―――劇作家『ジョン・フレッチャー』
砂漠のカイザーPMC一個旅団。
D.U.郊外のカイザーPMC本部基地一個師団。
おそらくキヴォトスでもこれほどの激戦を昼夜問わず敢行してきた者はいないだろう。
そんなネイトに…キヴォトスに来て『最狂』の敵が襲い掛かる。
「あぁ…簡単に壊れないでくださいね、貴方様♡」
『災厄の狐』狐坂ワカモ、その名の通り狐のような身軽さと素早さでネイトに襲い掛かる。
「手加減は…!」
対するネイトはV.A.T.S.を起動し瞬時にワカモに照準を定め、
「できないぞッ!」
レジェンダリー効果『爆発』が付与され炸裂弾となった弾幕を叩きこむ。
連邦では一発一発が容易く四肢を捥ぐ威力だった破壊の嵐が…
「あぁんッ!?」
ワカモの胴体に襲い掛かった。
予想外の一撃、しかも一瞬のうちに叩きこまれた10連撃の炸裂弾に彼女の体は吹き飛ばされるが、
「うっふふ、これはなかなか…!」
あの攻撃を受けてもしっかりと体勢を立て直し地面に着地。
余裕のある態度が一切崩れていないので効いていないのか?
否、
「やせ我慢はよせ。かなり苦しいだろ?」
「…フフッ、お見通しなのですね…。」
ワカモの態度は見かけだけだとネイトには分かっていた。
Perk『Awareness』、V.A.T.S.を発動するとある程度ではあるが標的の状態が分かる効果がある。
それで確かめてみると、ワカモのHPが今の一撃でかなり削り取られたことが分かる。
だが、相手はキヴォトス人のなかでも間違いなく上位に位置する『災厄の狐』だ。
「あぁ…この痛みもまたたまりませんわぁ…♡」
あれだけ甘かった声音がさらに艶やかになっていく。
表情もさらに上気し獰猛になっていることが容易に想像できる。
「この戦狂いめ…。」
これが彼女の気性なのだろう。
戦いの中で壊し壊され、奪い奪われ…その中でこそワカモは『悦び』を実感できるのだろう。
(このまま暴れさせるのは本当に拙いな…。)
視線だけ動かしネイトは懸念を強める。
今この拠点にはカイザーから奪った物資が山とある。
それも燃料に弾薬と危険物ばかりだ。
もし、戦いが長引けば間違いなくとんでもない被害がでることは確実。
ならば、
(一気に仕留める…!)
ネイトは素早くミニガンをワカモに構え発砲開始、
「あはははっ!そうです、そうですわ!もっと私に貴方の『衝動』を見せてくださいまし!!!」
一切容赦ない攻撃だがワカモは笑いながら駆けだし回避していく。
「貴方様のためにこのワカモ、趣向を凝らしましたの!お楽しみあそばせ!!!」
さらに、そんな愉しそうな彼女の声に同期したかのようにドローンや戦闘ロボットも攻撃を開始。
たかがドローンの放つ弾丸程度ではX-02はビクともしないが…
(あのデカブツの攻撃はさすがに食らうとやばい…!)
