Fallout archive   作:Rockjaw

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食物を愛するよりも誠実な愛はない。
―――劇作家『ジョージ・バーナード・ショー』


An Act of the Curtain

連邦生徒会との交渉の末、5日間の休戦期間が生まれたこの戦争。

 

つまり、ネイト一行はカイザーPMC本部基地に留まらなければならないことになったのだが…

 

「朝早くから全く飽きない連中だな…。」

 

「踏み込んでこない分まだましだけどねぇ…。」

 

休戦2日目、基地の入り口が見えるところからそこをげんなりした眺める髭が濃くなったネイトとホシノ。

 

その視線の先、基地の入り口近くで…

 

『戦争はんたーい!』

 

『カルト教団は即刻立ち去れー!』

 

『D.U.の平和を乱すなー!』

 

プラカードや横断幕を掲げ戦争反対を訴えるデモ隊が声を張り上げてネイトたちに訴えていた。

 

なんと休戦が合意してから数時間と経たずにやってきてそれからずっとこうしてデモ活動を続けている。

 

「アレ、ひょっとしてあの糸目室長が?」

 

「可能性はあるかもな。なんせキヴォトスの治安維持組織の親玉だ。そういう伝手くらいあるだろう。」

 

正直鬱陶しいが夜にはすんなり引き上げるし基地敷地内には入ってこようとしないので放置している。

 

そこへ、

 

「ん…ネイトさんにホシノ先輩。監視お疲れ様。」

 

「差し入れを持ってきたわよ。」

 

紙袋を抱えたシロコとアルがやってきた。

 

「すまんな、シロコにアル。」

 

「差し入れ何かな~…っていってもあれだよね?」

 

「うん、いっぱいあるからしっかり食べて。」

 

「味は保証するわ!なんたってゲヘナウチの名産品だもの!」

 

そう言いアルが紙袋から取り出したのは…ホットドッグとフレンチフライだった。

 

「でも、まさか万魔殿が食糧を送ってくれるとはねぇ。」

 

「大方交渉が成功して儲けたお返しだろう。…ソーセージとキャベツとジャガイモにニンジンばかりなのは…土地柄だろうけどな。」

 

そう、これはセイント・ネフティス社からの支援ではなくゲヘナの万魔殿からの贈り物だ。

 

あのマコトにしては珍しくプレゼントとして届けてくれたのだが…内容が上記の通り。

 

(やっぱ制服や装備云々から見ると…ドイツを意識してるのかねぇ。)

 

内心そんな予想を立てているネイトだが食料の支援は嬉しいものだ。

 

「ケチャップとマスタードあるか?」

 

「ん…もちろん。」

 

「良いね、シロコ。」

 

アルからそれらを受け取りネイトはたっぷりとケチャップとマスタードをかけ…

 

「アンム…うん、故郷を思い出す味だ。ザワークラウトもよく漬かってる。」

 

フレンチフライをその上にのっけて一緒に豪快にかぶりつく。

 

ざっと数えて270年ぶり…戦後連邦では味わえなかった本物のホットドッグとフレンチフライの味を噛み締める。

 

…いや、アパラチアで再現された物なら食べたことはあるがやはり本物が一番だ。

 

「でしょう?ハルカが漬けたのよ。あの子ってお漬物得意なの。」

 

「ホント美味しいねぇ。って、ネイトさんったらそんな食べ方しちゃって。」

 

口の周りが汚れるような豪快な食べ方を見てホシノも苦笑を浮かべるが…

 

「意外とメジャーな食い方だぞ?ジューシーさに香ばしさが加わってこれがまた旨いんだ。」

 

「ん…本当だ。ポテトのホクホクさも加わってまた違った美味しさになる。」

 

ネイトを真似てシロコも口の周りが汚れるのも構わずポテトを乗っけて豪快にかぶりついていた。

 

「あぁ~…ここにキンッキンに冷えたビールがあったら言うことなしなんだがなぁ。」

 

「うへへへ~それはこの戦争が終わるまでお預けだねぇ、ネイトさん。」

 

「ネイト兄さんって普段はしっかりしてるのにたまに子供っぽくなるときあるわよね。」

 

「兄妹、大人だってたまにわがまま言いたくなるもんだ。」

 

と、デモ隊監視がてら賑やかにフィンガーフードを食べていると…

 

「って、あれ?デモ隊が割れて…。」

 

デモ隊が抗議を止めて左右に分かれ始めた。

 

その間を縫うように現れたある『四人』を見て…

 

「げっあいつ等…。」

 

「また来た…。」

 

