―――欧米の格言
0:15、カイザーコーポレーション本社会議室。
「どういうことだ、ジェネラル!?こ、攻勢はないという判断ではなかったのか!?』
「た、たった今情報を収集していまして…!」
各グループ各社の幹部がまだ到着していないがすでに部屋の中は混乱の極みだった。
突如として実行されたカイザーPMC本部基地への奇襲攻撃。
しかもその後にキヴォトス中に響き渡ったネイトによるカイザーコーポレーションへの一斉反抗作戦の発令。
先ほどまでジェネラルが語っていた予想がすべて粉々に打ち砕かれ状況はどんどん悪化していく。
と、そこへ
「失礼しますっ!ジェネラル、基地から逃走した隊員から連絡があり断片的ながら情報が入りましたっ!」
ジェネラルの部下が何とかかき集めた情報を持って部屋に飛び込んできた。
「それで何があったんだ!?」
「ひ、被害状況の詳細は不明ですが少なくとも基地機能の大半は破壊されパイロット等兵器関係の搭乗員は壊滅したとのことです…!」
「敵はどれくらいの戦力を送り込んできたんだ!?せいぜい一個大隊くらいのアビドスがなぜ…!?」
1.5個師団を有する本部基地だ、生半可な戦力では壊滅させることができるわけがない。
真正面からやりあうなら三大校相手でも十分に戦えるだけの戦力だ。
兵器の質はともかくとしてそれを戦闘要員どころか全生徒で一個大隊程度しかいないアビドスがそんな短時間で攻め落とせるはずがない。
だが、そんなジェネラルの予想は容易く覆される。
「か、確認された戦力は…です…!」
「はっきりしろ!!!一個大隊か!?それともどこかの学校が支援を…!?」
「…確認された戦力は…一人です…!」
自分で言っていても信じられないといった様子の部下のこの言葉に…
「…は?」
プレジデントは呆けたような声を上げ、
「ひ、一人…?!一個中隊や小隊ではなく…!?」
ジェネラルは部下の正気を問うように語気を弱め聞き直した。
「ほ、報告をしてきた隊員全員…目撃した兵力は一人…!それも…強化装甲服を纏っていたと…!」
逃げのびた隊員からかき集めた報告と先ほどの全周波数帯での通信。
既に発信場所はカイザーPMC本部基地の管制塔からだと判明している。
それらの情報を精査していけばしていくほど…彼らにとって絶望的な答えが浮かび上がる。
「やっ奴は…ッ!あの若造…いやっ『ネイト』ただ一人にあの基地は陥落させられたというのかッ!!?」
信じられない…いや、信じたくない。
あの男がそんな理外の戦力を…いかにケテルを仕留めたといってもそんなことがあっていいはずがない。
だが…
「し、しかし全ての隊員の証言がそこだけ一切の食い違いがなく…ほぼ確実に…事実だと…!」
信じたくない情報ほど正確なものだ。
「そんな…ありえない…ッ!?」
「キヴォトス人でもない外の人間に…そんなことが…!?」
生徒の中には人並外れた戦闘能力を有する者は確かにいる。
だが、そんな生徒たちをして1.5個師団をこうも容易く瓦解させることは果たしてできるだろうか。
プレジデントとジェネラルが絶句していると、
「失礼します!先ほど飛び立った偵察ドローンからの映像が入りましたっ!」
また別の部下が端末片手にやってきた。
「早く見せろ!」
プレジデントの前に置かれその場の全員が端末をのぞき込む。
「これは…なんという…!?」
画面には今まさに火の海になっている本部基地の様子が映し出されていた。
建物もいくつも倒壊し何人の隊員が犠牲になったか見当もつかない。
「…いや、待て…!どういうことだ…!?」
だが、そんな基地の惨状を目の当たりにしてジェネラルは違和感を覚えた
確かに火災は起きているが…それは基地の一部のみ。
いや、面積的に言えば火事になっていない場所のほうが多い。
「…まさかッ!?端末を貸せっ!」
何かに気付いたジェネラルが端末を操作し基地のある一角を拡大表示する。
そこは主に戦車やヘリなどの大型兵器が駐機されている箇所だ。
見ると、そこだけは兵舎以外の建物…いや、そこに駐機されているヘリや戦車、さらには侵攻用の集積物資に果てには燃料貯蔵施設は全くの無傷だ。
「…くそぉっ!!!そう言うことかっ!!!」
「どッどうした、ジェネラル!?」
