―――理論部物理学者『アルベルト・アインシュタイン』
「嘗めるなよ、小娘どもおおおおおおお!!!!」
「構えて、皆…っ!」
『了解!』
いよいよカイザー理事とアビドス対策委員会・便利屋68の戦いの火ぶたが切って落とされた。
「馬鹿がっ!!!貴様らごときの体躯ではこの12,860馬力を超える出力の機体は止められぬわぁッ!!!」
巨体に似合わぬ素早い動きで疾走しシロコたちに迫る理事の操る試作型ゴリアテ。
「速ッ!」
「でも、これなら…!」
「ぶち抜いてやるわよ!!!」
確かに速いが対処はできる。
各々が獲物を構え発射体制をとった…その時だ。
風切り音を立てて彼女たちの頭上を何かが通り過ぎ…
「ぐベラぁッ!!?」
カイザー理事のすぐわきの右肩部ミサイルポッドに轟音を立てて命中。
走っていたせいか、試作ゴリアテはそのまま背中からひっくり返った。
「な、何があったの!?」
「こ、これって…!?」
突然の出来事に目を丸くするムツキだがカヨコは今まさに試作ゴリアテにぶつかったそれを見て驚愕する。
砕けて小さくなってはいるがそれは何の変哲もない…ただのコンクリートの瓦礫だった。
その時、
「『旧約聖書:サムエル上17章45―47節』。」
聞きなれた足音と共にあの声が聞こえた。
「も、もう片付けてきたの…!?」
「約束通りですね♪」
セリカは驚愕しノノミは笑顔で振り返る。
「ダビデはペリシテ人に言った、『お前は剣と、槍と、投げ槍をもって、私に向かってくるが、私は万軍の主の名、すなわち、お前が挑んだ、イスラエルの軍の神の名によって、お前に立ち向かう。」
まるでこの場の全員に言い聞かせるように静かにその言葉は紡がれる。
「い、石ぶん投げてあのデカブツこけさせたの…?!」
「うっわぁ…アレってあんなこともできるんだ…?!」
カヨコとムツキは珍しく表情を引きつらせて振り返る。
「今日、主は、お前を私の手に渡されるであろう。私は、お前を撃って、首を刎ね、ペリシテ人の軍勢の屍を、今日、空の鳥、地の野獣の餌食にしイスラエルに神がおられることを全地に知らせよう。」
朗々と紡がれるその言葉の意味は理解できないが誰もその意味をそれを問うことができなかった。
「で、でもいつも通り無事でまた会えて良かったです…!」
「ん…これで皆勢ぞろい。あとはホシノ先輩を助けるだけ。」
ハルカは一先ず無事を喜び、シロコは残る一人を助けるため決意をさらに強めた。
そして…
「またこの全会衆も、主は救を施すのに、剣と槍を用いられないことを知るであろう。この戦いは主の戦いであって、主が我々の手にお前達を渡されるからである』。」
シロコたちと別れた時の姿そのままに…ネイトが7人と肩を並べるのであった。
(…かかかか、かっ、カッコイイーーーーーー!!!兄さん、キまってるーーーーー!!!)
全員ネイトのいう意味がよく理解できていない中で唯一、アルだけが目を輝かせてネイトを見上げているのだった。
「すまない。待たせたな、皆。」
「…はっ!いッいいえ、私たちも今来たところよ!」
「全くぅ~妹を待たせちゃだめだよぉ。お兄ちゃん?」
「無茶言わないでよ、ムツキ先輩。ネイトさん、あれの量産型10機相手にしてきたんだから。」
「お怪我はないですかぁ、ネイトさん?」
「現役時代にアレよりもやばくて数の多い連中相手にしてたから問題はない。」
とてもあのゴリアテの軍団を倒してきたとは思えないほど軽い調子のネイト。
すると…
「ぐ、ぐぅ…!貴様、用務員…!」
ゴリアテを操縦しネイトへの忌まわしさを隠そうともせずに理事は起き上がる。
「どうなっている…!?貴様は部下共が…!?」
「初めましてだな、理事。お前の部下は実にお粗末だったよ。」
「なんだとぉッ!?」
そう嘲笑うネイトに怒鳴る理事だが…
《こ、こちらだっ第3部隊…!ゴ、ゴリアテ部隊は壊滅…!繰り返す、ゴリアテは…すべて潰されちまった…!》
「なっ…!?」
生き残りの第3部隊からの通信でゴリアテが全滅した報告を受け絶句するしかない。
ゴリアテは一体がパワーローダー10機は優に超える戦力を誇る。
それを5分と掛からずに単騎で10体を撃滅してネイトはやってきた。
(こ、これがケテルキラー…!?)