「うへ~…。」

 

「なんでわざわざここに来るのよ…?!」

 

先ほどまで賑やかだった雰囲気が一転しげんなりした表情を浮かべるネイトたち。

 

そんなネイトたちに構うことなくその四人は近づき…

 

「あら?今日はまた『美味しそうな物』を食べていますわね、ネイトさん?」

 

「フフッ、ホットドッグにフレンチフライとは分かっている組み合わせですね☆おひとついただいても?」

 

「わぁ~!それって万魔殿御用達のソーセージだよね!?いいなぁ、私も貰っていい!?」

 

「ちょ、ちょっと昨日みたいに強引なのは無しよ!?風紀委員長よりおっかなかったんだからぁ!」

 

ネイトたちが摘まんでいるホットドッグを一人を除き飢えた猛獣のような目つきで見つめる。

 

「お前ら…また来たのか…。」

 

「そうつれないことは言わないでくださいませ、ネイトさん?我々、これでも貴方方とはもう戦いたくありませんのよ?」

 

うんざりした感情を隠すことのないネイトにこの四人の代表である白い肌に銀髪に赤い瞳の少女は何とも上品な所作をもって答える。

 

その体には左の片翼とトカゲのような尻尾が生えている。

 

「よりにもよって面倒なのに目を付けられちゃったわね、ネイト兄さん…。」

 

「あら、便利屋68の方々には負けますよ☆最近は姿を見せないと思ったらこんな素敵な殿方とご義兄妹になっていたとは☆」

 

同じくげんなりした表情を浮かべるアルに長い金髪に髪留めのように悪魔の角が生えた少女がにこやかに返す。

 

感情が高まっているのか明るい赤紫のXの瞳孔が広がっていた。

 

「ん…ここよりもおいしい料理を出すお店はあるからそっち行けばいいのに。」

 

「でもでも!あの万魔殿が認めた人たちが作る料理って気になるじゃん!しかもニュースにずっと出てる人たちなんだし!」

 

ホットドッグを咥えつつ得物を何時でも構えられるようにしているシロコに裏表を感じさせない天真爛漫な答えを返す少女。

 

頭からはまるで羊を想起させるような角が生えこの四人の中では一番体格がいい…というよりかなりグラマラスだ。

 

「うへ~…本当にご飯食べに来ただけならいいけど…もし暴れるんなら次こそは…。」

 

「待って待って!昨日は本当にごめんなさい!!!もう暴れないからそんなに睨まないでぇー!」

 

臨戦態勢のホシノに完全にビビりちらしている赤いツインテールに上向きに生えた角を持つ少女。

 

この四人の中では一番小柄でどことなく他の三人に振り回されている感じがする。

 

身体の特徴からこの四人はゲヘナの生徒。

 

元より不良ばかりで治安最悪のレッテルを張られてはいるが…その中でもこの四人のグループは最高峰の不良…いや、『テロリスト』と言ってもいいだろう。

 

その名も…

 

「『美食研究会』、タフさは認めるがもう少し分別というものを持て。」

 

「それはできない相談ですわ。そこに美食があるならばどこへでも…それが我々の心情ですから♪」

 

『美食研究会』、ゲヘナを拠点とする料理のレビューや食事に対する探究活動を行っている部活だ。

 

一見するとお食事サークルかと思われるが…そんな生易しいものではない。

 

モットーは『EAT or DIE』、美食の探求のためなら犯罪行為を厭わず美食への道を阻害する物や食べ物に対する冒涜はどんな相手だろうと容赦なく制裁する。

 

『不味い』と判断された爆破されたレストランや学生食堂は数知れず。

 

他にも大食いメニューを店が破産するほど食い尽くしたり高級食材を強奪したりとまさにやりたい放題。

 

その活動はゲヘナだけにとどまらず他学区でもお構いなしに活動するためキヴォトス全域で危険集団…もとい『テロリスト』として認知されている。

 

さて、なぜそんな危険集団とネイトたちが出会ったかというと発端は昨日のこと。

 

前述のとおり、とある『礼』を兼ねて万魔殿が食料を送ってくれた時のこと。

 

さすがは三大校のトップ組織、送ってくれた食料はなかなかに高級の物ばかり。

 

…それをどこからか聞きつけた彼女たちが奪取のためこの基地にデモ隊を吹っ飛ばして蹴散らしかち込みを仕掛けてきたのだ。

 

が、

 

『どこの誰か知らないが容赦はしないぞッ!!!』

 

『へぶっ!?』

 

