Fallout archive   作:Rockjaw

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お待たせしました
長すぎて分割した後半部分です


Tears of Horus

「え、シロコちゃ…ん?」

 

「シロコ、どうした…?」

 

ネイトはもちろん付き合いが長いであろうノノミですらシロコの行動に驚愕しそう声を漏らすと、

 

「ッ!」

 

「あ、ちょっと委員長!?どこに行くの!?」

 

二人の言葉にはじかれたように桃色の髪の少女は委員会室を飛び出しどこかへ走り去ってしまった。

 

猫耳の少女が彼女を追いかけようと部屋を出ようとするが、

 

「待て、お嬢ちゃん。」

 

その肩に手を置き制止するネイト。

 

「放して!委員長ったら怪我してるのよ!?」

 

「落ち着け、今追いかけてもあの子は話もまともにしてくれないぞ。」

 

「でも…!」

 

「そうですよぉ、セリカちゃん。今は…少しそっとしておきましょう。」

 

「ノノミ先輩まで…!」

 

「一先ず、何があったか説明してもらえるか?」

 

「…分かったわよ。」

 

初めこそ気が立っていたがネイトとノノミの説得もあり落ち着きを取り戻したようだ。

 

「い、いきなりこんな騒動に巻き込んでしまい申し訳ありません…。」

 

「いやいや、気にしなくていい。俺のほうが突然やってきたんだからな。」

 

その後、一旦全員席について改めて互いに対面する。

 

「俺はネイト、シロコから聞いてると思うがある人物に頼まれてここに来た。」

 

「『黒見セリカ』よ。アビドス高等学校一年、対策委員会の会計を担当しているわ。」

 

「『奥空アヤネ』と申します。同じく一年生で書記と皆さんをサポートするオペレーターを務めています。」

 

「セリカにアヤネだな。よろしく頼む。」

 

「よろしくお願いしますね、ネイトさん。」

 

「あんた…さっきの戦い見てたけどなかなかやるみたいね。」

 

「まぁ年の功って奴だ。撃ち合いそのものは久々だったがな。」

 

「ん…ネイトさんは元軍人といっていた。戦い慣れてて当然。」

 

「さて、皆の自己紹介が済んだところで…シロコちゃん、説明してくれますよね?」

 

「………ん…実は…。」

 

軽い自己紹介も終えノノミがシロコに説明を促すといつもより少し間を開けてシロコは説明を始める。

 

「…だから…その…どうしても許せなくて…。」

 

「そうですか…。でも、だからって手を出しちゃだめですよぉ?」

 

一通りの事情を聴きまずは手を上げたシロコをたしなめるノノミ。

 

「でも…ネイトさんは初めて会っただけなのにここまで一緒に戦ってくれた。感謝しこそすれ…侮辱するのは絶対におかしい。」

 

「それは確かに委員長も悪いですねぇ。」

 

それでもシロコの意見はかなり理解できる部分はある。

 

「でも、ほんとに今日の委員長…何か変だったわね…。」

 

「はい、いつもならあんなに怒鳴ったりしないはずですのに…。」

 

「なぁ、あの桃色の髪の少女は…。」

 

「あぁ、彼女はこの学校の3年生でアビドス廃校対策委員会の委員長の『小鳥遊ホシノ』先輩です。」

 

「…え?3年生?」

 

まさかのあの小柄な少女がこの学校の最上級生だということにあんぐりするネイト。

 

「…まぁ、初めて見たらそうは思えないわよね。」

 

「え、シロコは?」

 

「ん…私は2年生。ホシノ委員長がこの学校で一番年上。」

 

「そ、そうか…。」

 

「あ、あははは…。」

 

どうやらその反応は間違ってないようでセリカは首肯しアヤネも困った表情を浮かべるだけで否定はしなかった。

 

「まぁ、いい。で、シロコ。その件はあの時一応の決着がついている。それを掘り起こすのは感心しないぞ。」

 

「でも…あれは誤射なんかじゃない。それに…。」

 

「それに?」

 

「…もし今後もこんなことがあれば私は委員長に安心して背中を預けることができない。」

 

「シロコちゃん…。」

 

「だから、ちゃんと説明したかった。ネイトさんはこれまで会ってきたような『大人』なんかじゃないって。」

 

「………この学校でこれまで何があったか、聞かせてもらえるか?」

 

どうやら並々ならない事情があるようでネイトも表情を引き締め話を聞く体制をとる。

 

