Fallout archive   作:Rockjaw

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愚者ほど自分が才人をだますのに適していると思い込む。
―――哲学者『リュック・ド・クラピエ・ド・ヴォーヴナルグ』


Operation: Sperm Whale Opera Part7

12:50、ネイトがキヴォトスに来て初めて…連邦生徒会からの接触を受けた。

 

「あぁ、会見にホログラムで出てたあの?」

 

相手はすでに把握していたがあえてここは相手を知らなかったようにふるまうネイト。

 

《はい、どうやらご覧になっていたようで幸いです。》

 

カヤの声その物は非常に穏やかその物だが…端々に伝わってくる苛立ち具合をネイトはすぐに察知する。

 

「いきなり戦争吹っ掛けられたんだからな。そりゃ見るだろう。で、用件は?」

 

《まぁまぁそう焦らずに…。》

 

早々に本題に入ろうとするネイトを宥めるように声をかけるカヤだが…

 

「悪いが会話を楽しんでる余裕はない。世間話がしたいのなら切るぞ?」

 

《わっ分かりました…。早急に本題に入りましょう…。》

 

主導権がどちらにあるかを端的に分からせすぐに本題に移らせた。

 

《…ネイト社長、W.G.T.C.はこの後D.U.に突入するつもりですね?》

 

「配信で語った内容を二度言うつもりはないぞ?」

 

《…分かりました。この度…カイザーと一時休戦をしていただきたく貴方にコンタクトをとった次第です。》

 

本当ならもっと言葉を交わし情報を得てから切り出したかったが早々に休戦の申し出をするカヤ。

 

それに対し、

 

「ハンッ休戦…ねぇ?」

 

ネイトは一笑に付した。

 

《…何か問題でも?》

 

カヤの声音に少しながら怒りが混ざった。

 

そこにとどめと言わんばかりに、

 

「問題?いろいろ言いたいが結論から言おうか、断る。」

 

《なッ!?》

 

取り付く島もないとはこの事だろう。

 

ネイトは連邦生徒会からの休戦の要請を一蹴。

 

《…理由をお聞かせ願えますか?》

 

「理由も何も…あと一押しで決着がつくのになぜ止まらなきゃならない。」

 

考えてみれば当然だ。

 

戦況は圧倒的にアビドス陣営に傾いている。

 

この状況で手をこまねくなど普通考えられない。

 

「第一、なぜ連邦生徒会が休戦を申し出てきている?」

 

さらにネイトは畳みかけるようにカヤに疑問を投げかける。

 

《それは…我々もカイザーコーポレーションの宣戦布告を容認した関係で…。》

 

「いやいやいや、そこから説明しなきゃならないのか?」

 

《え…?》

 

「え、じゃなく。なんで宣戦布告を仕掛けてきたカイザーじゃなく『部外者』の連邦生徒会が休戦を求めてきてるんだって言ってるんだ。」

 

《ーッ!!?》

 

そう、この戦争はあくまでカイザーコーポレーションとW.G.T.C.を筆頭にしたアビドスの戦いだ。

 

連邦生徒会はあくまでカイザーコーポレーションの宣戦布告を公的に承認したのみ。

 

アビドスの心情はどうであれ…連邦生徒会は明確に戦争に参加すらしていない。

 

「それにウチとおたくらはこの電話が初めての接点。どう考えても第三者的仲介人にはなり得ないだろ。」

 

仲介人とは両組織とかかわりを持ち『中間』に立ってこその存在だ。

 

連邦生徒会はそれにすらなり得ていない。

 

こちらを無視しカイザーの意見を鵜吞みにした時点で…というより初対面の組織を仲介人にしようというほどネイトもお人よしではない。

 

「さて、ここまで言ってなにか弁明はあるかな?」

 

あくまでネイトの口調は普段通り、だが明確にわかる言葉の裏はこうだ。

 

『すっこんでろ』、この一言に尽きる。

 

それでも…

 

《…なぜですか、ネイトさん?》

 

「なにが?」

 

《なぜそこまで…アビドスに拘るんですか?》

 

「…………。」

 

カヤは引き下がるわけにはいかない。

 

《教えてください、ネイトさん…!私たちは貴方を理解したいのです…!》

 

