Fallout archive   作:Rockjaw

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恐怖はつねに無知から発生する。
―――超絶主義者『ラルフ・ワルド・エマーソン』

(長くなりすぎそうだったのでキリのいいところで)


Intermission: Audience Rhapsody

時は少々遡り11:00、連邦生徒会会議室。

 

「それでは…各部署報告をお願いします。」

 

普段から真面目で鋭い雰囲気を醸し出しているがさらにメイクでは誤魔化しきれないクマを浮かべたリンの号令で会議が始まった。

 

会議室には連邦生徒会各部署の室長や幹部クラスが集合している。

 

議題は言うまでもなくカイザーとW.G.T.C.との戦争の影響についてだ。

 

昨日から夜通し彼女らは普段のパンク寸前となっている業務が『閑散期』と思えるようなハードワークをこなし疲労困憊だ。

 

「調停室室長の『岩櫃アユム』です。現在、有事に備え市民の方が使用できるように非常用シェルターの整備を急ピッチで進めています。」

 

「分かりました、調停室長。人員は回せませんが最優先で作業を進めてください。」

 

「承知しました、リン先輩。」

 

「交通室の『由良木モモカ』だよ…。今朝の配信からD.U.下り線は大渋滞で下り路線も超満員…。交通事故も多発してポテチ食べる暇もないよ…。」

 

「モモカ、普段もそれくらい真面目にやってください。ですが、お疲れ様です。引き続き交通インフラの維持をお願いします。」

 

「りょ~かい~、リン先輩…。」

 

「財務室からは…今回の件では特に変化はないけどW.G.T.C.に関する財務状況の調査は進行中よ。」

 

「それで貴方のあの会社の評価はどうですか、『アオイ』財務室長?」

 

「そうね…。現状では…キヴォトス中の企業の中でもクリーンと経営の健全さは最高峰と言ってもいいかしら?」

 

「…分かりました。引き続き調査を進めてください。」

 

参加している各部署の幹部生徒が次々に状況報告を行っていく中…

 

「…では続いて、防衛室からは何か報告はありますか?」

 

とうとうこの戦争のもう一つの関連組織ともいえる防衛室、その室長たるカヤの説明になった。

 

「…防衛室からは今朝実行されたW.G.T.C.が行った『未知の砲撃』に関する解析を行いました。」

 

「カヤ室長、この建物からも見えたアレは本当に『砲撃』なのですか?」

 

「配布している同地の調査資料をご覧ください。」

 

カヤがそう言うと用意されていたプロジェクタにある写真が映し出される。

 

「こちらは皆さんも今朝の攻撃の瞬間を目撃したカイザーPMCのD.U.近傍にある基地の『跡地』の画像です。」

 

「これは…?!」

 

「ひどい…!」

 

そこには粉々となった建物や兵器の瓦礫の中に…まるで磨いたかのようなつやのあるクレーターが刻まれたかつてのカイザーPMC基地の跡地だ。

 

「…派遣した調査員の報告では大規模な爆薬の使用や禁止されている『サーモバリック兵器』を使用した痕跡は検出されませんでしたが…同地の土壌からは高濃度の『タングステン』が検出されました。」

 

「タングステン…確かに砲弾に使われる重金属ですね…。ですがミサイルでもないのにあの弾道の蒼い線は一体…。」

 

「調査途中ですが…おそらく極超音速で物体が飛翔した際に大気との摩擦によって生じる放電現象ではないかと調査員は推測しています。」

 

この報告にざわめく会議室。

 

弾道ミサイルなどの各種ミサイル技術は確かにキヴォトスにも存在している。

 

現に今朝の攻撃の際には夥しい数の巡航ミサイルが使用されたという報告も入ってきている。

 

そんな中であって…あれだけの破壊をもたらしたのがただの『砲撃』という事実は彼女たちに衝撃を与えるのに十分だった。

 

「…それでそのほかに分かったことは?」

 

「ここ以外に同様の攻撃を受け壊滅した基地は三か所、そこに残されたクレーターから入射角を割り出し…この攻撃が発射された位置を特定することができました。」

 