Blitz最大距離からネイトが部長である『黒舘ハルナ』の顔面にロケットバットを叩きこみ、

 

『休戦早々仕掛けるなんていい度胸じゃないのさ!!!』

 

『ギャンッ!!?』

 

ネイトとのコンビネーションで間合いを殺したホシノが美食研究会の大食い担当『鰐淵アカリ』に徹甲スラグ弾を固め撃ちし、

 

『いきなりなんだってのよ、アンタたちはッ!?』

 

『わあああああ!!!?』

 

美食研究会のゲテモノ担当『獅子堂イズミ』をセリカがゲパートM6の徹甲焼夷榴弾で吹っ飛ばし、

 

『ん…カイザーの回し者ならただじゃ置かない…!』

 

『待って、カイザーってどういうばばばばババッ!!!?』

 

シロコがテスラキャノンで美食研究会のちびっ子『赤司ジュンコ』を痺れさせ瞬く間に制圧。

 

その後、制圧後にワイヤーで拘束後尋問し…

 

『トラックの食材目当てで襲撃しかけてきたぁ!?』

 

同じくゲヘナに籍を置く便利屋メンバーの証言も相まって戦争中だというのにしょうもない理由で襲ってきたことが判明。

 

ちなみに…

 

(まさかキヴォトスで連邦のレイダーみたいな連中に出会うとは…?!)

 

食料目当てで襲撃を仕掛けてきた彼女たちに妙な既視感を覚えるネイトなのであった。

 

とまぁ、カイザーとは無関係だとは判明。

 

話に聞くと美食研究会はどこかに与するような方針がない…というよりカイザー関連の店舗も吹っ飛ばした経歴があるので本当に単なる襲撃者(?)だと分かった。

 

拘束はしたもののこれまたヴァルキューレに突き出す義理はないので説教したのちに解放。

 

なのに…

 

「で?なぁんでまた来たんだ?」

 

あれだけボッコボコにされたのにケロッとした様子で現れた美食研究会。

 

再度の訪問の理由を尋ねると、

 

「うふふっ私共も目先の食材に目がくらんで失念していましたわ。」

 

ハルナはやれやれといった様子で額に手を当てながら頭を横に振る。

 

「失念って何にさ?」

 

「今、キヴォトスはなかなかお目にかかれない『戦争』という非常に稀有な事象が起こっていますわ。」

 

美食研究会部長『黒舘ハルナ』、彼女の美食に関するスタンスは非常に独特だ。

 

彼女にとっての『美食』とは料理の味そのものだけでなく調理の過程や料理人の思い、それらすべてを含め『美食』を追い求めるのだ。

 

さらには食べる際のシチュエーションがもたらす効果の研究も行っている。

 

一癖も二癖もあるメンバーの中で『探究者』という分野において彼女の右に出る者はいないだろう。

 

その探求心を満たし新たなる美食を食すためなら…

 

「そこに来て…その最前線ともいえるこの基地での食事…どんなにお金を積んでも得られない『美食』の探求のデータになりますわ♡」

 

戦場に踏み込むことも一切躊躇しない、ある意味一番『美食研究会』部長に相応しいぶっ飛んだ行動力を持つ。

 

「…アルちゃん、ゲヘナってこんな子ばかりなの?」

 

「美食研究会が特殊なだけよ…。」

 

「ん…他所には本当に変わった人がいるんだね。」

 

そんな常人にはあまり理解できない思考に困惑するホシノ達だが、

 

「ご心配なく。私もこのあり方が万人の共感が得られるとは思っておりません。それでも…探求というものはそう言うものでしょう、ネイトさん?」

 

その困惑を当然の物と泰全に受け止め手を差し伸べながら気品を漂わせる笑みをネイトに向ける。

 

「………。」

 

対し、ネイトも堂々とした様子で受け止め…

 

「アンム。」

 

手に持っていたホットドッグを口に押し込み咀嚼し…

 

「…飯食ってくか?」

 

飲み込んだ後短く彼女たちに問いかけた。

 

「えぇ、ぜひご相伴に与りたいですわ♡」

 

「フフッとても楽しみですね☆」

 

「どんなのが食べられるんだろう!?」

 

「ほ、ホントにご馳走してくれるの…?!」

 

いよいよ目的の料理を口にできるかと思い四者四様に喜びを浮かべるが…

 

「よぉし…じゃあ、俺からも『美食』以前に『食事』が何たるかを一つ教授しよう。」

 

ネイトも不敵な笑みを浮かべていた。

 

…それからしばらく後、

 

「い~ちっい~ちっいっちにーッ!!!」

 

