―――劇作家『アウグスト・フォン・コッツェブー』
12:00を回り休憩に入った講和会議の一方で、
「続報です!たった今アビドス高等学校とカイザーコーポレーションの講和条約が双方合意の下締結されたとのことです!」
アビドス高校とカイザーとの講和条約締結の一報はユウカを通じて報道されていた。
「条約の詳細はいまだ不明ですが無条件降伏したカイザーコーポレーションには厳しい講和条約を結んだことは確実と考えていいでしょう!」
報道陣や視聴者は一体アビドス高校がどんな条件をカイザーに突き付けたか知りたいがそこは伏せられている。
何せ…
「現在は昼食のため休憩に入りその後に続けてW.G.T.C.との講和会議が始まるとのことです!」
山場はまだこれからなのだ。
ある意味アビドスよりも謎のベールに包まれた存在であるネイト。
キヴォトス中を引っ掻き回したもう一人の『大人』の一端が明かされようというのだ。
「この戦争の中心に常に存在し続けたネイト氏が一体どんな要求をカイザーコーポレーションに突き付けるか、キヴォトス中が注目しています!」
リポートにも熱が入るシノンだが、その時ホールに動きがあった。
「あっと今ホール入り口に荷物を持った方々が向かっています!どうやら昼食を届けに来たようです!」
誰も近付けないはずのホールに近づいていく複数人の人影。
どうやらフードデリバリーの配達員のようだ。
自分たちは入れないというのにという報道陣からの嫉妬と羨望の視線を受けつつ警備している保安員に手荷物検査を終え中に入っていく配達員たち。
しかし、その中に…非常に小柄で特徴的な尻尾のアクセサリーが裾から見え隠れしていた二人の少女と猫背の赤髪の少女がいたことを報道陣は見逃していたのだった。
一方、その頃…
「では、時間になりましたら保安部の者がお迎えに上がりますので。」
ユウカはカイザー側の出席者を控室に案内し終え退出していた。
扉を閉じ少し離れたところで…
「………フウウウウウウ~…。」
深く息を吐いた。
こんな重要な会議の調停役を務める緊張もあるだろうが…
「全く…あんな条約飲まされて気持ちは分かるけど空気が悪すぎるわよ…。」
まるでお通夜のような空気の彼らに少々やられたようだ。
今まで予算会議や論文の発表会など緊張を感じる場面は多々あったがそれらと比べても異質。
例えるなら…沼のような湿気と粘り気を持った空気だった。
あのような空気はなかなか味わえない…味わいたくもないが。
そう若干テンションが下がったまま廊下を歩いていると…
「あ、ユウカちゃん。カイザーの方々はどうでしたか?」
資料の整理をしていたノアと合流。
「どうしたも何も…『会長』に淡々と詰められた時よりも空気が悪いわよ、あの控室…。」
「…それを聞いて行かなくてよかったです。」
ノアは『瞬間記憶能力』を持っている。
学生の身空ではなんとも便利な能力であろうが…裏を返せば『決して忘れることができない』という短所も持ち合わせていることに他ならない。
無論…覚えていたくない記憶もだ。
突発的なことは仕方ないとはいえわざわざ覚えなくていい物は回避するに限る。
「あっそうだ。保安部の方からお昼のデリバリーが到着したと報告が来ましたよ。」
「分かったわ。でも…ネイトさんったら用心深いわね…。」
普通、この手の会議の時には主催者からあらかじめ昼食が用意されているはずだがネイトが講和会議の開始をユウカから聞いた際、
『昼食は代金を支払うからデリバリーにしてくれ。』
唯一出した条件がこれだ。
傍から聞くとなんてことない条件だが…
「叩きのめされたとはいえ…カイザーの勢力は未だキヴォトスでは根深い…。」