改めて…目の前のこの男はかつて自分たちが歯が立たなかったケテルを一人で仕留めたのだと思い知らされる。
だが…
「…えぇぃっ!!!この機体を量産型と一緒だと思うなよ、若造共があああああああ!!!」
ここでネイトたちを仕留めなければもうあとはない。
自らを鼓舞するように理事は叫び突撃する。
さて、ここで質問だが…なぜ人類の祖先は繁栄できたのか?
原始時代、人類の祖先は弱い存在だった。
鋭い爪も牙もなく足もそれほど速くない。
周りには自分を優に超える巨大な猛獣が跋扈していた。
なぜ、そんな弱肉強食の時代を人類の祖先は生き抜き繁栄できたのか。
そう、人類には動物には持ちえないある武器があった。
「ラストイニングと行こうか、カイザーPMC!!!」
ネイトは理事の突撃に対しある物を右手に取り出し振りかぶる。
例えるならそれはのぼり旗などを差し込む直方体の重し大のコンクリートブロックだった。
見るからに大重量のそれをネイトはMLBの名ピッチャーのようなフォームで構え…
「プレイボール!!!」
風切り音を響かせ理事の駆るゴリアテ目掛け投げつけた。
「グオワッ!?」
そのコンクリートの塊は今度は左肩部に命中、再びゴリアテに強烈な衝撃が走り体勢が崩れる。
そう、これこそ人類が繁栄できた一つの大きな要因『投擲』である。
これにより猛獣を寄せ付けず撃退・狩猟でき人類は生き残ってきた。
そして、人類最古にしていまだ現役な遠距離武器…それが『投石』である。
侮るなかれ、人は素人が投げる拳大の石でも容易に死に至らせるのだ。
現代でもデモ隊の攻撃手段、そしてそれに対処する機動隊が警戒する武器として訓練に対処法が取り入れられている攻撃だ。
パワーアーマーが実行するそれは最早『投石』などという段階にはない。
ネイトが取り出したコンクリート塊の重さは約25㎏。
それをネイトはパワーアーマーを巧みに操り…およそ時速250㎞で投擲。
この運動エネルギーはTNT2.5㎏ほど、最早小さな大砲級のエネルギーだ。
そんな物をダッシュ中に肩に食らってはいかにゴリアテでも体勢を崩すのは必至である。
「散開しろ!シロコとカヨコにムツキ以外、狙うのは奴の関節や身体の末端だ!!!カヨコ、少し遅れたが開幕のサイレンだ!!!ムツキ、浴びせてやれ!!!」
「分かったわ!」
「ぶっ飛ばすよぉ!」
「やりますよぉ♪」
「が、頑張りますっ!」
「さっさと片付けましょう!」
「ゴングは任せて…!」
「ん…終わらせよう。」
その隙にネイトたちは散開、カイザー理事に一斉に攻撃を仕掛ける。
「ぜ、全部吹き飛ばしちゃいます!!!兄様が私にくれたこの『スマッシュアップ』で!!!」
右サイドに回ったハルカが『ブローアウェイ』ではなくさらに大口径の武器を構える。
『スマッシュアップ』と名付けたそれはネイトが持つコンバットショットガンにM16系のキャリングハンドルを付けたような形状のそれは…
「死んで下さい死んで下さい死んで下さいぃッ!!!」
ゴリアテの膝部分に目掛け速射。
次の瞬間、ゴリアテの膝部分で連続して爆発が発生。
「ぐぉッ!!?」
これによって理事のゴリアテはさらにたたらを踏んで体勢を崩す。
『中国軍グレネードランチャー』、米中戦争で中国軍が対パワーアーマー用に開発されたセミオートグレネードランチャーである。
確かに40㎜グレネード弾ではパワーアーマーの撃破は困難だ。
しかし、装甲は無事でも搭乗者が無事とは限らない。
現にパワーアーマー兵の死亡原因はフュージョン・コアを破壊した際に起こる核爆発に巻き込まれる例などが有名だ。
だが、戦場において最も多かった事例は砲弾やIEDの至近爆破や戦車などの頑丈な車両の衝突による『衝撃波』による死傷だ。
戦場ではパワーアーマーその物の損傷は軽微でも中身が…という事例のほうが多かった。
このグレネードランチャーであっても一気に何発も食らえば搭乗者を負傷もしくはノックアウトさせることは可能だ。