「「「「「「そーれッ!!!」」」」」

 

「い~ちっい~ちっいっちにーッ!!!」

 

「「「「「「そーれッ!!!」」」」」

 

完全装備のネイトを先頭に装備を整えた生徒たちが続き掛け声を上げながら駐機場をランニングしていた。

 

その後ろを…

 

「い…いっちに~…。」

 

「ヒィ…ヒィ…!」

 

「まっまだ走るの…?!」

 

「なっなんでこんなことに…!」

 

同じく完全装備の美食研究会がヒーコラ言いながら付いて来ていた。

 

「腹から声出せえッ、美食研究会!!!」

 

そんな彼女たちに声をかけるためネイトも後ろに下がってきて声をかける。

 

「あっ…あのネイトさん…!?これが一体美食に一体どう関係が…!?」

 

「ウチのモットーの一つは『働かざる者食うべからず』だっ!!!うちで食事したきゃ働けッそして動けッ、ハルナ!!!」

 

「あ、あのご飯は…!?ご飯はいつ食べられるんですかぁ、ネイトさぁん…!?」

 

「昼になったらちゃんと出してやる、アカリ!!!それまでは訓練をしっかしこなせ!!!」

 

「こ、こんなことならちゃんと朝ごはん食べてくるんだったぁ…!」

 

「それはそっちの責任だ!!!一日の始まりを疎かにするんじゃない、ジュンコッ!!!」

 

「もっもう無理…ッ!ごめん、少し休ませてぇ…!」

 

「何をへばっているッ!?気張れ、イズミ!!!いいか、周回遅れしたら飯抜きだぞッ!!!」

 

『ヒイイイイイイ!!!』

 

普段と違った鬼教官ぶりを発揮し美食研究会を鼓舞しながら走らせ続けるネイト。

 

「スッゴ…ネイト兄ったら美食研究会に言うこと聞かせちゃってるよ…。」

 

「自分のペースに巻き込むのはネイトさんが何枚も上手ってことね。」

 

「くふふ~、あの美食研の様子モモッターで流しちゃおっと♪」

 

そんな様子を給仕AIのMr,ハンディたちに混じり今日の食事当番のカヨコ、セリカ・ムツキは手を動かしながら眺めるのであった。

 

こうして美食研究会も巻き込んだ訓練も進んで行き時間は正午。

 

「訓練終了!用具点検後、食事の時間だ!」

 

『ウッスッ!!!』

 

「お…終わりましたわぁ…。」

 

慣れたアビドス生徒達はケロッとしてるが普段の風紀委員会などの治安維持組織からの逃走とは勝手の違う運動で美食研究会の面々はヘロヘロになってしまっていた。

 

その後、装備の手入れや収納を終え…

 

『いただきまーす!』

 

野外にテーブルが並べられ昼食が始まった。

 

「おぉ~フレンチとはいつぶりだ…。」

 

「と言っても家庭料理だからそんな豪勢なもんじゃないよ?」

 

「いやいや、戦場でも旨い飯というものはなくてはならないからな。いつもうまい料理をありがとうな。」

 

「くふふ~そう言ってもらえると頑張った甲斐があるってもんだよ♪」

 

メニューはポトフ、アッシ・パルマンティエジャガイモと挽き肉のグラタンに万魔殿が送ってくれたバケット。

 

「おぉ…やっぱり一気に大量に作ると味の深みが違うな…。」

 

何せ食べ盛り200人以上が満腹になるように作られたのだ。

 

調理器具もネイトがクラフトしたドラム缶サイズの寸胴鍋。

 

そこに放り込まれた大量の野菜やソーセージにスパイスからは濃厚な旨味があふれ出している。

 

そして、おそらく誰よりもこの食事を楽しみにしていたであろう…

 

「ハイ、お待ちどうさま。」

 

「ありがとうございますわ、セリカさん。」

 

「たくさん食べるらしいから鍋と大皿ごと置いてくわよ。お替りはセルフでよろしく。」

 

美食研究会の面々の前にもどんとW.G.T.C.謹製の昼食が置かれた。

 

アカリの大食いっぷりは有名なので特別に取り分けてある。

 

ネイトに訓練で扱かれた彼女たちの目の前に置かれた料理。

 

「…いただきましょう、皆さん。我々はこのために来たのですから。」

 

『…いただきます。』

 

静かに手を合わせて美食研究会は食し始める。

 

「あぁ…とても美味しいです…!」

 

空腹は最高のスパイスとはよく言ったもの。

 