「奴の狙いは我々の戦力を削るだけではありません!!!我々の物資…いえ、拠点その物を奪取するために奴は攻め込んできたんです!!!」
何せ1.5個師団を擁する一大拠点。
兵器だけでなく車両や重・小火器、弾薬に各種燃料も備蓄されている上に物資の量も桁が違う。
しかも、進攻計画のためさらに物資が運び込まれていた状態。
これだけあれば…一個大隊規模のアビドスが活動するのに十分すぎるだろう。
さらにそれほどの規模ならこの基地で過ごす分には問題なく拠点としても十分流用が効く。
その時、基地を護る防空ミサイル発射台から対空ミサイルが放たれドローンが撃墜された。
「なっ…!?」
「基地の防空システムを乗っ取りやがったか…!」
これではっきりした。
ネイトは基地その物を奪取するために一人で奇襲を仕掛けたのだ。
こんな鮮やかな芸当、大部隊で攻め込むような従来の戦い方では不可能だろう。
「…プレジデント、もう遅いでしょうが…考え方を改めたほうがよろしいかと…!」
「どッどういう…!?」
「あの男、ネイトは…若造などではありません。銃火のあるなしに関わらず『戦い』というものを知り尽くした…『怪物』です…!」
ようやく…彼らにも理解できた。
ネイトはただケテルを倒せるだけの実力者というだけではない。
交渉術も戦術も用兵も指揮能力も兵站学も…すべてに精通し実行できるだけの能力を持った化け物だということに。
だが…
「バッ馬鹿々々しい…!そんなことあるわけがない…!」
その事実をプレジデントは受け入れることができなかった。
「た、ただこれまでが上手くいっているだけ…!まだだ、まだ我らに勝機は…!」
「プ、プレジデント…!」
「えぇい、うるさいっ!!!さっさと部隊を再編制しろ!!!なんとしてもあの基地を取り戻しあの男を仕留めるのだっ!!!」
最早その目の代わりのレンズの焦点はあっていない様子で怒鳴り散らすしかないプレジデント。
「で、ですが進攻中のアビドスの部隊の対処も…!」
「ゲヘナのヘルメット団やマーケットガードにでもいいからとにかく伝えろ!!!奴らを仕留めれば莫大な大金を出すとな!!!早くいけっ!!!」
『し、承知しましたっ!!!』
しかし、プレジデントの命令に逆らうわけにもいかずジェネラルをはじめ部下たちはいっせいに会議室を飛び出し指示を実行するために動き始めた。
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2:00、あるゲヘナの一角の廃墟ビル…
「お、おいどうするんだよ…!?」
「ど、どうするって言ってもよぉ…!」
その一室に集まり何やら話し合っている少女たち。
ゲヘナを根城にする『カクカクヘルメット団』だ。
ここはゲヘナ内に数ある彼女らのアジトの一つ。
そこで何を話し合っているかというと…
「カイザーのお偉いさん、何を考えてやがる…!?」
「幾ら大金出すからって…あんな連中にアタシらだけでどう戦えってんだよ…!?」
今から少し前、仲介人から伝えられた新たな依頼。
『アビドスの部隊を足止めしろ』、というもの。
報酬額が今まで聞いたこともないような額だったが…どうにも気が進まない。
「昼間のあれ見てどうやったら勝てるってんだよ…?!」
「うちらの仲間も大勢あの作戦に参加してたってのに…!」
無理もないだろう。
アビドス部隊の強さの一部はテレビで目の当たりにしている。
しかも、アビドスに向かった仲間たちは誰一人として帰ってきていない。
そんな状況で自分たちだけ、しかも戦車一両の支援もなしにどうやってアビドスに立ち向かえというのだ。
「カイザーめ、無茶苦茶なことを簡単に言いやがって…!」
「で、どうするよ?」
「無視だ無視、あんなの。どうせアビドスの連中がカタをつけてくれるだろ、働かなくても文句言うやつはいなくなるさ。」
いかに金を積まれようとも自分の身は惜しいものだ。
既に昼間の部隊参加分の報酬は受け取っている。
その団員には申し訳ないがそれを手切れ金にカイザーと縁を切ろうというのだ。
「だな、んじゃ夜も遅いし眠るとするか。」
「今日の見張りの当番は私だな…。」
「頼んだぞ、じゃあおやすみ…。」