奥に控える四足歩行型のロボット。
武装には戦車の砲塔を重ねた物を両サイドに装備しておりまともに食らうとX-02でも大ダメージは必至だ。
幸い鈍重なため照準速度はかなり遅い。
「そんな趣向はあまり好きじゃないんだがな!!!」
なので、ネイトも猛ダッシュでそのロボットの射線から退避しつつ、
「アサルトロン、セントリーボット、戦闘開始ッ!!!」
ロボットソルジャー部隊にも攻撃指令を下す。
「命令確認、敵部隊の掃討を開始します。」
「境界線付近での戦闘行為は許可されていない。」
主の命をうけアサルトロンとセントリーボットの群団が敵ロボット部隊に向け突撃。
数でこそ劣るがそれでもネイトですら連邦時代から『正面戦闘は避けてきた』戦闘能力を誇る。
アサルトロンのステルスブレードとハンマーノコギリがドローンを撃破し、セントリーボットのレーザーとミサイルの弾幕が大型戦闘ロボットに襲い掛かる
カイザーPMC本部基地正面ゲート付近は大混戦の様相を呈し始めた。
「こんな戦い、あの『子狐』達よりも昂りますわぁッ!」
乱戦の中、襲い掛かるアサルトロンの近接攻撃を躱しセントリーボットの弾幕を掻い潜りワカモはなおもネイトに迫る。
「(なんて身軽さだ…!それでも…)直線的すぎるぞ…!」
再びネイトはミニガンを構え迎え撃とうとするが…
「でしたら、こういうのはいかがでしょう!」
ワカモは走りながら『真紅の災厄』を発砲。
ロボットたちの攻撃をかわしながらという射撃には最悪の状況だが弾丸はミニガンのバレル連結部に着弾。
「ぐッ!?」
銃の機能には問題ないものの銃口が跳ね上げられ弾丸が明後日の方向に飛翔。
そのわずかな隙にワカモは間合いを詰め、
「さぁ、貴方様の顔をお見せくださいませ!」
X-02の頸部目掛け…真紅の災厄の銃剣を突き立てた。
いかにパワーアーマーと言えど関節部は可動域確保のため若干強度に劣る。
中国軍もそこを付き狙撃やステルスアーマーで近接戦を仕掛けてきたが…
「見えてるんならっ!」
タイミングを計りネイトは真紅の災厄の銃剣を避け銃口部を掴んで見せる。
圧倒的出力を誇るパワーアーマーだ。
「何も怖いことはないっ!」
ワカモの全体重を乗せた全速力の突きも首に刃が届く寸前で食い止めた。
「…あぁん、とてもいけずな方ですわね…!」
だが、対するワカモもひとかどの強者だ。
躊躇なく真紅の災厄を発砲し弾丸はヘルメットに着弾。
その時、
「ッ?!」
本来なら九九式短小銃の『九九式普通実包』程度ビクともしないはずだ。
だが、ネイトの顔面にまるで大男の張り手を叩きこまれたような衝撃が走り勢いよくのけ反り返る。
(まさかッ!?)
この衝撃、覚えがある。
その証拠に…HUDに表示されているEMVの数値が15%から23%に増大。
(デフォの射撃が神秘付与か!?)
デカグラマトンの預言者『ケテル』、そして空崎ヒナのパンチ以来の神秘攻撃の使い手『狐坂ワカモ』。
ただの弾丸にすらケテルの機関砲以上の神秘が付与されるというその莫大な神秘容量は確かに脅威だが、
(それがどうした!)
「きゃあッ!?」
真紅の災厄を掴んだ手は決して離さず後ろにのけ反りながらワカモの腹部に足を当て勢いを殺さず『巴投げ』の要領で投げ飛ばした。
圧倒的なX-02のパワーアシストによりまるで投石機並みの勢いでワカモが宙に舞う。
「打ち上げ花火にしてやる…!」
HPこそ90%台で威力そのものはケテルと比べるとかなり低い。
まだまだ戦えるとネイトはそのままミニガンを構え、
「アハハハッ!こんな愉快な死合いは初めてですわぁ!」
空中でネイト目掛け真紅の災厄を構えるワカモ。
互いに互いの弱点を突く得物が火を噴いた。
「ツゥッ…!?」
装甲を無視しネイトの身体に突き刺さる神秘を存分に込められた弾丸の衝撃、
「クゥッ…!」
対爆性能も何もない柔肌に叩きこまれる連邦製の炸裂弾。
互いに確かにダメージが刻まれるが、
「フフフッ…全くもって不思議な得物ですわね…♡」
あの炸裂弾幕を受けてなおワカモはすぐに体勢を立て直し軽やかに着地。
だが、ここで…
「セントリーボット、火力支援開始!!!」
「yes sir、ミサイル発射。」
ワカモになくてネイトにある手札が牙をむく。
背後でワカモが連れ立ってきたロボット群団を相手にしているセントリーボット達に命じミサイルが発射される。
「…あらぁ…これでしたら戦車も奪ってくるんでしたわ。」
ワカモが忘れ物をしたくらいの気軽い発言の後、彼女目掛けトップアタックミサイルが降り注いでいく。
「フルパックだ、持ってけ!!!」
さらにネイトも走りながら着弾地点に向けミニガンの弾倉に入ってる限りの弾丸を叩きこむ。
銃身が赤熱し空薬莢の道ができるほどの連続発射。
それも弾倉内の5㎜を撃ち尽くし銃身が空転したところで止む。
連邦では一回の戦闘で半分以上撃つことも稀な得物だ。
レイダーも、ガンナーも、スーパーミュータントも、フェラルグールの群れもこの武器の前では塵芥となり果てた。
おそらくキヴォトスでもこの弾倉に入っている限りの5㎜弾の炸裂弾幕に耐えられる者はそうはいないはず。
だが、たとえそうであっても…
(奴のヘイローが消えているのを確認しない限り…油断できない…!)