「もし、ミレニアムが昼食を用意した場合…カイザーが配下を使って一服盛られる可能性もありますからね。」
軍事力は凄まじいがW.G.T.C.の影響力はカイザーに遠く及ばない。
カイザーの所属員だけでなく…裏社会のつながりも確実にある。
もし、そんな状況でミレニアムが事前に昼食の配達元を設定していたら…という場合もある。
なので、ネイトはその対策として昼食をデリバリー、それも一般人がよく利用するような店からとったのだ。
これならいかにカイザーでもどうこうするのは困難のはずだ。
「さてと昼休みだし私たちも昼食に…。」
なにはともあれ昼休みだ。
今のうちに自分たちも腹ごしらえをと…
「…ユウカちゃん、一つお尋ねが。」
「どうかしたの?」
「私達…デリバリー頼みましたっけ…?」
「………あ。」
数分後、
「で、俺達の控室に来た…と。」
「め、面目ありません…。」
「いいよいいよ、結構量頼んでるし~。」
「ありがとうございます、ホシノさん。」
二人の姿はネイトたちの控室にあった。
カイザーの控室に比べ空気ははるかに軽いうえ、ホシノやアヤネがいて食の好みも近しいので半ば選択肢はここしかなかった。
「ハイ、お茶です。そんな豪華なものは頼んでませんが楽しんでいってください。」
「ありがとう、アヤネちゃん。」
「そろそろこっちにも配達員が来るはず…。」
するとまるでタイミングを見計らったようにドアがノックされた。
「お、来た来た。」
受け取りのために立ち上がりドアへと向かうネイト。
「どうも、届けてくれてありが…。」
注文の品を受け取ろうとドアを開けた、その時…
「ぐえッ!?」
ネイトの腹に衝撃が走った。
みるとやってきた三人の配達員がネイトの腹部目掛け飛びついているではないか。
「ッ!ネイトさっ…!」
まさかここにきてカイザーの刺客が、とホシノはEye of Horusを手に取ろうとする。
だが、
「待てッ、ホシノ!」
ネイトがそれを手で制し…
「…まったく、会いに行くのが待ちきれなかったのか?」
『え?』
優しい声音で飛び掛かっている三人に声をかけた。
そして…
「モモイ、ミドリ、ユズ。久しぶりだな。」
「ネイトさん…無事でよかった…!ちゃんと…ちゃんと帰ってきてくれたぁ…!」
「よかったです…!本当に…本当に無事で…よかったです…!」
「おかえりなさい、ネイトさん…!みんな…みんな、勝てるって、信じて…ました…!」
ネイトの体に腕を回し抱き着き涙を流しながら再会を喜び安堵するモモイやミドリにユズ。
「げ、ゲーム開発部の皆さん…!?」
「なんであなたたちが此処に…!?」
「あらら…これは何ともかわいいお客さんだねぇ。」
「余程ネイトさんに会いたかったんですね。」
驚くノアとユウカと対照的にホシノとアヤネは微笑ましそうに三人を見ていた。
―――――――――――――――――
――――――――――
――――
時は8日前、開戦し2時間少々経ったころ。
「戦況は侵攻部隊をアビドスの防衛部隊がすでに撃滅…。」
「砂漠方面でも大規模な衝突があったという報告もありますね…。」
ユウカやノアを始めとしたミレニアムの中心人物が一堂に会しこの戦争について情報収集や見識などを述べあっていた。
ニュースの映像は早々に途切れたもののある程度の情報が集まりつつある。
「あの戦車…!いったいどんなエンジンでどんな砲を搭載して…!」
そんな中、カイザーの会見にテレビを破壊するほど激昂していたウタハは今はマスコミがわずかに映していたアビドス側の戦車や大砲の性能を興奮しながら分析していた。
科学の粋であるミレニアム、その中であって最高の技術を持つ『マイスター』の彼女をもってしてもアビドスの戦車はウタハの常識を超えた代物だった。
今の自分にあれほどの物を作れるか?