と、カイザーの依頼などほっぽらかし見張り以外は床に就こうとするカタカタヘルメット団。
…だが、彼女たちの認識は甘すぎた。
最早その程度で足抜けできるほど…戦争というものは甘くないということを。
その時、見張りの団員が…
「…あん?なんだ今の?」
はるか遠くで一瞬何かが光ったのを発見した。
「誰かが銃撃戦でも…。」
銃の発砲炎にも思えたが…そんな思考はすぐに捨てることになる。
なぜなら、次の瞬間には彼女たちが根城にしている廃ビルが爆散し彼女たちは瓦礫に埋められたからだ。
カクカクヘルメット団のアジトから約5㎞離れた廃墟街の路上…
「命中だ!」
「次弾は!?」
「いや、いらねぇ!建物ごと木っ端みじんだ!」
そこに据え付けられていたのは…アビドスが誇る巨砲『M1 240mm榴弾砲』だった。
「いやぁ…俺達の戦車なんか訳ねぇってくらいの大迫力だぜ…。」
砲煙を上げるその大砲を見てこの部隊を率いる番長は圧倒されていた
そして、そんな番長が顔をのぞかせるハッチの脇に腰掛けているのは…
「良いわね、あの大砲。アレがあれば校則違反者も恐れおののいて悪さもしなくなるでしょうね。」
ゲヘナ学園の最高戦力、風紀委員長『空崎ヒナ』その人だった。
「す、すごい…!あんな大砲、万魔殿でも配備されてないはず…!」
「耳が痛くなっちゃったわ…。」
さらに周りには少数ながらもゲヘナ風紀委員会の構成員がいる。
「………あぁ~…チョコバーでも食うか、風紀委員長さんよ?」
なんとも言えない空気に耐えきれなくなった番長が夜食代わりに持ってきていたチョコバーを彼女に差し出すと…
「いただくわ。」
一方ヒナはというと一切の逡巡なくチョコバーを受け取り包みを開けて齧り始めた。
(どうしてこんなことになっちまったんだろ…。)
自分もチョコバーをかじりながら番長は少し前の出来事に思いをはせる。
それはネイトの号令がかかりゲヘナ方面から進撃中だった時のこと。
「今はこの辺りだから…夜が明けて少しすれば…。」
ナビを確認しながら戦車を操る番長。
今のところカイザー側からの抵抗は各打通部隊からは上がってきていない。
「おい、燃料はどうだ?」
「…まだ余裕はあるがどっちにしても1~2回は補給がいるな。」
「了解した。後方の補給部隊に出発を要請する。」
確かにケテル装甲の使用で軽量化され燃費も向上したがやはりガスタービンエンジン、大飯喰らいに変わりはない。
「司令官に感謝だな。燃料もたんまり仕入れてくれてるとは…。」
「全くだぜ。おかげでガス欠は心配なさそうだ。」
無論、それはネイトも分かり切っていたことでしっかり対処をしている。
三日…いや、日が変わったので四日前のノゾミとヒカリが操縦していた貨物列車。
アレはケテル運搬以外に今作戦用の各種物資、主に『ジェット燃料』を大量に運搬するために運航していたものだ。
その量、90,000ガロン…『アビドス戦車大隊』並びに『アビドス砲兵大隊』が数度の全力攻勢を行うには十分な量だ。
いや、これだけあって部隊運用で数度しか行えない辺りいかにこの戦車が馬鹿げた高燃費か理解できるだろう。
幸い、防衛部隊にいくらか割いているのでもう少し持つだろう。
「しかも親分が連中の基地の物資をほぼ無傷で奪ってくれたからだいぶ余裕が生まれたぜ。」
「さっき通信であちらからも車両を出すとおっしゃっていた。これで補給面はだいぶ楽になったな。」
そこで助けになるのが先ほどのネイトの奇襲作戦だ。
これで補給がアビドス方面からだけではなく進行方向のD.U.からも受けられるようになった。
新たな燃料も大量に手に入りまさに一石二鳥である。
…その時だ。
「……ッ!前方に不審車両多数接近中、止まれ!!!」
車長のガッツィーがセンサーに前方から車両の接近を検知。
「了解っ!野郎ども、お客さんがおいでなすったぞ!!!」
番長は素早く停車させ指示を出し部隊を展開させる。
両サイドにも戦車が並び背後のトラックからも随伴歩兵が一斉におり銃口を構える。
戦車に搭載されたライトが照らし出した先にはヘッドライトを点灯させた複数台の車両。
「どういうつもりだ…?なんで一発も撃ってこねぇ…?」
車両からは誰一人下りず、車も退くわけでもなく止まったままだ。