燃え盛る着弾地点から一切目をそらすことなく撃ち尽くしたベルトホルダーを抜き取り新たなベルトリンクを挿入しようとする。
その時だ。
「さぁ…ワカモと花占いをいたしましょう…♡」
「ぐぬぉっ!?」
炎越しにネイトに向かって撃ち込まれる6発の凶弾。
EMV45%から63%まで上昇した物の不思議とダメージはそれほどでもないが…6発目が着弾したと同時にネイトの頭上に桜を模した文様が浮かび上がった。
それと同期したようにワカモが連れてきたロボットたちの攻撃がネイトに殺到。
ロボットソルジャー部隊の攻撃は続いているというのに対処を後回しにしてネイトに弾幕を浴びせる。
「あいつ、一体何を…!?」
明らかにワカモの連撃とこの花びらが起因する事態だがネイトも事態を把握しかねていると…
「一枚…♡」
頭上の花びらが一枚散るように霧散した。
「ッ!?まさかッ!?」
ネイトの背筋に悪寒が走り一気にワカモ目掛け駆けだす。
弾丸を浴びようとお構いなしにだ。
そして、
「二まぁい…♡」
二枚目の花びらも散り、
(奴を仕留めないと拙いことが起こるっ!!!)
いよいよネイトの本能も警鐘を鳴らす。
「あらぁ…慧敏なお方ですわね…♡」
そんなネイトの反応にワカモは関心と喜びの声を上げ、
「アハハハッ鬼さんこちらぁ手の鳴る方へぇ♡」
まるで時間を稼ぐようにロボットたちの乱戦している戦場に飛び込む。
「やはりっ!!!」
これでネイトも確信する。
花びらがすべて消えた時、何かが起こると。
ミニガンでは巻き添えを出すのでロケットハンマーに持ち替えワカモを追撃。
だが、
「三まぁい♡」
無情にも花弁は残り二枚に。
さらに大型ロボットも本格的にネイトに攻撃を浴びせ始める。
さすがにケテルより低性能かつ高速に動くネイト相手に砲撃はほぼ外れるがそのうちの一発が直撃コースで飛来。
V.A.T.S.の断続起動ですぐにそれを察知し、
「コレを抜きたきゃ…!」
V.A.T.S.の恩恵の一つ、装備展開の高速化を使用し『スカラベ』を起動させ…
「140㎜もってこい!!!」
なめらかな曲面を活かし砲弾を跳弾させる。
だが、時間を稼がれたのも事実。
「四まぁい♡」
残りの花びらは一枚のみ、
(どこだッ!?)
この乱戦の中、やみくもに追いかけるのは得策ではない。
近くのドローンを破壊しつつ再びV.A.T.S.を起動、照準を切り替えながら彼女を探し…
(見つけたッ!!!)