次にカヤはキヴォトスの地図を出し…あの攻撃で破壊されたPMC基地を表示。

 

さらにそこで測量したデータを入力していくと…ある一点が浮かび上がった。

 

「…ミレニアム郊外…廃墟区画ですか…!」

 

「正確にはその中枢に当たる水没地帯、ここから攻撃が放たれたと考えて間違いはないでしょう。」

 

その時、脇に控えた次長がカヤに耳打ちで何かを報告する。

 

「…分かりました。たった今その水没地帯に向かわせた偵察ドローンから映像が届くそうです。」

 

カヤがそう言うとスクリーンが今まさに廃墟区画に進入しようとしているドローンの映像が映し出された。

 

だが…

 

「ッ!?し、室長!ドローンがレーダー照射を!!!」

 

「なっ!?」

 

次長がそう報告した時、一瞬だが赤い閃光が画面を埋め尽くしたかと思うと映像は途切れた。

 

「て、偵察ドローン…反応ロストしました…!」

 

「まさか…!?水没地帯までまだ100㎞以上離れて…!」

 

「で、ですがレーダー照射のことも考えると…!」

 

そんな距離で飛行する偵察ドローンを一撃で撃ち落とすことなど方法すら思いつかないが…

 

「…ともかくあの場所にW.G.T.C.が何らかの兵器を有している可能性は高まりましたね…。」

 

先ほどの攻撃は長年同地を警備してきた防衛室でも見たことがない代物。

 

ほぼ間違いなく…ネイトが何かを同地に仕込んでいるのだろう。

 

ちなみにその頃…

 

「ドローン撃墜しました。」

 

「ちょっとぉ。撃っちゃって本当によかったの、レーダー長?」

 

「3分も呼びかけてるのに無視してたんだ。文句は言われまい。」

 

たった今ドローンを撃墜した『マサチューセッツ』の艦内ではこんな会話が繰り広げられていたという。

 

「…引き続き調査をお願いします、防衛室長。キヴォトス全土を射程に捉える兵器…その正体はなんとしても突き止めなければなりません。」

 

「承知しました。」

 

何はともあれW.G.T.C.の力の一端を明らかにする必要がある。

 

リンはカヤに調査の続行を命令したが…

 

「それから…W.G.T.C.及びアビドス陣営の新しい情報は何かありますか?」

 

「ッ…!」

 

続く彼女の言葉にカヤは苦い表情を浮かべる。

 

「…現在、カイザーPMC本部基地にW.G.T.C.の大部隊が集結。その規模は二個中隊、戦車に自走砲及び大口径野砲のほか未知のロボットに双発の回転翼機も確認されました。」

 

規模はかなり少数だが侮るなかれ。

 

この部隊はカイザーの大部隊を一蹴した精鋭軍団なのだ。

 

しかもそこに…

 

「偵察によれば同基地に配備されていた航空兵器もカイザーのマークが外されW.G.T.C.の社章に書き換えられつつあると…。」

 

カイザーが保有していた兵器まで鹵獲、さらにその兵力を高めている。

 

兵器達ばかりではない。

 

「…カヤ室長、彼の組織の頭目…ネイト氏に関してですが…!」

 

「カイザーPMCからは『彼一人』によって本部基地は陥落した、と…。」

 

攻勢の際には確実に渦中の人物、ネイトも加わる。

 

1.5個師団を単騎で撃滅する『戦力』、もはや『一騎当軍』と言っても差し支えないだろう。

 

「なんということですか…!」

 

そんな軍団が…目と鼻の先に居座りカイザーとの最終決戦の準備を進めつつあるという事実にリンは卒倒しそうになる。

 

しかも戦場は…D.U.だ。

 

正直言ってようやくサンクトゥムタワー停止時の傷跡も癒えてきたというのにこの軍団の攻勢が始まろうとしている。

 

「…それであちらからの要求は…?!」

 

「あの配信から音沙汰がありませんので…。」

 

「こちらからコンタクトは取ったのですか…?」

 

「それは…まだ…。」

 

