Fallout archive   作:Rockjaw

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ジャンクで汚れたこの声でうるせぇ外野を黙らせる


Hand held out Twice

時間は14:10、前線を離れたアビドス高校にて…

 

「こ、ここがアビドス高校…!」

 

クロノス報道部の川流シノンを始めとして物見遊山気分で戦場取材にやってきていた報道クルー。

 

そんな彼女らを待っていたのは…キヴォトスでは見られない戦車と砲撃による鉄風雷火の蹂躙劇だった。

 

地から空からの砲弾の嵐に巻き込まれた彼女たちは当然無事ではすんでいない。

 

服はボロボロ、カメラなどの取材機材は砲弾破片や衝撃でほとんどお釈迦となってしまっている。

 

全員、戦闘に参加していたカイザーPMC兵士よりも軽症なのが不幸中の幸いだ。

 

ちなみに乗ってきたヘリは戦闘の様子に恐怖したパイロットがいの一番に逃げ出してしまい移動手段も消滅。

 

その後、気絶若しくは余りの惨状やら戦闘の迫力に震えていたところを掃討部隊に見つかり保護され丁重に連れてこられてきた。

 

そして…

 

「おらッキリキリ歩けっ!!!」

 

「てめっ同じヘルメット団だったくせに!」

 

「もう辞めたんだよ!さっさと進めッ!」

 

侵攻部隊でオートマタ以外の兵士、つまりカクカクヘルメット団の面々も全員拘束。

 

あらかじめ用意されていた収容所代わりの高い塀で囲われた場所に収容されている。

 

閑話休題。

 

予期せず、カイザーの言うところのカルト教団の本拠地であるアビドス高校へとやってきた報道陣。

 

非常におどろおどろしい場所を想像していたが…

 

「どういうことなの…?」

 

そこは想像していた場所とは全く違っていた。

 

学校の雰囲気はごくごく普通。

 

こんな情勢なので物々しい雰囲気はあるが怪しさというものは感じられない。

 

と言っても、こんなタイミングなので校門の両脇には二機のセントリーボットが配備され立ち入りは制限されている。

 

そして、周囲には戦域から避難してきた避難民が多くいるが…

 

「お困りごとはありますか?」

 

「いいえ、今のところは大丈夫よ。」

 

「何かありましたら近くのロボットにお声かけください。」

 

「お荷物、お持ちしますね。」

 

「これはどうもありがとう。」

 

そんな避難民たちに見たことないロボット、Ms,ナニーが甲斐甲斐しく補助や困りごとがないかを聞いて回ったり、

 

「さぁ皆でお歌を歌いましょう♪せ~の…。」

 

『お~きなくりの~きのしたで~♪』

 

未就学児の子供たちを集め怖くない様に青空教室なども開いている。

 

他にもアビドスに在住の医療関係者の有志が医療行為を行えるよう野戦病院を設営し診察などを行ったりしていた。

 

正直言ってここが避難所と言われなければ分からないような充実っぷり。

 

周囲の報道クルーも想像していた光景とのギャップに困惑しているが…

 

「いいや、ひょっとしたらただのパフォーマンスかも…!」

 

シノンは首を振るいそんな憶測を振り払う。

 

まだ…件の『教祖』の姿を確認できていない。

 

報道陣としてこの学校を占拠したというその男を取材するまで気を抜くことができない。

 

その時だ。

 

上空を駆け抜けるベルチバード。

 

よく見ると…

 

「もう二度としません!!!だから許してえええええ!!!」

 

「あ、あれはカイザーPMC理事!?」

 

その機体の下にワイヤーで今まさにアビドスと戦闘を繰り広げているカイザーPMCのトップである理事がぶら下げられていた。

 

ベルチバードは学校裏手に向かい高度を下げていく。

 

「い、行きましょう!」

 

「これは特ダネだぞ!!!」

 

まさかの大物の出現に報道陣は沸き立ち一斉にアビドス高校裏手の発着場へと駆け出した。

 

そして、発着場では…

 

「オーライッ!オーライッ!よしッよく来たな、こん畜生が!」

 

待機していた生徒たちがぶら下がっていた理事を『丁重』にキャッチ。

 

素早くワイヤーを解いて地面に下ろし、また用意していた別のワイヤーと手錠で拘束しなおす。

 