大量のドローンの中遂にワカモを発見。
すぐさま、近接V.A.T.S.攻撃を実行。
「これで…ッ!」
一瞬のうちにワカモの目の前に現れ振りかぶったロケットハンマーを降り下ろそうとする。
だが、
「時間切れですわ♡」
無情にも…ネイトの頭上の桜の花びらがすべて散ってしまった。
次の瞬間、
「~ッ!!?!?!」
ネイトの体を駆け抜ける強烈な衝撃。
その威力は…かつてのケテルハンマーに匹敵しパワーアーマーの大重量をもってして後方に吹き飛ばすほどだった。
「あらぁ…花占いの結果は『大凶』でしたわねぇ♡」
襲い掛かるアサルトロンを往なしつつ、ワカモは口角を吊り上げた。
『深紅の花占い』、彼女が神秘を込めて発動する一種の『呪い』のようなものだ。
花弁がすべて散るまでの間…約10秒間に浴びせられたダメージを蓄積。
すべて散った後にその蓄積分のダメージを『神秘』として標的に叩きこむという効果だ。
しかも…この攻撃は耐性を無視する。
効かないとはいえネイトは弾丸を山と浴びて、しかも弾いたとはいえ砲弾も受けた。
塵も積もれば山となる、とはよく言ったもの。
皮肉にも『攻撃を避ける必要がない』パワーアーマーを纏っていたからこそ招いてしまった事態ともいえる。
「うふふ…私の想い…受け取っていただけましたでしょうかぁ…?」
なおも甘い言葉を発し吹き飛んでいったネイトを眺めるワカモに…
「標的の脅威度を引き上げます。」
「警戒度:黒、最優先で排除します。」
「あらぁ今度はアナタたちがお相手してくださるんですねぇ?」
主の命を忠実に実行するロボットソルジャー部隊が襲い掛かるが…
「申し訳ありませんわぁ。このワカモ…あんな大物を前にして目移りできるほど余裕は持ち合わせておりませんの♡」
嫋やかな動きでまたもその攻撃をかわしつつワカモはネイトの元へ迫る。
一方、
「………かはっ!」
兵舎の瓦礫の山まで吹き飛ばされたネイト。
僅か十数秒の間だが意識が飛んでいたようだ。
(クソッ…パワーアーマー着てて『避けなきゃいけない』ライフル弾に出会う日が来るとは…!)
おそらく、キヴォトスの中でもワカモのアレは異例中の異例だろう。
それでも迂闊に攻撃を受け過ぎたことを自省するしかない。
まるで防弾ベスト越しに弾丸を浴びたような痛みが全身を襲っている。
だが、HPは40%と幸いにもまだ活動に支障がない上…
(EMVも…100%に達した…!)
キヴォトス人の『天然』の神秘故かEMVのチャージも早くすでに100%に達した。
だが…
(どうした…!?なぜ…出てこない…!?)
『源流』の神秘が顕現しない。
あの時と条件は揃っているはずだ。
(何が…なにが違う…!?)
ネイトは思考する。
ケテルとの戦闘時に覚醒したときと何が違うか?
『源流』の神秘を呼び起こした時にあって今ないのは何だ?
(………!)
あの時の状況と現況を比較し…ネイトは思い至る。
そうだ、『アレ』だ。
ありふれ過ぎて一切疑問にも思ってなかった。
(なにか…何かないか…!?)
ネイトは辺りを見回し瓦礫の中にそれを見つけた。
確証はないが迷っている暇はない。
今まさにワカモは迫りつつある。
幸い、ミニガンは給弾済み。
ネイトはそれを彼女にではなく…
(当たっててくれよ!!!)
明後日の方向に発砲。
「っ、どういうつもりですの…?」
これにはワカモも不審に思う。
あれでネイトがくたばるとは思っていなかったがまさかの標的が…
「なぜ…給水タンクを…?」
瓦礫の中に鎮座していた給水タンクだ。
おそらく屋上に設置されていた物だろう。
炸裂弾幕を受けてタンクは破損し、水が勢いよく吹き出す。
その勢いは…ミニガンを放っていたネイトまで余裕で届くほど。
僅かな時間戦っただけだがワカモはネイトを理解しつつあった。
(彼が…何の意味もない事をするはずが…!)
