おだやかに話せ、されど太いこん棒は手放すな。
―――第26代アメリカ合衆国大統領『セオドア・ルーズベルト』
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「今回の講和会議の内容はすべて記録と録音いたします。両陣営、この事に異存はありませんね?」
「アビドスは問題ないよぉ。」
「我々も…問題ない…。」
ミレニアムが調停役として始まった講和会議。
「それでは…まずはアビドス高校からカイザーコーポレーションに対する要求を述べてください。アビドス高等学校生徒会副会長小鳥遊ホシノさん、お願いします。」
「分かったよぉ。」
ユウカの進行でまずはアビドス高校代表のホシノが席を立ち…
「…では読み上げる。我々、アビドス高等学校はカイザーコーポレーション及びそのグループ企業に対し以下のことを要求する。」
昼行灯から一変し戦場で纏う鋭い雰囲気を纏い堂々と要求文を読み上げ始める。
『…!』
あまりに急変したホシノの雰囲気にユウカとノアも目を見開く。
「一つ、カイザーコーポレーション及びグループ企業は所有権を持つアビドス自治区の土地及び不動産を全てアビドス高校に返還すること。」
『…ッ!』
開口一番、カイザーが戦争を仕掛けてでも手放したくなかったアビドス自治区の土地の返還要求にプレジデントの表情がゆがむ。
…当然、これだけで済むはずがない。
「一つ、カイザーコーポレーションの軍事部門『カイザーPMC』の軍備について以下のように制限する。まずは陸上戦力は歩兵2個大隊、機甲戦力1個大隊、砲兵3個中隊、パワーローダー1個中隊を上限とし大型兵器『ゴリアテ』の保有は一切認めない。」
ホシノから語られるカイザーPMCへの軍縮の要求。
規模自体はそこそこあるようだが…
(開戦前が総戦力一個軍団に届きそうなカイザーPMCからしたら見る影もないわね…。)
歩兵戦力だけでおよそ1/15、機甲戦力に至っては1/20程という非常に厳しい軍縮要求だ。
しかも、機甲戦力は装甲車も含めての数であるとすると戦車の数はもっと少なくなるだろう。
「次に航空戦力。物資運搬等に用いる輸送ヘリ及び汎用ヘリの保有を二個中隊、戦闘ヘリの保有は一世代旧式の物を一個小隊に制限する。ドローンに関しては積載量300g未満の物に限定する。」
続けて航空兵器に関する軍縮の要求も伝えるホシノ。
(航空兵器もかなりの制限ですがこのドローンの積載量制限…暗に攻撃型ドローンの保有禁止を言い渡しているようなものですね…。)
これまた開戦前からすると見る影もないほどの容赦ない軍縮要求である。
もっとも現状はこの要求以下の勢力しか保有していない上補給体制も完全に破壊されているのでこの戦力に達するのにも時間がかかるだろう。
「一つ、カイザーコンストラクションはアビドス自治区内の公共及びインフラの事業の権利をアビドス高校に譲渡すること。この手続きの費用はそちらで負担するものとする。」
続けてカイザーコンストラクションが保有していたアビドス自治区内の事業を引き渡すよう伝える。
これでアビドス自治区内で暗躍していたカイザーコンストラクションを完全に排除しようというのだ。
だが、アビドス高校単体が各種事業を引き継いでもそれを存続維持するノウハウがないはずだが…
(…なるほど、事業の委託先はあそこね…。)
(これであの企業がアビドスに舞い戻るには十分すぎる大義名分ですね…。)
ノアとユウカはそれが可能な委託先、それもアビドスにも近しい相手に心当たりがあった。
「一つ、アビドス高校並びにW.G.T.C.は本日より2ヶ月以内にカイザーPMC本部基地から退去し、カイザーコーポレーションに返還する。なお、基地機能の復旧に関してはこちらの責任ではないものとする。」
次にホシノが述べたのは現在アビドスが占領し利用しているカイザーPMC本部基地の扱いについてだ。
確かに基地機能は優秀だが…何時までもあそこを占領しているわけにもいかない。
ただでさえアビドスの人員は少ないのに実に半数近い戦力があの場所にとどまっているのだ。
戦争が終われば早々に撤収するに限る。
が、
(多分…根こそぎ持っていかれてるんでしょうね…。)
(ネイトさん達がアレをそのままにしていくわけないですしね…。)
帰った後の基地の様相を想像し若干気の毒に思う二人なのであった。
と、これまででもカイザーからしてみれば途轍もなくきつい要求だが…
「一つ、カイザーコーポレーション及びグループ各社はアビドス高等学校に対し賠償金を支払うこと。」
とうとうカイザーに対する賠償金の請求が始まった。
「額は以下に定めるとおりとする。
・アビドス市民及び企業への賠償金として総額2700億円
・アビドス高等学校に対する賠償金100億円
・今回の戦争の各種戦費200億円
総額3000億円の支払いを要求する。支払期限は本年の12月31日とする。」
『~ッ!?』
ホシノから語られるその賠償額はカイザー側の表情をこわばらせるのに十分であった。
(さ、3000億…!?カイザーでもなければ破産確実じゃない…!?)
