―――古くからの格言
生まれ変わったアビドス高等学校とW.G.T.C.、そして大企業カイザーコーポレーションとの講和会議が終了し二日たった。
その間も各報道機関は連日、結ばれた講和条約や戦争の推移などを報じている。
一方、アビドス高等学校もW.G.T.C.も取材に関しては一切の沈黙を守っている。
どの局も分厚いベールに包まれたこの戦争の勝者たちの正体を解き明かそうと躍起になっている中…そんな報道陣に再び衝撃が走った。
『D.U.にて連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』の『先生』による記者会見』の開催。
同じくキヴォトスでは稀有な『大人』かつ今話題のシャーレの先生が公にでて何かを発表する。
この事に各報道機関は我先に飛びつき…彼が用意したプレスルームはすぐさま超満員になった。
「一体先生はどんな発表をするのかな…?!」
その取材陣の中にクロノス報道部の川流シノンの姿もあった。
今か今かと先生の到着を待っているとドアが開かれ…
「皆さん、お待たせしてすみません。」
いよいよ本日の主役である先生が入室してきた。
彼に向け一斉にフラッシュがたかれるが…
「え…ッ!?」
報道陣は固まる。
先生に続いて…複数人のスーツを着たオートマタと獣人が入ってきたではないか。
彼らは言葉も発さずに席に着き先生はその真ん中の席に腰を下ろした。
「えぇ、報道陣の皆さん。改めまして本日はお集まりいただきありがとうございます。」
まずは先生が演台に立ち集まった報道陣に謝辞を述べ、
「今回お集まりいただいたのは…シャーレが立ち入り捜査を行っていた『Wasteland General Trading Company』、通称『W.G.T.C.』と当社社長『ネイト氏』の結果報告を行いたいと思っています。」
『~ッ!?』
今まで知ることがかなわなかったW.G.T.C.とネイトの報告を行うというではないか。
なぜ、キヴォトスでは新顔の部類のシャーレの先生があのW.G.T.C.に潜り込めたのか?
なぜ、それも2か月以上前から潜り込めたのか?
なぜ、自分たちですら察知できなかったW.G.T.C.の存在をいち早く察知できたのか?
そんな報道陣の疑問など意にも介さず…
「ではまず、シャーレがW.G.T.C.と彼の存在を察知した一件から説明します。」
先生は資料を提示しながら説明を始める。
「事の発端は今から2か月ほど前、そこからさらに7か月前のアビドス高校からの請願書を私が見つけたことから始まります。」
提示されたのは当時アロナに提示してもらったアビドス高校の情報をモニターに移す。
そこには8か月前からのアビドス高校の様々なデータが映し出されている。
「ご覧の通り、ある時期を境にアビドス高校の財務状況及び生徒数は大幅な改善を見せました。これをみた当時の当番であったミレニアムセミナーの『早瀬ユウカ』からの進言を受け調査に向かいました。」
さらにアビドス高校へ調査に向かった経緯も語る。
「そこで現地に赴きアビドス高校並びに当校の連携企業であるW.G.T.C.の実態を調査してきました。」
「すっすみません!クロノス報道部の川流シノンですが…!」
今までシャーレの捜査の手がすでに及んでいたことなど知りもしなかったクロノスのシノンはたまらず質問しようと手を上げるが…
「申し訳ないけど話の途中だよ。質問は私の話が終わってからにしてもらえるかな?」
「え…ッ?!」
先生はシノンの問いかけを一蹴するように話を続ける。
そこで出会ったアビドス高校生徒の状態やそこでの暮らし。
そして…
「そして内部調査の結果、アビドス高等学校に用務員として所属したネイト氏。その彼が設立したW.G.T.C.がアビドス高校と連携関係となりアビドスの状況は大きく改善したと判明しました。こちらはW.G.T.C.創立時からの業績のデータです。」
アビドス復興の立役者であるW.G.T.C.とネイトの話題に入るが…
「設立当初よりW.G.T.C.はセイント・ネフティス社…並びにカイザーコンストラクション、この二社と取引を結んでいました。」
『ッ!?』
「こちらはW.G.T.C.と二社と交わした契約書の写しになります。」