その戦い方は即断即決、徹底して無駄を省き最善手もしくはそれに近い手を指し続けるさながら詰将棋に近しいものだ。
ましてやあの得物はワカモ自身をもってして『喰らいたくない』と思える凶悪な代物だ。
それを自分にではなくわざわざ給水タンクに…?
僅かな逡巡の間…ワカモの足は鈍った。
その時だった。
噴き出した水の落下地点、つまりネイトのいる場所が…蒼い光を放ち水柱を打ち上げた。
「ッ!?」
驚愕するワカモだが事態は待ってくれない。
水柱の中から放たれる弾丸。
それはワカモではなくはるか後方の大型ロボットに着弾。
当然、ただのライフル弾程度であの装甲は貫けるはずもないが…異変はすぐに判明する。
最初こそ甲高い着弾音だったが…その音はどんどん重く低い物へと変わっていき最後には…装甲ごと大型ロボットを『粉砕』してしまった。
「…はぃ?」
振り返り思わず間の抜けた声を上げるワカモだが…
「おい。」
「ッ!?」
その声がもう間近で聞こえ、『しまった』と思い前に向き直るも…
「ダメじゃないか、息の根止めてない敵を前にして…。」
(クッ首が…!?)
巨大なマニピュレータが彼女の頭をロック。
強力を誇る彼女をもってして振りほどけない怪力で挟み込まれ…
「目を…放しちゃあ!!!」
「ギャンッ!!!?」
パワーアーマーの全膂力を投入した『顔面頭突き』が炸裂。
キヴォトス人を軽く凌駕するパワーと砲弾すら寄せ付けないヘルメットのコンビネーションが生み出す強烈な衝撃がワカモを襲う。
この一撃で今まで無傷だったワカモの狐の仮面が半壊、左目一帯を覆っている一部を残し地面に落ちた。
そんな目に星が飛んでいる彼女へ、
「もう一丁!!!」
「きゃあああああ!?」
手を解放した次の瞬間にはお得意の前蹴りを放つネイト。
重量がたっぷり乗った蹴りの威力もさることながら…さらにそこへ駄目押しと言わんばかりの『爆発ベント』が発動。
内臓がひっくり返ったかのような衝撃と熱さと共にワカモは吹き飛ばされる。
今度は着地する余裕もなく何とか受け身をとりつつも地面に伏す。
「い、一体何が…!?」
なんとか顔を上げることができたがそこで目の当たりにしたのは…
「タネは分かった。…次は喰らわない。」
蒼く輝く巨大なヘイローを背負いアサルトライフルを携えたネイトだった。
そんなネイトの姿を見て…
「あぁ…なんて勇壮な御姿ですの、貴方様…♡」
先ほどの一撃で割れた額から滴らせる血で染めながらもなお端麗な顔に恍惚の表情を浮かべ…
「お待ちください…!ワカモは…まだ舞えますわ…♡」
ワカモはしっかりとした足取りで立ち上がった。
その闘志、未だ折れず。
「敵ながら見事だが…悪いが時間切れのようだな。」
そんな彼女を称賛しつつも、ネイトは無情にもそう告げる。
「あら、そんな連れないことを仰らないで…。」
名残惜しそうに、それでもネイトに仕掛けるため一歩を踏み出そうとするワカモ。
その時、彼女の足元が爆ぜる。
「なっ…!?」
「cavalryの到着だ。」
ネイトがそう発すると同時に上空を4機のベルチバードが駆け抜ける。
その一機から、
「クゥ、外しちゃったわ…!」
ハッチに保持用のロープを渡しゲパートM6を構えるセリカがワカモに狙いを定めていた。
「こちらアヤネ、航空騎兵第一小隊現着しました!!!」
「セリカよ!またヤバいのに絡まれてるわね、ネイトさん!」
そう、アヤネの隊長機が率いる精鋭ヘリ部隊『アビドス航空騎兵第一小隊』がこの地に舞い戻ってきたのだ。
《ロボット部隊、下がってくれ!!!一気に排除する!!!》
「アサルトロン各機、了解。」
「セントリーボット全機、後退する。」
指示を受けロボットソルジャー部隊はドローンたちを戦域にとどめるようけん制しつつ後退、