さしものユウカもこの金額を聞いて目を見開く。
と、同時にこの金額ならミレニアムだと何ができるかと脳内でそろばんをはじいていた。
確かに超高額な賠償金だが…相手はメガコーポであるカイザーコーポレーション。
決して払えない額ではない。
(大半は市民の方々への賠償金ですが…どういった意図が…。)
それよりもノアが気になったのはアビドス高校自体が受け取る賠償金だ。
無論、これも高額だが…戦争の主役を担った割には非常に控えめだ。
戦費に関しては出費の補填なので利益にはなり得ない。
「カイザーコーポレーション及びグループ各社は上記の要求全てを確実に実行すること。」
そんな中、要求を読み終えたホシノはカイザー側の出席者を射抜くような鋭い視線で見据えてこう宣誓する。
「最後に…これまでの要求を承諾できない場合、もしくはどれか一つでも守る気がないと認められた場合…アビドス高校並びにW.G.T.C.は
一息にこの言葉を言い終えホシノは席に着いた。
カイザーがもしこれまでの要求を護らなければ…待つのは完全な破滅だ。
すると…
「…少しいいだろうか?」
「…何さ?」
現在カイザーPMCを取り仕切っているジェネラルが手を上げる。
「軍縮の件だが…これは我々のこれからの業務に大きく支障が…。」
立て直しも厳しいが規模が規模だ。
このキヴォトスではあまりにも心もとない兵力であるが…
「…ねぇひょっとしてそっちがこれから仕事続けていけるのは『当然』とか思っちゃってるの?」
「なっ…?!」
「本当ならカイザーPMCは解散させてもいいんだけどアナタ達みたいな『卑怯者』の集団でも必要な人たちがいるから残してあげてるんだよ?」
「ひ、卑怯者だと…!?」
悪態を混ぜつつホシノは『お情け』の軍縮だとジェネラルに返す。
PMCとは何も軍事行動だけが業務ではない。
キヴォトスにはかつてのアビドスほどではないにしろ小規模かつ戦力不足な学校が数多く存在している。
そんな学校の頼みの綱がカイザーを代表とするPMCだ。
カイザーPMCをお取り潰しにするのは簡単だ。
だが、これからもこの会社の力が必要になるであろう学校はどうすればいいか?
「幾らアビドスが以前苦しかったからって言って他所の学校にそんな経験をさせるわけにはいかないからね。それがいかに卑怯者の集団でも必要なのさ。」
軍縮すれど完全に潰さないのは他の学校のため。
キヴォトスにこれ以上余計な混乱を生み出さないかつ自分たちに噛みついて来た牙を抜く処置のための軍縮だと言ってのけたホシノだが…
「さ、先ほどから我々が卑怯者と言っているがどういうつもりだ!?」
彼女が先ほどから述べている『卑怯者』という呼びかたに激昂するジェネラル。
さらに、
「わ、私からもよろしいでしょうか…!」
「…今度は何?」
今度はカイザー側の財務担当者が手を上げ意見を始める。
「た、確かに要求は分かりました…。しかし、3000億という賠償金はいささか…。」
やはりというか賠償金に関する値切り交渉が始まった。
が、
「アビドスにいきなり宣戦布告を仕掛けて自治区市民の生活を脅かしたのに値切ろうっていうの?」
「いっいえそう言うわけでは…!」
「アビドス自治区内の全世帯に一律で給付、さらに避難してきた世帯や協力してくれた企業各社には追加すると考えるとこれでも全然控えめなんだけど?」
ホシノはその担当者に賠償金の中のアビドス市民に対する分についての説明をして…
「アナタたちが仕掛けてきた戦争のせいでアビドスの皆が迷惑どころか生活の危機になってたのに…それを償うのが嫌だと?」
一歩も退かないという固い意志を鋭い視線に込めて担当者に問う。
とても高校生とは思えない迫力に、
「そ、そのようなつもりは一切ありません!」
担当者は慌てて先ほどの言葉を撤回した。
すると…
「…でも、そうだねぇ。『ある条件』を飲んでくれるんなら少しはこの条件を譲歩してもいいよ。」
なんとホシノのほうから講和条約の譲歩を提案してきた。
「そ、その条件とは!?」
厳しい軍縮と莫大な賠償金の譲歩ということで沸き立つカイザー側の参加者。