馬鹿正直に求めるだけでは真っ向から叩き潰される。

 

カヤは話題を変えネイトにアプローチをかけ始めた。

 

《あなたはなぜ…あのアビドスで会社を興し活動を始めたのですか…?》

 

「………。」

 

《なぜ…半年でここまでアビドス高校の生徒数を増やし立て直せたのですか…?》

 

「………。」

 

《どうして…そこまであのアビドスのために動けるのですか…?》

 

彼女に『出せる』ギリギリの手札を切りつつカヤは問いかけ続ける。

 

だが…

 

「なぁ、さっきから何を言ってるんだ?」

 

《…はい?》

 

そんなもので揺らぐほどネイトは甘くはない。

 

しかもこのカヤの問いかけは…

 

「どれもこれも…すでにそっちは把握してるんだろ?」

 

《は、把握とは…?》

 

「昨日の朝言ってたじゃないか。俺って…『キヴォトスを支配しようとしているカルト教団の教祖』なんだろ?」

 

キョトンとした様子でそう返すネイト。

 

《なっ何を…!?》

 

「いやぁ俺ってあんな成金趣味で女子高生に色ボケとは思わなかったよ。客観視というのは大事なもんだな。」

 

《は、はぁ?!》

 

普通なら例えそうだとしても弁明の一つでもするはず。

 

だというのに…まるでネイトは他人事のように自分が『カルト教祖』であることを認めている。

 

電話の向こうで素っ頓狂な声を上げるカヤ。

 

他の連邦生徒会の面々も意味が分からないといった表情を浮かべているが…

 

「なんでわざわざさっきみたいなことを聞く?カイザーからそれを聞いてキヴォトスの危機だと思ったから…戦争を承認したんだろ?

 

《~ッ!!?》

 

すぐにその場の全員が凍り付いた。

 

あの声だ。

 

あの殺気があの怒りが…今度は直接叩きつけられた。

 

「…で、こちらの言い分は聞かずに戦争吹っ掛けて追い詰められて…何をいまさら俺のことを知りたいんだ?」

 

《あ、あうあ…!》

 

「おいおい、どうした?あの会見やさっきみたいによく回る舌にオイルを差し忘れたか?」

 

たった一言、その一言で…カヤを撃沈させた。

 

「まぁいい。で?この戦争はキヴォトス征服を企む巨悪の権化たる俺対キヴォトスの平和を守るために立ち上がったカイザーという構図なんだろ?…だったら最後まで演じ切らなきゃダメじゃないか。」

 

《え、演じ…!?》

 

「『物語』には悪役が必要だろ?悪役がいるなら…最高のを演じてやるよ。」

 

この言葉がさらに連邦生徒会を絶望に追い込む。

 

ネイトにとって…自分の外聞など知った事ではないと。

 

そちらが描いたシナリオでその役を全うしようと。

 

但し、物語と違うのが…正義の味方が勝つとは限らないというこの一点だ。

 

《貴方は…一体…!?》

 

カヤはネイトを理解できなかった。

 

この役職について様々な大人とも出会ってきた。

 

中にはカイザーにいるような『悪い大人』と取引もしてきた。

 

そんな中であってネイトは…今まで会ってきたどの大人のタイプとも合致しない。

 

自分がいま会話しているのは…本当に人なのか?

 

「俺が何か?じゃあ一言で答えよう。俺は…『アビドスの味方』だ。」

 

《あ、アビドスの…!?》

 

「それが俺がアビドスに来てアビドスで過ごしアビドスを蘇らせようとしている理由だ。お前らの評価なんか俺にとっちゃ便所の落書きくらいどうでもいい。」

 

『アビドスの味方』、いよいよカヤや連邦生徒会には理解ができなかった。

 

わざわざなぜ滅びへの道を進むアビドスの…?

