Fallout archive   作:Rockjaw

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外交官と幽霊は微笑をもつて敵を威嚇す。
―――ジャーナリスト『長谷川如是閑』


The War of Letters and Voices Part4

講和会議もいよいよ佳境に入った。

 

アビドス新興の企業であるW.G.T.C.とキヴォトス中にその足を延ばし影響を及ぼしていたカイザーコーポレーション。

 

傍から見ると小魚とクラーケンの戦いであった。

 

誰もが…W.G.T.C.が一飲みされて決着だと思っていた。

 

だが…その小魚はクラーケンの体を容易く食いちぎる牙を持っていたのだ。

 

一噛みで自らを捉えんとする脚を。

 

二噛みで無数に生えたすべての脚を。

 

そして…三噛みでその胴体を食いちぎり致命傷を与えた。

 

まさに『ジャイアントキリング』。

 

そんな小さな勝者が瀕死の巨人に…

 

「それでは…W.G.T.C.からカイザーコーポレーションに対する要求を述べてください。W.G.T.C代表取締役社長ネイトさん、お願いします。」

 

「ではあらためて…我が社『Wasteland General Trading Company』はカイザーコーポレーションに以下の要求を行う。」

 

最後の一撃を加えんとする。

 

ネイトがいの一番に求めたのは…

 

「一つ、W.G.T.Cはカイザーコーポレーションに対し…聞き取り調査を行ったとされる我が社の所属生徒の情報開示を直ちに求める。」

 

「~ッ!」

 

この戦争の発端と言ってもいいカイザーの言うところの『生徒』の情報だ。

 

それを聞いた瞬間、カイザーの幹部たちの血の気が一斉に引く。

 

「な…なぜ…そのような…!」

 

かろうじて詰まりながらではあるがプレジデントがそう尋ねた。

 

「愚問を。自慢じゃないがこれでも俺は健全に会社を経営してきた自負がある。それを『強制労働』や『奴隷』と言ってカイザーに駆け込んだんだろ?…今後の会社経営に関して参考にしようと思ってな。」

 

この戦争はネイトが生徒を洗脳しカルト教団を結成していた…というその生徒の話から端を発している。

 

戦争が終わってもW.G.T.Cは運営は続いていく。

 

今後そのようなことを起こさないよう何が原因だったか知るため…というお題目だが…

 

「………。」

 

「どうした?血は通ってないのに真っ青になってるのが分かるぞ?」

 

固まるカイザーの幹部たちを…まるで人を食ったような笑顔を浮かべながら心配するネイト。

 

(ネイトさん…めちゃくちゃ楽しんじゃってるねぇ…。)

 

(徹底的にカイザーをいじめ抜くつもりですね…。)

 

普段では見られないネイトの様子を内心苦笑しながら眺めるホシノとアヤネだが…ある意味納得するしかない。

 

「おいおいまさか開戦前の砲撃だけじゃなくて…そもそも宣戦布告の理由すらでっち上げとは言わないよな?」

 

「そ、そのようなことは…!」

 

「じゃあすぐに教えてもらおうか。言っとくが無条件降伏しといて拒否権があると思うなよ?」

 

中身が分かっているトロイの木馬ほど利用価値が高い物はない。

 

最初からそんな生徒は『存在しない』ことなど分かり切っている。

 

だが、それをあえて否定しないことで…カイザーを追い詰める。

 

受け入れても調べればそんな生徒がいないことなどすぐに分かりカイザーの信用はサーキットブレーカーを起こしこの条件を拒否すれば…

 

「拒否すればそうだな…D.U.にいるウチの部隊が一昨日の続きを行う。」

 

戦争再開だ。

 

今なおW.G.T.C.の部隊はD.U.のカイザー主要施設を占拠中。

 

もしネイトが此処で電話一本でも入れようものなら…。

 

「………ッ!」

 

どちらに転んでもさらに事態は悪化する最悪のジレンマだ。

 

どうしようもなくなり貝のように口を閉ざすしかないカイザーの幹部たち。

 

その時、

 

「………。」

 

一瞬だけネイトがユウカに目配せをする。

 

すると…

 

「…失礼、録音機器に不調が発生しました。会議開始早々申し訳ありませんが機器点検のため録音を一時止めます。」

 

「私はスタッフの方を呼んできますね。」

 

ユウカが機材の都合で録音を止めノアがスタッフを呼ぶため退出した。

 

