―――カルタゴの武将『ハンニバル・バルカ』
時は5日前、休戦協定締結してから数時間後のこと。
「あぁ~…話し合い無しで即銃撃のキヴォトスだとかなり珍しい手合いだな。」
ネイトは監視モニター越しに正面ゲートを見つつそうぼやいていた
モニターにはネイトも馴染み深い反戦を訴えるデモ隊が映し出されていた。
手にはプラカードと横断幕、銃らしきものはせいぜい拳銃くらいと一戦交えるつもりはあまり感じられない。
(いや…確かアパラチアだとプラカードで戦ってる奴がいたっけ…。)
ネイトの脳裏にアパラチアを跳ね回り『抗議プラカード』でスーパーミュータントをしばき倒していたレジデントの子孫達の姿がよぎった。
閑話休題。
警備にはセントリーボットを回しているので手を出そうとは思わないだろうが…問題は別にある。
「これ…見られるわけにはいかないよな…。」
そう言い肩越しに背中を見ると背後に輝く巨大なヘイロー。
ただでさえ自分は注目の的だ。
そんな自分が…ただでさえキヴォトスで希少な人間の大人の自分がこんな規格外にデカいヘイローを背負っていたら間違いなく注目の的だ。
今この状況でこんなものを部外者に見せるのは正直好ましくない。
「EMVは残り80%…燃費上がったか?」
かといってEMVが尽きヘイローが消えるまで引き籠る訳にもいかない。
入り口に殺到するデモ隊、ヘイローを消したい自分…
「…よし、非常用の手段はあってて損はないな。」
その二つの事柄がカチリとはまりネイトはデモ隊に見つからないように行動開始。
向かったのは駐機場の一角にある格納庫。
何をするつもりなのかとこの姿が初見の手が空いている生徒たちやアルやセリカ達が見物に来ている。
「何をするつもりなの、ネイト兄さん?」
「まぁ見てろって…。」
格納庫に到着するなりPip-Boyのコンパスで方位を確認し…
「せぇ~のッ。」
ガコンッ!というクラフト特有の音が鳴り響いたかと思うと地面に巨大な格納庫を半分は占有していそうな地下への入り口のスロープが現れた。
『おぉ~…!』
「こ、これって!?」
「これがこのヘイローが出てる間にできるようになることだ。」
「ネイト兄の神秘…こんな規格外なんだね…!」
「出張中に戦艦クラフトしたっていうのも納得の破格の能力だわ…!」
「まだ入り口だけだがな。さて…少しの間、俺は『モグラ』になるから地上のことは任せた。」
「了解よ、ネイトさん。何かあったらすぐに伝令を出すわ。」
そう言い残しネイトはスロープを下っていき数時間後…
「ここまでくればさすがに突破できるだろう。」
基地入り口から約2㎞の地点までクラフトで地下トンネルを建造。
ただ掘り進んだだけでなく壁や天井はVaultでも使われていた頑丈な建築材で補強したので崩落は万が一もないだろう。
時間にして2~3時間で総延長3㎞弱、幅にして15mほどの立派な地下トンネルを建造できるのはさすがは『源流』の神秘と言ったところか。
「ただいま。」
「おかえりなさい、ネイトさん。」
「デモ隊に何か動きはあったか?」
「平穏そのものだねぇ。全く勘付かれていないよ。」
「それは何よりだ。ところでハルカはいるか?」
「はっはい!なんでしょう、ネイト兄様!?」
「出口部分はまだ開通させずに地面の保持だけしている。すまないが時が来たら空けられるように爆薬の敷設を頼む。」
「分かりました!皆さんが通れるようにしっかり仕掛けてきます!」
「あと手隙の何人か付いて行って彼女の補助を頼む。」
『了解!』
最後の仕上げをハルカと生徒達に任せこうしてデモ隊の対策は完了。
したが…
「EMVがまだ残ってる…。」