「よし、指揮所へ連れていけっ!」

 

「は…はへぇぇぇぇぇ…。」

 

「ちゃんと歩けっ!テメェッへばってんじゃねぇぞッ!!!」

 

そのまま武装した生徒たちが引っ張っていくように色々ありすぎて処理落ちしたようなカイザー理事を連れて行った。

 

カイザー理事が運ばれていったのを確認し、

 

「こちら一天号、ただいま帰還した。アウト。」

 

ベルチバードも着陸、

 

「アル達は先に野戦指揮所に戻っていてくれるか?俺達はホシノを医療テントへ連れていくから。」

 

「分かったわ。じゃあ先に行って待ってるわね、兄さん。」

 

先にアル達を校庭の指揮所へ向かわせ、

 

「ホシノ、歩けるか?」

 

「それくらい大丈夫だよぉ~。」

 

「…けが人が遠慮するな。」

 

「うわッ!?」

 

ホシノを腕に抱えてネイトたちは医療テントに向かう。

 

「ちょッちょっとネイトさん!?///ほッ本当に歩けますからっ!///」

 

突然のことにホシノは顔を赤くしつつ自身の健在を伝えるも、

 

「いいから、ケガ人らしく今は大人しくしておけ。」

 

「あうぅ~…!///」

 

拒否権はなしと言わんばかりのネイトの言葉に彼の方に顔を伏せ耳まで真っ赤にして何も言えなくなってしまった。

 

…ちゃっかりその腕はネイトの首に回っているのでまんざらではないだろう。

 

「そうよ。こんな時くらい意地張らないで素直にネイトさんに甘えときなさい。」

 

「あらあら♪真っ赤になっちゃいましたねぇ~♪でもこれで皆揃ったって感じがしますねぇ♡」

 

「ん…今日はホシノ先輩に譲る。でも、私が怪我したときにはネイトさんに運んでもらう、絶対に。」

 

「戦闘ヘリ中隊に襲われたんですから安静にしてないとだめですよ、ホシノ先輩。」

 

そんな二人と並んでシロコたちも賑やかに歩いていると…

 

「いたぞ、あそこだっ!!!」

 

「入るんじゃねぇ!ここはアビドス高校の私有地だぞッ!!!」

 

「私たちは知る権利があります!!!」

 

「今は非常事態だぞ!?そう簡単に入れるわけがないだろ!」

 

「我々の職務の邪魔をするのか!?」

 

発着場の校外へ通じる方の出入り口が何やら騒がしい。

 

見ると守衛の生徒に大人数のオートマタや獣人に生徒が詰め寄っている。

 

「げっあれって…!」

 

セリカが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

ホシノ以外の対策委員会メンバーも苦い表情を浮かべている。

 

殆どの人物に心当たりはないが…その中でも見慣れた顔があったからだ。

 

「クロノスのニュースキャスター…!」

 

「…たぶん、ゲヘナ戦線を取材していた方々でしょうねぇ。」

 

「ん…巻き込まれたから先生が保護したって言ってたけど…。」

 

「どうしましょうか…。校庭に迂回して躱しますか、ネイトさん?」

 

正直、今朝からない事ない事ばかり報道され続けているアビドス高校。

 

そこへ騒動の中心たるネイトが報道陣の前に出ようものなら…。

 

が、

 

「フンッ。」

 

「あちょっとッネイトさん!?」

 

ネイトは鼻を鳴らし報道陣が待ち構える出口へと向かい、

 

「あ、アニキ!?」

 

「すまないが通してくれ。ホシノをドクターに診せに行きたい。」

 

「えっ?!でっでも…!」

 

「いいから、俺は大丈夫だ。開けてくれ。」

 

「う、うっす!」

 

守衛の生徒はそんなネイトを心配しつつも指示通りゲートを開ける。

 

すると当然、

 

「ネイト氏、宣戦布告を受けましたが今のお気持ちは!?」

 

「アビドス高校を私物化しているというのは本当なのですか?」

 

「その生徒とはどのような関係でしょうか!?」

 

「生徒たちを洗脳し私兵としているそうですが…!」

 

「W.G.T.C.という会社がキヴォトスを支配するための隠れ蓑というのは…!」

 

ネイトを取り囲みあれやこれやインタビューを試みるシノンを始めとした報道陣。

 

『………ッ!!!』

 