いかに試作ゴリアテが爆弾の至近爆破に耐えうる装甲を有していても関節へのグレネード弾のピンポイント攻撃はさすがに効果的なようだ。
さらに反対側からは、
「お仕置きですよぉ~♪」
ノノミがリトルマシンガンVとマイクロボンバーGを同時発射。
弾丸で刻んだ損傷を25㎜グレネード弾で徐々に広げていく。
そして、
「ケテルにだってこれは効いたって知ってるのよ!!!」
「その自慢のガトリング砲、ひん曲げてやるわ!!!」
体勢を崩したところへセリカとアルの対物ライフルによる射撃が襲い掛かる。
狙うは両腕部のガトリング砲だ。
「このちょこまかとぉっ!!!」
理事も反撃のためアル達に両腕を向け発射スイッチを押し込むも…
「なッ!?」
ガキンッと何かが噛んだような嫌な金属音とコックピットに異常を伝えるアラームが鳴り響き銃身が回転せず発射ができない。
「やったわ、両腕をいただいたわよ!」
「それとも触腕と言った方がいいかしら?!」
両腕部のガトリング砲、打撃攻撃も想定され肉厚になった銃身だがそれでも他所と比べて強度は劣る。
50口径りゅう弾と14.5㎜徹甲焼夷榴弾は銃身だけでなく内部の回転機構にも損傷を拡大させて使用不能に陥らせたのだ。
「おのれェ!!!ならば叩き潰して…!」
「させると思う?」
ならばと腕を振り被り二人に殴りかかろうとするとカヨコが『デビルズホルン』を装着した『デモンズロア』を理事目掛け発砲。
「のぉあッ!?」
凝縮された大音響の銃声が理事の聴覚を麻痺させ動きに狂いを生じさせ外させた。
「カヨコちゃん、やっるぅ!」
そこへ試作ゴリアテの股下を潜り抜け背後をとったムツキが『トリックオアトリック』を構えるが…アンダーバレルに見慣れないものが装着されている。
「くふふ~♪もっとアツ~くなっちゃう?」
そのアタッチメントの引き金を引くと…猛烈な炎が噴き出した。
『フレイマーピストル』、戦前世界では除草目的で販売されていた拳銃サイズの小型火炎放射器だ。
実は…アメリカでは火炎放射器の所持・製造・販売・使用を取り締まる法律は特になく州によっては銃器よりも手軽に入手できる。
が、無論だが火炎放射器なので殺傷能力は十分。
ムツキのそれは射程こそ10mとかなり短いが至近距離を焼き尽くすには問題ない。
『ファンシーウィルオウィスプ』と名付けられたそれをムツキはアンダーバレルに装着。
火炎放射器の火力程度ではゴリアテを破壊させるには至らないがゴリアテの背面には…
「なぁッ!?火器管制がッ!?」
エンジンや武装の熱を逃がすための排熱ファンがある。
そこを火炎放射器で炙られればシステムの機能低下が起こっても不思議ではない。
「えぇいッうっとおしい奴らだぁッ!!!」
それでも理事は何とか武装を起動、両肩部のミサイルポッドを解放し周囲を吹き飛ばそうとする。
ネイトの投石の影響で右肩部のミサイルポッドは不調をきたしているものの左側は健在しミサイルを発射。
9発のミサイルが宙を走るが…
「ん…遅い。」
シロコがその一発目掛けテスラキャノンを発射。
アーク放電はミサイルと比べ物にならない速度で襲い掛かり命中し周囲のミサイルへも伝播。
高出力の電流を食らいミサイルは爆発するか機能不全に陥り落下するかの二択だった。
そしてアーク放電はそのまま…
「あばばばばッバッババッ!?」
試作ゴリアテにも襲い掛かり理事も感電。
伝播してからの感電かつ試作ゴリアテに搭乗していたためか幸いにも機能停止には至らないが…
「一天号、近接支援を開始します!!!」
ダメ押しと言わんばかりにアヤネがベルチバードのレーザー砲を試作ゴリアテに浴びせかける。
鋼鉄製のゲートすら貫く出力だ。
「グアアアアアッ!?」
瞬く間に各所が穴だらけになっていく試作ゴリアテ。
そして…
「それが最新兵器!?笑わせるなよッ!!!」
ネイトが真正面から猛ダッシュで迫り、
「『48インチロケット』ォッ!!!」