「あぁ…!やはり貴方は素晴らしいエンジニアだよ、ネイトさん…!この戦争が終わったら絶対詳しく聞かせてもらうからね…!」
エンジニア魂を擽られまくりいろんな意味で早期の戦争終結を願うウタハなのであった。
一方、
「う~ん…。」
キーボードをすさまじい速度で打ち込みながらある生徒が首を捻っていた。
「『チヒロ先輩』、どうですか?」
「ダメだね…。砂漠方面に関しては大規模な電波障害の後無線すら飛んでないし…ハッキングもできなくなってる…。」
「『ヴェリタス』でもハッキングできないってことはつまり…。」
「サーバーの電源が落ちるか…サーバーそのものがなくなってるか…だね。」
ノアの質問に答えている『チヒロ』と呼ばれたメガネをかけた生徒。
『各務チヒロ』、ミレニアムが誇る『非公認』部活にしてハッカー集団『ヴェリタス』をまとめ上げる副部長兼部長代理である。
ホワイトハッカーを標榜しているが…構成している部員たちはチヒロ以外はかなりのトラブルメーカー集団。
普段は反セミナーの立場を取ってはいるがそれは『ある人物』に対してでありユウカやノアに関しては悪く思ってはおらず個人的依頼でこのように協力しているのだ。
「カイザーPMCのサーバーは厳重警備しているはず。そこを破壊するなんて…。」
「いったいどんな戦力で攻め込んだんだろう…?監視カメラの映像をサルベージできるといいんだけど…。」
少しでもアビドスの情報を探ろうとあの手この手でアプローチをとっていると…この部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
室内の者たちの視線が注がれるとそこにいたのは…
「はぁー…!はぁー…!」
「ちょ、モモイ…?!どっどうしたのよ…⁉ミドリにユズまで…!?」
息を切らせ涙の跡を残したモモイを先頭に普段からは考えられないほど鬼気迫った気迫を放つゲーム開発部の面々だった。
本来ならモモイ達はこの部屋に入ることすら許されないがこの部屋にいる全員がモモイ達に気圧されていた。
そんな彼女達に構わずモモイはユウカに近付き…
「んッ!」
「え…?!」
「んッ!これッ!」
ユウカに一つのホロテープを差し出した。
モモイが近づいてようやくユウカも分かった。
泣き止んでいるのではない。
モモイは今なお…その目に涙をいっぱい貯めているのだ。
「早く見てよ、ユウカ!ネイトさんがっ!ネイトさんがぁっ!!!」
気圧されるユウカになおもホロテープを押し付けようとするモモイに…
「…モモイちゃん、落ち着いてください。」
ノアがモモイに近付き屈んで目線を合わせながら…
「ここにいる皆さん、ちゃんとモモイちゃんのお話を聞いてくれますから。だから…安心してください。」
微笑みながら安心させるように声をかける。
「うぅ…うあああああああ…!」
いっぱいいっぱいだったのだろう。
モモイはノアに抱き着き声を上げて泣き始めた。
友達への謂れのない誹謗をネイトとの約束のためにずっと耐えてきたのだ。
ノアはそんなモモイの背中を摩りながら落ち着くのを待つ。
この部屋にいる誰もがモモイが泣き止むまでその様子を見守っていてくれた。
しばらく後、
「それで…これをネイト社長が私に?」
「うん…。」
ユウカが落ち着いたモモイからホロテープを受け取っていた。
「ネイトさんが…『カイザーが約束通り戦いを始めなかったときに』って…。」
「約束通り…。」
「つまり…あの砲撃は…。」
「お願い、ユウカ!ネイトさんを!ネイトさんを助けて!」
「分かったけど…ホロテープなんてどうやって…?!」
必死なモモイだが…ユウカからしてみればホロテープの実物など初めて見るような記憶媒体だ。
キヴォトスで一般的に使われなくなって数十年では効かないだろう。
どうやって中身を確かめたらいいかと頭を悩ませていると…
「お待たせ、モモイ。」
「ウタハ先輩…って何ですかそれ?」
いつの間にか退出していたウタハが何やら機材をもって戻ってきた。
「以前、モモイ達がネイトさんに貰ったホロテープに入っていたゲームをプレイしたいと言ってね。ホロテープを読み込める装置を製作していたのさ。」
「そ、そんなの作ってたんですか…?!」