視線をそらしながら答えたカヤの対応が悠長に思えたのだろう。

 

「何をやっているのですか…!?こうしている間にもD.U.が戦場に…!」

 

語気を強めて彼女を叱責しようとしたリンだが…それは途中で打ち切られた。

 

「かっ会議中失礼します!!!たった今、カイザーインダストリーが保有する軍需工場5か所すべてが攻撃を受け壊滅したと報告が!」

 

『ッ!!?』

 

時計を見ると11:40、配信映像とタイムラグを考慮するとちょうど3時間が経過していた。

 

まさに有言実行、W.G.T.C.はカイザーを着実に追い詰めつつある。

 

そしてこの攻撃は突入作戦へのカウントダウンも同義だ。

 

「…カヤ室長、直ちにカイザーコーポレーションに講和を受諾するよう要請してください。」

 

「しっしかし…?!」

 

リンの命令にカヤは困惑した声を上げるが…

 

「もはや一刻の猶予もありません!今はW.G.T.C.の真相は二の次です!D.U.を再び戦場にするわけにはいきません!!!」

 

「はっはい直ちにっ!!!」

 

珍しく声を張り上げるリンの剣幕に気圧されすぐに備え付けの電話を使いプレジデントに連絡を取る。

 

だが…

 

《なぜだ、我々はまだ負けていないっ!!!》

 

「で、ですからこのままではD.U.が戦場に…!」

 

《知った事かっ!!!第一、この戦争を認めたのは防衛室長ッ貴様もだろう!!?》

 

おいそれとプレジデントがその要請を受託する訳もない。

 

当然だ。

 

カイザーはこれまでずっと負け続けている。

 

ここで講和をすればカイザーコーポレーション数十年の活動がすべて水泡に帰すだけではない。

 

W.G.T.C.とアビドス高校に屈服したのと同義なのだ。

 

《貴様らはそれでいいのかッ!?我々だけではないっ!!!ここで戦争を止めれば『カルト教団から学校を救えない弱小組織』という烙印が押されるのだぞッ!?》

 

「そっそれは…!」

 

プレジデントの言葉にカヤも怯む。

 

そうだ、連邦生徒会はネイトの危険性を認めこの戦争に正当性を与えてしまっている。

 

直接被害を受けるのはカイザーだが連邦生徒会も甚大なダメージを受けることが必至。

 

ただでさえ連邦生徒会長失踪という支持基盤が喪失した状態だ。

 

そこにこの講和も加わると…今後の運営にどんな悪影響があるか分からない。

 

《だから止めるわけにはいかん!!!まだ生き残りをかき集めれば…!!!》

 

カイザーとしても連邦生徒会としても引き下がれない理由を述べ徹底抗戦を唱えるプレジデントだが…

 

「…カイザープレジデント、主席行政官の七神リンです。」

 

《なっ…!?》

 

「連邦生徒会を代表して…今一度W.G.T.C.との講和をご再考いただきたい。」

 

たまらずリンも通話に入りカイザーと通話に割って入る。

 

《…主席行政官、話は聞いていたのかね…!?》

 

「ハイ、ですがそれでも講和には代えられません。」

 

《なぜだッ!?貴様らも…!》

 

例え連邦生徒会も深手を負うとしても講和を求める彼女にプレジデントに理由を尋ねると…

 

「真偽はどうであれ…貴方がキヴォトスのことを思うように我々もキヴォトスの平和を守る責務があるのです。」

 

《ぐッ…?!》

 

「そして今講和すれば御社の立て直しもまだ間に合うはず。抗う力もなければ…講和をすることも叶わなくなります。」

 

《そ…それは…!》

 

凛とした声でキヴォトスの平和とカイザーの今後のためにと戦争終結を訴えるリン。

 

「お願いします。講和実現の際には御社に便宜を図ることもお約束しますので…ここはW.G.T.C.との講和を受け入れていただきたい。」

 

プレジデントもリンのその言葉に揺らぎ始める。

 

連邦生徒会の便宜を得られるなら…アビドスを再奪還し再起の目もあるやもしれない。

 