初手で今まで報道陣が知りもしなかったW.G.T.C.とカイザーの関係性を明かすと大半の報道陣の顔色が一気に変わる。
移された契約書にはしっかりとW.G.T.C.とネイトとセイント・ネフティス社とカイザーコンストラクションの社員のサインが記されている。
セイント・ネフティス社との関係はすでに十六夜社長によって明かされたがカイザーと取引を行っていたのは報道陣達にとっては未知の情報だった。
つまりカイザーは…W.G.T.C.と関係を持っていたというのに『カルト組織』と呼んでいたのだ。
そして…自分たちはまんまとカイザーの口車に乗せられ…。
「当該企業は業績を伸ばしその収益の一部をアビドス高等学校に当学区での活動の容認の対価として提供。アビドス高等学校はそれを用いて負債の返済と財務状況の改善を行いました。」
青ざめていく報道陣をしり目に先生は捜査の結果を明かしていく。
その一言一句が報道陣が知り得ていたネイトとW.G.T.C.の虚像を崩していく。
「続きまして、こちらがここ2年間のアビドス高等学校学区内で起こった犯罪件数と通報数の推移です。」
続けてモニターにはグラフが映し出された。
「アビドス学区は元より人口が少ないこともありキヴォトスにおいては平均を少々下回っていますがネイト氏がアビドス高等学区に所属してからはさらに減少。現在ではキヴォトス内でも屈指の低犯罪率を誇っています。」
確かにネイトがアビドスを訪れたタイミングから犯罪件数が減少、現在ではこのキヴォトスでは考えられないほどの治安の良さを実現している。
「これはW.G.T.C.がアビドスだけでなく訪れた他学区の不良生徒に自社にリクルートし給金を与えることで彼ら彼女らの生活を安定させたことが要因と推測されます。」
さらにW.G.T.C.の雇用状況とここ8ヶ月でアビドスに編入した生徒のリストを表示する。
リストにはヴァルキューレに補導歴があったり各学校を退学した者たちばかり載っていた。
「現に私が捜査中にもトリニティ学区で補導歴がある不良集団『七転八倒団』やアビドスを拠点とするヘルメット団一派『カタカタヘルメット団』もW.G.T.C.が行っているアビドス砂漠の廃墟解体作業に日雇いにやってきていました。」
自身が目の当たりにした情報も加えさらに補強する。
「では最後に…私がアビドス高等学校生とW.G.T.C.の作業に訪れていた生徒やアビドスの住民に実施したインタビュー映像をご覧ください。」
そして、モニターには先生が独自に行ったインタビュー映像が流れ始める。
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「よぉ先生、話って一体何だ?」
画面に映し出されたのは作業着姿のリーゼント頭のオートマタだ。
「なぁに構やしねぇ。何でも聞いてくれ。」
先生はまずその生徒に自己紹介を促し、
「オウ!俺はアビドス高校所属、皆からは番長だって呼ばれてるぜ!」
そのオートマタ、番長は胸を張りながら堂々と自己紹介をする。
次に先生が番長にアビドス高校にやってきた経緯を尋ねると…
「あ~…先生。」
「これ言ったからって怒ったりしないよな?」
若干気まずそうに番長はそんなことを先生に尋ねる。
そんな先生の約束に安心したのか番長は語り始める。
「そうか…。実はな、俺がここに来たのは…親分にカツアゲしようとしたのが始まりだな。」
「そうだ。その頃の俺はその辺にいる小さな不良グループのボスやってたんだ。そこで…。」
番長は語っていく。
最初は普段やっているように武器をちらつかせカツアゲを行うつもりだった。
しかし…その日ばかりは相手が悪すぎた。
「親分、俺がバット振るおうがこのリーゼントの中の武器見せつけても全然ビビんねぇでやんの。」
「だろ?んで、俺もそん時は頭に血が上っててよ…。親分に向かってこのリーゼントの武器をぶっ放そうとしちまったんだ。」
殺人はキヴォトスではご法度中のご法度だ。
今思うとヘイローの無いネイト相手に自分でもとんでもないことをしようとしていたことを理解している。
だが…
「なのに親分ときたら俺がぶっ放すよりも早く俺に拳骨…と言ってもパワーフィストを付けてだけどよ、一発で俺をノックダウンしちまったんだ。」