ノアがいなくなったのを確認し…

 

「…で、落とし前はどうつけたいんだ?」

 

「え?」

 

「いないんだろ、お前らが言う生徒なんて?」

 

「なっ…!?」

 

先ほどの人を食ったような態度と打って変わってかなりぶっちゃけたことを言い始めるネイト。

 

「そ、そんなことは…!」

 

「いいっていいって、どうせ今はこの会話は記録に残らないんだ。」

 

「な、何…?」

 

「いない生徒の情報なんか渡せないし嘘を言うわけにもいかない。…で、そっちはどうやって決着をつけたい?」

 

何とこれまで決定権など一切与えられなかったカイザーの要望を聞こうというのだ。

 

「…どういうつもりだ?」

 

怪訝な表情を浮かべ真意を訪ねるプレジデントだが…

 

「正直なところ、アンタ等が俺をカルト教祖にしようとキヴォトスの支配を企む悪党にしようと…どうでもいいんだ。」

 

「…正気か、貴様…!?」

 

自分たちが広めた悪評など意に介さず、

 

「むしろ、あれだけど派手にやってくれたのなら変な連中も寄り付かないだろう。虫よけくらいにはなるさ。」

 

むしろ利用してやろうという気概ではないか。

 

「…理解できん、一体貴様は…!?」

 

これまでも見せつけられてきたというのにネイトの常識外れな思考…というより自分たちと違いすぎる価値観に困惑するしかないプレジデントとカイザーの幹部たち。

 

「俺の至上命題の邪魔さえなければうちの会社の評判はあまり気にしていない。…もっとも、あんた等とセイント・ネフティス社と五分で取引できているから対外的な信用は十二分に確保できてるしな。」

 

カイザーとセイント・ネフティス、キヴォトスにおけるトップ層の大企業だ。

 

ネイトの言うように企業の信用に関しては語るまでもないだろう。

 

さらに言うと最悪この二社と取引できている限りW.G.T.C.は他の企業と取引する必要はない。

 

「だが、戦争の趨勢は決している。だから…決めさせてやるよ。俺へのけじめのつけ方を…な。」

 

しかしながら『それはそれ、これはこれ』、外部に向けても一応の決着の姿勢を見せなければならない。

 

だからこそ、ネイトはカイザーにこの件のけじめのつけ方をゆだねたのだ。

 

ここにきてのこの対応は裏があるとしか思えないが…

 

「…こちらとしては…金銭を用いた解決を図りたい…!」

 

カイザーにとってこれは水面を漂う藁だ。

 

いかに頼りなく、いかに怪しかろうと…縋るしかない。

 

「ほぉ…あれだけ侮辱して金で、ねぇ?」

 

それをネイトは目を細めカイザーたちを見やり…

 

「…いいだろう、俺が納得できるであろう額を提示してみろ。」

 

カイザーの提案を受け入れ秘密裏に示談金による解決を受け入れるのであった。

 

「では…会議の録音が再開したら一旦さっきの提案を受け入れろ。でっち上げの生徒の資料の中に金額を書いた小切手を忍ばせて渡せ。」

 

「分かった…。」

 

そして、示談金の受け取りのやり方を決めたのを見計らったように…

 

「お待たせしました。」

 

ノアが点検のためのスタッフを連れて戻ってきた。

 

その後、手早く機材の点検が行われ…

 

「申し訳ありませんでした。それでは会議の記録を再開します。」

 

録音などが復旧し会議が再開した。

 

「改めて、そちらが聞き取り調査を行った生徒の情報を渡してもらおうか。」

 

「…分かった、これがその生徒の資料だ。」

 

雰囲気を先ほどの鋭いものに戻しネイトが要求、取り決め通りプレジデントがでっち上げた生徒の資料を渡した。

 

「確かめさせてもらう。」

 

生徒の詳細を確認する…ふりをして忍ばされていた小切手の額を確認する。

 

そこには…かつてのアビドス高校の借金の数倍の金額が書かれていた。

 

「…分かった。後の対処はこちらでさせてもらおう。情報提供に感謝する。」

 

賠償としては十分だろう、そう判断したネイトは資料を閉じ暗に『合意』と伝えつつ資料を閉じた。

 

「では会議を続けるとしよう。…一つ、カイザーコーポレーション及びカイザーコンストラクションは以下の様に我が社との契約内容の変更を受諾すること。」

 

無論、これでネイトからの要求が終わるわけではない。

 