《…本当に便宜を図ってくれるのだな…!?》

 

「今回の戦争は我々にも責任があります。大々的な支援は難しいでしょうが必ず。」

 

《…分かった、講和を受託するようコンタクトをとってみる…!》

 

苦々しい表情を浮かべているのは手に取るようにわかるが…プレジデントは何とか飲み込み講和受託を承諾した。

 

「ありがとうございます。できたら通話はこのままにしておいてもらえると…。」

 

《分かった、そっちの方がそちらも対策を立てられるだろう…。》

 

こうしてプレジデントは連邦生徒会監修のもと講和に臨んだが…

 

《貴様が昨日話したアビドスの自治区の主権譲渡、それを飲もうと…!》

 

《話にならん、脳みそもタコ並みならもう少し進化してから連絡して来い。》

 

『なっ…!?』

 

結果は前述の通り、交渉の『こ』の字もないような短い会話で講和交渉は打ち切られた。

 

《なっなんだ、あの男はッ!!?》

 

「プップレジデント落ち着いてくだ…!」

 

これに激高したプレジデントはカヤの制止を振り切りリダイアル、

 

《ハイ、もしもし?》

 

《きっ貴様どういうつもりだ!?》

 

今度は怒りを露にしネイトに怒鳴り散らすも…

 

《この世のどこに…一度断られた講和条件で納得する奴なんかいる?》

 

返ってきたのは…考えてみれば当たり前の答えだった。

 

最早アビドスの自治権の譲渡程度で済む話ではない、連邦生徒会もどこかで確信していた。

 

だが…それでも『甘えてしまった』。

 

民間人を巻き込まないためにと警告し猶予と慈悲を与えてくれたネイトの『優しさ』に。

 

そして思い知らされた。

 

《しかも俺はな…もう二度手を差し伸べてるんだぞ?》

 

既にその優しさは品切れということに。

 

そして…知りたくなかった真実も知った。

 

《一度目はコンストラクションとの取引、俺は約200億近い収入を捨ててまでそれで手をひこうとしたのにお前らは戦争を吹っかけてきた。》

 

『…え?』

 

この戦争の発端は何のことはない、『金』と『土地』なのだと。

 

なにをそれで買おうとしていたかは…彼女たちも察しがついた。

 

『アビドスの土地』、それを連邦生徒会ですらおいそれとは出せない大金でW.G.T.C.は購入しようとしていたのだと。

 

それをカイザーが拒むために…この戦争は引き起こされたのだと。

 

《二度目は昨日の講和だ。あれを受け入れてくれたらそのほかのことは別にどうでもよかったのにお前らは戦争を続ける意思を見せた。》

 

そして、昨日の時点で講和を飲めば未明から続くあまりにも容赦ない一連の行動はとらなかったのだと。

 

つまりそれは…自分たちもこの戦争にここまで巻き込まれることもなかったのだと。

 

そして…彼女たちは思い知らされた。

 

《三度目の慈悲を貰えるとでも思ったか、あぁ?》

 

『~ッ!!?』

 

ネイトに…もはやD.U.に攻め込む躊躇は一切ないのだと。

 

様々な案件を通じ多種多様な大人ともふれあい経験を積んできた連邦生徒会の委員会の幹部や長たちが総毛立った。

 

中には目に涙を浮かべ震えている者もいる。

 

電話越し…それもプレジデントの通話をまた聞きしているというのに伝わってくる。

 

《あの時言ったよな、『嘗めるなよ』と。じゃあ俺も言おうか…嘗めるなよ、ポンコツ…!》

 

ネイトのまるで…極圏のブリザードの如き冷たい殺意と火山の様に燃え滾る怒りを。

 

《二度差し伸べた手を叩いておいて…その程度でもう止まるわけがないだろ?》

 

あの慈悲と優しさは…もはや自分たちには一切向けられることはないのだと。

 

《直接教えに行ってやる、俺達の部隊を引き連れて…貴様らを食い散らかしてやるよ…!》

 

最早段階はアビドスの土地どうこうで済む話ではないと…。

 

もう、D.U.が戦場になることは確定事項なのだと。

 