「そのことに関しちゃ俺はもうなんとも思ってねぇよ。でよ、恥ずかしい話…俺ゃ親分に男として憧れちまったんだ。」
命の危険にあっても一切怯えることなく銃を用いず自らを制圧したネイトの強さに憧憬を抱いたのであった。
「そんな感じだな。」
「そりゃもう前の廃墟の野宿と比べられねぇぜ!温かい飯もあるし寝床もある、何よりちゃんと働けば給料だってあるんだからな!」
アビドス高校での生活は快適そのものだった。
以前のような犯罪行為をしなくても食事の心配をする必要もない。
寒さに凍えて眠れない夜を過ごすこともない。
仕事も体力的には大変だがそれに見合った給料のおかげで自由に使えるお金もあって貯蓄も出来ている。
勉学に関してもカリキュラムのBDがちゃんと用意され資格の勉強もネイトから補助が出ている。
ここにきて…初めて学生らしい生活を送れている。
そんな先生の質問に、
「そりゃもう、でっかくてあったけぇ俺達の大恩人だぜ!」
満面の笑顔を浮かべ答えた番長であった。
場面が変わりその後も…
「アタシはスケバンやってたんだけどよ、あの日アニキに喧嘩売っちまったんだよなぁ。」
「まぁ一発で伸されちまったんだけど…。」
「だな。ここにきて…『普通』の生活を送れてることを本当に感謝してもしきれねぇよ、アニキには。」
同時期に編入した元スケバンの生徒や、
「うちは元トリニティで『七転八倒団』っていうグループ組んでたんだけどサンクトゥムタワーの騒動の時に出稼ぎにきた縁でアビドス高校に転校したんだ。」
「いやいや、むしろこっちに来て良かったと思ってるよ。皆仲がいいしあっちみたいに…陰湿な奴やいじめてくる奴だっていないし。」
「それにさ!アニキのおかげであそこで諦めてた砲兵をまたやれるんだ!感謝してもしきれないよ!」
新参の部類である元トリニティの七転八倒団だった生徒に…
「…アンタ、物好きだな。アタシらみたいな奴にもインタビューするなんて。」
「…アイツらには教えんなよ。これでもウチとアビドスは敵対関係なんだからな。」
「…正直、ネイトのオジキには感謝してる。おかげで飯にありつけるし金も手に入って危ない橋を渡る回数も減った。ヘルメット団になって初めて…『普通』の生活を送れるようになったな。」
「…………そりゃめちゃくちゃ怖ぇよ。でも……冷たくねぇんだよ。」
「あんだけボッコボコにしてくるのに…『一線』は絶対超えないっていう信頼感があるんだ。戦うときも…アタシらのことをちゃんと見ていてくれるんだ。」
果てには当時はアビドス高等学校と敵対していた『カタカタヘルメット団』のメンバーにもインタビューが行われていた。
他にも、
「ネイトさんかい?そりゃもう見回りとか不良たちを大人しくさせてもらってるからいつも助かってるよ!よくアビドスのみんなを連れて食べに来てくれるしね!」
柴関ラーメンの大将や、
「えぇ、お休みの時によくいらっしゃいますね。何時も物静かにコーヒーを楽しまれていらっしゃいます。最近は彼のおかげで若い方もご来店されるので賑やかですよ。」
『Cafe Franklin』のマスターやアビドスの一般住民たちのインタビュー映像が続くのであった。
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「…以上がアビドス高等学校や現地住民に行ったインタビュー記録でした。」
インタビュー映像が終わると…報道陣の顔色は顔面蒼白という言葉では表現できないほど血の気が引いていた。
インタビューに出てきた生徒は誰も彼も洗脳されている雰囲気は微塵もなかった。
仮に生徒を洗脳できていたとしても学区の一般人に至るまでそれができるとは思えない。
さらにはサンクトゥムタワー騒動後から編入した元トリニティの不良生徒や敵勢力のヘルメット団すらも…言葉に差はあれどネイトに感謝していた。
これのどこが…『カルト教祖』と言えるのであろうか。
「私からの捜査報告は以上だよ。では、これまでのことで質問はあるかな?」
そしてようやく報道陣が待ち望んだ質疑応答が始まったが…
『…………ッ!』
誰も手を上げることができない。
今まで自分たちが手に入れられなかったアビドスの情報。
それを現地住民から聞いてきた先生相手に何を尋ねることができようか?