時速100㎞の快速、1tに迫る大重量、それを軽々操るネイトの技量が合わさりゴリアテのボディにX-02のドロップキックが突き刺さり、
「グヌアアアアアアア!!!?」
爆発ベントの作動も相まって倍以上の体格差だというのに試作ゴリアテは後方に吹き飛ばされかつてのアビドス高校本館の瓦礫の山に倒れた。
「全員、一斉射!!!」
軽やかに着地したネイトがミニガンを取り出しつつ号令。
全員が待っていましたと言わんばかりに得物を取り出し発射。
弾丸とグレネード弾と電撃が襲い掛かり爆炎が巻き起こった。
さらに上空からはベルチバードのレーザー砲も降り注ぐ。
しばらく撃ち続け…
「撃ち方やめッ!撃ち方やめッ!!!」
ネイトの号令で射撃が収まる。
理事が倒れ込んだ周辺には砂煙が舞い上がり様子がうかがえない。
全員がしばし様子を無言で様子を窺っていると…
「や、やったの…!?」
アルがそんなことを呟いた。
次の瞬間、
「ッ!?し、周辺から高エネルギー反応!!!」
『ッ!?』
上空のアヤネが必死な様子で無線を飛ばしつつ回避行動をとった。
そして、先ほどまでベルチバードがいた所を真紅のビームが通過。
幸い回避はできたがビームが遠方の廃墟ビルに着弾すると大爆発が起こった。
「あいつっまだッ!?」
「うひゃあっなんてもん撃ってんのぉ!?」
その大威力に驚愕する一行。
さらに、
「おのれ…オノレオノレオノレェェェェェッ!!!」
試作ゴリアテを操り傷だらけのカイザー理事は立ち上がった。
試作ゴリアテも全身穴だらけ、両手もいつの間にかもげており最早戦えるような様子ではないが…
「ケテルキラーあああああッ!貴様っ貴様だけはあああああああ!!!」
切り札の大口径ビーム砲はいまだ健在、すでにチャージを終えてネイトに狙いを定めていた。
「もう終わりにしようか…っ!!!」
「ネッネイトさん!?」
対するネイトは一切臆することなく理事に向け駆けだす。
そして、
「死ぃねえええええええええええっ!!!!!」
試作ゴリアテのビーム砲がネイトに放たれた。
だが、
「力を貸してくれ、ユメえええええええ!!!」
ネイトは背中のスカラベではなく…ソレを取り出し構えた。
ホシノがみんなを護り続け…かつては彼女を護っていたユメのバリスティックシールド『Iron Horus』だ。
かつてヒナの攻撃を防ぎきったスカラベではなく…アビドスでネイトが最も信頼する盾を地面に突き立てる勢いで構えた瞬間…
『もちろんですよぉっ!!!』
薄緑色のバリアーが展開されビームを受け止めネイトを護る。
「なっなんだとッ!?」
その光景に理事は驚愕するしかない。
相手は神秘も何もないただの外からやってきた人間だ。
そんな者がこんな芸当できるわけがない。
それでも目の前で起こっている現実は変わらない。
バリスティックシールド『Iron Horus』のバリアーは最後の一瞬までビームを防ぎ切り…とうとうビームが打ち止めになった。
瞬間、
「パワーアシスト全開ッ!!!」
盾の構えを解き、ネイトは右手に取り出していたそれを構える。
それは…長い鉄パイプの先に量産型ゴリアテとの戦闘の際に回収していたミサイルを先端に装着した投げ槍だ。
全身を弓のように引き絞り…
「とどめだああああああ!!!!」
先ほどの投石と負けず劣らずの速度で試作ゴリアテ目掛け投げ打った。
投げ槍は吸い込まれるように…ビーム砲砲身内に進入。
「なッ、なんだとッ!?」
次の瞬間、砲尾に命中しミサイルが炸裂。
結果として…ビーム用のエネルギーが暴発し全身から赤い稲妻が迸り…
「バッ馬鹿なあああああああああ!!!?」
試作ゴリアテが爆散した。
―――――――――――
「なぜだ…!?なぜ…こんなことに…!?」
なんとも頑丈なことか、無事とは言えないがカイザー理事は生きていた。
言うことを聞かない体を何とか動かし這いずりながら逃走を図る。
(どこで間違った…!?どこで誤った…!?どこで…狂ったんだ…!!?)