EMVは残り58%、結構な規模のクラフトを行ったのにまだだいぶ余裕がある。
(やっぱりマサチューセッツって凄いんだな…。)
クラフトと操作でEMVの6割以上を吹き飛ばしたマサチューセッツの化け物っぷりを改めて実感する。
となるとどうやって残りを消費した物か。
「う~ん…。」
これくらいになるとおそらく一日引きこもれば自然消費できるが正直勿体なくはある。
有効活用できないかと頭をひねっていると…
「どうかしたの、兄さん?」
「あぁ、アル。このヘイローを消すにはどうしたら…。」
不審に思ったアルが声をかけてきたのでそちらを見ると…
「………。」
「…ちょ、ちょっと何?どうかしたの…?」
唐突に無言になりアルを頭からつま先までジィッと見つめたかと思うと…
「…アル、ちょっとコート貸してくれないか?」
「へぇっ?」
唐突にそんなことを言いだした。
「ま、まぁいいけど…。」
理由は分からないが断る理由もないのでいつも羽織っているコートをネイトに差し出すアル。
「それじゃちょっと失礼して…。」
コートを受け取るとまずは通常クラフトで『アーマー作業台』と『ケミストリーステーション』を出現させる。
ネイトはまずケミストリーステーションに付き、
「誰か水を汲んできてくれるか?」
「う、うっす!」
生徒に頼んでバケツ一杯の水を汲んできてもらい…
「行けるか…?」
バケツの水に手を浸し…
(集中…あの時、マサチューセッツを操ったときのように…。)
目を瞑り意識を集中させる。
(行ける…!『アレ』ができたんだ…!この力なら…行けるはず…!)
頭に思い浮かぶのは…あの地にあったあの装置。
原理の理解はすでに済んでいる。
ならば…
「来い…!」
ネイトがそう念じた次の瞬間、ガコンッ!とクラフト音が鳴り響いた。
すると…
「え。水が糸に!?」
バケツの中にあった水が何かの繊維に変化した。
「ッぷぅ…!や、やればできるものだな…!」
余程集中していたのか少し息遣いが荒くなるネイト。
「ネ、ネイトさん大丈夫…!?」
「…フゥ~、いやなに水没地帯にあった装置の真似事をやってみたんだ。行けるものだな…。」
水から変化した繊維をPip-Boyに収納しこの繊維の正体をインベントリで確認すると…
「…よし、成功だな。」
そこに表示されているのは…『耐衝撃ファイバー 120』。
「…何したの、ネイト兄?」
「水を『クラフト』して別の物に変換できないかなと思ったが狙い通り作りたいものができたよ。」
「水を…クラフト?」
「『再構築』と言った方がいいかな。ちょうど似たような設備がミレニアムの奥地にあるんだ。」
そう、ネイトが行ったのは水没地帯でケテルが守護していた工業地帯にあった物質製造機『アルケミーカルドロン』の真似事。
要は水の元素を組み替えて耐衝撃ファイバーと同質のものに変換したということだ。
「す、凄いじゃない!だったら水から何でも作り放題…!」
理屈は分からないが無限の可能性を秘めたネイトの神秘を称賛するアルだが…
「いや、余り多用はできそうにないな。」
「…え?」
「見ろ。」
冷静にネイトはPip-Boyのモニターをアルに見せると…
「EMV…30%…?」
「できるはできるがあまりにも燃費が悪すぎる。この様子だと満タンからでもできて3~4回が限度だろう。」
やはり、大規模クラフトとは一線を画す理外のクラフトには相当なEMVを消費するようだ。
バケツ一杯の水を変換してこれならばそう乱発できたものではない。
「すまないがもう一杯汲んできてもらえるか?」
ともあれあまり好ましくはないがEMVの大量消費方法の発見もできた。
先ほどと同じように水を耐衝撃ファイバーに変換したところでちょうどEMVもカンバンとなりヘイローも消滅。