自動車爆弾の可能性もあるがそれにしては動きがなさすぎる。
ネイトからは『所属不明の勢力であっても一発でも撃たれた場合は即反撃』という命令が出ているがその始まりの一発がなければこちらはどうすることもできない。
これがカクカクヘルメット団やカイザーなら話が速いのだが…。
すると…止まっている車両のドアが開きある人物が姿を現した。
「~ッ!!?総員、攻撃準備!!!」
その姿を見た途端、この場の全員の血の気が引いた。
現れたのは…ゲヘナ風紀委員長『空崎ヒナ』だ。
番長たちもネイトとホシノによって彼女が敗れたことは聞き及んでいる。
だからと言って…ゲヘナ最強の看板を背負うのは未だに彼女なのだ。
ネイトもホシノもいないこの状況では…彼女以上に出会いたくない人物はいないだろう。
それでも…いざというときは戦うつもりだ。
全員が気を引き締め、砲手もいつでもヒナに向け砲弾を放てるよう引き金に指をかけている。
その時、ヒナがポケットを弄り始め…白いハンカチを取り出す。
そして…そのハンカチを愛銃の『終幕:デストロイヤー』のストックに結び付けこちらにそれを見えるように振りながら歩み寄ってきた。
「…え?」
まさかの行動に番長はそんな声を上げる。
周りの歩兵部隊も顔を見合わせる始末だ。
アレは明らかに…敵意がないという意思表示だ。
そうこうしているうちに…
「…あなた達がアビドスの『キヴォトス打通部隊』かしら?」
もう目と鼻の先にヒナはやってきた。
「あ…あぁそうだが…一体何の用だ?」
所属を聞かれたので素直に答える番長。
「何の用だとは随分ね。ここはゲヘナ学区、私たちがいるのは当然よ。」
「だが、俺達はただ通っているだけだ。こっちに来てまだ一発も撃ってねぇぞ。」
キヴォトスという場所は学校=国家のような扱いである。
だが、国家と言いつつ国境…学区間の警備もそこまで厳しくはなく普通に他学区への出入りはできる。
例え、その際に戦車に乗っていても学校同士の戦争でもなければ通行権を妨げられることはない。
つまり、今番長たちが戦車を走らせゲヘナを通過しようとしているのをいかにゲヘナ風紀委員会であっても制止する権利はない。
これが一発でも撃てば話は変わるが…それが正当防衛もしくは『戦争の相手組織』であればこれも認められている。
互いに一歩も退かない問答を繰り広げていると…
「…まぁいいわ。それに…私たちがやってきたのはアナタたちを取り締まる為じゃないわ。」
「なに?」
「これを…あなた達に渡すためにやってきたの。」
ヒナはコートの内ポケットから一枚の紙を取り出し番長に差し出した。
「…これは?」
それを受け取り内容を見ると…ゲヘナ学区の地図に十数か所×印が書かれてあった。
この地図の意味を尋ねると…
「…ゲヘナ情報部と私たち風紀委員会が把握している『カクカクヘルメット団』のアジトと本部基地の場所よ。」
『ッ!?』
まさかのこの戦争における敵対組織の一つ『カクカクヘルメット団』の潜伏先の情報ではないか。
今まさに喉から手が出るほど欲しかった情報だが…
「………すまねぇ、疑うわけじゃねぇが確認をとってもいいか?」
だからこそ慎重になるべきだ。
「当然ね。構わないわよ。」
ヒナからも了承を得て通信で別動隊のカタカタヘルメット団だった、それもリーダーだった生徒にコンタクトをとる。
結果…
「今確認が取れた。…細かい場所までは聞いてないが大半の場所に間違いはないそうだ。」
ヒナが持ってきたこの情報は高い信ぴょう性が確証されたものだった。
「…なぜ、これを?」
だが、理由が分からない。
ゲヘナ学園自体はこの戦争は何の関わり合いもない事だ。
なのに、そのゲヘナの風紀委員会がなぜ自分達に協力してくれるのか…。
そんな番長の問いに…
「…少しでもあの日の贖罪をするため、とでも言っておこうかしら。」
ヒナは自嘲気味にそう答えた。
『恩を売る』ではなく『贖罪のため』。
その言葉を聞き…
「…そうか。」
番長は短くそう答え…
「…部隊を代表して協力に感謝するぜ!」
敬礼を持ってヒナの協力に礼を述べる。
「親分、こちら番長!ゲヘナの風紀委員長の協力でカクカクヘルメット団のアジトの場所が判明した!対処に指示をくれ!」