 

ネイトほどの実力があればどこででも大成できるだろう。

 

なのになぜ…カヤや連邦生徒会の面々には理解できなかった。

 

《な、なぜそれほどまで…!?》

 

「それを語る義理はない。」

 

《ど、どれほど苦汁と辛酸に満ちた所業か理解しているので…?!》

 

「ハハッ、それはなんて愛おしい苦汁と辛酸なんだ。せっかくだ、俺一人で一滴残さず飲み干してやるよ。」

 

ますます理解できない。

 

これではまるで…アビドスを復興することなど容易いと言わんばかりではないか。

 

正気ではない、まともではない。

 

だが、それほどの大言壮語であっても…ネイトの言葉にはすさまじい説得力を感じ取った。

 

「さて、話を戻すが…俺に休戦を受け入れるメリットはどこにある?」

 

《め、メリット…?!》

 

「おいおい、まさか本当に何も差し出さずに休戦なんて通ると思ってるのか?」

 

情勢は圧倒的にW.G.T.C.有利、ここでわざわざ戦争を休戦する理由はない。

 

受け入れる代わりに見返りを寄越せ、至極真っ当な要求だ。

 

「戦力も充足、兵站も万全、士気も軒昂、銃後も盤石…で?なんでここでウチが休戦しなきゃならない?さっさと戦争を終わらせるのが互いに幸せじゃないのか?」

 

《それは…!まだD.U.には多くの市民がいて…!》

 

「それはうちも一緒だったぞ?それでもうちは市民を避難させつつ防衛戦をやり遂げた。カイザーにもしっかりそれを実行させたらいい。」

 

《あ、アナタは一般市民を巻き込んでも良心は…!?》

 

「それを先にやったのもカイザーだ。知ってるか?奴ら侵攻部隊にカクカクヘルメット団も雇ってた。そんな連中がアビドスに攻め込んだらどうなるか…分からないわけないよな、防衛室長?」

 

《アビドスにもカタカタヘルメット団が…!》

 

「おいおい、手配解除されて正式にアビドスに編入した彼女たちをそう呼ぶのはいただけないな。しかも、昨日から今日まで一切問題を起こしていない。傭兵だったカクカクヘルメット団と同じと思うな。」

 

カヤがなにを言おうと…ネイトたちはそれをやり遂げた『実績』がある。

 

いまさらD.U.市民がいるからなどネイトからしたら戦争を止める理由などになり得ない。

 

「まぁ安心しろ。俺達が戦うのはカイザーコーポレーションだけだ。戦闘行動の妨害もせずカイザー関連施設にでも近づかなければ安全だぞ。」

 

そして、カイザーにはない理性もちゃんと兼ね備えている。

 

事実、これまでの戦争で攻撃したのはカイザーとそこに与したゲヘナのカクカクヘルメット団のみ。

 

この言いつけさえ守れば市民の安全は守られるはず。

 

「…以上がこちらからの戦闘を続行する根拠だ。さて…これを踏まえたうえでなお休戦をしなければならない理由はなんだ、防衛室長殿?」

 

『D.U.市民のため』という理由は…もう使えない。

 

カヤは必死に考える。

 

どうすれば…ネイトを納得させることができる?

 

何を差し出せば…休戦を受託してくれる?

 

かつてないほど頭を回転させ知恵を絞り出そうとするカヤ。

 

その時、思いついた。

 

ネイトは真偽は定かではないが…アビドスを蘇らせるといった。

 

ならば…

 

《でしたら…この休戦を受託していただいた場合、アビドス復興の援助を…!》

 

「いらん。」

 

《…え?》

 

会心の一撃のはずだった。

 

これならネイトを納得させることができる…そう思っていた。

 

だが、現実は無常なものでその三文字で一蹴された。

 

「おい、防衛室長…いるんだろ?

 

《い、いる…とは?》

 

「そこで全員聞き耳立ててるんだろ、弾丸どころか備品すらまともに支援できないようなケチでしみったれた…連邦生徒会のお歴々がだよ。」

 

《~…ッ!?》

 

再びネイトがあの声に変わりカヤは背筋が凍る。

 

カヤだけではない。

 

ネイトの声はこの場の全員に向けられたもの。

 

リンもアユムもモモカもアオイも…そのほかの室長や幹部たちは恐怖した。

 

気の弱いアユムに至っては恐怖のあまり声を押し殺し体を震わせ泣いている。

 

普段から怠惰で能天気なモモカですら…顔を硬直させている。

 