「費用はきちんともらってるから心配しないでくれ。では、それを貸してもらえるかな?」
手早くノートPCにその機材をつなぎホロテープを差し込み中を検め始めるウタハ。
何分初めて見る記録媒体だ。
モモイ達だけでなくユウカやノアにチヒロも覗き込む。
「フム…どうやらいくつかのファイルに分かれているようだね…。」
古めかしい黒の背景に緑のドット文字が映る画面にはいくつかのファイルが表示され、そのうちの一つ『依頼書』というものを見てみると…
「開戦前に突発事案、砲撃もしくは爆発事故が発生した場合の現地の科学的検証…。」
「どうやらネイトさんはあの事態を予見していたんだね。」
いくつかのパターンの内容はあったがミレニアムに対しての依頼が記されてあった。
「…確かに、『第三勢力』の私たちの検証データなら…。」
「ネイトさんやアビドスの疑いを晴らせるってことだね!」
現在、ミレニアムはアビドスにもカイザーにも肩入れしていない。
そんな自分たちの科学的検証のデータを収集すればアビドスの疑いを晴らせるはず。
それが可能な設備もミレニアムは保有しており容易く可能なはずだ。
だが、
「もう一つの依頼書って…。」
「き、キヴォトス全土への放送電波ジャック…!?」
もう一つの依頼に関してはさすがのユウカたちも目を見開き驚愕する。
一体そんなことをして何をするつもりか見当もつかないが…
「…チヒロ先輩、どうですか?」
「可能かどうかでいえば…可能だね。あちらの発信する電波の強さにもよるけど…キヴォトス全土に彼の声を届けることはできるよ。」
これ自体の良し悪しは別にしてこれもミレニアムには造作もない事だ。
どれもこれも…『ミレニアム』であるなら可能という依頼ばかりだ。
「…受ける受けないの是非は保留するとして他のファイルも見てみましょう。」
「そうだね。じゃあ次は…『作戦概要』を見てみよう。」
一先ず次のファイルである『作戦概要』と名付けられていたものを開くと…
「ま、まさか本気でカイザーを倒すつもりなの…?!」
「ゲヘナを突破してD.U.までの打通作戦…!?」
そこにはアビドスがこの後に行う作戦の詳細が書かれてあった。
正直言って荒唐無稽だ。
中でも…
「た、単独でカイザーPMC本部基地に奇襲…!?」
最も目を疑ったのはこの作戦だ。
こんな内容の作戦を実行できるのか?
ミレニアム最強の『あの生徒』であっても実現できるかどうか…。
いや、可能だとしても『単独』で行わせたりしない。
それを単騎、しかも実行者は…
「ネ、ネイト社長が…!?」
キヴォトス人でもないネイトというではないか。
有り得ない、不可能だ…そんな考えがノアやウタハにチヒロの脳裏に浮かぶが…
「大丈夫…!ネイトさんならきっとやり遂げて見せる…!」
「うん…!カイザーなんかに負けるわけがないからね…!」
「アレを着た、ネイトさんを止められる人が、カイザーにいるわけがない…!」
ゲーム開発部の面々はその作戦をネイトはやり遂げるという確信を得ている。
さらに、
「そうね…。ネイト社長ならもしかしたらかなりの確率で成功するかもね…。」
「ゆ、ユウカちゃん…?!」
ユウカもこの作戦の成功率は高いと分析。
「…そう思う根拠は何だい、モモイ?」
「あのね!ネイトさんってね!」
ウタハが尋ねるとモモイが嬉々として答えていく。
『廃墟区画水没地帯』でのあの戦いの様子を。
「一人でめちゃくちゃ改造したトレーラーで…!」
あの広大で危険な廃墟街を単独で踏破したことを。
「それはもう何百体もいたロボット兵に…!」
雲霞のごときロボット兵をただ一人で撃ち破ったことを。
そして極めつけは…
「『ケテル』っていう見たこともない大っきなロボットだって一人で…!」
カイザーの大軍勢すら歯が立たなかったケテルを討ち取った事を。
「と、とんでもない人なんだね…。」
「あのネイト社長がそんなに…?!」
チヒロとノアはその武勇伝に言葉を失うしかない。
ノアは普段のネイトの様子を見ていたので一層信じられない。
話には元軍人だという彼の来歴は知っていた。
だがそれでも…たとえミレニアムの最高戦力であっても生半可ではない戦力を相手に下手をすれば弾丸一発で容易く死に至る人間にそれが完遂出来るのか?