「行くぞ、野郎ども!!!目標は災厄の狐の玩具どもだ!!!」
「アタシら、アビドス航空機騎兵部隊!!!七囚人がなんぼのもんじゃい!!!」
「搭乗員の皆様方、テメェらも暴れる時間だ!!!撃って撃って撃ちまくれ!!!」
散開した小隊機が一斉にドローンたちに武装を投射。
瞬く間にワカモが率いてきたドローン群団はスクラップと化した。
「こんな素晴らしい逢瀬に邪魔な蠅共が…!」
ネイトとの戦いに水を差され激昂したワカモがそのうちの一機に狙いを定めるも、
「今度は外さないわよ!」
「がはッ!?」
セリカが放った徹甲焼夷榴弾が今度こそ命中しワカモにたたらを踏ませる。
「悪いな、ウチのモンが乗ってるんだ。撃ち落とさせるわけにはいかない。」
さらにそこへネイトが手に持っていたアサルトライフルを発砲。
「こ、この程度はワカモには豆でっぽ…!」
元より頑丈なワカモにいまさらアサルトライフル程度は対して効かないはずだが…
「ぐッ!?な、なんですのってきゃあッ!?」
身体に弾丸が当たるたびに…明らかに衝撃が増大。
その威力は最早弾丸ではなく重機関銃以上の物に『成長』していた。
あまりの威力にとうとう…
「ぐはあああああッ!?」
ワカモがただの弾丸で吹き飛ばされフェンスに叩きつけられた。
「かはっ…!な、なんで…すの、あの…銃…!?」
ワカモ自身、キヴォトス人の中でも例外の部類だということは理解している。
だが、それを加味しても…ネイトのあの武器は理外の武器だ。
そして…
「ヘンな呪いを使えるのは…お前達だけじゃないってわけだ。」
新たなドラムマガジンを装填しつつネイトはワカモに近づきその銃を突き付ける。
そして、止めを刺すために引き金を落とそうとした…その時。
《ネ、ネイトさんストップ!ちょっと待ってください!!!》
「ッと、先生?どうかしたのか?」
先生の通信が入り引き金にかかった指が緩んだ…
「えっ!?」
と同時になぜかワカモも驚いたような声を上げる。
《そ、その子『ワカモ』ですよね!?》
「そうだが…それが?」
《無線をパワーアーマーのスピーカーに繋いでください!》
「…どういうことだ?というか、何で先生が七囚人と…。」
《お願いします!上手くいけば丸く収められるかもしれません!》
「わっ分かった、今繋ぐ…。」
何時になく必死な様子の先生にネイトも若干気圧され言われた通りにワカモにも無線が聞こえるようにする。
《…ワカモ、こんなところで何やってるの。》
「せ、先生!?貴方様なのですか!?」
そして、呼吸を整えて普段通りとなった彼の声を聴くなりワカモの表情はさらに驚きに染まる。
《この前約束したでしょ?もうやたらに暴れて他人に迷惑かけないって。》
「で、ですが…私はどうしてもこんな鬼神の如きお方と戦いたい気持ちを抑えきれなくって…!」
《だからってそんな乱暴なことしちゃだめだよ。ネイトさんだって私と同じで下手をすればすぐに死んじゃうんだからね?》
「そッそれでもこのワカモ、滾った躰と想いが我慢できなくて…!それもこれ以上我慢すれば狂ってしまうほどに…!うぅ…!」
先ほどまでの闘気はどこへやら。
まるで…というか関係性はまんまの先生に悪戯を諭され生徒の様にシュンと小さくなるワカモ。
《それは…とてもつらいだろうけど我慢を覚えることも大切だからね。頑張らないと…。》
そして、先生には全くその気がなくネイトもそれは理解しているが…
「…ッ!!!」
まるで『見捨てる』とでも言われたかのようにワカモの目が絶望に染まって見開かれ…
「きっ嫌わないでください!!!」
「うおッ!?」