「俺の知ってる限り連邦生徒会長がいた頃からそうだというのに…いまさら何を援助しようというんだ?」

 

《そっそれは…!?》

 

「資金か?資材か?機材か?人材か?おあいにく様、そっちの手なんか借りなくてもアビドス高校は自活できるくらいには復興してるぞ?」

 

その言葉はハッタリとは思えなかった。

 

事実、アビドス高校の財政も安定し生徒数も増加している。

 

連邦生徒会が半ば見捨てていた学校を…この男はこんな短期間で復興させたのだ。

 

あの…超人と謳われた連邦生徒会長ですら半ば匙を投げていたというのに。

 

「…あの子たちが流してきた涙を…お前たちは見向きもしなかった。そんな組織をいまさら頼る、そんなことを本気で思っているのか?」

 

声の調子は元に戻ったが端から自分たちなど眼中にない…いや、むしろアビドスにとっては邪魔でしかないと言わんばかりのネイトの言葉。

 

《もっ…申し訳ありま…!》

 

ネイトの連邦生徒会自分たちに対する印象は最悪どころの話ではない。

 

ともすればカイザー諸共攻め滅ぼすこともいとわないだろう。

 

カヤは少しでもネイトを宥めようと謝罪を口にするが…

 

「謝罪を求めているように聞こえたか?」

 

《え…?!》

 

「俺がお前如きの謝罪に価値を見出すと、防衛室長?全くお笑いだな。」

 

ネイトに逆にそれを嘲笑われてしまう始末だ。

 

《…………!》

 

「さて…もういいか?俺はこう見えてもいろいろ忙しんだ。そろそろ失礼させてもらっても?」

 

カヤが無言になったので飽きたかそろそろこの電話を切り上げようとするネイト。

 

すると、

 

《ま…待ってください、ネイトさん…!》

 

今まで事務的だったカヤの口調が崩れその中に哀願が混じる。

 

《あなたが…アビドスを心から救いたい、守りたい気持ちは十分すぎるほど理解できました…!》

 

「………。」

 

《ですが…それは我々とて同じなんです…!我々も、このD.U.を愛しています…!そして…守りたいのです…!》

 

「………。」

 

《ですので…どうか…どうか一欠けらの情けを…!我々に叶えられる要望なら…できうる限りの努力をいたします…!》

 

今にも泣きだしそうな声でネイトに必死に慈悲を乞う。

 

「…ふん、そこまで言うか。」

 

対し、それを聞き終えたネイトは一言そう言い…

 

「…良いだろう、気が変わった。」

 

《…え?》

 

「俺達は野蛮人じゃない。一般人を巻き込むのは確かに心苦しい。…良いだろう、俺が言う条件さえ飲んでくれたら人道的配慮として…5日だ、5日間の休戦は承諾しよう。」

 

それまでの態度を一変させ連邦生徒会からの休戦の要請を条件付きで承諾する。

――――――――――――――――――

 

―――――――――――

 

――――

13:30、サンクトゥムタワー内にあるプレスルームでは…

 

「カヤ防衛室長、W.G.T.C.が休戦に合意したというのは本当ですか!?」

 

「人道的配慮とのことですがいったいどのような交渉を!?」

 

「いったいなぜW.G.T.C.はこのタイミングで休戦の合意を!?」

 

様々な報道機関の取材陣でごった返す中…

 

「ハイ。この『私』が両陣営首脳と直接コンタクトをとり両者合意の下、また市民に避難など人道的配慮により本日13:00より5日後の9:00までの間、戦闘行為を行わない旨合意に達しました。」

 

いつも以上に上機嫌そうなカヤが堂々とした態度で記者たちからの質問を受けていた。

 

「防衛室長、W.G.T.C.は一体どのような条件を!?」

 

「W.G.T.C.指揮官のネイト氏は条件として『カイザーグループ上層部全員の身柄を把握できるようにする』。唯一の条件としてこれを提案しました。」

 

「防衛室長、それはカイザープレジデントやグループ社長を軟禁するということですか!?」

 

「いえ、所在を明らかにするという意味で外部とのコンタクトに一切の制限は設けられませんでした。」

 

あの後、ネイトはカヤにこのような条件を付けた。

 