「…はい、見ての通りこのアビドス高等学校は廃校の危機なんです。」

 

アヤネが説明するにはかつてこのアビドス高等学校はキヴォトスで最も歴史がある最大のマンモス校だった。

 

だが、数十年前に発生し何度も襲ってきた大規模な砂嵐によって事態は急変。

 

急速に進む砂漠化は歯止めがきかずなんとアビドスが統治する学区の半分以上、本来の本校の校舎すら今や砂の底に沈み移転を余儀なくされていた。

 

無論、何も対策をしてこなかったわけではない。

 

だが…

 

「砂漠化を防ぐために学園は膨大な資金を投入するも砂漠化は止まらなかったんです…。」

 

「その資金確保のために土地を担保にして借金してまで何とかしようとしていたんですが…。」

 

「…砂漠化は止まらず、借金だけが膨らんだ…と。」

 

その借金のせいで学校の経営は悪化。

 

さらなる人口の流出に歯止めがかからずこの地区全体が衰弱してしまった。

 

かつては大きな発言力を持っていた『連邦生徒会』での発言権が無くなってからも久しい。

 

「今は何とか利子の返済は頑張ってるんだけど焼け石に水ね…。」

 

「なるほど…その過程で…。」

 

「ん…いろんな大人が手を差し伸べようとしてくれた。…でも、騙されてもっと厳しい状況になってばかりだった…。」

 

「それが彼女に言っていた『悪い大人』ってことか…。」

 

思ったより状況は複雑のようだと、ネイトは頭をかいて内心一人ごちる。

 

そんな中、キヴォトスの住民ではない大人の自分がやってきたのだ。

 

散弾をぶっ放されても仕方ないだろう。

 

と、ここで一つ疑問がわく。

 

「…なぁ、なんでシロコはそんなに俺を信用する?」

 

共に修羅場をくぐったとはいえあって間もないシロコがなぜここまで自分を買っているのか、ネイトにははなはだ疑問だった。

 

だが、

 

「ん…ネイトさんは『悪い大人』なんかじゃない。それははっきりと言える。」

 

シロコの評価は変わらず、自分を『悪い大人』などと微塵も思っていないようだ。

 

そこで…

 

「…シロコ、俺は君が思うほど『善人』なんかじゃない。むしろ自分の中の評価では…俺は『極悪人』の部類だと思うぞ?」

 

ネイトは数時間前、彼女と交わした問答と同じことを問いかける。

 

「俺はな、10年戦場に身を置いていた。数え切れないほどの敵の命を奪ってきたんだ。分かるか?俺の手…いや、俺の全身は血で染まり切っている。」

 

血で血を洗う命のやり取り、おそらくシロコたちは未だかつて経験したことないだろう。

 

そんな場所で彼女たちの人生の半分以上を過ごしてきたということを。

 

「さっきの戦闘でも俺はヘルメット団のやつらを殺すつもりで戦っていた。そのことに俺は何の躊躇も後悔もない。」

 

おそらく人として大切なブレーキが自分の中で壊れてしまっているということを。

 

「そんな殺人鬼もはだしで逃げ出すような男を…君は『悪い大人』ではないとそう断言できるのか?」

 

下手をすればここにいる全員に被害が及ぶかもしれない危険性をはらんでいるということを。

 

だが…

 

「…ん、断言する。ネイトさんは『悪い大人』なんかじゃない。善人じゃなくても『優しい人』だってことはすぐにわかる。」

 

それでもシロコはネイトをまっすぐとみて断言する。

 

さらに、

 

「ハン、軍人さんは国を守ってなんぼでしょ?戦うことは仕事よ、仕事!それを殺人鬼と一緒にするなんて馬鹿げてるわ!」

 

「立派なお仕事だと思います。自分の身を差し出してまで誰かを護ることは…そんなに簡単じゃないですもん。」

 

「それにぃ、あなたのおかげで先ほどは助けられた事実は変わりませんもん。貴方は私たちの恩人ですよぉ。」

 

アヤネにセリカやノノミもシロコの意見に同調。

 

そして…

 

「それに…『悪い大人』だったらホシノ委員長を自分の身を盾にして守ったりしない。それはネイトさんがとても『優しい人』だから躊躇なくできた、そうでしょ?」

 

「「「うんうん。」」」

 

先ほど自分がホシノを護った行動、それこそが彼女たちがネイトを信ずるに足る十分な証明だった。

 