味もさることながら訓練によって疲労しいつも以上に空腹になった身体がその料理たちに満たされていく感覚をハルナは感じていた。

 

「んん~っこのアッシ・パルマンティエが食欲をどんどん刺激しますね♡」

 

上品でありながら凄まじい勢いでお替りをし食べていくアカリ、

 

「んぐっんぐっ…プハァ!ポトフもこんなに美味しいの初めて!」

 

たまらずスープボウルを持ち上げ中身を飲み干すイズミ、

 

「大変だったけど訓練頑張った甲斐があったわぁ…!」

 

若干涙を流しながらバケットを食べていくジュンコと食にウルサイ面々が笑顔を浮かべ昼食にありついていった。

 

そんな風に各々のペースで食べ進めていく中、

 

「…なるほど、これは今までにない発見ですわね…。」

 

ハルナは辺りを見渡しそう呟く。

 

青空の下、苦楽を共にし志を同じくした同胞と食卓を囲み笑いあいながら賑やかに食べる食卓。

 

さらには見たこともないロボットが作っていると来た。

 

普段赴く学生食堂や料理店、どんな高級店でも味わえない新鮮な感覚だった。

 

と、そこへ、

 

「訓練お疲れ様。どうだ、ウチの料理はお気に召したか?」

 

お替りをとってから来たのかトレイを持ったネイトが彼女たちのテーブルにやってきた。

 

「はい、こんなおいしい料理ならいくらでも食べれちゃいそうです☆」

 

「量は余裕をもって作ってるがみんな食べれるよう加減してくれよ?」

 

「ねぇねぇ、ネイトさん!いつもこんなに美味しいの食べてるの!?」

 

「万魔殿が送ってくれた材料があるからってのもあるがまぁこんな感じにバランスがいい食事をとれるよう心掛けてる。」

 

「あっあの…また食べに来てもいい、ネイトさん…?」

 

「今はいろいろ忙しいが…落ち着いたらアビドス高校にこい。働いてくれるんなら昼食はだすぞ。」

 

昨日は一戦交えたというのにそんなことなど忘れたように自然な態度でアカリ達と言葉を交わしながら食べ進めるネイト。

 

「…で、ハルナはなにか探求の糧になるようなことはあったか?」

 

「はい、それはもう…とっても美味しくて学びある『食』を味合わせていただき感謝いたしますわ、ネイトさん。」

 

色々あったがここに来てよかったと心からの可憐な笑顔を浮かべるハルナなのであった。

――――――――――――――

 

――――――――

 

―――

と、色々あったが和やかな雰囲気で休戦期間を過ごしているW.G.T.C.の面々の一方、

 

「くそっ…ゲヘナのタヌキどもめぇ…!」

 

D.U.のカイザーコーポレーション本社内。

 

その会議室内で周りをグループ各社の重役に囲まれたプレジデントは苦悶の表情を浮かべていた。

 

ことの発端は昨日のこと、

 

「ど…どうやってこれを…!?」

 

なんとか手に入れた休戦を一時も無駄にできないというのにプレジデントはある連絡を受け頭を抱えていた。

 

その連絡の相手というのが…

 

《キキキッ…我が学区で起こったことだぞ?把握しててもおかしくあるまい?》

 

昨日ネイトにもコンタクトをとってきたマコトであった。

 

《いやぁ、もし何かの『間違い』があってこれが世に流れたら大変だろうなぁ?》

 

「クッ…!」

 

そして…ホログラム越しにニヤつきながら彼女が見せる資料、それこそがプレジデントの悩みの種である。

 

なぜなら、

 

《キキキッまさかこの戦争そのものを揺るがすようなことをやらかすとはなぁ、プレジデント?》

 

ただでさえ開戦理由すら怪しまれているというのにこの戦争の根幹を容易く破壊するようなものであったからだ。

 

恫喝しようにも相手はゲヘナだ。

 

『全快』の状態であっても一戦交えるのはためらうような巨大学校である。

 

下手なことはできない。

 

「…幾らだ…?!」

 

《ん~?》

 

「幾らなら…その情報をなかったことにできる…!?」

 

ならばとプレジデントはその情報の買収を図る。

 

おそらく…いや確実にこのコンタクトもカイザーから強請ろうと行われているものだ。

 

《おや?私がそのようなことを申し出た覚えはないがなぁ?》

 

わざとらしくマコトは茶化すように答え、

 

《だがそうだなぁ?我々が別にこの戦争に関わる義理もないしなぁ?》

 

これまたわざとらしく顎に手を当てながら何かを思案するようなしぐさを見せる。

 