結果として58%のEMVと引き換えに…
「ふむふむ…これでまた耐衝撃ファイバーには少し困らなくて済むな。」
大量の耐衝撃ファイバーを入手。
「それじゃ本題ということで…。」
次に預かっていたアルのコートを『アーマー作業台』に乗せガコンッ!とクラフト。
「ほら、アル。できたぞ。」
「…へ?できたって…何が?」
何かしたようだが外見は一切変化がないコートにアルは首をかしげる。
「じゃあちょっと証明しようか。」
そう言うとネイトはアルのコートを近くにあったボックスに掛け、
「耳塞いでろよ。」
「…え?」
愛用のアサルトライフルを取り出しコート目掛け構え…
「ちょ、ちょっと兄さ…ッ!」
嫌な予感…というか次に起こることを察知したアルの制止も間に合わず躊躇なく連射。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーッ!!!」
便利屋創業から愛用してきたコートに弾丸が叩き込まれ絶叫するアル。
ムツキとカヨコも絶句している。
しばしくぐもった銃声が響き…
「…よし。」
「いやよしって兄さんッ!!?」
何やら納得したようなネイトにさすがに食って掛かるアル。
しかし…
「…あ、あれ?」
「あ、アル…コート見て…。」
「なによ、ムツキにカヨコ!?…ふぇ?」
いまだに言葉を失っているムツキとカヨコに促されコートに目をやるとその気勢は一気に失われた。
見ると…コートには所々が鈍く光っている以外に一切変化がない。
「驚かせてすまんな、兄妹。」
一言詫びてネイトはコートを手に取り手で軽く払うとカラカラと潰れた5.56㎜弾が地面に落ち、
「どうだ?解れ一つないだろ?」
「え…えぇ~…?」
一先ず無事だったコートが再び手元に戻ったが状況が呑み込めずフリーズしっぱなしのアル。
自分のコートは確かに厚手の生地だが銃弾など到底防げるようなものではない。
「…どういうことなの、ネイト兄?」
「種明かしをすると…アルのコートを『アーマー化』したといったところかな。」
『バリスティックウィーブ』、戦前世界の諜報組織『アメリカ国防情報局』が遺した技術だ。
衣服の外見をそのまま繊維を『耐衝撃ファイバー』に置換し防弾・防刃だけでなく防レーザー・防プラズマと言った様々な攻撃に対して凄まじい防御力を付与する技術だ。
人造人間解放を目指す地下組織『レールロード』が入手し同組織のエージェントでもあったネイトもクラフトできる。
「俺の普段着ているこの服にも同じ加工が施されている。」
「凄いわよ、MINIMIのブラックチップ弾の掃射受けても一発も貫けなかったんだから。」
「え…えぇ…ブラックチップって1㎝位の鋼板貫けるはずなんだけど…?!」
常識外れの強度を聞きムツキも言葉少なに驚愕するしかない。
ちなみにシルバーシュラウドの衣装には元から装甲化されているうえ『人からの攻撃を15%軽減』する『アサシン』という効果が付与されているので…
「この服貫きたかったら30口径のライフル徹甲弾より上を持ってこないとな。」
「いやいや…それってもう防弾プレート越えてるじゃん…!?」
最早簡易的なパワーアーマークラスの強度を有している。
但し、パワーアーマーと違って衝撃はちゃんと通り激痛は走るので過信は厳禁だ
「さて…予想外だがこれで最終作戦の遂行が少し楽になったな。」
「どういうことぉ?」
「なに…本来だったら二人だった『かち込み』メンバーが一人増えるってことだ。」
そう言い、ネイトが今度視線を向けたのは…
「………え、私?」
便利屋のトリックスター浅黄ムツキだった。