「もし万が一あなた様に嫌われてしまうなんてことになっては、私…ッ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
今日一番の声を張り上げ泣きじゃくりながら先生に許しを請い始めた。
「ごめんなさい…!こっこれからは先生をがっかりさせないよう努力いたしますので、どうか…!どうか私のことを…嫌いにならないでください…!」
「…なぁ先生、俺が言えた義理じゃないが…いったい災厄の狐に何を…!?」
あまりのワカモの変わり様に思わずネイトがよからぬ想像をして先生に尋ねると、
《ネイトさんが想像しているようなことは何もやってませんからね!?》
あらぬ誤解だと大声で弁明する先生なのであった。
《オッホン!…大丈夫、私はワカモを嫌いにならないから。》
「ほ、本当…ですの…!?」
《だから、これからもまた頑張っていこうね。》
「せ、先生…!はいッこのワカモ、改めて先生を落胆させぬよう改めて精進してまいります…!」
《うん、頑張ってね。》
と、気を取り直した先生の声を聴いてすっかりしおらしくなったワカモだが…
「で、ですが…このお方と先生はどういった関係で…?!」
ネイトの関係性がどうしても読み切れず彼におずおずと尋ねると…
《彼、ネイトさんは私のいろんな意味での『先輩』で『師匠』なんだ。今、彼の下でいろいろ勉強させてもらってるんだよ。》
「え…!?」
先生の返答に再び固まり…
(せ、先生の師匠…私の愛する方のお師匠…私の運命のあなた様のお師匠様…。)
そんな考えがグルグルと彼女の頭を駆け巡り…
「お…!」
『お?』
「お義父様、この度は誠に申し訳ありませんでしたわぁ!!!」
混乱のあまり土下座しながら斜め上にぶっ飛んだ結論を叫ぶのであった。
《わ、ワカモッ!?違うよ!?》
「何言ってんの、この子は!?」
さすがにこの発言には大人二人、度肝を抜かれた。
「あぁ、私はなんということを!!!このワカモ、先生のお義父様を傷付けたケジメを今ここで!!!」
《わあああああ!!!わあああああ、ワカモ早まらないでえええええ!!!)
「なんで襲われた奴が襲撃者の自害を説得しなきゃならないんだ!?ともかく落ち着け!!!」
ネイトと先生、思い余って銃剣で自らの喉を突こうとするワカモを何とかやめさせようと奮戦するのであった。
―大人二人説明中―
「はぁーはぁー…!おっ落ち着いたか…?!」
《わ、私とネイトさんはただの師弟関係…!確かに頼もしく思っているけど血も何も繋がってないからね…!》
「はい…取り乱して申し訳ありませんでした…。」
なんとかワカモの気を落ち着かせネイトと先生の関係性を理解させることに成功。
「そ、それで…今回襲ってきたこととカイザーは何も関係ないんだな…!?」
「なぜカイザーが…?ワカモは単純に破壊と略奪の気配を感じ取り馳せ参じたんですわ…。」
《…どうします、ネイトさん?》
カイザーの関係を尋ねると首をかしげながらここに来たのは単純に自分の意志と答えるワカモ。
これがカイザー関係なら対処にあれこれ憂慮すべき事態だが…
「幸い基地の被害は極々最小限だし物資も無傷だし俺もスティム使って全快だし…!」
ネイトは思わずヘルメット越しで頭を掻きながら考え…
「…聞くがもう今は戦う意思はないんだな?」
「はっはい!先生のお師匠様であるならばこの戦が終わるまでこのワカモ、貴方様の障害にならないとお誓いしますわ!」
ワカモの言葉を信じるなら一先ずこの戦争が終わるまで不戦の誓いを立ててくれた。
《こ、今後は戦わないとは誓ってはくれないんだね…。》
「そこは…よくはないが今はいい。…分かった、このまま帰るんならもう俺も手は出さない。」
ならば、これ以上戦う理由はネイトにもないので彼女を解放することにする。