「………はぁ~。なんだかこっちがこっぱずかしくなってくるな。」

 

先ほどよりも激しく頭をかき顔を伏せ、

 

(…あんたの後輩は揃いも揃ってお人よしの『優しい』連中ばかりだな、梔子ユメよ。)

 

彼女らと全く同じように自分を表した梔子ユメに思いをはせるのであった。

 

「…分かった、降参だ。これ以上、自分を悪く見せるのは止めにするよ。」

 

「ん…それがいい。認めたほうが気持ちも楽になる。」

 

「あんまり謙遜するのは嫌味ったらしくなっちゃうわよ。」

 

「うふふ、優しい殿方がいらっしゃってうれしいです~♪」

 

「はい。これからよろしくお願いしますね、ネイトさん。」

 

ようやく打ち解けることができたネイトとシロコたち対策委員会。

 

と、タイミングがいいので…

 

「そういえば…一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

「はいなんでしょうか~?」

 

「さっき出ていった…ホシノっていう子のことなんだが…。」

 

「委員長がどうかしたの?」

 

ネイトは彼女たちにホシノについてある質問をする。

 

「…彼女に姉妹はいるのか?」

 

彼女を一目見た時から疑問だった。

 

背も体形も髪の色も違う。

 

だが、あまりにも彼女と『似すぎ』なのだ。

 

「姉妹?私は聞いたことないわね。アヤネちゃんは?」

 

「私も心当たりはありません。」

 

一年生のセリカとアヤネは心当たり自体なく、

 

「シロコちゃん、ホシノ委員長から何か聞いたことはありますか?」

 

「ん…初耳。どうしてそんなこと聞くの、ネイトさん?」

 

さらに付き合いの長いノノミもシロコも知らないようだ。

 

「じゃあ、質問を変えよう。…今からいうのはこのアビドス高等学校に赴くよう俺に頼んだ人物だ。」

 

この質問では伝わらないと分かりネイトはもう一枚のカードを切る。

 

「『梔子ユメ』、この名前に心当たりは?」

 

あの地獄の二歩手前で出会った少女『梔子ユメ』、その名を口にした途端…

 

「「「「ッ!?」」」」

 

今日一番、全員が目を見開き信じられない物を見る目でネイトに視線を向けるのであった。

 

――――――――――――

 

――――――

 

―――

 

――

 

「……………。」

 

シロコに頬を打たれ委員会室を飛び出したホシノ。

 

今は普段の自分のお気に入りの昼寝スポットである屋上の貯水タンクの上で膝を抱えて座っていた。

 

口の端から血の跡は垂れているが出血そのものは止まっているようである。

 

あれからずっと考えている…。

 

『ネイトさんは『悪い大人』じゃない。今までの『大人』とは絶対に違う。』

 

『委員長も…普段より生き生きしていた。』

 

先ほどのシロコの言葉がずっと脳裏に響いている。

 

(ダメなのに…!私は…そんな資格なんてないのに…!)

 

シロコが言っていることなどホシノにはもう分っている。

 

ネイトは…絶対に違う。

 

『悪い大人』なんかじゃ絶対ない。

 

きっと自分たちを助けるためにここに来てくれたのだろう。

 

頭ではとうに分かっている。

 

だが…

 

(ダメだ…!もってよ、私の心…!今まで守り通してこれたじゃないか…!)

 

かつて心にかけた自戒、自らを覆う仮面がそれが絶対にネイトの存在を認めさせてはくれない。

 

『こんな砂漠のド真ん中に、また大勢人が集まるわけないでしょう!?夢物語もいい加減にしてください!』

 

共にこの場所を護ろうとしていたのに…

 

『こんなものいりません!いるなら先輩一人でやってください!』

 

色々あったが…それでも一緒に何とかしようとしていたのに…

 

『もう付き合ってられません!生徒会は終わりです!』

 

自分は…すべてを投げ出してしまった。

 

それでも…

 

『今日もありがとね、ホシノちゃん。じゃあまた!』

 

彼女は怒ることなく感謝も述べて自分を見送ってくれた

 

そして…

 

『せ、せん…ぱい…?』

 

あの日…あのアビドス砂漠で…あの人を喪った。

 

(だから…決めたじゃないか…!あの人の代わりになろうって…!)

 

あの人の盾で皆を護ろうと…

 

もう何も失わないように。

 

だというのに、

 

(なんで…あの大人から…あの人を感じてしまったんだ…!)