即座に番長はネイトに無線を飛ばし指示を乞う。
ネイトの指示は単純明快、『見敵必殺』だ。
既にカクカクヘルメット団のカイザーコーポレーションとの関係は割れている。
ここで排除できれば後顧の憂いを断つこともできる。
「キヴォトス打通部隊各隊に通達、飛び込みの仕事だ!!!ウチのお嬢を誘拐しかけてカイザーなんかと手を組んだ奴らを後悔させてやれ!!!」
ネイトのお墨付きも得られ各隊がゲヘナのカクカクヘルメット団掃滅行動にはいろうとした。
「んじゃ、ゲヘナの風紀委員長!俺達はもう…!」
と自分たちも手近なカクカクヘルメット団の拠点を潰しに行こうとした…その時、
「ちょうどいいわ。私も乗せて行ってちょうだい。」
「え?」
いうが早いかヒナはそのまま砲塔上部に上がって座り込んだ。
いわゆるタンクデサントである。
「さ、早く行きましょう。」
「え…えぇっと何やってんすか?」
そんな彼女の真意を理解できず番長は思わずそう尋ねると…
「いい?私はゲヘナ内の不穏分子を排除できてハッピー。あなた達は敵対組織を排除できてしかも私の監督下だから行動の制限も緩くなって二倍ハッピー、Win-Winってやつよ。」
何とか理にはかなっているヒナの説明だが…心の奥底からひしひしと伝わってくる。
『これで楽ができる。』と。
(ゲヘナ風紀委員長って…こんなんだったか…?)
話に聞こえるあのゲヘナ最強とは思えないような緩い態度に困惑する番長。
周りの隊員も顔を見合わせ首をかしげている始末だ。
だが、ヒナがいることでゲヘナでの活動にお墨付きが得られることも事実。
「じ、じゃあ出発するからしっかりつかまっててくれよ。」
こうしてヒナを含む風紀委員会という奇妙な仲間ができた番長たちは再び移動を再開するのであった。
――――――――――――――
こうして場面は番長とヒナがチョコバーをかじっているところに戻る。
「今のは…ここだよな?」
「そうね。次に近いのは…ここよ。ここは少し周囲に建物があるから戦車で接近して…。」
ひょんな縁だがゲヘナのことなら知り尽くしている頼もしい協力者だ。
次の攻撃場所の選定や周辺の地形、尋ねるとすらすらとどう攻めるのが得策かという案が出てくる。
やはりゲヘナ最強というのは伊達ではない。
「それでほかの部隊はどうなの?」
「他のとこも順調に攻略中だ。空中騎兵隊も出撃してるから意外と手早くカタが…。」
そんな風に打ち合わせをしていたその時、
《こちら補給部隊、まもなく到着する。》
戦車の通信に補給部隊の到着の報が入った。
「あら?やっぱりこの戦車燃費が悪いのね。」
その無線が聞こえたヒナは戦車を眺めつつそう呟くが…
「…違う。」
「違うって…なにが?」
「コイツは…アビドスから来た補給部隊なんかじゃねぇ…!」
番長は警戒度を一気に引き上げた。
確かに補給部隊の要請は少し前に出した。
だがアビドスから出発したにしては…到着があまりにも早すぎる。
しかも、こちらの無線周波数を把握しているとすると…
「総員、警戒態勢!!!何かあったらすぐにぶっ放してやれ!!!」
番長はすぐに指示を出し部隊に臨戦態勢をとらせた。
「風紀委員長!ウチの戦車をタクシー代わりにしたんだから代金分は働いてもらうぜ!!!」
「全く…タダほど高い物がないって本当ね。」
そうぼやきつつもヒナも『終幕:デストロイヤー』を取り出した、その時だ。
《キヴォトス打通部隊各員、攻撃待て!!!攻撃待て!!!》
全員の無線にネイトからの通信が響く。
そして…その無線から流れてきたあの輸送隊の正体を聞き…
『なっ…!?』
キヴォトス打通部隊とその無線が聞こえた風紀委員会の面々は驚愕する。
その衝撃は…
「しっ失礼します!!!プレジデント、こちらをご覧ください!!!」
「なんだっ!?少しはいいニュースが…こっこれはッ!?」
カイザーの会議室にも伝わる。
部下から手渡されたタブレット端末にはこのような速報が流れていた。
『セイント・ネフティス社、アビドス学区並びにW.G.T.C.への物資レンドリースを決定』と。
経営には、勇気が必要である。その勇気は、何が正しいかというところから生まれてくる。
―――パナソニック創業者『松下幸之助』