「よ、よろしいんですの…?」
「ヴァルキューレに通報する義理もないしな。だが、約束は守ってくれよ。」
「…このワカモ、身命を賭してあなた様との誓いを護りますわ…!」
今一度、ワカモに先ほどの誓いを尋ねると跪き改めて深く誓う。
《ネイトさん、申し訳ありません…。》
「体中痛いがおかげでヘイローも顕現できたしな、トントンにしておくさ…。」
それに得られたものもあった。
その対価としてワカモを見逃す、ネイトはそれで何とか納得するのであった。
「通信を切るぞ、先生。引き続き、ゲヘナ方面の部隊を頼む。」
《了解しました。では、通信を終わります。》
先生に打通部隊の指揮を頼み、通信を終えるネイト。
「あの…ワカモが連れてきたロボットの残骸は片付けますので…。」
「いや、むしろそのままにして行ってくれ。色々使えるからな。」
「よろしいんですの?」
「構わない。」
「では、お頼みしますわ。では、ワカモはこのあたりで…。」
そう言い、ワカモは基地の外へ駆けだそうとすると…
「待て、ワカモ。」
「なんでしょうか?」
「弟子の好だし敵とはいえ顔に傷をつけたんだ、これくらいはさせてくれ。」
ネイトはそんな彼女に近づき、
「いいか、チクッとするぞ。」
「痛っ…!」
有無を言わさずワカモの腹部に一本の注射器を刺し、薬剤を注入する。
すると…
「あ、あら傷が…!?」
ワカモの額の傷が見る見るうちに痕も残さず塞がっていった。
「へぇキヴォトス人にも…。さっ、もう行け。」
「…このご恩は必ず。ではワカモ、失礼いたしますわ。」
治療の礼を述べ、ワカモは軽やかに夜の闇に消えていくのであった。
「…よかったんですか、ネイトさん?」
「七囚人見逃したとかヴァルキューレが聞いたら怒られるわよ?」
それを見計らってアヤネとセリカが近づき声をかけてきた。
見るとベルチバードは全機着陸し支援要員の生徒たちが全員こちらを眺めていた。
「戦わないで済むならそれに越したことはないしな。」
「でも、この戦争が終わったらまたきっとやってきますよ?」
「その時は砂漠で歓迎するさ。ホシノとかも連れてな。」
「…そうだったわ。ネイトさんってこんな人だったわ。」
あっけらかんと答えるネイトにセリカは額に手を当てながら首を振るのであった。
そうだ、ついさっきまで戦ってたカタカタヘルメット団相手でもネイトはこうだったのだ。
今更このあり方を変えることはできないだろう。
ならば、もしもの時はネイトに対処を丸投げしたほうが頭を痛めずに済む。
「さ、予想外のことはあったが俺達のやるべきことをやろうか。」
「そうね、本当の敵はまだ残ってるわけだし。」
「次の便でシロコ先輩たちや便利屋の皆さんもお連れしますね。」
「あぁそれから、ホシノ先輩が『いい加減私も参戦させて』ってごねてたわよ。」
「完治してるのなら一緒に連れてきてくれ。」
「というか、そのヘイローが出張中に出てきたってやつ?」
「これがあればいろいろできるから作業がだいぶ楽に進めるな。」
と、今後の予定や作業内容の指示を出しつつ皆の元に戻っていくネイト。
周りの隊員たちもその指示を受けてきぱきと動き始める。
「ん…?」
その時、ネイトがある物を見つけた。
「…ワカモの仮面の片割れか。」
それは頭突きを食らわせた時に割れたワカモの狐の面だった。
「………恋する乙女はなんとやら…てか。」
その仮面を拾い上げ…
「『いいね』、青春だねぇ。些か硝煙と煤くさいけど。」
ヘルメットの左側にひっかけそんなことを呟くネイトだった。
―――――ユニークアイテム『ワカモの仮面』を入手しました――――
恋愛、それは神聖なる狂気である。
―――ルネサンス期の格言