『連邦生徒会の責任でカイザーコーポレーションの幹部連中の所在を何時でも把握できるようにしておくこと、これが条件だ。』

 

あれだけ休戦に消極的だったというのにいざ出された条件はたったそれだけだった。

 

「カヤ室長、カイザーコーポレーション側は何と!?」

 

「少々不満はあったようですがカイザーコーポレーションの上層部は承諾、現在はカイザーコーポレーション本社内で5日間過ごすとのことです。」

 

カイザーもカイザーでネイトが攻勢を一時休止する条件としては破格もいい所の条件。

 

思うところはあったがこれで時間を稼げる。

 

プレジデントたちは承諾し、そのことをネイトに連絡したことによって晴れて5日間の休戦が齎されたのであった。

 

「では、現在D.U.で起こっている混乱も終息するのですか!?」

 

「ハイ、5日間という猶予が得られたため住民の皆さんが安全に避難できるだけの時間的猶予が生まれました。」

 

そう言うとカヤは真っすぐにカメラを見つめ、

 

「D.U.にお住いの皆さん、焦ることなく自身だけでなく周囲の安全を確保しつつ避難してください。我々も全力で皆さんを支援いたします。」

 

確実な避難と防衛室の存在をアピールするのであった。

 

「防衛室長、今後のW.G.T.C.の動向の予想は!?」

 

「カイザーコーポレーションのあの情報の真偽は!?」

 

「ネイト氏の狙いは!?」

 

その後も報道陣はカヤへの質問がしばらく止むことはなかった。

 

カヤはそれに対し得意満面で答えていくが…

 

「…どう思う、アオイ?」

 

別室でその様子をモニター越しで眺めるリンは冷静にそう尋ね…

 

「そうね。…私たちはまんまと『踊らされてる』と言ったところかしら、リン先輩?」

 

傍らにいた財務室長のアオイも冷静にそれに答えた。

 

「あれほどまで私たちに興味すら向けなかった彼が『気が変わった』の一言で…休戦に応じるわけがないわ。」

 

「そうね…。防衛室長は鬼の首を取ったようにはしゃいでるけど…むしろ逆、首根っこを掴まれたのは我々の方ね…。」

 

この休戦協定は一見すると低コストでなし得たカヤのお手柄に見えるだろう。

 

だがその実…連邦生徒会にとっては不都合極まりない協定だ。

 

「少なくとも今まで連邦生徒会はこの戦争自体には『距離を置く』というスタンスをとれてたけど…この協定によって否応なしに戦争に関わらざるを得なくなってしまったわ…。」

 

この協定の肝は『連邦生徒会の責任によって』果たされるというところだ。

 

もし、下手を打ちプレジデントに逃げられでもしたら…W.G.T.C.の猛威は自分たちに向くことになる。

 

「しかも監視には防衛室だけでなく各部署からも人員を派遣、この状況で人手を割かなければならないのは…痛すぎるわね。」

 

ただでさえ人手不足が顕著な連邦生徒会。

 

ここからの人員の抽出はさらなる業務停滞を招くだろう。

 

延いてはD.U.の統治への悪影響につながる。

 

「例えそうだとしても…W.G.T.C.の休戦自体には大義名分がある上それを活かしきれなかったら連邦生徒会の落ち度となる…。」

 

それでも…やらなければならない。

 

むしろ、ネイトからしたら最初からなくてもいい休戦だ。

 

カヤは手柄の様に吹聴しているがこれは完全なお情け。

 

5日間と言う期間でD.U.内の混乱を解消しなければ…もうチャンスはない。

 

「…ひょっとしてこの戦争もアビドスの…いえ、彼の掌の上なのかしら。」

 

「リン先輩、疲れているの?いくらなんでもそれは飛躍し過ぎよ。」

 

「そうかもね…。…私はこの後、先生に連絡を取ってみようと思うわ。休戦となるのなら通信障害も少しは落ち着くでしょう。」

 

実はリンは昨日から先生にコンタクトをとろうと何度も連絡をしていた。

 

だが、キヴォトス未曽有の戦争状態ということもあり回線がパンク、大規模な通信障害が発生し今まで連絡がついていない。

 

「…アオイ、W.G.T.C.とカイザーとの契約を探ってもらえる?」

 