プレジデントもその表情が和らぐほどだ。
「条件はただ一つ…私達がこの資料を一切誤魔化すことなく公にすることだよ。アヤネちゃん。」
「はい、ではこちらをご覧ください。」
ホシノがアヤネに指示しある資料をカイザー側の参加者の前に置いていく。
「拝見させてもらう。」
一体どんな資料かとプレジデント筆頭にその中身を検めると…
『~ッ!?』
全員一様に全身を強張らせその目を大きく見開いた。
「ど、どうしてこれを…⁉」
声を震わせながらプレジデントは問いかける。
この資料の内容には見覚えがあった。
具体的に言えば…6日前だ。
だが…それは大金を支払いすでに闇に葬ったはずだ。
そのはずだった。
だが…それと全く同じ内容の資料が今ここにあるではないか。
その内容は…
「心当たりはあるでしょ?なんたって…そっちが『自作自演』で宣戦布告の返答なしにこの戦争を始めた決定的な証拠なんだからさ。」
カイザーコーポレーションが行った偽旗作戦の詳細なデータであった。
そして…この資料の作成者欄にはこう書かれてあった。
『共著:ミレニアムサイエンススクール及びゲヘナ学園』と。
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――――――――――
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時を遡ること7日、ネイトが単騎でカイザーPMC本部基地に奇襲を仕掛けるために飛び立った頃。
開戦初頭、先ほどまでカイザーの進行部隊と激戦を繰り広げていたアビドス防衛部隊。
その中でも『第5防衛部隊』と『第6戦車小隊』はある地点を誰も立ち入らせないように守護していた。
アビドス側でのその場所の通称は…『ホットスポット』。
その場所で…
「土壌サンプルってこれくらいでいい?」
「はい、ありがとうございます。」
「ごめんなさい!すこしそこ避けてもらえますか!?」
「あっすみません、すぐに退きます。」
メイド服を着た生徒と黒い軍服風の制服を着た生徒が入り混じり何やら調査や測量を行っていた。
少し離れた場所で…
「いやはや…楽に済みそうでよかったですね。」
「『イロハ』さん、コーヒーのお替りはいかがですか?」
「あぁ。ありがとうございます、『アカネ』さん。」
『イロハ』と呼ばれたボリューミーな赤髪の生徒がこれまたメイド服の『アカネ』と呼ばれた生徒から甲斐甲斐しくお世話をされていた。
数時間前、
「…ッ!来たぞっ!」
周囲を警備していた生徒の一人が空を見上げて叫ぶ。
遠方を見ると…こちらに近づいてくるヘリが一機。
まるで夕闇に紛れるように接近してきたヘリは生徒たちから少し離れた場所に降下。
そのヘリから降りてきたのは…
「…め、メイド…?」
戦場の空気が抜けきらないこの場には似つかわしくない…メイド服を着た集団だった。
そんなメイド服を着た集団が何やら様々な機材をヘリから下ろし点検している。
戸惑いながらも…彼女たちは敵ではないので武装を構えないで待っていると…
「あなた方がW.G.T.C.の部隊の生徒の皆さまでしょうか?」
そのメイド服集団を率いる肩に『03』と刺繍された物腰柔らかそうな生徒が声をかけてきた。
「あ、あぁそうだ。それで…。」
「お初にお目にかかります。わたくし共はミレニアムサイエンススクール『メイド部』、この度はセミナーより要請を受け調査に参りました。私、代表を務めますコールサイン『ゼロスリー』、室笠アカネと申します。」
先頭に立つメイド服の生徒『室笠アカネ』は警備中の生徒にうやうやしく頭を下げ自己紹介をする。
それに倣い後方に控えるメイド服の生徒も丁寧な所作で頭を下げた。
ミレニアムからの派遣調査員、無論彼女たちの能力を疑うわけではないが…
(((((ぜってぇー『メイド部』とか嘘だろ…。)))))
その場にいたアビドスの生徒たちは内心ツッコむのであった。
昼行灯なホシノやつかみどころのないネイトと日々触れ合ってるからわかる。
この場にいるミレニアムからの派遣調査員…特にアカネはただ者ではないと直感でわかった。