すると…
「は、はい!クロノス報道部の川流シノンです!」
果敢にもシノンが手を挙げる。
「どうぞ。」
「せ、先生はここ二ヶ月近くアビドスにいらっしゃったんですよね?」
「そうだね。」
「では、あなた自身が彼に洗脳されているという可能性があるのではないでしょうか!?それで彼がシャーレの捜査に干渉をしたのではないですか!」
一縷の望みだった。
もし、それを実証できれば…と考えたが…
「フム、ではこれで私の正常性は実証できるかな?」
先生は複数の封筒を取り出しシノンに見せつける。
「そ、それは…?」
「連邦生徒会提携の病院、そのほかD.U.にある大きな病院で受けた精神鑑定の結果だよ。」
『ッ!?』
「結果、私の精神は変調をきたしてはいないというお医者さんの太鼓判を押してもらったよ。」
先生は当然この質問を予見していた。
なにせ、自分はネイトの元に長くいた。
記者たちがそのことについて質問しないわけがない。
そこで先生はカイザーが無条件降伏後にD.U.に帰還、いくつかの病院をはしごし精神鑑定を行っていた。
「…君はクロノススクールの生徒だったね?」
「は、はい…!」
先生はシノンの所属を改めて確認し…
「先生として忠告しておくよ。幾ら今までの情報のすべてを否定されようと…その情報を選び取って発信した責任からは決して逃れられないからね。」
『~ッ!?』
シノンだけではない、この場に集った報道陣全員に突き付けるように鋭い声音でそう言い放った。
「よく覚えておきなさい。…それで、質問は以上かな?」
「は、はい…以上です…。」
それ以上シノンは何も言えず、崩れ落ちるように腰を下ろした。
「他にはありますか?」
『………。』
突破口を潰された報道陣は口を噤むしかなかった。
「…無いようなら私からの報告は終わりますが最後に。」
『?』
「…貴方たちがどうしてもネイト氏が行った行為を『洗脳』というのなら…私はそれにふさわしい言葉を一つだけ知っています。」
その言葉に報道陣の活気が戻る。
「そ、それはッ!?」
食い気味に尋ねる記者に向って、
「…『愛』です。」
先生は短くも力強く答えた。
「あ…愛…ですか…?!」
「そうです。ネイト氏はアビドス高等学校だけではなくそこで暮らす全ての生徒や人を愛しています。愛情を受けられなかった不良生徒に至るまで彼は等しく無償の愛情を注ぎ立ち直らせました。」
真っすぐとした眼差しで先生は言葉を紡ぐ。
「連邦生徒会にすら半ば見放されたアビドス高等学校を…そして世間から煙たがれ排斥された不良生徒を…彼は一人で背負い復興と更生を成し遂げた。個人的な意見ですが…新参者の私では8か月というこんな短期間では決してできないことです。」
以前、ネイトは言っていた。
『ユメに頼まれたから自分はここにいる』、と。
ネイト自身は『義務』と第二の人生を貰った『恩義』で行っていると吹聴している。
だが、
「それを彼は受け入れてくれたアビドスを愛した、ただそれだけの理由で成し遂げたんです。」
先生はそこにネイトの強い『愛情』を確かに感じていた。
でなければアビドス復興などできようものか。
でなければ不良たちを更生などできようものか。
でなければ…命を賭けてカイザーに戦いを挑めるものか。
「…もし、ここに集まった報道陣の方の中にご家族や恋人がいらっしゃる方はこの後にその人を抱きしめてみてほしい。それを行ってなおネイト氏の行いを『洗脳』と言うのであれば…私からは何も言えることはありません。」
そう言葉を結び…
「以上で私の結果報告を終わります。」
先生は演台から降り席に着く。
続いて、先生と一緒に入ってきた獣人の一人が変わるように立ち、
「続きまして…『セイント・ネフティス弁護団』よりネイト氏に対する名誉棄損及び偏向報道に対する訴訟についての告知を行います。」
『~ッ!?』
自身の所属を明かし、訴訟についての告知を行い始めた。
「今回、カイザーコーポレーションの欺瞞情報によって報じられた報道各社の情報によりネイト氏の名誉が著しく棄損されW.G.T.C.の業務にも多大な損害が発生したことを鑑み情報を精査することなく報道した報道各社並びに該当する人物を起訴するということになりました。」