ゲヘナはアビドスとの境界線上が戦場となったりしたがこの戦争では終始『無干渉』を貫いている。

 

学区内で風紀委員会立会いの下ヘルメット団の掃討が行われたりしたもののそれは監視目的なので十分無干渉を貫く大義名分となる。

 

足下を見られている、そんな思惑がヒシヒシと伝わってくるが、

 

「望みを言え…!言い値で買い取ろう…!」

 

だからと言ってプレジデントに引き下がるという選択肢はない。

 

《…物わかりのいいものは好きだぞ、プレジデント?そうだなぁ…。》

 

不敵に笑いながらマコトは少し考え…

 

《では…これくらいでいかがかな?》

 

五本指を立ててプレジデントに見せつける。

 

5000万だの5億だと言っているわけがない。

 

そんな金額などゲヘナにとってははした金もいい所だろう。

 

昨日のニヤニヤ教授への前金も相まってかなり痛い出費だが…

 

「分かった、どこへ送金すればいい…?!」

 

《キキキッではこの万魔殿の秘密口座に…。》

 

そうも言っておられず、マコトもこれ幸いと振込先を教え…

 

「…振り込んだぞ、確認してくれ…!」

 

《…確認した、では約束通りに。》

 

手元の端末で満足いく金額が振り込まれていることを確かめられ…マコトはその書類の束を金属トレイに火のついたマッチと一緒に放り込んだ。

 

「聞くが…それで情報はすべてなんだな…?!

 

《安心しろ、『ゲヘナ』が保有する情報はこれですべてだ。》

 

「これでなかったことにしてくれるんだな…?!」

 

《我々は契約を最重要視する。プレジデント、貴様は契約を果たしたのだ。今度は我々がその契約を果たす番だ。》

 

そうは言うものの相手はゲヘナの頭目だ。

 

油断するべきではない相手だが…

 

「…その言葉、信じさせてもらうぞ。」

 

《キキキッ、これでも責任ある立場だ。少しは信じてほしいものだな。》

 

今目にしている光景を信じるよりほかないのも事実だ。

 

《では、プレジデント。今回はいい取引ができてよかったぞ。御社の健闘を祈る。》

 

終始、慇懃無礼な態度を崩すことなくマコトのホログラムは消えるのであった。

 

そんなこんなで予定外の出費が重なり続けているカイザーコーポレーション。

 

「だが、これで証拠は闇に葬ることができた…!あとは何とか休戦中に部隊を…!」

 

それでもまだ勝利への野望が消えていないプレジデント。

 

と、そこへ、

 

「失礼します、プレジデント。部隊の再編について報告があります。」

 

カイザーPMCを纏めているジェネラルがやってきた。

 

「ジェネラル、部隊はどうなった…!」

 

「はっ、本部基地より生き延びた隊員の再編成は完了。及び、他の基地からの生き残りも召集し歩兵1個連隊を再編できました。」

 

人数だけで見ると多いが…もはや一大勢力であったカイザーPMCは見る影もない。

 

「歩兵のみか…。」

 

「残念ながら戦車等の兵器は失逸いたしてます…。」

 

「…まぁいい。ブラックマーケットやカクカクヘルメット団が持つ兵器も買い上げて数をそろえろ。」

 

なんとか兵器も確保しようとそう命じるプレジデントだが…

 

『…………。』

 

会議室内にいる幹部たちが沈痛な表情を浮かべ…

 

「プ、プレジデント…それが…!」

 

カイザーインダストリーの社長がそう声を上げ…

 

「マーケットガード及びブラックマーケットの連合は参戦を拒否…!カクカクヘルメット団はすでに壊滅しています…!」

 

彼の望む援軍はこないことを明かす。

 

当然だ。

 

もし、カイザーに与すれば…あの砲撃が降り注ぐことは確実だろう。

 

カイザーからの報酬とそのリスクを天秤にかけ…ブラックマーケットの全組織はこの戦争に一切干渉しないことを決定したのだ。

 

「…………。」

 

それを聞いたプレジデントは手を震わせながらネクタイを緩め…

 

「今から言う者のみ会議室に残れ…。ジェネラル、インダストリー、コンストラクション、そしてローンの社長だ…。」

 

四名の名を上げる。

 

その四人以外の面々は静かに会議室を後にして行く。

 

そして、最後の者がドアを閉めた瞬間…

 

「どうなってるんだああああ!!?」

 

プレジデントが…とうとう爆発した。

 

「私は部隊の増強を命じたのだぞ!!?今までどれほど目をかけてやったと思ってるんだ、あの恩知らず共めぇっ!!!」

 