「それはもちろん構わないけど…どうして?」

 

「ネイト氏は『連邦生徒会は仲介人になり得ない』と言ってたわ。だったら…両社に関わりのある組織ならあるいは…。」

 

何はともあれ『時間』を得ることができた。

 

これを活かさなければ自分たちのいる価値はない。

 

一方、

 

《D.U.の市民の皆さん、皆さんの安全は我々連邦生徒会がお守りします!》

 

「おぉ~おぉ~派手に言ってるねぇ、防衛室長ちゃん。」

 

「言わせとけ、ホシノ。むしろ休みついでに『ボーナス』も出るんだ、ニンマリしとこうぜ?」

 

格納庫で瓦礫から引っ張り出し修理したテレビをコーヒーとクルミをかじりながら眺めるネイトたち。

 

画面では鼻高々にカヤが自分たちから休戦を勝ち取ったことを宣言している。

 

「なぁんかいけ好かないわね、この防衛室長。」

 

「やっぱり~?アルちゃんもそう思っちゃう~?」

 

「印象は全然違うけど…ゲヘナの議長思い出すわね。」

 

「マコト議長はもっと腹芸は上手いよ、セリカ。」

 

「ん…たまにノノミがあぁなってるのを見たことある。」

 

「シ~ロ~コ~ちゃ~ん~?それはどういう意味ですかぁ~?」

 

「ま、まぁまぁノノミ先輩…。落ち着いてください…。」

 

「ネイトお兄様の慈悲をまるで自分の手柄みたいに…!」

 

アルやシロコたちもカヤのにじみ出る腹黒さを感じ取っているようだ。

 

「落ち着け、ハルカ。連邦生徒会の連中に少しでも花を持たせた方が面倒が少なく済む。」

 

「は、花をですか…?」

 

「それにおかげで…最終決戦後が楽になった。」

 

「どういうこと、兄さん?5日もあればカイザーは戦力を集めちゃうんじゃない?」

 

ネイト側が休戦や講和を受け入れる筋合いがないのがこれだ。

 

現状、カイザーコーポレーションの兵力はガタガタだ。

 

兵は散り散り、武器も不足しているだろう。

 

定石ならこの機を逃さず一気に攻め立てて制圧するはずだ。

 

だが、ネイトは見向きもしていなかった連邦生徒会に手柄を譲る形で休戦に合意。

 

それもカイザー幹部の監視というあまりメリットの無い条件と引き換えにだ。

 

そんなアルの問いかけに対し、

 

「それじゃ一つ見本を見せるか。」

 

ネイトは殻付きのクルミ数個をテーブルの上に無作為に置く。

 

「アル、俺がスタートって言ってからできるだけ早く割ってみてくれ。」

 

「え?…分かったわ。」

 

「んじゃ…スタート。」

 

ネイトの合図でアルは言われた通りクルミをできるだけ早く割っていく。

 

「んじゃ、次は俺の番だな。」

 

そう言うとネイトは同じように数個のクルミを置き…

 

「スタート。」

 

自分で合図を出し…

 

「…とまぁ、俺の狙いはこういうことだ。」

 

「なっ…なるほど。」

 

一瞬でネイトの狙いをこの場の全員に理解させた。

 

「あの様子じゃ6カウントは目先に餌を吊られたヤギも同然だ。それ以外は何も見えちゃいない。餌をもらえると思って走り続ける脳足りんさ。」

 

そんな風にモニターに映るカヤを嘲り、

 

「好きに踊ればいいさ、6カウント。どうせお前は…美味しい所は一欠けらも味わえないんだからな。」

 

そう口角を吊り上げながらたった今割ったクルミを纏めて口に放り込むネイト。

 

「うへへへ~まさかこんなタイミングであの連邦生徒会に意趣返しできるなんて思ってもなかったよぉ。」

 

「あ、ホシノ!それ私が割ったクルミ!」

 

長年、あの組織に思うところのあったホシノも珍しくワルイ笑顔を浮かべつつアルが割ったクルミを口に放り込むのであった。




人間を動かす二つのテコは恐怖と利益である。
―――皇帝『ナポレオン・ボナパルト』
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