この現実を受け入れきれず、自問自答を繰り返す彼だが…その思考は打ち切られた。
突如、その足を掴まれ、
「がはッ!!!?」
通常のオートマタと比べても大柄なボディがまるでタオルのように振り回され投げ飛ばされた。
そして…
「おいおい、理事。往生際はよくしなきゃな。」
「ひっヒイイイイイイイイ!!?」
眼前に…ネイトが立ちふさがった。
真紅のX-02を纏った彼は理事にとってもはや『死神』にしか見えなかった。
「やッやめろ、やめてくれえええええ!!!」
先ほどまでの威勢はすでに消え去り情けなくネイトに許しを請う理事。
これがもし生身の人間ならもう出せる液体は全部放出しているだろう。
「頼むっ私にできることならどんなことでも力になる!!!だから命だけはッ!!!」
「ほぉ?どんなことでも…ねぇ?」
その理事の言葉にヘルメットの中でネイトは片眉を吊り上げ…
「ぐぁッ!?」
「じゃあ選ばせてやる。お前の手と面を貸すか…『持っていかれるか』、どっちがいい?」
理事の胸ぐらをつかみ上げ彼の首筋に軍用小型チェーンソー『リッパー』を唸らせ優しく当てながら尋ねるのだった。
――――――――――――――
―――――――――
―――
ホシノSide
皆…今頃大丈夫かな…?
たぶん、もうカイザーがアビドスに宣戦布告をしている時間だ…。
そんな時に…何の相談もせずに単独行動して捕まった私のこと…迷惑だって思ってないかな…。
私も皆を引っ張らないといけない立場なのに…こんな情けない目にあって…。
アビドスの街は…大丈夫かな…?
…もっと…皆に甘えればよかったのかな…。
私が…選択を間違えたせいでもしかしたら…アビドスの街も…学校も…皆も…!
「ノノミちゃん…まだ笑顔でいてくれているかな…?」
何度も何度も…私を買い物に誘ってくれて…。
一人で塞ぎ込んでいた私を…何度も何度も断ってもめげずに手をひいてくれた…。
あの頃の私には…それが何よりうれしかった…!
「セリカちゃん…心配してくれてるかな…?」
普段は真面目で厳しいのに…私が学校で寝ていた時はいつも起こしてくれてた…。
バイトがおやすみの時は私が起きるまで待っていてくれていたっけ…。
そんな不器用な優しさに…私は支えられてた…。
「アヤネちゃん…指示が乱れていないかな…?」
ダメな私の代わりに皆を纏めてくれて…。
借金問題にもまじめに取り組んでくれていた…。
今まで対策委員会がやってこれたのは…そのおかげだと思ってる…。
「シロコちゃん…怪我してないかな…?」
記憶をなくして右も左も分からない君のことをずっと気にかけていたけど…。
いつの間にか立派になって…どんどん強くなって…。
その成長を…もっと…ずっと見ていたいと思った。
皆のおかげで…私は『あの日』まで笑うことができてた…!
そして…
「番長…スケバンの皆…無事でいてくれているかな…!」
いつの間にか…自分の周りには数え切れない人が集まっていた。
みんなみんな、アビドスのために働いてくれていた。
こんなキヴォトスでも殆ど経験することがない戦争にも…二の句を告げずに付き合ってくれた…!