《じゃあな、ポンコツ。…最後のチャンスをふいにしたな。》

 

講和交渉を焼き増しした時点でチャンスなど…最初から存在しなかったのだと。

 

ネイトはそう言い、再度電話を切った。

 

電話が切れたその音だけが会議室内に響く。

 

息をすることすら憚られるようだった。

 

ネイトにはこちらにもこの通話が聞かれていることは知られていないだろう。

 

だが…あの通話はまるで自分たちに対しても向けられているようにしか思えなかった。

 

あの電話の1フレーズ1フレーズ全てが…自分たちに対する死刑宣告、そうとしか聞こえなかった。

 

そんな中…

 

「…プレジデントに防衛室長…先ほどの話は一体どういうことですか…?!」

 

リンが口を開く。

 

声を聴いただけで分かる。

 

「貴方方は…W.G.T.C.は『カルト宗教』でアビドスを『解放するため』宣戦布告したと言ってましたね…?!」

 

「そ、それは…!」

 

あの時、カヤの話には不審点も多かったがそれでも一応の大義名分がある内容だと理解できた。

 

だというのに…

 

「先ほどの内容は何ですか…!?『200億近い収入を捨てる』?…プレジデント、宣戦布告の前に…W.G.T.C.と何があったのですか…!?」

 

《きっ…貴様たちに話す義務は…!》

 

「というより…カイザーグループとW.G.T.C.は…取引関係だったのですか…?!」

 

カイザーとW.G.T.C.は既知の関係だった。

 

それも話を信じるとするとそんな大型取引を行うほど強いつながりだった。

 

それなのに…

 

「まさかとは思いますが…プレジデント、200億近い支出を…いえ、アビドスの土地を売却したくないがために…宣戦布告を…?!」

 

たったそれだけのために…この戦争が開戦したのだと。

 

信じられない、信じたくない、信じるわけにはいかない。

 

だが…

 

《………。》

 

プレジデントは沈黙を貫き…通話を切った。

 

沈黙にして…雄弁すぎる回答だった。

 

「…カヤ防衛室長、改めて聞きます。…貴方はすべてを知っていたのですか…!?」

 

リンの鋭い目線がカヤに突き刺さる。

 

最早…リンとしてはカヤすらもカイザーの共犯者にしか見えない。

 

「…私はカイザー側から提出された資料でしか…!」

 

「では…資料であった聞き取り調査を受けた人物を直ちに召集してください…!」

 

「すぐにカイザーに問い合わせを…!」

 

カヤは平常心を保ちそう答えるが…呼ぶわけにはいかない。

 

そんな人物はどこにも存在してすらいないのだから。

 

何とかこの場を乗り切らなければならないが…

 

「いえ、ヴァルキューレを動員してでも今すぐにです…!」

 

そんな生半可な答えでリンが逃すわけがない。

 

だが、逆にこの強引さが彼女の真相解明の障害となった。

 

「しかし…D.U.に配属されているヴァルキューレは総員出払っておりすぐには動かせません…!」

 

「でしたら現場から必要な人員を…!」

 

「大混乱の現場から人員を引き抜く?…リン主席行政官、我々の第一の職務は…治安維持なのですよ…!」

 

「ッ!」

 

「それを放棄しろと、アナタは仰るのですか…!?」

 

その糸目を鋭くしリンを射抜くように見つめ返すカヤ。

 

悔しそうに表情がゆがむリンだが…カヤの意見ももっともだ。

 

ただでさえD.U.は混乱のさ中でW.G.T.C.のD.U.突入も時間の問題だ。

 

ヴァルキューレと防衛室は総力を挙げて治安維持に当たっている。

 

そこへリンが強権を用い現場から人員を引き抜くと何が起こるか分かったものではない。

 

さらに…時の運は奇しくもカヤに微笑む。

 

「ほッ報告します!!!監視員からの情報によりますとW.G.T.C.の隊員の動きが活発になりつつあり突入の準備に入ったと予想されます!!!」

 

『~ッ!!?』

 