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―――――――――
―――
時は進み、5日後の6:10。
ホシノと別れたネイトは基地の外郭部に向かい、
「来い、二人とも。」
「はぁい♪」
「いっくよぉ~!」
バレーのトスの要領でノノミとハルカを壁の上まで飛び上がらせ自分も引っ張り上げてもらい基地の外へ脱出。
さすがにこの時間にはデモ隊もおらず悟られることなく三人は暗闇の平原を駆け抜け…
「あッ!あの車ですよぉ!」
「さすがはMr,十六夜。ばっちりな場所だ。」
基地から少し離れたドライブインに一台のバンが止められていた。
確認するとルーフにはしっかりとアビドスの校章が描かれている。
近くには…
「お嬢様、ネイト様にお連れ様。お待ちしておりました。」
作業服を着ているがどこか品格を感じるオートマタが佇んでいた。
「爺や、お久しぶりです。」
そう、このオートマタは十六夜家に長年仕えている執事だ。
「巻き込むような…こんな頼みを聞いてもらいすみません。」
彼を巻き込みかねない作戦に協力させてしまったことを詫びるネイトに、
「いえ、私はただこの車をカイザーコーポレーション本社近くに乗り捨てるよう旦那様に申し付けられただけのこと。その車にどなたが乗り込んでようと…私の関知するところではございません。」
飄々とした様子で自分は運転するだけだと言ってのける執事。
「…感謝します。」
ネイトは今度は謝罪ではなく感謝を述べ深々と頭を下げる。
「さ、早くお乗りください。」
「よろしくお願いします、爺や。」
「お世話になりま~す!」
短い会話を切り上げそそくさと三人はバンに乗り込みD.U.に向かう。
時間は少々進み7:40、場面は変わって…D.U.市内。
その路地裏にて…
「…あ、もしもし?兄さん、こっちは位置についたわ。」
《アルか。そっちはどうだ?》
別動隊を率いているアルがネイトに連絡を取っていた。
彼女たちがどこにいるかというと…
「どうやらPMCは全員コーポレーション本社の警備に回っているようね。全く、自分たちの会社だってのに無防備にもほどがあるわ。」
同じD.U.内にあるカイザーPMCの本社が見える場所だ。
カイザーコーポレーションの力の象徴だというのに今や人の気配はまるでなく廃墟のような雰囲気を醸し出している。
…ネイトが社員の大半を排除したせいともいえる。
《よし、内部構造は把握しているな?》
「えぇ。でもこんな正確な構造図なんてどこで手に入れたの?」
アルが広げているのはカイザーPMC本社ビルの見取り図だ。
柱の位置や間取りに家具の設置状況まで正確に記されている。
普通この手の会社の見取り図など秘中の秘のはずだが…
《なぁに、ミレニアム謹製のデバイスのおかげさ。》
それができる装置をネイトは有している。
『F・ハカールくん』、エンジニア部が開発した延べ床面積を外部から計測する装置だ。
本来なら床面積を図るだけの装置だがつまるところ『設置物』を除外し床面積を計測する仕組みだ。
裏を返せば…設定をいじくれば設置物込の内部構造を外部から計測することができるというわけだ。
ネイトはその仕組みを利用、休戦期間中に秘密裏にこの装置を搭載したドローンによってD.U.内のカイザーコーポレーション主要施設の構造を丸裸にしていたのだ。
《ともあれやることは分かっているな?》
「もちろんよ。アウトローたるもの、義兄妹の頼みを完璧に遂行して見せるわ。」
《よく言った。頼んだぞ、兄妹。》
「…さてカヨコにハルカ、それにアビドスの皆。行動開始よ。」
通話を切り、後ろを振り向くと…
「やれやれ、やっと便利屋68らしい仕事の時間だね。」