周りにいるアビドス高校の関係者からしてみれば聞くに堪えない嘘八百のネイトへの罵倒にしか聞こえない。

 

許されるのなら今すぐにでも怒鳴り散らし報道陣を蹴散らしたいが…

 

「………。」

 

「ネ、ネイトさん…。」

 

そんな報道陣をしり目にネイトは無言を貫き歩みを進めていく。

 

このような状況に『慣れている』かのような様子だ。

 

ネイト本人が何も反論していないのだ。

 

自分たちが今、抗議する訳にはいかない。

 

ネイトはそのまま避難民キャンプに足を踏み入れたタイミングで…

 

「はぁい、許可のない報道陣の方々はそこまでですよぉ♠立ち入りはご遠慮くださぁい♠」

 

「ちょッちょっと!?」

 

「ん…ここには一般の人もいる。慣れない避難で疲れているからあまり騒がないでほしい。」

 

「わ、我々には知る権利が…!」

 

「『プライベート』って言葉を知らないのかしら?それを無視する権利があんた達にはあるの?」

 

「それにホシノ先輩は負傷しています。治療を受けさせないつもりですか?」

 

示し合わせたようにシロコたちが報道陣をネイトたちから引き離してくれた。

 

さらに周りにいた生徒たちも立ち塞がりこれ以上ネイトたちを追いかけさせないようにする。

 

それでもネイトへの突撃取材を試みようと粘る報道陣だが…

 

「あんた達、ちょっと図々しいわよ!ネイトさん、怪我人運んでたの見えなかったの!?」

 

「テレビでカイザーの言うことだけ聞いて好き勝手言っておいてこういう時は話を聞かせろってか!?」

 

「今までこの街のことなんか気にもしなかったくせによぉ!視聴率かせげりゃ何でもいいのか?!」

 

周りにいた避難民たちも立ち上がり報道陣に向け抗議の声を上げてくれる。

 

いつの間にか…大人の避難民たちが自分たちを取り囲み敵意をむき出しにして自分たちを睨みつけていた。

 

「そ、そんな…!我々はただ…!」

 

今まで様々な事件や人物を取材してきたシノンだが…ここまでの『敵意』に晒されたのは初めてだった。

 

他の報道陣もこの状況にたじろぎ、それ以上一歩も進めず一言も発することができなくなった。

 

一方、野戦病院では…

 

「ドクター、ホシノはどうですか?」

 

「頑丈な子だ。負傷はせいぜい打撲と軽度の捻挫くらい。この様子なら数時間も休めばすぐによくなりますよ。」

 

戦闘ヘリの一斉攻撃を受けたというのにキヴォトス人基準ではかなり軽症だと診断を受けたホシノ。

 

「だそうだ、ホシノ。良くなるまで休んでるんだぞ?」

 

「はい、分かりました…。」

 

さすがに医者の言うことはホシノも素直に聞き今はベッドに横たわっている。

 

「ではドクター、ホシノを頼みます。」

 

「分かりました。ネイトさんも怪我をしないでくださいね。」

 

そうして医師にホシノを託しネイトは野戦病院を後にする。

 

野戦病院から出ると、

 

「ん…ネイトさん、ホシノ先輩はどうだった?」

 

「大したことはないらしい。少し休めばよくなるってさ。」

 

「それはよかったです~♪」

 

「だな。…さぁ、生徒は割り振られた仕事に戻ってくれ!」

 

『了解!』

 

シロコたちと端的にホシノの容態を伝え他の生徒に指示を飛ばし持ち場に戻らせ、

 

「避難民の方々もご協力ありがとうございます!彼女はすぐ良くなるそうなので解散していただいて構いません!」

 

少し声を張り上げ避難民にもホシノの状態を伝え、

 

「頑張ってよ、ネイトさん!」

 

「カイザーなんかぶっ飛ばしちゃいな!」

 

「応援してるぜ、社長!」

 

彼ら彼女らもネイトに声援を送りつつそそくさと解散して行った。

 

「よし、俺達も野戦本部に戻るぞ。」

 

「そうね。この後のことも計画しなきゃだし。」

 

「報告もしなくちゃいけませんね。」

 

騒動を収拾しようやく本部に戻ろうとすると、

 

「まっ待ってください、ネイトさん!」

 

なおも追いすがろうとするシノン達報道陣。

 