きっとみんな…アビドスを護るために必死で戦ってくれているだろう…。
「先生…ちゃんと…指揮できているかな…?!」
いきなりやってきた外の世界の大人…。
ちょっと頼りないし…まだ心の底から信用できてもいない…。
でも…それでも私たちのことを一番に考えて動いてくれる…。
自分に足りないところを理解して…必死で学んでいる…。
付き合う必要もないのに…彼もこの戦争に協力してくれた…。
それが…とても頼もしかった…。
そして…
「ネイトさん…!ネイト…さん…ッ!」
半年前突然現れて…アビドスのすべてを変えてくれた…。
先輩がその願いを託し送り届けてくれた…異世界の大人…。
私の心を解放して…『私』に戻してくれた…優しい人…。
私が…心から安心して背中を…身を預けることができた初めての大人…。
あの人が来てくれたおかげで…私は心の底から初めて笑えるようになった…!
あの人のおかげで…私はまた高く飛べるようになった…!
あの人のおかげで…アビドスは復興への歩みを進めることができた…!
「帰りたい…!また…アビドスに…帰りたい…!」
もっと皆と学校生活を送りたい…!
もっと蘇っていくアビドスを見ていたい…!
もっと…もっと…ッ!
「…諦めちゃダメだ…!」
そうだ、私が弱気になってどうする…!?
ネイトさんは皆を鍛えてくれた…!
そんな皆が…私がいない位でカイザーになんか負けやしない…!
きっと…きっと…アビドスは大丈夫だ…!
私なんかがいなくても…皆はやり遂げてくれるはずだ…!
「諦めるもんか…!こんな拘束くらい…!」
私は周りから放たれている光線の拘束を振りほどこうと力を込める。
だが…ビクともしない。
まるで目的を果たすまで決して逃がさないと言わんばかりの強度だ。
「くぅ…はぁ…はぁ…はぁ…。」
力を籠め続けるのも限界になり息をつくと…胸ポケットから数枚の写真が床に落ちた。
それは…対策委員会室で撮影した対策委員会のメンバーと先生とネイトが写った写真。
戦艦マサチューセッツの砲塔前でお留守番だったセリカちゃん以外のメンバーとゲーム開発部やクルーのロボット達と撮影した記念写真。
そして…アビドス高校の屋上から撮影したアビドス高校生徒全員が笑っている写真だ。
その時…あの時の記憶が蘇った。
『ねぇ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったの。』
夕暮れが照らすアビドス生徒会室…
『ホシノちゃんみたいな、可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんて言う夢みたいなことが…本当に嬉しくて…。』
『…ハイ?』
あの人は…不愛想極まりない私に笑顔で語りかけてくれた。
『うぅ~ん…上手く説明できてないかもしれないけど…ただこうしてホシノちゃんと一緒にいられることが…私にとっては奇跡みたいなものなの。』
『…毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか。』
あの人…先輩はこんな人だった。
何でもないようなことをとてもうれしそうに語る。
『昨日も今日も、明日もそうです。こんな当たり前のことで何を大袈裟なことを。』
『はぅ…だって…。』
可愛げのない私の辛辣な言葉を…困ったような表情でいつも聞いてくれていた。
『『奇跡』というのはもっとすごくて珍しい物のことですよ。』
『…うぅん、ホシノちゃん。私はそうは思わないよ。』
『…何ですか、急に?』
それでも先輩はこう言ってくれた。
『ねぇ、ホシノちゃん。いつか…ホシノちゃんにも可愛い後輩ができて私以外に強くて心から安心できる人が見つかったら、その時は―――。』
…………
「ユメ先輩…。」
そうだ…あの時、ユメ先輩は託してくれたんだ…!
絶対に…手放しちゃいけないものを…!
私は馬鹿だから…こんなことになってその意味がようやく分かりました…!
「負けるもんかっ…!」
私はもう…二度と間違えない…!
「こんなものぉ…ッ!!!」
もう…二度と…間違えたくない…!
「外れろぉ…!!!」
私にとっての奇跡は…!
「ヌゥアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
皆で過ごすアビドスの日々、その物なんだから!!!
それが私に力を与えてくれた…!
再び満身の力を込めて拘束を解こうとした。
その時だ。
私の目の前にある分厚そうなドアが…拉げた。
「え…?」
それも一か所二か所ではない。
何度も何度もドアは拉げ遂には…吹き飛んだ。
ドアはそのまま底の見えない暗闇に吸い込まれていき…開放されたその先にいたのは…
「ホシノッ!!!迎えに来たぞッ!!!」
あぁ…本当に来て…くれたんだ…!