「や、やっとこの前の借りを返せる時が来ましたね…!」
装備を準備し意気込むカヨコとハルカと、
「いやはや…ホントにこんなとこまで来ちまうとはなぁ。」
「親分に会う前までは考えたこともなかったぜ…。」
数名の隊員、その姿は戦闘服ではなく作業服を着こんでいる。
と、そこへ…
《こちら、『配送人』。『入場パス』の郵送を差し止めた。繰り返す郵送を止めた。》
「こちら、『誤送荷物』。了解したわ、こちらも配送を始めるわね。さぁ皆乗り込んで!」
さらに別動隊の隊員から通信が入り、アル達は用意していた…『清掃会社』のロゴが書かれたトラックに乗り込み発進。
少し進むとわき道に前輪がパンクした同じ清掃会社の車両と嘆いている清掃員の姿があった。
アル達が乗っている車はそのままカイザーPMC本社、その地下駐車場へ続くスロープに進入。
「やぁどうも、今日はなんだか静かだな。」
運転手をしている隊員が自然な態度で自身のパスを守衛に差し出す。
「全くだ。戦争のおかげで内勤職員は逃げ出しちまって開店休業状態さ。」
「おいおい、こんなデカいビルが無人なのか?」
「そう言うこった。アンタ等も大変だな、こんな時に清掃なんて。」
「うちの上司がいつも言ってんだ。『実直な仕事には、ふさわしい報酬を』ってな。ちゃんと給料出るなら俺達は仕事するだけさ。」
「うちの上司にも見習ってもらいたいもんだな。…よし、行っていいぞ。」
偽造されたパスは問題なく読み取られ隊員は地下駐車場に侵入。
搬入場所に乗りつけ清掃道具が乗せられたワゴンを二台引っ張り出し貨物用エレベーターに乗り込んだ。
「…よし、俺はサーバールームに向かう。監視室は任せたぞ。」
「おう、そっちもしっかりな。」
各自各々の役割を確認し、それぞれの階層に分かれる。
サーバールームに向かったワゴンはしばし進み…
「着いたぞ、そっちはどうだ?」
目的の場所にたどり着き通信を飛ばすと…
《つ、着いたけどちょっと待て!は、ハルカお嬢!やりすぎ!》
《アル様を馬鹿にした奴の部下なんてっ死んでください死んでください死んでください…!!!》
《は、ハルカあああああああ!!?やめて、もうその人意識ないわよぉぉぉ!!!》
無線の向こうは大騒ぎ、何か固いものを何度も叩きつける音が届いてきた。
「…あぁ、制圧できたってことでいいんだな?」
《お、オウ!監視室は制圧した!こっちも大急ぎで取り掛かるから!社長、お嬢止めるの手伝って…!》
「…大変なんだな、便利屋も。」
何はともあれ向こうも目的を果たせたようなのでこちらも行動開始。
「やっぱりあぁなっちゃったかぁ…。」
ワゴンの下からカヨコが抜け出しサーバールーム入り口わきにあるカードリーダーに…
「頼むよ、『理事』…!」
懐から取り出したIDカードを通すとロックが解除された。
「やった…!」
「それじゃ任せたぜ、カヨコの姉御。俺は…監視室の連中を止めてくる。」
「あぁ…うん、お願い。」
カヨコと隊員はそこで別れ、
「えぇ…とこれだ。」
カヨコは目的のサーバーを発見、手早く持ってきていたデバイスを接続し作業を始めた。
一方、
「フーッ!フーッ!フーッ!」
「きっ気はすんだかしら、ハルカ…!?」
「…はい、アル様…!まんぞくです、まんぞく…!」
監視室内、そこにいたオートマタの頭部の形が変わるくらいストックで殴りつけたあたりでアルに羽交い締めされようやくハルカは止まった。
「よっよし!じゃあ掃除準備に取り掛かるぞ!」
何はともあれこれでビル内を自由に動けるようになった。
こちらに付いて来ていた隊員がワゴンの覆いを外すと…そこには大量のC4が積まれていたのだった。
――――――――――――――