 

ネイトに護られたあの時…思い出してしまった。

 

かつての…あの人とともにかけた日々のことを。

 

(ダメなのに…!あの日の自分なんかに…『先輩』と一緒にいたころの自分に戻る資格なんてないのに…!)

 

自責と郷愁で胸が張り裂けそうだった。

 

その時だった。

 

屋上に通じるドアの開く音が響き、

 

「やぁ、少し話そうか。ホシノ委員長。」

 

「ッ!」

 

手にミネラルウォーターのボトルを二本持ったネイトがやってきた。

 

「…隣、いいか?」

 

「…………………好きにすれば。」

 

「じゃあ、そうさせてもらう。」

 

ホシノの了解を得るや否や、

 

「よっと。」

 

「ッ!?」

 

ヘルメット団幹部を打倒した時のように目にもとまらぬ速度でホシノの隣に現れ、

 

「ほれ、一緒に飲もう。」

 

そういいつつ、ホシノにボトルを一本渡し隣に腰かけた。

 

「「……………。」」

 

ネイトはちびりちびりと飲みながら、ホシノはボトルには手を付けないまま互いの間に沈黙が流れる。

 

その沈黙を破ったのは…

 

「…悪かった。私、あの時嘘を付いた。」

 

意外にもホシノからであった。

 

「ン?」

 

「あれは誤射なんかじゃない…。私は確かに…あの時…。」

 

言わなければ駄目だ。

 

「こ…いや、いの…これも違う…。」

 

だが…最後の一言がどうしても発することができない。

 

こんなことを言ってネイトが許してくれるわけがない。

 

嫌いな大人のはずなのに…許されなかろうとかまわないはずなのに…

 

(怖い…。この人に…拒絶されるのが…とてつもなく…。)

 

まるで足元の地面が底なしの穴になったと錯覚するほどに怖くて仕方なかった。

 

すると…

 

「気にするな、命を狙われることなんて俺にとっては日常茶飯事だ。」

 

「ッ!」

 

ネイトが言い淀んでいた先をぴたりと言い当て、それでもホシノを許そうとする言葉だった。

 

「…なんで…?!」

 

「何が?」

 

「…なんでそんな風に言える!?」

 

怒りの表情を浮かべ立ち上がりホシノは叫ぶ。

 

シロコにはなった叫びよりもさらに激しい慟哭に近い声だった。

 

「私は私たちを助けようと戦ってくれたアンタを殺そうとした!!!ただ大人っていうだけでだ!!!そんな私を許せる!?そんなバカみたいなことある!?」

 

ホシノにはますますネイトがあの人と重なって見えた。

 

どこまでもお人よしで馬鹿で無鉄砲で…大好きだったあの人に。

 

「怒れよ!!!罵れよ!!!こんなクソガキ、ムカついて仕方ないんだろ!!?何ならあの光線銃で撃ってみろよ!!!あのバットで思い切りぶん殴れよ!!!」

 

いつしかそのオッドアイの瞳からはとめどなく涙があふれていた。

 

とにかくどんな形でもいい。

 

ネイトに自分を罰してほしかった。

 

そうなればどれほど…楽になるか…。

 

だが、

 

「…君の言ったように俺はバカもバカ、大馬鹿かもなぁ。」

 

「ッ!?」

 

「そんな風に涙を流しながら許しを請う子を…俺は責めることなんてできない。例え、命を狙われていたとしてもな。」

 

「~ッ!!?」

 

この男、ネイトはそれでもホシノを赦そうとする。

 

「…どうして…どうしてぇ…!」

 

もう精魂尽きたかへたり込むホシノ。

 

訳が分からない、理解できない、正気とは思えない。

 

それでも…彼女は安堵した。

 

「なんでぇ…なんであなたはぁ…私を許してくれるのぉ…?!」

 

ネイトの袖を力なく引きながら尋ねる。

 

まるで…雨に濡れて震える小鳥のようだった。

 

「…梔子ユメに君の、君たちの、この学校の未来を託されたからだ。」

 

「え…?」

 

ありえない言葉だった。

 

この男が知っているはずのない名前だった。

 

「俺は一度死んでいる。こことは全く別の世界でな。」

 

ネイトが語るのは想像もできないようなことだった。

 

目の前の男が別世界の人間?

