヤーを周辺の木に射出し素早く移動。

 

水没地帯ではできなかった高機動戦術でカイザーの部隊を翻弄する。

 

さらにケテルは森林越しにVLSも発射、カイザー部隊の頭上からミサイルを降り注がせた。

 

「なぜだッ!?なぜケテルがここに!?それもアビドスが保有しているのだ!?」

 

指揮官は襲い掛かる機関砲弾とミサイルや樹木の破片を掻い潜りながら叫ぶ。

 

相手は意思の無い機械のはず。

 

ただの、かつてカイザーの大部隊を粉砕したロボットのはずだ。

 

それがなぜ今ここで、アビドスが保有し自分たちに襲い掛かって来るかが理解できなかった。

 

「し、指揮官!指示を!」

 

「と、突破だ!あんな怪物に構うなッ!重装備を捨ててでもこの森林地帯を突破する…!」

 

今ケテルを相手にしている時間はない。

 

一刻も早く、わずかな数でもアビドスに送り込まなければならないと指揮官はそう命じるが…

 

《こ、こちら第6中隊!未知のロボットにより襲撃を受けています!至急援ぐぇッ!?》

 

「ふ、伏兵だと!?」

 

第二の矢が彼らに襲い掛かった。

 

「戦闘開始、侵略者を排除する。」

 

「なんだ、コイツべぁっ!?」

 

隊列の中ほどの部隊に木々の間を潜り抜け襲い掛かってきたのはアビドスのロボットソルジャー『アサルトロン』3個小隊。

 

ケテルの奇襲に混乱が生じたところにアサルトロンを中心に編成された強襲部隊の投入。

 

オートマタを膾のようにブレードで切り裂き、空き缶のようにハンマーノコギリで叩き潰しながらカイザー部隊を瞬く間に蚕食していく。

 

「退けッ!ガトリング砲で蹴散らしてやるっ!」

 

「バカ、やめろ!味方がいるんだぞ!?」

 

業を煮やしたパワーローダーが右腕の得物を構え狙いを定めるが敵味方入り乱れた状況では性能を発揮できない。

 

そんな状況のカイザー部隊にさらなる脅威が襲い掛かる。

 

「制圧作戦開始。味方と連携し敵勢力を排除する。」

 

「こ、今度はでかい奴がっ!?」

 

アサルトロンに意識が集中している隙を突き茂みを突き破りセントリーボット一個分隊がカイザー部隊に突入。

 

オートマタどころかその重量と速度でパワーローダーすらタックルで吹き飛ばし、

 

「全機、ウェポンズフリー。攻撃を開始する。」

 

カイザー部隊中心になだれ込み両腕のガトリングレーザーガンを掃射。

 

高出力レーザーを前にパワーローダーの装甲を容易く貫通。

 

しかも、アサルトロンも入り乱れた乱戦状態というのに誤射は一切ない。

 

これは連邦製ロボットには必ず搭載されている『コンバット・インヒビター』という装置のお陰だ。

 

かいつまんで言うとIFFのようなシステムでこれによってロボットソルジャーは敵味方を判別し乱戦であっても誤射なく敵を撃ち抜くことができるのだ。

 

正面からはケテル、両サイドからはアサルトロンとセントリーボットの強襲。

 

(なぜだ、なぜ我々の動向が察知されていた!?)

 

敵は総力を挙げてゲヘナ側の対処に当たっていたはずだ。

 

人員不足のアビドスは自分たちに対処できないはずだった。

 

読まれていても間に合わないはずだった。

 

しかし、この現実はどうだ?

 

アビドスはかつて自らの大部隊を壊滅させたケテルを保有していた。

 

『ロボット』という製作可能、それでいてこちらを凌駕する戦闘能力を有する兵器を投入し人員不足を補った。

 

自分たちの動きを読み切り、それらの戦力を駆使し奇襲を仕掛け大損害を与えてきた。

 

(こ、このままでは…!)