『………。』

 

「なぜだッ!?一体なぜ誰も我々を救援しようとしない!?なぜあんなぽっと出の男が率いる軍勢など恐れる!!?」

 

止まることのない怨嗟の絶叫。

 

「貴様らもだっ!!!貴様ら全員、私を騙しやがった!!!カイザーローンは奴等の財務状況を誤魔化し、カイザーコンストラクションは奴の力を過少報告し、カイザーPMCはど素人に敗れるような軟弱物ばかり集めてやがった!!!お前らなんか、大っ嫌いだッ!!!」

 

「ッ!プレジデントッ!いくらあなたでも承服できません!!!たとえ敗れても私の部下は貴方のために戦友を喪っても勇敢に…!」

 

自分たちのことを罵られるのはまだいいが部下のことまで侮辱されジェネラルが反論するも…

 

「奴らは臆病者だッ!!!ただのガラクタだッ!!!そんなことも分からんのか、バーカッ!!!」

 

プレジデントの罵詈雑言は止むことがない。

 

「プレジデントッ!!!いくら貴方と言えどそれは聞き捨てなりませんッ!!!」

 

「貴様らも使えないPMC共もクズだっ!!!」

 

最早ジェネラルの諫言など聞く耳も持たずプレジデントは自らの杖を床に叩きつけ、

 

「畜生めぇぇぇぇぇッ!!!」

 

さらなる絶叫を上げ怒りを露にする。

 

「貴様らはグループ各社で社長と呼ばれているが単なる年功序列で昇りつめやがって!!!覚えたのは帳簿の誤魔化し方だけだっ!!!」

 

『………。』

 

「カイザーコンストラクションは半年にわたって奴らに力を与えてきてっ!!!考えつく限り最悪の契約を結びやがって!!!貴様らの判断力が足らんかったのだっ!!!」

 

『………。』

 

「カイザーPMCも使えない愚図共は粛清しておくべきだったのだ!!!あの『鉄拳政治のシェマタ』のようにっ!!!」

 

そこまで叫び通しだったためか肩で息をしながらプレジデントは席に着く。

 

「私はキャリア組ではない…!だが、私はここまで上り詰めたッ!!!カイザーコーポレーションの支配者になっ!!!裏切り者どもめ…!セイント・ネフティス社とも渡り合ってきたというのに…!」

 

それでも身内や外部への恨み言は止むことなく、

 

「特にあの社長の娘の目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!」

 

((((いやっ何言ってんの、プレジデント…!?))))

 

とうとう訳分からないことまで口走り始めた。

 

「これは私への恐るべき背信行為だ!だが、裏切り者や私に歯向かう者は皆報いを受けるだろう!!!奴ら自身の犠牲で償うことになるのだ!!!特にあの若造は自らの血の中で溺れることになるのだ!!!」

 

だが、プレジデントは未だ諦めない。

 

最後の一兵となっても…もう現実を見ることはないだろう。

 

―――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――

そんな対極的なネイトとプレジデントの両陣営。

 

そして、もう一つ動きのある場所もあった。

 

「…そっか。心配かけたね、リン。」

 

《ともかくあなたが無事で何よりです、先生。》

 

場所はアビドス高校野戦指揮所。

 

ようやく通信障害が緩和しリンからの電話を受け取れた先生。

 

《それで…なぜ先生はアビドス高校で部隊の指揮を…?》

 

「私は『先生』だからね。アビドス高校の皆が大変なことになってるのに見て見ぬふりはできないよ。」

 

《ですがそれは貴方の役目では…。》

 

確かにシャーレの仕事は学校間を飛び越えて生徒の困りごとを解消することだ。

 

しかし、これは業務の範疇を逸脱し過ぎているとリンは指摘するが…

 

「いいや、これが私だから…シャーレの『先生』だからこそやらなきゃいけないことなんだよ、リンちゃん。」

 

先生はドンとした声でその指摘に反論する。

 

「どんなことがあっても…たとえ戦争でも生徒が困っているんだ。その解消のためなら皆の指揮を執ることだってやって見せるさ。」

 

《先生…。》

 

そんな先生の覚悟を聞き…

 

《…誰がリンちゃんですか。》

 

声だけで分かるほどムッとした態度で先ほどの自身の呼びかたを指摘するのであった。

 

「アハハ…手厳しいね。」

 

《まぁいいです。…それでいくつか聞きたいことがあります。》

 

「なんだい?」

 

《先生…貴方から見て『ネイト』という人物はどういった存在なのですか?》

 