今を逃すと特ダネを逃がすと思い必死に声を掛けようとするが…

 

「…………。」

 

『ひっ…!?』

 

言葉など発さず…その眼光だけで報道陣の歩みを止めさせた。

 

海千山千の取材をしてきた報道陣だが…まるで足に氷が噛みついたみたいに一歩も動くことができなくなった。

 

そんな報道陣の様子を見て…

 

「…戦争が終わった後を楽しみにしておくといい、『スピンドクターマスゴミ』共。」

 

ネイトは不敵に口角を吊り上げ短くそう言い放ち、校門を潜っていった。

 

そして野戦本部にて、

 

「ネイトさん、ホシノを…ありがとうございました…!」

 

「先生も俺がいない間の防衛部隊の指揮、感謝する。」

 

生徒を救ったネイトとアビドスを守り抜いた先生が固い握手を交わし互いの健闘を称えあう。

 

「それはいいけど先生ぇ、なんでクロノスとかこっちに連れてきちゃったの?」

 

「…戦線で放置しているよりこっちに連れてきて後ほど戦端が開かれていないミレニアム方面へ脱出させようとして…。」

 

予想はしてはいたが報道陣の過熱っぷりは先生の予想を超えていた。

 

「申し訳ありません、ネイトさん…。やはり、連れてくるべきでは…。」

 

この一件で間違いなく最大の被害者であるネイトに頭を下げる先生だが…

 

「頭を下げないでくれ、先生。これ以上戦闘に巻き込ませるよりずっといい対処だ。」

 

肩に手を置きそれを止めさせ、彼の判断を称賛した。

 

「ですがネイトさんが…。」

 

「あんな連中、俺の若いころに囲んできたやつらに比べたらなんともないさ。」

 

呆れるようなジェスチャーをしながら軽い調子で語るネイトに、

 

「そっそれってどういうことなのよ、兄さん…?!」

 

少々困惑しながらアルはその真意を尋ねる。

 

あれだけの報道陣…いやパパラッチに囲まれていたというのにネイトはどこ吹く風だった。

 

あんな状況は早々出くわさないはずなのに…。

 

アルに対しネイトは…

 

「…俺が現役だった頃、休暇や除隊で本土に戻った同僚の間でこんな笑えない『ジョーク』が流行っていた。」

 

あるジョークを用いて自らの経験を語る。

 

「『Hey,里帰りしたんだろ?最初に故郷で何を食べたんだ?』『知りたいか?生のスクランブルエッグにカットされてないトマトさ』…ってな。もちろん、俺も何度か食ったよ。」

 

「そ、それって…!」

 

そのジョークの意味を理解した面々は顔を青くさせる。

 

米中戦争、アラスカを舞台に10年もの間大国同士ががっぷり四つで戦い続けた大戦争。

 

当然、国民の間には厭戦ムードが漂い反戦活動も激化。

 

そんな活動家の矛先が真っ先に向かうのが…帰還した兵士だ。

 

戦争が長引くと帰還した兵士に掛けられる声は称賛よりも罵声が多くなった。

 

しかも、戦争の最中にアメリカ本国はメキシコとカナダを強制的に併合。

 

罵詈雑言の割合はますます大きくなり…ついには帰ってきた兵士に物を投げつける事件が続出。

 

それは数多の戦功を上げ何度も受勲されたネイトとて同じだった。

 

「だからあんな連中、むしろかわいい位さ。」

 

『………。』

 

そう語るネイトを悲痛な面持ちで見つめる面々。

 

「なに、それ…!?国を守るために命懸けで戦っている人たちを何だと…!?」

 

「ストップ、カヨコ。怒ってくれるのは嬉しいがもうずいぶん昔の話さ。」

 

「で、でもネイトさんは辛くなかったんですか…?」

 

「アヤネ、それが俺達の仕事だ。そんな連中もひっくるめて侵略者から国家を護るのが俺達『軍人』だ。それに俺の家族や知り合いはいつも温かく迎えてくれた。だから、俺は戦うことができたんだ。」

 

そう、在りし日を懐かしむように語る彼の姿を見て…少しはシロコたちの気も軽くなった。

 

「さて、昔話はこれくらいにして…俺達が帰ってくるまでに何か戦況の変化はあったか?」

 