 

決断を迫られる指揮官だが向こうはそれを待ってはくれない。

 

砲声と爆発音に紛れ空に空気を叩くエンジン音が響く。

 

「ま、まさか!?」

 

指揮官が空を見上げると…空を駆ける巨鳥がそこにいた。

 

「『アビドス航空騎兵中隊』現着!カイザーの大部隊を確認、これより対地支援任務に就く!」

 

『アビドス航空騎兵中隊』、この作戦に際し編成されたベルチバード12機による飛行部隊である。

 

部隊の運搬から対地支援、爆撃任務などベルチバードの汎用性の高さをフルに活かし戦場を縦横無尽に駆け巡る部隊だ。

 

「全機、攻撃は敵前衛に限定!味方に当てるなよ!」

 

HUDに表示される反応を基に攻撃場所を限定し…

 

「全武装の使用許可は出ている!カイザー共を石器時代に返してやれ!!!」

 

12機のベルチバードから機関砲弾とロケット弾が眼下のカイザー部隊に降り注ぐ。

 

さらに乗員がドアガンのミニガンやオートマチックグレネードランチャーも発射。

 

それに呼応しケテルも自身のチェーンガンを掃射し前衛部隊は最早スクラップの山になり果てた。

 

ここにきて航空支援の投入、もはや判断をためらっている暇はない。

 

「撤退、撤退だ!装備を捨てても構わん、とにかく撤退しろ!!!」

 

指揮官は撤退を指示。

 

最早この部隊が作戦を遂行できる余力はない。

 

幸い、後方は遮断されていない。

 

今は撤退し、少しでも戦力を温存することが先決だ。

 

撤退命令が出たためカイザー部隊は我先に後方に逃げ出す。

 

「本部、敵部隊が撤退を開始。」

 

その動きをベルチバードのパイロットは察知し、先生に伝達。

 

《了解、航空騎兵中隊はカイザー部隊の動向を監視して指定座標へ誘導を。地上部隊の追撃は不要だよ。》

 

《アサルトロン全隊、了解。待機地点へ移動します。》

 

《セントリーボット各機、牽制しながら後退する。》

 

それを受け先生は追撃を行わずカイザー部隊の撤退を監視するにとどめる。

 

「はぁッはぁッはぁッ…!」

 

重武装もかなぐり捨てて中には鈍重なパワーローダーを放棄し死に物狂いで撤退するカイザー部隊。

 

幸い、追手はない。

 

逃げるのであれば手出しするつもりはないようだ。

 

そのまま数㎞程後退し、一度部隊の状況を確認することに。

 

「どのくらい退却できた…!?」

 

「パワーローダーは後方にいた20機ほど…。他は破壊、もしくは遺棄したとのこと…。」

 

「歩兵は…?!」

 

「よくて一個大隊未満です…。」

 

「壊滅じゃないか…!」

 

あれだけいた部隊が最早見る影もない。

 

しかも隊員の大半は銃すらほっぽり捨てて逃げだしてきている。

 

責めるわけにはいかないが…もはや再攻勢は現状不可能だ。

 

「どうしますか…!?」

 

「…このまま本部と合流し体勢を立て直す。上層部は完全にアビドスを見くびっていやがった…!」

 

想定外ばかりの今回の作戦。

 

今のままではアビドスを決して落とすことはできない。

 

指揮官はこのままカイザーPMC本部までの後退を決断する。

 

…しかし、それはどうやら叶わないようだ。

 

ベルチバードとは全く違う…空を切り裂くような高い音が響き始めた。

 

「…あぁ、どうやら俺らは…とんでもない連中に戦争吹っ掛けちまったみたいだ。」

 

諦めたように指揮官が呟いた次の瞬間、彼らは周辺の樹木ごと『耕された』。

 

《監視中の航空騎兵中隊より野砲部隊へ!砲弾は命中、繰り返す砲弾は命中!》

 

「了解、観測感謝する!」

 

ベルチバードを通じて戦果の報告を受けた野砲部隊の間に歓喜の声が沸き上がる。

 

そんな隊員たちの傍らには…砲煙をいまだ上げ空を睨む巨砲が鎮座していた。

 

ケテルの装甲により強度を維持したまま超軽量化が可能となったアビドスの兵器群。

 

砲関連もご多分に漏れず、自走砲と『サジェタリアス・アイ』も非常に軽量である。

 

機動力は『サジェタリアス・アイ』、砲撃精度は自走砲と優れた分野がある中で牽引式の榴弾砲を配備するメリットは何か?