 

正気の沙汰とは思えない、子供でももっとましな嘘を付くだろう。

 

「俺は地獄に落ちる順番待ちをしていた。その時だった。君にそっくりな少女、梔子ユメに出会った。裁判官を名乗ってたな。」

 

だが、不思議とホシノはその話を信じた。

 

だって…彼女の真実を知っているのは自分を除き限られた人数しかいない。

 

出なければ…死後会ったというネイトの話に説明がつかない。

 

「まるでお日様みたいな女の子でな、無鉄砲で底抜けのお人よしでどこかバカっぽいそんな女の子だった。」

 

思い出の通りの印象だ。

 

その姿を知るのは…もう自分しかいない。

 

「裁判官名乗ってるのに俺を地獄に送る方法が分からないって自信満々に言うんだぞ?笑えるだろ?」

 

あの人ならきっとそんなことをいう、確固たる確信があった。

 

「彼女は…悔いていた。君に散々迷惑をかけたのに最後まで一緒にいられず君にすべてを背負わせてしまったことを。」

 

あの人の性格ならそんな心配もするだろう、そうはっきりと思えた。

 

「だから、たとえ死んだ後でも…君に力になりたい、そう思ったらしい。」

 

あぁ…あの先輩のやさしさだ。

 

あの頃、いつももらっていたあの人のやさしさだ。

 

「だから、梔子ユメは俺を見つけ出した。同じようなことをやり遂げた俺なら…君たちを救えると信じて。」

 

そうか…あの人は…とうとう最後の最後に掘り当てたんだ…。

 

「俺は彼女に頼まれた。君たちとこの学校を救ってほしい…と。」

 

このアビドス高等学校を救う…砂漠の中のお宝を。

 

「そして俺はキヴォトスにやってきた。まさかの二度目の人生を貰ってな。」

 

「なんで…なんで…ここに来たの…?」

 

「俺はな、善人なんて言うつもりはない。だがな…こんな大きな贈り物をもらっておいて逃げ出すほど…薄情者なんかじゃない。」

 

逃げることもできたはず。

 

見捨てることもできたはず。

 

だが、この男は…ネイトは一切逃げず見捨てることもせず自分たちのもとにやってきてくれた。

 

「できるの…?」

 

「少し時間はもらうがな。」

 

「アビドスは…蘇るの…?」

 

「元の姿のままとはいかない。だが、絶対よくすることはできる。」

 

何の見通しもない、できるとはこのキヴォトス中の誰も思っていない。

 

だが、キヴォトスの外から来たネイトだけは力強くうなづいて見せた。

 

「わ、わた…私…私たちを……す、救って…くれるの…?」

 

泣きじゃくりながらなんとか言葉を紡ぐホシノ。

 

もう心が限界だった。

 

いまにもはじけ飛びそうだった。

 

「あぁ、だから…俺に力を貸してほしい。『小鳥遊ホシノ』。」

 

自分の目をしっかりと見てしっかりと頷いて見せるネイト。

 

ホシノの心が…決壊した。

 

「…う~…うぅ~…うあああああああああ…!」

 

今まで我慢してたものが一気に溢れた。

 

涙があふれて止まらない。

 

「せんぱい…!ユメせんぱ~い…!ごめんなさぁぁぁい…!酷いことばかり言って…ごめんなさぁぁぁぁい…!」

 

あの時言えなかった謝罪の言葉。

 

もう伝えるべき梔子ユメはどこにもいない。

 

でも、きっと見てくれているしきっと聞いてくれている。

 

そのことが…とても安心できた。

 

「投げ出したのは私のほうなのにぃぃぃ…!見捨てたのは私なのにぃぃぃ…!諦めたのも私なのにぃぃぃ…!」

 

愛する先輩は投げ出さなかった、見捨てなかった、諦めなかった。

 

「ごめんなさぁぁぁいぃぃぃ…!」

 

「…きっと彼女のことさ。なにも恨んじゃいない。」

 

「うああああああああぁぁぁぁ・・・!」

 

そんなネイトの何気ない一言でもホシノは救われた。

 

無我夢中だった。

 

ホシノはネイトの肩に縋りつき泣きじゃくり続ける。

 

「うあああああぁぁぁぁぁ…!うわあああぁぁぁぁん…!」

 

「泣いていいさ。でもな、その涙が止まったら…一緒に前を向いてくれよ。」

 

「うわあああああああああああああああぁぁぁぁん…!」

 

ネイトはそのまま肩をホシノにかしたまま、夕焼けに染まりつつあるアビドスの砂に飲まれた街を眺め黄昏るのであった。

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