何かの間違いであってほしいが…
「私だけじゃないよ!ミドリやユズだって実際に見たんだから!」
モモイだけでなくミドリやユズですら力強く頷いているではないか。
さらに…
「私もその『ケテル』っていうロボットの残骸を見たわ。モモイの言う同じ兵装で…真新しい損傷と巨大な鉄骨が突き刺さった奴をね。」
この手の冗談がいっとう苦手なユウカも認めている。
こうなると…
「…どうやら彼、ネイトさんの強さはキヴォトス人の基準からしても一騎当千って言えるだろうね…。」
「私達ですら作れない武器を操っていると言い…一体どんな戦場を潜ってきたというんだ…?!」
ネイトの立てた作戦の成功がにわかに信ぴょう性を帯びてくる。
と、その時。
今度は静かに、しかし全員に分かるようにドアが開けられ…
「…今のお話、私に最初から聞かせてはもらえませんか?」
『ッ!?』
そこにいた『車椅子』に乗った生徒を見て全員が驚愕した。
「な、なぜあなたが…!?」
「あら、この私を除け者にしてなんとも面白いお話をしているようでしたので。」
困惑するユウカをしり目にその生徒はモモイに近づき、
「では、モモイさん。私にもネイトさんのお話を聞かせてもらえませんか?」
微笑みながら穏やかな口調でネイトについて尋ねる。
「うん、ネイトさんは…!」
モモイも最初は緊張していたが話を進めていくうちにその緊張が薄れ何時もの調子に戻り…
「…そうですか。本当に凄い方なんですね。」
「そうだよ!私の友達はカイザーなんかに負けないんだから!」
「うふふ、私も一度彼にお会いしてみたいですね。」
終始にこやかに彼女はモモイの話を聞いてくれ信じてくれた。
そして、
「…分かりました。お引き受けしましょう。」
突拍子もなくそんなことを言い放つ。
「ひ、引き受けるとは…?!」
「ネイトさんが依頼した『キヴォトス全土への電波ジャック』、私が個人的にお引き受けしても構いませんよ。」
「なっ!?本気なの、部長!?」
彼女の提案にチヒロが驚愕する。
「あら?チーちゃん、私が誰か忘れてしまったのですか?」
そんなチヒロに胸を張って…
「ヴェリタスの部長兼、『特異現象捜査部』の部長にして…ミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーの『明星ヒマリ』にそんなことお茶の子さいさいですよ。」
彼女、『明星ヒマリ』は堂々と…多分に自画自賛が混じった名乗りを上げるのであった。
「…はぁ~、ヒマリ先輩がやっちゃうんだったらもう無関係じゃいられないですね…。」
そんなヒマリの名乗りを聞きユウカはスマホを取り出し…
「…もしもし、アカネ?急で悪いけど…『C&C』に任務を言い渡すわ。直ちにアビドスとゲヘナ境界付近で起こった爆発現場に調査へ向かってちょうだい。」
電話の相手、室笠アカネに出動要請を通達するのであった。
「ゆっユウカちゃん、この依頼を受けるのですか…!?」
普段らしくないあまりにもあっさりとネイトの依頼を受けたユウカにノアは少々驚くも…
「断る理由もないしそれに…。」
「それに?」
「…私もカイザーに相当むかっ腹たってるのよね…!」
ユウカは笑顔を浮かべているというのに青筋を浮かべまるで般若のようなオーラを放ちながら答える。
出会ってから仕事を共にしアビドスの生徒やモモイ達ほどではないにしてもネイトがどういった人物かは理解している。
『あの人』以上にシビアだが確かな優しさを持ちアビドスの生徒でもないのに度々自分に足りない『交渉術』の指導もしてくれた。
そんなネイトを…アビドス以外の全てを敵に回すほどカイザーは嘘偽りで彼を塗り固め侮辱した。