 

牽引式榴弾砲は設置型、つまるところ機械に頼らないため『大口径化』が可能なのだ。

 

今ここに配備されている榴弾砲はその最たるもの。

 

その名も『M1 240mm榴弾砲』、第二次大戦時に『攻城砲』として開発された最大口径の榴弾砲だ。

 

一般的な重巡洋艦の主砲をも上回る口径から放たれる砲弾の威力は筆舌に尽くしがたい。

 

その圧倒的火力から兵士の間では『ブラックドラゴン』という愛称で呼ばれていた。

 

これを腕力に秀でたキヴォトス人によって運用人数の削減、機能を一部電動化することによって展開時間の短縮などの改良を行い4門、1個小隊分配備。

 

20㎞を超える射程を活かし撤退したカイザー部隊を粉砕したのだった。

 

《トリニティ方面部隊より先生、進攻中だったカイザー部隊の壊滅を確認。これより『スフィンクス』及びアサルトロンとセントリーボットの部隊が掃討に入る。》

 

「了解したよ。第2陣もあるかもしれないから気を付けてね。」

 

報告を受け何とか切り抜けられたことに少し安堵する先生。

 

「これで敵の進攻は落ち着きますかね…。」

 

「だといいけど油断はできない。警戒体制は維持したままにしておいてほしい。」

 

「先生、ゲヘナ方面の部隊が壊滅した部隊の中からクロノス報道部を筆頭とした報道関係者を発見したと報告が。」

 

「戦争だというのに暢気なものだね…。分かった、保護してここまで護送するように伝えて。戦場ウロチョロされるよりはずっといいから。」

 

それでも戦況は未だ動き続けている。

 

先生は忙しなく各部隊からの情報をまとめ指示を出していくのであった。

 

――――――――――――――

「な…何だと…!?」

 

時はもうすぐ13:00を回ろうとしていた。

 

すぐに片が付くと思っていたプレジデントの元に齎されるのは…各線でカイザー側が大損害を受けたというものばかり。

 

未知の戦車、堅牢な防衛線、オートマタを物ともしないロボットの軍団…そしてケテルの登場。

 

「なッ何をやってるんだ、貴様ら!?」

 

《も、申し訳あり…!》

 

「謝って済む問題か!?もう宣戦布告は行われてたんだぞ!?大衆は我々の勝利を心待ちにしている!!!なのになんだ、この体たらくな結果は!?」

 

報告を行っているPMC社員に無線越しに怒鳴り散らすプレジデント。

 

この結果をうまく使えばアビドスの脅威を喧伝できるかもしれない。

 

だが、その前に自分たちが『弱小学校にも惨敗する企業』としてみられるに決まっている。

 

「攻撃だ!犠牲を出しても構わん!!!なんとしてもアビドスを陥落させろ!!!」

 

《し、しかしすぐに部隊編成は…!》

 

「だったらアビドス砂漠に待機中の理事が率いる部隊に早く出撃するように伝えろ!!!奴らはアビドスの背後をとっている!!!攻めるには絶好の場所だ!!!》」

 

《し、承知しました!!!》

 

怒鳴り散らし、カイザー理事にも予定を切り上げて出撃命令を下すプレジデント。

 

無線を切り終えると…

 

「どうなっている…!?あの若造、どうやってアビドスにあんな兵器や準備を…!?」

 

頭を抱えながら考えこんだ。

 

アビドスにあれほどまでの兵器を用意できるだけの財力はないはずだ。

 

そもそもあんな戦車などアビドスで見たこともない。

 

ケテルに至ってはなぜアビドスにいるのか理解不能だ。

 

さらにまるで来ることが分かっていたかのような防衛体制。

 

…いや、分かっていたようではない。

 

「…まさか…!?」

 

その結論に達し、プレジデントがハッとしたように顔を上げた。

 

すると、プレジデントの懐のスマホが震えだす。

 

「誰だ、こんな時に…!」

 

そんな嫌な予感を振り払うようにスマホを取り出し通話する。

 

「今は忙しい、あとでかけなお…!」

 

《よぉ、クラーケンの親玉!どうやら当てが外れたそうだな!》

 

「ッ!!?」

 

出た瞬間、エンジン音と共に場違いな軽い調子の声に面食らうプレジデントだが…

 

「き、貴様は!?」

 

この声には聞き覚えがある。

 

確実に今一番聞きたくない声…

 

《自己紹介がまだだったな!アンタが言うところのカルト教祖の『ネイト』だ!》

 

アビドスの総指揮官のネイトだ。

 

「ど、どうやって!?いや、どういうつもりだ!?」

 

《なに、ちょうどいい時間だからな!俺が代表してお前らに宣戦布告の回答を叩きつけてやる!》

 

混乱するプレジデントを無視するようにネイトは彼に宣戦布告の回答を伝える。

 

《俺達、アビドスの回答はこうだ!!!『かかってこい!相手になってやる!』ッ!!!」》

 

時刻は…ちょうど13:00を回っていた。




勇将は根のようなものであり、そこから枝となって勇敢な兵卒が生まれる。
―――大英帝国海軍提督『シドニー・スミス』
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