「あ、あぁよく来てくれた。早速調査に入って貰ってもいいか?」
「承知いたしました。では案内をお願いできますか?」
「ついてきてくれ。」
何はともあれ待ち人は来た、生徒の一人がアカネたちを目的地『ホットスポット』へ案内する。
「しかし…まさかミレニアムが来てくれるなんてな…。」
道中、アビドスの生徒がアカネにそう声をかける。
対外的にミレニアムはこの戦争に不干渉を貫いている。
彼女たちがここにいること事態がおかしいのだが…
「うふふっ、これはセミナーを経由したW.G.T.C.からの『ご依頼』です。それならばわたくし共が動くのは何も問題ありませんよ。」
彼女たちがここにいるのは『仕事』としてで正式な戦争協力ではない。
そして、ここに来ることになった一番の要因は…
「それに…『あの子』の想いがミレニアムを動かしたんですよ?」
どこか含みのある微笑を浮かべアカネはそう答えるのであった。
「あの子?」
「いえ、こちらの話ですのでお気になさらずに。」
そんな会話を交わしているうちに…
「着いたぞ。ここが『ホットスポット』だ。」
林を抜け開けた場所に出た。
そこはテントの残骸と地面にいくつかのクレーターが刻まれた場所だ。
「ここが…この戦争が始まった『爆心地』なのですね。」
「あぁ…カイザーの早漏野郎が仕掛けてきやがったんだ。」
「まぁ、女の子がそんな言葉使ってはいけませんよ?」
そう、この場所こそ宣戦布告の期限前に砲撃が撃ち込まれた場所なのだ。
カイザーが大々的にアビドスの仕業だと喧伝しているが…
「メイドさんよ、頼む。アビドスの…アニキの無実を証明してくれ…!」
「…承りました。わたくし共も抜かりなく調査いたします。」
アビドスの潔白を証明するためにミレニアムに科学的な調査を依頼したのだ。
第三者の組織、しかも科学技術の総本山のミレニアムの調査だ。
信憑性は言うまでもないだろう。
「では調査に取り掛からさせていただきますね。」
早速アカネたちは機材を設置しこの場所に残る痕跡の調査に入った。
…その時だった。
《こ、こちら西部警戒部隊!》
「どうしたッ!?」
別方向を警戒中の生徒から火急の無線が入る。
《こちらから戦車二個小隊とトラック数台が接近中!》
「なッ!?カイザーかっ!?」
内容はここに向け戦車が近づいてきているというもの。
この時世的にカイザーの第二陣の可能性が考えられるが…
《違うッ、カイザーじゃねぇ!》
どうやら予想は外れていたようだ。
だが…
「じゃあどこなんだ!?」
《戦車の車種はティーガーⅠ!『万魔殿』の主力戦車だ!!!》
「ぱ、万魔殿だと!?」
ある意味ではカイザーよりも厄介な相手『万魔殿』の所属戦車だというではないか。
「おい、手を出すなよ!戦車隊は西部方面に集結しろ!」
自分たちの装備なら撃破は容易く、M1A4E2 Thumperの相手にはならないだろう。
だが手を出したが最後、それはゲヘナへの宣戦布告に他ならない。
しかもここは若干ゲヘナの自治区に入った場所。
あちらを止める権限は自分たちにはない。
慎重な対応が求められる。
「すまんがメイド部の皆はここで…!」
アビドスの生徒はアカネたちをその場に残し西部方面に向かおうとするが…
「いえ、私も同行しましょう。」
「えぇッ!?」
アカネも付いてくることになってしまった。
数分後、M1A4E2 Thumperの到着も完了し土嚢で作った簡易トーチカで待ち構えているとこちらの戦車の物とはまた違った地面の揺れが発生。
そして間もなく…それは現れた。
まさしく『鋼鉄の猛獣』。
『ティーガーⅠ』、キヴォトスにおいて最上級の重戦車だ。
ネイトがこの場にいたら自分が戦った戦場から140年前の自分の高祖父の一人が戦ったヨーロッパの戦場に思いをはせていただろう。
その数八両二個小隊、さらに後続のトラックから万魔殿の制服を着た生徒たちがぞろぞろと降りてくる。
そして、先頭にいたティーガーⅠのハッチから同じく万魔殿の制服と制帽を身に纏った二人の生徒が身を乗り出した。
「フゥ~ようやくつきましたね…。ってあらら…これは少々面倒な…。」