講和交渉を打ち切ったので当然と言えば当然だがW.G.T.C.も動き始める。

 

「モモカ、市民の避難にあとどれだけかかりますか!?」

 

「どれくらいって…!?まだまだかかるよ…!?」

 

「クッ…アユム、シェルターの整備状況は!?」

 

「ひ、避難できていない市民が多すぎてキャパがまるで足りません!」

 

今のままでは避難民犇めくD.U.で最終決戦が勃発してしまう。

 

それだけはなんとしても回避しなくてはならない。

 

チャンスは…今だ。

 

「行政官、私にっ!私にW.G.T.C.と交渉をさせてください!」

 

「カヤ室長…!?」

 

「講和とまではいかなくとも『休戦交渉』ならあちらも応じる可能性があります!!!」

 

「休戦…!?」

 

「もはや戦闘は避けられません!!!ならば、せめて市民が脱出できるまでの時間を稼ぐのです!」

 

目をさらに開き、ネイトとの交渉を進言するカヤ。

 

「クッ………!」

 

正直、カヤは怪しすぎる。

 

この戦争をあまりにも簡単に認め、余りにもカイザーとつながりすぎている。

 

今すぐにでも真相究明をしなければならないが…リンの脳裏にはあの光景が想起される

 

機甲部隊を数分の一の戦力で蹂躙するアビドスの戦車。

 

見たこともない精度で放たれる砲撃。

 

そして…空から降り注ぐ破壊の流星。

 

それが今まさに…D.U.に襲い掛かろうとしている。

 

もはや一刻の猶予もない。

 

「分かりました…ッ!カヤ防衛室長、W.G.T.C.との休戦交渉をお願いします…ッ!」

 

これ以上できないほど眉間にしわを寄せリンはカヤへの詰問を一時切り上げ休戦の打診を命じる。

 

「了解、直ちに…!」

 

カヤも即座に本部基地の電話番号を打ち込みネイトとの交渉に移る。

 

(た、助かった…ッ!何とか首の皮一枚…繋がりました…!)

 

一時凌ぎとはいえカヤは窮地を脱することができた。

 

(この強運…やはり私は超人たるに相応しい器なのですね…!)

 

まさにW.G.T.C.の行動は僥倖。

 

見せつけられた戦力も圧倒的な兵器もめぐりめぐってカヤを助ける糧となった。

 

あとはこの幸運を逃がさぬようW.G.T.C.との休戦を結ぶだけだ。

 

そう意気込むカヤだが…

 

《はい、こちらW.G.T.C.ですが?》

 

「え?」

 

電話に出たのはネイトではなくオカマ口調の機械音声だった。

 

《どちら様?あいにく一般の方や報道陣の対応は…。》

 

「あ、あの私は連邦生徒会防衛室室長の不知火カヤというもので…!」

 

困惑しているうちに電話を切られそうになるがカヤが身分を明かすと…

 

《連邦生徒会の方?それでご用件は?》

 

電話の主は切るのを中断し用件を聞いてくれた。

 

「W.G.T.C.社長のネイト氏はいらっしゃいますでしょうか?」

 

《あぁ、マスターに御用なのね。少々お待ちを。》

 

どうやら取り次いでくれるようなのでいったん電話が保留となった。

 

…が、

 

「…………………。」

 

かれこれ30分以上、受話器からは保留音が流れ続け一向にネイトが出る気配がない。

 

これには先ほどまで自らの幸運を喜んでいたカヤも青筋を立てピクついている。

 

だが、これに自分の…もといD.U.の命運がかかっているのだ。

 

他の連邦生徒会委員も固唾を飲んで待つ中…

 

《もしもし、どちら様で?》

 

「どうも、ネイト社長…。私は連邦生徒会防衛室で室長を務めております、『不知火カヤ』と申します。」

 

ようやくネイトが電話に出た。

 

ここに初めて…連邦生徒会と『Sole Survivor』の対話が始まるのであった。

 




傲慢と勇敢、粗野と率直、軽薄と俊敏、すべて紙一重で悪徳とも美徳ともなりうる。 
―――思想家『福沢諭吉』
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