リンはさっそく本題を切り出す。

 

リンたち連邦生徒会にはネイトの情報が少なすぎる。

 

対して先生はここ二ヶ月近くネイトと接してきた。

 

彼女たちにとっては数少ない情報源だ。

 

その質問に先生は…

 

「…ごめんね、リン。それを今…たとえ君達であっても話すわけにはいかないかな。」

 

生徒の頼みだというのに彼らしくもないきっぱりとした口調でそれを断った。

 

《なっなぜですか…?!》

 

「リン、君があの会見に半信半疑になっているのは分かっている。でも…まだ連邦生徒会はこの戦争で『カイザー側』に立ってしまっている。」

 

《それは…!》

 

「うん、大方あの防衛室長の独断だとは私もネイトさんも理解している。でも、例えそうだとしてもネイトさんの情報を戦争中に明かすことは決してプラスになることじゃないと思うんだ。」

 

《プラスにならない…?!》

 

リンには理解に苦しむ話だった。

 

ネイトもそうだがカイザーがあの会見で挙げた証拠の内容を一切否定していない。

 

むしろ、ネイトは逆に受け入れ『演じてやる』とも言っていた。

 

普通は自身の名誉のために一言でも反論してもいいはずなのに。

 

《なぜ彼はそのような…?!》

 

「一つは無用な混乱を生まないためだね。」

 

《しかし現状ですでに…!》

 

「そうだね。でも、もし今ネイトさんが徹底的に否定したらどうなると思う?」

 

《それはそれを確かめるためにマスコミが……ッ!》

 

ここでリンもハッとする。

 

そう、もしネイトが否定すればそれは世論を二分するということだ。

 

そうなるとより取材合戦は過熱。

 

ただでさえカイザーの会見から暴走気味のクロノスを筆頭とした報道陣。

 

さらには野次馬なども集まり作戦遂行の障害となる可能性もある。

 

セイント・ネフティス社という外部の証言があってようやくその熱は落ち着いたがそれでもいまだこの戦争はホットな話題だ。

 

「そう、だから今はまだネイトさんのことを話すつもりはないよ。君達は公の組織、もしこの情報を明かすと発信しなければならない。そうなると…。」

 

《やっと沈静化しつつある報道の熱が再加熱される…!》

 

「正解。だから今は話せないよ。それに世論がはっきりと二分化されると連邦生徒会ももっと大変になるだろうからね。」

 

《…分かりました。そのようなことでしたら私はこれ以上質問しません。》

 

「理解してもらえて助かるよ。それで私はこの後も…。」

 

《戦争が終わるまでアビドスの指揮を…ですね?》

 

「うん、防衛部隊だけだけど…最後まで付き合いたいんだ。良いかな?」

 

《…変わりましたね、先生。》

 

男子三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言ったものだ。

 

今の先生はかつてリンが見たようなどこか頼りない雰囲気はだいぶ薄くなっている。

 

その代わりに…とんでもなく大きな肝っ玉が搭載されているような気がする。

 

「ふふっ、いい『師匠』に巡り合えたから…かな?」

 

《ともかく身の安全には気を付けてください。貴方の仕事はそこで終わりではないのですから。》

 

「心配ありがとう、リン。大丈夫、なんたってみんな強いから。それにトリニティの『七転八倒団』も援軍に来てくれてるし。」

 

《…はぁ~、そういうところを付け込まれた…と言っても後の祭りですね。とにかく無事に帰ってきてください。》

 

「了解だよ。」

 

短いながらも先生と言葉を交わせ安全を確認できたかリンの声も少し和らぎ通話は終わった。

 

「さて…私も皆の留守を守るように頑張らないとな。」

 

先生もネイトたちに託されたこの地を守り抜こうと意気込みを新たにする。

 

休戦に入りアビドス側の優勢ということもあって避難民も一時帰宅しているが…

 

「うっす、先生!避難民の方々の名簿の整理終わりやした!」

 

「各戦線の人員配置の転換の書類の提出に来ました!」

 

「斥候アサルトロンからの定期通信です!精査をお願いします!」

 

「…あはは、いやぁ…戦争って大変だぁ…。」

 

仕事というものは尽きないものだ。

 

今日も今日とて先生は多くの書類を忙しく捌いていく。

 

ちなみに、従卒のMr,ハンディが数体手伝ってくれているので定時には上がれるようになっているのだった。




意志力と決断力の養成は、責任感の助成と同様に最も重要
―――ドイツ第三帝国総統『アドルフ・ヒトラー』
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