そして、彼が助けを求めそれを遂行できる手段が自分たちにはある。
「モモイ…ありがとう…!」
「え…?」
「私に…カイザーに一矢報いるチャンスをくれて…!」
そんな彼を助けカイザーに打撃を与えられるというのなら…喜んで手を貸そう。
「…そう言うことなら私は現地で土壌の成分分析ができる機材を提供しようかな。」
「う、ウタハ先輩…!?」
「私もね、カイザーに腹を立ててたんだ。それに…まだネイトさんのテクノロジーを理解できていないのに彼を喪うわけにはいかないからね。」
そんなユウカの決意を聞きウタハもネイトとアビドスの無実を証明するために…
「…はぁ、まったく。部長、やるからには痕跡残しちゃいけないんでしょ?」
「えぇ、準備をお願いできますか?」
「はいはい、あの子たちにも声かけないと。これは大仕事になるね…。」
部長であるヒマリが動くのであって副部長のチヒロもキヴォトス全土の電波ジャックのために動き始める。
こうして…『テクノロジーの巨人』が歯車の唸りを上げて起動したのであった。
―――――――――――――――――
――――――――――
――――
「私、約束守ったよ…!ちゃんと…我慢できたよ…!」
その巨人を動かす起爆剤となったモモイ。
「あぁ、ユウカから聞いたよ。よく頑張ったな。偉いぞ、モモイ。」
抱き着く彼女の頭をポンポンと優しくなでながら約束を守りアビドスの勝利に貢献してくれた友を誉めるネイト。
「ミドリもユズも心配かけたな。いろいろあって辛い思いをさせてしまったようで…。」
そして、共にアビドスの勝利を願っていたミドリとユズにもねぎらいの言葉をかけると、
「どうってことないです…!あんなの…出鱈目なんですから…!」
「私たちは…ちゃんと『本当』のネイトさんを、知ってるから、へっちゃらです…!」
強がりだろう。
それでもミドリもユズもネイトを信じ続けてくれていたことに変わりはない。
「…ありがとう、そう言ってもらえるなんて友達冥利に尽きるよ。」
アビドスやセイント・ネフティスだけではない。
ここにも自分のことを想ってくれるものがいてくれたことにネイトの心は温かくなるのを感じた。
「…そうだ、言わなきゃいけないことがあるんだったな。」
そして…
「…ただいま、三人とも。」
約束通り、勝利し無事のまま帰還したことをしっかりと伝え…
「「「おかえりなさい、ネイトさん!」」」
モモイにミドリにユズも涙を浮かべながらも満面の笑みで答えるのであった。
そして、三人が落ち着いたのち…
「それで?あなた達三人はどうやってここに入ってきたの?」
ユウカからの尋問が始まった。
ここはミレニアム保安部が猫の子一匹通さない厳重態勢を敷いている。
そんな場所にどうやって入り込んだのか。
いや、方法は分かる。
「まさかデリバリーサービスの配達員になって入って来るとは想定外でした…。」
今の三人は普段のミレニアムの制服ではなくキヴォトスで一般的なデリバリーサービスのボックスを背負った私服姿だ。
しかも問題は…
「おお、ちゃんと注文通りだ。」
「ピザに~…お寿司に~…たこ焼き。うん、私たちが注文したものに間違いないねぇ。」
「べ、別々のお店に注文したはずなんですが…。」
ちゃんとネイトたちが注文した品物を持ってきている点だ。
普通、この手のサービスは近くにいる配達員にランダムに依頼を飛ばすものだ。
それだというのに三人が別々の店でネイトたちの注文したものを持ってきた。
あまりにも都合が良すぎる。
普通なら有り得ないが…
「…あなた達、やったわね?」
これができる人材がミレニアムにはいる。