話題を変えるように一度手を鳴らし情報の整理を始めるネイト。

 

「ハイ、現在は各戦線小康状態と言っていいですね。第一陣の侵攻部隊排除後は今のところ増援は確認されていません。」

 

「ん…こっちの被害はどうだったの、先生?」

 

「大丈夫、戦車に軽微な損傷があっただけで生徒やロボットの皆は無事だよ。」

 

「ホットスポットはどうなりましたか、先生。」

 

「近くの第5防衛部隊と第6戦車小隊が同地を確保、到着を待っている感じだね。」

 

「こっちは砂漠のカイザーPMC拠点は壊滅。これで後方の脅威は完全に排除できたな。」

 

様々なトラブルはあったが喫緊のアビドスの危機は脱した、と言っていいだろう。

 

「それでアビドス学区内部の情報は?」

 

「予定通りに待機要員でアビドスに存在するカイザー関連の施設を制圧、抵抗は一切ありませんでした。」

 

「制圧ってどうやったの、先生?」

 

「簡単だよ、アル。建物の屋上に大きなアビドス高校の校旗を掲げたんだ。」

 

「古今東西、施設の制圧は自陣営の旗を掲げるのが伝統なのさ。」

 

どうやらカイザーは昨夜から今朝までの間にアビドスにある各関連会社の人員を引き上げていたようだ。

 

制圧に向かった生徒たちからは『夜逃げしたよう』という報告が入っている。

 

そのおかげで弾丸を一発も使うことなくアビドス中のカイザーの施設はアビドス高校の制圧下に入った。

 

つまり…

 

「ということはぁ、アビドスにはもうカイザーはいないってことぉ?」

 

「そう言うことだな、ムツキ。」

 

「戦争が始まって3時間弱でこれとは…相当準備してきたんだね、ネイト兄。」

 

およそ数十年ぶりに…アビドスの地がアビドス高校の手に戻ってきたということに他ならない。

 

「まさか、こんなに早く…!」

 

これに感極まっているのは…ノノミだ。

 

彼女の実家、セイント・ネフティスがアビドスを離れて数十年。

 

そのせいでカイザーはアビドスで跳梁をはじめ…この地を人知れずに奪い続けてきた。

 

年数的に言えば…自分の父よりも上の世代から始まった因縁の決着を今日つけることができた。

 

だが、目を潤ませるノノミに…

 

「まだ気が早いぞ、ノノミ。」

 

「あうっ。」

 

彼女の額を指で軽く小突き気を取り直させるネイト。

 

「まだあくまで『カイザーを追い出した』に過ぎない。今度は主権を『奪い返す』必要がある。」

 

そう、いまはあくまで『占領』しているにすぎず公的な主権は未だカイザーのままだ。

 

「そこで…『ソイツ』に一働きしてもらう必要がある。」

 

ネイトが視線を向けた先には…

 

「…わっ私に何をさせようというのだ…ッ?!」

 

椅子に座らされすっかり縮こまったカイザー理事がいた。

 

―――――――――――――

 

――――――

 

―――

 

14:30、カイザーコーポレーション本社。

 

「どうなっているんだ!!?」

 

《げ、現在確認中で…!》

 

「先ほどからそればかりではないか!?誰かアビドス砂漠の部隊に連絡はつかないのかッ!!?」

 

各グループの幹部が集った会議室にはプレジデントの怒号が響き渡っていた。

 

アビドス砂漠のPMC部隊に出撃命令を出して早1時間半。

 

確かにここにいるPMC社員を通じ出撃命令はとっくに通達しているが…それっきり何の通信もない。

 

こちらからの呼びかけにも応じず返ってくるのはノイズ音ばかりだ。

 

「西部のゲヘナ・トリニティ戦線は壊滅ッ!!!東部の基地とは通信不能!!!いったい何をやってるんだ!?」

 

怒りをぶちまけ続けるプレジデントだが無理もないだろう。

 

まだ余力はだいぶあるとはいえ相当数の部隊壊滅もしくは所在不明。

 

しかも、こちらからアビドスに対しての損害はほぼ皆無と言っていい。

 

戦車はおろか防御陣地一つの破壊報告も上がっていない。

 

「えぇいッ追加の侵攻部隊の準備はいつ整う!?」

 

《は、早くてもD.U.郊外のカイザーPMC本部基地の1.5師団が明後日昼には出撃が可能です!!!》

 