「議長、契約書の写しをカイザー側に。」

 

「分かりました。」

 

ネイトの要請でユウカが事前に渡されていた書類をプレジデントとコンストラクションの社長に資料を渡す。

 

「契約の相手をコーポレーションに変更…!?」

 

「それも現時刻をもってそのまま引き継がせる…?!」

 

大きな変更点としては契約者をコンストラクションからコーポレーションに変更することだ。

 

それも現在の契約の状況をそのまま移行する形でである。

 

そのほかは支払いが一週間滞った場合はグループ全社や役員の私財からの強制的に徴収など細かな変更点が数点あった。

 

「こ、これは一体…。」

 

確かに非常に厄介な案件だが…わざわざ講和会議に出すような議題ではない。

 

コンストラクションの社長が困惑しながら尋ねると…

 

「アンタのとこの『財布』の薄さは今回でよ~く分かった。だから…これを機に『金庫』から直接引き出そうと思ってな。」

 

「ぐッ…!」

 

ネイトはこの戦争の真の開戦理由を皮肉りながらこの要求の理由を答える。

 

自分たちの会社がまるで銀行口座のような物言いは正直気に喰わないが…

 

「分かった…!そのようにしよう…!」

 

こちらは敗者、受け入れるよりほかない。

 

「素直なのは感心だ。…その契約書、一回こっちに渡してくれ。」

 

それを聞いたネイトは一旦契約書の写しを回収しある一文を書き加え、

 

「よし、じゃあその契約書にサインを。」

 

再びその契約書をカイザー側に渡した。

 

そこに新たに書き加えられていたのは…

 

「月ごとの請求額は100億が上限…?!」

 

今まで設けられていなかった請求額の上限に関する条文だった。

 

「ど、どういうつもりだ…?!」

 

「もう『こんな事』は当分ごめんだからな。一月でそれくらいなら…痛めつけられたとはいえカイザーの胴元のアンタのとこならどうにかできるだろ?」

 

「ぐッ…!」

 

暗に真の開戦理由に触れられ言葉に詰まるプレジデントだがネイトの提案は非常に魅力的だ。

 

何せ、廃墟区画の解体作業は週一回ほどでそのたびに数十億が吹き飛んでいっていた。

 

それが一月当たり100億という上限がつけば重い負担であることに変わりはないが…多少はマシになる。

 

「…一つ聞きたい、アビドスの解体事業に関してはどうなる…?」

 

「あぁ、それな。アビドスに主権が還るんだ。双方、契約破棄の際のペナルティを無しってことに合意すれば…そちらは破棄しても構わないが?」

 

「………感謝する。」

 

しかも、頭を悩ます種の一つであったアビドス砂漠の廃墟群の解体事業の契約も取りやめることができる。

 

これまでやられっぱなしのカイザーからすれば初めて明確にメリットを得られる状況を逃すことはできずプレジデントは契約書にサインをする。

 

「ではネイト社長、確認の後サインをお願いします。」

 

「承知した。」

 

ユウカを通してネイトに帰ってきた契約書を確認し…

 

「では、今後とも我が社をご贔屓に。」

 

しっかりと自らもサインをし…

 

「…以上をもって、W.G.T.C.からのカイザーコーポレーショングループへの要求を終える。」

 

『…え?』

 

おそらくもっとも戦功を上げたというのにネイトの講和条件はこのたった二つで終わるのであった。

 

意外そうな声を上げるカイザー側だが…

 

「W.G.T.C.はあくまでアビドスの一企業だ。アビドス高校が主だった要求を行ったのなら…W.G.T.C.からの要求は以上だ。」

 

考えてみれば当然の話だ。

 

キヴォトスにおいて様々な学区で活動するカイザーのような企業を除き基本的に学区内における力関係は学校>企業だ。

 

それはいかに圧倒的戦力を有するW.G.T.C.であっても同様である。

 

カイザーの軍縮という弱体化、アビドス高校からの戦費という形での代金を受け取った以上『講和』に関して望むものは少ない。

 

ネイトのその説明を聞き…

 

(た、助かった…!一時はどんな無茶苦茶な要求をされるかと思っていたが…!)