Side OUT
メインタワー地下、黒服が用意した実験施設。
当然そこまで行くにはいくつものセキュリティや警備を突破しなければならない。
そこで時間が惜しいネイトは…
「ムンッ!!!」
「ふゲェッ!?」
網膜や指紋スキャンにはカイザー理事に顔面や手を叩きつけ、
「いいか、嘘を言うたびにお前を足先から蒸発させていくからな?」
「ヒィッ!パ、パスワードは…!」
パスワードは脅迫して聞き出し、
「や、やめろッ!撃つな、撃たないでくれっ!!!」
「り、理事!?ぐあッ!?」
銃撃戦が起これば理事を盾にしながら敵性勢力を排除。
こうして地下数十階にも及ぶメインタワーの最深部たるこの実験施設までやってきたのだ。
そして、ホシノに歩み寄りながら彼女を拘束している光線の発生源に向け、
「待ってろ、今ぶっ壊す!」
彼女も見たことのないパラボラアンテナがついたような拳銃を構え発砲。
独特の発砲音と共に目には見えないが何か凄まじいエネルギーが込められたものが発射。
少し間を置き、光線の発生源が叩き潰され照射が停まった。
それをホシノにまとわりつく光線のすべての発生源に向け撃ち込んでいき破壊していく。
瞬く間にそれはすべて解除され…
「ね…ネイト…さん…ッ!」
「全く…このお転婆な小鳥め…。」
ホシノのすぐそばまで歩み寄り跪いて…
「…遅くなってすまなかったな、ホシノ。」
ヘルメットを外し、素顔を見せて声をかけるネイト。
「ネイトさん…!ネイトさんっ、ネイトさんっ!!!!!」
限界だった。
自由を取り戻したホシノは飛びつく様にネイトに抱き着いた。
「ごめんなさいっ!ごめっんなっさいッ、私っこんな時にっ勝手なっことしてっごめんなさいッ!」
「良いんだ、もう。君がこうして無事なら…。」
「でもっ私のッせいでッあっアビドスがっもしかっしたらっ!」
「大丈夫…先生も皆も必死で戦ってくれている。カイザーの侵攻部隊は…誰一人としてアビドスの地を踏めていない。」
「でっでもっネイトさんやっ皆がっ怪我したりっしっ死んじゃったらっ!」
「何言ってる?みんなの強さはお前も知ってるだろう?大丈夫、重傷者どころか民間人にも負傷者は出てないさ。」
「でっでもっわっ私をたっ助けるためッネイトさっんやみんっ皆がッ!」
「シロコもノノミもセリカもアヤネも、アルやムツキにカヨコやハルカも皆無傷さ。カイザーPMCも…全員やっつけた。」
泣きじゃくり言葉に詰まりながらも自分が捕まったことによる影響を心配し謝るホシノを優しく宥めるネイト。
そして、
「大丈夫…何もかも大丈夫だから…安心してくれ、ホシノ。」
そう優しくあやすようなネイトの言葉に…
「う…ウワアアアアアアアアアアアアアンッ!!!良かったぁッ、よかったあああああああああああああ!!!」
とうとう、ホシノの心は決壊しさらに大きな声を上げて泣きじゃくり始めた。
「そうだ、よかった…。俺も…ホシノを助け出せてよかった…。」
ネイトもそう呟き、ホシノを抱きしめる。
そこへ…
『ホシノ先輩っ!!!』
シロコたちも駆けつける。
「ん…よかったっ…!ホシノ先輩、無事でよかった…!」
「ホシノ先輩、どうしてっ一人でいなくなっちゃったりしたのよっ!」
「よかったですぅ、ホシノ先輩にまた会えてっよかったですぅ!!!」
「心配したんですよ、私達だけじゃなくてアビドス高校の皆も!」
ネイトにしがみつくホシノを触り無事を確かめながらも四者四様の喜びかたで再会を喜ぶシロコたち。
「みんなっみんなあああああああああああ!!!ウワアアアアアアアアアアアンッ!!!」
ホシノはネイトに抱き着いたままシロコの手を取りさらに泣きじゃくった。
5人はしばし…ホシノが落ち着くまでそのまま一緒にいるのであった。
数分後…
「落ち着いたか、ホシノ?」
「ハイ…ハイッありがとうございました…!。」