一人はダウナーな赤いボリューミーな髪の少女。
「ややっ!なんだかめちゃくちゃ警戒されてますよ、イロハちゃん!」
もう一人はカメラを首から下げた長い黒髪の陽気な少女だった。
「こちらはW.G.T.C.の部隊だ!そちらの所属を述べよ!」
トーチカから声を上げ彼女たちに誰何するアビドス生徒。
「…あぁ~これは私が答えたほうがよさそうですね…。」
赤髪の生徒が気だるそうに車内から拡声器を取り出し、
《えぇ~こちらは万魔殿戦車隊、戦車長の『棗イロハ』です。》
彼女『棗イロハ』は自身をこの戦車隊を率いる戦車長だと答える。
《そちらの代表者はいらっしゃいますか?》
「…アタシだ!」
イロハの呼びかけでこの場を任されている生徒がトーチカから出る。
イロハともう一人の生徒も戦車から降りて歩み寄ってきた。
「イロハ…だったな。そしてそっちは…。」
「どうも!万魔殿で書記やってます『元宮チアキ』と申します!早速ですが写真一枚いいですか!?」
言うが早いかこちらの了承を待たずにもう一人の生徒『元宮チアキ』が首から下げたカメラでこちらを撮影する。
「え、えぇ?」
「やめなさい、チアキ。今日は取材じゃないんですから。…それで、あなた方はここで何を?」
「…アタシらはこの場所の警備を任せられている。そっちは一体どういったようでここへ?」
隠すことでもないので正直に答え今度はイロハたちに来訪の理由を尋ねると…
「私たちはマコト議長の命を受け…この戦争の開戦の原因である爆発の調査に来ました。」
イロハも隠すことなくあっさりとこの大部隊でやってきた理由を明かした。
「調査…?」
「何せ境界ギリギリですがここはゲヘナ。ここで起こったこと…それもこんな戦争を引き起こした爆発について調べるのは当然のことです。」
言われてみればおかしいことはない。
ゲヘナからしてもこのホットスポットで起こったことは寝耳に水のはず。
それも自治区が未確認勢力に砲撃されて放置すればそれは万魔殿の沽券に関わる。
イロハたちがここに来たのは半ば当然ともいえる。
「では、次は私からあなたに質問です。…W.G.T.C.はこの場に部隊を展開しいったい何を?」
「それは…。」
今度はイロハが自分たちがなぜここにいるかを尋ねられ答えようとした、その時…
「こんばんは、万魔殿の皆さま。」
「ちょッ!?」
「これはこれは…。」
アカネが音もなく近づいてきていた。
「見たところ…ミレニアムの方ですね?」
「お初にお目にかかります。ミレニアムサイエンススクール『メイド部』に所属しております『室笠アカネ』と申します。」
「おぉッ?!ミレニアムのメイド部と言えば…!」
「…なぜ、あなたのような方がここに?」
万魔殿所属のためアビドスの一般生徒よりも持っている情報が多いためか、チアキとイロハの警戒度が跳ね上がる。
後方にいる万魔殿の一般生徒たちも俄かに物々しい雰囲気を帯び始めた。
(やっぱただ者じゃねぇ…ってことか。)
「…私からご説明しても?」
「…いや、いい。ウチからの依頼でミレニアムであの場所の調査をやろうとしていたところだ。」
下手に隠すのはまずいと感じ素直にアカネがここにいる理由を明かす。
「おや、キヴォトスのルールは御存じのはずでは?」
「えぇ、『他学区での他学校の部活の活動』はご法度…ということですね?」
「知っているのであれば…なぜここに?」
気だるげながらも目線を鋭くしながらイロハはアカネに問う。
つい先日もそのせいでアビドスとゲヘナ風紀委員会の間で衝突が起こったばかりなのだ。
タイミングもタイミングで非常にデリケートな問題である。
そんなイロハの視線を一身に受けつつ、
「ですが、わたくし共が此処にいるのはミレニアムではなく『W.G.T.C.からの依頼』が理由です。セミナーの方々は一切このことに関与しておりません。」
アカネは微笑を絶やさずにここにいる理由を答え…
「…なるほど、そんな抜け道があったとは。」
イロハはやれやれといった表情を浮かべる。
『学校』としてではなく『企業からの依頼』として。
あくまで所属がメイド部であってミレニアムもこのことに関与しておらず活動としてはメイド部ではない、と。