確かに大部隊を殲滅されたカイザーPMCだがまだ余力は十分残している。

 

いま残ったその全戦力を投入しアビドスを攻め落とそうというのだ。

 

「いいか、次こそアビドスを攻め落とせ!!!犠牲は厭わん!!!なんとしてもこの戦争に勝つんだ!!!」

 

プレジデントもそれを了承、次の戦いでの勝利を命じ通信は終わった。

 

「カイザーインダストリー!兵器・弾薬の製造状況は!?」

 

「はっはい!!!げ、現在全工場を稼働させ生産に励んでいますぅ!」

 

「今回の被害の回復を急がせろ!!!工員を使いつぶしても構わん!!!」

 

さらにカイザーコーポレーションは自社グループ内で物資を生産し補給が可能だ。

 

つまり時間さえかければ何度でも大部隊をアビドスに送り込めるということになる。

 

「くそっ理事は一体何をやって…!」

 

怒鳴りすぎて疲れたか少々息を整えつつ行方知れずとなった理事に悪態をつくプレジデント。

 

その時だ、普段理事が使っている席のホログラムがオンラインとなり…

 

《プ、プレジデント…!》

 

今まさに話題に上がった理事の姿が投影された。

 

「理事、いったいどこで何を…!」

 

すぐに彼に食って掛かるプレジデントだが…

 

《ご苦労、理事。もう下がっていいぞ。》

 

《はっはい…!》

 

『ッ!?!!?』

 

理事を下がらせホログラムに映し出されたのは…

 

《これはこれはカイザーのお歴々の皆さんがアホ面曝してお集まりになっているようで。》

 

「きっ貴様ッネイトッ!?」

 

カイザーの仇敵であるネイトがふんぞり返るように椅子に座ってホログラムに映される。

 

「貴様っ理事をっ…いやっアビドス砂漠の基地はどうしたんだッ!?」

 

《あぁ、アンタご自慢の玩具箱か?悪いな、みんなみんな俺達が『遊ばせて』もらったよ。》

 

皮肉交じりのその答えに…理事たちは即座に理解した。

 

「まっまさかアビドス砂漠の部隊は…!?」

 

《今は散らかしっぱなしだが安心してくれ。全部終わったらちゃんとお片付けするさ。》

 

さて、とネイトは言葉を区切り、

 

《状況はもう理解できたはずだ。そちらの兵器では我が方の部隊に対抗できないこともな。》

 

「こっこの…ッ!?」

 

《そこで…ここらあたりで手打ちにしないか?》

 

「手打ちにだと!?」

 

《もう十分うちの精強さも分かっただろ?これ以上犠牲を出すのはこちらとしても心苦しい…。だから、ここらあたりでやめないか?》

 

まさかのネイトからの講和の申し出だが…

 

《こちらは今現在制圧中の地域の主権を譲渡してくれればそれで…。》

 

「ふざけるなっ!!!そんな講和条件など飲んでたまるものか!!!」

 

その条件は到底カイザー側が飲めるものではない。

 

ネイトの言う現在制圧中の地域とはつまるところアビドス自治区全域だ。

 

この戦争はアビドスの地権を巡って始まったもの。

 

開戦理由こそでっち上げだがこの条件を飲めば実質的にカイザーの敗戦が決まる。

 

そもそも、カイザーはW.G.T.C.の撲滅を掲げてしまっている。

 

今ここで講和などすると世論が黙っていない。

 

「嘗めるなよ、若造!!!我々、カイザーコーポレーションは貴様たちなどに決して屈しない!!!」

 

そう大見得切ってその講和条件を却下する理事。

 

すると…

 

《…そうか。じゃあ次会うときは互いにテーブルについて面と向かって話すとしよう。》

 

あまりにも呆気なくネイトはその講和条件を取り下げ戦争継続を選択した。

 

《それじゃ、プレジデント。再び貴軍と戦場で相まみえることを楽しみにしている。》

 

そう言い、通信を切ろうとするネイトだが…

 

《あ、そうそう。一応アンタたちの幹部の理事の身柄を与ってるわけだが…。》

 

アビドス砂漠の部隊唯一の捕虜である理事の処遇を尋ねると…

 

「そんな使えない老い耄れなど知るか!!!さっさとそちらで処分でも何でもしろ!!!」

 