「うん!『マキ』に頼んでここ宛の配達を全部私たちに一回回るようにしてもらったの!」
「やっぱり…!」
「マキ?」
「私たちの同級生のお友達で『ヴェリタス』に所属しているホワイトハッカーの子です。」
「まぁかなり悪戯好きな子で少々問題も起こしてますが…。」
「そ、それでネイトさん達が、頼んでそうなものを選んで、持ってきたんです。」
どうやらこの配達サービスのシステムをハッキングしてここに来るように仕掛けをしたようだ。
あまり褒められたことではないが…
「…まぁそんなに迷惑かかってないし今回は見逃してあげるわ。」
「おいおい、いいのか?」
「…普段ヴェリタスがやらかすことに比べたらこんなの可愛いもんですよ。」
「………苦労してるんだな。」
遠い目をして答えるユウカを見て何も言えなくなるのであった。
「さてと…モモイ達はこの後予定あるか?」
「ううん、ネイトさんに会うためだけに登録したからもう配達はおしまい!」
「そうか。じゃあ、せっかくだ。一緒に食ってけ。」
「良いんですか?」
「おじさんは構わないよぉ。ちょっと多めに頼んでたから食べてってぇ。」
「はい、モモイちゃん達の大活躍のお礼と言ってはなんですがぜひ一緒に食べましょう。」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、いただいていきます。」
こうしてゲーム開発部の三人を新たに加え…
『いただきます!』
「いやぁ~お寿司なんていつぶりだろうねぇ~。」
「あ、ホシノ先輩ずるい!いいネタばっかりとって!」
「うへへへ~速いもん勝ちだよぉ、モモイちゃ~ん♪」
「ちょっとモモイ、ご馳走になってるんだから行儀良くしなさい!」
「たまにはこんなジャンクな食べ物もいい物ですね。」
「皆で賑やかに食べるとより一層美味しく感じますね、ノア先輩。」
「これがたこ焼きというやつか…。あむっ…~!!?あフッあふぅッ!!?」
「わぁーッ!ネイトさん大丈夫ですか!?たこ焼き一口は危ないですよ!?」
「は、ハイお茶です!こ、これ飲んでください!」
「んぐっんぐっ…ぷはっ!な、中は熱いんだな、これ…。」
賑やかにデリバリーした品を食べていくネイトたち。
ネイトも初めて食べる寿司やたこ焼きに舌鼓を打ち大いに楽しんだ。
ちなみに…
「でも、ネイトさん。なんで、タコ焼きなんて、頼んだんですか?」
「え?カイザーの社章ってタコだろ?」
「…え、まさかそれだけですか?」
「んまぁ~そこに勝ったていう意味も込めてねぇ。」
「あ、じゃあ写真撮ってモモッターに乗せちゃおうよ!」
「あぁ、いいぞ。」
ひょんなことからたこ焼きを食べるネイトの姿がモモッターに流れてバズったとかバズらなかったとか。
そんなことがありつつ…
『ごちそうさまでした。』
「…よし、ちょうどいい時間だな。」
食べ終わった頃には13:00を少々過ぎたころになった。
「さてと…歯磨きしてカイザーから『小遣い』分捕りに行きますか。」
「では、私たちも準備がありますのでそろそろ失礼します。」
「私たちももう帰るね!和平交渉頑張ってね、ネイトさん!」
時間も時間なのでネイト達も解散。
ネイトやホシノも上着を着直し悠々と会議場に戻り…
「お待たせしました。それでは…これよりW.G.T.C.及びカイザーコーポレーションの講和会議を再開します。」
講和会議の後半にして終局、W.G.T.C.とカイザーの講和会議が幕を開けるのであった。
私たちの信念と決意が私たちを成功に導くでしょう。
―――アメリカ合衆国第33代大統領『ハリー・S・トルーマン』