 

胸をなでおろすプレジデントたち。

 

先頭もさることながら彼らが最も恐れているのはネイトの交渉力だ。

 

さんざん煮え湯を飲まされてきたこともさることながら…怖いことにあれでまだ加減しているというのだ。

 

もし、ネイトが最初から本気を出していたら…存在を知られる前にコンストラクションは破産させられていただろう。

 

今回、その本気を出されるかと思われたが…どうやら杞憂のようだ。

 

「では、これにてアビドス高校並びにW.G.T.C.とカイザーコーポレーション間の戦争に関する講和会議を終了いたします。皆さん、本日はお疲れさまでした。」

 

双方の合意に達し、ユウカは講和会議終了の号令をかけ講和会議は終了した。

 

そして退席しようとカイザー側の出席者たちが立ち上がろうとすると、

 

「あぁ、そうそう。アンタたちに渡すものがあったんだった。」

 

ネイトが懐から薄い封筒を一つ取り出しプレジデントに向け滑り渡す。

 

「これは…?」

 

「今後、そちらと我が社の関係を示す書類だ。言っとくがここで確認することをお勧めするぞ。」

 

意味深なことを告げるネイトにプレジデントは苦い表情を浮かべながら封筒を手に取り中の書類を確認するが次の瞬間、

 

「ッ!!?!?!?」

 

その表情が吹き飛び戦時中でも見せなかったほどの驚愕の表情に変わった。

 

中に入っていたのは一通の請求書だった。

 

その額…¥613,839,796,379-

 

「な、なんだこれはあああああ!!?」

 

いかに大企業のトップであるプレジデントでも…こんな額の請求書など見たことがない。

 

思わず絶叫するが…

 

「なにって…10日前に持ってきた解体費用の請求額だ。」

 

さも当然のようにネイトはその正体を明かす。

 

しかし…

 

「ば、馬鹿なッ!?あれは240億弱だっただろう!?」

 

プレジデントのいうように元の請求額は240億、非常に高額だがここまで馬鹿げた金額ではなかった。

 

だが…

 

「工事費はな。」

 

「ではなぜだッ!?」

 

「これは支払い延滞の違約金込の額だ。」

 

「い、違約金だとッ!?」

 

『違約金』という存在がこの金額にまで膨れ上がった原因である。

 

「誰か電卓を持ってないか?」

 

「ネイト社長、私が持ってますよ。」

 

ネイトの呼びかけにユウカが愛用の関数電卓を取り出しながら答える。

 

「よし。頼みがあるが今からいう計算を打ち込んでくれ。…23,951,072,683、これに1.5を8回乗算してくれ。」

 

「分かりました。」

 

そしてネイトが読み上げた数字に指示通りの掛け算を行い…

 

「…6138億3979万6379.543ですね。」

 

「小数点以下は切り捨ててる。わずかながらのおまけだ。」

 

この計算に間違いがない事を証明して見せる。

 

「というより、契約書にもあっただろう。『支払期限を超えた瞬間から一日に付き50%の違約金を乗算していく』と。それに同意してコンストラクションから契約を引き継いだんだろ?」

 

そう、これは暴利などでも何でもなく以前から盛り込まれていた立派な契約の一部だ。

 

カイザーコーポレーションはその契約を『現状のまま』引き継いだ。

 

当然この条文も支払い義務も引き継ぐことになる。

 

「だ、だがこれはあまりにもッ!」

 

「おや?支払いについて…何も問題ないんじゃなかったのか?」

 

それでも何かを言おうとするプレジデントにネイトは歩み寄り…

 

「だって…ウチとアンタたちとの契約関係や支払いについて開戦の時に一切問題提起してなかったじゃないか。」

 

「は、はぁッ!?」

 

「開戦理由は『カルト教祖の俺からアビドスを解放するため』だったんだろ?なぁ、どこにこの契約や支払いに関する不満や文句があるんだ?」

 

「~ッ!?」

 

プレジデントの顔を覗き込むように口角を吊り上げて言い放った。

 

「開戦に際して一文でもこの契約に関する文言でもあったら譲歩する用意はあったが…それがないのなら問題ないってことだろ?」

 

「き、貴様はあれだけ私から強請っておいてまだ!?」

 

「強請る?一体何のことだ?」

 

「とぼけるなっ!!!さっき我々から巻き上げただろう、この業突張りがッ!!!」

 

プレジデントはそう言い、ネイトの懐を指さすが…

 

「いやいや、これはそちらが聞き取り調査を行った生徒の情報だろ?ただの生徒の経歴を貰っておいて業突張り呼ばわりは心外だな。」

 

「はぁッ!?」

 