《そ、そんなップレジデント!?》

 

にべもなく理事を切り捨てるプレジデント。

 

悲痛な声を上げる理事だが…

 

《…分かった。ではこれで通信を終わる。》

 

答えを聞いたネイトが向こうの端末を操作しホログラムと音声がそこで途切れるのであった。

 

「たかが用務員ごときが我々を愚弄しおって!!!いまに見ていろ、次の戦闘で貴様らを今度こそ…!」

 

プレジデントは未だ怒りが収まらずネイトへの怨嗟をさらに濃くするのであった。

 

一方…

 

「そんな…!私は今まであなたのために骨身を惜しまず働いてきたというのに…!」

 

実質的な『解雇』宣言ともとれる言葉をプレジデントから浴びせられ理事は完全に意気消沈。

 

「私は今まで…何のために…!」

 

「…彼を収容所まで移送してくれ。いいか、絶対に目を離すなよ。」

 

「了解っす!」

 

譫言の様にぶつぶつと話し続ける理事にほんの少し同情の目を向けネイトは傍らの生徒に念を押し理事を収容所まで連れて行かせた。

 

「なんだか…いろいろあって憎い奴だけどあそこまで言われると…哀れな者ね…。」

 

アルのそんな呟きが沈黙が立ち込めるテント内に殊大きく聞こえた。

 

「と、まぁ講和交渉は失敗したが『予想通り』だな。」

 

「ん…こんなところでカイザーが諦めるわけないのはみんな分かってた。」

 

気を取り直し先ほどの交渉失敗を特に気にしていないようなネイト。

 

シロコもこれと言って大きく反応する訳でもなくノノミ達や先生も同じような反応だ。

 

「え?ネイト兄様…最初からカイザーと講和するつもりなんか…。」

 

「なかったわけじゃないですよ、ハルカちゃん。むしろここで終わるなら上々といった感じです。」

 

当然、ネイトたちも望み薄でもプレジデントが条件を飲んでくれるのに越したことはなかった。

 

それももう叶わないが…。

 

「でもどうするの?これだけやってもまだ負けを認めないんじゃ打つ手は…。」

 

ともかく今の状態で戦争を終わらせる手立てが潰えたことにどう対処するか尋ねるカヨコだが…

 

「簡単さ、カヨコ。これで負けを認めないなら…。」

 

「これ以上の痛手をカイザーに負わせて交渉の場に引きずり出すのさ。」

 

「わぁお先生はともかくネイトお兄ちゃん…『ワルい』顔になってるよぉ…。」

 

いままで見たことがないほど…ネイトの表情が『ワルい大人』のそれになっていた。

 

(うわぁぁぁ…アレが兄さんの『悪巧み』してる時の顔…!覚えておかなくちゃ…!)

 

アルはそんな義兄の表情を目に焼き付け今後の教材にするのだった。

 

「さて…奴らの無駄に長い脚を…全部食いちぎってやるとしようか…!」

 

その表情のまま…ネイトは不敵な笑みを湛えるのであった。

 

「ん…私たちも準備する。ここで話を聞かなかったことを後悔させよう。」

 

シロコも、

 

「せっかくのチャンスなのに聞き分けの悪い子たちにはお仕置きですよぉ♠」

 

ノノミも、

 

「やっとこっちの番ね!あいつらに仕返しができるなんて腕がなるわ!」

 

セリカも、

 

「では、私も機体の準備を整えてきます。…少し睡眠もとらなくちゃ。」

 

アヤネも、

 

「計画の伝達はすでに終えています。後はGoサインを出すだけです。」

 

先生も、

 

「何だか分からないけど便利屋68は最後まで付き合うわよ、ネイト兄さん!」

 

アルも、

 

「くふふ~♪ネイトお兄ちゃんの悪巧み、しっかり勉強させてもらうねぇ♪」

 

ムツキも、

 

「はぁ…ネイト兄なんて本当にとんでもない人を敵に回しちゃったね、カイザー。」

 

カヨコも、

 

「がっ頑張ります!私にできることがあれば何でも言ってください、ネイト兄様!」

 

ハルカも。

 

全員、その闘志に衰え無し。

 

この戦争は…新たなステージへと足を踏み入れつつあった。




アンタがとやかく言わずともこちら側が殴り込んでやる
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