驚愕する報道陣をしり目に弁護士は淡々と事実と訴訟に至った経緯を説明し、
「後日、該当する被告企業及び被告人に訴状を送付します。以上で私どもの告知を終わります。」
あまりにもあっさりと演台から降りようとする。
「ま、待ってください!訴訟ってどういう…!?」
それを呼び止める報道員だが…
「どういう?当然のことでしょう?貴方方はカイザーコーポレーションの情報を鵜呑みにしその裏取りをすることなく報道。結果としてネイト氏と彼の会社に被害をもたらした。訴訟されるには十分すぎるのでは?」
「それは…ッ!」
弁護士の言葉に二の句を告げれなくなった。
カイザーの記者会見以降、大半のマスコミはセンセーショナルな話題として報道。
視聴率欲しさにカイザーから得られた情報のみでワイドショーは大盛り上がりとなった。
だが…宣戦布告寸前とはいえネイト達への取材どころかアプローチすら一切行われなかった。
ようやくネイトに報道の光が届いたのは開幕の防衛戦が終わってからである。
それもネイトのことなど無視した強引な物であったが。
以降もアビドスの情報はネイトが自身で行ったライブ配信ばかり。
キヴォトスのマスコミは殆ど後出しの情報を報じるか…カイザーの情報でニュースを報じるしかなかった。
「これはネイト氏も同意して行われる訴訟です。賠償等は訴状に記載して送付いたしますので後日確認をお願いします。」
弁護士はにべもなくそう言い終え席に着いた。
すると…
「そんな…私たちはカイザーに騙されただけで…!」
口をついたようにシノンが呟いた。
かき消えてもおかしくないようなものだった。
だが…
「騙されていた…だから人を傷つけてもいいと?」
「ッ!?」
「君たちの職業倫理はその程度の物なのかい?」
多くいる報道陣の中であって先生の鋭い視線が彼女を射抜いた。
「悪いことをしたら謝るのは幼年期の子供でも知っていることだよ。人を傷つけたのならなおさら。」
視線はシノンに注がれたままだがその言葉はこの場の全員に突き刺さる。
「ことさら君は報道を仕事にしている。君の発する一言一言が…他人の人生を容易く崩壊させることができることを理解しているかい?」
情報とはこの世のどんな兵器よりも恐ろしい代物だ。
しかも厄介なのが…情報は正誤に関係なく被害をもたらすというもの。
それを不特定多数に一斉に発信するマスコミ。
だからこそ、報道機関は情報の正確性を求められる。
だというのに…
「君たちは一人の人生…いや、それどころか一つの学区を滅ぼしかけた。その償いもしないのはシャーレとしても決して見逃せるものじゃないよ。」
カイザーの口車に乗せられ誤った情報をキヴォトス全土に報じた。
「だから…今回ばかりはシャーレはこの関連訴訟に関しては一切関与しないよ。これは『生徒の困りごと』ではなく『生徒が犯した過ち』だからね。」
先生だからこそ、伝えなければならない。
力を持つ者はそれに見合った責任が伴うということを。
「あ…あぁ…!」
「…以上をもって記者会見を終わります。本日はお集まりいただきありがとうございました。」
言葉を失ったシノンやうつむいた報道陣をそのままに先生や弁護団は退出していくのであった。
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―――
そんな記者会見が行われている最中、中心ともいえるネイトはというと…
「ネイト社長、荷物の積み下ろし終わったよ!」
「了解した。世話になったな、ノゾミにヒカリ。」
「また必要だったら声かけてね~。」
アビドスにある貨物駅でノゾミとヒカリに礼を述べていた。
講和会議終了後、ネイトたちはD.U.にベルチバードでとんぼ返り。
講和も終わったのでカイザーの施設の占領を続けていく理由もなくなったので早々に退去を始めたのだ。
予め手配していたハイランダーの列車に各種戦車などの兵器の積み込みを開始し昨日にはD.U.を発っていたのだ。
そして、日を跨いで早朝に到着し今ようやく荷下ろしが完了。
書類等のサインも終えノゾミとヒカリとも別れ…
「ネイトさぁ~ん、こっちこっち~。」
「待たせてすまなかったな。」
「10日ぶりのアビドスね。」
「ん…無事に帰れてよかった。」