泣きはらした目だがホシノは落ち着き、しっかりと受け答えた。
「それじゃ…ほら、忘れものだぞ。」
彼女の様子を確認し、ネイトはホシノに『Iron Horus』を差し出した。
「…ユメはちゃんと俺達を見てくれていたよ。」
「ハイ…ッ!先輩は…確かに見ててくれました…!」
4人には何のことかは分からないが…しっかりとネイトとホシノとの間に固い絆を感じられた。
そこへ、
「兄さんっあったわ!あったわよ!」
「やぁホシノ先輩!無事なようでよかった!」
「うん、これでアビドス高校勢ぞろいだね。」
「ごッご無事なようでよかったです!」
アルを先頭に便利屋68の面々もやってきた。
アルの腕の中には『Eye of Horus』が抱えられていた。
「アルちゃんに便利屋の皆も…!」
「その…ごめんなさい。私たちが見つけた時には…。」
しかし、あの攻撃に巻き込まれた影響か一見して使用できない位に破壊されている。
「…うぅん、大丈夫だよ。なんたって…。」
「そうだな。帰ったらきっちり直してやるよ。」
パワーアーマーの大きなマニピュレータでホシノを撫でながら浅く笑って見せるネイト。
「…シロコにノノミ。ホシノを頼めるか?」
「ん…了解。」
「分かりましたぁ♪」
「ネ、ネイトさんは?」
「俺か?俺は…奴に歌ってもらわなきゃいけないからな。」
そう言うと…部屋の入り口に目線を向けると…
数分後、
「さぁ理事、頭を冷やしてよぉ~く考えてみろ?」
「やめろ、やめてくれええええええ!!!」
再度、ヘルメットを装着しなおしたネイトはカイザー理事を片手で逆さ吊りにしていた。
下を向くと底の見えない暗闇。
今ネイトに手を離されると…。
「言っとくがこのパワーアーマーも操縦者の身体能力が影響する。で、支えているのは左手だ。利き腕じゃないんだぜ?。」
「な、何が知りたい!?知ってることは何でも話す!」
「ん?放す?」
「ぎゃあああああああ!?」
そう言うとわざとらしく一瞬力を緩めるネイト。
「おっとすまない。で、歌う気にはなったか?」
「話すッ!話させていただきますうううう!!!」
こうしてネイトの連邦式尋問は進んでいき…
「こちらネイト、アビドス本部応答願う。」
《こちらアビドス本部、聞こえています、どうぞ!》
車両がお釈迦になったので全員ベルチバードに乗り込みアビドス高校へと報告の通信を行うネイト。
「パッケージ『Hotel』は回収した。繰り返すパッケージ『Hotel』は無事回収した。」
《…お疲れさまでした、ネイトさん…!》
無線の向こうの先生が声を押し殺してはいるが喜びが伝わってくる。
「その言葉は戦争に勝ってからだぞ、先生。だが…あぁ、本当によかったよ。」
ネイトはそれを少し窘めながらも…自分も少しだけ気を収めにこやかに答える。
「…救出チーム、ミッションコンプリート。RTB、アウト。」
それもすぐに気を引き締め帰還の通信を入れ無線を切った。
「さて、帰るとしよう。まだやることは一杯だからな。」
『了解!』
「ホシノはまず病院な。」
「…うへ~。」
後に乗ったみんなと言葉を交わしネイトの操縦するベルチバードはアビドス高校への帰路に就いた。
そしてある一定の距離をとったところで…本部基地に9つの流星が降り注ぎ今日一番のキノコ雲が立ち上るのであった。
こうして、アビドス砂漠で繰り広げられたホシノ救出作戦はカイザーPMC基地の殲滅も含め大成功を収めるのであった。
…ちなみに、
「ぎゃああああああ!!!?下ろして、下ろしてくれえええええええ!!!」
唯一の生き残りと言っていいカイザー理事はベルチバードの吊り下げウィンチに雁字搦めにされ悲鳴を上げているのであった。
Ne me dites pas que c'est impossible!
我らに不可能無し!
―――フランス陸軍第2機甲旅団のモットー