かなり強引な言い分だが…元より企業活動も盛んなミレニアムの部活だ。
そのような場合もあると押し切ろうと思えば…
「フム…。」
「どうしますか、イロハちゃん?」
顎を撫でながら思案するイロハ。
ほんの数秒の沈黙を終え…
「…では、こうしましょうか。あなた達と私達で共同調査を行う。得られた情報は一文残さず共有しその後の使用方法については干渉しない…といったところでどうでしょう?」
「…え?」
なんとメイド部と万魔殿で共同調査の提案をしてきたではないか。
「いいんですか、イロハさん?!」
「この状況でアカネさん達を攻撃すればW.G.T.C.の彼女たちを対処しなければならないでしょう。あっちとあっちを見てください。」
イロハが指さした方向を見ると…距離にして2㎞程の距離に左右に2両ずつの戦車がこちらに狙いを定めているではないか。
「ややっ!なんと挟み込まれてますか!」
「中継で見ましたが…こちらの『虎丸』が手も足も出ないような戦車がいるんです。それに後方には大口径の砲兵隊も控えているでしょう。」
そう、ここはアビドスとゲヘナの境界線だ。
当然…アビドスの砲兵部隊は容易にこの場所を射程に捉えられている。
「これがアビドス高校の立場でならどうとでもできるでしょうが今の彼女たちはW.G.T.C.という企業の所属として活動しています。部活と違って企業の活動に学区間の制限はありませんからね。」
それに、とイロハは言葉をつなげ…
「議長からの命令はこの場所の調査のみ。他所の学校の部活や企業がどうしようが対処する命令は受けていませんからね。」
これまたやれやれといった表情を浮かべるのであった。
「それにミレニアムの調査なら私も十二分にサボれます。むしろ私たちの機材使っちゃっていいので測量調査もやってくれませんか?」
最後にかなりぶっちゃけた頼み事も添えて。
「…ひょっとしてそれが私らを見逃す一番の理由なんじゃ?」
「調査の許可は感謝いたします。わたくし共はそれでもかまいませんが…。」
「それだと私がここに来た意味が無くなっちゃうじゃないですか、イロハちゃん!」
「…ということですので遠慮いたします。代わりにと言っては変ですが調査中は精一杯お世話いたします、イロハさん。」
……とまぁ緊迫した空気はどこへやら。
こうしてミレニアムとゲヘナという普段は全く接点がない二大学校が手を組んでの『ホットスポット』の調査が始まったのであった。
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――――――――――
――――
「この調査の結果…私たちが『ホットスポット』と呼んでいる開戦前に砲撃があった場所から検出されたのは…。」
ホシノは自分の手元の資料を眺めつつ…あの真相を明かす。
「砲弾の種類は『105㎜榴弾』で炸薬の組成は…カイザーインダストリーが生産しているものと一致。言っとくけど…アビドスの採用している榴弾砲は155㎜と240㎜で105㎜の榴弾砲は使ってないからね。」
撃ち込まれたのはカイザーしか持ちえない砲弾で…
「さらには着弾痕の測量の結果導き出された発射地点は…ゲヘナ自治区内でアビドス側の部隊が一切展開されていない場所です。」
砲弾が飛んできた方角から考えても…アビドスの砲撃ではありえないものだった。
「…で?あなた達はこれを『アビドスからの先制攻撃』として宣戦布告もなしに攻め込んできたってわけだけど…。」
「こっこんな資料出鱈目…!」
当然、カイザーの幹部は声を荒げてこの資料の内容を否定するが…
「では、この資料を公に開示しても構いませんね?」
「そっそれは…!」
アヤネのその一言でその勢いがしぼむ。
「どうしたんですか?これは…ミレニアムとゲヘナがでっち上げて作った出鱈目な調査結果…と仰るのでしょう?」
さらに畳みかけるようにアヤネは問いかける。
これがアビドスやW.G.T.C.独自の調査であったのなら対外的にも信憑性も薄くなるだろう。
だが、この資料はこの戦争で無関係の第三勢力であるゲヘナとミレニアムが作成したもの。