8:15…
「では、私が同道できるのはここまでです。」
「ありがとうございます。ではすぐに退避を。」
「承知しました。皆様、ご武運を。」
ネイトたちが乗ったバンはカイザーコーポレーション本社から数百mほどの場所に停車。
ここまで運転してくれた爺やはここで離脱する。
「よし、ノノミにムツキ。準備しろ。」
「ハァ~イ♪」
いよいよその時が近づいてきた。
ネイトはX-02を斜めに立てかけて乗り込みノノミも愛用の防弾装束を着込み始め、
「う~ん…この前見たけど…。」
「何やってる、ムツキ。早く着ておけ。」
「う、うん。」
半信半疑でムツキも用意された防弾装束…エプロンのようなノノミと違い彼女らしい『ゴスロリ』風デザインのそれを着込み始める。
そして、戦闘準備が整い…
「それじゃ…っと。」
ヘルメットを脱いだネイトは持ってきていたノートPCとアクションカメラを取り出し操作を開始し、
「…やぁ、キヴォトスの皆。5日…ぶりか。どうも、W.G.T.C.社長のネイトだ。」
先日、配信のために取得したアカウントで再びライブ配信を開始する。
時間も時間でしょうがないが…そこそこの視聴者数が観に来てくれている。
「さて、今日で休戦から5日目。いよいよ再度戦闘が始まるわけだが…。」
このタイミングで配信を始めて何をやるかというと…
「今からカイザーのプレジデントに生電話をしてみようと思う。」
まるでどこぞのストリーマーのようなことを浅く笑いながら宣言しコメントの反応を見ることなくスマホに番号を入力し…
「…やぁ、プレジデント。良い朝だ、決着をつけるにはもってこいの日和だ。」
《き、貴様ネイト…!き、貴様まだ休戦中のはずでは…!》
ハンズフリーモードでプレジデントとの通話を始める。
あちらの動揺っぷりと話の内容から察するに…
(やはり…カイザーか連邦生徒会…いや防衛室の配下があの中にいたのか?)
部隊が出発したことはすでにプレジデント側に伝わっているようだと判断。
「まだ一発も撃っていないぞ?よって休戦協定は破られていない。第一…そっちも部隊をかき集めておいて俺がダメとは言わんよな?」
その結論を確かめるように皮肉交じりに部隊移動について揺さぶりをかける。
あちらからの回答は…沈黙。
(ということは…『草』を潜り込ませていたのは正解か。…まぁ、うちも言えた義理ではないがな。)
ネイトもD.U.内にドローンを送り込んでいたのでそのことを指摘するのをやめ…
「教えてくれ、プレジデント。残りの兵力はどのくらいだ?」
カイザーの現状についてからかうように尋ねるネイト。
《この…貴様が何をやったか…?!》
「お前が伸ばした足を全て粉々に切り刻んでやった。あとは…お前たちを叩き潰してやるよ。」
《いいだろう…!早くここまで来い、用務員…!》
虚勢か、プレジデントがそう答えたあたりで外の様子が騒がしくなってきた。
無理もない。
カイザーPMCは現在殺気立っている。
しかもニュースだとカイザーグループを狙った襲撃も続発している。
そんなところに運転手が乗り捨てていったバン、しかもパワーアーマーを取り出したことによって大きく車体が沈んだものとなれば…
「心配するな。…もう来ている。」
《…は?》
「車両から降りて来い!!!」
「さもなくば発砲するぞ!!!」
間抜けなプレジデントの声と打って変わって殺気立ったPMC社員達がこちらに降車を呼びかけてくる。
「ねぇ、ネイトお兄ちゃん!こんな服でちゃんと防いでくれるの!?」
防弾ゴスロリを着込んだがそれでもぶっつけ本番の事態に珍しく動揺気味のムツキ。
そう言いつつ、『ファンシーウィルオウィスプ』を装着した『トリックオアトリック』や愛用のバッグの準備を整えつつな辺り荒事慣れしている。