ケロッとした表情のネイトの反論で一瞬で口を紡ぐ。

 

そうだ、ネイトが講和会議中にカイザーから受け取ったのは生徒の詳細なデータだけだ。

 

カイザー側から金銭の授受など一切行われていない。

 

少なくとも表向きは。

 

「議長、金銭の授受を示唆するような記録は残っているか?」

 

「いいえ、書記の記録や録画にも一切残っていませんね。」

 

ユウカも録画記録などを見直し一切残っていないと証言。

 

「お、お前たちまさか…!?」

 

プレジデントもここにきてようやく察した。

 

アビドス…いや、W.G.T.C.を通じミレニアムは…。

 

「さて、話を戻すとして…さっき言ったように開戦事項に契約に関するものはなかった。つまり、契約に関しては双方納得な上にそちらの支払い能力に問題はない…と判断してもいいんだろう?」

 

そんな苦渋に歪むプレジデントなど無視するように話を纏めていくネイト。

 

「こ、このぉ…ッ!!!」

 

「じゃあ、頼んだぞ。」

 

「払えるわけないだろ、そんな大金!!!」

 

怒鳴るように反論するプレジデント。

 

6000億などという大金など確かに到底一括払いできるとも思えないが…

 

「払える、だろ?」

 

「な…ッ…!?」

 

その目に怪しい輝きを灯しネイトはさらに詰め寄る。

 

「さすがキヴォトスに名だたるカイザーコーポレーションとそのグループの社長だ。…たんまり貯め込んでるようじゃないか。」

 

「何を言って…!?」

 

「こう言わなきゃ分からないか?…アンタたちの『裏資産』だよ。」

 

『~ッ!!?!?』

 

その一言でカイザー側の出席者の表情が固まった。

 

「データ管理はきちんとしないとな。特に…『解雇した幹部』のIDなんかさっさと消去しなきゃ危ないだろう?」

 

「まっまさかッ!?」

 

「長年…骨身を惜しまず尽くしてきた奴をあぁも簡単に切り捨てたんだ。『The greatest hate springs from the greatest love.可愛さ余って憎さ百倍』ってやつさ。」

 

ネイトのこの言葉にプレジデントはすぐに察した。

 

そうだ、ネイトの元には…彼がいるではないか。

 

「『理事』が…!」

 

「あんな重役が…表向きにできないことを知っててもおかしくないだろう?」

 

カイザーグループの中でも最上位の幹部、『カイザーPMC理事』。

 

彼の身柄はアビドスが抑えている。

 

そんな彼を手酷く打ち捨てておいて…何もしないと思う方が甘い。

 

「いろいろ教えてくれたよ。カイザーPMCの本部基地の詳細な施設配置に各基地の詳細な座標に…まさか使えるとは思ってなかったが自分のIDも貸してくれた。」

 

「あの裏切り者…!」

 

「ID消さなかったのはそっちの落ち度だろ?ついでに色々カイザーの裏側を調べさせてもらった。そしたら…。」

 

ネイトはあるリストを取り出しプレジデントに見せつける。

 

「これが何か分かるか?アンタたち上層部が秘密裏に貯めに貯め込んだ隠し資産のリスト、それも…表沙汰にすればアンタたち全員の首が飛ぶような、な。」

 

なにせカイザーの裏の裏まで知っている人物だ。

 

外部に漏れたらカイザーが崩壊するような情報を持っていても何らおかしくない。

 

そんな彼を…プレジデントは『使えない老い耄れ』と放逐した。

 

「リユースってのはいい事だぞ。どんなものにも使い道ってのはある物だ。」

 

「お、おのれぇ…!」

 

「で、だ。アンタたちのこの隠し資産を足し合わせると…なんとこの代金をかなり支払えるじゃないか。」

 

「ふざけるな、そんなことできるわけ…!?」

 

カイザーの資産だけでなく自らの財布の中身すら奪おうとするネイトに激昂するプレジデント。

 

しかし、プレジデントの言うように会社の資産と個人の資産は別物だ。

 

そう易々と奪えるようなものではないが…

 

「できるんだな、それが。」

 

「はぁッ!?」

 

「たった今、自分で認めたじゃないか。…『支払が一週間滞ったら個人資産から強制徴収する』ってな。」

 

「~ッ?!」

 

プレジデントは自らその逃げ道を潰してしまっている。

 

先ほど交わした新たな契約、その中にそんな隠し資産すら対象にできる条項が盛り込まれていたではないか。

 