それは自分たちの言葉よりもアビドス勢力の証言よりも信憑性は非常に高い。
もし、この資料が公になろうものなら…。
「もしこの資料を公にしてもいいというなら賠償金も減らすし軍縮も緩和するけど…どうする?」
資料をひらひらさせながらほくそ笑むホシノ。
厳しい講和の条件を緩和するチャンスだというのに、
『…~ッ!!!』
表情を歪ませ固まるカイザーの面々。
当然だろう。
もしこの資料が公になればカイザーは本当の意味で『終わる』。
つまりカイザーは自作自演で宣戦布告をでっち上げ一方的にアビドスに武装勢力を仕向けたことに他ならない。
それも民間人の被害など一切考えずに。
最早この戦争に大義名分はなくなり大規模な『テロ』になり下がるのだ。
そんなカイザー側の様子を見てか、
「で、どうする?どっちにしろ私たちも疑いを晴らしたいから公表するけど条件全部飲んでくれるんなら…『編集』してあげるよ。」
「へ、『編集』だと…!?」
「カイザーPMCが此処に展開してたんでしょ?その部隊が起こした爆発事故ってことにしておくけどどうする?」
ホシノはカイザーの罪が軽減するように提案する。
確かにその案ならカイザーの落ち度ではあるが…開戦間近の緊張感という当時の状況も相まって砲撃よりもだいぶ印象はよくなるはず。
ただでさえ逼迫した状況に置かれているカイザーにとって…
「…分かった、そちらの講和条件を全てのもう…!」
最早アビドスの提案を飲む以外の選択肢は残されていなかった。
「そう、それじゃ気が変わらないうちに。ユウカちゃん、よろしくね。」
「分かりました。では、双方の代表者はこの同意書にサインをしてください。」
同意を得てユウカは互いに一枚ずつの書類を差し出す。
受け取ったホシノとプレジデントは互いにサインを記して交換。
交換した書面にもサインを記し、
「ノアちゃん、保存をよろしくね。」
「畏まりました。」
ホシノがノアにその書類を差し出し備え付けの機材でデータとして保存し書類を返還。
その書類を互いに封筒にしまい、
「ではこれにてカイザーコーポレーションとアビドス高等学校の講和条約の締結を確認しました。」
「民生部門やそっちの『財布』に関しては手を付けてないからしっかり耳をそろえて払ってね。」
「軍縮もお忘れなきように。」
「い、言われるまでもない…!」
ひと悶着あったがこれにてカイザーとアビドス高等学校の戦争は終結した。
しかし…まだ終わりではない。
いやむしろ…
「では続きまして…W.G.T.C.及びカイザーコーポレーションの講和会議に移ります。」
カイザーにとってはこれからが本番と言っていいだろう。
対するは…これまでカイザーコーポレーションを掌で転がし続けてきたネイトだ。
カイザーはアビドス高校とW.G.T.C.の二組織に宣戦布告を仕掛けたのだ。
当然、W.G.T.C.も講和条件をカイザーに提示する権利を有している。
一体どのような条件を提示してくるのか…
『…ッ!』
カイザー側の出席者の間にさらなる緊張が走る。
「では…我が社『Wasteland General Trading Company』はカイザーコーポレーションに…。」
ネイトが口を開き条件を提示しようとした、その時だ。
ホールに設置されている掛け時計から『ウェストミンスターの鐘』…つまりチャイムが鳴り響いた。
時計を見るといつの間にか12時を回っていた。
「…ネイト社長、会議も長時間に及びましたしキリも良いので休憩を設けては?」
時間もちょうど昼時だ。
「承知した。では…再開は13:30でどうかな?」
「こ、こちらも異存はない…。」
「では、会議は一時中断。出席者の方々は控室に戻ってください。再開は13:30とします。それでは解散してください。」
こうして、講和会議は休憩に入りネイト達やカイザーは互いの控室に戻るのであった。
いいときは焦らない、悪いときは諦めない。最後は自分が勝つようにできていると思って、臨めばいい。
―――棋士『谷川浩司』
手前味噌ですがAI先生にこの作品のタイトルロゴを作ってもらいました
あらすじの欄に掲載しています