「耐久性は折り紙付きですよ、ムツキちゃん♪私がいつも着ているものと一緒ですから♪」
一方、防弾エプロンの性能を身をもって知るノノミはムツキを安心させるように笑顔で答える。
得物の『リトルマシンガンV』と『マイクロボンバーG』の複合銃の動作チェックも抜かりがない。
「カヨコ、システムの侵入準備は?」
《やってるよ、ネイト兄…!でもパス有りとはいえこんなデカいとこに入り込むなんて初めてでね…!》
ネイトは無線でカヨコに呼び掛けるとまだ目的には達していないようだ。
その時だ。
「構わん、撃てぇ!!!」
呼びかけを無視し続けたせいか、しびれを切らしたPMC社員がとうとうバンに向け発砲。
装甲板があるおかげで貫通こそしないものの車内に響く着弾音は正直心臓に悪い。
「うひゃぁ!私達だって気付いてないのぉ!?」
一応、ルーフにはこちらの所属を示すアビドスの校章が描かれているはずなのに遠慮なしに撃ち続けるPMC社員に驚愕するムツキと、
「みたいですねぇ♠あ~ぁ、さきに撃ってきちゃいましたねぇ~♠」
悪戯が成功したかのような楽しそうな笑みを浮かべるノノミ、
《…ヨシッ入り込めた。監視カメラの映像だよ。重役たちは会議室、プレジデントは上階の執務室に…防衛室長と一緒にいるみたいだね。》
「了解した。各員に告げる。決着をつけよう、ここを奴らの蛸壺にしてやれ。」
カヨコの無線を聞きネイトもヘルメットを被り、指で小突いてきちんと装着できているかをチェックする。
搭載されているHUDにはカヨコがリンクしてくれた監視カメラの映像が映し出されていた。
(…なるほど、6カウント。なんとも懇意な間柄なようで。)
こんなタイミングで会談など生半可な関係性ではできないだろう。
ネイトの想像以上にカイザーグループと連邦生徒会防衛室は繋がっているようだ。
「二人とも、準備はいいか?」
そう言いつつネイトも自身の得物の最終チェックを行う。
ミニガンのほかにガトリングレーザー、プラズマ放射器、ガウスライフルにロケットハンマーという大盤振る舞いだ。
投擲物には基地攻略の際にも使用した105㎜砲弾の弾頭を持ってきている。
「フゥ~ッ!こうなったらド派手に暴れちゃうよ!」
「オペラのフィナーレは豪華と相場が決まってますからね♡」
迫る開戦に装備を持ち立ち上がったノノミとムツキのボルテージも最高潮だ。
その返事を聞きネイトは自身を映していたアクションカムをヘルメットの側面に装着し、
「さぁ、出撃だ。This is for Abydos.」
ショルダータックルをバンの後部ドアにブチかまし外に躍り出た。
「な、なんだ…!?」
突如姿を現したネイトの姿に驚愕するカイザーPMC社員だが、
「Hooah!!!かかって来い、ブリキの兵隊共!!!」
一番槍でネイトがバンに発砲していたPMC社員にガトリングレーザーを発射。
数体のオートマタは一瞬のうちに灰の山になり果てた。
「カイザーの皆!びっくりさせてあげるからねぇ~!」
「ノノミ~行きま~す♠お仕置きの時間ですよ~☆」
続いてムツキとカヨコも各々の得物を乱射、手あたり次第にカイザーPMCの隊員を撃ち抜いていく。
ミニガンに汎用機関銃にガトリングレーザーから放たれる弾丸と光線の嵐。
「Move move!!!恐れるな、誰も俺達を止めることなんてできない!!!」
そんな中を一歩一歩踏みしめながらネイトたちはカイザーコーポレーション本社ビルへと迫る。
アビドスVSカイザーコーポレーション、最終決戦のゴングはあまりにも派手に打ち鳴らされたのであった。
兵は詭道なり
―― 『孫子』より