「ハイ、皆またここに戻れてよかったです。」
ホシノ達が待つ車両に乗り込み、
「それじゃ帰りましょうか、私たちの学校に。」
アビドス高校への帰路に就いた。
後には番長たちの戦車も続いている。
「…本当に取り戻せたのね、アビドスを。」
「正直…今でも実感がわきません。」
流れていく街並みを眺めながらそう呟くセリカとノノミ。
少し前までカイザーにアビドスの土地を奪われていたことを知りすらしなかった。
あまりの理不尽に絶望もした。
借金を返し終えても苦難は続くと思っていた。
だが…
「ん…夢でも幻でもないよ、二人とも。」
「ハイ、私たちは…取り戻したんです。」
カイザーを打倒しアビドスはアビドス高校の元に戻ってきた。
少し前には考えることすらできなかったことが…今現実になった。
「でも…これがスタートだからね、皆。」
「むしろこれからが大変だぞ。」
そう、これがゴールではない。
これから待ち受けるのはアビドスの復興だ。
はっきり言って、この戦争よりも苦難の道のりだろう。
とても長きにわたる計画だろう。
それでも…
「大丈夫よ、ホシノ先輩にネイトさん。」
「ハイ♪まだまだ頑張っていきますよぉ~♪」
「また皆でいろいろ話し合いながら始めて行きましょう。」
「ん…皆がいれば乗り越えられないことはない。」
「…フフッ、そうだね。よぉ~しおじさん頑張っちゃうぞ~!」
「あぁ、俺も今まで見せなかった連邦の技術を使えるかと思うとワクワクが止まらないよ。」
アビドスの皆ならやり遂げられる、まだ始まってすらいないというのにその確信だけは全員感じていた。
すると、
《空中警戒中の機より地上部隊へ。》
上空を飛行中のヘリを操縦しているMr,ガッツィーから通信が入った。
「こちらネイト、どうかしたか?」
《進行方向に多数の一般市民を確認。注意されたし。》
「なんだって?」
上空からの報告を受け、前方に注意を向けると確かに前方に多くの市民がいるではないか。
「アヤネ、速度を落としてくれ。」
「分かりました。」
「後続の戦車隊も注意して走行を。」
《了解、親分。》
危険性はないだろうがそれでも警戒して進んで行く一団。
ネイトたちが乗る車両と市民の集団との距離はどんどん縮まっていきあと少しで接触しようとしたその時、市民の一団が左右に分かれ…
『おかえりー!』
『おめでとー!』
ネイトたちを出迎える大合唱で帰還を歓喜し始める。
「…ッ!」
この光景にネイトは目を見開いて言葉を失った。
車両はそのまま市民たちの間を走っていく。
「アビドスを守ってくれてありがとー!」
「みんなよく帰ってきた!お疲れさん!」
「ネイトさーん!俺達ゃ信じてたぜー!」
その間もネイトやアビドス生徒への感謝の言葉が止むことはない。
さらにはビルの窓から紙吹雪まで降り注いできた。
「凄い光景…!こんなの初めて…!」
「ん…アビドスの皆は待ってくれてたんだ…!」
「…よかったです、こうしてここにまた帰って来れて…!」
「うん…うん…ッ!私達、やり遂げたんだ…!」
「前が見えません…!雨なんて降ってないのに…!」
その光景にホシノたちは感極まりながら見ることしかできなかった。
アビドスが心の底から…自分たちを祝福してくれている。
それが…これまでの人生で比べ物にならないほどうれしかった。
そして…
「…………。」
ネイトもその光景に言葉を失っていた。
戦場から帰ってきて…祝福で迎えられたことなどなかった。
仕方ないと、半ばあきらめていたりもした。
何より、この戦争でアビドスの住民は多大な迷惑をこうむったはず。
罵声や非難の嵐は覚悟していた。
だが…
「あぁ…!」
空も地面も埋め尽くす祝福に
「勝てて…ッ本当に…ッよかった…ッ!」
ネイトの頬に一筋の光が伝った。
後にこのキヴォトスが激震した10日間は『アビドス独立戦争』と呼ばれるようになった。
この日より…アビドスは再び立ち上がりかつての繁栄を取り戻すまでに至ったとされた。
キヴォトスの構造とあり方に一石を投じ…様々な変革のきっかけとなったこととして歴史に刻まれる日々になった。
しかし、これはこれから各地で巻き起こる大事件の序章でもあった。
太陽が輝くかぎり、希望もまた輝く。
―――詩人『フリードリヒ・フォン・シラー』