「あ…あぁ…!」

 

「別に今日払わなくてもいいぞ。ただ…明日になったら額がさらに1.5倍になって9000億を超えるだけだ。」

 

「そ…そんな…!」

 

突きつけられる逃げようのない…途轍もない莫大な支払額。

 

それも自らが築き上げてきたものを根こそぎ奪われるという事実にプレジデントは崩れ落ちた。

 

ネイトはそんなプレジデントの耳元でこうささやいた。

 

「馬鹿な『相方』を持つと苦労するな。『休戦』なんかせずにさっさと負けておけば…この額の3分の1以下で済んだものを。」

 

「~ッ!?」

 

この戦争における『5日間』の休戦。

 

その間も…違約金は加算され続けた。

 

仮に休戦を行わずにあのままネイトたちが攻め込み終戦させていたら…講和会議開催までの日程を込にしてもその額は\181,878,458,186-だった。

 

こんな大金を支払わざる終えなくなった原因はカイザーだけではない。

 

「恨むのなら連邦生徒会防衛室を恨むんだな。」

 

自らがネイトを貶めるために結託した防衛室室長『不知火カヤ』も図らずも自分たちに牙をむく存在となってしまった。

 

そして、何より合点がいった。

 

あんな何のメリットもないような休戦協定をなぜネイトが提案してきたか。

 

「ま、まさか…!」

 

…いや、これでかつて振り払った推測に確信がついた。

 

この戦争は…

 

「そうさ。アンタ…最初からこの瞬間まで…俺の掌の上から出たことなんか一度もなかったんだよ。」

 

始まりからこの瞬間まで…全てネイトの思惑の通り進んだということに。

 

アビドスを奪還しカイザーに瀕死の深手を与える、ただそれだけのために自分たちは戦争を仕掛けさせられたのだと。

 

その結論に達した瞬間、

 

「アハッ。アハハハッアハハハハハハッ!!!

 

プレジデントの精神は限界に達し笑い始め…

 

「アッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!」

 

『ッ!?』

 

終いにはまるで壊れたかのようにけたたましい嗤い声をあげるのであった。

 

あまりにも異様なその光景にその場の誰も動けずにいると…

 

アッヒャッヒャッヒャッヒャ…ハハハッ…。」

 

糸が切れた人形のように倒れるのであった。

 

「プ、プレジデント!?気を確かにッ!!!」

 

「早く連れていけ。支払いを忘れるなよ。後…15時間で9000億を超えることをな。」

 

そんなプレジデントを担ぎ上げ出ていくカイザーの出席者にネイトは忠告するのであった。

 

カイザー側の出席者がいなくなり静まり返った会議室内。

 

「いやぁ…相変わらずえっげつない事やるねぇ、ネイトさん。」

 

ホシノがネイトに近づき肘でわき腹をつつきながら冗談めかした言葉をかける。

 

「何言ってる?全部あっちが招いたことだぞ?」

 

「でもまさかあんなに違約金が膨れ上がるなんて…。」

 

「俺は忠告したんだぞ、アヤネ?『違約金分は支払わないと大変なことになる』ってな。」

 

そう、ネイトはコンストラクションの社員にこの危険性はすでに警告していた。

 

もし、素直に違約金の増額分を支払ってさえいれば支払金額は\11,975,536,341の八日分、95,804,290,732と元の解体費を含めたとしても今の5分の1ほどだったのだ。

 

「ろ、6000億なんて早々聞かないわよ…!?」

 

「賠償金のほぼ倍…カイザーの立て直しは当分先になりそうですね…。」

 

計算していてなんだがユウカもこんな金額を支払わせられるカイザーに同情を禁じ得ない。

 

ノアも今後長きに渡りカイザーに暗黒の時代が到来することを察する。

 

賠償金も合わせて約9000億、被害額も合わさると確実に『兆』を超えるだろう。

 

「ユウカも中々の演技だったぞ。良い女優になれるな。」

 

「おだてないでください。ネイト社長…。あのとぼけた演技とっても疲れるんですから…。」

 

無論、あの会議中断もネイトの策の一つ。

 

あるタイミングで記録を止め個人的な慰謝料を分捕る、これもネイトがユウカに頼んでいたことの一つだ。

 

真面目な彼女のことだ、慣れない演技にドキドキしっぱなしだったようである。

 

「ノアもわざわざ退出してもらってすまなかったな。おかげ様でがっぽりもうけさせてもらったよ。」

 

「あら?私の記憶には退席中に何があったかの記録はありませんよ、ネイトさん?」

 

「…はははッ、完全記憶のノアのお墨付きだ。確かにそんなものは存在しないな。」

 

「うへ~、これはノアちゃんは相当の女優さんだねぇ。」

 

対するノアはあの芝居を楽しんでいたようである。

 

(なるほど、これはいいコンビだな。)

 

若干融通は利かないが高い計算能力を有するユウカと完全記憶能力持ちでからかい上手ながらもかなり柔軟な思考を持つノア。

 

互いに違う能力でそれを補い合える関係、ネイトはユウカとノアの二人を高く評価するのであった。

 

「それじゃ二人とも、俺達もこれで失礼する。今日は世話になったな。」

 

「ハイ、ネイト社長やアビドスの皆さんもお疲れさまでした。」

 

「いろいろ難しい話ばかりしちゃってごめんねぇ。今度会ったときはゆっくりお喋りしよぉ。」

 

「いえいえ、後学にとても参考にできそうな有意義なお話でしたよ。お喋りも楽しみにしていますね、ホシノさん。」

 

「今後ともアビドス高校をよろしくお願いします、お二人とも。」

 

挨拶も終えネイトやホシノ達も会議室を後にしていった。

 

「…フゥ~なんかとんでもない会議だったわね。」

 

「私もネイトさんの交渉の怖さがよく分かりましたよ、ユウカちゃん。」

 

「あの時の…アレって全然全力じゃなかったのね…。」

 

会議室内で後半のネイトの交渉中の姿を見て背筋が冷えていたユウカとノア。

 

ユウカが以前見た姿は例えるならある意味相手を生かすことを考えたやり方だった。

 

いかに大きな請求が来ようとどうにかできる程度のやり方だった。

 

だが、今回のネイトはカイザーに準えるなら…身動きできなくなるほど縛り上げたタコの足を伸びるたびに切り落とす、そんなやり方だ。

 

生かさず殺さず、相手の尊厳など二の次にした徹底的なものだった。

 

「ノア、私たちも戻りましょう。こんな大変な会議を押し付けた連邦生徒会にたっぷり報酬を要求しなきゃ。」

 

「うふふ、ネイトさんから学んだ交渉術の腕の見せ所ですね♪」

 

ユウカたちの仕事はまだ終わらない。

 

この後は連邦生徒会相手に約束を果たさせるための交渉が待っている。

 

遠慮なく分捕ろうとユウカが意気込んでいると…

 

「あぁっと、そうだ。ユウカ、支払いの件だが。」

 

「え?あ、はいどうかしましたか?」

 

「ちゃんと違約金込の分計算して振り込んでおくから確認よろしく。じゃあな。」

 

ネイトがひょっこり顔をのぞかせそう短く伝えて去っていった。

 

「……………ふぇ?」

 

その言葉に一瞬ユウカは固まってしまった。

 

だが、さすがというべきか素早く愛用の電卓に数式を打ち込み答えを出した。

 

契約通りの5%の割合で違約金込の分け前を貰うとしてその額…¥306億9198万9,818-也。

 

「……………。」

 

「ゆ、ユウカちゃん…?」

 

「…………きゅう。」

 

「ユウカちゃん!?だ、誰かあああああ!」

 

見たこともない金額の収入、色々ありすぎたユウカはとうとうフリーズ、椅子に倒れ込むように腰を落とすのであった。

 

こうして、キヴォトス中を巻き込んだアビドス及びW.G.T.C.とカイザーの一大戦争はカイザーがその地位を完全に簒奪される形で決着するのであった。

 

――――――――――――――

 

―――――――

 

―――

 

《続報です!たった今、W.G.T.Cとカイザーの講和条約が締結されたと情報がありました!いったい、カイザーはどのような要求を突き付けられ…。》

 

すぐにこの情報はマスコミによってキヴォトス中に拡散、

 

「さて、戦争も終わったし…ここからは私の仕事だね。」

 

そのニュース映像を見て先生は立ち上がりながらそう呟いた。

 

「間違ったことをした生徒を叱るのも…先生の大切な仕事だからね。」

 

その目には…彼らしくない鋭さが宿っていたという。




教育とはバケツに水を満たすことではなく、火を興すことだ。
―――詩人『ウィリアム・バトラー・イェーツ』
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